超次元なサッカーでドライブシュートを打つ 作:イノウエ・ミウ
事前に雲明から伝えられた指示は"自由にプレイしろ"だ。なら、こちらも遠慮はせず、想う存分プレイすることに決めた翼は、グラウンドに立ちながら土の匂いを噛み締める。
長崎に来てから初めてのサッカーの試合。今か今かと待ち遠しい気持ちで翼は試合の開始を待つ。
その様子を近くで見てた桜咲は、視線を雲明の方に向ける。
「とりあえず今は彼のプレイを見ます。僕の予想が当たったら、例の作戦を」
「了解だ」
雲明からの指示を受け、桜咲はフィールドに視線を戻る。
やがてプレイが再開されて、来夏からのパスを受け取った桜咲は木曽路にパスする。
「甘いぜ!」
しかし、そのパスを柳生はカットして、ドリブルでゴール手前まで走ると、そのまま点を取るべく足を振り上げる。
「これで2点目――っ!」
次の瞬間、突如目の前に翼が現れて、柳生からボールを奪い取った。
「なにぃ!」
あっさりボールを取られ、驚愕する柳生。
ボールは奪った翼はドリブルするが、なんと自陣のゴールに向かっていた。
「うえっ!何してんだあいつ!?」
木曽路が翼の奇行に声を上げるが、翼は止まることなく、ペナルティーエリアの前までドリブルする。
そして、そのまま相手ゴールの方に振り向き、柳生の方を見てフッと笑った。
「舐めやがって・・・!やっちまえ!」
挑発されていると受け取った柳生は怒りを爆発させながらチームメイトに指示する。
野球部員が翼に迫る中、翼は空を見上げていた。
「今日は青空が綺麗で絶好のサッカー日よりだ。君もそう思うだろ?」
「?(誰と話しているんだ・・・)」
ボールに話している翼をゴール前から見てた四川堂が疑問符を浮かべる。
そうしている間にも二人の選手が翼の目の前まで近づいてき、彼からボールを奪おうとした瞬間、翼は素早いステップでドリブルし、あっという間に二人を抜いた。
「なにぃ!」
「こいつ!」
抜かれた二人だけでなく、柳生や味方である桜咲たち、この場の観客全員が驚愕の表情となる。
「(あの動き・・・!間違いない、あれは南米式のドリブル!)」
雲明もまた、翼のドリブルが南米特有のドリブルであることに気づき、その完成度に驚いていた。
翼はゴールに向かって進み、スライディングしてきた野球部員をジャンプで躱す。
「抜かせるかよ!」
ゴールの前に柳生がやって来て、翼を通さんと立ち塞がる。
柳生を確認した翼は、ボールを後ろ足で蹴り上げると、自身の身体を一回転しながら柳生を突破した。
「なにぃ!?」
「(ヒールリフト・・・!)」
完成度の高いヒールリフトにまたもや驚かされる雲明。
蹴り上げられたボールは柳生の頭上を超えて、走る翼の手前に落ちてくる。
「いっけー!」
そのままノートラップでジャンピングボレーシュートを決める翼。
高速で迫るボールにキーパーは一歩も動けず、ボールはそのまま真っ直ぐ飛んでゴールネットに突き刺さった。
「すっげー」
「あっという間に1点決めちゃったよ」
開始早々1点を決めた翼のプレイを見て、圧倒される木曽路と来夏。
他の者達も翼のスーパープレイに唖然としてたが、いち早く我に返った柳生が気持ちを切り替えて奮起する。
「紛れだ!こんなの紛れに決まってる!すぐにもう1点取ってやるよ!」
今度は野球部のボールでスタートする。
パスを繰り出して、桜咲と来夏を突破するが、その後ろにいた翼にパスカットされる。
「あいつを止めろ!囲んでしまえばドリブルできない!」
先程のプレイを見た柳生が翼を自由にさせていけないと判断し、二人掛かりで翼を囲むよう指示する。
二人に囲まれた翼は、ドリブルを止めて冷静に状況を分析する。相手が二人自分に付くことは、こちらのチームが一人フリーになるということだ。
「そこ!」
僅かな隙間を狙って、翼は前にいた桜咲にパスを送る。
「!?(こいつ、俺の走る位置に合わせてボールを・・・!)」
パスの精度に内心驚きつつも、桜咲はそのままゴール前までドリブルしてシュートを打つ。
今度はキーパーも反応できたが、桜咲渾身の弾丸シュートはゴールの右側を正確に捉え、キーパーの手に触れることなくゴールネットを揺らした。
「よしっ!」
「これで逆転ね!」
2対1と逆転して喜ぶ桜咲と来夏。
一方、逆転された野球部は大いに焦っていた。
「まだだ!二人で駄目なら三人だ!三人で奴をマークしろ!」
柳生は大声を出して、翼に更にマークを付けるよう指示する。
試合が再開し、ボールを受け取った柳生は勢いのままドリブルする。
「お前ら如き、俺一人でも――」
「舐めんな!」
しかし、勢いと裏腹に冷静さを失っており、その隙を突かれた来夏のスライディングにボールを取られる。
慌てて来夏の方を見ると、彼女は桜咲にパスをし、その桜咲は止まったままこちらを見ていた。
「どうした?一人でもやれるんじゃなかったのか?」
「う、うるせぇ!」
桜咲の挑発に乗った柳生は、彼からボールを奪い取ろうと走るが、柳生が近づく前に桜咲は木曽路にパスを出す。
ならばと今度は木曽路の方に走るが、その前に木曽路は来夏にパスを出す。
「くっ、クソッ!」
柳生は必死にボールを追いかけるが、三人のパスワークに翻弄されて中々奪うことができない。
そこで柳生は気づいた。自分の周りにいつの間にか味方がいないことに。
「まさかこいつら、俺が一人になるのを狙って・・・」
作戦に気づいた柳生だが、尚も一人孤立した状態で翼以外の三人に食らいつこうとする柳生。
その様子を見てた野球部の一人が柳生をフォローしようと慌てて駆けつけた。
「や、柳生さん!」
「馬鹿野郎!そいつから目を離すんじゃねぇ!」
柳生が叫んだ直後、桜咲の蹴ったボールが一瞬の隙を突いて三人のマークから抜けた翼の足下に収まった。
マークしてた野球部員三人が慌てて翼を止めようとしたが、それよりも早く翼は足を振り上げてシュートした。
遠くからのシュートのため、さっきと違ってキーパーも反応できたが、触れるよりも前にボールはゴールに入った。
点数は3対1。最初はこっちがリードしてたのに、いつの間にか2点差まで引き離されていた。
「チキショー!この俺がこんな奴らに・・・!」
完全に逆転されてしまい、柳生は悔しそうに呟く。
「どうですか?一人になった気分は?」
そんな彼に雲明は話し掛け、自身の作戦や目的について話す。
元々は必殺タクティクス『ブロック・ザ・キーマン』で柳生を孤立させる作戦だったが、亀雄の負傷で急遽作戦を変更。翼という圧倒的な力を持った選手を相手に野球部全員でマークさせて自分一人で攻めさせる。それこそが雲明が仕掛けた作戦であり、柳生を孤立させる唯一の方法だった。
そして、孤立させることで思い知らせようとしたのだ。一人がどれだけ無力かを、チャンスを前に結果を出すしかない状況で出せないことが如何に苦しいかを。
政治家の息子として育ち、周りの期待に応えるべくサッカーや野球で成果を出してきた柳生。しかし、政治家の息子という理由で接待を受けるプレイを毎日させられていた。
そんな日々が嫌いでサッカーを辞めたが、野球であっても彼の日常は変わらなかった。柳生にとってスポーツは苦痛以外の何者でもなかったのだ。
幼い頃からの苦痛な記憶を思い出し、涙を流す柳生に雲明は言った。
「もう、ガキ大将の役を演じるのは止めませんか?」
優しくそう語った雲明の言葉に応えるように、柳生は涙を拭って力強く宣言した。
「俺はサッカーをやる!誰がなんと言おうと!」
その間にも試合は進んでいき、野球部のパスを翼がカットし、またもやシュートの体勢に入る。
「これで4点目――っ!」
「そう何度も好き勝手させるかよ!」
柳生が勢いよくこちらに迫るのを見た翼は、シュートを止めてドリブルで彼を抜こうとする。
しかし、さっきまでと違い、粘り強く翼のスピードに付いてくる柳生。
「(さっきより動きが速くなってる。なんてプレッシャーだ・・・!)」
柳生の変化を感じながらも、翼は冷静にプレイする。
周りを見て、来夏のマークが薄くなっているのを確認した翼は、彼女にパスを出そうとしたが、ボールを蹴ろうとした瞬間、反対側から柳生の足が振り下ろされた。
「お前のスピードは確かにスゲー・・・だがなぁ、パワーなら俺だって負けねぇ!」
柳生が振り下ろした足は翼の足を弾いて、ボールを前に弾き飛ばした。
「なにぃ!」
パスとはいえ、まさか自身の足を上回った柳生のキックに、翼はこの試合で初めて驚きを見せた。
弾いたボールを柳生は追いかけるが、その正面に桜咲が立ちはだかる。
「来い柳生!ここは通さねぇぞ!」
「桜咲ぃぃぃぃぃぃ!!」
桜咲がボールに向かって跳び、柳生も雄叫びを上げながら跳ぶ。
二人の足がボールに激突する。強力な蹴りを両サイドから受けたボールは、その衝撃で弾かれる。
そのこぼれ球を木曽路が取ると、彼はゴールに向かって走っていた翼にパスを出した。
「ナイスパス!これで決める!」
慌てて野球部が止めようとするが、それよりも前に翼はシュートする。
「うおおおおおお!!」
しかし、猛ダッシュで自陣へ戻ってきた柳生が正面に立ちはだかり、翼のシュートを自身の腹で止めた。
ボールの勢いは凄まじく、ブロックした柳生の身体を後ろに押し出すほどだが、柳生は足を踏ん張って必死に耐えた。
やがてボールは勢いを止め、柳生の腹からストンと落ち、柳生はゆっくりと背中から倒れた。
「「「「柳生さん!」」」」
野球部員が全員倒れている柳生の下に駆け寄る。
心配そうにこちらを見下ろす野球部員の顔を見て、柳生は満足そうに笑いながら呟いた。
「俺たちの負けだ・・・」
ピー!!
その呟きの直後、試合終了の笛がグラウンドに響いた。
今日の『燃えてヒーロー』:青空翼
・キャプ翼あるある
作中で「なにぃ」がよく使われる(原作漫画を重視するなら「なにィ」とぃだけカタカナになっている)