超次元なサッカーでドライブシュートを打つ   作:イノウエ・ミウ

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今年最後の投稿です。


夢への一歩

試合が終わり、起き上がった柳生は勝利を喜び合う雲明たちの下まで歩いてきた。

それを見た雲明が前に出て柳生に話し掛ける。

 

「いいプレイでした。柳生先輩」

 

「・・・一つ聞いていいか?最初からこんな戦い方をするつもりだったのか?俺のことも全部調べてたんだよな?」

 

「さぁ、どうでしょう?まぁ、予想外のこともありましたが、大方は僕の考えた通りの展開になりました」

 

「そうかよ・・・悪かったな笹波雲明。あの時、サッカーを汚すような真似をして。俺はもうあんなことしねぇ。部員たちにも二度とやらせないよう言っておく。それと、そこのお前」

 

柳生は翼に声を掛けて、微笑みながら彼に話し掛ける。

 

「お前、強かったぜ。この俺を抜くなんてやるじゃねぇか」

 

「いえ、俺の方こそ最後のカットには驚かされました。楽しい試合でした。ありがとうございます」

 

「それはこっちのセリフだ。おかげで、久しぶりに熱くなれたぜ・・・ありがとよ。また会おうぜ」

 

そう言うと、柳生は他の野球部員と一緒にグラウンドから出て行った。

その背中を眺めていると、桜咲が雲明に話し掛ける。

 

「お前の言ってた通りだったな」

 

「はい、あの人はやっぱり、サッカーが忘れられない寂しい人でした。でも、あの様子ならもう心配ありませんね」

 

「あぁ、あいつも思い出したと思うぜ。サッカーの楽しさをよ」

 

桜咲の言葉に頷いた雲明は、顔をある人物の方に向ける。

 

「さて、後は・・・」

 

雲明の視線の先には翼がいた。他の者達も一斉に翼の方を見る。

自分たちのピンチに突然現れたサッカー少年。助けてもらったとはいえ、この少年の正体はハッキリさせなければならない。

代表して四川堂が翼に話し掛ける。

 

「君はいったい何者なんだい?見たところ、ここの生徒ではないと思うが・・・」

 

「こんなにサッカーが上手いなら、学校中で有名になってるはずよね」

 

来夏の呟きに木曽路や亀雄もうんうんと頷いた。

そんな彼らの疑問に翼は答える。

 

「そうだよ。俺、今日この町に引っ越してきたばかりなんだ」

 

「今日引っ越してきた!?」

 

木曽路が驚いて声を上げる。

 

「うん、どんな町か気になって、町を回ってたんだ。まさか引っ越して早々サッカーの試合ができるとは思わなかったよ」

 

「なるほど。今日引っ越してきたばかりなら、僕たちが知らないのは無理ありませんね」

 

雲明や他の者達も納得していると、今度は翼が雲明たちに聞く。

 

「俺からも聞いていいかな。サッカー部があるってことは、ここって西ノ宮中?」

 

「え?」

 

「ここに引っ越しする前に、この辺りでサッカー部がある中学校について調べてたんだ。それで見つけたのが西ノ宮中だったんだ」

 

そう説明する翼に、雲明はここが南雲原中であることを伝える。

 

「いえ、ここは南雲原中です。西ノ宮はこことは少し離れた場所にあります」

 

「そうなの?サッカー部があるって聞いたから、てっきり西ノ宮中だと思ったんだけど・・・」

 

雲明は翼の話を聞いて気になったことを問い掛ける。

 

「君は西ノ宮に転校するんですか?」

 

「うん、サッカー部があって、大会にも出場してる学校だからね」

 

「・・・転校の手続きはもうしていますか?」

 

「いや、まだだよ。今日この町に引っ越してきたばかりだから、明日西ノ宮中に行って転校の手続きをするつもりだよ」

 

翼がそう言った途端、雲明はチャンスと言わんばかりに口を開いた。

 

「なら、単刀直入に言います。僕は君をスカウトしたい。西ノ宮の転校を止めて、南雲原に転校してくれませんか?」

 

「え?」

 

「この通り、南雲原にもサッカー部はあります。君がサッカーをやるのにぴったりな場所だと思いませんか?西ノ宮だと通学も大変だし、君も身近な場所でサッカーがしたいはず」

 

「えーと・・・」

 

雲明の妙に圧のある勧誘に、翼は戸惑いを受ける。

その様子を彼の仲間たちは苦笑いしながら見ていた。

 

「雲明の奴、めちゃくちゃ必死だな」

 

「まぁ、彼がいてくれたら百人力よね。さっきの試合も大活躍だったし」

 

「そうだな。サッカーにおいて雲明は、才能のある奴をみすみす逃すような奴じゃねぇ」

 

雲明の強引な勧誘に呆れつつも共感する桜咲たち。

その間にも雲明の勧誘は続く。

 

「どうかな。君にとっても悪い話じゃないと思う」

 

翼は数拍置いてから真剣な表情で語り出した。

 

「・・・俺には夢があるんだ。サッカーの本場ブラジルでプロのサッカー選手になること。それが俺の夢なんだ」

 

「プロの、サッカー選手・・・」

 

プロのサッカー選手、それもサッカーの本場ブラジルで。その夢は日本でプロを目指すよりもかなりハードルが高く、本気でサッカーに取り組まない限り叶うことはないだろう。

 

「その一歩として、俺は誓ったんだ。中学サッカーの日本一を決める大会、フットボールフロンティアで俺は優勝するんだ!だから、もし君たちがフットボールフロンティアに出場しないのなら、ここには転校できない」

 

「・・・なら、尚更君はここに来るべきだ」

 

「え?」

 

自分の夢を聞いて臆するどころか、堂々と入ってこいと言い切った雲明に、翼は思わず呆けてしまう。

そこに桜咲と来夏が口を開いた。

 

「俺たちは中途半端なサッカーなんてしねぇ。やるからには本気でやる」

 

「てっぺんからの景色、それを見るためにね」

 

「てっぺんからの景色・・・」

 

来夏の発したてっぺんからの景色という言葉に、翼は胸を高鳴らせる。

 

「雲明の特訓は厳しいぜ。お前もやれば、絶対文句言いたくなると思うぜ。まっ、それぐらいサッカーに真剣だってことなんだけどな」

 

「成り行きで入ったとはいえ、全力で戦うつもりだよ」

 

「ぼ、僕も頑張ります!」

 

離れて聞いてた木曽路、四川堂、亀雄もそれぞれの想いを翼に伝える。

仲間たちの決意の後に、改めて雲明が翼に問う。

 

「そういうわけです。僕たちは君が心配するような温いサッカーをするつもりはありません。これでもまだ、南雲原に転校しませんか?」

 

「・・・一つ聞いていいかい?」

 

「なんですか?」

 

「今の話を聞いて、君たちが本気でサッカーをしてるのは伝わったよ。それならどうして、君はフィールドに立ってサッカーをしないんだ?今日の試合、代わりに出てくれる選手を探している君を見て、俺は感じたんだ。君はこの中で一番サッカーが好きなんだって。なのに、他の選手に指示を出しても、君自身は試合に出なかった。それは、どうしてなんだい?」

 

「・・・・・・」

 

翼の質問に対して、雲明は無言になる。

雲明の事情を知っている桜咲たちが心配そうに見守る中、彼は真っ直ぐな目で答えた。

 

「僕は病気でサッカーができないんだ。サッカーが大好きでも、君と同じフィールドに立ってプレイすることができない」

 

「!?・・・ごめん」

 

「謝らないで。確かに、僕はフィールドには立てない。でも、僕はこうしてサッカーをしている。ここにいる皆と一緒に」

 

「そうだな。今日だってお前の戦略に救われたぜ」

 

「いきなり助っ人を頼む無鉄砲さにもな」

 

桜咲と木曽路が笑みを浮かべながら喋る。

 

「僕はサッカーが好きだ。君に負けないくらい大好きだ。だから、例えフィールドで戦えなくても、大好きなサッカーで誰にも負けたくない。僕は必ずチームを勝利に導く。そして――」

 

真っ直ぐな瞳が翼を捉える。

 

「僕が、君を日本一にする。僕のサッカーで・・・!」

 

その宣言に翼は息を飲んだ。彼の目に宿る確固たる意志が伝わってくる。雲明の言葉には嘘偽りがないことは明白だった。

その意志の強さに圧倒されながらも、翼は目の前にいる少年の正体を確かめる。

 

「君は・・・君はいったい・・・!」

 

「笹波雲明。この南雲原中サッカー部の監督だ!」

 

目の前にいる少年は堂々とこのサッカー部の監督だと言い切った。

サッカーができなくても、サッカー部の監督として彼は戦っている。監督として戦ったことのない翼には、その道がどれほど険しいものかは想像付かない。

けれども、夢を叶えたいというその想いは、信念は、自分に負けないくらい強いことだけはハッキリと理解した。

翼はしばし言葉を失い、雲明を見つめていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

 

「・・・今日はもう遅いし、親も心配すると思うから帰るね。転校の件はひとまず考えておくよ」

 

そう言って、背を向けた翼だったが、顔を雲明たちの方に向けると笑顔で言った。

 

「またね。笹波雲明君」

 

「うん、また会おう。青空翼・・・」

 

雲明もまた、笑顔を見せながら去って行く翼の背中を見送った。

そして、その日の夜。

 

「お母さん、話があるんだ」

 

翼は己の決意を母親に話すのであった。

 

 

 

 

一週間後の朝、翼の母親が二階にいる息子に呼び掛ける。

 

「翼ー!準備できたのー?」

 

母親がそう言うと、二階から慌ただしい様子で翼が降りてきた。

 

「ごめんお母さん!もう大丈夫だよ!」

 

「もう!転校初日なんだからしっかりしなさい!」

 

初日早々だらしない様子の息子に注意しつつも、ふと表情を変えて話す。

 

「それにしても、どうして急に転校先を南雲原に変えたの?あそこはサッカー部が無かったはずじゃ・・・」

 

「いいや、あるよ。あそこにはサッカー部が・・・俺の夢を叶えられるサッカーがあるんだ・・・!」

 

キラキラと輝いた瞳で語る翼を見て、母親はこれ以上何も言うことはないと息子に激励を送る。

 

「そう・・・なら、しっかりやるのよ。怪我には気をつけてね」

 

「うん!俺、頑張るよ。それじゃあお母さん、行ってきます!」

 

「いってらっしゃい」

 

翼は元気よく外に飛び出していき、その後ろ姿を母親は優しい笑顔で見送るのであった。

相も変わらずサッカーボールでドリブルしながら翼は登校する。

坂を上がり、百段以上もある階段を登り切った翼は、一週間ぶりの南雲原中の校舎を見上げる。

 

「南雲原中、一週間ぶりか・・・」

 

あの日は色々あったと思い返す翼。サッカー部の助っ人としてフィールドに立ち、自分と同じくらいサッカーが大好きな少年に勧誘された。

そして今、自分はその中学校の前に立っている。

 

「ここから始まるんだ。俺の新しいサッカー生活が・・・!」

 

これから始まる新しいサッカー生活に期待を膨らませながら、翼は青空に向かって宣言する。

 

「よーし!俺はやるぞ!必ず日本一になって、ブラジルに行くんだ!」

 

空高く宣言した翼は、夢への一歩を踏み出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「校内のドリブル及びサッカーボールの持ち込み禁止!没収!」

 

「なにぃ!?」

 

早速阻まれるのであった。




今日の『燃えてヒーロー』:笹波雲明


笹波雲明は翼のハートを見事盗んでいきました。
今回翼の口から西ノ宮中について出ましたが、西ノ宮は千乃会長の妹が通ってるから南雲原と近い場所にあると思うんですよね。
ちなみに、もし翼が西ノ宮に転校したら、南雲原には勝てますが、北陽や東風異国館が相手だと負けるかもしれません。いくら翼が強くても、戦術が優れた北陽や選手の殆どがフィジカル強めの留学生という東風異国館に対して、西ノ宮は全体的にレベルが低いので、翼一人の力では太刀打ちできないからです。
助っ人システムで円堂ハル達の力を借りたら、その二校にも勝てますが、決勝トーナメントでハル達は雷門に戻るので、京前嵐山か帝国で詰みます。
結論、雲明に出会う出会わないで翼の人生が大きく変わります。まぁ、これは南雲原のメンバー全員にも言えることですが。
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