元人間の現人魚、水没世界を放浪してみたw   作:ユルスラ

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2話

 陸地を目指して泳ぎ続けていた私だったが、最近ある能力に目覚めていた。

 

「なんかこの海域、来た覚えあるな?」

 

 引き返しているので当然といえば当然なのだが。なんかこう、泳ぎ心地?海水の感触?の違いが分かり始めてきた。海水ソムリエを名乗ってもいいかもしれない。履歴書に記載しても今後の活躍をお祈りされそうだけど。

 

 益体のないことを考えながら泳ぎ続けていると、海底の景色に違和感を覚えた。パッと見た限りはサンゴがまばらに生えているだけのように見えるのだが、妙に引っ掛かりがある。

 

「急ぐものでもないしちょっくら見てみますか」

 

 私は念のため海面に浮上し肺に空気を取り込む。海面付近がぬるっとしていてちょっと苦手。急いで潜り直しサンゴのすぐ近くまでやってきて観察を始めた。やはり今まで見たことのない生え方をしていた。

 

「なんだこれ。絵のない額縁みたいな感じ?」

 

 四角い枠上に映えたサンゴが一定の間隔で並んでいた。試しに額縁内に手をかざすと、何もなく空を切るだけだった。

 

「…あ、これ額縁じゃなかくて窓枠か?」

 

 全体を見れるように距離を取って確認してみると、

 

「高層ビルじゃんこれ」

 

 それは地球にも存在した建築物だった。いや、私より先に転生した人、本気出しすぎじゃない?なんとなく中世から近代くらいの文化レベルを想定していたのでびっくりだよ。ただ、海中に建設した理由だけわからない。サンゴに覆われておかしなオブジェと化しているんですけど。というか、現代より高度なことしてませんかね?

 

 とは言え、人のいた痕跡を発見できたことは大きな収穫かも。保存食とか見つかったらうれしいところ。人魚になって味覚が変化したのか魚がおいしく感じるけど、三食魚介は飽きてきている。

 

 早速ビルの侵入を試みた。窓ガラスは一枚も残って無さそうなのでどこからでも入れそうだった。ひとまずさっき確認した場所を選び中に進んだ。この程度のセキュリティじゃ盗賊レベル1でも余裕だぜ。

 

 ビルの中は完全に水没していた。床には机が不規則に置かれており、椅子は天井にかたまりとなっていた。試しに机を軽く小突いてみると、少しだけこぶしが痺れるような感覚があった。今度は天井に向かい、椅子をつついてみた。ボロボロになっていたので慎重に。

 

「机は金属製っぽい?椅子はよくわからないかも、強いて言えばメッシュ?」

 

 とりあえず隣の部屋を調べてみたが、どの部屋も似たり寄ったりだった。机の引き出しの中もいくつか確認したが、空っぽだった。

 

「空振りか~」

 

 私は手近な机に腰掛ける。とりあえず人間が住んでいた痕跡を見つけることはできたが、収穫としては不十分と言わざるを得ない。

 

「…これひょっとして水中にビルを建てたわけじゃなくて沈んだのかな?」

 

 地球でも温暖化の影響で海面上昇が問題になってた。高層ビルが沈むほどの上昇とはスケールの違いを感じるけど、人魚いるしワダツミ様いるしで納得できなくもないか。とりあえず先人転生者どんまい!

 

 いったんビルから脱出し、空が見えるくらいまで浮上した。今までいた場所に比べるとネバつくし透明度が低いのか、浅いところまで上がらないと見えなかった。日も傾き始めてるし、夕飯の準備を始めることにした。

 

「今日の~メニューは~」

 

 歌いながらご飯を探す。作詞作曲私、曲名はメイの夕ご飯あたりか。さすが安直過ぎるか。いったん置いといて、まずは見つけないとね。

 

 普段は浅いところで探すことが多いのだが、見つけられなかったので少し深い位置まで来ていた。

 

「発見!いや、やめておくか…」

 

 見つけたのは名も知らぬ魚だった。海底付近をゆったり泳いでいたのだが、顔がいかつ過ぎて手を出す気にはならなかった。そんなこんなで夕飯にありつける頃には、日が完全に沈んでいた。

 

 本日頂くのは抱えるくらいの大きさの白身魚。捌いたりは全然出来ないので、そのままかぶりついた。モグモグ。

 

「うーん?淡泊な味わいにほんのり感じる甘さ。あとなんだこれ?エグみ?みたいなのがある。び、微妙かも…」

 

 普段はなるべく完食することを心掛けているのだが、これはちょっと無理かも。そのままポイしても良さそうだけど、食べかけを万一見られるのは嫌だな。

 

 そこで伸びていた爪に気付いた。これでバラしたり出来ないかな?試しに魚のエラ付近をブスリ。そのままなぞるように引くとスパッと頭が落ちた。

 

「お〜なかなかの切れ味。白ゲージくらいはあるのでは?」

 

 某狩猟ゲームで一部の業物のみがもつ領域…いや、そこまで鋭くはないか。取りあえず食べかけの魚は、口にしてないところは市販の切り身程度に、食べ掛けの部分はミンチにしてやった。

 

「早めに移動かな〜」

 

 淡泊な食事については諦めがついていたが、あのエグみはちょっと耐えられない。同種の魚は一度食べたことがあったけど、適度に脂が乗ってて美味しかった。あのエグみは環境による影響だと思うんだよね。

 

「水面、なんでネットリしてるんだろ?」

 

 うーん、わからん。人間見つけたら、何かわかるかな。早めに出発したいし寝よ寝よ。その日は予定していた通り、日中探索したビルの机にゴロンした。屋根があるって落ち着く〜。

 

 翌日は空がまだ白んでいるうちに移動を始めた。人工物があるということは、まだ近くに人が住んでいるかもしれない。と思って張り切って泳ぎ回ったのだが。

 

「なーんも見つかりませんねぇ…」

 

 東奔西走、駆けずり回ったというのに。海底にはビル以外の建物も沈んでいたが、人っこひとり見当たらなかった。もしいても海底人ってことになるけど。

 

 息継ぎのため、いったん海面から顔を出す。水面のぬるっと感が苦手だったが、ここは硫黄風呂…と自己暗示をかけることで無視できるようになった。人魚に息継ぎ不要説が私の中で浮上し始めているが、定期的に日光を浴びるように母に口酸っぱく言われてきたので、不都合がでるまでは続ける所存です。

 

「ふぅー、んんん?」

 

 海のど真ん中突き出ているのが見える。見たことがないというより、ないはずのものがある感覚が近い。例えるなら美少女にあってはいけないものが…っとこの話題はよそう。

 

「近づいて確認してみるか…」

 

 すいすーいっと近づいてみる。ぼんやりとシルエットだけ浮かんでいたものが徐々に輪郭をあらわにする。水面に出ていたのは海中に建てられた建造物の先端だった。そしてその建造物は何度も見たことがあるものだった。

 

「これは…東京タワー、だと!?」

 

 組み上げられた鉄骨の形状は私の記憶にあるものと完全に一致していた。スカイツリーに高さは抜かれたけど、それでも象徴的な建物として根強い人気を誇るというあの…?いやいやいや、転生者やりすぎだろ。主張激しすぎるって。まあでも?直接見たの小学生以来だし?正直ちょっとうれしいというか?このアングルで眺められるの役得杉とか思わなくもなかったり?

 

「おっとついエキサイトしてしまった…」

 

 深呼吸深呼吸。落ち着いて観察してみると記憶と明確な差異も見つかる。地球の東京タワーと違って、手入れがまったく行われておらずサビがすごい。もう何年かしたら折れるんじゃないかというボロさがあった。

 

「やっぱり元々地上に建てられてたけど、海面上昇で水没した線が濃厚か…?となると東京タワーが333mだったからそのくらい上がったってことか…?」

 

 まあ、東京タワーと見た目が同じだけで決めつけるには早いか。ただ、この東京タワーもどきの高さ、地球のものと大差ないように見える。正確に測る方法もないから感覚でって話になるけど。

 

「展望台は、あぁー…」

 

 おそらく記憶と同じくガラス張りだったのだろうが、骨組み以外がらんどう状態になっていた。見晴らしは良くなっただろうけど安全性は全く担保できていないご様子。現代基準なら即刻営業停止ものです。

 

「…思い出は思い出のままにしとこうか」

 

 グッバイ、幼いころに東京タワーから見た景色。完全に東京タワーのもどきの景観で上書きされてしまった。せつない。

 

「ひとまずぐるっと見て回りますか…」

 

 展望台から下降するように見ていく。もどきとは言え、東京タワーの骨組みを間近で見ることなんて普通できないし、最初は楽しかった。しかし、次第にどこもかしこも錆びついているので、

 

「今倒壊したら逃げれるか怪しくね?」

 

 ということで、名残惜しいがここから離れることにした。私は失敗から学べる女。東京タワーが見えない位置まで移動し、空を確認するといつのまにか日も傾き始めていた。何時頃たどり着いたのか不明だが、思ったより長い時間東京タワーもどきで過ごしていたみたい。探索中に倒れなくて本当に良かった。

 

「…あれ、なんだ?」

 

 夕飯になりそうなものを探していると、また遠くに建物の影が見えた。どうやら高層ビルのようだが、かなりの高さがある。さっきの東京タワーもどきよりはさすがに低いが。とりあえず今日の宿にすることに決める。

 

 夕飯は昨日よりは小ぶりの白身魚。うぅ、またエグみがぁ。早くおいしいもの食べたいよ。ちなみに本日の寝床も貸し切り状態だったことも言及しておく。

 

 翌朝、目を覚まし伸びをしながら本日の予定を立てる。東京タワーもどきを始め住んでいた痕跡は見つかるのだが、肝心の人間が見つからない。

 

「陸地、そろそろ見えてきても良さそうなんだけどな…」

 

 ビルを見つけた辺りからか霧がひどくなり、水平線の向こう側がほとんど見通せない。あとどれくらいでたどり着くのか。

 

「まあ見つからないものはしょうがない!」

 

 少なくとも転生者がいたことは間違いなさそうだし、おいしいごはんにありつけることを期待しよう。

 

「ともあれ、しゅっぱーつ」

 

 目標に向かった今日も泳ぎ始めた。

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