元人間の現人魚、水没世界を放浪してみたw   作:ユルスラ

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3話

「とうとう見えてきた…新大陸…!」

 

 東京タワーを見つけた日の翌日、薄っすらとだったが陸地を見つけた。嬉しくなって張り切って泳いできたわけなのだが。

 

 いざ近づいて見ると、記憶にある日本の様子とは異なっていた。大陸が海を挟むように別れており、斜面の険しい山に住居らしきものが立ち並んでいる。イメージとしては、香港のマンションの写真かな?

 

 建物の中には地球にあった仮設住宅も多くあることから転生者の影響を強く感じる。見たかった異世界らしい風景にテンション上がりつつ、小骨が引っかかるようなもどかしさも同時に感じる。

 

「これだけ住居があって誰も住んでませんは流石に無さそうか…さて」

 

 ここからどう進もうかな。右側もしくは左側どちらかの山の外側を、沿うように港を探してみるのが無難そうではある。ただ、この2つ山の間、めちゃくちゃ気になる。内陸により近づけそうだし、ここは大胆に攻めるべきか?

 

 海中でうんうん考えていると、遠くから振動が伝わってくる。なにか大きいものが、来る。私は注意を振動の方向に向けるとそこには水中に楕円形つき出す何かがあった。

 

「…あ、船かあれ?」

 

 すぐには気づかなかったが、地球にあった船の底があんな感じの形状だった気がする。何かの展示で母と見に行った覚えが朧気にある。

 

 船はあくびが出るような速度(※人魚比)でこちらに向かっていた。船に引かれたらたまったものじゃないので、安全な位置まで潜って通り過ぎるのを待つ。

 

「何積んでたんだろ…付いていくのも一興だけど、流石にかな…」

 

 これでこの先に人が住んでいるのは確定と言っていいだろう。男は度胸、女もまた度胸だ。私は山の間の内海を進むことを決めた。

 

 

 

 内海から見た、地上の景色は予想を裏切るものだった。まず、異常とも思えるほど住宅が密集していた。比較的傾斜が緩やかな場所には高層マンションも建てられていた。

 

「今まで一切人間と会わなかったのが驚きだぜ…」

 

 沿岸近辺ではボートが絶えず行き来しており、さっきから細かい振動が伝わってきて落ち着かない。私が今泳いでいる沿岸部から離れた部分は、ボート近付く様子は無かった。さっきみたいな大型船が専用で使用しているのかな?

 

 それから内海を進み続けると大型の船がいくつも並ぶ場所までやってきた。小型から中型の船が並ぶ区画もあり、遠くで人が何か運んでいる様子が見えた。

 

「お勤めご苦労さまです!って話しかけるわけにもいかないし、どうしよっかな〜」

 

 身の安全を第一に考えた時、不特定多数の人に姿は晒したくないよね?SNSかそれに類するツールがあったら晒されちゃうんだけど。そこを考えちゃうと、誰とも接触しちゃいけないって話になるし。

 

 中世から近代の文明レベルなら何も考慮せず話しかけられたんだけどな。見たところほとんど現代と変わらない気がするし、通信技術が既に確立されていても不思議じゃない。

 

 となると、安全で人畜無害そうな人を探して協力をお願いするしかない?いやー面白くなって来ましたね?

 

「取りあえずしばらく様子見かな?夜なら家に帰る人もいるだろうし」

 

 というわけで、しばし海中で息を潜めることにした。何して待ってようか。イルカのバブルリングだっけ、あれ練習したら再現出来るかな…?

 

 バブルリングを完全に習得し終え、海面から顔を出すとすっかり夜になっていた。いや、なかなか奥が深くて色々試していたらあっという間だった。応用でハート型に始まり文字なんかも出せるようになっていて、水中の人魚の器用さに震えた。

 

 軽く見渡して見たところ、ボートなども昼間に比べ明らかに数が減っており、沿岸近くで見つかるリスクはグッと少なくなってそうだ。

 

 左手に懐かしき陸地を見据えながら進む。さっきまではボートに気を取られて意識していなかったが、険しい斜面が続き圧迫感や閉塞感を感じる。

 

 注意して泳いでいたものの、

 

「人が少ない方が助かるとは言え、ここまでいないとは…」

 

 時おりボートが通り過ぎて行くが、道行く人は全く見かけなかった。ちょこちょこ港の様子を見ていた感じ、夜通し働き続ける感じでは無さそうだったんだけど。

 

「…おや?」

 

 遠くに誰か人を見つけたのだが。なにやら雲行きが怪しい。身体乗りだしていて、今にも飛び降りようとしているように見えた。

 

 私は強く押し出すように尾ビレを叩きつける。一瞬で加速すると、落下点に急行。いつでも受け止められるように構えると、パシャッと聞き慣れない音と強い光が放たれる。

 

 完全な不意打ちをもらった私は、

 

「うわ、まぶし」

「……え、うそ?」

 

 見知らぬ少女に姿をさらしてしまっていた。我ながら迂闊過ぎた。というか、今の日本語では?

 

「尾ビレ生えてる…?」

 

 まずいまずいまずい!というか、この暗い中、まさか見えてる?海底でも活動する人魚だから夜目が利くのかと思ってたけど、実は標準スキルされているのか?

 

 落ち着いけ私ぃ、さっきの光のせいだよ!逃げた方が…いや?待てよ。少女が何者かはまったくわからないが、変な大人に見つかるよりは遥かにマシでは?

 

「言葉通じないのかな…でも、さっき日本語話してた気が」

 

 混乱している私をよそに少女は話を続ける。ここは生前で身に付けたパーフェクトコミュニケーションの出番か。

 

「あ、あー、どうも通りすがりの人魚です」

「本当にしゃべった…あなた、本物の人魚なの?」

「一応?」

「一応ってどういうこと?」

「話せば長くなるのですが…人間から転生したので」

「転生…?」

 

 転生って言われてもピンと来ないのか。となると私と同じ転生者の線は薄そうだ。

 

「人魚ってあなた以外にはいないの?」

「さあ?私は見たこと無いけど…こっちからも聞いていい?何で飛び込もうとしてたの?」

「そんなことしてないけど…写真撮ってただけで」

「写真?」

「ほら」

 

 少女は手に持っていたなにかを私に向ける。

 

「それは?」

「カメラだけど」

「カメラ…」

 

 いわれてみれば確かにそうだ。ただ見慣れていたデジカメやスマホとは異なる黒々とシックな質感。俗に言う一眼レフカメラに似ていた。

 

「え、なんで夜に?」

「何でって言われても、撮りたかったから」

「何で…?」

「海の写真撮るのが好きだから、かな」

「そうなんだ」

 

 中々興味深い感性の少女だ。だがすまねえ、ずっと海にいて見飽きてるくらいで共感しづらいんだ。

 

「ところであなたは何でここに?」

「人を探しに」

「そうなんだ。家族とか?」

「家族というか…あー、特定の誰かじゃなくて人間自体を…?」

「人間自体…」

 

 彼女が困惑しているのが見て取れる。漫画の中ならクエッションマークのトーンが貼られているだろう。美味しいご飯を食べたくて人間と陸地を探し始めた。しかしここに来るまで、人間いるかどうかも定かじゃ無かったんだよね。

 

「よくわからないけど、頑張ってね?」

 

 彼女の反応はめっちゃ他人事だった。仕方ないんだけどさ。さてと。お互いの事が少し知れたし、ここから本題に移らせてもらおうか。

 

「ところで何か食べ物持ってたりしない?」

「お腹空いてるの?」

「…まあ、そう」

 

 そろそろ夕飯時だしね。人魚の身体燃費いいから1日1食くらいでも余裕だけど、和食を…!特に山の幸を…!届けこの想い…!

 

「ちょっと待ってて?何か買ってくるから」

「ありがと〜」

「…なんか飛び降りと勘違いさせたみたいだしこれでチャラで」

「気にしてたんだ」

「…一応ね」

 

 一時はどうなるかと思ったけど、都合よく収まってよかった。

 

「じゃあ行ってくるね」

「待ってるね〜」

 

 彼女はクスリと笑った。ドクリと心臓の音が鳴りしばらく耳に残り続けた。

 

 彼女が戻ってきたのは、さらに夜が深まった頃だった。手に持っているカゴからおいしいにおいが漂ってくる。遅かったのでそのまま帰ったと思っていた。ホッとした。

 

「はいこれ」

 

 カゴから取り出されたのは焼き魚だった。それは昼過ぎ辺りに見つけて食べた魚が焼かれた姿だった。皮の表面には白い結晶が見えるのでたぶん塩焼きだろう。

 

「いただきます…」

 

 モシャモシャ。そのまま食べるより塩気が強く、皮が香ばしくておいしい。正直結局魚か…って買ってきてもらいながら思っていたけど、ちゃんと調理されるだけで別物に感じる。

 

「おいひ~」

「そう。喜んでもらえてよかった」

「普段から魚食べるの?」

「それくらいしか置いてなかった。魚以外が買えることめったにないけどね」

「そうなんだ…」

 

 こっちの人間の食生活、もしかして人魚と大差ない?地球では地域差はあったけど、私のうちではお肉のほうが良く食卓に並んでいた記憶。

 

「お肉とかは?」

「たまーに?秋頃は結構食べるけど」

「なるほどね~」

 

 引っかかるところはあるが、とりあえず食事に集中しよう。

 

「ごちそうさまでした!」

「お粗末さまでした」

 

 満足満足。シンプルでも焼き魚っていう料理にするだけでここまで違うとはね。そう考えると毎晩料理してくれた両親に対する尊敬が深まりますな。

 

「そろそろ帰るけど、あなたは明日もここにいる?」

「あー…そのつもりかな?」

「ふーん。そう」

「え、なにかあるの?」

「…明日も何か持ってこようかなって」

「それはうれしいけど…あ、お金もってません」

「…作ってくるから気にしなくてもいいよ」

「料理できるんだ~」

「少しだけだけど」

「私はあんまりできなかったから尊敬するよ~」

「…本当にそこまでじゃないよ」

 

 言葉が尻すぼみになっていく。もしかしなくても彼女は照れているのではないだろうか。ういやつめ。

 

「なにかお礼は考えとくよ~」

「わかった、あなたがその方がいいって言うなら」

「よし決まり!えっと、今更かもだけどあなた名前は?私はメイ、転生前は鳴海メイ」

「私はヒマリ、タムラヒマリ」

「よろしくね、ヒマちゃん!」

「ヒマちゃん…」

「苗字で呼んだ方が良かった…?」

「ううん、自由に呼んでもらっていいよメイ…ちゃん」

「お、名前で呼んでくれるんだ!うれしい!」

「…ほかになければ帰るね」

「引き止めちゃってごめんね~また明日~」

「うん、また明日」

 

 両手を大きく振って見送る。一度立ち止まり、こちらを振り向いて胸の前当たりで手を振り返してくれた。その後は早歩きで去っていった。かわいい。

 

「さてと、まずはファーストコンタクト大成功かな?」

 

 話してみた感じ、ヒマちゃんはいい子っぽいし。変な大人じゃなくて良かったよホント。さっきはスルーしたけど名前思いっきり日本人だったな。異世界にしてはあまりにも日本っぽさがあるのが気になるけど。

 

「ただ、街の様子だったり生活様式で違うところも見つかるんだよね…」

 

 まあ、考えても仕方ないし明日ヒマちゃんに確認してみよう。私は海底まで沈み、ゆっくりと目をつぶった。

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