元人間の現人魚、水没世界を放浪してみたw   作:ユルスラ

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4話

 この街?に来て2日目の朝。普段のように海底で休むことにした私だったが、海面で不規則な振動を感じとり、目が覚めた。ちょっと不機嫌になりながら目を開けてみると、

 

「なんじゃこりゃーーー!?」

 

 無数の舟が絶えず沖に向かって進んでいた。まったく想定していなかった私はその場で固まってしまい、眺めていることしかできない。

 

 もしかしたら、見つかるかも知れない。そう思って身構えていたが、一向にその時は訪れなかった。次第に出航する舟の数は減っていき、青空が拝める頃には私も冷静になっていた。

 

「焦ったけど、よく考えたら早朝の漁に出たのか」

 

 港町っぽいしね。日本でも漁師さんの朝は早いと聞いたことがある。魚の習性を利用する面もあるけど、流通との兼ね合いの側面が強いだったはず。

 

「ともあれ、今まで通り海底に潜んで過ごすのは絶対安全とはいかないかも?」

 

 あと毎朝叩き起こされるのは精神的にキツいものがある。そうなると拠点を探す必要がありそうなんだけど、土地勘はもちろんないしどうしたものか。ヒマちゃんに訊いたらわかるかな?

 

「今日はこの街のこととか色々聞きたかったけど、まずは住処を整えないとか…」

 

 そうと決まったら早速ヒマちゃんに会いに…およ?そう言えばまた会う約束したけど、いつ頃行けば会えるんだ…?

 

 とりあえず昨日あった場所に向かってみることにする。その周辺で良さそうなところ見繕って仮宿にする方針で行こう。条件は陽あたり良好、3食昼寝付きは特に求めなくてもいいか。

 

 昨日の堤防らしき場所までやって来たが、ヒマちゃんは来ていなさそうだった。ですよね。

 手持ち無沙汰なので海底に潜り、仰向けになって水面観察している。

 

「とりあえず朝以外は車通りならぬ舟通りは落ち着いてるみたいかな?」

 

 日中は昨日思った通り大型船がたまに通り過ぎるくらいだった。朝見た漁船は沿岸部付近を通ってバラバラに戻って来ているみたい。

 

「岸に近いところは朝見かけなかった船も混ざっているけどなんだろうね?前世基準で考えたらバスとかの代わりなのかな。う〜ん、わからん。」

 

 とりあえず昨日と同じように海底付近にいたらそうそう見つからないかな。でも、じっと待ってるだけってのもちょっと辛い。

 

「人があまり来にくい入江とか無いか、探してみますか」

 

 見つかるリスクは増えるけど、昨日のヒマちゃんの反応を見るに、人魚を見たら即捕縛!みたいな感じは無さそう。見たこと無さそうだったし。大人とかも同じかはわからないけど。

 

「よし決めた。夕方までたんさくたんさくぅ!」

 

 このあとめちゃくちゃ探索した。

 結果、候補はいくつか見つかった。ヒマちゃんに人が来ないか確認取って最終決定かな。

 

 日が傾き始めた頃、堤防にやって来てキョロキョロと周囲を確認するヒマちゃんが現れた。黒髪を後ろにまとめており、修繕のあとがあるフリースを着ていた。

 私が海面から顔を出すと控えめに手を振ってくれた。

 

「やっほーヒマちゃん!昨日ぶり」

「き、昨日ぶり…」

 

 ヒマちゃんは私の姿を見ると途端に顔を赤らめた。どうしたんだい?見られて困るようなもの特に持ち合わせていないけど。

 

「人魚ってなにも着ないのが普通なの…?」

「ん…?そりゃあ服なんて着ないけど、濡れるだけだし」

「水着も…?貝殻付けたりとか」

「水着…貝殻…あああ!」

 

 視線を下に向けると2つの桃が波に揺られていた。言われてみれば確かにそうだ。1人で居たから生まれたままの姿で過ごしていたよ。

 

「貝殻はいくらでも探せるけど止める紐とかなんかあるかなぁ」

「…ずっとそのままで過ごす気なの?」

「うーん…」

 

 1人ならそれでも良いんだけどね。ヒマちゃんみたいな可愛い女の子はともかくそれ以外に見られるのは普通に嫌かも。

 

「かと言って今すぐはどうにもできないかも」

「それなら紐の代わりなら私が用意出来るかも…?」

「お…!それならお願いしようかな。う〜ん、そうなると何かお返ししたいんだけど。昨日の分と合わせて」

 

 このままではヒモ同然だ。紐をもらうヒモとか、下らないを通り越しているぞ。

  

「本当に何もいらないんだけど、それなら今までメイちゃんがどんなふうに過ごしたのか聞いてみたいかも」

「そんなのでいいなら全然話すけど…本当にそれでいいの?」

「人魚ってどう生活しているのかイメージ出来ないし」

「そういうことなら…話すけど」

 

 それからしばらく人魚に転生してからのことを話した。人魚が全力で泳いだら凄く速かったとか、魚は場所によって味が変わるとか。

 

「そうだ、海のど真ん中でワダツミ様に会ったんだよ」

「ワダツミ様?」

 

 ヒマちゃんはコテリと首を傾げる。はてなマークが…の下りは昨日もやったな。それはさておき。

 

「本当の名前は他にあるらしいけど、上手く聞き取れなかったから私はそう呼んでる。あととても大きい」

「大きいって、どれくらい?」

「う〜ん、デカ過ぎて例えるのが難しいな…北海道って言っても伝わらないだろうし…」

「え、大きすぎない?生き物なのそれ?」

「ん…?北海道知ってるの?」

「日本で1番大きい都道府県でしょ」

「……ふぁ?」

 

 え、今日本ってハッキリ言いましたよね?どどど、どゆことー!?

 

「どうしたのメイちゃん?」

「…つかぬことをお伺いしますが、ここはどこなのでしょうか?」

「中之条だけど…」

 

 おっと、全然知らない地名来た。ナカノジョウ、響きは日本のどこかっぽさをそこはかとなく感じる。いや、どこだ…?

 

「えっと…どの都道府県の?」

「群馬だけど」

「グンマー!?」

 

 未開の地に築かれた帝国で有名なあの…?いや、ちょっと待て、記憶が正しければ海に面する県じゃなかった気がするぞ。

 

「待って、ちょっと整理させてね?つまりここは日本の群馬のナカノジョウで…そうだ今日は何年何月何日は?」

「2036年5月20日だけど」

「oh...そう来たか…」

 

 ずっと異世界に転生したものだと思っていたがどうやら違っていたらしい。私は10年後にタイムスリップしたようだ。つまり人魚やワダツミ様、元々いたってこと?いや、一応パラレルワールドの線も一応残っているか。

 

「大丈夫…?」

「…なんかこう衝撃が強かったと言うか、ってことはこの前見た東京タワーって…?」

 

 自問自答していると、不意にヒマちゃんの雰囲気が変わる。

 

「東京タワー見たの?」

「あ、うん。ここに来る前に」

「どうだった?」

「どうって、うーん。整備されて無くてボロくていつ壊れてもおかしくなかったかな…」

「え」

 

 ヒマちゃんがその場でぺたり座り込んだ。何かまずいこと言っちゃったか!?

 

「ヒマちゃん、どうしたの!?」

「あのね…ずっと東京タワー見てみたかったんだけど、大人にならないと東京行けなくて。見に行けるまでに壊れちゃったらって思ったら力抜けちゃって」

「ご、ごめん!」

 

 私は水面に手を付けて謝る。言い方とかもっとあっただろ私!学生の時国語が唯一の得意科目だっただろうがよ!

 

「メイちゃんが悪いわけでもないから…」

「そうは言っても気にしちゃうんだよ…」

 

 空気が重い。なにか、和ませる様な事を言わないと。こういう時に限って気の利いた言葉は思いつかなかった。

 

「…まだ。まだ、倒れてない。必要なら私が東京タワー延命させるよ」

「…どうやるの?」

「それは…ネットで調べたりとかすればいけるんじゃ…」

「ネット…?もしかしてインターネットのこと?」

「そうだね」

「使えないよ」

「え!?どうして!?」

「海面上昇の時に使えなくなったって親に教えて貰った」

「まじ〜?」

「うん、まじ」 

 

 詰んだ。調べながらでも不安なのに、手探りでやるしかないのか。私は腕を組み考え込む。

 

「劣化した原因はたぶんサビのせいだよね?銀とかに反応させて取り除くことが仮にできても、サイズ的に難しい…うん、天に祈るか」

「ええぇ…」

「ごめんね、私は無力な人魚みたい…」

「…一応修繕する動きがあるって親も言ってたし」

「そうか、大人は行けるんだね」

「まあ、日々の生活でいっぱいいっぱいで中之条の知り合いで行った人はあんまり知らないかな」

「そうなんだ…」

 

 当たり前だったことが、知らない常識に塗り替わっていて不思議な感覚だ。10年でここまで変わるんだ。海面上昇したのが原因で間違いないけど。

 

「だからまあ、あんまり気に病まないで?一応あと1年もしないうちに中学校卒業するから」

「高校は…?」

「行かないけど?そこまで頭良くないしね」

「おぅ…教育とかも変わってるんか……中三と言うことはヒマちゃん一つ後輩だったんだ」

 

 死んだ10年前の時点ではそうってだけで厳密には違うのかもしれないけど。人魚換算なら0歳だし、眠っていた間を換算するなら25歳。私も年を取ったものだ。実感ないけど。

 

「メイ先輩って呼んだほうがいい?」

「……とても魅力的な響きですが、ちゃん呼びのままがいいかも」

「ふふっ、変なの」

 

 ヒマちゃんが目を細めて笑みを浮かべる。後輩にからかわれてしまった。このくすぐったい感じ、悪くはないかも。これは新たな扉開いてしまったかもしれねぇ。

 

「ん、んん。とにかく!卒業して東京行くなら何か手伝うよ!」

「え、うれしい…」

 

 ヒマちゃんの頬が微かに上気している。その顔を見ていると胸がキュッとなり、何でもしてあげたい気持ちになる。いかんいかん、気を抜くと顔が緩みそう。気を引き締めるために真面目な話題に移そう。

 

「それで、結局何が起きたの?」

「えっと何がっていうのは」

「何で海面上昇したのかなって」

「うーん、それは今もわかってないらしいよ。ある日突然海面上昇が始まって半年くらいかけて今の高さになったんだ」

「半年で330mも上昇したんだ!?」

「授業では350mって習ってるけど」

「え、東京タワーが333mで…あぁ海抜高度は別だったからか。なるほどなるほど」

「海面が上がり始めたこと自体はすぐ政府に知らされたんだけど、そこからは政府の指示で移住が始まったんだよね」

「うわぁ大変そう」

「実際大変だった…途中からスマホも使えなくなったから政府の指示もわからなくなっちゃって」

「やば」

「早いもの勝ちみたいになって」

「おいぃ」

「それでなんやかんや私と両親はここに来て落ち着いた感じかな」

「なんやかんやか…」

 

 気になるけど言いたくないのなら聞かない方がいいか。ここに来てからも一筋縄じゃ済まなかったんだろうな。

 

 話をしていたら夕日が沈み始めていた。昨日は気にして無かったけど、中学生を遅くまで付き合わせることに罪悪感があるので、ここでお開きにしようかな。家に送ってあげたりもできないしね。この時ばかりは人魚になったことが悔やまれる。

 

「日も落ちそうだし、そろそろ帰ろうか」

「本当だ。メイちゃんと話してたらあっという間」

「ね……」

「明日も来ていい…?」

「こっちはウェルカムですよ!」

「良かった…」

 

 ヒマちゃんがホッと息を吐く。意外と友達少ないのかな、変に気を使われてるというか。

 

「時間と場所は今日と同じ?」

「うん」

「オッケー!じゃあまた明日」

「うん、また明日」

 

 私が手を振るとヒマちゃんも振り返してくれた。昨日は控えめな感じしていたけど、ちょっとは心を開いてくれたのか、ぎこちなさが感じなくなっていた。うれしい。

 ところで何か忘れている気がするけど、何だっけ。

 

 あ、寝床どうしようか相談し忘れた。明日の朝もゆっくり出来ないことが確定し、私はしょんぼりしながら海底に潜った。

 

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