元人間の現人魚、水没世界を放浪してみたw   作:ユルスラ

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第5話

 バシュッ。バシューッ。バシュバシュッ。

 黙々と岩を蜂の巣にしていく。昨日今日と安眠を妨げられたことに対する苛立ちを解消するため、人がこなさそうな岩場にやって来ていた。

 

「えいっ!えいえいっ!」

 

 バシュッバシュッ。掛け声に合わせて水鉄砲を放つと、命中した場所に穴が空いた。父さんから幼少時に教わった手から放つ水鉄砲だったが、人魚パワーによって年齢指定どころの騒ぎではない威力になっていた。

 

 一応補足すると父さんと一緒に入っていたのは小学3年生くらいまでだったからファザコンとか呼ばないように!

 

「バブルリングもそうだし水に関すること、何かと器用だな…」

 

 水の中限定で暫定ナンバー2を自称してもいいかも知れない。ナンバー1は当然、ワダツミ様。全生物の中でも最強説あるけど、まだ見ぬ強者がいるかも知れない。会いに行きはしませんが。

 

 そんなことを考えながら黙々と水鉄砲を撃ち続けていると、同じ場所を狙い過ぎて貫通してしまった。幸いできた穴の向こうには同じような岩場が続くだけなので問題ないと思うけど。

 

「人に当てたら不味いよね…? 力加減は出来るけど」

 

 子供用の水鉄砲くらいの威力に調整して撃ってみると、カーブを描きながら岩に命中するが表面を濡らすだけにとどまる。そこから徐々に威力を上げていくと、次第に真っ直ぐ飛ぶようになる。最終的に一発で貫通出来るほどの威力になった。レーザーかな?

 

「これヒマちゃんに見せたらどんな反応するかな。困った顔浮かべそう…」

 

 せっかくだし何か見せる機会があればいいけど。その後はストレス発散は忘れて水鉄砲の可能性を探ることにした。

 

 昨日と同じくらいの時間になり海中で待っているとヒマちゃんがやって来る。気づいた私は海面から勢いよく飛び出す。

 

「やっほー! ヒマちゃん」

「こんにちは、メイちゃん」

 

 ほんのりと頬を染めはにかみながら答えるヒマちゃんに私は心の中でガッツポーズをする。ヒマちゃんの一挙一投足は私のツボを的確に突いてくる。 

 

「っと、いつまでもトリップしてるわけにはいかないし。ヒマちゃん!今日なんだけどちょっと行きたい場所あるから付き合ってもらっていい?」

 

 前半部分は小声で言ったので聞こえてないと信じたい。ヒマちゃんに読心術の心得がありませんように。

 

「それって私も行けるとこ?」

「海の中じゃないから行けると思うけど…」

「でも私が行ってできることってなんだろう?」

「実は…」

 

 私は住処を探していることを話した。

 

「そういうことなら協力するよ」

「本当に!ありがとヒマちゃん!」 

「どういたしまして。それじゃあ、早速連れてって貰ってもいい?」

「あいあいさー」

 

 

 というわけで最初に案内しに来たのはこちら。先ほど水鉄砲の研究をしていた岩場だった。海と急斜面の山肌に挟まれており、大きな岩もあってもし誰か来ても簡単には見つからなそう。

 

「海沿いの岩場で付近に住居も無く陽あたりは…」

「はぁ…はぁ…ちょっと待って…」

 

 ヒマちゃんは肩を上下に動かしながら息を整えていた。私は泳いで来たからなんとも無かったけど道無き道を進むことになったらしく息も絶え絶えになっていた。

 ただ数分たったら呼吸も安定していた。思ったよりも体力があるのか。それとも若さか。

 

「それで、なにが、聞きたかったの?」

「えっとね…この辺りって近く船通るかな?人も来ない方が助かるけどね〜」

「どうだろ…初めて来たから分からないや…参考にならなくてごめんね」

「そっか…とりあえずいったんここは保留にしとこうか」

「……え、ここは?」

「候補はあと2つあるんだけど…」

「……わかった。案内して」

「…夏場なら背負っても連れて行ったのに…」

「お、重いよ…」

「ふっふっふー。こう見えて私は力持ちなのだよ?」

 

 腕を水面から出して二の腕に力を込めながらくの字に曲げてみせる。立派な力こぶ…が出来たりはせずほんの少し盛り上がった程度だったのでヒマちゃんは優しげな表情を浮かべた。ウソじゃないのにー。

 

 という訳で次の場所に向かってみたのだが、向かっている最中に船が止まっているところを見つけてしまう。私とヒマちゃんは顔を合わせ「うん、次」と言って見つからないようにその場を離れた。

 

 最後の候補地は最初の場所と似た山の直ぐ側にある場所だった。最初の場所に比べると民家は更に少ないが、森がすぐ近くにある。

 

「野生動物とかでてきそう」

 

 小声で言ったのに聞こえていたのかヒマちゃんがこちらに視線を向ける。安心してね、私がすり傷ひとつなく守るからね。

 

「…このあたりは船は来ないと思うけど」

「森のクマさんがこんにちはすると…」

「……無いとは言えないけど」

 

 いるんだやっぱり。鮭みたいに私も咥えられるかも知れないのか。

 

 ガサガサ。

 

 その時森の方角から木の葉が擦れるような音がした。ヒマちゃんは真剣な表情を浮かべて、

 

「急いで隠れて」

「!?」

 

 言われたように私は岸から離れ身体を沈めた。水面からヒマちゃんの視線の先に目を向けると、3人組の男性が現れた。

 

「話し声が聞こえたから来てみたら君ひとり?」

「……」

「あれ、お兄さんと話すの嫌な感じ? 酷いなー初対面なのに。悲しいよなあ、お前ら?」

 

 振り返って一歩後ろで立っていた男性2人に同意を求める。すると2人は「そうですよね〜」などとニタニタ笑いを浮かべながら答えた。薄ら寒いものを感じた私は思わず二の腕をさする。

 

「ねえねえ。お兄さん達暇だからさ〜。…ちょっとでいいから遊びに付き合ってよ」

 

 そう言って男はヒマちゃんの腕を掴む。ヒマちゃんが目をキツくつぶる。は? 何勝手に触ってるんですか? 思わず飛び出しそうになると、ヒマちゃんは首を小さく左右に振った。黙って見てろってこと? このあと何が起こるかなんて誰だって想像がつくのに。

 

 水面が揺らめく。だが私の心は台風が来た時みたいに大荒れだ。もしかしてヒマちゃんはここが安全な場所じゃないって気づいていたのかも。私が無理やり連れてきたせいで辛い思いをさせている。

 

 どうしたらいい? 私の正体がバレたところでそうそう捕まらない自信があるし、最悪中之条から離れることも出来る。ただ陸に上がれない私ではどうすることも。

 

 不意に朝のことを思い出す。無理やり起こされた時のイライラと解消するために行ったこと。私は顔と手を水面まで持ち上げると、右手と左手で握手するように組む。手のひらの間に水を汲み上げると、ヒマちゃんの腕を掴んでいる男の顔目掛けて放った。

 

「!? なんだ!?」

 

 男は思わず手を離すと、ヒマちゃんはその場に座り込み私に顔を向けた。目に涙を浮かべてすぐにでも慰めてあげたかったが今はそれどころではない。

 

「立って! 走って!」

 

 ハッとした表情を浮かべると立ち上がり、逃げようとするが、

 

「逃がしませーん」

 

 取り巻きをしていた男の1人が立ち塞がる。任せて! 私は2発目を準備するともう一度顔に狙いを定める。バシュッ。

 

「うえ、くそなんだ今の」

「おい海に女がいるぞ!」

 

 目を離しているうちにもう1人の取り巻きが岸付近に立っており、私を指差していた。リーダー格の男も私に視線を向けるが、男は困惑を隠せないようだ。

 

「この時期に裸で泳いでいるとかイカれてんのか?」

「……ふふっ」

「何笑ってやがる」

 

 今後死ぬまで水中で過ごすだろう人魚にそれ聞くの? 愚問にもほどがある。まあ、人魚なことに気づいて無いだろうけど。

 

「痛い目みたくないなら今すぐ離れて。じゃないと痛い目合わす」

 

 私が睨みつけつつ両手を向けると男達は声をあげて笑い出した。

 

「そんな手遊びの水鉄砲がどんだけ上手くてもなぁ?」

「…警告はしたからね」

 

 私は両手をきつく締めいつでも撃てるように構える。まずは少しずつヒマちゃんににじり寄っていた取り巻きの1人。伸ばした男の上腕に一発、たたらを踏んだ隙に顎めがけてもう一発。

 

「何しやがる!」

 

 男達は怒り出しその場にあった石を拾って私に投げつけてくる。私は前後左右、滑るように移動すると水しぶきが上がるだけでかすりもしない。

 お返しとばかりに右手の親指を取り巻きのもう1人に向けて力を込めると鳩尾を撃ち抜く。うめき声を上げながら倒れ込む。

 

「くそっ!」

 

 残った偉そうな男が逃げようと背を向けたので、再び両手を組んで後頭部目掛けて水鉄砲を放つとそのまま前のめりになって倒れ込んだ。

 

「よし!今のうちに逃げよう!」

「…え、うん、わかった」

 

 私に促されてヒマちゃんはやっと動き出したのだった。

 

 

「ヒマちゃん、あいつら巻いたみたいだよ」

「そ、そう…よかった……」

 

 私達は最初に来た場所に戻って来ていた。ヒマちゃんは手近な石に座り込み、はぁはぁと息を荒げていた。落ち着くまでしばし待つこと数分後。

 

「ありがとうメイちゃん」

「ううん、怖い思いさせてごめんね」

 

 視界が歪んで鼻の奥がツンと痛くなる。ヒマちゃんの方が辛い思いしてるのに、ううう。

 

「私は大丈夫だから」

「でもぉ…」

「よくあることだから、心配させちゃってごめんね」

「ヒマちゃんが謝ることなんてないんだよぉ」

 

 涙が止まらずにいると、彼女がこいこいと手を招く。私が岸の近くまでやって来ると、頭にそっと手を乗せた。

 

「えーっと…よしよーし」

「ひぐっ」

「よしよーし」

「ふえぇ」

「よしよーし」

「ふぐぅ」

「よしよーし」

「すごいよしよーししてくれるやん…」

「ふふっ元気になった?」

「うん…」

 

 落ち着いてきた私は指で涙を拭う。本当は私が慰めるつもりだったのに。ヒマちゃんの方がよっぽど平常心でいるんだが?

 

「そう言えばよくあることなのあれ?」

「うーん、町の中心では流石に無いんだけど外れとかだと珍しくないかな。学校でも行かないように言われてるかな」

「教えてくれたら行くのやめたのに…」

「でもメイちゃん困ってるって言ってたし。人にあんまり見つからないところってなると中心から外れるのは仕方無いよ」

「それはそうだけど…まぁでも今日のでどうなるか分からなくなったけどね〜」

「もし人魚のこと他の人に知られたらどうするの?」

「まだ決めてないや」

「そうなんだ…」

 

 中之条から離れるかも知れないとは何となく言いづらい。危ない目に合わせたしもしかしたら居なくなってせいせいするって思ってるかも知れないけど。あーまた泣きそう(泣)

 

「…明日もいるんだよね?」

「え…うん、そのつもりだけど」

「良かった。明日は休みだしお昼何か作って持って来てもいい?」

「それは嬉しいけど…」

「じゃあ頑張って美味しいもの作ってくるね」

「ありがと…」

「そう言えば、住処は結局どうなるの?」

「あー…」

 

 完全に忘れていた。元々そう言う話だったわ。

 

「いったんここにしようかな…」

「…そっか、じゃあ明日はここに来るね」

「え、来るの大変じゃない?」

「険しいところ上手く良ければ何とかなると思う」

「え、すご!」

 

 ヒマちゃん逞しい。女の子に対する褒め言葉じゃないので口には出さないけど。もしかするとこの世界だと女の子ってみんなこうじゃないといけないのかな。

 

 地球と地続きだとしても、改めて別世界にいることを実感させられる。家路につくヒマちゃんを見送りったあと、ぼんやりと夜空を見上げると名前のわからない星々が瞬いた。

 

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