元人間の現人魚、水没世界を放浪してみたw   作:ユルスラ

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短めの間話です


第5.5話ヒマリ視点

 蒔が燃え、パチパチとはじける様子をぼんやりと眺める。いつもなら暑いし汗でベタベタになる嫌な仕事だったが、今日はそれほど気にならなかった。なぜなら、彼女のことを思い出していたから。

 

「お願いしたらまた触らせてくれないかなぁ」

 

 しっとりと濡れた艶やかな髪。うっすらと青みがかった黒髪は、海の反射光で輝いていて、初めて出会ったとき思わずシャッターを切ってしまうほど。貴重なバッテリーを無駄遣いしてしまい、後で父に叱られた。

 

 父はカメラマンで中之条に来る前は写真館を営んでいた。休みの日は幼い私を連れ出して写真を撮りに行ったりしていたが、最後に行ったのは小学生になる前だ。

 現在は港で行われる公的な取引の記録を写真に残すことが今の父の仕事だ。私も中学卒業後はアシスタントとして働き、いずれ父の仕事を引き継ぐ予定になっている。

 

(メイちゃんの写真、一度でいいからちゃんと撮りたいな・・・)

 

 この前の写真を確認できたわけじゃないけど、あの時はとっさのことだったのでピントを合わせる余裕もなかった。欲を言えばポーズとかお願いしたい。

 

(なんてね。さてとそろそろ始めますか)

 

 おもむろにカゴに手を突っ込み取り出したのは干し芋だった。串に刺しかまどにくべる。そのまま食べてもいいけどせっかくなので焼いてさらにひと手間加える。

 

 家から内緒で持ち出した特製の魚醬を掛け、もう一度かまどで炙ると香ばしい香りがあたりに広がり、周囲の人がこちらに視線を向けるがあえて無視する。

 

 しばらくして焼けた干し芋を取りだそうとしたとき、足音が近づいてくる。振り返ると、炊事場の管理をしている女性が立っていた。

 

「なにをなさっているの?タムラさん」

「えっと・・・これは・・・」

 

 どうしよう、何も言い訳を考えてなかった。今思い出したけど管理人はルールに厳しい人だって母から聞かされていたのに。どう乗り切ろうか考えていると魚醬の焦げた香りが鼻をつく。

 急いで取り出し確認してみると表面が少し黒くなっている部分があった。そこ以外は無事だったので美味しく食べれると思う。

 ほっと息を吐くと視線が向けられていることに気づく。どう切り抜けよう。管理人が口を開いた。

 

「はぁ、まあいいわ。火の番はちゃんとしていたみたいだし、見逃してあげる。終わったら呼びに来て頂戴。ただしあなたの配膳は一番最後にするからね」

「わかりました・・・」

 

 それだけ言うとこの場を去っていった。きっちりペナルティを課してくるところは聞いていた通り。とは言え、配膳は年齢順で行われるから気にする程ではない。

 

「さてと」

 

 鍋を確認すると、あと10分もしないうちに煮えそうだった。よしっと気合を入れ直しかまどと向き合うことにした。

 

 朝食をすませると着替えるため一度家に戻った。家には母が裁縫をしていた。父の姿は見当たらず、すでに仕事に行ったようだ。

 

「おかえり、遅かったわね」

「ただいま」

「あなたわざわざ干し芋と魚醬をもっていってどうしたの?」

「なぜバレてる・・・」

「台所のもの持ち出して気づかないわけないでしょ?食べ盛りだし断わりさえしてくれれば小言も言わずに済むのだけど」

「はーい・・・あと昼前くらいからちょっと出かけるから」

「かまわないけど危ないところに行かれても助けられないからね」

「わかってるよ、自衛しなさいってことだよね」

「…本当にわかっているのかしら」

 

 母は小声で、けれどはっきり私に聞こえるように零した。わかってるよ。でもごめん、メイちゃんに助けてもらったけど、すでに危ない目にあってます。言ったらどれだけ叱られるかわからないしこのまま黙ってるつもりだけど、罪悪感が胸をちくりと刺す。

 

「まあいいわ、着替えたら手伝って頂戴」

「はーい」

 

 私はつり下げられたフリースとTシャツに視線を向ける。昨日着てないTシャツに手を伸ばしかけピタリと止まる。

 

 至るところに修繕のあとが残る黒いTシャツ。お父さんのお下がりで、着ると太もも辺りまで隠れるため夏場はこれ1枚で過ごすことも。そんな愛着のある1枚だが、これでメイちゃんの隣にいるのは申し訳ない気持ちになる。

 

「どうしたの?早く着替えたら?」

「うん、わかってる」

 

 ほかの服は洗濯中だしせめて汚さないようにだけしとこう。

 

「母さん、そう言えば布か何か余ってない?」

「布?無くはないけど何に使うつもり?」

「うーんと…」

 

 なんて答えよう。メイちゃんの水着代わり…なんだけど。

 

「…強いて言えば…服?」

「なにそれ…裁縫でも覚えたいの?まあいいわ」

 

 怪しむような視線を向けるが、立ち上がると収納をゴソゴソとあさり、飴色の布を取り出した。

 

「え、いいの?」

「欲しいって言ったのあなたでしょ?」

「ダメって言われると思ってたから…」

「まあ、その分お手伝い頑張って貰いますから」

「うぅ…」

「ささ、うだうだしてないで早く着替えて手伝って頂戴。さもないと取り上げるわよ」

「わかりました…」

 

 パンパンと両手を叩き母は会話を打ち切ると玄関に向かった。まずい、母の気が変わらないうちに急いで着替えないと。私は部屋につり下げられたTシャツを手に取り、慌てて着替え始めた。

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