「なんかヒマちゃんゆらゆらしてう〜?」
「メイちゃんが頭を揺らしてるんだよ!?」
「え〜そんなこと、人魚なんだから波に負けたりするわけないれふよぅ?」
「どうしたのメイちゃん…熱でてるのかな?」
「確かめてみう〜」
一応額に手を当てて確かめてみるが、ちべたい。たぶん平熱っぽい!
「あれ? さっきから呂律が怪しいような…もしかして酔っ払ってない?」
「酔ってまへんよ〜?お酒なんえ、うまれていちどもぉ、のんらことないれふよぅ?」
お酒も飲んでないのに酔っぱらうことないでしょー。ヒマちゃんおっかしいんだー。
「あはは〜」
ヒマちゃんと話してるだけなのに、なんだか凄く楽しいなぁ。身体もちょっと暑いし。
「どういうこと? 私以外にも誰かと会ってもらったりした?」
「え〜?ヒマちゃん以外とあったことないよぉ? あ、昨日戦ったあいつらくらい…?まあ何でもいいー。あははー」
「たぶん昨日のあの人達に会ってそれからまた会った訳じゃないんだよね? それか海で拾って飲んだとか…?」
「そんなことぉしませんよ〜未成年なので!」
「ならどうして…」
ヒマちゃんが真剣な表情を浮かべながらじっと見つめてくる。なんか照れちゃうなぁ。
「よくわかんらいけど、うーん、そーだ見てみてー」
「うん?」
ヒマちゃんが私に視線を向ける。せっかくだしいいところ見せちゃおっと!
「打ち上げ花火…花み…はちょっとあえだし、あとで名前かんがえぇばいっか!」
「どういうこと…?」
「こうゆことー」
右手で大きめの水の塊を作り真上に投擲。空かさず左手に少量の海水を込めて水鉄砲を塊目掛けて放った。すると水の塊は空中で花が咲くように弾けた。
「たーまやー!」
「……」
ヒマちゃんが目を見開いている。驚いてる驚いてる。やったあ。火薬使ってないから本物に比べると音とか色とかちょっと物足りないけど即席にしては上出来!
「これは!」
水しぶきに太陽光が反射して虹ができていた。しかも原理は不明だけど複数重なっていてなかなか映える。ヒマちゃんに視線を向けると、ぼんやりと水しぶきが落ちる様子を眺めていた。
「ヒマちゃん、どうだった?」
「きれいだったよ」
「よかった」
「ほかにはね〜」
その後小一時間ほど花火もどきをしてみたり、宙返りやら何やら動き回った。結果――
「うぅぅ、気持ち悪い…」
「大丈夫?」
私は岸に腰をかけヒマちゃんに介抱されていた。かろうじて乙女の意地ごと地面にぶち撒ける事態にならなかったことだけは救いだ。
「酔い少し覚めたみたいだし確認するけど、どこかでお酒飲んだ?」
「う〜ん…それが、本当に飲んだ覚え無いんだよね…夜中に魚を食べたくらいで」
「魚食べて似たような状態になったことは?」
「ないない」
「となると…」
ヒマちゃんは持ってきたカゴに目を向けた。
「さつまいもかな?」
「お酒の原料だけども…でも、えぇ?ヒマちゃんはなんともなかったよね!?」
「うん、焼くときにも入れてないし。魚醤にもまったく使われてないよ」
「となると人魚の体質ってこと?」
「そうなのかもね」
「もしかして…」
私にとってとても都合の悪い事実に気づいてしまったかも。もしかして芋に限らず米とかお酒の原料になっていたもの全般ダメな可能性ない?そんな…私はこれから何を楽しみに生きていったら良いんだよぉ…
「どうしたのメイちゃん!?」
私はいつの間にか頬を濡らしていた。せっかくここまでやってきたのにあんまりだよ…
「一生魚介しか食べれなくなったかもぉ」
「そうなの? 酔っぱらうだけなら大丈夫なんじゃない?」
「……言われてみたら確かに」
「食べたら病気になるとかじゃないならだけど、大丈夫なんだよね?」
「おそらく…」
「ならまた一緒に食べようね」
酔わせて私に何を……まさか!?
「私を美味しくいただきたいの…!?」
「食べないよ!?」
「人魚って美味しいのかな…」
「私に聞かれても…」
とまあ、なんだか閉まらないやり取りをして。いつの間にか日が暮れてきていた。
「さあ! いい子は帰る時間だよ!」
「ほんとだ、いつの間に」
「今日はありがとね〜水着もサツマイモも!」
「あのくらい全然」
「そろそろなにかお返ししたいんだけど…」
「気にしなくても…そうだ、さっき色々見せてもらったし」
「記憶にないんだよねぇ…」
酔っ払ってた時の私、何やってたんだ。
「でもそうだな……東京に行く時に手伝ってくれたら嬉しいかも」
「お安いごようだぜ!」
「ありがと」
名残惜しいけど引き留め続けるわけにも行かないし。あ、そうだ。
「明日も来る…?」
「学校あるしそのあとに寄るよ。今日みたいに長居は出来ないけど」
「わかった!待ってるね!」
「うん、またね」
彼女はゆっくりと岸から離れていき、また昨日のように一度手を振ってくれたので、両手で大きく振りかえした。
「それにしてもまだちょっとダルいかも…」
酔っ払うことなんて初めてなので勝手が全くわからないけど、普段より五感が鈍くなっているように感じる。岸に寄りかかると息を吐いた。
「まあ、ここなら簡単に見つからないししばらく休んでよっと」
油断をしていたその時だった。
「お主、もしや人魚か…?」
驚いて振り向くと、お爺さんが立ってこちらを見ていた。
tips
人魚は体質的に炭水化物全般を口にすると、消化に失敗し腸内でアルコールが生成される。自動醸造症候群という症例をモデルにしていますが実際の症例とは別物です。
それとあくまでアルコールを体内で生成するだけなのですぐに酔っ払ったのはメイが酒に弱いだけで、いくら食べても平気な人魚もいるとかいないとか。