ダンジョン溢れるこの世界   作:超高校級の切望

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探索者

 ダンジョン。

 広大な迷宮。無限のモンスター。階層に広がる不自然な自然。数多の宝物。

 

 一度足を踏み入れれば、そこは弱肉強食。強い者が生き残り弱い者は淘汰される。

 だが強ければ全てを手に入れられる。

 

 金、名誉、女、力、仲間………欲する全てはダンジョンにある。

 全てを手に入れるために最深部を目指し潜る者達を人々は潜索者(シーカー)と呼んだ。

 

 

 

 

 

 グチリと湿った音が響く。牙が肉を貫く音。流し込まれる酸が獲物の内部を溶かし、ズジュリと啜る。皮と骨が残った死体はポイと捨てられ群がる小虫が皮膚を食らう。

 

「ぐ、う…………」

 

 眼下に広がる()()()()()はこうして生まれたのだと理解させられる。

 

 もがけどもがけど糸は切れず、無機質な蜘蛛の瞳が逃れようと暴れる獲物に向けられる。

 

 自由に動く右手を掲げ、自傷覚悟で炎を灯す。

 程度の低い『発火』の式。炎を操るのではなく、発生させるだけ。自分の体ごと焼く炎は絡みついた糸を焼く。

 

 ただの蜘蛛の巣なら兎も角ダンジョンに住まうモンスターの糸。元より高い耐熱性を持つ蜘蛛の糸だが炎を集中させなんとか焼き切る。

 

「がぅ!」

 

 背中から落下。脆くなった骨がクッションになる。

 潜索者(シーカー)の強靭な肉体も相まり肺の中の空気を吐き出すだけに留まる。

 

 と、新しい餌かと骨の隙間から這い出す小虫の群。グシャリと数匹踏み潰せば蜘蛛の子を散らすように逃げる群。一部が残り噛み付いてくるが、生きているシーカーの皮膚を噛みちぎれるほど強い顎は持っていない。

 

「クソ、離れろ!」

 

 不快感に顔を歪めながら小虫を剥がす。ズン、と蜘蛛が落ちてきた。

 

 ギチギチと軋む外骨格。牙から垂れる液体がジュウウと音を立て骨の大地を溶かす。消化用ではなく抹殺用の毒だろう。

 

 巣を壊したことで獲物から敵として認識を変えたらしい。餌に向けられるはずもない敵意と殺意を感じる。

 

 ふたたび『発火』。ただ火を出すだけの式で出された火は、しかし蠢き男を覆う。その身を焼く炎で輝く男に蜘蛛はキシキシと牙を軋ませる。

 

「我が名はグレン、業火に至る種火! 帰路を阻む汎ゆるを焼き尽くさん!」

 

 

 

 

「おやじ、おそいなぁ…………」

 

 ポツリと呟く少年はグレンの息子、ルブロ。

 

 潜索者(シーカー)である家族の帰りを待つ誰か。この街では珍しくもない光景。

 

 そして、待ち人が帰ってこない。それもこの街の極ありふれた日常だ。

 

 

 

 

──────────

 

 

 第2554ダンジョン街。

 無限の資源を生むダンジョン。位階の低いダンジョンでは得られる名声も高が知れているが、富は無限だ。この世界はダンジョンと共に発展する。

 

 今日も今日とて欲望に(いざな)われた人が奈落へ続く穴へと向かう。

 今日も今日とて欲望に(いざな)われた人が街へやってくる。

 

 ダンジョン目的でやってくる人間は二通り。

 一発逆転を練う貧乏人か、金を使い事前に準備した小金持ち。

 

 ()()()()()()()()

 

「とは言え金に余裕ある奴等は金で教師を雇う。金や伝で技術と力と装備を買う。相手にもよるが、金も伝もなく日銭を稼ぐ合間に自主練する俺達とは比べ物にならねえ強さだ」

「じゃあどうするんだよアニキ」

 

 ルブロの言葉にライエルは疑問を口にする。

 

「ここはダンジョン街。弱肉強食………弱い奴から奪う」

「強い奴の発想だな」

「そう。そして! 金を奪うような屑をぶちのめして恩を売る!」

 

 ぐっと拳を握る男に弟分はおお! と叫んだ後におお? と首を傾げる。

 

「小金持ちから奪うんじゃ………」

「ばっか。そりゃお前、恩に価値は付けられないんだぞ? 恩を返せと小金持ちから搾り取る! そのうえで屑をぶちのめして社会貢献! これこそ俺達が選ぶ道だ!」

「わ〜、くっず〜い」

「黙れ小僧。ダンジョン街で手段なんて選んでいられるか。兎に角金は持ってるけど弱そうな奴を探すぞ」

 

 

 

 

 

「あのお姉さんは?」

「周りを警戒してないが浮かれている様子もない。十分な実力を得たと師に送り出されたと見るべきだな」

「あっちの小人(ハルフ)は?」

亜人(デミ・ヒューマン)の中じゃ非力な部類だが……………あれは護衛か暗殺者だな。常に視線の先に一人、距離が近づきすぎず開きすぎてない」

「あれなんの種族だ? 角生えてる」

混ざり者(ミクストゥレ)には手を出すな。ピンからキリだが、亜人(デミ・ヒューマン)よりも能力(ステータス)に恵まれてる奴等が殆どだ」

「あっちの男は?」

「目がヤバいな。探索者(シーカー)になっても人のいないところで出会したら逃げろ」

「あ、あの女沢山引き連れてるクソ野郎は!」

「異世界人だな。これからあの女共に金集めの道具にされると思えば同情したくなる」

「…………あの可愛い女の子は?」

「お知り合いになりたいか? 大して金も持ってなさそうだ…………真面目に探せよ」

「そもそもやる事が恩の押し売りな時点で真面目も何もないと思うのだけど」

「仕方ねえだろ。テスト無視して登録するにはまず金がいる。実力証明したくても、俺の時だけ難易度が上がるんだよ」

 

 知り合いだからって嫌な方向に贔屓しているのだ。危険なダンジョンに潜らないよう。実力を示せない以上ルールだからと宣うなら、此方もルールに従うまでだ。

 

「俺達の飯のランク下げれば時間かかるけど貯まるんじゃ………」

「バカ言え。俺の飯は体作りに欠かせない肉と野菜をだな………」

「いや、兄貴のそのままに俺達の、だよ」

「知ってるか? 船乗り達は食事に差をつける船長を海に捨てるんだと」

「兄貴が稼げるようになった方が良いのに俺達はそんな事しするわけないだろ。てか、兄貴が一番強いじゃん」

「数の力を覆せるほど圧倒的な個にはなってねえよ」

 

 こうやって理屈をこねて、この人は自分達の面倒を見るのだ。そういうところが大好きなのだけど、と物語の中ではない、眼の前にいる自分達にとっての英雄を見つめる。

 

探索者(シーカー)になりゃこれまでよりも稼げる。うまい飯食わせてやるよ」

「アニキの料理は十分うまいぜ」

「褒めてもお変わりは一人一回だ…………と」

 

 ガァ、と空の上でカラスが鳴いて旋回する。

 

「そろそろバイトの時間だ」

「じゃあ俺はここに残って………」

「家に戻れ。俺がいないとお登り相手にも勝てねえだろ」

 

 ルブロの言葉にライエルはムッと顔を歪めつつも、危ないことは目につく範囲でという約束なので大人しく従う事にした。

 

 

 

 

 ダンジョン街は何処もかしこも基本的に3つの区に分かれる。

 

 地下迷宮への入り口(ダンジョンゲート)を中心として探索者(シーカー)の宿、元探索者(シーカー)経営酒場が点在する迷宮区。モンスタースタンピードの際の防衛ラインでもある。

 

 新入りの探索者(シーカー)が泊まる宿や一般の住民が過ごす居住区。高級宿もここにあるので、有力な探索者(シーカー)がどちらかと言うとこちらだ。

 

 ダンジョン産の物資を街の外に売る商業区。賑わいは迷宮区にも劣らない。

 

 そして区画整理のたびに廃墟が生まれ、取り壊されずに残った場所が3つの区画に点在する貧民街。

 

 そこに孤児が集まる。或いは後ろ暗い連中。そういう奴等は孤児共を命として見ない。孤児達は故に、その手の連中が来ないことを祈るしかない……………なんてことはなく。鉢合わせぬ為に情報を集めるのだ。

 

「そろそろ場所を変える時期か。馬鹿どもが派手に動くから国に目をつけられるんだ……」

 

 スラムに潜む犯罪組織がダンジョンの採取物を使った薬物を売り捌いた。一部の商人、探索者(シーカー)も協力し、領主が動こうとしたのを察知して息子を人質に取ろうとして襲撃者は全滅。生き残りを拷問し全部バレた。

 

 ダンジョン街の領主を襲うとか馬鹿なのだろうか。

 とはいえ馬鹿が馬鹿をやるのは馬鹿にできない力を得た時と相場は決まっている。つまり力だ。今回は数の力。

 

「それに権力。商人の一部に都市外の有力貴族と繋がりがあったみたいよ」

「懲りねえなあ悪徳貴族共…………」

 

 憎まれっ子世に憚る。正しい事より間違っている方が金を稼ぎやすく、金に憑かれた者達はいつだって現れる。

 

 でも見逃す道理はないので当然法の使途たる国軍が動く。ダンジョン街の領主の私兵は数より質をそろえるのが一般的なので、取り逃しがないように数を揃える。

 

 それでもまあ、隠れる奴は隠れ潜むしそんな能力が無い奴も隠れようとしてこちらに流れてくる可能性が高い。

 

「貴重な情報どうも。やっぱ早いとこ貧民街からでねぇとなあ………」

「家ぐらい買ってあげるのに」

「どうしようもなくなったらな。俺には返せるものがないから」

「うちの店で働く?」

「無理………」

 

 その提案に顔を青くし拒否するルブロ。

 ここは()()()。男女の情を売り買いし雌雄の快楽を時に同性で貪る場。無論、ルブロとて最悪身を売ることを考えたことはある。しかし手解きで吐いた。

 

「あれは衝撃だったわぁ」

「悪い、アエシェ………」

 

 母の友人であり拾ってくれた恩人であり、第二の育て親。そんな彼女に失礼な態度を取ったことを思い出し申し訳なさそうな顔をする。

 

「じゃあ、今日も腕によりをかけてくれると嬉しいわ」

「ああ、わかった」

 

 因みにルブロのバイトはアエシェの経営する娼館の皆に食事を振る舞うことだ。

 初めはただの恩返しでまだ一介の娼婦だった彼女の部屋で飯を作り、何時の間にやら店を持つことになった彼女の部下達にも振る舞うことに。

 

「あ、ルブロ君! もう来てたんだ〜」

「今日のごはんなぁに〜?」

 

 夜も近付き起きてくる娼婦達。かわいいかわいい弟分、或いは頼れる兄貴分であるルブロの姿を見てキャイキャイと姦しく騒ぐ。

 

「豆乳味噌スープと鶏の香草焼き、麦粥」

 

 さあ、調理を始めよう。

 

 

 

 

 風呂に入っていたら普段の疲れが出たのか眠くなり、結局仮眠して遅くなってしまつた。

 

 そこそこよくあることなので心配はされていないだろうが急ぎ足で帰る。

 

 屋根の上を駆け、フックの付いたロープを引っ掛け大通の上を進み壁を駆け上がる。

 この街はルブロの庭だ。本気で駆け抜ける彼に追いつける者は少ない。と………

 

「……………あん?」

 

 飛んでくるナイフ。光を反射しない特殊塗料で黒く塗られた刃を鋼縄で弾く。

 

「…………なんだお前等?」

「なんだ………ただのガキだったか」

「運が悪い。勘違いで殺されるとは」

「………………暗殺者か」

 

 どうやら屋根の上を駆けるルブロを同業者と勘違いして攻撃したようだ。そして、勘違いに気付こうと存在を知られた暗殺者が相手を放置する理由などない。

 

「抵抗しなければ痛みなく殺してやろう」

「……………お前等、昼間の」

「なに?」

 

 昼間、ライエルが候補として見つけた小人(ハルフ)。暗殺者側だったか。

 ライエルめ、本当に見る目がない。ルブロより弱い相手を探さなきゃ意味ないのに…………。

 

(此奴等、俺より強いな………)

 

 まあ、それは身体能力や技術の話。足音、衣擦れの音がしない小人(ハルフ)達相手にフックと短剣を構える。

 

 殺し合いに強いかは、殺し合ってから解ること。

 

「故に死ねよ暗殺者。俺の平穏の為に」

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