第一話 新たな世界、船の上
「お会い出来て光栄です。ブルーアイ
クワ・トイネ公国海軍第2艦隊作戦参謀所属のブルーアイは、とある船に観戦武官として乗船していた。
中央暦1639年4月25日。
ロデニウス大陸西部の国家、ロウリア王国が我が国へ侵攻を開始してからはや2週間。
ロデニウス沖に移動を始めたロウリア王国の艦隊は、戦争の趨勢を完全に決めようとしていた。
数十隻なら自国の海軍でも対処出来ただろう。此方も相討ちとなろうが、暫くの間は陸での戦いに注力出来る。
だがその計画は血相を変えて報告して来た密偵によって、完全に夢物語となる。
───敵の方、約4,400隻。
我が方の何百倍にもなろう数だった。
「2倍や3倍は指揮次第で何とかなる!」
そう言っていた上司が報告を受け、真っ青になっていたのを思い出す。
「
「ごめんよ
「いえ……お気になさらず…………」
そんな敗北必至の戦いにも、此方に味方をしてくれた国家がいた。
ロウリア王国との戦争が始まる数ヶ月前、東の海から現れた「日本国」を名乗る国家だ。
異世界からこの世界へと国土ごと転移したという御伽噺のような主張をする不思議であり、不気味な国。
哨戒活動中のワイバーンが金属でできた帆のない巨大船を発見した際に初の接触が行われ、その後国交を樹立した時に出会ったのが……。
「お久しぶりです上森さん。国交締結式典以来ですね」
当時外交官として港湾都市マイハートに上陸したのが、この上森と名乗る女性だった。
薄緑の長髪に蒼い目の美しい
そう、少女であった。
成人もしてないようなこの少女が"外交官"と名乗ったのである。
「ええお久しぶりです、ブルーアイさん。あの時は……確かパンカーレ提督でしたっけ? その横に居られましたよね?」
「はい、そのブルーアイです。上森殿は外交官だったのでは? 今のやり取りを見ますと、犬橋殿の部下のように見えるのですが……。貴方は軍人だったのですか?」
「ええそうですよ。普段は自衛隊員やらせてもらってますが……手が空いていたのが私だけだったので…………」
「くじ引きで決まったんだよね〜〜。上森クン、運が悪いから〜」
「煩いですね。そもそも私達が国外に派遣されているのだって、
ピンクの髪の背の低い
ブルーアイは、目の前の軍人同士のやり取りとは思えないほど気の抜けた───じゃれ合いと呼べるものを見ながら考える。
───彼女らは本当に援軍なのだろうか、と。
今ブルーアイがいるのは、初接触の時に使われた艦───にほんばれ型輸送艦2番艦『あまつそら』と呼ばれる鉄の巨船である。
所々錆が目立つ船、その上を歩く
そしてその全員が統一された
それだけならまだいい。
女性の軍人というは珍しいが、別におかしなことではない。
一部を女性にするのでは
だが……。
「あの……一つ聞きたいことがあるのですが」
「なんでしょうか?」
「今、この海域には何千隻というロウリア王国海軍が接近しています。私も観戦武官として此処にいます。この厳しい戦況の中で援軍として来て下さった貴方方の力を疑うつもりはありません。ですが───一隻でどう戦うつもりなのですか?」
援軍としてやって来たのは『あまつそら』だけだった。
初接触の時も『あまつそら』、援軍に来たのも『あまつそら』。
本土への使節団の派遣を拒絶している日本。
此方から船を出そうにも、流れの速い海流の影響で遭難のリスクが高い。
そのため、日本についての情報源は彼らの船からしかないのだが……。
隣国のクイラ王国で、日本によって建設された港から盛んに鉱石や
そして『あまつそら』の同型艦が対価として置いていく、精錬された極めて純度の高い金属。
これらが全ての情報源である。
どんな文化があるとか、どんな都市があるとか、どんな技術があるとか。
人口種族民族、果てには政治体制すら不明なのだ。
故に、「自衛隊」を名乗る日本の軍隊が援軍として寄越したこの船に一体どれだけの力があるのか。
それがブルーアイには全く分からなかった。
そんなブルーアイの疑問を聞いた上森が、此方を向いて首を傾げながら応える。
「戦う? 我々が?」
貴方は何を言っているのだ、そう言わんばかりの態度にブルーアイは固まってしてしまう。
そんなブルーアイの様子を見て犬橋が、ああ成る程、と理解する。
互いの認識に齟齬があったようだ、と。
「上森クン。どうやら彼は我々が『あまつそら』で戦うと考えたらしい。ただの輸送艦に
「ああ、そういうことでしたか」
上森の納得した様子を見ながら、ブルーアイは犬橋の言葉が原因で更に混乱に陥る。
自分は援軍と聞いて危険を冒してまで観戦武官の任に就いたのだ。
だと言うのに、派遣された相手が戦わないというのは一体どういうことなのか。
「た、戦わないですと!? この鉄の船は日本の軍のものでしょう?! それなのに戦わないと言うのですか!? そもそも戦わないとしてもです。何故このような危険な海域に……」
「ブルーアイさん」
上森は髪を耳に掛け、左手の指を一本ずつ立てながら話す。
「幾つかの訂正と質問への回答を行います」
人差し指をピンッと立てる。
「まず第一に、我々は戦力の派遣を行えません。というか行えません。我々自衛隊は
「ただでさえ数が足りてないからね〜〜。海も陸も空も限られた資源の取り合いをしてるのに、軍艦の派遣なんて一隻も出来ないよ〜」
犬橋が補足を入れる。
続いて上森は中指を立てる。
「第二に、ロウリア王国によるクイラ王国、クワ・トイネ公国両国への侵略戦争『ロウリア事変』に対して干渉の判断を行っているのは政府ではなく自衛隊です」
「それは、どういう……」
「そのままの意味だよ〜。中央の連中はこの戦争に興味がないみたい。というか外の世界に興味が無いのかもね〜。異世界に転移したって話をした時、
「前々からそんな傾向は有りましたけど、まさかそこまで投げやりな態度を取られるとは思いませんでしたよね」
「そうそう。自衛隊の中でもブルーアイさん達との外交の樹立は意見が割れたんだけどね〜。やっぱりワイバーン? とか、あとから知ったんだけど魔法とか。そういう未知なもの惹かれたっていうのかな? 隊員の中にファンタジーが好きな連中が思いの外多くてね〜〜。結局、多数決で────」
その後も犬橋は語るが、その内容の殆どをブルーアイは理解することが出来なかった。
最初、彼女らはその見た目通り優しくて、か弱くて、お気楽な存在だと思い込んでいた。
だが少なくとも分かったことがある。
───彼女らは我々とは全く別の次元の存在である。
故に考え方も価値観も全く異なる。
我々にとっては敗北すれば亜人が虐殺されるような戦争も、彼女らにとっては多数決で介入を決める程度のお遊びでしかないのだ。
まるでこの世界が滅びようとも、自分達だけは問題なく生きられるというような絶対的な自信。
どれだけ我々が必死でも、それに同情も配慮もすることなく、自分達が望むがままに動く勝手さ。
こんなのまるで───
「貴方達は、一体…………」
「第三に」
上森が薬指を立てる。
「攻撃は既に行われています」
「え?」
「ほら! あそこに見えるよ〜!」
犬橋が真っ直ぐ空を指差す。
そこには何の変哲もない青空が…………いや。
「隕石?」
小さな、赤い点があった。
その点はやがて地上への降りていく。
何処に落ちるのだ。
そうブルーアイが地平線の先を見ると、遠くに幾つもの黒い粒が見える。
「あちらにあるのがロウリア王国海軍ですね」
「いや〜すごい数! 気持ち悪いし、良く全体の指揮が出来るよね〜」
犬橋の感心した声を聞きながら、ブルーアイは赤い点がロウリア王国海軍に向かって落ちている事に気付く。
そして赤い点が彼らの頭上にまで落ちた時。
「だんちゃ〜〜く」
「今、ですね」
2人の掛け声とともに赤い点は巨大な火の玉に変じ、ロウリア王国海軍を呑み込んだ。
数秒後には巨大なキノコ雲が立ち上り、広範囲に衝撃波をまき散らす。
ロウリア王国海軍など一隻も残っていないであろう。
「あれは……」
ブルーアイが絶句していると、上森が言う。
「あれは我々自衛隊が保有する超長距離攻撃兵器……じゃなくて、電磁カタパルトで宇宙空間に物体を打ち出すための設備───俗に言うマスドライバーで
「宇宙空間まで核兵器を打ち上げて、それを重力に従って落ちるようにすれば理論上は星の裏まで攻撃できるってわけ〜〜。
「とはいえ人工衛星の無い我々では落下地点までの正確な設定が出来ません。今回ここまで『あまつそら』を派遣した理由は、大気圏への再突入をする核弾頭をビーム誘導するためです」
思惑通りに事が進んだのか、2人は満足げに笑う。
やがて『あまつそら』にまで届いた衝撃波に髪を揺らしながらブルーアイは思った。
───こんなのまるで、古の魔法帝国のようではないか。
少し様子のおかしい日本国&日本人。
どうやら自衛隊が外交や貿易までも取り仕切ってるらしい。
核弾頭は拾った。領海内に侵入してきた原潜を撃沈したら中にあった。
ちなみに自衛隊員達は純日本人だし、性別もバラバラ。
犬橋は男で上森は女である。