結構長め。難産でした。(単純に長文書くのむずい)
『日本政府』と『自衛隊』の違い。
そしてタイトルにある『電子世界日本国』。
人は大きく変革する時“何か”を捨てる。
その一つの終着点をご覧あれ。
全周をガラス窓で囲まれた、屋内展望台のような部屋。中央には十数人が座れる程の大きさの円卓と椅子が置かれている。
そんな会議室に突如として大きな声が響く。
「おひっさーーっ!!」
軽快な声を出して椅子の一つに
声の主の出現に合わせるようにして次々と別々の声が響く。
「久しぶり」
「ひさしいなぁ」
「…………だる」
「こんにちは、だぞ☆」
「ん、基底標準時で4カ月ぶり」
「うぃーっす」
「……くけ、くひひ、ふへ……」
「
「久しぶりってかんじー」
「お久し振りです、皆さん」
最初の1人と同じように、それぞれの声が聞こえると同時に椅子に“彼ら”が出現する。計11人の会話によって、室内はガヤガヤと急に賑やかになる。
そんな“彼ら”は、人間───に分類出来るか怪しいレベルで実に、実に多様な外見をしていた。
───身の回りにシャボン玉のようにフワリと舞い、急にパチンと弾ける極彩色の音符を幾つも浮遊させる画家風の少女。
───赤いミリタリーベレー帽を被った軍人風の幼子。
───いかにもなローブととんがり帽子を身に着け、木製の人の背丈ほどある杖を持つ、何処かの魔法学校の校長風の魔法使い。
───黒いバイザーで目元を隠し、同じく黒い戦闘服を身に纏い、腰に黒い剣を提げる黒髪の剣士風の女性。
───ボロボロの外套で顔が見えないカルト教徒風の男性。
───シルクハットにコート、ステッキ、懐中時計、モノクルといった、ヴィクトリア朝時代の男性ファッションをした金髪の糸目の淑女。
そこまでなら、まだ問題ない。
格好からして怪しさ満点な上に、どうやっても一堂に介さなそうな面々もいるし、1人は浮遊する音符を周囲に展開するなど、非現実的なことも起こっているが。
それでも……それでも彼ら彼女らは、残りの面子と比べればまだ常識的な存在だろう。
───背中には純白の双翼を生やし、頭には金色に光る
───先ほどのカルト教徒が儀式で召喚したのでは? と疑ってしまうような、ウネウネと動く紫色の触手を何本も生やした、見るだけで正気度を下げてくるクトゥルフ風の神話生物。
───所々に蛍光色のラインが入ったメタリックな塗装が施され、何本かのチューブが表面を這い、一部では内部機構が剥き出しになっている人型のオートマタ。
───白い生地に赤い糸が編み込まれた巫女服を纏う、キツネのようにピンッと尖った2つのケモミミと、同じくきつね色の尻尾を生やした獣人風の巫女。
そして───。
コンコン、と木槌を叩く音が会議室内に響き、その場にいる全員の視線を集める。
「
───其処にいるは漆黒。幾つもの黒い、視覚的なノイズで構成され、そこに人のような“何か”が座っていることを出席者たちは辛うじて理解できる。
この場にいる面々の中でも更に特異な外見の存在は、しかし彼らが気にすることはない。自身の外見についてどうこう言われるのが嫌なのは自分も同じだし、そもそも
───各々好きな姿で生きましょう。
相互無関心ではなく、相互理解による不干渉の空気が、そこにはあった。
「“総理”、もう始めるの?」
画家風の少女が“いつも通り”尋ねる。
円卓に用意されている席は、合計15席ある。この部屋に居るのは11人なので、残り4人分の席が空いているのだ。
「
クトゥルフ風の神話生物がブルリ、と触手を震わせる。
「……くふふぇ……きひゃっ…………ふひ……」
「ん、『いつも思うが、なんで彼らを咎めないんだ。数ヶ月にたった一回あるかないかの会議だぞ。定例会議も半年に一回、しかも1時間もかからずに終わるというのに』…………であってる?」
「ふひっ!」
「あってるっぽい」
クトゥルフ風の神話生物の口(?)から発せられた言葉を横に座る中性的な天使が“いつも通り”翻訳する。
「呼吸音となんとも形容しがたい声を何故この天使は意味のある言葉して理解できるのか?」と周りの人間は謎に思ったが、そのことを聞く者はいない。“いつも通り”疑問を抱くが、どうせ会議を終えれば直ぐに忘れるので彼らにとっては割とどうでもいいことなのだ。
ここで質問していれば言葉のキャッチボールが発生し、その後新たな発見や新たな話題に繋がるのかも知れないが、この会議に出席している面々に限ってはそれは起こらない。
彼らは、その個性的な見た目からも分かるように、自分から積極的に周りに合わせようとか、集まって行動しようとか、そういう集団意識が欠如している。
まあ早い話、彼らは幼稚で自我が強くて、自分と限られた存在と共に小さな世界で生きるのが好きなのだ。教室のすみっコ族とも言う。
もちろん仕事として何かを任せられたのなら必要な場合は集団での行動も行うが……。だがそうではない場合、一人二人ならともかく、それ以上の人数で関わり合って余計な交流関係を作ろうとは思わなかった。
ちなみにこの神話生物は、彼らの中でも特に関わりにくい存在だ。その冒涜的な見た目は
噂によると、横の天使とはよく遊んでいるらしいが……。
「
「色々って……」
「
分からないことは無い……無いが。それはそうとして、極稀に短時間だけ集まるように義務付けられている行事をサボるのは如何なものか。
自分たちだってやっていることを切り上げているのに、“いつも通り”連絡一つで欠席するとは……。
学校にいつも来ないのに何一つ教師から注意されない生徒。そんな生徒を見て「僕らはいつも来てるのに……ずるいずるい!」と思う他の生徒の気持ちと、今の彼らの気持ちは同じものである。
悪意や疑念ではなく、嫉妬とはまた違う、もっと単純で幼稚な何かがそこにあった。
とはいえ見た目は振る舞いに影響を与えるのだろうか。
校長風の魔法使いはフォッフォッフォッと笑い、達観を含んだ落ち着いた声で総理に同意する。
「気にする必要もあるまいよ。そも、儂らがここで何を話そうと特段何かが変わるわけでもあるまい?」
「そう、そこだ」
「む?」
人型のオートマタはウィーンというモーター音とともに人差し指を立てる。
その声は古いラジオデッキのような荒い音質だ。
「なんでオレたちがここに呼ばれた? 定例会議は数ヶ月前に終えたばかりだろう? 次の会議まではあと120日はあるはずだ」
「確かに! 私も呼ばれたから来た時、私以外誰も会議室に居なかったし」
一番最初に出現した人物───画家風の少女はその時のことを思い出す。会議の招集メッセージを受け取った時、もうこんな時期かと慌てて会議室に
そのために共通の時間軸『基底標準時』というものが定められているのだが、普段時間の経過をあまり意識しない彼女は自分が遅刻したのではないかと考えたのだが…………。
他のメンバーも同時に出現したことや、同僚の先ほどの発言、周りが総理の次の発言に注目しているのを見て、彼女は自身の考えを改める。
これは他のメンバーも予期していなかった急な招集だったのでは、と。
そうなると自然と周りと同じ場所に目が行く。メッセージの送り主である総理へと。
「
総理は視覚的なノイズをジジッと走らせ、目の前に半透明なディスプレイを投影すると、腕とみられる部位で触れる。
「
その言葉と同時に円卓の中央に巨大なディスプレイが展開される。ディスプレイには《SOUND ONRY》と表示されている。
『───ロデニウス大陸で発生中の大規模な武力衝突に関しましては、“国境紛争”の域を超え“戦争”状態に移行したと結論付けます。
今回の積極的防衛支援により、ロウリア王国側の海上戦力は漸減、乃至無力化することが出来ました。
しかし、陸上戦力数十万人を動員したロウリア王国に対して、クイラ王国、クワ・トイネ公国の連合軍は十万人に満たない規模であり、戦力不利のまま推移すれば、いずれロデニウス大陸はロウリア王国の手に落ちるでしょう。
連合軍、特にクイラ王国からの長期にわたる膨大な天然資源の獲得を前提とした戦力拡充、及び復興計画が進められている以上、同地の管理権が国交の無いロウリア王国へと移ることは避けるべきであると考えます。
つきましては、医薬品や衣料品、構造が単純ながらロデニウス大陸の技術力では解析できないロケット砲などの提供、場合によっては自衛隊の派兵を開始するべきで───』
音声はそこで途切れる。
あとに残るのは重苦しい空気だ。
誰も彼もが口を紡ぎ、顔を机へと向けるなか、1人が恐る恐るといった様子で発言する。
「これは……一体……誰が……」
誰が。
誰がこのようなことを話しているのか。
誰がこの音声記録を手に入れたのか。
誰がこの件を知っているのか。
色々気になることはあるが、それに対する対応は一つだ。
「これ、あれか? 前の定例会議で言ってた…………日本列島が異世界に転移したって話の続きか。そうなんだろ?」
「
「するてっと、なんだい。
「───なんと!」
「それが事実なら今直ぐ止めなくては」
それ、すなわち否定と拒絶。
この音声データの内容を彼らは間違っていることだと捉えたのだ。
会議室が再び賑わい───怒号が飛び交う。
「なんで今まで気付かなかった!?
「
「態々海の向こうから災厄を招き入れなくても…………いやそもそもどうやって交流したのじゃ!? 遠距離輸送技術なぞ途絶えて久しいだろう。日本列島から出られないのに何故資源の輸入が出来ているのじゃ?」
「くひひ、クヒャアッ!」
「ん、『確かに資源を運搬できるほどの大型船舶を運用してるのはおかしい。自衛隊にそこまで高度な造船技術なんて無い筈。何処で船を手に入れたのか探るべき』……だって」
「確かに対処を任せると判断したのは我々ですが…………これは些かやり過ぎです。東日本に巣食う武装勢力とやり合うならともかく、遠く離れた海の向こうに出張るなど……」
「我々は余りにもこの問題に無関心だった。致命的な問題───他国による日本列島への上陸などが起こる前で良かった。そう思おう」
「まったく☆ 私達が見てないからといって好き勝手にしすぎ、だぞ☆ 自衛隊も外の世界なんて機械と人工知能に任せて、
発言の挙手も無く、皆が好き勝手に意見を言う様は、まさに小学校の学級会のようである。
誰が何を言っているのか判別出来ないほどに煩くなった会議室にて、総理は数度の発言を行ったのち、静かに彼らを見守る。
「
総理の一際大きく、よく通る声が響くと、1人、また1人と姿勢を正して椅子に座り直す。
混乱が収束した室内で総理は続ける。
「
「「「「「了解」」」」」「くひ!」
「
次々と会議室から人が消えていく。まるで最初から居なかったかのように、一切の痕跡を残さず。
だがこの世界───『
誰が、いつ、何を、どのように、何処で───そして何故そのように考えたのか。それらが残るのだ。ログとして。
再び静けさを取り戻した室内で総理はガラス窓の傍で外を見る。
「█████████」
先ほどと違い、総理の声を言葉として認識することは出来ない。自己の中で認識し、理解し、完結する情報を何故他者に分かる
その必要が無いが故に、それはただの雑音として処理され、データ容量の節約のためにログにも残らない。
「█████████」
窓の外には都市が広がっている。それも荒廃した都市ではなく、人々が道を行き交い、未来的な外観の高層建築物は常に昇る太陽の光に煌めき、遠く向こうでは牧歌的な草原が広がっている。
───『基底世界』『シャングリラ』『桃源郷』『新東京』『ニュー・フロンティア』『ニッポニア』『黄金郷』『楽園都市』
国内最多の
精神のデジタル化とコンピュータへのアップロードにより不老不死が実現して幾星霜。
あらゆる物質的・物理的障害が無くなり、コンソールを弄るだけで自身の望むままに世界を操れる超越者となった
───
───
人は適応する生き物だ。それが最も得意であるが故に最も発展し、やがて生態系の頂点に上り詰めた。
月日は人を変質させる。
人は適応する生き物だ。
「█████████」
その証拠が先ほどの会議だ。
彼らは自衛隊の行動に怒ったのではない。批判したのではない。
彼らにとっては現実世界などどうでもいいことなのだ。
だから自衛隊が他国の軍を攻撃したことに関して、彼らは何も言及しなかった。その攻撃によって何万何千人もの死者が出たことについても言及しなかった。
彼らが言及したのはただ一つ。
「
ただ他の───国家が人物が集団が。
我々の存在を暴き、分析し、破壊し、我が物としようとするのではないか。
その可能性が少しでもあるなら───自衛隊にその気がないにしろ───徹底的に排除するべきである。
「█████████」
日本政府───『内閣』と呼ばれる15人のメンバーから構成される“唯一”かつ“永久”の統治者たちは今日も“日本”を統治する。
そして忘れることなかれ、定義は変われど自衛隊もまた“日本国民”であり、内閣の統治を受けるべき対象なのだ。
█████から██年。
異世界への転移から約4カ月。
日本政府はようやく重い腰を上げた。
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●日本のココがすごい! ・経済編
転移時の日本の
次回『産業編』、お楽しみに。(書けたら書く)