ヲ級side
F島北方岸壁
前回の出撃から数日経った
満月が海を照らし、ワタシは波打ち際を北方に向かって歩んでいく
そこはほかの深海棲艦もいないワタシだけの秘密基地がある
ワタシのような例外を除いて基本的に深海棲艦は出撃しているか、待機室にて黙っていることが多い。ワタシにとって待機室は居心地の悪い場所だった。だから数日かけて島全体を調査し、そしてようやく見つけたのが、このF島北方の岸壁にある洞穴だ。
大体縦横5mくらいの大きさの入口で、奥行はかなりある。人が寝るには十分なスペースだ。穴をランク付けするのであれば、軽巡級としよう。
たどり着くまでに地磯を超え、そして崖に張り付くように進まないとここには来ることができない。並大抵の深海棲艦ならば誰も来ることはできないだろう。体の小さい姫級ならば話は別かもしれないが、このF島にはそのような深海棲艦は居ない
ここでは休憩やら釣りやらなんでもできる。しかも絶景。
だけど今日はいつもと少し違った。
あるはずのない場所に釣竿がある。それと
奇妙に思いながら、ワタシは穴の中へと顔を覗き込んだ。
(イリグチニハ…ダレモイナイ…)
ゆっくりと洞穴の中へと歩みをすすめ、注意深く観察を続けた
この洞穴はまだ完全に攻略できた訳ではない。深くはないが奥に続く道もある。そちらは暗いため未探索域だ。暗闇はあまり好きではないし。
音を聞けば生物はいなさそうだし
でも今回は決心する。この先を探索しなければならない
ー耳をすまして洞窟内の音を聞く。ポタリ…ポタリと落ちていく雫の音。そして入口からの波の音…とその時、何者かの息遣いがワタシの耳に届いてきた
ワタシは迷わず、洞穴の奥に艦載機を飛ばした
そこまで狭い穴ではない。ワタシが普通に立って通れるほどの穴だ。艦載機は悠々とライトをつけながら洞穴を飛行していく。すると、妙なものを見つけた。黒い服に大きなシッポ…それを抱いて寝ている白い髪の女の子…深海棲艦?が艦載機から見えたのだった
艦載機を壁際に着地させ、深海棲艦と思わしきモノを照らしておきながら、ワタシは恐る恐る発見地点へと歩いていく
50mほど奥に進んでいくと、ようやく艦載機が照らす明かりが見えてきた。
そろりそろりと足を這うように動かしながら近づく。目標まで大体2m。背を伸ばして女の子を観察する。艦載機で見た通りの姿…しかしよく観察すれば服を着ている。服を着ているのは姫鬼級とワタシたちイロハ級では戦艦系と重巡ネ級や空母のワタシ。姫鬼級は各拠点で一人の指揮官であるため、この子は姫鬼級ではない。となるとイロハ級で服を着ているシッポのある深海棲艦は、重巡ネ級と―――――
―その時、女の子がゆっくりと目を覚ました。
そして女の子の寝ぼけた顔がワタシの目の前にそろってワタシたちは目と目が合った。
―ー――それはとても短い時間だったのかもしれない。
だけど、ワタシたちにとってその刹那的な時間は永遠に感じられた。
「レレレ!?!?!?!」
我に返ったのか、女の子は驚いた顔を浮かべながら後ろに後退する。
ドンっと背中が壁に当たり、女の子怖くなったのか自分のシッポをぎゅっと抱きしめて震え始めた。それはまるで子犬のようで…コイヌってなんだ?
とにかく、ワタシは彼女を怖がらせないように対話を試みてみた
「ダイジョウブ。ワタシハ…テキジャナイヨ…」
「レ…レレ…?」
「ウン。ワタシハナカマ」
その時、女の子のお腹がぐぅーと大きな音を立てた
恥ずかしそうにする女の子に、ワタシは後で食べようと思っていた魚の干物を差し出すと、女の子はごくりと喉を鳴らし、ゆっくりジリジリと近づいてきて差し出した魚の前で止まり、くんくんと匂いを嗅いだ。鼻に薫る香ばしいスパイスの香りが女の子の口を開かせる。ヨダレが止まらなくなり、思いっきりガブッと女の子は干物を口にした
―瞬間、女の子は目をまん丸にし、次々に口に入れていく。めいいっぱい口に頬張り、何回かモグモグしたあと、満足そうな顔を浮かべて飲み込んだ。そしてキラキラと輝かせ、ワタシのことを見つめてくる…ワタシはその甘えに負けてしまった
「レ!レ〜♪」
(…ワタシノヒモノガ…)
「♪〜〜〜♪〜〜」
(…マ、コノコガカワイイカラユルスカ)
緩んだ顔を見ていると、なんだか心が安らぐ感じがする。今まで感じたことの無い感覚だ
緊張が完全に溶けたようで、ワタシは女の子に色々と話を聞けた
深海棲艦の資料を思い出しながら彼女の船種を考察する。おそらく彼女は戦艦レ級だろう
レ級は最近生まれたようで、言葉は話せないようだが、パッションと意思疎通の意志があるため、なんとなく言いたいことがわかる。
深海棲艦は人と同じように、ほかの深海棲艦の言葉を聞いて話せるようになる。話せないということは、生まれたのは本当に最近かも
この洞穴にいる理由は、私と同じようで、待機室の雰囲気が耐えれなかったから出てきたところ、ちょうどここを見つけて休んでいたそうだ
お腹がすいたから近くにあった釣竿を試してみたけど、全然釣れず…仕方がないから見つからないように奥で眠ることにしたそうだ
「ソウ……」
「レ………」
レ級はここを追い出すの?と悲しそうな顔を見せる
ワタシはそんなつもりはない。むしろワタシは、同じような境遇にいる友達が増えた感覚で嬉しい
ワタシはレ級の頭を優しく撫で、好きなだけここに居ていいよとレ級に言うと、最高の笑顔を見せて抱きついてきた
生まれて初めてワタシは友というものを知った。それは彼女も同じだろう。2人だけの特別な記憶を今日初めて手にしたのだ
レ級ちゃんは、シッポを抱いて寝て欲しい。
それか大の字で大胆に寝て欲しい。