東方創想録   作:Mrコッコ

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第二章
【命蓮寺での異変と新たな外来人】


朝の光が八方屋の窓から差し込むと、伊万里は部屋の床で目を覚ました。昨夜、幻子と話しながら眠りに落ちたのを覚えている——手の中には彼女が置いていった小さな花のお守りが残っていた。

「…頭は少し痛くない… だけど…」

伊万里は胸を撫で、心の奥に残る暗い影を感じた。昨夜、幻子に少しだけ打ち明けたものの、その傷はまだ消えていない。そんな時、店の入口から文が飛び込んできて、慌ててノートを広げた。

「伊万里くん! 大事件だよ! 命蓮寺の周囲に、怪しい霧が立ち込めてるんだ! 寺の僧侶たちも何か変な様子をしていて… 誰も近づけないらしい!」

「命蓮寺…?」伊万里は立ち上がり、花のお守りをポケットに入れた。「何が起こってるんだろう…」

「霧の中から、何かが祈るような声が聞こえるって噂だよ。それに、近くに行くと心が落ち着きすぎて、自分の悩みや傷が一気に浮かんできちゃうんだって!」文は筆を走らせながら続け、「霊夢さんも既に向かってるんだ。伊万里くん、一緒に調査しない?」伊万里は心の傷を思い、少し迷ったが——その霧が自分の傷と何か関係があるのかもしれないと思い、頷いた。「分かった。一緒に行くよ」

その時、幻子も店に入ってきて、「伊万里くん、命蓮寺のこと聞いたよ! 私も一緒に行く!」と言い張った。伊万里は彼女の真っ直ぐな眼を見つめ、微笑んだ。「うん、一緒に行こう」三人が命蓮寺の方向に向かうと、遠くからでも薄い紫の霧が立ち込めているのが見えた。霧の中には命蓮寺の塔がかすかに浮かび上がり、確かに何かが低く祈るような声が聞こえてきた。近づくと、伊万里の胸が突然痛み始め——心の奥の傷が、霧の影響で一気に鮮やかになってきた。「…うわっ… この霧…」

「伊万里くん! 大丈夫か?」幻子は慌てて彼の腕を支え、自分自身も眉をひそめていた。「私にも… 悩みが浮かんできちゃう…」その時、霧の中から一人の女性が現れた——黒いドレスをまとい、優しげな眼差しを持つ命蓮寺の住職、聖白蓮だ。彼女の髪には蓮の花が飾られているが、眼には少し疲労の色が見え、手には経文を巻いた巻物を持っていた。

「…祈りが届かない… 傷が癒えない… この霧は、全ての人の心の傷を集めて立ち込めているのだ…」白蓮の声は低く、祈りのようだった。その時、霊夢の姿が霧の中から飛び出してきて、「白蓮さん! この霧は何なの? 誰かが仕掛けたのか?」

「…知らない… だが… 霧の中心には、『傷を癒すための力』が眠っているらしい… だが、その力が歪んでしまって… 今では傷を刺激するだけになってしまったのだ…」伊万里は心の痛みを抑えながら、霧の中心に向かって一歩前に進んだ。

「傷を癒す力… それが今、私たちの傷を刺激しているのか… もしその力を正せれば…」霧はさらに濃くなり、祈る声も大きくなった。命蓮寺の本堂から、何か強い力の気配が溢れ出してきてる。本堂から溢れ出す紫の光が徐々に柔らかな白に変わり、霧は一気に晴れ上がっていった。そこには、命蓮寺の本堂がそのまま立っており、周囲には美しい蓮の花が咲き誇っていた——だが、本堂の奥からはまだ少し強い力の気配が残っており、それは「傷を癒す力」が完全に覚醒する前兆だった。

「霧が晴れた! すごいわ!」文が空を見上げて驚き、その時、本堂の周囲から一人々と姿が現れ始めた。まずは小さな少女が飛び跳ねてきて——黒い髪に赤いリボン、ネズミの耳が生えたナズーリンだ。「

わー、晴れちゃったね! 霧の中はちょっと怖かったけど、今は明るくて良いね!」

次には傘をさして歩いてくる少女が——水色の着物に小さな傘、憂いたような眼差しの多々良小傘だ。

「…霧の中では、誰かの悲しみが伝わってきちゃった… 今はちょっとマシだね」池の辺からはセーラー服をまとった女性が現れ——村紗水蜜だ。彼女は手で水面を撫でながら言った。

「池の水にも霧の力が伝わって、魚たちが不安そうだったの。今は元に戻って良かったわ」その後、大きな仏像のような姿が歩いてくると、文が驚いて筆を落とした。

「ま、まみぞうさん! 今までどこにいたの?」「フフフ、霧の中では仏像に化けて隠れてたんだよ。力が正されたのを見届けたかったのさ」まみぞうは大きな体で笑い、周囲を和ませた。本堂の扉からは、黒い衣装をまとった女性と金髪の女性が出てきた——ぬえと虎丸星だ。ぬえは手を合わせて白蓮に礼をし、「聖、霧が晴れて安心したよ。私たちは本堂の奥で経文を唱えてたよ」「うん! 私も一緒に唱えたよ!」虎丸星も小さく頷き、元気な声で言った。最後には、入道を従えた少女が現れ——一輪だ。彼女は伊万里の前に近づき、花を差し出した。「…あなたの心に傷があるよね。この花で、少しでも癒されるといいですね」伊万里は驚いて花を受け取り、周囲の命蓮寺の面々の笑顔を見つめた。

「…みんな、今まで霧の中で何をしていたんだろう?」白蓮が巻物を閉じ、優しく説明した。「私たちはそれぞれの場所で、霧の力がさらに歪むのを防ぐために経文を唱えていたのだ。ナズーリンは森の中、小傘は人里の辺り、村紗は池の中… みんなが一丸になって力を合わせたから、霧が晴れたのだよ」その時、本堂の奥から突然強い白い光が溢れ出し——「傷を癒す力」が完全に覚醒したのだ。伊万里は一輪から受け取った花を胸に抱き、幻子と手を握り合いながらその光を見つめた。心の奥の傷が、その光に包まれて徐々に温かくなってきた…。だが、その温もりが広がっても、傷は完全には消えなかった。伊万里は胸を撫で、そこに残るかすかな痛みを感じた——その傷は深すぎたのだ。

「…まだ… 残ってるんだ…」

幻子が彼の顔を見つめ、心配そうに眉をひそめた。「伊万里くん… 大丈夫? 光が包んでくれてるのに…」

一輪が静かに近づき、「傷は深いほど、癒すのに時間がかかるものです。完全に消えなくても、それは悪いことじゃないんですよ」と柔らかく言った。白蓮も頷き、「そうだ。傷は過去に経験した証拠です。否定しないで受け入れて、それを背中に負って歩いていけば… いつか、それが君を強くする力になるのだ」その時、村紗が池の方向を指さした。「看てください。池の水に傷のような濁りが少し残っていますが… それでも水は流れ続けているんです」伊万里は池を見つめると、確かに水面にはかすかな濁りが残っていたが、水は静かに流れ、周囲の蓮の花を育てていた。その姿を見て、彼は少しだけ安心したように頷いた。

「…そうだね。完全に消えなくても… 受け入れて、歩いていけるんだ」多々良小傘が傘を少し上げ、「私も昔、人間に虐められて傷ついたことがあるんです。今でも時々思い出すけど… それでも今は命蓮寺の仲間たちと一緒にいて、楽しいです」まみぞうは大きな体で笑い、「フフフ、傷が残っているからこそ、お互いに思いやり合えるんだよ。それが仲間同士だろう?」伊万里は周囲の命蓮寺の面々と、幻子、文、霊夢の姿を見つめ、胸に抱いた蓮の花を締め返した。心の傷はまだ残っていたが、それを抱えても、平穏な日々を過ごせることを、今、確かに感じた。霧が完全に晴れた命蓮寺の空には、青空が広がり、太陽の光が全てを照らしていた。本堂の奥から溢れ出す白い光は、今では優しい癒しの光となって、幻想郷のどこまでも広がっていった——

一方、命蓮寺から離れた博麗神社では、不思議な光景が繰り広げられていた。境内の鳥居の前には、一人の少女がふらりと立っており、周囲を見回しながら小さく呟いていた。

「ここは?」彼女は見た目が中学生か高校生くらいで、茶髪の髪には虹色の大きなリボンがついている。白いブラウスに紺のセーラースカート、黒い長靴を履いており、肩には小さなリュックサックが背負われていた。眼は明るい茶色で、周囲の不思議な風景に少し驚いているようだが、その表情には好奇心も混じっていた。命蓮寺の白い光が幻想郷中に広がる時、博麗神社の鳥居の下にはふらりと現れた少女が立っていた。

「ここは?」茶髪の髪に虹色のリボンが大きく結われ、中学生か高校生ぐらいの見た目。白いシャツに水色のカーディガン、短いスカートに白い靴下——外の世界の制服らしい服装だが、周囲の朱い鳥居や緑豊かな森はどこにも見たことのない景色だった。彼女はリュックの肩紐を掴み、少し怯えながらも近くを探索し始めた。境内には御札が張り巡らされ、本殿の前には清水の池があった。池の水面には空の青と鳥居の赤が映り、不思議な気配に智代子は息を呑んだ。

「外の世界には… こんな場所なんてない…」暫く歩き回ると、森と境内の境目から突然、金髪をなびかせる女性が現れた。扇子で口元を隠し、笑顔が目に浮かぶような声で言った。

「あら、外来人だね。はじめまして、私は八雲紫」

智代子は突然の登場に驚いて後ろに跳び、「えっ! いつから… そこにいたのですか?」と声を震わせた。紫はゆっくりと近づき、「ふふん、ちょうど通りがかったのよ。君が鳥居の下に現れるのを見ちゃったの」少し落ち着いた智代子は、虹色のリボンを手で押さえながら名乗った。

「星虹智代子… はじめまして、八雲さん。ここは… 何処なんですか? 私は公園を散歩していたら、突然明るい光がして… ここに来ちゃいました」紫は智代子のリボンを見つめ、目を細めた。「光がして来ちゃったのね… そのリボン、光がした時に何か変化はなかった?」

「え? そうだね… リボンが少し輝いたような気がしますが…」智代子はリボンを見つめ、「これはお母さんが残してくれたもので… 『大切な時にはこれが君を導いてくれる』って言ってたんです」

「導いてくれる… それは興味深いわ」紫は命蓮寺の方向を指さし、そこから広がる白い光を見せるようにした。「君を導いたのは、あの光の先かもしれないわ。そこは命蓮寺という寺で、今、心の傷を癒す力が満ちているのよ」

智代子は光の先を見つめ、少し心が躍るような感じがした。「癒す力… それって… 何か特別なものですか?」

「君にとっては、そうかもしれないわね」紫は微笑み、「一緒に行ってみる? 私が案内してあげるから、大丈夫よ」

智代子は少しためらったが、紫の優しい眼差しと、遠くの光に惹かれるように頷いた。「…はい! お願いします!」

虹色のリボンが風に舞い、二人の姿は白い光が待つ命蓮寺へと向かっていった——そこで、智代子は伊万里たちとの運命的な邂逅を迎えるのだ。森の小道を歩きながら、紫は智代子の姿をじっくりと見つめ、突然そう言った。

「君も能力持ちだね」智代子は足を少し止め、虹色のリボンを触りながら少し照れたように答えた

「はい… 操る程度の能力です。まあ、操れるのは妖怪やその類や物体のみです」

「ふふん、妖怪や物体を操るのね。それは結構強力な能力じゃない?」紫は扇子で頬を叩き、周囲の木々を指さした。

「例えば、あの木の枝を動かせるの?」智代子は少し緊張しながら木に目を向け、手をそっと伸ばした。すると、その木の細い枝がゆっくりと揺れ始め、風が吹いていないのに自然と智代子の方向を向いてきた。

「わあ… すごいわ」紫は驚いて目を大きくし、「これは『操る程度』じゃないじゃない? 力の制御も上手いのね」

「ええっ? そうですか?」智代子は手を引っ込め、枝が元の位置に戻るのを見つめて小さく呟いた。「外の世界では、こんな能力を使うと変人扱いされちゃうから… なるべく使わないようにしてたんです」 紫は智代子の肩を軽く叩いた。

「だけどここは幻想郷だよ。能力持ちの人間や妖怪がたくさんいるから、君の能力は何も不思議じゃない。むしろ、今の命蓮寺では君の能力が大きな役に立つかもしれないわ」

「命蓮寺で… 役に立つ?」

「そうよ。今、命蓮寺では心の傷の残滓が少しだけ残っていて… それが妖怪のような形を取って動いているかもしれないの。君がそれらを操って正せるのだったら、大きな力になるのよ」智代子は命蓮寺の方向を見つめ、手に力を込めた。

「傷の残滓… それって… 誰かの悲しみが形になったものですか?」

「そうだと思うわ。君の能力で、その悲しみを静められるのかもしれない」紫は微笑み、足取りを少し速めた。

「さあ、もう少しで命蓮寺に着くわ。伊万里くんたちがそこで待っているから、君の能力を見せてあげてね」虹色のリボンが白い光に照らされて輝き、智代子の胸には少しの不安と、初めて自分の能力が必要とされる喜びが混じっていた——しばらくして二人が命蓮寺の門前に着くと、そこには伊万里や幻子、文たちが蓮の花畑の近くで話している姿が見えた。智代子は門をくぐる瞬間、伊万里の姿を見つけて突然声を上げた。

「あれ!? 八方さんじゃないですか!」伊万里は驚いて顔を向け、智代子の姿を見つめながらハキハキと言った。

「君は? 誰?」智代子はその言葉を聞いて、ぎゅっと肩を落としてずっこけてしまった。

「えぇ~! 覚えてないんですか? 智代子、星虹智代子ですよ! 外の世界ではたまにだけど一緒に帰宅したりとか、プライベートで付き合いがあったのではありませんか!」

周囲の人たちは二人の会話に驚いて静まり返り、幻子は伊万里の側に寄り添って「伊万里くん、知ってる人なの?」と小声で問いかけた。伊万里は智代子の虹色のリボンを見つめ、頭を掻きながら言った。

「虹色のリボンはちょっと見覚えがある… だけど、名前や顔は… 全然覚えてないんだ」智代子はがっかりと腰を落とし、「ええ~ そんなに薄っぺらい付き合いだったんですか… 私はちゃんと覚えてたのに…」と小さく呟いた。その時、紫が智代子の側に寄り添って笑い、「ふふん、それは興味深いわね。伊万里くんは外の世界の記憶が、少し薄れているのよ」

「外の世界の記憶…?」伊万里は眉をひそめ、自分の頭を撫でた。「そうだな… 幻想郷に来る前のことは、あまりはっきりと覚えてないんだ」

智代子は少し立ち上がり、「八方さん、外の世界では学校の近くのコンビニで会ったり、時々雨宿りを一緒にしたりしたでしょ! あの時、君は『将来は何か面白い店を開きたい』って言ってたじゃないですか!」その言葉を聞いて、伊万里の頭の中にかすかな記憶が蘇った——雨の日、コンビニの軒先で、虹色のリボンをつけた少女と一緒に雨を待っていた光景…

「…ああ… ちょっと… 思い出せるような… 気がする…」

伊万里は智代子の顔を見つめ直し、少し笑顔を浮かべた。「すみません、覚えてなくて… だけど、君の言うことが真実だったら、外の世界ではお世話になってたのかもしれない。今度から、幻想郷でちゃんと覚えておくよ」智代子はその言葉を聞いて、虹色のリボンが輝くように顔を明るくした。

「本当ですか! それだったら、私も幻想郷でちゃんと付き合いを深めますね!」周囲の人たちは二人の様子を見て笑い、命蓮寺の青空の下、新しい絆が紡がれ始めている。その時、幻子は伊万里の腕を強めに握り、目をキラキラさせながら言った。

「伊万里は渡さない!」智代子はその姿を見て、すぐに元のハキハキな様子に戻り、口を尖らせて笑った。

「へぇ~、八方さん、もしかして、アタシよりも親しい女の人ができたんですか?」周囲の文や一輪たちは、突然の緊張感にびっくりしながらも、ほんの少し興味津々な表情を浮かべた。伊万里は幻子の手を握り返しながら、慌てて両手を振り回した。

「い、いや! そ、そんなことないよ! 幻子さんは仲間だから…」

「仲間? ふふん、それだけ?」智代子は前に一歩進み、虹色のリボンを揺らしながら伊万里を見つめた。「外の世界では、アタシとは『たまに帰宅する仲間』だったけど、この人とはどんな仲間なの?」幻子はさらに伊万里の腕に寄りかかり、頬を赤らめながら小さく囁いた。

「…だって、伊万里くんとは一緒に戦ったし、夜も一緒に無縁塚に行ったし… それ以上の仲間だから…」智代子は表面的には明るく笑っていながら、心の奥で静かに呟いていた。

「ここは幻想郷か、アタシの力を試すには丁度いいね。妖怪を操るには接触や対面が必要だけど、まさか、そうそう、トップ妖怪が向こうから触れたからね。計画は進みやすくなる」

彼女は虹色のリボンを指で軽くつまみ、紫の姿をかすかに見つめた。先ほど森の小道で紫が近づいてきた時、無意識に紫の手が自分のリボンに触れた瞬間——その時、妖怪である紫の気配が自分の能力に伝わってきたのを感じていた。

「外の世界では妖怪なんてもなく、能力を使う機会すらなかったけど… ここにはたくさんの妖怪がいる。トップクラスの妖怪の力を操れるようになれば… アタシは誰にも逆らえない存在になれる」智代子は伊万里の姿を見つめ、さらに心の中で続けた。「八方さんは外の世界の旧知だし、幻想郷でも仲間が多い。この人を手がかりに、妖怪たちに近づいていけば… 接触の機会はいくらでも作れる。計画は順調に始まっている」

その時、文が智代子の前に近づいてきて「智代子ちゃん、外来人として幻想郷に住むなら、人里の方が便利だよ~ 伊万里くんの八方屋の近くに空き家があったよ」と言った。智代子はすぐに明るい顔で答え、「そうですか! それだったら、八方さんの近くに住むことにしますね!」

表面的には嬉しそうな様子だが、心の奥では「八方屋の近くに住めば、妖怪たちが集まる機会も多くなる。完璧だ」と、冷たい光が瞳に浮かんでいた。

命蓮寺の青空は依然として晴れ渡っており、周囲には癒しの空気が満ちていた。だが、誰も知らない裏側では、新たな外来人の智代子が抱える「計画」が、静かに動き出していた——

伊万里は顔が真っ赤になり、言葉がつまってしまった。その時、紫が扇子で口元を隠して笑い出し、「ふふん、なかなか面白い展開になってきたわね。外の世界の旧知と、幻想郷の仲間… 伊万里くん、どうするの?」

智代子は伊万里の目を見つめ、「まあ、アタシは今から幻想郷に住むことになるんだから、今後ゆっくりと八方さんのことを知り直すからね。でもね——」と、突然幻子の方を向いて微笑んだ。

「この人、アタシよりも先にいたんだから、一歩譲るけど、全部は譲らないよ!」

幻子も少し勇気を出して頷き、「…うん! 私も譲らない!」二人の視線が空中で交わり、周囲にはほのかな笑い声が広がった。伊万里は困惑しながらも、二人の姿を見て少し笑顔を浮かべ——命蓮寺の青空の下、新しい関係が始まる予感に包まれていた。智代子は表面的には明るく笑っていながら、心の奥で静かに呟いていた。

「ここは幻想郷か、アタシの力を試すには丁度いいね。妖怪を操るには接触や対面が必要だけど、まさか、そうそう、トップ妖怪が向こうから触れたからね。計画は進みやすくなる」彼女は虹色のリボンを指で軽くつまみ、紫の姿をかすかに見つめた。先ほど森の小道で紫が近づいてきた時、無意識に紫の手が自分のリボンに触れた瞬間——その時、妖怪である紫の気配が自分の能力に伝わってきたのを感じていた。

「外の世界では妖怪なんてもなく、能力を使う機会すらなかったけど… ここにはたくさんの妖怪がいる。トップクラスの妖怪の力を操れるようになれば… アタシは誰にも逆らえない存在になれる」智代子は伊万里の姿を見つめ、さらに心の中で続けた。

「八方さんは外の世界の旧知だし、幻想郷でも仲間が多い。この人を手がかりに、妖怪たちに近づいていけば… 接触の機会はいくらでも作れる。計画は順調に始まっている」その時、文が智代子の前に近づいてきて「智代子ちゃん、外来人として幻想郷に住むなら、人里の方が便利だよ~ 伊万里くんの八方屋の近くに空き家があったよ、位置は人里よりのところですけど」と言った。智代子はすぐに明るい顔で答え、「そうですか! それだったら、八方さんの近くに住むことにしますね!」表面的には嬉しそうな様子だが、心の奥では「八方屋の近くに住めば、妖怪たちが集まる機会も多くなる。完璧だ」と、冷たい光が瞳に浮かんでいた。

命蓮寺の青空は依然として晴れ渡っており、周囲には癒しの空気が満ちていた。だが、誰も知らない裏側では、新たな外来人の智代子が抱える「計画」が、静かに動き出していた——

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