時は半月後、伊万里の八方屋の近くで人里近くに空き家を借りた智代子は、既に幻想郷の様子をある程度知り尽くしていた。毎日、伊万里の何でも屋を手伝いながら、妖怪たちと自然に接触する機会を作り続けていた。
「智代子ちゃん、この木の枝を運んでくれる?」伊万里が木の前で手を振り、智代子は走って行って枝を受け取った。その瞬間、木の裏に隠れていた小さな妖怪が智代子の手に触れ——彼女の能力が瞬く間にその妖怪に伝わった。
「…おっ…」智代子は表面的には何もないように枝を運びながら、心の中で呟いた。
「小さな妖怪はこんなに簡単に操れるのか… 次はもっと大きなものに試してみよう」
その晩、智代子は外に出歩き、森の奥へと向かった。彼女は虹色のリボンを輝かせ、周囲の妖怪の気配を探していた。すると、大きな体を持つ妖怪が木々の間から現れ——「外来人か… こんな時間に森に来るなんて度胸があるね」と声を上げた。智代子は微笑みながら前に進み、その妖怪の手に自分の指を触れた。
「あなた、何か悩みがあるの? アタシが少しだけ力を貸してあげるよ」その瞬間、彼女の能力が妖怪の体に広がり——妖怪の瞳が少し濁って、体が無意識に智代子の言葉に従い始めた。
「…は… はい… お願いします…」智代子は唇を尖らせて笑い、「さあ、そこの木を倒してみなさい」と命令した。妖怪はぐっしりと力を込め、木を一撃で倒してしまった。
「フフフ… これでトップや主要妖怪以外は大体操れるようになった。あとは八雲紫…」智代子は紫の気配を探しながら続けた。
「先ほどの接触で気配を覚えているから、今度は直接操れるように準備しておこう… そして伊万里のレストランが開く日に、全ての妖怪を操って…」
その時、突然背後から声が響いた。「智代子ちゃん、何してるの? 夜の森は危険だよ!」
智代子は慌てて能力を收め、妖怪を森の奥に逃がした。そこには幻子が喘ぎながら走ってきて、智代子の腕を掴んでいた。
「伊万里くんが智代子ちゃんが家にいないと聞いて、心配して私に探しに来るように言ったの! もうこんな時間に外に出ないでね!」
智代子は明るい顔を装い、「ごめんごめん! ちょっと虹色のリボンが輝いて、森の方に誘われちゃったの!」と言い訳した。
心の中では「幻子… この人がアタシの計画の邪魔をするかもしれない… でも伊万里に近づく手がかりにはなるから、今は様子を見ておこう」と冷たく計算していた。二人が八方屋に戻ると、伊万里が玄関で待っていて、「星虹! 大丈夫か? 夜の森には強い妖怪もいるから、今後は一緒に出かけるようにしろよ!」とハキハキと言った。
智代子は頷きながら、虹色のリボンを見つめた。「はい~ 分かりました! でも八方さん、レストランの準備はどうなってるの? 早く開きたいですね!」伊万里は目を輝かせ、「もう少しで準備が整うよ! 一週間後にオープン記念のパーティーを開く予定だ! 幻想郷のみんなを呼ぶから、絶対に来てくれよ!」
智代子は微笑み、心の中で「一週間後… それがアタシの計画を実行する日になる… 虹色のリボンが全ての妖怪を操る瞬間を、待っているわ」と呟いた。夜の幻想郷は静かに続いていたが、一週間後に訪れる「虹色の罠」が、誰にも知らないように忍び寄っていた——一方、博麗神社の境内では、紫と霊夢が本殿の前に座り、夜空を見上げて話していた。テーブルにはお茶が置かれ、霊夢は盃を手にしながら少し眉をひそめて言った。
「紫、昨日来た外来人、どうも違和感みたいなのを覚える。確かに操る程度の能力は使えるのは間違いないが、それ、本当に本人の能力かしら」紫は扇子で口元を隠し、静かに頷いた。
「正確に言うと道具を借りた能力だよ。あの虹色のリボン、あの子に会う前に見た記憶があるんだよね」霊夢はお茶を一口飲み、さらに続けた。
「そう、あのリボン、ただのリボンではないわよ。あれ、元々はこちらにあったものだから」
「こちらに…? 幻想郷に?」紫は眼を細め、過去の記憶を辿り始めた。
「ああ… ちょっと思い出せる。昔、幻想郷の辺境に住んでいた妖怪が持っていた道具だったよね。その妖怪は『心の波動を操るリボン』を使って、他の妖怪を操っていたけど… 突然姿を消し、リボンも行方不明になったんだ」
霊夢は額に手を当て、「そうだったね。あの妖怪は力を振り絞りすぎて、最後はリボンに取りつかれてしまったんだよね。智代子ちゃんが持っているのがあのリボンだとしたら… 彼女の『能力』は実はリボンの力で、本人がコントロールできているのかも分からない」
「ふふん、それは危険な話だわね」紫は命蓮寺の方向を見つめ、「あの子は伊万里くんのレストランオープンの日に何か計画をしているように見える。リボンの力が暴走したり、彼女自身がリボンに操られたりしたら… 幻想郷全体に禍いが及ぶ可能性がある」
「だからどうするの? 今から彼女を止めるの?」霊夢は立ち上がり、境内を見回した。「でも伊万里くんは彼女を旧知として信じてるし、命蓮寺の人たちも彼女に警戒心を持っていないようだし…」紫は緩やかに立ち上がり、扇子を開いて微笑んだ。
「急いで止める必要はないわ。一週間後のオープンパーティーまでに、リボンの真相と彼女の計画を調べ上げればいい。そして… もし彼女が幻想郷に害を与えようとするなら、私たちが動けばいいのだ」霊夢は頷き、「分かった。あたしも境内の古文書を調べて、あのリボンの正体を確かめるよ。一週間後までに何とかしなきゃ」夜風が神社の鳥居を鳴らし、二人の視線は暗い森の彼方へと伸びていた。智代子の持つ虹色のリボンの秘密、そして彼女の計画の真相——それらが明かされる時、幻想郷は新たな試練に直面することになるのだった。紫は霊夢が古文書を調べに本殿に入った後、一人になって唇を尖らせ、目には怪しげな光が浮かんだ。
「ええ、分かってるわ、でも、まだでしょう、智代子さん」
突然、紫の頭の中に声が響いた——その声はなんと智代子のものだった。紫は扇子で顔を隠し、心の中で静かに応えた。
「そうよ、こちらでも少しずつ種は仕込んであるわよ。君はどう動くか分かるよね」
「任せなさい、抜かりはないわよ」智代子の声が再び響き、「一週間後のパーティーでは、全ての妖怪を操って幻想郷を手に入れる。その時、紫さんが約束したように、博麗神社を手放すんでしょ?」紫は眼を細め、表面的には無表情だが、心の中では冷たく計算していた。
「もちろん、約束は守るわ。君が幻想郷を掌握できるのなら、私は博麗神社の権限を譲る。だけど… 君がリボンに取りつかれて暴走したり、約束を破ったりしたら… 私も容赦しないからね」
「そんなことはないわ。アタシはリボンを完全にコントロールしているから」智代子の声には自信がにじみ出て、「伊万里のレストランが集める妖怪たちを操り、霊夢を抑え込めば、幻想郷はアタシのものになる。そして紫さんも、アタシの力を借りて長年の願いを叶えられるんでしょ?」
紫は少し笑い、「ふふん、願いを叶える… そうね、それが私の条件だったわ。でも君がそれを叶えられるのかどうか… 一週間後に見極めるわ」頭の中の声は消え、紫は一人で夜空を見上げた。彼女の目には依然として怪しげな光が宿っていたが、その奥には智代子にも見せない別の計画が隠されていた——
「君が道具になるのか、それとも私が君を道具にするのか… 楽しみだわ、智代子さん」夜の博麗神社は静かに続いていたが、その静けきの下には、紫と智代子の二重の思惑が複雑に絡み合い、一週間後のオープンパーティーへと向かって膨らみ続けていた。場面が変わり、八方屋の裏庭では伊万里が木の手入れをしながら、智代子のことを小さく呟いていた。
「虹星さん… 昔あった時はリボンはつけてなかったのに、今となってはしょっちゅうつけてる。手入れしてる様子もなさそうだし、何よりあのリボンは危険… それに彼女自身に操るなんて能力はなかったのに、何か変だ」背後から幻子が近づいてきて、伊万里の肩を軽く叩いた。「伊万里くん、何考えてるの? ちょっと心配そうな顔してるよ」伊万里は手を止め、智代子が八方屋の中で商品を整理している姿をかすかに見つめた。
「ああ… ただ、外の世界の時の智代子さんと、今の智代子さんがちょっと違うような気がして… 昔はもっと内気だったのに、今はすごくハキハキしてるし…」
「それは幻想郷に来て環境が変わったからじゃない?」幻子は伊万里の側に立ち、「私も最初は人見知りだったけど、伊万里くんや命蓮寺の人たちに会ってから明るくなったよ。智代子ちゃんもそうなのかもしれないよ」伊万里は頷きながらも、心の奥に残る違和感を拭い去れなかった。「そうは思うんだけど… あの虹色のリボンをつけてから、何か変わったような気がするんだ。例えば前に森で小さな妖怪が突然逃げていった時、智代子さんの手元から何か光がしたような…」
「光? それは見たことないけど…」幻子は眉をひそめ、「伊万里くんが心配だったら、智代子ちゃんに直接聞いてみたらどう? 彼女は伊万里くんのことを信じてるから、正直に答えてくれると思うよ」
伊万里は少し考えて、「そうだね… 今度機会があったら聞いてみよう。ただ… 何か悪い予感がするんだ」その時、智代子が八方屋の戸口から顔を出し、「伊万里くん! レストランのメニュー案、一緒に考えようよ!」と明るく呼びかけた。伊万里は慌てて笑顔を浮かべ、「おい、今行くよ!」と応えた。背中を智代子に向けながら、伊万里は再びあの虹色のリボンを見つめた。小さな気づきが心の中に芽生えていた——それが、一週間後の罠を避ける鍵になるのかもしれない、そんな予感がした。場面が博麗神社の本殿に戻ると、霊夢は古びた古文書を広げ、眼を凝らして読み進めていた。几帳面に書かれた漢字や絵には、智代子の持つ虹色のリボンに似た図柄が描かれていた。
「やはり、あのリボンは妖具だわ」霊夢は小さく呟き、さらに頁をめくった。すると、リボンだけでなく、他のアイテムの図柄も続いて描かれていた。
「しかも、他にも関連妖具がある… しかも、関連してるものが偶然とは言え、あの智代子が住んでるところに全部あるわ」古文書には「虹の組み物」と名付けられた妖具セットの記述があった——虹色のリボン以外にも、青い髪飾り、黄色いブローチ、緑のバンドがあり、これらを全部集めると「万物を操る力」が発動すると書かれていた。そして、その妖具たちの最後の行方が記されていたのは——「最後に保管された場所は、人里の東端、旧き家々の一つ」。それはまさに、智代子が今住んでいる空き家の位置だった。
「偶然じゃない… 彼女がその家に住むように誘導されたのか、それとも自分で探して住んだのか…」霊夢は額に手を当て、緊張感を募らせた。
「全部集まってしまったら、幻想郷中のものを操れてしまうんだ… 一週間後のパーティーが、彼女がその力を使うタイミングなのかもしれない」
その時、紫が本殿に入ってきて「調べはどうだったの?」と問いかけた。霊夢は古文書を紫に見せ、「これを見て。虹色のリボンは妖具の一つで、他にも関連するものがあって、全部智代子の住む家にあるみたい」紫は古文書を見つめ、目には怪しげな光が浮かぶが、表面的には驚いたように言った。
「ふふん、それは意外だわ。彼女自身がそれを知っていたのかしら?」
「知っているはずだわ。そんなに偶然はあるはずない」霊夢は立ち上がり、「今から智代子の家に行って確かめよう。もし妖具があったら、取り上げてしまおう」
「急いではいけないわ」紫は霊夢を止め、「彼女は今、伊万里くんの近くにいるし、妖具を奪われると暴走する可能性もある。一週間後までに計画を立てる時間はあるわ。それまでは様子を見つつ、準備を進めよう」霊夢は少しためらったが、紫の言葉に頷いた。「分かった。でももし彼女が先に動いたら、あたしはためらわないからね」本殿の窓から差し込む月光が古文書を照らし、妖具の絵柄がぼんやりと輝いていた。智代子が集めつつある「虹の組み物」——その力が覚醒する前に、霊夢たちは何とかすることができるのか。そんな不安が、夜の空に広がっていた。場面が智代子の住む空き家に移る。彼女は八方屋を出て帰宅し、玄関から裏口へと回り込み、壁に隠れた小さなスイッチを押した。すると、床がひらりと開き、暗い階段が地下へと続いていた。智代子は懐中電灯をつけ、階段を下りていった。地下の空間には、石の台座が中央に置かれており、そこに青い髪飾り、黄色いブローチ、緑のバンドが整然と並んでいた。彼女は虹色のリボンを自分に流し、台座の横に置いた。
「フフフフ、見つけたわ。だが、知ってる限りではあと4つあるはずなのにねぇ」智代子は台座を見つめ、唇を尖らせて不満そうに呟いた。古文書には「虹の組み物」は計8つの妖具で構成されていると書かれていた——今はリボンを含めて4つしか集まっていない。
「あとは赤いピアス、橙のブレスレット、紫のヘアピン、そして、藍色の首飾り… この4つが見つからないの。どこに隠されているんだろう」彼女は地下の壁を撫でながら、過去の記憶を辿った。この家に妖具があることは、リボンを手に入れた時に感じ取っていたが、残りはどこにも見当たらなかった。
「…あれ? 紫さんが話していた、昔このリボンを持っていた妖怪… あの妖怪は残りの妖具をどこに隠したのかしら?」智代子は突然、頭の中に紫の姿を浮かべ、心の中で呼びかけた。
「紫さん、聞いてる? 残りの妖具の行方、知らない?」すぐに紫の声が響いた
「ふふん、そんなことは知らないわ。君自身で探すのが楽しいじゃない?」
「何だかずるいわ… でも、一週間後のパーティーまでに少なくとも一つは見つけなきゃ… 今の4つでも相当な力は出るけど、万物を操るには足りないから」智代子はリボンを手に取り、それを照らした。妖具たちが小さな光を放ち、互いに呼応しているように見えた。
「でも… 今の力でも、伊万里の居場所に集まる妖怪たちは操れるだろう。残りは後で探せばいい。一週間後には、幻想郷を手に入れるのだから」彼女は唇に笑みを浮かべ、懐中電灯を消して階段を上っていった。地下の暗闇の中、4つの妖具が静かに光を放ち、未完の「虹の組み物」が未来への罠を深めていた——だが、智代子が階段の途中まで上がった時、身につけていた虹色のリボンが突然強く輝き出した。その光が地下の台座に届き、瞬く間に石の壁の一部がひらりと開いて隠れた扉が現れた。
「え? それは…」
智代子は驚いて階段を下り直し、懐中電灯で扉の先を照らした。そこには小さな部屋が広がり、壁に作られた収納スペースには正に探していたものたちが並んでいた——赤いピアス、橙のブレスレット、紫のヘアピン… そしてさらに、古文書にも記述のなかった藍色の首飾りまで。
「これは盲点だったわ… これですべてが揃った!」
智代子は飛び込むように部屋に入り、妖具たちを手に取った。計7つの妖具がそろう瞬間、全てが一斉に強い虹色の光を放ち、空中で集まってから智代子の周りを回り始めた。リボンは彼女の髪に戻り、ピアスは耳に、ブレスレットは手首に、ヘアピンは髪に、首飾りは首に、髪飾りとブローチはそれぞれ衣装に取り付けられた。
「フフフ… この力… すごいわ」智代子は手を広げ、周囲の空気が自分の意思で動くのを感じた。万物を操る力——それが今、彼女の手の中にあった。
「あとは“利用する駒”を直接選ぶのみ」彼女は頭の中に伊万里や幻子、命蓮寺の人々、さらに紫の姿を浮かべた。
「伊万里はレストランで妖怪たちを集めるキーになる。幻子は伊万里の心を掴んでいるから、それを利用して彼を操れば… 紫さんは約束通り博麗神社を手放すはずだけど、もし裏切ったら… 今の力で彼女も操れるわ」
智代子は部屋を出て地下の扉を閉め、懐中電灯を消した。体中に宿る虹色の光が暗闇を照らし、彼女の瞳には冷たい決意が宿っていた。
「一週間後… レストランのオープンパーティーが、幻想郷がアタシのものになる日になる。すべての駒を動かし、虹色の罠で全てを掌握するのだ」彼女は階段を上って家に戻り、窓から八方屋の方向を見つめた。夜空には星が輝き、一週間後の未来が、虹色の光で覆われる予感に満ちていた——その瞬間、八方屋の二階から伊万里が窓を開け、夜空を見上げて大きく深呼吸をした。突然、何か強い波動が体を抜けるように感じられ、彼は眉をひそめて小さく呟いた。
「なんか、嫌な予感がする… 虹星、いや、正確には妖魔具って言ったほうがいいか… それに宿ってる力が強くなってる…」
幻子が隣から近づいてきて、伊万里の肩に手を置いた。
「伊万里くん、また何か感じたの? 今度はどんな感じ?」
伊万里は智代子の家の方向を見つめ、手を胸に当てた。「ちょっと… 重いような、圧迫感のする波動がした。前にもあのリボンから感じたような… でも今回はもっと強くて… 何かが完成しちゃったような気がする」
「完成…? 何が?」
「分からないけど… 心がギュッと締めつけられるような…」伊万里は少し俯き、「幻子、もし智代子さんが何か悪いことをしようとしたら… 俺はどうしたらいいんだろう? 外の世界の旧知だけど、今の彼女はちょっと…」幻子は伊万里の手を握り返し、目を真っ直ぐに見つめた。「伊万里くんが信じる心が、何かを判断する鍵になると思うよ。もし彼女が悪いことをしようとしても、私たちは一緒に止めるから。命蓮寺の人たちも、霊夢さんや紫さんも、みんな一緒だから」伊万里は幻子の言葉に少し安心し、少し笑顔を浮かべた。「そうだね… 一緒になれば何でもできるよ」だが、その笑顔は長く続かなかった。智代子の家から漏れ出すような虹色の波動が、再び伊万里の体に伝わり、彼の心には濃い不安が広がっていった。一週間後のパーティー——そこで何が起こるのか、今でも分からないが、それが幻想郷にとって大きな転機になることは、確かな予感だった。翌日の朝、伊万里は早速博麗神社に向かった。昨夜の予感が拭えないまま、彼は鳥居をくぐると、本殿の前に霊夢や幽々子、さらに映姫が集まっているのを見つけた。
最初に口を開いたのは霊夢だった。
「伊万里、ちょうどよかった。君にも無視できないことが起ころうとしてるから」
伊万里は驚いて近づき、「何が… 起こるんだ? 昨夜、智代子さんの方から強い波動を感じたんだ」次に幽々子が扇子で髪をかき分け、悠々と言った。「これは下手すりゃ幻想郷全体を揺るがしかねないこと。だが、紫が来てないのが気がかり」
「紫さんが来ない…?」伊万里は眉をひそめ、「昨夜、紫さんは神社にいたんじゃないか?」その時映姫が笏を突いて、厳しい眼差しで言った。
「紫は多分、操られてるか、はたまたわざと便乗してる可能性があるわ。彼女の考えはいつも深く、今回も何か企んでいるのかもしれない」
霊夢はお茶を入れながら続けた。「昨日古文書を調べたら、智代子の持つリボンは『虹の組み物』という妖具の一つで、全部で7つあることが分かった。昨夜の波動からすると、彼女はすべてを集めちゃったのかもしれない」
伊万里は心臓がドキッとし、「全部集めちゃった…? それで何が起こるんだ?」
「万物を操る力が覚醒するんだ」幽々子が微笑みながらも、眼には厳しさが宿っていた。
「一週間後のレストランパーティーが、彼女がその力を使うタイミングになると思われる。幻想郷の妖怪たちが集まる時に操れば、手っ取り早く支配できるから」伊万里は拳を握り締め、「俺は… 智代子さんを信じたくて… だけど昨夜の予感が…」
映姫は柔らかく口調を変え、「信じる心は大事だが、現実を見なければいけない。もし彼女が幻想郷に害を与えようとするなら、君も立ち向かわなければならない。それが、君の居場所が幻想郷全員を笑わせる場所になるためにも」その時、突然鳥居の方向から紫の声が響いた。
「ふふん、立ち向かうのかしら? それは興味深いわ」みんなが顔を向けると、紫が悠然と歩いてきていた。彼女の目には依然として怪しげな光が浮かんでいたが、誰にも読み取れない思惑が隠されていた——みんなが顔を向けると、紫が悠然と歩いてきていた。彼女の目には依然として怪しげな光が浮かんでいたが、誰にも読み取れない思惑が隠されていた——
伊万里は紫の姿を見て、すぐにハキハキと声を上げた。
「紫さん、貴女は何を考えてるのですか?」紫は扇子で口元を隠し、少し微笑んでから、意外とハキハキと答えた。
「幻想郷のためよ」その言葉に、周囲の人たちは顔を見合わせた。霊夢は眉をひそめ、「幻想郷のため? それで何をするつもりなの? 智代子の計画に便乗してるんじゃないの?」
「便乗なんて低俗なことはしないわ」紫は境内に立ち、空を見上げた。「智代子が『虹の組み物』を集めて力を手に入れること、私は最初から知っていた。だけど、その力が幻想郷に禍いをもたらすのか、それとも新しい風を吹かせるのか… 見極めたかったのだ」
伊万里は一歩前に進み、「見極める…? そんなことのために、幻想郷が揺るがされるのを見ているのですか?」
「だからこそ、今ここに集まっているのでしょ?」紫はみんなの顔を一つ一つ見つめ、「一週間後のパーティーで、智代子が力を使い始めたら——私たちは一緒に立ち向かう。だけど、彼女の心に何か理由があるのなら… それを聞く機会も与えるわ」幽々子は扇子を開いて笑い、「ふむ、幻想郷のため… その言葉は何度でも使われるけど、今回は少し信じてみようかしら」映姫は笏を突いて、「信じるのはいいが、油断は禁物。彼女が裏切った場合は、私が正義を行うから」霊夢は頷き、「分かった。一週間後までに、各自準備を進めよう。伊万里はレストランの準備を続けながら、智代子の様子を見張ってて。もし何か変なことがあったら、すぐ連絡して」
伊万里は強く頷き、「はい! 俺は絶対に、自分のレストランが禍いの場になるのを許さない!」
紫は伊万里の姿を見て、心の中で静かに呟いた——「幻想郷のため… それは君にも、私にも、智代子にも、それぞれ違う意味を持つのだから」朝の太陽が鳥居を照らし、集まった人々の心には決意と不安が混ざり合っていた。一週間後のパーティーへと、時は刻一刻と近づいていた。紫はみんなの決意を見届けるように微笑み、扇子を軽く振った。「それでは、私はここまで。一週間後のパーティーで会おうね」言葉を終えると、彼女の周りに細い隙間が開き、その中に体を滑り込ませるようにしてその場を去った。隙間が閉じる音と共に、紫の姿は消えていった。だが、紫が去った瞬間、伊万里は突然強い違和感を覚え、声を上げた。「ん!? ちょっと待て!」
霊夢たちは驚いて伊万里を見つめ、「どうしたの? 紫は既に…」
「紫さんはわざわざ期日を言ってる!?」伊万里は拳を握り、目を細めて紫が消えた方向を見つめた。
「なんか、予め知ってるような言い方…!? 違う… もう計画は少しずつだが進んでるんだ…」
「計画? 誰の計画?」幽々子が尋ねると、伊万里は頭を掻きながら言った。
「俺もはっきりしないんだけど… 紫さんが智代子さんの計画を知っているだけじゃなく、自分も何か別の計画を進めてるような… そんな気がするんだ」
映姫は眉をひそめ、「先程も言ったように、彼女は便乗してる可能性がある。智代子の力を利用して、自分の願いを叶えようとしてるのかもしれない」
「でも… 期日を言う時の口調が怪しいんだ」伊万里は過去の会話を振り返り、「智代子さんがレストランのオープン日を決めたのは俺と一緒になってからだけど… 紫さんはそれを最初から知ってたような… まるで、その日を待っていたように…」
霊夢は額に手を当て、「そう言えば… 古文書を調べ始めたのは紫が智代子のことを話してからだったし… 彼女が誘導していた可能性も…」
周囲には静けきが訪れた。紫の「幻想郷のため」という言葉、そして伊万里の感じた違和感——それらが重なり合い、一週間後のパーティーが、単なる智代子の計画だけでなく、紫の思惑までも含んだ複雑な舞台になっていることが分かり始めていた。伊万里は深く息を吸い、「俺は… 智代子さんにも紫さんにも、正しい答えを聞きたい。一週間後、必ずその真実を知るんだ」朝の風が神社の鈴を鳴らし、その音は、誰にも見透かせない未来へと続いていた——伊万里の言葉に沈黙が続く中、霊夢が突然ハキハキと声を上げた。
「1週間? いや、もう手遅れになる可能性があるわよ。それにいつもなら来てもおかしくない萃香が今日は来てない」その言葉で、みんなはさらに緊張感を募らせた。幽々子は扇子で頬を叩き、「萃香か… 確かに、こんな大事な話には絶対来るはずだけど… 何かあったのかしら?」
「彼女は妖怪の力が強いから、智代子の妖具の影響を受けやすいのかもしれない」映姫は笏を振りかざし、「もし彼女が既に操られていたら… 手遅れと言うのは正しいわ」伊万里は心臓がドキドキし、「萃香さんが… そんなことになってるの? 俺たち、今すぐ探さなきゃ…」
「待て」霊夢は手を挙げて止め、「慌てて動いたら、智代子に気づかれてしまう。今はまず、萃香の行方を確かめると同時に、妖具の力の範囲を調べる必要がある」
「そうだね」幽々子は悠々と立ち上がり、「私が冥界から情報を集めてみる。萃香がどこにいるか、何か手がかりがあるかもしれない」映姫も頷き、「私は地獄から浄玻璃の鏡を使って調べてみる」
霊夢は伊万里を見つめ、「伊万里は八方屋に戻って、智代子の様子を自然に見張ってて。もし彼女が萃香のことを言ったり、何か変な行動をしたらすぐ連絡して。あたしは神社に残って、古文書の最後の頁を調べる——何か解決策が書かれているかもしれない」
伊万里は強く頷き、「分かった! 俺は絶対に油断しない!」陽は少し高くなり、神社の境内は以前よりも重い空気に満ちていた。1週間後まで待てない——その危機感が、それぞれの人々を動かし始めていた。萃香の行方、智代子の真の目的、紫の隠された思惑… それらが交わる時、幻想郷はすでに罠の中に落ちていたのかもしれない、そんな予感が誰の心にも浮かんでいた。一方、暗くて重い空気に包まれた旧地獄では、智代子が灼熱の大地を歩いていた。体につけた「虹の組み物」が周囲の悪気を弾き、彼女は悠然と進んでいった。やがて、巨漢の妖怪が彼女の前に立ちはだかり、低い声で言った。
「お前、外来人か。しかし、旧地獄にわざわざ来るって物好きだな」智代子は星熊勇儀の姿を見て、すぐにハキハキと笑いながら答えた。
「物好きじゃないわ。あなたを見つけるために来たのよ、星熊勇儀さん」勇儀は眉をひそめ、拳を握りしめる
「俺を? 外来人が俺を見つける理由があるのか?」
「あるわ。あなたは旧地獄で力を持つ妖怪の筆頭だし、萃香さんの親友でもあるでしょ?」智代子は一歩前に進み、虹色のリボンが輝き始めた。
「今、萃香さんは既にアタシのものになってるの。あなたも一緒にならない? アタシの力で、旧地獄も幻想郷も、あなたたちが自由に生きられる世界を作るわ」
勇儀は眼を細め、智代子の体に宿る光を見つめた。
「萃香がお前のものになった? そんなバカな… 彼女は私と同等以上」
「強さじゃ勝てないものがあるのよ」智代子は指を鳴らすと、遠くから萃香の声が聞こえてきた。「勇儀… 一緒に来ないか… 智代子ちゃんの力で… 楽しい世界が待ってる…」
勇儀は驚いて顔を上げると、萃香が足取り重くながらも近づいてきていた。彼女の瞳には濁りがあり、明らかに誰かに操られている様子だった。
「萃香… お前は…」
「これで証拠は充分?」智代子は微笑み、「あなたも一緒になれば、萃香さんともまた一緒に過ごせるし、旧地獄の束縛も解ける。どうするの? 星熊勇儀さん」勇儀は拳を握り締め、萃香の姿と智代子の光を交互に見つめた。旧地獄の灼熱の風が二人を包み、彼女の提案が勇儀の心に波紋を立て始めていた——だが、その瞬間、勇儀は大きく肩を動かし、ハキハキと声を上げた。「気に入らんな! お前が言う自由と私たちの自由はどうも違う。私は今でも十分自由で楽しくやってるんだよ。だが、お前につけば楽しさがなくなりそうだな」智代子は眉をひそめ、リボンの輝きを強めた。
「へえ~ そうなの? 萃香さんは一緒になってくれたのに、勇儀さんは頑固だね」
「萃香はお前に操られてるんだろ?」勇儀は拳を構え、轟音が旧地獄に響き渡った。
「彼女が本当にそうしたいと思ってるのなら、私は何も言わない。だが、あの瞳は昔の萃香じゃない。お前が何かしたんだろう」萃香は勇儀の声に反応し、体が震えながら言った。
「勇儀… 違う… 智代子ちゃんの力で… 本当に楽しい…」
「うるさいな」勇儀は萃香に向けて少し柔らかい眼差しになり、「お前の本当の声は、俺が聞き分けられる。お前は『一緒に酒を飲もう』って言う声が好きなんだから」
智代子は唇を尖らせ、冷たく笑った。「だから何? アタシの力で操るつもりだったけど… 頑固な妖怪は手強いわね」
「お前がそこまでするなら、俺は立ち向かう」勇儀は鉄球を肩に乗せ、全身に力を込めた。「旧地獄は俺たちの場所だ。お前のような外来人が勝手に操って回すなんて、許さない」智代子は一歩後ろに引き、「フフフ… 立ち向かうの? 今のアタシには、あなた程度じゃ何にもならないわよ」その瞬間、二人の間に虹色と黒い光がぶつかり合い、灼熱の風がさらに激しくなった。旧地獄での闘いが始まろうとしていた——その様子は、遠くから誰かに見つめられているような、そんな予感が智代子の心に走った。やがて、二人は同時に一歩踏み出し、拳を全力でぶっつけ合った。その速さは弾丸並みで、衝撃音が旧地獄の空に轟き鳴り、周囲の岩まで震え上がった。同時に、智代子の側からは虹色の光の弾幕が、勇儀の側からは黒い弾幕が、互いに向かって飛び出した。勇儀は拳がぶつかった反動で少し後ろにかわしながら、ハキハキと声を上げた。
「ほおー、お前、やるな! この私と互角以上の怪力たぁ~ねぇ!」智代子も弾幕を避けながら笑い、同じくハキハキと答えた。
「生憎、外の世界では普通の女の子らしく生きてなかったのでね。能力を使えなかった分、体を鍛えてたのよ」言葉と同時に、二人は再び接近して拳を交わした。虹色の光と黒い闇が交互に閃き、弾幕が空中で炸裂して火花を散らした。萃香はその様子を見つめ、体が震え続けていたが、何か言いかけても声が出せないまま立ち尽くしていた。
「なんだ、体が鍛えられてるのは意外だったが… でも、お前の力の根源はあの妖具だろ?」勇儀は拳で振り祓い弾幕を払い、「妖具の力を使う限り、本当の強さは出せてないんだよ」
「本当の強さ? そんなものはどうでもいいわ」智代子は虹色の弾幕を集中させ、「結果さえ良ければ、力の源は何でもいいのよ。今のアタシには、あなたを操るだけの力があるから」その瞬間、智代子のリボンが異様に輝き、虹色の光が勇儀の体に向かって伸びてきた——暫くしたら、旧地獄の灼熱の大地に勇儀が膝をつき、粗い息を吐き出した。
「クソ! こりゃ、アタシの負けのようだ…」智代子は弾幕を収め、勇儀の前に立ち止まってハキハキと笑った。
「どうする? 私たちとともに来る?」勇儀は額に浮かんだ汗を拭いハキハキと答えた。
「私はお前に負けた。お前に乗ってやる」
「へえ~ さすが星熊勇儀さん、負けを認めるのは立派ね」智代子はリボンの光を勇儀に当て、「でも、乗ってやるんじゃなくて、一緒に幻想郷を変えるんだよ。萃香さんともまた、自由に酒を飲める世界を作るわ」勇儀は萃香の方向を見つめ、彼女の濁った瞳を見て少し沈んだが、すぐに元のようにハキハキと言った。「分かった。だが、約束は守ってくれよ。萃香を元に戻すんだ」
「もちろん、計画が成功したらね」智代子は唇を尖らせて笑い、「さあ、二人とも一緒に行こう。幻想郷の他の強い妖怪たちも、早く手に入れなきゃ」勇儀は立ち上がり、歩みを進める。萃香もゆっくりと歩みを進め、二人は智代子の後ろに並んだ。旧地獄の空には暗い雲が広がり、智代子の虹色の光がその中に溶け込みながらも、確かに強さを増していた。その時、遠くの岩陰から小さな視線が彼らを見つめていた——それは旧地獄の小さな妖怪だったが、智代子たちが去った後、彼は慌てて別の方向へと逃げ出していった。何かを伝えるために、誰かに会いに行くような、そんな様子だった。暗い旧地獄に残ったのは、轟音の残響と、智代子の虹色の光の軌跡だけだった。