水鏡の中では、伊万里たちが本拠地の入口に近づき、最終的な対面が刻一刻と近づいていた——だがその前に、彼らは智代子の拠点の扉から数キロも離れた場所に、不思議な建物を発見した。そこに立つのは、暗い石垣と尖った屋根が特徴の建物で、地霊殿を見たような印象を与えるものだった。伊万里は周囲を見回し、ハキハキと言った。
「こんな建物はないのに… また幻想が現れてるのか?」
「地霊殿に似てるけど、細かい部分が違うわ」霊夢は御札を手に取り、警戒しながら建物の扉を見つめた。
「風の音が怪しい。入る時は気をつけろ」異変解決組は一斉に建物の中に入ると、そこには広い大広間が広がっており、天井からは無数の風鈴が吊り下がっていた。風が吹くたびに風鈴が鳴り、音が複雑に重なって迷宮のような感覚を与える。
その時、大広間の中央から風が舞い上がり、黒い羽根を持つ八咫烏の姿が現れた——是れ、烏天狗・射命丸文? いや、羽根の色が濃く、眼には虹色の光が宿っていた。
「お待たせしました、伊万里くんたち」彼女は体を浮かべてハキハキと笑った。是れは雲の上のお空だった。
「智代子さんの命令で、この風の迷宮の中で君たちを止めることになっているの。風の弾幕で、一緒に遊んでいこうじゃないか?」話し声と同時に、風鈴から風の弾幕が一気に打ち出され。大広間全体が風の壁で包まれた。弾幕は風の方向によって自在に変わり、避けるのが極めて難しい形を描いていた。
「お空さん… 君も智代子さんの側にいるのか」伊万里は弾幕発生機を構え、風の流れを見極めながら言った。
「この風の迷宮は、君の能力と幻想が混ざったものなんだろう?」お空は扇を振り、更に強い風を起こした。
「そうよ。風は何処にでも通り抜けるけど、この迷宮の風は“抜け出せない”ように調整したの。君たちがここから出るのは、私とさとり様を倒すしかないのよ」
風の音と風鈴の音が一つになり、大広間は一層深い迷宮と化した。異変解決組の前には、八咫烏の姿をした風の壁が立ちはだかり、新たな試練が始まった——伊万里は風の弾幕を避けながら、お空の羽根の動きを見つめ、ハキハキと言った。
「さとりさんにお空、どっちとも厄介だ。お空は核を操れるし、さとりさんは心読みか… これは大変だな」お空は制御棒を操り、風の弾幕を更に密集させながら笑った。「ふふっ、心読みのさとり様も近くにいるのよ。君たちの考えは全部見透かされてるんだから、逃げ道なんてないわ」その瞬間、大広間の壁から柔らかな光が漏れ、緑色の髪を持つ少女が跳び出してきた。彼女は伊万里に向かってニコニコ笑い、声を上げた。
「伊万里のお兄ちゃん、手助けしてあげる!」是れ、さとりの妹・古明地こいしだった。お空は眼を丸くし、少し驚いたように言った
「こいし様? 智代子さんの命令では、君は地霊殿にいるはずじゃないの?」こいしは手を広げ、周囲の風の流れを少し乱した。
「私は誰の命令も受けないよ!お姉ちゃんが心を閉ざしちゃって、智代子さんの言葉を聞いちゃってるのが寂しいの。伊万里のお兄ちゃんが言う“自由”っての、ちゃんと伝えたいから!」伊万里はこいしの姿を見て、嬉しそうに笑った。
「こいし! ありがとう! 君がいてくれると助かるよ!」
「ふふっ、こいしはお姉ちゃんの心を読めないけど、お姉ちゃんの気持ちは分かるの!」こいしは跳び跳ねながら、大広間の奥を指差した。
「お姉ちゃんはあそこに隠れてるよ。伊万里のお兄ちゃんの言葉が届けば、きっと戻ってくると思う!」その時、大広間の奥から冷たい声が響いた。
「こいし、戻れ。智代子さんの命令を破るな」暗がりの中から、紫の髪を持つ少女が現れた——聖徳寺さとりだ。彼女の眼には虹色の光が輝き、周囲の空気が一気に重くなった。
「伊万里くんの考えは全部見えてる。“心を届ける”、無駄な努力だ」風の弾幕と心の重圧が混ざり合い、大広間は一層厳しい状況になったが、こいしの笑顔がその中に一筋の光を放っていた——こいしはお空の風をかわしながら、さとりに向かってハキハキと言った。
「それ本気で言ってるの?お姉ちゃん、無駄な努力?本当は分かってるんでしょ、これは間違いってのは!」さとりは紫の髪をなびかせ、ハキハキと応えた。
「正しいか間違いだけで推し進めれるものじゃない、幻想は特によ。智代子さんの“幻想のみが残る世界”は、誰もが傷つかない場所になると信じてる」伊万里は弾幕発生機から金色の光を放ち、風の壁を開けながら言った。
「だったら幻想だけにして幻想は生まれる?幻想ってのは考える者や源があってこそだよね。外の世界をすべてなくしたらどうなる?」その言葉が届いた瞬間、さとりの表情がハッとしたように変わった。心読みの力で伊万里の考えを読んではいたが、その言葉の核心に突き刺されたように、彼女の虹色の眼が一時的に揺れた。
「…考える者や源…」さとりは手を胸に当て、低く呟いた。
「外の世界がなければ、幻想の“意味”もなくなる… そんなこと、智代子さんは考えてなかったの?」お空は扇の動きを一時的に止め、さとりの様子を見つめた。
「さとり様… 君の心が揺れてるわ」
「ほらね、お姉ちゃん! 伊万里のお兄ちゃんの言葉、正しいでしょ!」こいしは跳び上がってさとりの側に近づき、手を伸ばした。
「お姉ちゃんはいつも、“心の闇を抱えても生きていく意味”を教えてくれたのに… 今はそれを忘れちゃってるの?」さとりの周囲の重圧が徐々に弱まり、虹色の光も薄れ始めた。彼女はこいしの手を見つめ、過去に妹と一緒に過ごした記憶が蘇ってきた。
「…こいし… あなたがそう言うなら…」
風の弾幕もそれに合わせて緩み、大広間には久しぶりに柔らかな空気が流れ込んだ。伊万里は前に一歩進み、さとりに向かって言った。
「さとりさん、幻想は美しいけど、それを支えるものがあってこそ真の価値がある。君もそれを知っているはずだ」さとりは頭を少し頷き、目には以前の澄んだ光が戻り始めていた——その時、お空は突然制御棒を構え、ハキハキと声を上げた。「さとり様、裏切るな覚悟してください。私の今の主は智代子様ですからね!」
彼女の眼の虹色の光が一気に強まり、制御棒から赤い炎の塊が次々と飛ばされた。炎は風に乗って瞬く間に大広間全体に広がり、さとりとこいし、伊万里たちに向けて迫ってきた。
「お空さん! 君はまだ操られてるのか!」伊万里は弾幕発生機を調整し、金色の光弾を炎の塊に打ち込んだ。爆発音が響き、火の粉が四方に飛び散った。
さとりはこいしを後ろに護り、冷たい声でお空に言った。「お空、智代子さんのことを信じてるのは分かるが… 伊万里くんの言葉は正しい。幻想に源がなければ、それはただの虚構に過ぎない」
「虚構でもいい!」お空は扇を振り、更に強い風を起こして炎を加速させた。「智代子様が“自由”だと言ってくれる世界なら、虚構でも構わない! 地獄の人工太陽”!」制御棒から大きな赤い核の弾幕が発射され、風と炎が結びついて無敵のような勢いで迫ってきた。魔理沙はミニ八卦炉を構え、「星符“スターダストレヴァリエ”!」と叫び、星の光弾を核弾幕にぶつけた。
「お空、君自身が本当にそう思ってるのか!」こいしは手を広げ、周囲の風の流れを少しでも乱そうとした。
「自由に飛んでいたお空は、こんなに固くないはずだよ!」その声が風に乗ってお空の耳に届くと、彼女の制御棒の動きが一瞬だけ鈍くなった。伊万里はその隙を突いて前に進み、金色の弾幕を風の壁に打ち抜いた。「お空さん、智代子さんの想いは分かるけど、君自身の“自由”は自分で決めるものだ!」炎と金色の光が大広間の中央で激しく交わり、風鈴の音が戦いの鼓動のように響き始めた。さとりは既に操りから解けていたが、お空の心はまだ智代子の言葉に囚われており、最後の試練が今、本格的に始まった。お空は制御棒を高く掲げ、声を震わせるように叫んだ。
「爆符“ギガフレア”!」その瞬間、制御棒から赤みを帯びた巨大な人工太陽の玉が発射された。玉は風に乗って一気に膨らみ、大広間全体を灼熱の光で包み込み始めた。
「危ない!」伊万里は弾幕発生機を全力で駆動させ、ハキハキと宣言した。
「渾沌“ブラックホール”!」彼の声と共に、空の中央に小さな黒い渦が生まれ、瞬く間にブラックホールへと成長した。人工太陽の玉はその引力に引き寄せられ、一気に吸い込まれて消滅し、周囲の灼熱も一気に冷めた。
「な… なんだそれは!」お空は驚いて一歩後退したが、すぐに眼を鋭くして体全体に禍々しい炎をまとわせた。
「アビスノヴァ!」炎は弾幕となって四方に飛び散り、暗い色の火の粉が大広間に満ち溢れた。この弾幕に触れれば心まで焦がされそうな、圧倒的な力を持っていた。伊万里はその炎弾幕を避けながら、手を胸の前に合わせた。
「鎮符“アドーマインド”!」彼の体から柔らかな金色の癒しの波動が広がり、炎の粉を包み込むように広がっていった。波動がお空に当たる瞬間、彼女の禍々しい炎は一時的に弱まり、表情にも穏やかな色が見え始めた。
「…これは… 何…」お空は制御棒を握る手を緩め、周囲を見回した。「焦ってる気持ち… 苦しい気持ち… 消えていく…」さとりはこいしと一緒に前に進み、言った。
「お空、それは伊万里くんの心の光だ。君が本当に求めているのは、虚構の自由じゃなくて、こうして穏やかに息をすることでしょう、?」
「雲の上を飛ぶ時のように… 風に乗って自由に動く時のように…」お空は虹色の眼の光が薄れ始め、過去の記憶を蘇らせたような表情になった。伊万里は波動を維持しながら、笑った。
「そうだ。君自身の自由は、智代子さんが決めるものじゃない。君が思うように飛ぶ時のその気持ちが、真の自由だよ」柔らかな波動が大広間全体に満ち、禍々しい炎は完全に消え去り、風鈴の音も優しい調べに変わった——その瞬間、建物全体がガタガタと鳴り始め、天井から石が落ちてきた。霊夢は御札を手に取りながら叫んだ。
「まずいわ、さっきの衝撃で崩れようとしてる!」お空は虹色の光が完全に消えた眼で周囲を見回し、慌てて扇を振った。
「風を起こして支えるわ! でも長くは持たないから、早く逃げなければ!」強い風が大広間に吹き込み、落ちてくる石を吹き飛ばすように支えた。伊万里はこいしの手を取り、「さとりさん、お空さん、こっちに来て! 出口は入ってきた扉の方向だ!」
異変解決組は一斉に扉に向かって走り出した。建物は轟音を立てながら徐々に崩れ落ち、壁にひびが入り、床が沈み始めた。
「お姉ちゃん、早く!」こいしはさとりの手を引き、足取りを速めた。さとりは妹の手を握り締め、「大丈夫、一緒に逃げるから!」と低く言った。
お空は羽根をを全力で羽ばたかせて、風の壁を作って後ろから迫る崩れを遅らせた。
「伊万里くんたちは先に出て! 私が最後まで支えるわ!」
「お空さんも一緒に!」伊万里は扉の手前で立ち止まり、彼女を呼びかけた。「仲間だから、一緒に逃げるんだ!」
その言葉を聞いてお空は少し笑顔を浮かべ、「わかった! 一緒に出るわ!」と答えた。彼女は扇を一気に振って最後の風を起こし、その勢いに乗って伊万里たちの側に飛びついた。
その瞬間、背後の壁が完全に崩れ落ちた。伊万里は全員を先に押し出し、自分も最後に扉を抜け出した直後、建物は轟音を立てて完全に崩れ落ち、塵埃が空に舞い上がった。
塵埃が落ち着くと、地霊殿を似せた建物は跡形もなく消え去り、元の空っぽな場所に戻っていた。お空は息を弾ませながら、「…幻想は… やっぱり崩れちゃうのね…」と呟いた。
伊万里は彼女の肩を叩き、「でも君は大丈夫だよ。真の自由は、崩れないものだから!」彼らは塵埃を払い、智代子の本拠地へと続く道を見つめた。仲間はまた一つ増え、今、彼らはいよいよ最終目的地の扉の前まで、たどり着くことができた——その頃、本拠地の中で智代子は水鏡に映る崩れ落ちる建物の姿を見つめ、ハキハキと笑った。「あの建物、わざと弾幕ごっこで崩れやすいようにしたんだよね。瓦礫を埋まって少しでも足止めと考えてたけど、やはりね…」彼女の眼には決意が宿り、虹色の結晶を手に取りながら続けた。
「残る手札は神奈子、紫、アリスか。次なるは神奈子さん… 紫さん、君らに任せますよ」水鏡には突然、紫の姿が映し出された。彼女は隙間から頭を出し、ハキハキと応えた。
「了解したわ、智代子さん。神奈子さんは守矢神社の主だけに、力は侮れない。でも… 最後までこれでいいのかしら?」
「そうよ」智代子は結晶を胸に貼り付け、本拠地の最奥にある虹色の陣を見つめた。
「幻想の結界はもう完成寸前だ。彼らが陣の前に来るまで、君らが買ってくれる時間さえあれば…」水鏡には次に、守矢神社の神奈子が大きな鉾を手に取る姿が映った。彼女は神社の境内に立ち、伊万里たちが近づく方向を見つめていた。
「智代子さんの願いを守るため、ここで彼らを止める。神の力で」さらに、人形使いのアリスが無数の人形を巡らせる姿も映し出された。彼女は本拠地の入口付近に隠れ、人形たちに命令をかけていた。
「人形たち、準備はいいの? 伊万里くんたちが来たら、一気に絡みつくのよ」智代子は水鏡に手を触れ、伊万里たちが歩みを進める姿を見つめた。