【戻る日常と宴会】
異変解決から一週間が過ぎ、幻想郷は徐々に元の日常に戻り始めた。人里では新しい命の誕生が喜ばれ、妖怪達も各自の場所に戻って平穏な日々を過ごしていた。そんなある朝、伊万里が博麗神社の境内で弾幕発生機の調整をしていると、幻子が軽やかに近づいて話しかけてきた。
「伊万里くん、君、幻想郷を守るためには抹殺を選んだのね。選択したことは咎めないけど、なんか、顔が…」幻子の言葉が途切れ、彼女は伊万里の顔をじっと見つめた。伊万里は機械から目を上げ、ハキハキと笑って言った。
「顔が? なんだか変? 別に普通だよ… それにあれから以降、紫さんが八方屋に来てくれる頻度がかなり高くなってるんですよね、俺、なんか、したっけと思うくらいに」すると、その言葉の終わりと同時に、伊万里の隣に隙間がパッと開き、紫が笑顔で現れた。
「あらあら、私を落とし込もうとしたくせにさ」
「うわっ、紫さん、急に現れると驚きますよ!」伊万里はドライバーを手放しそうになり、慌てて機械を押さえた。
紫は肩をすくめ、ハキハキと言った。
「あら、呼び捨てでも構わないのに。しかし、伊万里をみてると落ち着くしね。異変の最後、君が選んだ道は厳しかったけど、正しかったと思うのよ」幻子は二人の様子を見て微笑み、「やっぱり紫さんが来てると、伊万里くんの顔も少し明るくなるよね」と言った。伊万里は少し照れたように頭を掻き、「そ、そんなことないよ… ただ、紫さんが来てくれると、話してるうちに気が晴れるんだよ」その時、霊夢が御神木の下から出てきて、茶碗を手にしながら言った
「そんなことばっかり考えてもしょうがないよ。選んだ道を前に進むんだ。智代子さんも、今は新しい始まりをしてるんだから… あと、今晩博麗神社で宴会をすることにしたよ。人里の人たちも妖怪たちも来るから、紫も当然来るし、君もきちんと参加しなさいよ」紫は隙間から茶碗を取り出し、霊夢の茶を受け取って言った。
「宴会? いいわね。今晩は八方屋を閉めて、ゆっくり楽しもうと思ってたけど、伊万里が参加するなら当然来るわ」
伊万里は調整を終えて機械を閉じ、桜の花びらを拾い上げてハキハキと笑った。
「そうだね。人里で生まれた赤ちゃんの名前が智代子だって聞いたよ。今晩の宴会で、その子のことをみんなで祝おうかな… 紫さんも一緒に、ちゃんと祝ってくれるよね?」
「もちろんだわ」紫は笑顔で頷き、境内に舞う桜の花びらを指で弾いた。日常の温かさと宴会の期待感、そして隙間から届く近しさが徐々に伊万里の心に戻ってきた——戻る日常だけど、そこには異変で得たものと失ったものが刻まれ、新たな絆も育っていたのだ。伊万里は調整を終えて機械を閉じ、桜の花びらを拾い上げてハキハキと問いかけた。「宴会って確か酒でるんだっけ、俺未成年だけど大丈夫なのか?」霊夢は茶碗を口元に当て、ハキハキと笑って言った。「あら、私達は普通に飲んでるわよ。幻想郷にはそんな厳しい掟はないんだから。ただ… 飲みすぎて大騒ぎするのはダメよ」紫も笑顔で頷き、「そうだわ。伊万里は少しだけ試してみてもいいけど、飲めないなら無理しなくていいわ。俺たちが楽しめればいいんだから」幻子は手を合わせて言った。
「それに、人里のお母さんが作った甘酒も持ってくるって聞いたよ! 甘くておいしいから、伊万里くんもそれで楽しめるよ」伊万里は安心したように笑って言った。
「甘酒か! それなら大丈夫だ! 今晩、みんなで赤ちゃんの智代子ちゃんのことも祝いながら、ゆっくり楽しもうね!」境内に舞う桜の花びらが一層美しく輝き、日常の温かさと宴会の期待感が満ち溢れていた——戻る日常だけど、そこには新しい楽しみと絆が待っていたのだ。紫も笑顔で頷き、そして突然目を細めて伊万里をじっと見つめ、ハキハキと言った。
「伊万里、君は人間や神や妖怪、妖精と言った今までの枠組では収まらない気がするわよ。君の能力、それに、君は幻想郷側に完全になった。それは新たなる挑戦かもしれない」伊万里は少し驚いて頭を傾げ、「枠組みに収まらない? 挑戦? なんだか難しいこと言うんなあ、紫さん」
「そうだけど、悪いことじゃないわ」紫は桜の花びらを指で拾い上げ、「幻想郷はいつも新しいものを受け入れてきた。君のような存在がここにいることで、また新しい幻想が生まれるのかもしれないのよ」幻子は頷きながら言った。
「そうだね! 伊万里くんがここにいるから、今回の異変も解決できたし。新しい挑戦なんて、きっと楽しいことだよ」伊万里は少し考えた後、ハキハキと笑った
「そうだね! 枠組みなんて飛び越えちゃえばいいんだ。今晩の宴会も、新しい始まりの一つだよね! 甘酒で乾杯しようぜ!」境内には明るい笑い声が響き、桜の花びらが舞い落ちる中、日常の温かさと新しい挑戦への期待感が満ち溢れていた。そして、その日の夕方、博麗神社の境内には様々な人や妖怪、神が集まってきた。太陽が西に沈み、境内には提灯の柔らかな光が点り始めると、魔理沙がミニ八卦炉を肩に掛けて飛んできた。
「おー、みんな来てるんだな! 星屑をちょっと持ってきたよ、宴会のお供に!」続いて早苗が神奈子や诹訪子と一緒に現れ、祓串を抱えながら明るく挨拶した。
「人里のお母さんたちが作ったおかきと甘酒を持ってきました! 新しい智代子ちゃんのお祝いに、甘いものは必要ですよね!」妖夢も楼観剣を腰につけ、幽々子と一緒に歩いてきた。
「私が作ったお寿司を持ってきました。伊万里さん、今回の異変ではお疲れさまでした」幽々子は扇子で口元を隠して笑い、「そうね。君が選んだ道は勇気がいったわ。今夜はゆっくり休んで楽しんでね」
その時、空から鈴仙やレミリア、フランドールたちも飛んできて、境内は一気に賑やかになった。「紅魔館からはワインを持ってきたよ!」「私はケーキを作ったの!」伊万里は八方屋を閉めて神社に着くと、その賑やかな光景に少し驚いて目を輝かせた。
「わお… こんなに人が集まるんだね! 紫さん、お前も来てるんだよ」紫は隙間から提灯を取り出して掛け、「もちろんだわ。君が参加する宴会には欠かせないじゃないか」霊夢は御神輿の横にテーブルを敷き、「さあ、みんな座って始めようよ! 今夜は異変解決と新しい命の誕生を祝って、いっぱい笑って、いっぱい話そうね!」テーブルにはおかき、寿司、ケーキ、甘酒、ワインなどが並び、提灯の光が人々の笑顔を柔らかく照らしていた。人間も妖怪も神も、皆一緒に座って話し合い、笑い合って——幻想郷特有の温かな集いが、今、始まったのだ。伊万里は暫くはその賑やかさに浸り、甘酒を飲みながらみんなと笑い合っていたが——やがて彼は静かに席を立ち、神社の裏側へと歩いていった。夕暮れの闇が迫る神社の裏は、宴会の賑やかさから少し離れた静かな場所だった。伊万里は木の根元に腰を下ろし、空を見上げて低く呟いた。
「俺は幻想郷を守るために選択した… 次はどうするか? 幻想郷でどれほどのことが出来るのか?」すると、その言葉が響いた瞬間、後ろから明るい声が聞こえてきた。
「何してるんだ? そんな辛気臭い顔をして」伊万里は驚いて振り返ると、八雲藍が扇子を手にして立っていた。
「藍さん、何故?」藍は肩をすくめ、ハキハキと言った。
「紫様の命令でね。もし、宴会時に伊万里が行方をくらまそうなら追ってとな。まったく、紫様はこんなやつのどこがいいんだか」伊万里は少し照れたように頭を掻き、そして再び真顔になってハキハキと言った。
「俺は幻想郷を守るためには正しいことはした。次は俺がどこまでできるか試してみたいとも思ってる」
「試せばいいんじゃないか」藍は伊万里の隣に腰を下ろし、空を見上げた。
「んで、どんなことをするつもり?」伊万里は唇をかんで少し考えた後、力強くハキハキと言った。「起こすかいずれ、『異変』を」その言葉に藍は少し目を見開いたが、すぐに平然と笑い返した。
「異変? 守るために異変を起こすの? 変な奴だな」
「守るために、何が必要かを知るためだ」伊万里は拳を握り締め、「今回の異変では、俺は選択する立場になった。次は俺が主役になって、幻想郷の強さや、みんなの絆を試してみたいんだ。もちろん、危険なことはしない。ただ、新しい風を吹かせるだけ」神社の裏からは宴会の笑い声が遠く聞こえてきた。藍は扇子で風を送り、「紫様には言わないけど… そんなことをするなら、私も少しは手伝ってあげてもいいよ。ただし、俺が危険だと思ったら即座に止めるからね」伊万里はハキハキと笑って頷いた。
「ありがとう、藍さん。それで俺はもっと強くなれると思う… 幻想郷を守るために」夕暮れの空には星が一つ、二つと輝き始め、神社の裏側には日常の温かさと、新たな風が吹き始める予感が満ちていた——戻る日常だけど、そこにはすでに次の物語の種が蒔かれていたのだ。伊万里と藍が神社の裏で話していると、遠くから宴会の賑やかさが少し静まり、誰かの足音が近づいてくるのが聞こえた。振り返ると、幻子が提灯を持って歩いてきた。
「伊万里くん、ここにいたのね! みんなで君を探してるよ。特に魔理沙ちゃんが“甘酒をもっと飲もうじゃん!”って騒いでるんだけど」幻子が二人の様子を見て、少し疑問に思うように目を細めた。
「藍さんもここに… 何してるの? 秘密の話?」伊万里は慌てて拳をほどき、ハキハキと笑った。
「いやいや、別に! ただ少し空気を吸ってるだけだよ。さあ、一緒に戻ろうか?」
「あら、そうなの?」幻子は笑顔で頷き、提灯の光を伊万里の顔に当てた。
「でも君の顔、前より明るくなったよ。良かったね」藍も静かに立ち上がり、「紫様に報告するためにも戻るわ。伊万里、後で話し合おうね」とささやくように言った。三人が一緒に境内へ戻ると、魔理沙がすぐに飛びかかってきた。
「おい伊万里! 逃げてどこ行ってたんだ! この星屑入りの甘酒、初めて作ったんだから飲んでみろ!」早苗も手を振って呼んだ。
「伊万里くん! 人里のお母さんが新しい智代子ちゃんの写真を持ってきたよ! ちょっと見てくれる?」伊万里はその賑やかさに包まれ、魔理沙が持ってきた甘酒を受け取って一口飲んだ。甘くてすっぱい星屑の味が口の中に広がり、彼はハキハキと笑った。「うわっ、なんだこの味! 変だけどおいしいな!」早苗が持ってきた写真を見ると、小さな赤ちゃんが布団に包まれ、唇を少し動かしている姿が写っていた。伊万里はその写真をじっと見つめ、心から微笑んだ。
「…これが新しい智代子ちゃんか。元気そうだな」レミリアがグラスを高く掲げて言った。
「さあ、みんな! 異変解決と新しい命の誕生を祝って乾杯しよう!」
「乾杯!」境内には一斉に声が上がり、提灯の光が皆の笑顔を照らしていた。伊万里は甘酒のコップを高く掲げ、心の中で呟いた。
「今は日常を楽しもう… そしていつか起こす異変のために、今から強くなるんだ」夜は更け、宴会はまだ賑やかに続き、幻想郷の空には無数の星が輝き、新たな物語への期待感が満ち溢れていた——日常は戻ったけれど、そこには確かに“次”への扉が開かれていたのだ。伊万里は魔理沙や早苗たちと笑い合いながら、時折空を見上げて考え事をしていた——頭のなかにはいつか起こす“異変”のシナリオがぼんやりと浮かんでいるのだが、今はまだはっきりと具現化させることはできない。おそらく、準備が足りていないからだ。その時、紫が隙間から静かに現れ、藍の隣に立ってハキハキと問いかけた
「藍、伊万里から何か聞いた?」藍は袖で口元を隠し、紫に向かってささやくように言った。
「あら、紫様が気づいてたのですね。少しだけ… 次に何をするかって話は聞いたけど、詳しくは言いませんでした」
「ふふっ、そう?」紫は伊万里の方向を見つめ、笑顔が少し深くなった。
「その子の頭のなかには何か描かれているのが分かるわ。今はまだ曖昧だけど… 必ずいつか具現化するんだろうね」
「紫様、それは危険じゃないですか? 伊万里が異変を起こすって…」
「危険かしら?」紫は肩をすくめ、「その子は幻想郷を守るために生きてるんだから。たとえ異変を起こしたとしても、それは“守るための試し”に違いないわ。それに、俺たちがここにいるんだし、何かあったら止めればいいじゃないか」その時、伊万里が偶然二人の方向を見つけ、手を振って笑ってきた。
「紫さん! 藍さん! こっちに来て甘酒飲もうよ! 魔理沙が星屑をさらに入れちゃったけど、意外とおいしいんだ!」
紫は隙間からコップを取り出し、「いくわよ。藍も一緒にね」と言って伊万里のもとへ歩いていった。藍は少し心配そうに頷き、後を追っていった。
伊万里は紫にコップを渡し、ハキハキと言った。「紫さん、今晩はありがとう。こんなに楽しい宴会になるとは思わなかったよ」
「ふふっ、楽しいのならそれでいいわ。今は日常を楽しもう、伊万里。準備ができた時には、自然とその頭のなかのシナリオが明確になるから」夜の空には満月が輝き、提灯の光が皆の笑顔を柔らかく照らしていた。伊万里は紫の言葉を聞き、心の中の曖昧なシナリオが少しだけ鮮明になったような気がした——今はまだ準備が足りないけど、いつか必ず、自分だけの形で幻想郷を守る“異変”を起こすんだ、と。宴会はさらに賑やかに続き、幻想郷の夜は長く、温かく続いていた。