【行う準備前編】
夜が明け、博麗神社の宴会はついに終わった。境内には提灯の明かりが薄れ、テーブルの上には空になったコップや食器、残り少ないお菓子たちが散らかっていた。霊夢と伊万里はそっと起き上がり、早めに片付けを始めていた。
「ふう… みんなやけに飲んでたね。幽々子さんは最後まで寿司を食べ続けて、妖夢ちゃんが苦労してたよ」霊夢は空のワインボトルを積み上げながら、ハキハキと笑った。
伊万里は箸をまとめて拭き、「魔理沙も星屑を甘酒に入れ続けて、最後は自分で飲んで酔っぱらって、八雲藍さんの膝の上で眠ってたよね。藍さんがキレそうになってたけど、結局柔らかく抱いてたんだ」
「ふふっ、そうなの? 紫さんもその光景を隙間から見て、にやりと笑ってたよ」霊夢はテーブルを拭きながら、伊万里の顔をじっと見つめた。
「君、昨晩は神社の裏で何か話してたんだね。藍と二人で」伊万里は手を一時的に止め、少し考えた後にハキハキと言った。
「んー、ちょっとだけ未来のことを話し合ったよ。俺が今後、幻想郷で何をしようかって」
「未来のこと?」
「うん。今回の異変では守るために選択をしたけど、次は自分の力を試してみたいと思ってるんだ。準備をして、いつか新しい“異変”を起こすかもしれない」霊夢は拭き掃除を終えて腰を下ろし、「異変を起こすの? 守るために?」
「そうだ。俺が異変を起こすことで、みんなの絆や幻想郷の強さを試せるんだ。もちろん危険なことはしない。ただ、新しい風を吹かせるだけ」伊万里も食器を仕舞って霊夢の隣に座り、「霊夢、それでも俺を討伐するの?」
霊夢は唇をかんで少し笑い、「討伐するかどうかは、その時の君の様子によるわ。でも… 君が起こす異変なら、きっと正しい理由があると信じてる。だから準備はいいけど、急ぎすぎないでね」朝の光が境内に差し込み、昨夜の賑やかさが去った後の静けきが優しく包んでいた。伊万里は霊夢の言葉を聞き、心から安堵したように笑った。
「ありがとう、霊夢。準備はゆっくりするよ。今はまず、八方屋の仕事を頑張って、必要なものを集めるんだ」その時、紫が隙間から現れて「おはよう。片付けはお疲れさまね」と挨拶した。
「伊万里、準備のことは私たちも少しは手伝ってあげるわ。ただし、俺たちが許せないことをするなら、最初に止めるからね」伊万里はハキハキと笑って頷いた。
「もちろんだ! 今から行う準備… これが新しいスタートだね!」朝の光が輝き、幻想郷には新たな一日と、伊万里の“準備”の始まりが訪れていた。片付けが終わると、伊万里は少しもゆっくりする間もなく、八方屋の裏にある自分の工房へと急いで戻ってきた。工房のドアをパッと開けると、機械の部品や工具、半完成の装置が散らかっているが、彼にはそれが逆に落ち着く空間だった。
「早速始めようか」伊万里は工房の中央に立ち、周囲を見回しながらハキハキと呟いた。
「必要なものは石材と木材と彫刻刀など加工道具だな… あとは設置するためにそうだな、荷車を使うか」彼は机の上に置いてあるノートにペンを持って書き始めた。
「石材は人里の石工さんから買おうか、それとも幻想郷の奥の山から採ってくるか… 採るなら妖夢ちゃんに手伝ってもらえるかも。木材は魔法の森の木が硬くて使いやすいから、魔理沙に道案内してもらおう」ノートには一つ一つ道具の名前が書き込まれ、彼の目はだんだんと輝き始めた。
「彫刻刀は八方屋にあるのを使うけど、少し新しいのも必要かな… 荷車は人里にある古いのを借りるか、自分で作るか。作るなら鉄の部品も必要になるな」その時、工房の窓から藍が顔を出して言った。
「おい伊万里、そんなに急いで何してるの? 昨夜は宴会で疲れてないのか?」
「藍さん! 窓から入るのは危ないよ!」伊万里は驚いてペンを落とし、「疲れてないよ。準備は早く始めた方がいいだろ? 必要なもののリストを作ってるんだ」
藍は窓から入って工房に立ち、ノートを見ながら言った。「石材と木材か… 紫様が人里の石工さんと知り合いだから、紹介してあげるよ。荷車は紅魔館に置いてある古いのを使ってもいいよ、レミリア様が捨てる予定だったから」
「それは助かる! ありがとう、藍さん!」伊万里はペンを拾い上げ、ノートに「紫さん紹介で石材購入」「紅魔館から荷車借用」と書き加えた。
「これで一つ一つ準備が進んでくるんだ。俺の頭のなかのシナリオも、こうして道具を集めるたびに鮮明になってくるよ」工房の中は太陽の光が差し込み、道具たちが静かに輝いていた。伊万里の“準備”は、この小さな工房から確かに始まっていたのだ。工房で必要なもののリストを作り終え、藍からの協力も得た伊万里は、すぐに行動に移した。彼はハキハキと笑いながら言った。
「まずは各地に小規模の祠を設置する! 最初に行くは人里の出入り口だ」紅魔館から借りた荷車には、紫の紹介で入手した石材や魔法の森の木材、彫刻刀などの道具がしっかりと積まれていた。伊万里は荷車を引きながら人里の出入り口へと向かい、そこに広がる空き地を見つめて頷いた。
「ここがいいな。人里と人里の外との境目にあるから、誰もが通り過ぎる場所だ」彼は机の上に描いてあった設計図を広げ、それをもとに作業を始めた。設計図には小さな祠の形が明確に描かれていて、屋根は丸みを帯び、柱には簡単な紋様が彫られる予定になっていた。
「まずは石材で土台を作るんだ」伊万里は彫刻刀を手に取り、石材を削り始めた。力強い手つきで不要な部分を取り除き、やがて安定した土台の形が浮かび上がってきた。太陽が高くなり、少し汗をかいたけれど、彼の目は一層輝いていた。その時、人里から石工さんが通りかかり、驚いたように声をかけた。
「おや、伊万里くん? ここに祠を作るのかい? 紫さんが話していたけど、実際に始めちゃったんだね」
「石工さん!」伊万里は手を止めて笑った。「うん、最初の一歩だよ。設計図通りに作ってるけど、この土台、大丈夫かな?」
石工さんは土台を見て頷き、「うん、結構いい出来じゃないか。ここに少し傾きを調整したら、もっと安定するよ」とアドバイスをしてくれた。伊万里はそのアドバイスに従って土台を調整し、続いて木材で柱や屋根を作り始めた。午後になると、あらかたの祠の形が完成し、柱には「幻想を守り、絆をつなぐ」という小さな文字を彫り込んだ。
「おお、これで最初の祠が完成だ!」伊万里は後ろに下がって自分の作品を見つめ、ハキハキと笑った。人里の出入り口に立つ小さな祠は、太陽の光を浴びて静かに輝いていた——これが、彼の“異変”への準備の最初の一歩だったのだ。人里の出入り口の祠が完成すると、伊万里は荷車に残った道具を整理し、すぐに次の目的地へと向かった——それは魔法の森の出入り口だ。森の入口付近は緑の木々が密集し、陽の光が細かく漏れ込んでいる神秘的な場所だった。
「ここも境目だから、祠を建てるのに最適だな」伊万里は荷車を止め、周囲を見回しながらハキハキと呟いた。設計図は人里の時と同じだけど、今回は森の雰囲気に合わせて、木材の色をそのまま使い、柱には葉っぱの紋様を彫る予定にしていた。作業を始めると、木々の間から魔理沙が飛んできて「おい伊万里! ここで何してるんだ? 俺が案内するって言ったのに、一人で来ちゃったな!」と声をかけた。
「魔理沙! 悪い悪い、急いできちゃったんだ」伊万里は彫刻刀を手に笑った。「森の木材、前に言ったように硬くて使いやすいんだ。ここで祠を建てると、森を通る妖怪たちや妖精たちにも気づいてもらえるよ」
魔理沙は腰を下ろして作業を見守り、「へえ、祠か。何の祠なんだ?」
「まだ何の祠かは決めてないけど… 幻想を守り、絆をつなぐためのものだよ。人里の時と同じ文字を彫るんだ」伊万里は石材で土台を作り始め、魔理沙も手伝って木材を運んでくれた。少しすると、森の奥からリリーホワイトやスターサファイアなどの妖精たちが飛び来て、祠の作業を見て驚いていた。
「わあ、新しいものが建つの? 可愛いね!」「完成したらお供え物を置いてくるね!」午後が過ぎ、夕暮れが近づくと、魔法の森の出入り口にも小さな祠が完成した。柱には葉っぱの紋様と「幻想を守り、絆をつなぐ」の文字が彫り込まれ、緑の木々に抱き込まれるように静かに立っていた。
「おお、完成だ!」伊万里は後ろに下がって作品を見つめ、ハキハキと笑った。魔理沙も頷きながら「これで人里と魔法の森に祠があるね。次はどこに建てるの?」と問いかけた。伊万里は荷車を準備しながら言った。
「次は紅魔館の近くか、あるいは冥界の入口かな… 一つ一つ建てるたびに、頭のシナリオがますます鮮明になってくるんだ!」夕暮れの光が森に染み込み、祠の木製の部分が温かな色に輝いていた——これが、彼の準備の二番目の一歩だったのだ。魔法の森の祠が完成し、夕暮れに工房に戻ると、伊万里は少しも休むことなく、別の作業に取り掛かった。工房の明かりを明るくつけ、机の上には鏡、蓄電バッテリー、配線、プラスチック箱がぎっしりと並んでいる——彼はこれらを使って何らかの装置を作っていたのだ。
「まずはプラスチック箱を加工して、装置の本体にするんだ」伊万里はカッターナイフを手に取り、箱の側面に穴を開け始めた。手つきは慎重だが確かで、やがて配線を通すための穴と鏡を取り付けるための溝が出来上がった。
「鏡は光を反射させるため、蓄電バッテリーは夜でも動くように電力を貯める… 配線はここに接続して、スイッチを押せば一気に光が出るようにしよう」彼はピンセットで細かい配線を接続し、時折マルチメーターで電圧を確認していた。
その時、工房のドアが静かに開き、紫が入ってきた。
「おや、夜中まで働いてるの? 祠の作業で疲れてないの?」
「紫さん! 急に入ってきて驚くじゃないか」伊万里は手を止めて笑ったが、すぐに配線の作業に戻った。
「疲れてないよ。この装置が祠と一緒に使えると思うから、早く作りたかったんだ」紫は机の側に立ち、装置の部品を見ながら「鏡とバッテリー… 光を使う装置なのね。何にするの?」
「まだ名前はないけど… 祠にこの装置を取り付けると、幻想郷の各地で光がつながるようになるんだ。それが“異変”のキーになると思ってる」伊万里は最後の配線を接続し、スイッチを押した——すると、鏡から柔らかな金色の光が反射し、工房の中が温かく照らされた。
「おお、動いた!」伊万里は目を輝かせ、装置を手に取って見つめた。
「この光が各地の祠を結ぶと、みんながその光を見て集まってくるんだ。それが“絆をつなぐ”意味になるんだよ」紫は光を見つめ、少し微笑んだ。
「ふふっ、趣味深いわ。この光、君の力の色に似てるね。準備は順調に進んでるのね」夜が更けても、工房の明かりと装置の金色の光は消えず、伊万里の“異変”への準備は確かに深まっていた。夜通し装置の作業を終え、少しだけ眠った伊万里は、朝早くから荷車を準備して次の目的地へ向かった——それは幻想郷北東にある霧の湖だ。朝の湖は薄い霧に包まれ、水辺から冷たい風が吹き抜けていたが、太陽の光が霧を抜けると、湖面がキラキラと輝く神秘的な景色になっていた。
「ここもいい場所だな。霧の湖は妖怪たちが集まる場所で、紅魔館からも近いし」伊万里は荷車を湖のほとりに止め、周囲を見回しながらハキハキと呟いた。今回は水辺の雰囲気に合わせ、石材の表面を滑らかに磨き、柱には波の紋様を彫る予定だった。
作業を始めると、湖の中かわかさぎ姫が浮かび上がって「おや、新しいお友達? ここに何を建てるの?」と好奇心旺盛に声をかけた。
「わかさぎ姫か」伊万里は彫刻刀を手に笑った。
「祠を建てるんだ。ここに立てると、湖の妖怪たちも気づいてくれるよ」
すると、空からフランドールが飛んできて「伊万里! お姉様が“湖のほとりで何か建ててるようだから見に行け”って言ったの! これが祠なの? 可愛いね!」フランドールも手伝って石材を運んでくれ、伊万里は土台を作り始めた。霧が徐々に晴れ上がると、湖面に映る祠の土台の姿が美しく、彼は弾んだような気持ちで作業を進めていた。午前中には土台が完成し、続いて柱や屋根を組み立て始めると、湖の周りには他の妖怪たちも集まってきて作業を見守っていた。
「完成したら水の花をお供えするね!」「光が反射したら湖面が一層きれいになるよ!」昼過ぎになると、霧の湖のほとりにも小さな祠が完成した。柱には波の紋様と「幻想を守り、絆をつなぐ」の文字が彫り込まれ、湖面に映る姿はまるで水の精霊の家のようだった。
「おお、完成だ!」伊万里は後ろに下がって作品を見つめ、ハキハキと笑った。フランドールも手を叩いて「すごい! レミリア姉様に見せに行こう!」と言って飛び去った。伊万里は荷車を準備しながら、昨夜作った装置を手に取って祠にかざした。
「この装置を取り付けたら、ここからも金色の光が届くんだ… もう少しで各地の祠が結ばれるよ」湖面には太陽の光が輝き、祠の石材が水色に映えていた——これが、彼の準備の三番目の一歩だったのだ。霧の湖の祠が完成すると、伊万里は装置を荷車にしまい、すぐに次の二つの場所へと向かった——妖怪の山の入り口と、その近くにある古い竪穴だ。妖怪の山は高くそびえ、山肌からは神々しい空気が漂っていた。伊万里は荷車を山の入り口付近の平らな場所に止め、ハキハキと言った。
「ここは妖怪たちの住処の入り口だから、祠を建てることで山の住人たちとの絆もつながるんだ」今回は山の風格に合わせ、石材を大きめに使い、柱には雷の紋様を彫る予定だった。作業を始めると、空から早苗が神奈子や诹訪子と一緒に降りてきた。「伊万里くん! 山で祠を建てると聞いてきたの! 神奈子様、诹訪子様も見に来てくださったよ」神奈子は祠の土台を見て頷き、「この場所は山の気脈が通っている。祠を建てることで、幻想郷の力が一層安定するだろう」伊万里は感謝の言葉を言いながら作業を進め、早苗たちも手伝って石材を運んでくれた。午前中には祠の形があらかた完成し、柱に雷の紋様といつもの文字を彫り込んだ。山の風が祠をなでるように吹き、その姿は力強くも優しい感じだった。妖怪の山の祠が完成した後、伊万里は少し離れた場所にある古い竪穴のそばへと移動した。竪穴は深く、底が見えないほど暗かったが、周囲には珍しい草花が咲いていた。
「この竪穴は古くから存在してるらしい。誰もが忘れかけている場所だから、祠を建てることで“見落とされた場所”も絆につなげたいんだ」伊万里はハキハキと呟き、竪穴の横の空き地に土台を作り始めた。
今回は小さめの祠にし、柱には草花の紋様を彫る予定だった。作業を始めると、竪穴の中から小さな妖怪が顔を出して「おや、新しいものが建つの? 寂しかったこの場所に… 嬉しいよ」と囁くように言った。夕暮れが近づくと、竪穴のそばの祠も完成した。小さな姿だが、周囲の草花と調和し、暗い竪穴を照らすような存在になっていた。伊万里は後ろに下がって両方の祠を見つめ、ハキハキと笑った。
「妖怪の山と竪穴にも祠が完成! これですでに四つ目と五つ目だね。各地に点在する祠が、いつか装置の光で一つに結ばれる時が近づいてるよ」山の夕暮れの光が祠を染め、竪穴の中からは柔らかな風が吹き出してきた——これが、彼の準備の四番目と五番目の一歩だったのだ。夕暮れに妖怪の山と竪穴の祠を完成させ、伊万里は疲れながらも満足そうな顔で工房に戻ってきた。ドアを開けると、昨夜作った金色の光の装置が机の上に置かれていて、薄暗い工房を柔らかく照らしていた。
「ふう… 今日も一日中働いたな」伊万里は荷車を片付け、机に腰を下ろして汗を拭いた。そして、手を頭に置きながらハキハキと呟いた。「明日は旧地獄と博麗神社近くの森に建てよう」
その言葉を聞いて、隙間から藍が現れた。「旧地獄? そこは熱いし危険な場所だよ。一人で行くのはダメだわ」
「藍さん! いつも隠れてるんだね」伊万里は笑って頷き、「危険なのは知ってるけど、旧地獄にも住んでる妖怪たちがいるから。祠を建てることで、彼らも幻想郷の絆につながるんだ。一緒に行ってくれる?」
「紫様に報告してからだけど、わかったわ。旧地獄は俺が案内してあげる」藍は机の上の装置を見て、「この装置はもう数個作る予定? 祠の数だけ必要じゃないの?」
「うん、今晩少し休んで、明後日は装置を増やすよ。今日建てた五つの祠にも、早く装置を取り付けたいから」伊万里はコップに水を入れて飲み、「博麗神社近くの森は、昨日建てた魔法の森の祠と近いけど、神社周りは特別だから。そこに祠を建てると、中心から光が広がるようになるんだ」
工房の明かりと装置の金色の光が重なり、伊万里の目には明日への期待が輝いていた。夜が更けても、彼の頭の中には各地の祠が光で結ばれる姿が鮮明に浮かび、“異変”への準備は確かに最後の段階に近づいていた。