夜通し明日の計画を頭の中で整理し、少しだけ眠った伊万里は、朝早くから藍と一緒に準備を始めた。荷車には石材、木材、彫刻刀に加え、昨夜完成させた追加の光の装置もしっかりと積まれていた。伊万里と藍は妖怪の山の裏側を通り、旧地獄へと向かった。地獄谷からは熱い蒸気が立ち上がり、周囲はほのかに赤く染まっていた。藍は扇子で蒸気を払いながら言った。
「ここは強い妖怪たちが住んでるから、油断しちゃダメよ」
「わかった。祠を建てる場所は… あの平らな岩場がいいな」伊万里は谷の奥にある蒸気の少ない場所を指差し、ハキハキと言った。今回は旧地獄の雰囲気に合わせ、石材を赤みがかったものに選び、柱には炎の紋様を彫る予定だった。作業を始めると、遠くから勇儀が大きな足取りで近づいてきた。
「おや、人間が地獄に祠を建てるのか? 珍しいね!」
「勇儀さん! この祠で旧地獄の住人たちと幻想郷の他の場所をつなぎたいんだ」伊万里は頭を下げて挨拶し、勇儀も喜んで手伝ってくれた。力強い勇儀のおかげで、重い石材もすぐに運び終え、午前中には祠の形が完成した。柱に炎の紋様と「幻想を守り、絆をつなぐ」の文字を彫り込み、装置を取り付けてスイッチを押すと——金色の光が赤い岩場に映り、熱い旧地獄にも温かな輝きが広がった。
「おお、完成だ! これで旧地獄にも祠があるね!」伊万里はハキハキと笑い、勇儀も大きな声で「いいものを作ったな! 後でお酒をお供えするぞ!」と言って去っていった。
旧地獄の作業が終わると、伊万里と藍はすぐに博麗神社へと戻り、その近くの森へと向かった。この森は神社を守るように広がっていて、御神木の根がここまで伸びていると言われていた。
「ここは幻想郷の中心に近い場所だから、祠を建てると光が四方に広がりやすいんだ」伊万里は荷車を止め、周囲の大きな木々を見つめながらハキハキと呟いた。今回は御神木に合わせ、古い木を使い、柱には木の葉と星の紋様を彫る予定だった。作業を始めると、霊夢が神社から歩いてきた。
「伊万里、ここにも祠を建てるのね。御神木が喜んでるような気がするわ」霊夢も手伝って木材を組み立て、伊万里は彫刻刀で細かい紋様を彫り込んだ。昼過ぎには祠が完成し、装置を取り付けると——金色の光が木々の間を通り、御神木の方向まで届くように輝いた。
「おお、全部完成だ!」伊万里は後ろに下がって、これまで建てた七つの祠の場所を頭の中で確認し、ハキハキと笑った。
「人里、魔法の森、霧の湖、妖怪の山、竪穴、旧地獄、そしてここ… 全ての祠に装置を取り付けたら、“異変”の準備は全部終わるんだ!」霊夢は祠を見つめながら言った。
「準備が終わったら、いつ異変を起こすの?」
「まだ少し待つよ。みんなが祠の存在に慣れるまで… そして、最適な時が来たら」伊万里は装置の光を見つめ、頭の中に鮮明に浮かんだシナリオを確かめるように呟いた。
森の風が祠をなで、御神木の葉がさらさらと音を立てた——伊万里の長い“準備”は、ついに終わりを迎えようとしていた。博麗神社近くの森の祠に装置を取り付け、七つ目の作業が終わると、伊万里は満足そうに工房に戻ってきた。ドアを開けると、机の上には全ての祠の位置を記した地図が広げられていた。彼は地図を見つめながら、ハキハキと呟いた。
「祠には装置も取り付けたし、あとは日が来るまでだ… だが、魔界と冥界にも祠作っておくか」
その時、紫が隙間から出てきて「魔界と冥界? それは少し遠い場所だけどね。準備はもう終わったと思ってたのに」と笑った。
「うん、だけど幻想郷だけじゃなく、隣の世界に住む者たちとも絆をつなぎたいんだ」伊万里は荷車を再び準備しながら言った。
「魔界は神綺たちが知ってるし、冥界は妖夢ちゃんと幽々子さんがいるから、案内してもらえるかな」
「そうね。冥界は俺が案内してあげるわ。魔界は紫様が神綺に伝えておくよ」藍もそばに立って、道具を確認した。工房の壁に九つの祠の地図を貼り、スイッチを手にした伊万里は、突然頭を傾げてハキハキと呟いた。「それと妙蓮寺に続く階段の墓地付近と無縁塚にも祠は作っておくか」
その言葉を聞いて、紫が隙間から顔を出した。
「ふふっ、まだ終わらないのね。妙蓮寺の墓地と無縁塚… それらは“捨てられた想い”が集まる場所だよ」
「それが理由だよ」伊万里は荷車を再び準備しながら言った。
「幻想郷には見えないところにも、誰かの想いが残っている場所がある。そんな場所にも祠を建てれば、絆が一層広がるんだ。今から行くよ、一人で大丈夫だ」
「わかったわ。でも危険ならすぐ呼んでね」紫は微笑んで、隙間に消えていった。伊万里は人里から妙蓮寺へと向かう階段を登り、途中にある墓地付近に荷車を止めた。ここは静かで、古い墓石が並んでいて、風には線香の香りが混じっていた。
「ここは人々が故郷を思う場所だから、祠を建てるとその想いも絆になるんだ」伊万里は平らな場所を選び、石材で土台を作り始めた。今回は簡素な祠にし、柱には蓮の紋様を彫る予定だった。
作業を始めると、妙蓮寺から響子が出てきて「おや、ここに祠を建てるのか? 亡くなった者たちも喜んでるよ」と言って手伝ってくれた。少しすると、墓地の近くには小さな精霊たちも集まってきて、作業を見守っていた。
昼過ぎに祠が完成し、装置を取り付けると——金色の光が墓石の間を柔らかく照らし、線香の香りと合わせて穏やかな空気になった。「おお、完成だ! ここの想いもつながるよ」伊万里はハキハキと笑った。妙蓮寺の作業が終わると、伊万里はすぐに無縁塚へと向かった。無縁塚は誰も知らない者たちの墓が並ぶ場所で、少し寂しげだが、周囲には美しい野菊が咲いていた。
「ここは“名前のない想い”が集まる場所だから、祠を建てることで彼らも一人にならないんだ」伊万里は塚の横の空き地に土台を作り始めた。今回は小さくて可愛らしい祠にし、柱には野菊の紋様を彫る予定だった。作業を始めると、無縁塚から小さな亡霊が浮かび上がって「新しい家が建つの? 嬉しい… 一人ではないんだね」と囁いた。伊万里は笑顔で頷き、作業を進めた。夕暮れに祠が完成し、装置を取り付けると——金色の光が野菊を照らし、無縁塚にも温かな輝きが広がった。伊万里は地図を取り出し、十一番目と十二番目の印をつけた。
「やった! 全部十二つだ!」伊万里は地図を見つめ、ハキハキと言った。
「これで幻想郷と隣の世界、そして忘れられた場所まで、全部の絆がつながる準備ができた… あとは日が来るまで待つだけだ!」
夜の空に星が輝き、工房に戻った伊万里の手には装置の総スイッチが確かに握られていた——“異変”の始まりが、もうすぐそこにあった。夕暮れに無縁塚の祠を完成させ、伊万里は疲れきった体で自分の家の自室に戻ってきた。ドアを閉め、ベッドの端に腰を下ろすと、手の中には十二つの祠の位置を全部記した地図が残っていた。
彼は地図を膝の上に広げ、指で一つ一つの場所をなぞりながらハキハキと言った。「博麗、人里近く、魔法の森近く、霧の湖、妖怪の山近く、竪穴、旧地獄、魔界、冥界、そして、妙蓮寺に続く墓地、無縁塚… すべてに祠を設置した」
その瞬間、自室の窓から月の光が差し込み、地図の上に柔らかく照らされた。十二つの印が、まるで星座のようにつながって見えた。
「ふう… 長かったな」伊万里は背中をベッドに預け、空を見上げた。頭の中にはこれまでの作業の記憶が一気に蘇ってきた——人里の石工さんのアドバイス、魔理沙の手伝い、勇儀の大きな笑い声、無縁塚の亡霊の囁き… それぞれの場所で見た景色や人々の顔が鮮明だった。その時、ドアが静かにノックされ、藍が入ってきた。
「お疲れ様。全部終わったのね」
「うん、終わった」伊万里は地図を拾い上げて藍に見せ、「これで十二つの祠が幻想郷と周りの世界を結ぶ。装置の総スイッチを押せば、全部の祠から金色の光が出て、一つの大きな絆になるんだ」
藍は地図を見つめ、「紫様も知ってると思うけど… 君の作った祠たちは、ただの建物じゃないよ。そこには君の想いと、それぞれの場所の想いが宿ってるんだ」
伊万里はハキハキと笑って頷き、「それが“異変”の意味だよ。光がつながる瞬間に、みんながその絆に気づいてくれると思う… 、その時を待つんだ」
月の光が自室を照らし、伊万里の目には確かな希望が輝いていた——長い準備の日々はついに終わり、“異変”への幕開けがもうすぐ始まるのだ。伊万里が自室で疲れを癒す一方、すきまのさきにある紫の館では、二人の妖怪が静かに会話をしていた。館の中は柔らかな明かりに包まれ、窓からは幻想郷の夜の景色が見えていた。紫は椅子に深く座り、扇子を手にハキハキと笑って言った。
「伊万里、君が起こすことはどんなものか見ものだよ。たぶん2週間後に実行予定なんだよね」藍は紫の隣に立ち、コップにお茶を注ぎながらハキハキと言った。
「それにしても大がかりにしたものですよ。まあ、手伝った私が言うのもなんですが… 十二つの祠を建てるなんて、最初は思わなかったわ」
「ふふっ、それがその子のところよ。一旦決めたことは、中途半端にしないんだから」紫はお茶を口元に当て、伊万里の自室の方向を隙間越しに見つめた。
「2週間後… その時は幻想郷中が金色の光に包まれるのだろうね。みんながその光を見て、何かに気づくと思うわ」
「紫様は最初からその子を信じてたのですか?」
「もちろんだわ。彼が幻想郷を守るために何かをすると思ってたから。今回の“異変”は、討伐するようなものじゃなく、みんなで一緒に楽しむような… いや、それ以上の意味があるんだろう」紫は扇子で唇を隠し、笑顔が深くなった。藍は頷きながら言った。
「そうですね。十二つの祠に宿った想いが結ばれる瞬間… 私もそれが見たいです」
館の中は静かになり、二人は隙間越しに幻想郷の夜を見つめていた——2週間後の“異変”を、心待ちにしていた。自室で明日への期待を抱きながら少し眠った伊万里は、朝早くから家の裏庭に出て、能力の特訓を始めていた。裏庭には昨日まで使っていた道具がまだ置いてあり、空には朝の光が差し込んでいた。
「2週間後には装置を全部作動させるから、自分の能力もちゃんと鍛えておかないと」伊万里は手を広げ、体に力を込めてハキハキと呟いた。彼の能力は「光を結ぶ力」で、祠の装置と相まって働くことで、十二つの光を一つにつなぐキーになるのだ。作業を始めると、手のひらから薄い金色の光が溢れ出てきた。彼はその光を集中させ、庭に置いてある木の枝を指差した——すると、光が枝に届き、枯れかけていた葉っぱが少し緑に蘇った。
「まだ力が弱いな… 一つの光だけでは十二つを結べない」伊万里は唇をかんで、再び力を込めた。今度は両手を広げ、光を大きく広げて庭全体を包むようにした。朝の光と合わさって、裏庭は温かな金色に染まった。
その時、家の玄関から魔理沙が飛んできて「おい伊万里! 朝から何してるんだ? 光が輝いてて遠くから見えたよ!」
「魔理沙! 特訓してるんだ。2週間後のために能力を鍛えるよ」伊万里は光を收めて笑った。
「へえ、2週間後? それが君の言う異変の日か?」魔理沙は腰を下ろして特訓を見守り、「私も手伝うか? 魔法で光を増やしてあげるよ」
「それは助かる! お願いする!」魔理沙が八卦炉を取り出し、青い魔法の光を放つと、伊万里の金色の光と混ざり合い、一層強く輝き始めた。伊万里はその光を受け取り、集中して十二つの祠の場所を頭の中に浮かべながら、光を“結ぶ”練習をした。午前中が過ぎると、彼の手から放つ光は前よりも強く、はっきりと方向を制御できるようになった。
「おお、ちょっとうまくなった! 2週間後ならきっと、全部の光を一つに結べるよ!」伊万里はハキハキと笑い、魔理沙も手を叩いて応援した。裏庭の草花が光に照らされて鮮やかに咲き、伊万里の能力は確かに強くなっていた——2週間後の“異変”のために、彼は日々鍛え続けるのだ。裏庭での特訓を終え、伊万里は汗を拭いて工房に向かった。ドアをパッと開けると、机の片隅に何か光るものが置かれているのに気づいた。
「装置もだが…」彼は近づいて見ると、そこにあったのは先の智代子異変の遺物——“虹妖怪の遺物”だった。透明なオーブを中心に、虹色の光を放つ細かい部品が散らばっていて、昔の戦いの跡が今でも鮮やかに残っていた。伊万里はオーブを指でつつきながら、ハキハキと呟いた。「思い出させるな、これ… オーブ以外は壊そうと思えば壊せたけど」その言葉に、工房の窓から紫が顔を出した。
「それを残していたのね。智代子異変の時、君はこの遺物を使って最後の選択をしたんだから」
「うん… その時は幻想郷を守るために、この虹の光を使って異変を収束させたよ」伊万里はオーブを手に取り、虹色の光が手のひらに広がるのを見つめた。
「壊さなかったのは… この光が、今から起こす“異変”の光と重なるかもしれないと思ったからだ」
「ふふっ、それは趣味深いわ。過去の光と未来の光が結ばれる… それが君の絆の一つになるのかもしれない」紫は笑って、「装置の調整は大丈夫? 2週間後には一気に作動させるからね」
「うん、最後のチェックをするよ。この虹のオーブを装置の中心に入れれば、金色の光が一層強く輝くと思う」伊万里はオーブを机の上の装置にかざし、虹色と金色の光が混ざり合うのを見て、目を輝かせた。
工房の明かりが二つの光を照らし、過去の記憶と未来の希望がそこに交わっていた——伊万里はこの遺物を胸に抱き、2週間後の“異変”への最後の調整を始めた。