工房で虹妖怪の遺物を装置に調整していると、伊万里は突然過去の記憶を思い出した——太陽の花畑、そこには一年中太陽の光を浴びて輝く花が植わっていると聞いたことがあった。
「あっ! 祠は太陽の花畑付近にも作ろう!」伊万里は手を止め、ハキハキと声を上げた。これまで十二つの祠を建てたけれど、太陽の光が最も強い場所には祠がなかったことに気づいたのだ。
「太陽の花畑? そこは幽香さんが育てている場所だよ」工房の入口から早苗が入ってきて、驚いたように言った。
「伊万里くん、まだ祠を建てるの? 準備はもう最後だったと思ってたのに」
「うん、最後の一つだ! 太陽の光が源だから、そこに祠を建てれば、全部の光が一層強く結ばれるんだ」伊万里は荷車を再び準備し、「早苗、一緒に行ってくれる? 太陽の畑の人たちと話をするのに、君がいたら安心だよ」
「わかったわ! 神奈子様も太陽の光を愛してるから、喜んでるよ」早苗は笑顔で頷き、伊万里と一緒に太陽の畑へと向かった。畑に着くと、広大な土地には色んな花が一面に咲き、太陽の光がまぶしく輝いていた。幽香が迎えてくれ、「伊万里! あの祠を建てていると聞いてたわ。ここにも建てるの?」
「はい! ここは太陽の光が最も強い場所だから、祠を建てて光の源にしたいんです。お願いします!」伊万里は頭を下げて頼み、幽香も喜んで許してくれた。今回は太陽の雰囲気に合わせ、金色の石材を使い、柱には太陽の紋様を彫る予定だった。早苗も手伝って作物を避けながら土台を作り、幽香もお手伝いしてくれた。昼過ぎに祠が完成し、虹妖怪のオーブを入れた装置を取り付けてスイッチを押すと——金色の光が太陽の光と混ざり合い、一層強く輝き始めた。この光は瞬く間に空に昇り、他の十二つの祠の光と繋がり始めた。
「おお! 完成だ! これで最後の祠が建てられた!」伊万里は後ろに下がって畑全体を見つめ、ハキハキと笑った。全部で十三つの祠が幻想郷と周りの世界に点在し、太陽の畑の光を源に、全てがつながり始めていた。
「これで最後の準備も終わりだね」早苗は伊万里の隣に立ち、光を見つめた。
「2週間後、この光が一つになる時… きっと幻想郷史上、最も美しい異変になるよ」太陽の光が祠を照らし、伊万里の目には確かな決意と希望が輝いていた——最後の準備が終わり、“異変”の日まであとわずかになった。太陽の畑の祠が完成し、光が他の場所と繋がり始めるのを見つめた伊万里は、突然ハキハキと声を上げた。
「最後は俺の家のところにも祠を作ろう、この祠は今までと意味が違う」早苗は驚いて伊万里を見つめ、「え? もう最後だと思ったのに… 今までと意味が違うって、どういうこと?」
「うん、今までの祠は“絆をつなぐ場所”だったけど、家の祠は“心の拠り所”にするんだ」伊万里は荷車を準備しながら言った。
「全部の光が結ばれる時、最後にこの祠に光が集まるようにする。そうすれば、俺の想いも全部の絆に混ざるんだ」
早苗は頷きながら「それはいいね。家が拠り所になるから、君も安心して異変を起こせるよ」と応援した。二人は伊万里の家へと戻り、家の裏庭の中央に場所を選んだ。ここは彼が特訓をしていた場所で、自室からもすぐに見える位置だった。
「今回は最小さく、でも一番大事な祠にするんだ」伊万里は小さな石材を手に取り、彫刻刀で細かく作業を始めた。今回は他の祠と違って、柱には自分の名前の一文字と「心」の文字を彫る予定だった。
作業を始めると、藍が隙間から現れて「おや、まだ一つ? これが本当の最後?」と笑った。
「うん、本当の最後だ! この祠がないと、全部が完成しないんだ」伊万里は手を止めて笑い、「藍さん、手伝ってくれる? 小さいけど、細かい部分を彫るのに時間がかかるんだ」藍も手伝って細かい紋様を彫り、夕暮れになると、小さな祠が完成した。その姿は他の祠よりも簡素だが、温かみのある作りになっていた。伊万里は虹妖怪のオーブを入れた特別な装置を取り付け、スイッチを押すと——柔らかな金色の光が祠から溢れ出て、家の裏庭全体を包んだ。この光は太陽の畑の祠から届いた光と繋がり、一気に他の十三つの祠の光と結ばれた。
「おお… 完成した! これで全部十四つだ!」伊万里は後ろに下がって家の祠を見つめ、ハキハキと言った。
「今までの絆がこの祠に集まり、心の拠り所から一つの大きな光になる… これが本当の最後の準備だ!」夕暮れの光が家の祠を照らし、伊万里の目には涙ぐましいほどの輝きがあった——“異変”の日まであと2週間。彼はこの小さな祠を見つめ、最後の日を心待ちにしていた。伊万里が家の祠の光を見つめていると、突然隙間が開き、紫がそこから緩やかに出てきた。扇子を手にした彼女は祠を見つめ、少し微笑んでハキハキと言った。
「私も異変側につくことになるね」伊万里は驚いて紫を見つめ、「え? 紫さんが異変側に? 普通は紫さんは裏で何か仕掛けてるような…」
「ふふっ、普通はね。だけど君の起こす異変は特別だから」紫は家の祠の横に立ち、光を手のひらに受け取った。
「十三つの絆、太陽の源、そして心の拠り所… こんなに大きな想いが込められた異変には、ただ見ているだけでは物足りないわ」
「それは… ありがとう!」伊万里はハキハキと笑い、「紫さんが一緒だと、一層安心するよ。でも、霊夢たちが討伐に来たらどうする?」
「討伐するのかしら? 君の異変は“守るための異変”だから、みんなもそれに気づいてくれると思うわ。もしも討伐するとしても… 私は君の側にいるから」紫は扇子で風を送り、家の祠の光が一層輝くようになった。その時、藍も近くに来て「紫様が異変側につくんですか? 私もそれに合わせて、伊万里の手伝いをすることにします」と言った。伊万里は二人を見つめ、胸が温かくなるような気がした。「紫さんも藍さんも… 本当にありがとう。これで異変は絶対に成功するよ! みんなに絆の光を見せるんだ!」夕暮れの空には星が一つずつ輝き始め、家の祠の光はその星と繋がるように昇っていった——異変側につく紫、手伝う藍、そして心を決めた伊万里。2週間後の日々が、今まで以上に鮮明になっていた。紫と藍が異変側につくと言ってくれたことに安堵する伊万里は、突然ハキハキと笑いながら言った。「そして、異変の協力者は集めますよ、まあ、それはオイオイとだけどね」
「オイオイと? それは何のこと?」紫は扇子を手に顔を傾げた。
「うん、特に正式に誘ったりはしないよ。ただ、祠の光が輝いてるのを見て、“おっ、何か起こるんだな”って気づいた人たちが、自然に集まってくれると思うんだ」伊万里は家の祠を見つめ、「魔理沙や早苗、妖夢ちゃんたち… 今まで手伝ってくれた人たちは、きっとその時に来てくれるよ。オイオイと、ひとり、ふたりと」藍は頷きながら言った。
「それは君らしい方法ですね。強引に誘うより、自然に集まった方が絆も強くなりますし」伊万里が協力者たちのことを想って微笑んでいると、突然家の祠の光が変わるのに気づいた。もともと柔らかな金色だった光に、暗い黒い紋様と虹色の筋が混ざり始め、ぎこちないリズムで輝き始めていた——祠は確かに輝いているのだが、光り方が明らかに違った。
「え? どうしたんだ…」伊万里は驚いて祠に近づき、手をかざした。黒い光が少し冷たく感じられ、虹色の筋は過去の虹妖怪の遺物の光に似ていた。紫も扇子を閉じて真面目な顔になり、「ふむ… 予期しない変化ね。光が混ざってる… 何かが影響しているのかしら?」
藍も近くに寄り添い、「装置をチェックしましょう。虹妖怪のオーブが原因かもしれません」伊万里は慌てて装置のカバーを開け、虹のオーブを見ると——オーブの中心に黒い斑点が浮かんでいた。
「あれ… 前はなかったんだ。智代子異変の時に残った傷みが、今になって表面化してるのか?」その時、太陽の畑の祠からも同じような光が昇ってきて、空で他の祠の光と混ざり合った。黒と虹が金色の光を横切り、幻想郷の空が一時的に歪んで見えた。
「これは… 異変に影響するのか?」伊万里は唇をかんで、能力を使って光を制御しようと試みた。だが、黒い光が抵抗し、なかなかまとまらなかった。
紫は伊万里の肩に手を置き、「慌てないわ。光が混ざってるからといって、君の想いが消えるわけじゃない。むしろ… これが新しい意味を持つのかもしれない」
「新しい意味?」
「うん。過去の傷みと未来の希望が混ざった光… それが真の絆になるのかもしれないのよ」紫は微笑んで、「あと2週間があるから、ゆっくり原因を調べて、この光を自分のものにしてみるのだけど」伊万里は紫の言葉を聞いて少し安心し、再びオーブを見つめた。黒と虹が混ざった金色の光は、最初は不気味だったが、少し見るとその中に過去の記憶と未来の希望が紡がれているのが見えてきた。
「わかった! この光を制御して、異変の力に変えるんだ!」伊万里はハキハキと笑い返し、装置の調整を再び始めた。夕暮れの空には歪んだ光が輝き続け、予期せぬ変化が“異変”に新たな風を吹かせようとしていた——伊万里はこの光を抱きしめ、最後の準備に一層力を注いだ。
「ふふっ、そうね。その方が楽しいわ」紫は隙間越しに魔法の森の方向を見つめ、「魔理沙はもう八卦炉を磨き始めてるのかしら? 早苗は神奈子様に報告して、準備をしてるのだろうね」
伊万里はポッカリと笑い、「そうだよ! みんな心の中にすでに“何かが来る”と感じてるんだ。オイオイと集まってくれるから、俺は何も心配しない。ただ、その時に光を一つに結ぶだけだ!」夕暮れの光が更に深まり、家の祠の金色の光は周囲を柔らかく包み続けていた。伊万里の言葉の通り、幻想郷の各所では魔理沙が八卦炉を確認し、早苗が太陽の畑の祠を見つめ、妖夢が冥界の彼岸花の中で準備を始める… オイオイと、協力者たちの気持ちが一つに向かい始めていた。
「あと2週間… 待ち遠しいな」伊万里は小さく呟き、紫と藍と一緒に家の祠の光を見つめ続けた。光の変化に驚いたものの、紫の言葉で気持ちを落ち着かせた伊万里は、すぐに現実的な確認に取り掛かった。他の祠からも同じ黒と虹が混ざった光が昇ってくるのを見つめながら、ハキハキと呟いた。
「色は変わってるけど出力や波長は安定してるか」
「それは確認しないとね」藍はすぐに工房からマルチメーターと光の波長計を取りに行き、家の祠の装置に接続した。
「ちょっと待って… 出力は予定通りの120%、波長も絆を結ぶのに最適な値に安定してるですよ!」
「え? そうなの?」伊万里は驚いて計器の画面を見ると、確かに数値が安定して跳ねていなかった。黒と虹が混ざって色は変わったものの、光の本質的な力は何一つ乱れていなかった。
紫も扇子で頬を叩き、「ふふっ、面白いわ。外見は変わったけど、中身はしっかりしてるのね。これは単なる“色の変化”で、力自体は変わってないのだろう」
「おお! それなら大丈夫だ!」伊万里はハキハキと大きく笑い、手を広げて能力を使って光を感じた。冷たかった黒い光も、今では自分の想いと同調して温かさを帯びてきて、虹色の筋も過去の記憶を抱き締めるような感じになった。
「出力が上がってるんだ! 予定よりも強くなってるよ!」伊万里は空を指差し、「見てろ! この光が他の祠と繋がる瞬間… 色は変わっても、絆は一層強くなるんだ!」すると、太陽の畑の光と家の祠の光が空で結ばれ、黒と虹と金色が混ざった大きな光の帯が生まれた。その光は安定して輝き、幻想郷の空を美しく彩っていた。藍は計器を収めながら言った。
「安心できましたね。色は変わっても、本質は変わってないんですから」
伊万里は光を見つめ、「うん! これが俺の“異変”の光になるんだ! 協力者たちもこの光を見たら、きっと気づいてくれるよ」夕暮れの空に輝く特殊な光は、伊万里の確かな想いを載せて、幻想郷の各所にその存在を知らせ続けていた。夜は更け、伊万里は久しぶりに自室のベッドで深く眠りに落ちた。疲れ切った体が休まる中、長い間見なかった夢が訪れた——
暗い部屋の中、小さな伊万里が机に向かって何かを作ろうとしている。手の中の道具が震えていて、作っているものが少しずつ崩れてしまう。その時、背後から父親らしき人物の声が荒々しく響いた。
「なんで他の子ができるのにお前はできないんだ」小さな伊万里は肩を震わせ、言葉が出ない。その後、母親らしき人物がドアから入ってきて、ため息をつきながら呟いた。
「まったく、なんでこんなことに…」夢の景色は急に変わり、小さな伊万里が外に飛び出している。空を見上げると、虹色の光が輝いていて、それを見ていると胸が少し温かくなるような気がした。だけど、背後には父母の声が追いかけてくるように聞こえる——
「おい、伊万里! 起きろ!」突然、声が聞こえて伊万里は目を覚ました。額には汗が浮いていて、ベッドのシーツをしっかりと掴んでいた。明かりは消えているが、家の祠から漏れる黒と虹と金色の光が窓から差し込んでいた。
「…夢だったんだ」伊万里は深呼吸をして体を起こし、窓の外を見つめた。祠の光が静かに輝いていて、それを見ると夢の中の不安が少しずつ消えていった。
「昔は… 自分が何もできないと思ってたんだ」伊万里は小さく呟き、手を胸に置いた。
「でも今は違う。絆、太陽の源、心の拠り所… 俺は自分の力でこんなに大きなことをしてるんだ」祠の光が手のひらに届き、温かさが伝わってくる。伊万里はハキハキと少し笑い、再びベッドに横になった。今度は夢は来ないだろう——そう思いながら、彼は祠の光を見つめて眠りに戻った
伊万里が祠の光を見つめて眠りに戻ると、今度は過去の学校の夢が広がった——明るい教室の中、小さな伊万里が机の上に頭を伏せている。周りのクラスメートたちが小さな声で囁き合い、その言葉が彼の耳に刺さるように聞こえた。
「お前、わすれっぽいんだって」「おまけに言動も突拍子なさすぎだし」小さな伊万里の肩が震えている。その声がだんだん大きくなり、ついに彼は机から飛び上がって「黙れ!黙れ!ウワァー!」と叫び、最も近いクラスメートを衝動的に殴りかけた。
クラスメートは後ろに倒れ、驚いたように「な、なんだよ、コイツ、ちょっと言われたぐらいで」と言った。教室は一気に静まり、みんなが伊万里を怯えながら見つめる——その景色が突如として崩れ、夢は再び暗闇に呑まれた。伊万里はまたもや目を覚ました。汗は前よりも多く、胸がドキドキと激しく鼓動していた。窓からは祠の光が依然として輝いていて、彼はその光に手を伸ばし、しっかりと感じようとした。
「…あの時は、自分の感情が抑えられなかったんだ」伊万里は小さく呟いた。学校ではいつも周りの目が気になり、言われるたびに衝動に駆られてしまっていた——そんな過去が今でも夢の中に残っているのだ。だけど、今は違う。彼は幻想郷で自分の力を見つけ、紫や藍、魔理沙たちと絆をつないでいる。祠の光はその絆を証明するように、温かく手のひらに届いていた。
「今は誰かが待っているから… もう一人じゃないんだ」伊万里はハキハキと少し笑い、深呼吸をして体を落ち着かせた。この夢も過去の一部だけれど、今の自分はそれを引きずられることはない。
彼は再びベッドに横になり、祠の光を見つめながら、静かな眠りに戻った。今度は平和な夢が訪れるのだろう——そう信じて静かな眠りに戻った伊万里の夢は、今度は高校生時代の風景へと変わった——校舎の裏庭、放課後の少し暗い空の下。伊万里が一人で壁に寄りかかっていると、数人のクラスメートが近づいてきた。その中の一人が、何気なく口を開いた。
「なあ、伊万里、お前、もしかして障害者か?」その言葉が空中に浮かぶ。伊万里の肩が一瞬震えたが、すぐに無表情になって頭を下げた。その時、後ろから小さながらもはっきりとした声が響いた。
「やめなよ!そういうのは、伊万里くんだってなりたくってなったわけじゃないんだから」伊万里は驚いて振り返ると、クラスであまり話したことのない女子生徒が、少し顔を赤らめながらクラスメートたちに向かって立っていた。クラスメートたちは互いに顔を見合わせ、言い返すこともなく立ち去っていった。だけど伊万里は、その女子生徒に感謝の言葉を言うこともできず、ただその場を静かに去っていった——夢の景色はそこで緩やかに薄れ、光が差し込んでくるような感じになった。
伊万里は目を覚ますと、夜明け前の淡い光が窓から入っていた。祠の光は依然として黒と虹と金色が混ざって輝いていて、それを見ると夢の中の言葉と、その後に聞いたかばう声が鮮明に蘇った。
「…忘れていたんだ」伊万里は小さく呟いた。高校の時は周りの視線に苦しんでいたけれど、そんな時に誰かが自分のために声を上げてくれていたことを、久しぶりに思い出したのだ。
「今の紫さんたちも、あの時の彼女のように… 俺のことをかばってくれてるんだ」伊万里はハキハキと笑い、体を起こした。夜が明ける前の空は静かだが、彼の胸の中は温かい気持ちで満たされていた。祠の光が朝の光と混ざり始める中、伊万里は自室から立ち去り、工房へと向かった——過去の記憶はもう恐れるものではなく、今の自分を支える力に変わっていた。