東方創想録   作:Mrコッコ

7 / 40
【香霖堂と人間の里等】

八方屋と住居の設計図が完成し、河童たちが翌朝から現場で作業を始めた。伊万里は毎日、博麗神社と現場を往復しながら雑貨や工房の道具を準備し、時折にとりに仕様の確認をして——あっという間に五日が過ぎた。その日の午前中、伊万里は魔理沙と一緒に現場を見に行ったところ、八方屋の骨組みがほぼ完成しているのを見て驚いた。

「わっ… 五日でこんなに進んでるんですか! にとりさんたち、本当にプロですね!」

「うん、川の水を使った重機を作って使ってるから早いんだよ。あと二日で店と家は完成すると思う!」にとりがスクリュードライバーを振りながら答えると、魔理沙は肩を組んで言う。

「伊万里、あと二日で完成するなら、人間の里に行ってみないか? 店の雑貨を買うのにも良いし、人間の里の人たちに八方屋の開業を知らせておくのも良いだろ?」

「人間の里… そうだね! まだ一度も行ってないんですよ。絶対に行きたいです!」伊万里が目を輝かせると、魔理沙はほうきを地面に立てかけて「いくぞ!」と叫ぶ。二人は現場の河童たちに挨拶をした後、ほうきに跨がって空中に飛び上がる。魔法の森を抜け、博麗神社を少し過ぎると、緑豊かな丘の向こうに人々の声が聞こえてくる。そこには白壁の家々が並び、市場では人々が品物を売買している——それが幻想郷の人間たちが住む、人間の里だ。

「見てみろ、伊万里! 人間の里はこんな感じだよ。雑貨屋や食料品店、本屋もあるから、必要なものは全部買えるさ!」魔理沙が指さす方向には、にぎやかな市場が広がっていた。伊万里はほうきを降ろすと、周りの光景に目を奪われて立ち止まる。

「すごい… 人がたくさんいて、にぎやかですね! 外の世界の街並みとはちょっと違うけど、温かい雰囲気がします…」その時、市場の角から銀髪でアホ毛を生やして眼鏡をかけた男性が歩いてきて、魔理沙を見つけて笑顔で手を振る。

「魔理沙! 久しぶりですね! この人は誰ですか?」

「ああ、これは外の世界から来た伊万里だ。八方屋って店を建てる予定で、人間の里に雑貨を買いに来たんだ!」

男性は伊万里に挨拶をし、明るく言う。

「はじめまして! 私は魔法の森の出入り近くの雑貨屋『香霖堂』の店主、森近霖之助です。外の世界から来たんですね? それは稀ですね!」伊万里は慌てて頭を下げ、「はい! 八方伊万里です! 香霖堂さんで雑貨を買いに来る予定なんですが… よろしくお願いします!」

「もちろんです! 香霖堂には外の世界から入ってきた品物もたくさんあるから、必ず気に入るものが見つかると思います! 一緒に行きましょうか?」伊万里は大きく頷き、霖之助に続いて香霖堂に向かう。人間の里のにぎやかな声を聞きながら、伊万里は八方屋の開業に向けて、新しい出会いが待っていることを感じ始めた。伊万里は大きく頷き、霖之助に続いて香霖堂に向かう。人間の里のにぎやかな声を聞きながら、伊万里は八方屋の開業に向けて、新しい出会いが待っていることを感じ始めた。途中、魔理沙は伊万里に肘を突いて、ぼそりと言う。

「とは言っても殆どが蒐集品だけどな、売るものもどれほどかだよな」伊万里は驚いたように魔理沙を見て、ハキハキと言う。

「事実だとしても本人の目の前で言うのですか! それにさ…」その時、霖之助は少し笑いながらハキハキと答える。

「おやおや、二人は仲良しだな! まあ、魔理沙の言う通りだけどね。蒐集するのが趣味なので、売る品物は確かに少ないけど、他にはない珍しいモノが多いんだよ」そう言って霖之助は少し足を速め、伊万里に向けて話し始める。

「ところで伊万里、君も外の世界のアイテムをいくつか持ってきてるんだろう? まあ、執着がないならボクのコレクションに加えてもいいが… まあ、そんな物をわざわざ持ってくることはないか」伊万里は頭をかしげて、ハキハキと言う。

「まあ、自作アイテムは幾つか持ってきてはいますけどね!」その瞬間、伊万里は背中のリュックから小さな箱を取り出し、そこから銀色のモデルガンを取り出す。光沢のある金属部分が太陽の光を反射し、細かな部品が精密に組み立てられているのが見える。霖之助はそれを見て足を止め、目を大きく見開く。

「これは… 弾を生み出せるのか? しかも、君が作ったのか? なんて、精密で連射性があるものを…」魔理沙も驚いて近づき、手を伸ばしてそっと触れる。

「おお、これはすごいね! 外の世界の銃みたいだけど、こんな小さくて精巧なのは初めて見るよ。弾はどこに入れるんだ?」伊万里は笑顔でモデルガンのつまみを回すと、銃身から淡い光が漏れる。

「弾は自分で生み出せるよ! 俺の力の一つを使って、小さな光の弾を作って撃てるんです。危険なので、弾幕ごっこ以外では絶対に使わないようにしてるんですけど」

「光の弾を生み出す… 外の世界の技術と君の力が組み合わさってるのか! すごい、これは本当に珍しいモノだ!」霖之助は目を輝かせてモデルガンを近くで観察し、指で細かな部品をなでるようにする。

「ボクのコレクションにはこんな自作アイテムは一つもないんだ。もしも君が手放す気になったら、どんな価格でも買うよ! でも… 八方屋の開発品として使うのかな?」

「うん! 八方屋で新しいアイテムを開発する時の参考にしたり、必要があればみんなに使ってもらったりする予定です! 手放すのは今は考えてないですけど、今後作った新しいアイテムは、香霖堂に置いて売っても良いですよ!」

その言葉に霖之助は嬉しそうに頷き、「それは大歓迎だ! 外の世界の技術と君の力で作られたアイテムは、人間の里の人たちにも大変人気が出ると思う! 香霖堂と八方屋でコラボするのも良いね!」伊万里はモデルガンをリュックに戻し、大きく頷く。その時、香霖堂の店先がすぐそばに見えてきて——古びた木の扉の前には、「香霖堂」と書かれた看板が掛かっていた。場所は魔法の森前だった。霖之助が扉を開けて「どうぞ」と手を招くと、伊万里と魔理沙は中に入る。店内は少し暗く、壁一面と床一面に古びた本や小物、外見が奇妙な機械たちが山ほど積み重なっていて、一歩踏み入れた瞬間に好奇心が湧き上がる。伊万里は周りを見回しながら、ハキハキと言う。

「ところで外の世界のモノってどこから手に入れてるんですか? こんなにたくさん集まってるんだから、何か特別な場所があるのですか?」霖之助は棚から一つ小さな箱を取り出しながら、ハキハキと答える。

「無縁塚という場所で手に入れてますね。幻想郷の外から流れてくるモノが、あの塚の周りに落ちてくることが多いんだ。時には本や小物だけじゃなく、大きな機械まで漂着することもあるよ」

「無縁塚… 名前を聞いたことがあります! 人知れず死んだ人の墓場だと伝承に書いてあったけど…」伊万里が少し怖そうに眉をひそめると、霖之助は手を振って安心させる。

「だが、気をつけてくださいね。あの場所を荒らしたりすると祟られますからね。モノを拾う分には大丈夫だけど、墓石を壊したり、ゴミを捨てたりすると、夜に怪しい影につかまれたりするんだよ——まあ、ボクは今まで大丈夫だけどね」魔理沙は棚の上の機械を指差しながら言う。

「おお、そうだね! 俺も昔、無縁塚で外の世界のレンズを拾って、道具作りに使ったことがある。確かに雰囲気は少し不気味だけど、珍しいモノが拾えるから、時々行くよ」

伊万里は店内の外の世界のモノを見つめながら、小さな声で呟く。

「無縁塚… 機会があったら行ってみたいです。八方屋の雑貨に外の世界のモノを混ぜると、みんなが喜んでくれるんじゃないかな」

「そうだね! でもね、拾ってきたモノは壊れていることが多いから、修理が必要になるよ。その時はボクに相談してね! 外の世界のモノの修理は得意なんだ」霖之助は笑顔で伊万里に向けて、先ほど取り出した箱を開ける。箱の中には、小さなガラスのブロックが入っていて、太陽の光が透過すると虹色に輝いた。

「これも無縁塚で拾った外の世界のモノだ。何に使うのかは分からないけど、綺麗だから八方屋の雑貨にしても良いよ。安く売ってあげるよ」

「わっ… 綺麗です! 買います! こんなモノを店に置いておけば、妖精たちも喜んでくれると思います!」伊万里はお金を取り出すと、霖之助は箱を手渡す。店内にはまだ見ぬ珍しいモノが溢れていて、伊万里は好奇心旺盛に周りを見回しながら、八方屋のための雑貨を選び始めた。伊万里はお金を取り出すと、霖之助は箱を手渡す。店内にはまだ見ぬ珍しいモノが溢れていて、伊万里は好奇心旺盛に周りを見回しながら、八方屋のための雑貨を選び始めた。棚の奥から何か白いモノが目に入り、伊万里は手を伸ばして取り出す。それは木で作られた看板で、表面は滑らかに磨かれているのに、何も文字も描かれていなかった。

「わ、これは何も書いてない看板ですね! ちょうど八方屋の看板に使えるんじゃないですか! 自分で文字を彫って作りたいです!」

「ああ、それは無縁塚で拾った古い看板だよ。木質が良くて丈夫だから、彫刻をするのにぴったりだよ」霖之助が答えると、伊万里はさらに棚を探していくと、小さな木箱の中から鋭い刃の彫刻刀を見つけた。

「これも! 彫刻刀が入ってるんです! これを使えば、看板に『八方屋』って文字を彫れるかもしれません!」

魔理沙が近づいて彫刻刀を見て、「おお、これは手入れが良くて鋭いね! 伊万里、君は彫刻ができるのか?」

「うん! 外の世界の時、暇な時に木彫りをして遊んでたんです。文字を彫るのは初めてですけど、頑張って作ります!」伊万里は看板と彫刻刀を手に取り、嬉しそうに眺める。その時、棚の下からまた一つ小さなモノが見えて、取り出すと細長い木の棒が出てきた。

「これは何ですか? 先が少し曲がっていて…」

「あれは外の世界の『筆立て』だよ。ペンや筆を立てて置くためのモノだ。八方屋のカウンターに置いて、雑貨として売っても良いし、自分で使っても良いよ」

「筆立て… 綺麗な木目だし、使いやすそうです! これも買います!」伊万里は選んだ三つのモノ——何も書いてない看板、彫刻刀、筆立て——を手に抱えて、霖之助の元に行く。

「霖之助さん、これらを買います! 全部でいくらになりますか?」

「まあ、こんな古いモノだから、安くしてあげるよ。三つで一緒にして、これくらいでどう?」霖之助が少しのお金を示すと、伊万里はすぐに渡して受け取る。魔理沙は肩を組んで言う、

「看板を自分で彫るのか! 完成したら絶対に見せてくれよ。八方屋の看板が伊万里自身の手で作られるなんて、カッコ良いね!」

「うん! 夜中まで頑張って彫るつもりです! みんなに喜んでもらえるような、力強い文字にします!」伊万里は抱えたモノをリュックにしまい込み、店内を最後に見回す。すでに必要な雑貨は大体選び終えていて、人間の里の雰囲気も十分に感じられた。

「霖之助さん、今日は本当にありがとうございます! 八方屋が開業したら、必ずお知らせします! その時は是非遊びに来てください!」

「もちろんだ! ボクも八方屋の開業を楽しみにしてるよ!」伊万里と魔理沙は店を出ると、ほうきに跨がって香霖堂をあとにした。空から見下ろすと、夕焼けに染まった人間の里は温かく輝いていて、八方屋の看板を彫ることへの期待が、伊万里の胸に膨らんでいた。その夜、伊万里は博麗神社の縁側で彫刻刀を握り、看板に「八方屋」の文字を彫り始めた。細かなカスが落ちる音と共に、力強くて温かみのある文字が徐々に浮かび上がって——夜明け頃にはやっと完成させた。

「おお、出来上がったね! この文字、確かな筆遣いだよ!」朝から縁側に来ていた霊夢が見上げて言うと、伊万里は満足そうに看板を掲げて見せる。

「うん! 一晩かけて作りました! でも… 八方屋には雑貨だけじゃなく、外の世界の知識を活かした新しい小物も作りたいな。そのために、もう少し人間の里で必要なモノを買いに行きたいです!」 そう言って伊万里は早速準備をし、魔理沙はほうきを担いで駆けてきた。

「おや、また人間の里に行くのか? 俺も一緒に行くよ! 昨日見逃した珍しい鉱石などが市場に出てるかもしれないから」

「ええ! 魔理沙さんと一緒だと安心です!」二人はほうきに跨がって飛び立ち、少しの間で人間の里に到着した。今日は市場が昨日よりもさらににぎやかで、野菜や魚、手作りの小物を売る店が並んでいた。伊万里は市場を歩きながら見回すと、一角に木工作りの店があるのを見つけた。店先には新しい板や棒木、手作りの箱などが置かれていて、店主のおじさんが鋸で木を切っていた。

「おじさん、すみません! ここで木の材料を買えますか? 新しい小物を作るのに使いたいです!」伊万里が声をかけると、おじさんは鋸を止めて笑顔で答える。

「ああ、いいよ! 何に使うのかによって、適した木を選ぶよ。外見が良いものから、丈夫なものまであるぞ!」

「外の世界のような『折りたたみ式の小さな椅子』を作りたいです! みんなが店でお茶を飲む時に、気軽に使えるようなものを…」

おじさんは頷きながら棚から板を取り出し、「折りたたみ式か! それならこの木が良いよ。軽くて丈夫だから、折りたたんでも壊れない。少し多めに取っていけば、何個か作れるぞ!」伊万里は喜んで木を買い取り、さらに市場を歩いていくと、紙やりの店で薄い和紙と接着剤を見つけた。

「これも必要! 小さなランプのシェードを和紙で作ったら、柔らかい光が出て良いですね!」魔理沙は鉱石を買い終えて戻ってきて、伊万里が抱えているモノを見て言う。

「おお、こんなに買ったのか! 新しい小物、楽しみだね。八方屋が開業したら、すぐに使ってみたいよ!」伊万里は抱えた材料をリュックにしまい込み、満足そうに頷く。人間の里のにぎやかな声が耳に入り、新しい小物を作ることへの想像が膨らむ中、八方屋の開業がますます近づいているのを感じた。二人が市場を抜けて少し歩くと、静かな通りに出て、そこには木造の建物が見えてきた。戸口には子供たちの声が響いていて、伊万里は見上げながらハキハキと言う。

「幻想郷にも学校みたいなのはあるんだ」魔理沙は建物を指差しながら答える。

「寺子屋って言うんだぜ。まあ、生徒は無害な子供のような妖怪や人間の子供だ。先生はワーハクタクの慧音ってやつがやってる」

「ワーハクタク… 伝承には『本を食べる妖怪』って書いてあったけど、先生をしてるんですか?」伊万里が驚いたように目を大きく見開くと、戸口から白いロングヘアを肩まで垂らした女性が出てきた。彼女は赤いリボンがついて裾が白い青いドレスみたいを着ていて、手には本を持っていた——これが上白沢慧音だ。

「魔理沙ちゃん、そんな呼び方しないでくださいよ。ワーハクタクではなく、上白沢慧音です」慧音は笑いながら近づいてきて、伊万里を見つめる。

「あら、これは外の世界から来た伊万里くんでしょう? 文ちゃんの新聞で読んだわ。八方屋を建てる予定だって言うけど、調子はどう?」

「はい! 八方伊万里です! 慧音さんにお会いできて嬉しく思います! 店の建て方は順調で、あと一日で完成する予定です!」

「それは良かったですね。人間の里に新しい店が出来るのは、子供たちにも嬉しいニュースですよ」その時、戸口から数人の子供たちが顔を出して、伊万里を見つめていた。人間の子供もいれば、小さな妖精のような妖怪の子供もいて、みんな好奇心旺盛な眼差しだ。

「お兄ちゃん、八方屋って何を売る店? おもちゃがあるの?」一人の女の子が声をかけると、伊万里は柔らかく笑顔を浮かべて答える。

「うん! おもちゃも作る予定だよ! 外の世界のような折りたたみ椅子や、柔らかい光が出るランプも作るから、開業したら絶対に来てね! 最初に来た子には小さなプレゼントもあげるよ!」子供たちは喜んで声を上げ、「わーい!」と跳び跳びになる。慧音は手を叩いて子供たちを戻すように促し、「まあまあ、授業が残ってるからね。伊万里くん、開業したら寺子屋にもお知らせしてください。私たちもクラス参観みたいに行ってみたいです」

「もちろんです! 慧音さんや子供たちが来てくれると、店が大変賑やかになります!」伊万里と魔理沙は慧音に挨拶をして立ち去ると、魔理沙は肩を組んで言う。

「慧音は本当に子供たちのことを考えてるんだ。寺子屋も彼女が作ったんだ。幻想郷の子供たちに知識を教えてくれて、大切な存在だよ」伊万里は寺子屋の方向を振り返り、心から温かい気持ちになる。人間の里にはこんなにも多くの人や妖怪が住んでいて、八方屋がそんな誰かの笑顔につながる店になれば良いと、そう思った。二人が通りを進むと、徐々に家々が大きくなり、やがて一軒目立つほど大きな屋敷が見えてきた。黒い瓦の屋根と白い壁が調和し、庭には整然と木々が植えられていて、他の家とは違う重厚な雰囲気が漂っていた。

「ここ、他のところより大きな家だな。誰が住んでるんだ?」伊万里が見上げながら尋ねると、屋敷の玄関から誰かが出てきた。紫色のおかっぱ風のセミロングをし、若草色の着物に、袖に花が描かれた黄色の中振袖を艶姿のような感じで重ね着し、その上で赤い袴、ルーズソックスのような足袋を履いた少女だ。手には小さな筆箱を抱えていて、何か考え事をしながら歩いてきていた——これが稗田阿求だ。

「あら、魔理沙と伊万里くんだね」阿求は近づいてくる二人を見つけ、柔らかい声で言う。伊万里は慌てて頭を下げる。

「はい! 八方伊万里です! お会いできて嬉しく思います… あの、この屋敷は阿求さんの家なんですか?」

「うん、稗田家の屋敷だよ。稗田家は幻想郷の歴史を記録する家柄で、私は現代の歴史家をしてるの」阿求は筆箱を抱えたまま笑顔を浮かべる。魔理沙は肩を組んで言う。

「こいつは『幻想郷文庫』っていう歴史書を書いてるんだ。幻想郷のことは誰よりも知ってるよ」

「幻想郷文庫… すごいです! 外の世界から来た俺にとって、幻想郷の歴史は全部未知なんですけど、機会があったら読ませていただけますか?」

「もちろんです! 八方屋が開業したら、ボクもその時のことを文庫に記録しちゃうからね。外の世界から来た人が店を開くのは、幻想郷の歴史に残る出来事だよ」阿求は少し前に進んで、伊万里を見つめる。

「私は文ちゃんの新聞で、君が妖魔神の力を持ってるって読んだけど、その力で新しいモノを作るのかな? 八方屋が幻想郷に何か新しい風を吹き込んでくれると良いな」

「はい! 外の世界の技術と自分の力を組み合わせて、みんなに役立つモノや、楽しいモノを作り続けるつもりです! 阿求さんも開業したら、必ず来てください!」

「うん、楽しみに待ってるよ。それじゃあ、私は本を書きに戻るね。今日は偶然会えて良かったわ」阿求は挨拶をして屋敷に戻っていく。伊万里は屋敷の玄関を見つめながら、小さな声で呟く。

「幻想郷の歴史に残る… そんな大げさなことがあるのかな? ただ、みんなに笑ってもらいたいだけなんだけど」

「大丈夫だよ! 伊万里の心が伝わる店になるから、きっと歴史に残るよ」魔理沙が軽く肩を叩いて励ますと、伊万里は緩やかに笑顔を浮かべる。人間の里の大きな屋敷で会った阿求の言葉が、八方屋への想いをさらに強くさせてくれたのだ。二人は次に貸本屋に向かう。通りを少し進むと、「本居堂」と書かれた看板の掛かった店が見えてきた。店内からは本の香りが漂い、窓辺には本を整理している人影が見えた。

「これが人間の里の貸本屋だね。ここには幻想郷の話や外の世界の本まで、珍しいものがたくさんあるよ」魔理沙が言うと、伊万里は早速店に入る。店内は木製の棚が壁一面に並び、本でいっぱいになっていた。そして棚の前には、飴色の髪を鈴がついた髪留めでツインテールにまとめ、紅色と薄紅色の市松模様の着物に緑色の女袴を履いた少女が立っていた——これが本居小鈴だ。

「あら、魔理沙さんが来ましたのね。それに… 外の世界から来た伊万里さんだって! 文さんの新聞で聞きました!」

小鈴は本を手にしながら、明るい笑顔で迎えてくれる。伊万里は慌てて頭を下げる。

「はい! 八方伊万里です! 貸本屋さんに来て、幻想郷の話が書かれた本を借りたり買ったりしたいです! 八方屋でみんなに話しをする時に、参考にしたいんです」

「ええ、それは良いですね! 幻想郷の伝説や妖怪の話が書かれた本は、この棚にたくさんあるよ。どんな話が好き?」小鈴は伊万里を棚まで案内し、手で本を指差す。棚には「妖怪の山の神々」「紅魔館の歴史」「魔法の森の妖精たち」といったタイトルの本が並んでいた。

「わっ… こんなに種類が多いんですか! 妖怪の山の神々の話と、魔法の森の妖精たちの話が書かれた本を買います! 早苗さんたちや妖精たちと話す時に、もっと親しみやすくなると思うから」

「そうですねね! これらは人気の本だから、きっと役に立つと思います。八方屋が開業したら、ここから本を取り寄せて置いて売っても良いですよ? 本を読みながらお茶を飲むスペースがあるんでしょう?」

「はい! 一階に窓辺のテーブルを作る予定です! そこにこういった本を置いて、みんなが気軽に読めるようにしたいです! 今度コラボしませんか?」

「それは大歓迎てす! 本居堂と八方屋がコラボするなんて、人間の里の人たちにも喜ばれるでしょう!」伊万里は選んだ本を買い取り、小鈴からレジを受け取る。ツインテールについた鈴がカタカタと鳴る音が、店内の本の香りと合わせて、とても落ち着く感じだった。

「小鈴さん、今日はありがとうございます! 開業したら必ずお知らせします! その時は本を持ってきてくださいね!」

「うん、楽しみに待ってるわ! 八方屋が大きな賑わいになると良いですね!」二人は店を出ると、太陽が西に傾いているのに気づく。人間の里での一日が終わりに近づき、八方屋の完成が明日に迫っていることを、伊万里は胸に刻み込んだ。そのままほうきに跨がって帰る途中、人里の外れ、魔法の森へと続く道端で誰かの姿を見つけた。頭にシニヨンキャップを被り、右腕全体が包帯でグルグル巻きにされている。左手首には鎖のついた鉄製の腕輪が光り、胸元には小さな花の飾りが取り付けられ、前掛け部分には茨の模様が描かれていた——彼女は茨木華扇だ。

「おや、そこに立ってるのは華扇だね」魔理沙が指差すと、華扇はゆっくりと二人の方を向き、優しい笑顔を浮かべる。

「魔理沙ちゃん、そして… 外の世界から来た伊万里くんだわね。文ちゃんの新聞で、八方屋を建てると聞いていたわ」伊万里はほうきを着地させ、慌てて頭を下げる。

「はい! 八方伊万里です! 華扇さんにお会いできて嬉しく思います… 右腕の包帯は、何かけがをしたのですか?」

「あら、これ? いいえ、単なるおしゃれなのよ。鎖の腕輪も同じだわ。茨の模様は、わたしの名前の通り、小さな棘のように『人知れず力強く生きる』という意味が込められているの」華扇は右腕を少し掲げて見せ、伊万里を見つめながら続ける。

「八方屋が魔法の森と博麗神社、人間の里の三つの場所から近いところに建つと聞いたわ。そこは人や妖怪が往来しやすい場所だけど、時には困ったこともあるかもしれない。そんな時は、わたしの所にでも来てね」

「ええ! ありがとうございます! 華扇さんはどこに住んでるんですか?」

「妖怪の山に小さな家を建てているの。薬草を植えたり、人の悩みを聞いたりして過ごしてるわ。八方屋が開業したら、薬草で作ったお茶を持って行くね」魔理沙は肩を組んで言う。

「華扇は薬草の知識が豊富だよ。病気になったりけがをしたりした時は、彼女に相談すると良い。俺も昔、魔法を使いすぎて体が不調になった時に、彼女のお茶を飲んで治ったんだ」伊万里は目を輝かせて頷く。

「それはすごいです! 開業したら、華扇さんのお茶を店でも提供できたら良いですね! みんなにも飲んでもらえると嬉しいです」

「それは良い案ね。その時は私と一緒に薬草を採りに行くようにね」華扇は柔らかく笑い、太陽の光を浴びながら言う。

「明日、八方屋が完成するんだね? 大変だったけど、きっとみんなが喜んでくれるわ。楽しみに待ってるわよ」伊万里は大きく頷き、心から感謝の気持ちを伝える。人間の里での最後の出会いが、こんなに温かいものになるとは思わなかった。太陽が沈み始める中、二人はほうきに跨がって八方屋の現場へと急いだ——明日、夢が叶う瞬間が待っているのを知っていたから。伊万里は大きく頷き、心から感謝の気持ちを伝える。人間の里での最後の出会いが、こんなに温かいものになるとは思わなかった。太陽が沈み始める中、二人はほうきに跨がって八方屋の現場へと急いだ——明日、夢が叶う瞬間が待っているのを知っていたから。夜は短く、朝がやってくると伊万里は早速起き上がり、博麗神社からほうきに跨がって建築現場に向かった。昨日までに骨組みは全部完成し、内装も大体終わっているはずだ——そう思いながら現場に着くと、河童たちがみんな一箇所に集まって何かを議論しているのを見て、伊万里は声を上げた。

「えっ!?まだ完成してないんですか! 昨日はあと一日で出来上がるって言ってたのに…」その声に気づいたにとりが飛び跳びで伊万里の前に来て、ハキハキと言う。

「ごめんごめん! 実は調べたら、店と住居を建てる予定の土地の奥に、放置された物置と半壊した祠があるんだよ! 最初は見落としてたんだけど、掘り進めていくと突然見つかっちゃったんだ」

「物置と祠…? どんな感じのものですか?」

「物置は木で作られて腐ってるけど、鍵がかかっているし、中から何か気味の悪い気配がするよ。祠は石造りで半壊しているけど、柱に何か古い文字が刻まれていて… あれに手を出すとダメなような気がしてね。河童たちも『触れちゃうと祟られるかも』って言って怖がってるんだ」

伊万里はにとりの指す方向を見ると、確かに土地の奥に木の壁がガタガタになった物置と、石が崩れ落ちた祠が隠れていた。遠くからでも、何か静かで重たい雰囲気が漂っているのを感じた。

「祟られる… でも、ここに店と家を建てる以上、あの物置と祠をどうにかしなきゃいけないんですよね? ただ放置しておくと、今後問題になるかもしれないし…」

その時、魔理沙が後から飛んできて着地し、「おや、こんなことがあったんだ。あの祠、昔からあるのかもしれないね。阿求に聞いたら幻想郷の歴史に記録があるかもしれないよ」

「そうだ! 阿求さんは幻想郷の歴史を知ってるんです! 今から人間の里に行って聞いてみます! にとりさん、少し待っててください」伊万里は慌ててほうきに跨がろうとすると、にとりが手を掛けて止める。

「待て待て! 一人で行くのは危ないよ。私も一緒に行く! 河童たちには現場を守ってるように言っておくから」伊万里はにとりの言葉に安心し、二人でほうきに跨がって再び人間の里、稗田家の屋敷へと急いだ。あの物置と祠が何なのか、祟りが本当かどうか——明日の開業を前に、突如として起きた問題に、伊万里の胸は少し緊張で締まっていた。二人はすぐに稗田家の屋敷に到着し、玄関で阿求を呼び出す。少しすると、紫色の着物を着た阿求が筆箱を抱えて出てきて、驚いたように目を見開く。

「伊万里くんとにとりさん? こんな早くまた来るなんて… 何かあったの?」

「阿求さん、すみません! 急いで来ちゃいましたが… 八方屋を建てる土地の奥に、半壊した祠と放置された物置が見つかっちゃいました。その祠、幻想郷の歴史に何か記録はありますか?」

伊万里は慌てて尋ねると、阿求は少し考え込んだ後、頷く。

「ああ… その祠のことかもしれないね。『幻想郷文庫』に、人間の里の近くの谷間に『小さな守りの祠』があったと書いてあるんだ。昔、この土地が妖精たちの遊び場だった時に、人間たちが『自然との調和を守る』ために建てたんだよ」

「守りの祠…? それだと、祟られるようなものじゃないんですか?」にとりが早口で尋ねると、阿求は柔らかく笑う。

「いいえ、祟りなんてないよ。ただ、祠を建てた人たちが『ここを荒らさないで』という想いを込めていたから、長い間放置されていると、何か不気味な気配がするだけだよ。物置は後から誰かが建てたんだろうけど、祠と一緒になっているから、河童たちが怖がったのも分かるね」

「そ、そうなんですか! 安心しました…」伊万里は大きく肩の力を抜く。阿求はさらに続ける。

「あと、文庫には『祠の柱に刻まれた文字を読み上げると、守りの力が蘇る』と書いてあるんだ。文字は古いけど、『自然と共に生き、笑い合う者を護る』って意味だよ。もし祠を修理してその文字を読み上げたら、土地がより安らかになるかもしれないね」

「修理するんだ! 俺たちが祠を修理して、文字を読み上げましょう! 物置は中身を確認して、もし何も問題がなければ八方屋の貯蔵庫に使えるんじゃないですか?」伊万里がハキハキと言うと、にとりも頷く。

「そうだね! 祠を修理するのは河童たちに任せてくれ! 古い石を直すのは得意だから、すぐに出来上がるよ。物置の鍵は俺が開けるから、中身を確認してみよう!」阿求は嬉しそうに手を合わせる。

「それは良かったですね! 昔の人たちの想いを受け継いで、新しい店が建つのは、とても素敵なことだと思うわ。修理が終わったら、ボクも文字を読み上げに行くね!」

伊万里とにとりは阿求に礼を言って屋敷を出る。緊張していた胸が一気に晴れ、明日の開業への期待が再び膨らんでくる。二人はほうきに跨がって建築現場へと急ぎ、河童たちに祠を修理することを伝える——土地の古い想いと新しい夢が、ここでつながるのを感じながら。現場に着くと、河童たちがすぐに囲みかかってきて、祠のことを聞いてくる。伊万里が阿求から聞いた話を伝えると、河童たちも怖がりが取れて「修理しよう!」と声を上げる。その時、にとりが手を掲げて大きな声でハキハキと言う。

「おいおい、みんな静かに! 祠の修理は今日から始めるけど、店と住居の仕上げも並行して進めるよ。多分この調子だと完成は明日、遅くても5日以内だね! 開業はその日のうちにできるように、頑張るぞ!」

「わっ、明日か!? そんなに早くできるんですか!」伊万里は驚きながらも嬉しそうに目を輝かせる。河童たちも「オー!」と声を合わせ、すぐに道具を取り出して作業を始める——一部は祠の崩れた石を直し、一部は店の壁に塗装をし、他は住居の窓を取り付けるというように、すべてがスムーズに動き出す。魔理沙も後から現場に飛んできて、鉱石を持ってにとりに渡す。

「おいにとり、昨日人間の里で買った鉱石だ。店の窓の枠に使えるよ。光が透過しやすくて丈夫だから」

「ありがとう魔理沙! これで窓がさらに綺麗になるよ。伊万里くん、看板はもう完成してるんだろ? 完成したら一旦店先に掛けてみようか?」

「はい! 一晩かけて彫ったんです! 今から取りに来ます!」伊万里は慌てて博麗神社に戻り、完成した「八方屋」の看板を取ってきて、店先の木製の柱に掛ける。太陽の光が文字に当たり、力強く温かみのある筆遣いが輝いているのを見て、河童たちも一時的に作業を止めて拍手を送る。

「すごい文字だね! 伊万里くんの気持ちが伝わってくるよ!」にとりが笑顔で言うと、伊万里は満足そうに頷く。明日か、あるいは数日以内に——夢の八方屋がついに誕生する瞬間が、もうすぐそこに迫っていることを、誰もが現場に漂う空気から感じていた。




ちなみに伊万里くんの住居やお店は改装や付け加えあるかもです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。