東方創想録   作:Mrコッコ

8 / 40
【八方屋、開業】

河童たちの手際の良い作業のもと、祠の修理も店の仕上げも一気に進んでいった。太陽が西に沈む頃には、祠の柱に刻まれた古い文字がはっきりと読めるようになり、物置の鍵もにとりが開けて中身を確認——そこには古い本と小さな装飾品が眠っているだけで、何の問題もなかった。

「おや、この本、魔界の話が書かれているんだよ!」

にとりが物置から取り出した古い本を開くと、黒い紙に金のインクで文字が描かれていた。伊万里が近づいて見ると、「魔界とは何か」「魔界と幻想郷の境目」といった見出しが目に入った。

「魔界… 神綺さんが来たからか、なんだか近い存在のような気がするんですが…」伊万里が呟くと、突然空に大きな雷鳴が鳴り響き、現場の西の空に黒い雲が渦を巻いていく。その中から、細長い光の通路が開かれたような形が浮かび上がった。

「えっ! それは… 魔界への扉?」魔理沙が驚いて指差すと、光の通路から神綺の声が響いてくる。

「伊万里くん、来てみなさい。魔界に。古い魔神の想いを知るために——それは八方屋を完成させるために必要なことだから」伊万里は周りを見回すと、にとりが頷いて言う。

「行ってきなさい! 私たちはここで最後の仕上げをして待ってるよ。大丈夫だよ、神綺さんが呼んでるんだから」

「うん… 行きます!」伊万里は深呼吸をして、光の通路に向かって一歩踏み出す。瞬く間に身体が光に包まれ、周りの風景が一変した——そこは、赤い土と黒い岩が広がり、天空は深い紫に輝いていた。遠くには大きな城が聳え、城の周りには美しい花々が不思議な光を放って咲いていた。これが、神綺の住む魔界だった。

「おいで、伊万里くん」神綺が城の前に立って待っていた。銀髪のサイドテールが風になびき、赤いドレスが魔界の光を反射して妖しげに輝いていた。

「神綺さん… ここが魔界なんですね。想像以上に美しいです…」

「美しくも危険な場所よ。だけど、ここには君が知るべき『古い想い』が眠っているのだ」神綺は伊万里を城の中に案内し、大きな書庫の前で止まる。扉を開けると、壁一面に古い書物が並んでいた。その一番奥には、金色の文字が刻まれた大きな石碑が立っていた。

「これが、君と融合した魔神の遺跡だ。彼はかつて、魔界で『創造の場所』を作ることを夢見ていたのだ。だが、誰も理解してくれなかった… その想いが時を超えて君の願いと重なったのだ」 伊万里は石碑に手を触れると、突然そこから画像が浮かび上がった——古い魔神が人々や妖怪たちのために新しいモノを作り、笑顔を取り戻す様子が描かれていた。

「これは… 俺が八方屋でしたいことと同じです!」

「そうだ。彼の想いは君の中に生まれ変わったのだ。今度は、君がその夢を叶えるのだ——八方屋を、魔界の想いも宿った『創造の場所』にしてみなさい」

神綺の言葉を聞いて、伊万里の胸には強い決意が湧き上がった。魔界の光が石碑を照らし、古い魔神の想いが伊万里の身体にしっかりと刻まれていくのを感じた

「神綺さん… ありがとうございます。俺は絶対に、その夢を叶えます! 八方屋で、みんなの笑顔を作り出すんです!」

「それが私の願いだわ。では、幻想郷に戻りなさい。君の店が完成する瞬間が近づいているのだから」神綺が手を広げると、再び光の通路が開かれた。伊万里は城に礼を言い、通路に向かって歩み出す——魔界で知った古い想いを胸に、八方屋の完成へと急ぐのだ。神綺が手を広げると、再び光の通路が開かれた。伊万里は城に礼を言い、通路に向かって歩み出す——魔界で知った古い想いを胸に、八方屋の完成へと急ぐのだ。光の通路を抜けると、すぐに幻想郷の風が頬に当たった。建築現場を見上げると、暗がりの中でも「八方屋」の看板が明かりを放っていて、店と住居の仕上げはほぼ終わっていた。河童たちはみんな汗を拭きながら、伊万里の帰りを待っていた。

「おかえり! 魔界はどうだった?」にとりが飛びかかってきて尋ねると、伊万里は大きく頷き、石碑で見た光景を話し始めた。河童たちや魔理沙は静かに聞き入り、古い魔神の夢に胸を打たれていた。

「そんな想いが宿ってるんだ… だからこの八方屋は、ただの店じゃないんだね」魔理沙が低い声で言うと、突然祠の方向から柔らかい光が溢れ出した。柱に刻まれた「自然と共に生き、笑い合う者を護る」という文字が輝き、その光が八方屋全体を包み込んだ。

「わっ… 何だこれは!」にとりが驚いて叫ぶと、物置からも古い本が浮かび上がり、魔界の本と合わさって空中で開いた。黒い紙のページに描かれた文字と、祠の文字が一体化して、新しい言葉が浮かび上がった——

「創造の場所、笑いの家。古き想いと新しき夢、ここに結ばれん」その瞬間、八方屋の壁には不思議な花模様が咲き誇り、窓からは温かい光が漏れ出していた。住居の庭には、魔界の花々が突然咲き始め、赤い土のような色の花びらが風に舞っていた。

「完成した… 八方屋が、本当に完成したんです!」伊万里は目を潤ませながら店の扉に手を伸ばす。扉がそっと開くと、一階の窓辺のテーブルにはにとりが準備したコップが並び、二階の工房には魔理沙が買ってきた鉱石が輝いていた。

「伊万里くん、見てみろ! 屋根の上に何があるんだ!」にとりが指差す方向を見ると、屋根の先端には魔界の光を放つ小さな飾りが付いていて、夜空に向かって細かな星のような光を散らしていた。それは神綺が送ってくれた、魔界からの贈り物だった。

「ありがとう… みんな、ありがとうございます! 神綺さん、古い魔神さん… この八方屋が、みんなの想いを守り続ける場所になりますように!」伊万里が力強く言うと、周りから拍手と歓声が沸き起こった。その時、博麗神社から霊夢が飛んできて、慧音や阿求、小鈴、華扇たちも人間の里から歩いて来ていた——みんなが八方屋の完成を祝いに集まっていたのだ。

「おめでとう、伊万里。これで幻想郷に新しい居場所が出来たね」霊夢が笑顔で言うと、小鈴が抱えていた本を広げて言う。

「これは本居堂から持ってきた『幻想郷のお話集』だよ。八方屋の窓辺に置いて、みんなが読めるようにしようね!」

阿求も筆箱を取り出し、「私は今日のことを『幻想郷文庫』に書き留めるよ。『外の世界から来た青年が、古き想いと新しき夢を結び、創造の場所を作った』ってね」伊万里はみんなの笑顔を見つめ、胸が満たされた気持ちになった。魔界で知った古い想い、幻想郷の人々の温かさ、そして自分自身の願い——すべてがこの八方屋に宿っている。

「明日から、八方屋は正式に開業だ! みんな、いつでも気軽に来てください! お茶を飲みながら、話をしながら、新しいモノを作りながら… ここがみんなの『家』になりますように!」夜風が八方屋の看板を鳴らし、魔界の花々が香りを放つ。幻想郷の夜空に輝く星たちが、この新しい物語の始まりを見守っていた。そんな賑やかな様子を、少し離れた魔法の森の木陰から誰かが静かに見守っていた。頬に赤い星のマークがあり、金髪に赤いリボンをつけた少女だ——彼女の名前はエリスだ。

「創造の場所… 古い魔神の想いが叶ったのね」エリスは柔らかい声で呟き、手の中に抱えていた小さな花を風に飛ばす。花びらは夜空を舞い、八方屋の庭に落ちて魔界の花々と混ざり合った。

「神綺さんも気に入ってるんだろう… 明日の開業、ちょっとだけ来てみようかな」彼女はそう言って、木陰から少し顔を出して伊万里たちの笑顔を見つめる。その目には、誰にも見せないような温かい光が宿っていた。また、その上の夜空からは、白い羽が背中に生え、青い服を身にまとった女性が浮かんで見守っていた。彼女の名前はサリエルだ。

「神綺の選んだ青年が、ここまで来たのね」 サリエルは優しい眼差しで下界を見つめ、白い羽をそっと羽ばたかせる。その羽ばたきから細かな光の粉が舞い落ち、エリスが飛ばした花びらと一緒に八方屋を包んだ。

「明日の開業… 魔界からも少しの祝福を届けようかな」

彼女はそう言って手を合わせ、夜空に輝く星の一つを指差す。するとその星が少し明るく輝き、八方屋の看板にその光が届いてさらに美しく輝き出した。八方屋の近くの塀の陰からは、二人の少女が顔を覗かせて様子を見ていた。一人は金髪に黒い帽子と黒い服を身にまとった少女——ユキ。もう一人は水色の髪に白いリボンをつけ、白い服を着た少女——マイだ。

「マイ、この店、明日から開くんだね… 外の世界から来た人が作ったんだって」ユキが小さな声で言うと、マイは頷きながら目を輝かせる。

「うん! 聞いたよ! 新しいモノを作る場所だって。明日、一緒に来てみようか? おもちゃがあるかもしれないし…」

「うん、いいよ。この光、温かくて気持ちがいいね」二人は手をつなぎながら、伊万里たちの笑顔を見つめていた。小さな体でも、その静かな期待が八方屋に届いているように、庭の花々がさらに艶やかに咲き誇った。夜はあっという間に明け、東の空が少しずつ明るくなっていった。伊万里は6時前に早く起き上がり、二階の住居から窓の外を見下ろす。幻想郷の朝は静かで、露の光を放つ草花たちと、遠くに見える妖怪の山の稜線が美しかった。

「今日だ… 開業の日だ」伊万里は小さな声で呟き、すぐにベッドから起きてキッチンに向かった。朝ごはんは簡単に——外の世界でよく作っていた卵焼きと味噌汁、少しの漬物を作り、テーブルに並べた。自分一人用だったのに、なぜか「みんなが来てくれるかもしれない」と思い、少し多めに作ってしまった。

「おいしい… 朝食を食べると気持ちが立ち上がるんだな」

伊万里は満足そうに食べ終わると、すぐに開業準備に取り掛かった。一階の店舗に下りると、にとりがすでに来ていて、窓辺のテーブルを拭いていた。

「おはよう! 伊万里くん、早起きだね! 俺も朝から準備してるよ。魔理沙も後で来るって言ってたよ」

「にとりさん、おはよう! ありがとう、こんな早く来てくれて…」二人は手を分けて準備を進める。伊万里は昨日買った外の世界のモノや自分で作った折りたたみ椅子、和紙のランプを店の棚に整える。にとりはコップやティーポットを並べ、華扇がプレゼントしてくれた薬草茶を入れて準備した。

「あ、これは小鈴さんが置いていった『幻想郷のお話集』だね。ここに置いてみよう」伊万里はテーブルの上に本を置くと、突然店の扉の外から小さな声が聞こえてきた。

「あの… もう開いてるの?」伊万里が扉を開けると、塀陰から見守っていたユキとマイが顔を出していた。ユキは黒い帽子を少し傾け、マイは白いリボンを撫でながら緊張しているようだ。

「おはよう! もう来てくれたんだ! まだ正式に開業はしてないけど、入っていいよ! 薬草茶を飲もうか?」伊万里が笑顔で誘うと、二人は少し照れながら店に入り、窓辺のテーブルに座った。マイは折りたたみ椅子を触って、目を輝かせる。

「わっ… これ、折りたためるの? すごい! 外の世界のモノって不思議だね」その時、上空から白い羽の風が吹き、サリエルが小さな花束を投げてきた。花束はテーブルの上に落ち、甘い香りが広がった。

「サリエルさん… ありがとう!」伊万里が上空に向かって手を振ると、遠くから柔らかい笑い声が聞こえてきた。また、店の隣の木陰からエリスが顔を出し、少しだけ手を振ってから隠れてしまった——伊万里はそれに気づいて、嬉しそうに頷いた。太陽が完全に昇り、時計の針が7時を指した瞬間。伊万里は店の扉を大きく開け、「八方屋、正式に開業します!」と力強く声を上げた。その声に応えるように、霊夢や慧音、阿求、小鈴、華扇たちが続々と来てくれた。幻想郷の新しい「創造の場所」の物語が、この朝、正式に始まったのだ。店内が賑やかになり始めた時、突然店の扉がそっと開かれ、誰もが知る神々しい存在が入ってきた——銀髪のサイドテールに赤いドレス、それは神綺だ。そして彼女の隣には、金髪をセミロングにまとめ、赤い半袖のメイド服を着た女性が佇んでいた。

「神綺さん! まさかここまで来てくださるんですか!」

伊万里は驚きながら迎えに行くと、メイド服の女性が先にお辞儀をして明るく言う。

「神綺様が気にかけるからどれほどかと思いましたわ。あっ、始めまして、私は夢子です。神綺様のメイドをしています」

「夢子さん… 初めまして! こんなに立派な方々が来てくれて、本当に嬉しいです…」神綺は唇に柔らかい笑みを浮かべ、店内を見回しながら言う。

「八方屋、見事に完成したわね。古い魔神の想いも、この場所にしっかりと宿っているのが感じられる」

「神綺様、この店の光、魔界の光と似ていますね」夢子がさりげなく周りの花々を指差すと、魔界の花々が神綺の近くでさらに輝き始めた。店内の人々も静かに神綺たちを見つめ、その神々しい雰囲気に圧倒されていた。

「伊万里くん」神綺が伊万里を呼び止め、手から小さな箱を取り出す。

「これは魔界からの開業祝いだ。この箱の中には『創造の種』が入っているの。庭に植えれば、君の想いが強いほど美しい花を咲かせてくれるわ」

「創造の種… ありがとうございます! 必ず大事に植えて、みんなの笑顔のために花を咲かせます!」伊万里が箱を受け取ると、夢子がさらに笑顔で言う。

「神綺様、ここで少しお茶を飲んでいきませんか? 外の世界のモノもあるようで、気になりますわ」

「そうね、そうしよう。伊万里くん、華扇さんの薬草茶を一杯くれるわね?」

「はい! すぐにお入れします!」伊万里は慌ててティーポットを取り、神綺と夢子を窓辺のテーブルに案内する。ユキとマイは少し離れた席から、神綺の姿に好奇心旺盛に見つめていた。店内は再び賑やかな声に包まれ、魔界から来た二人の存在も自然にその空気に溶け込んでいった。こうして八方屋の開業初日は、幻想郷の人々だけでなく、魔界の住人たちからも祝福を受けながら、嬉しい賑わいの中で過ぎていくのだった。伊万里は慌ててティーポットを取り、神綺と夢子を窓辺のテーブルに案内する。ユキとマイは少し離れた席から、神綺の姿に好奇心旺盛に見つめていた。店内は再び賑やかな声に包まれ、魔界から来た二人の存在も自然にその空気に溶け込んでいった。

伊万里が薬草茶を注ぎ終わると、夢子がコップを手に取り、ハキハキと言う。

「伊万里って言いましたっけ? 貴方から感じる気配は神綺様に似てるところがありますね。もしかして神綺様絡みのモノを宿して…」

その言葉に伊万里は少し驚き、夢子と神綺に聞こえるぐらいの声で答える。

「妖魔神ってのは分かってますが、どんな神かははっきりと分かっておりません。しかも、宿ったきっかけは… 外の世界で虐待を受けてる時に、黒い模様の赤い札をつけられたってことぐらいです」

話すと同時に、伊万里の手の甲には一瞬、黒い模様が浮かび上がったまま消えた。神綺はそれを見つめ、目の奥に少し深い光を宿す。

「黒い模様の赤い札… 聞いたことがあるわ。かつて魔界から出て行った者が、外の世界で『古き神の力を呼び起こす』ために作った呪いの札だったはずだ」

「えっ! そんなことなんですか!」

伊万里が声を上げると、夢子も頷きながら続ける。

「そうなのよ。神綺様に似た気配がするのは、その札が呼び起こした神が、神綺様と同じ系統の古き創造神だからじゃないでしょうか? 貴方が虐待を受けて苦しんでいた時、その力が『護るため』に覚醒したのでしょうね」

「護るため…」

伊万里は手の甲を見つめ、外の世界での辛い記憶がふっと蘇ったが、すぐに八方屋の賑やかな声がそれをかき消してくれた。

「だからこそ、貴方の願いが古い魔神の想いと重なったのだわ」

神綺が柔らかい声で言い、手を伊万里の肩に軽く置く。

「どんな神かは後で調べてみるわ。今は、この開業初日を楽しんで。貴方が作った場所で、みんなと笑い合うことが、その力にとって一番良いことだから」伊万里は神綺の言葉に安心し、少し笑顔を浮かべる。夢子もハキハキと言う。

「そうですよ! 今日は祝日なので、悩み事は後回しにしましょう。さあ、この薬草茶、美味しいですよ! 外の世界のモノも見せてくださいね!」そう言って夢子が茶を啜ると、伊万里も心を落ち着けて、自分で作った折りたたみ椅子の使い方を教え始めた。店内の賑やかさがまた一層高まり、黒い札の記憶も一時的に忘れ去られるように、八方屋は笑い声に満ちていった。そんな中、神綺は夢子の耳元に寄りかかり、夢子にだけ聞こえるぐらいの低い声で言った。

「貴方、何考えてるの? いきなり、あんなことを言うとは。彼は自身の正体にはまだ完全には気付いてない。それにあまりにも露骨すぎるほどの言い方、あれじゃ周りにも混乱を及ぼすじゃない。今他の客もいるわけなんだし、普通なら魔界でする話でしょ」夢子は少し驚いたように目を見開き、すぐに周りを見回してから、神綺に向かって小さな声で答える。

「すみません、神綺様… 気づいたら口から出てしまいました。貴方から感じる気配がそんなに強くて… 思わず言っちゃいました」

「わかってるわ。でも、彼が今、この場所で安心して笑っているのを見て。それが一番大切なのだから、急いではいけないの」神綺はまた伊万里の方向を見つめ、目には温かい光が宿っていた。伊万里はまだ二人の会話に気づいておらず、小鈴から「この本、魔界の話が載ってるの?」と尋ねられて、慌てて本を開いて説明していた。

「後で魔界に帰ったら、札のことを調べるから。今は彼に任せて、この賑やかさを楽しもう」神綺がそう言うと、夢子は頷き、再び明るい笑顔を取り戻す。

「はい、神綺様! では、伊万里くんに外の世界のおもちゃの話を聞いてみましょうか? 前から気になってたんです!」夢子は大きな声で呼びかけ、伊万里が驚いて顔を向けると、ハキハキと「外の世界にはどんなおもちゃがあるのですか~」と尋ねた。周りの子供たちも耳を傾け、伊万里は慌てながらも嬉しそうに外の世界の話を始めた。神綺はそんな光景を見つめ、小さな声で呟いた。「急がない… 彼が自分自身を知る時は、いつか自然に来るのだから」店内は再び笑い声に満ち、太陽の光が窓から射し込んで、八方屋のすべてを温かく包み込んでいた。その時、店の扉がそっと開かれ、誰かが神綺と夢子の同じ席に静かに座っていくのに気づいた。二人が顔を向けると、赤紫の半袖メイド服を着て、金髪寄りのブロンズシルバーヘアが柔らかく肩に垂れている女性だった——彼女の名前は幻子だ。

「幻子? まさか君も来てくれたの?」神綺が少し驚いて言うと、幻子は優しい笑みを浮かべ、伊万里の方向を見つめながらハスキーな声で言う。

「なるほどですね、彼が伊万里くんですね。興味深いです」

夢子も目を輝かせて言う。

「幻子さん! いつ来たの? 神綺様と一緒に来るとは聞いてなかったのに…」

「魔界から少し遅れて出てきたの。彼の気配が遠くから感じられて、思わず来てしまいました」幻子はテーブルに手を置き、指先でコップの縁をなぞりながら続ける。

「古き創造神の力が宿っているのは確かですが… 外の世界の札で呼び起こされたことで、彼自身の意志と混ざり合っているのが面白いですね。単なる力ではなく、『人間らしさ』が宿っているのが特徴的です」

その時、伊万里が小鈴たちとの話が一時的に終わり、テーブルに戻ってきた。

「あの… 新しく来た方は?」

「伊万里くん、これは幻子さん。魔界で神綺様と一緒にいる方ですよ」夢子が紹介すると、幻子はお辞儀をして言う。

「初めまして、伊万里くん。八方屋、素敵な場所を作っていますね。ここには『希望』の光が満ちています」

伊万里は慌ててお辞儀をし、「幻子さん、初めまして! どうぞよろしくお願いします! 薬草茶を入れますね!」と言ってすぐにキッチンに向かった。

神綺は幻子に寄りかかって小さな声で言う。 

「君も調べてくれるの? 外の世界の札のことを」

「もちろんです。帰ったら魔界の書庫で詳しく調べます。ただ… 今は彼に楽しんでもらうことが一番重要ですよね?」幻子は笑いながら、伊万里が茶を注いで戻ってくるのを待っていた。伊万里が薬草茶を注ぎに近づくと、突然幻子の首元から強い光が放たれた。それは彼女がつけていた錠前の首飾りから出た光だ——小さな金属製の錠前が、伊万里に近づくほど明るく輝き始めた。

「わっ… 何だこれは!」

伊万里が驚いて立ち止まると、幻子も首を掻き下ろして首飾りを見つめ、少し驚いたように言う。

「神綺様、この首飾り、反応をしてますね。伊万里くんに」

神綺もその光を見つめ、目の奥に深い思いを宿しながら言う。

「確かに意味はあるかもね。偶然、いや… 彼には思ったよりも何か深い意味があるのかもしれない」

夢子も伸び上がって首飾りを見上げ、「わあ… 初めてそんなに輝くんですよ! 幻子さんの首飾り、何のためのものなんですか?」と尋ねた。

「これは… 魔界の古い時代に、創造神たちが使っていた『契約の錠前』です」幻子は光り続ける首飾りを撫でながら説明する。「開ける鍵は誰にも知られていないのですが、『同じ系統の力を持つ者』が近づくと輝くという伝説がありました… 今まで一度も反応したことがなかったのに」

伊万里は自分の手を見つめ、手の甲に一瞬黒い模様が浮かび上がった。その瞬間、錠前の光がさらに強くなり、店内の人々の視線が一時的にこちらに集まった。

「まあまあ、何もないよ! 魔界のお土産みたいなものが光っちゃっただけですよ!」夢子が慌てて明るい声で周りに説明すると、人々は笑いながら再び自分たちの話に戻った。伊万里は安心して息を吐き、幻子に向かって小さな声で言う。

「幻子さん… この首飾りが俺に反応するのは、先程の古い創造神の力のせいですか?」

「そう思われますね」幻子は柔らかく笑い、光りがやや弱まった首飾りを見つめる。「でも、今はそんなことよりも、茶を飲んで話をしましょう。開業初日にこんなに反応するのは、何か良い兆しじゃないでしょうか?」

神綺も頷き、「そうだわ。今はそれ以上深追いしないで、楽しもう。この光も、君の八方屋にとっての祝福のように見えるわ」伊万里は二人の言葉に安心し、笑顔を取り戻してテーブルに座った。錠前の首飾りはまだ細かな光を放っていたが、それは今や八方屋の温かい光と混ざり合い、新しい契約の始まりのように、静かに輝き続けていた。

その後、伊万里は店内を回りながら客たちと話し、新しい折りたたみ椅子の使い方を教えたり、外の世界の話をしたりと、忙しくしていた。そんな伊万里の姿を、幻子はずっと静かに見つめていた——その眼差しは好奇心よりも、何やら優しく寂しげなものが混じっていた。

神綺がそんな幻子の様子に気づき、小さな声で尋ねる。「幻子、何を考えてるの? ずっと伊万里くんを見つめているわ」

幻子は少し驚いたように顔を上げ、すぐにまた伊万里の方向を見つめながら、ほほえみながら言う。

「あの人のこと、気になる。なんでだろう、初めて会ったのに懐かしい感じ」

「懐かしい… それは首飾りの反応と関係があるのかしら?」夢子も横から口を挟み、少し不思議そうに尋ねる。

幻子は錠前の首飾りを撫でながら頷く。

「そう思うわ。この首飾りが反応するのは、同じ系統の力だからだとしたら… 彼が持つ古い神の記憶が、私の中に残っているのかもしれない。あの温かい気配が、遠い昔に誰かから感じたような…」その時、伊万里が店内の奥の工房に入り、自分で作った小さな木製のおもちゃを取り出してユキとマイに渡していた。二人は大喜びでおもちゃを遊び始め、伊万里も柔らかい笑顔を浮かべて見守っていた。

「その笑顔も、懐かしいの?」神綺がさらに尋ねると、幻子は少し頬を赤らめて小さくうなずく。

「うん… 誰かが、私のためにもそんな笑顔を見せてくれたような… 記憶がはっきりしないけど、心が温かくなるの」

「急がないわ。時間がたてば、きっと何かが分かるようになる」神綺は幻子の肩に軽く手を置き、優しく励ます。

「今は、あの笑顔を見ていることだけで良いのよ」幻子は神綺の言葉に安心し、再び伊万里の姿を見つめる。錠前の首飾りは細かな光を放ち続け、その光が伊万里の笑顔に届くように、静かに輝いていた。店内は依然として賑やかで、太陽の光が窓から射し込み、八方屋の中には希望と温かさが満ち溢れていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。