転生したら「ワルプルギスの夜」だった件   作:十二夜

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紳士淑女の皆々様
虫けらと、野良猫たち
是非とも、チョッと、お立ち寄り

幾時代かは零れ落ち
      星の因果が少女に報う
            尻尾の記憶は宛てにはならぬ
 今夜、ここでの、一大戯曲

ミルクは今のうちに飲んでおけ
サァサァ、いそげ
空はもう、歓声の虜





第一幕・史劇
舞台装置の魔女


 

物語の中には、たくさんのラスボスがいるね。

 

その中の一つ、「舞台装置の魔女」をご存知だろうか。

 

あるいは『ワルプルギスの夜』とも呼ばれるその魔女は、「魔法少女まどか☆マギカ」において最強最悪の魔女として君臨する。

ひたすらに絶望を振りまき、破壊をもたらし、歴史の中で語り継がれるも誰一人として倒せなかった回る大災害。

 

ただただ強く、ただただ硬い。

 

幾多の魔法少女が集まろうと、大量の軍用兵器による巨大な火力をぶつけられようと、傷一つ付けられない。

 

アニメをリアタイしていた頃は、そりゃあ魔法少女と一緒に絶望したものさ。

 

混沌の化身。災厄の権化。破壊の限りを尽くす最悪最凶の超弩級魔女。

 

まさにラスボスに相応しい存在。

それが『ワルプルギスの夜』。

それが、「舞台装置の魔女」。

 

さて、どうして急にこんな話を始めたかというとね、目が覚めたらね、その「舞台装置の魔女」になっていた。

 

なるほどね。

 

何を言っているのか分からないと思うが、俺もよく分からん。

 

なるほどね。

 

……。

 

いや、まて、落ち着け、状況を整理しよう。

 

俺は転生……したのだと思う。

前世の記憶は途切れ途切れにしか思い出せない。詳しいことは何も分からない。

その記憶は今も、夢が覚めた後のように刻一刻と抜け落ちていってるが、重要なことは覚えている。

 

名前は忘れた、性別はたぶん男、死因はおそらく交通事故。

俺はいわゆるオタクだった。

大抵の漫画、ラノベ、アニメは一通り制覇している。その中でも「魔法少女まどか☆マギカ」は好きな作品の一つだった。

だから自分の姿を見てすぐ「舞台装置の魔女」だとピンと来たわけさ。

 

確か、映画館に向かう途中だったはずだ。

そうだ、十数年待ち侘びたまどマギの新作映画、「ワルプルギスの廻天」の公開初日だ。

その日は予報外れの大雨と強風が猛威を振るっていた。

それでも俺の中に「観に行かない」という選択肢は無く、台風でも来たのかというような道を胸を高鳴らせて歩く俺に、猛スピードで車が突っ込んで来たんだった。

 

くそう、あのプリ〇ス絶対に許さん。

轢くならせめてまどマギ観た後に轢いてくれよ。

結局映画観れなかったじゃねぇか。

最期の記憶が目の前に迫る車のライトとか最悪だよ。マジで。

 

俺の意識はそこで途切れ、そして気づけばこの洞窟に居た。広大な洞窟だ。そりゃそうだろう、なんせ全長200m超もある「舞台装置の魔女」が丸ごと収まっているんだから。

 

改めて自分の身体を見渡してみる。

 

上下逆さまで宙に浮く巨体。

白い縁取りの青いドレスを纏った細身の女性の姿。

頭部は上半分が切り取られたように存在せず、そこから2本の角のような帽子が生え、そこに半透明のヴェールを着けている。

 

ん?となれば俺は今、何でモノを見ているんだろう……まぁいいか。

 

スカートの下では足の代わりに巨大な歯車が蠢いており、俺を中心に虹色の魔法陣がゆっくりと回り続けている。

 

それは紛れもなく、『ワルプルギスの夜』と恐れられた存在そのもの。

 

足元、いや頭の下か。とにかく、地面では無数の使い魔がパレードのように巨大な円を描いてその場をぐるぐると回っていた。

 

こうして目の前で見ると少し感動するな。画面の向こう側にあったキャラ達が目の前で動いているのだから。

おっ、道化役者のアカハナが象の使い魔に踏み潰された。かわいいぞ。

 

それにしても真っ暗な洞窟だ。一切の光源が存在しない。

だが、この身体は夜目が利くらしく昼間のようにくっきりと内部を見渡すことができる。

『ワルプルギスの夜』って呼ばれるぐらいだし当たり前っちゃ当たり前なんだろうか。

 

天井は鍾乳洞のように伸びた岩の先から絶えず水滴を落としていて、でこぼこの地面にはあちらこちらに池のような水たまりができている。

ここがどうやら洞窟の最深部らしく、目の前には同じく巨大な通路がまっすぐに向こうまで続いていた。

 

とりあえず、ここから出ないことには何も始まらない。

幸い、この身体の動かし方は理性ではなく本能が知っているようだ。

 

と、その前にこの使い魔たちは消せるのだろうか。

さすがにこんな大所帯で移動するわけにもいかないだろう。

「舞台装置の魔女」の強大な魔力に引かれ集まった無数の塊という設定だった気がするけれど、試しに消えろと念じてみるか。

 

俺が消えろと頭で念じた瞬間、せわしなく動いていた使い魔たちの動きがピタッと止まり、まるで煙のようにポンと間抜けな音を立てて消え去った。

 

だが、どうやら本当に消えたわけではないらしく、なんというか自分の中に入ってきたような感覚がする。そういえば「舞台装置の魔女」って無数の魔女の集合体って設定だったな。

使い魔は出し入れ可能だったのか。便利だ。

 

そんなことを考えながら進もうと身体を動かした瞬間だった。

突如、俺は頭蓋が割れるような激痛に襲われた。

 

本気で洒落にならない、感じたことのない激痛。

 

昔、乗ってる自転車の前輪に傘が挟まって一回転した後、アスファルトに顔ごと叩きつけられて前歯を折った事があるんだ。

その時のほうが遥かにマシだと思えたね。

 

自分の脳に直接情報を叩き込まれるような、魂を彫刻刀で刻まれるような痛み。

 

感じるのは今まで「舞台装置の魔女」が持っていた嘆き、痛み、恨み、絶望、無数の怨嗟と無限の呪い。

 

まるでこの世の全ての憎悪を煮詰めたような感情に、俺は耐えきれず意識を手放した。

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

どうやら随分と気を失っていたようだ。この洞窟の中で詳細な時間を知る術はないが。

 

地面から起き上がって再び宙に浮いた俺は、今度こそ恐る恐ると前に進み始める。

 

あれは一体何なのだろうか。もしかしたら「舞台装置の魔女」の意識かもしれない。魔女に意識なんてあるのかは分からないが、俺の人格と魔女の意識が混ざり合ったのだろうか、今の俺はなんというか若干人間の人格が入った魔女って感じがする。少し説明が難しいな。

 

身体への馴染み方も気絶する前と比べたら雲泥の差だ。

生まれた時から「舞台装置の魔女」として生きてきたかのようにこの身体のことを隅々まで把握できる。

 

かなりの速さで進めるらしく、試しに少し進む速度を上げてみると、みるみるうちに出口の光が見えてくる。

 

さてさて、ハプニングはあったが気持ちを切り替えて行こう。

魔法少女の気配を感じないからまどマギの世界ではないことは確かだ。

つまり、ここは完全なる異世界ということになる。

 

俺だって健康的健全的な男だったんだ。学生時代に中二病を発症したのはもちろんのこと、人よりは異世界への憧れがある。

 

そのまま速度を落とさず、俺は勢いよくまだ見ぬ異世界に向けて飛び出した!

 

おお!青い空!白い雲! 

眼下に広がる大森林! 遠くに臨むは雄大な山脈!

 

…ええ…なんか地球と同じだな。

 

そう思ってガッカリしていると、遠くからなにかが高速で接近してくる気配を捉えた。

いや、高速なんてレベルじゃない。数百キロ離れていたのに次の瞬間にはもう目の前に――!

 

竜。

 

その竜が一声咆哮するだけで、陽光が遮られ厚い雲が空を覆う。

その竜が翼をはためかせるだけで、竜巻が生じて雷雲を呼ぶ。

漆黒の鱗に覆われた威厳ある邪竜。

 

「クアハハハハハハ!!知らない気配目掛けて来てみれば随分と手ごたえのありそうな奴がいるではないか!我と戦え!この……この……なんだ貴様??? 本当に知らない存在だぞ。まぁ良い!!」

 

そう言って竜はこちらに向けて咆哮する。

 

え?ヴェルドラじゃん。

 

……アイエエエエエエエエエ!?!?ヴェルドラ!?ヴェルドラナンデ!?

 

ヴェルドラ。

それは「転生したらスライムだった件」に登場する最強キャラの一体。

世界に四体しか存在しない竜種であり、「暴風竜」と恐れられる神のごとき存在。

 

つまるところ、ここは転スラ世界だった。

 

まずいまずいまずいまずい!!!

 

転スラ世界は本当にまずい。

キャラが強すぎるのだ。

 

どいつもこいつも狂ったように強い。

主要キャラは全員神の領域に足を突っ込んでやがる。

 

ぶっちゃけ「舞台装置の魔女」の強さでは中の上ぐらいに食い込む程度だろう。

対して目の前で羽ばたくコイツは上の上。最上の強さを誇る。

うん、無理だね。まず勝てない。

 

ここは命乞いだ。俺だって死にたくない。

 

ヴェルドラは悪い奴ではないが、様子を見るに今はまだ原作開始前、つまりヴェルドラが封印される前。

 

超凶暴な頃のヴェルドラだ。

 

でも、さすがに話ぐらいは聞いてくれると信じている。というより、聞いてくれなきゃ困る。

 

待って!話を聞いてください! と、そう叫ぼうとして俺は口を開いた。

 

そのはずだったんだ。

 

「アハハㇵハハハハㇵハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

言葉の代わりに口から飛び出したのは高らかな哄笑。

完全に戦闘の引き金を引いちゃってるね、うん。

ほら、ヴェルドラが感心したようにこっち見てるじゃん。

 

「ファーーハハハハ!! その意気や良し!!」

 

ヴェルドラの姿が掻き消える。

かと思えば既に目と鼻の先でその右腕を振り上げていた。

万物を引き裂く巨大な鉤爪が鈍く光った。

 

わりぃ、俺死んだわ。

 

 





ワルプルギスの夜ってかっこよくない?
なんでこいつが主人公の二次創作無いんだろうね。
おかげで自給自足の恥をさらすしかないじゃない。
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