ワルプルの強化の話がややこしいため、一応説明しておきます。
まず、ワルプルギスが持つ能力は、この世界では魔法ではなく生理現象に分類されました。
身体能力の延長みたいなもんですね。
そしてこの世界の魔素を取り込みまくったワルプルは全面的に強化されました。
これは言わば、筋肉がムキムキバキバキになったようなもんです。
そして、炎の槍や重力操作などは、いわばパンチ。
筋肉ムキムキのため威力は増しマシですが、パンチをするのに魔素はいらないでしょう?
そしてパンチの結果は、魔法として処理されます。
だから、ワルプルは体内の魔素を消費せずに攻撃できるのです。
魔王三名以上の合意により開催される魔王集会。
一度開催が受理されれば不参加は許されない、自由気ままな魔王達を拘束可能な、数少ない魔王間の条約に基づく宴。
前回宴が発動されたのは七百年以上も前、聖魔大戦勃発の時期である。
そのため、人間側からは世に混乱と破滅を齎す魔王の宴、そういう認識で知れ渡っている。
宴に参加する魔王は十大魔王の名の通り十名。
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今回の
外界と隔絶された静謐な部屋の中でギィ・クリムゾンは一人、上座に座ってその時を待つ。
魔王全員が集まるまではまだまだ時間がかかるだろう、会場にはまだ誰も来ていない、それほど早い時間。
するとその空間へ突然、二つの人影が現れた。
ギィは彼女たちの姿を見て僅かに口角を上げる。
予想通り、ミリムとラミリスの二人である。
「久しぶりね、ギィ。元気だった?」
「わはははははは! 相も変わらずオマエはつまらん顔だな! ワタシの笑顔を見習うが良いぞ!」
「……ああ、久しいな。お前らも元気そうで何よりだ」
ギィの顔を見るなり貶し始めたミリムは自然な動作で次席へ、それを見て苦笑したラミリスは第三席へそれぞれ座る。
この円卓では、魔王になった順番でその席順が決定される。
ギィ・クリムゾン、ミリム・ナーヴァ、そしてラミリス。
永い時を生きる、偉大な始まりの魔王達である。
今でこそ仰々しいこの集会も、元をたどればこの三人のお茶会に過ぎなかった。
他の魔王が来るまでの、この僅かな間。
茶も茶菓子も十分な時間も無いが、三人にとっては今も昔もお茶会は変わらずに続いている。
ギィはラミリスに目を向け、その姿をまじまじと見つめる。
女王の称号に相応しい妙齢の美女。
輝かんばかりの金髪をさらりと肩から流し、背に生えた二対の羽は見る者に威厳を感じさせる。
繊細な芸術作品かと思うような美貌も相まって、神々しいまでの気配を放っていた。
しかし、外見に反してその中身は既に空っぽだった。
魔素量はもはや底を尽きかけ、力もほとんど残っていない、哀れな空虚。
それが今のラミリスだった。
「時にラミリス、お前はそろそろ転生の時期じゃないのか?」
ギィにそう聞かれたラミリスは、いかにも気怠そうに長い脚を組んでぶすっとする。
「ええ、そうよ。この身体じゃあ持って後50年といったところね。またしばらくは幼い姿で過ごさなきゃだわ、あーあ、メンドクサイったらありゃしない」
「オマエは大変だな、ラミリス。困ったことがあれば遠慮せずにワタシに言えよ! オマエはトモダチだからな、いつでも助けてやるぞ!」
「……はぁ!? どの口が言うか! ど・の・く・ち・がぁ~~!」
「お、おい、その手は何をするつもりなのだ……? や、やめろぉ! ワタシの顔を引っ張るでない! イダダダダダダ! やめるのだーーー!!」
みぃーん。
怒りのラミリスによってミリムの頬が伸びる伸びる。
そもそも、ラミリスが
それを理解しているからこそ、ミリムのバカとは違ってギィは腕を組んだまま微動だにしない。
冗談でも煽ったりはしないのだ。
触らぬ神のなんとやらである。
「まぁ、このくらいにしてあげましょう。ところでアタシ達ってなんで集まってるの?今回の議題ってなんだっけ?」
訂正、コイツも大概アホの子である。
「我ら魔王の集会の名である『ワルプルギス』を掠め取って己の名にした愚か者が現れた。そいつをどうするかという話だ」
「あちゃあ。バカな奴が居たものねぇ」
ラミリスが呆れたように呟く。
そりゃそうだ。そんなことをすれば魔王達の粛清が待っているのは想像に難くない。
もしかして相当な考えナシなのだろうか。それか、自分の力に酔いすぎているのかもしれない。それにしたって限度はあると思うが。
その時、頬を抑えながらも珍しくミリムが真面目な顔で口を開いた。
「ワタシは知っているぞ。ヴェルドラと100年ぐらい戦っていた、魔素量だけは多いあの『魔女』だな」
「……そうか。お前の『
「うむ。オマエはどうなんだ?」
ミリムに聞かれたギィは、まるで降参とでもいうかのように両手を上げた。
「勘弁してくれ。オレでもさっぱりだ。アレはこの世界から外れている」
「へぇ。アンタでも分からないのね。そんなに謎なの? その……『魔女』とやらは」
「ああ、謎だね。一番の謎はヤツの攻撃方法だ。魔法でもスキルでも無い全く新しい技を使いやがる。ジュラの大森林での爆発は、迷宮に籠っているお前でも知っているだろう?」
「あぁ……あれね……」
何かを思い出したのか、ラミリスがうへぇと顔をしかめる。
「急に『
「『ワルプルギスの夜』を名乗るソレが放った、
「一撃……ね。えっ!? 一撃!?」
ラミリスが素っ頓狂な声を上げるのも無理はない。
火力面のみで見れば、たった一撃であれほどの威力を出せるのは魔王の中でも極僅か。
さらに相手は生命力という一点で突き抜けている
畏れ多くも『ワルプルギス』の名を僭越するだけの力は、少なくとも持っているということか。
「それだけならまだ良い。くだらん有象無象の一体だ。だが、問題はその一撃そのものにある」
「どういうことよ」
「あの爆発は結果としては魔法……いや、事象として結果的に出力されたのは魔法と言うべきか。あの炎は紛れもなく魔法だったが、それを放つ過程で件の『ワルプルギスの夜』は一切の魔素を消費していない。あの技は、極めて魔法に近しいナニカだ」
今度こそラミリスの顎が床に落ちた。
「ちょ、ちょっと。噓でしょ? 魔素を消費しないってだけでもヤバいのに、魔素を使わないであの威力を出せちゃうってこと?」
「本当だぞ。ワタシも『眼』で見ていたが、ギィと同じ結論なのだ。あの『魔女』は、あの技で
二人はアホだが、決して低能という訳ではない。
それが意味するところを明確に捉える事など、例え寝起きでも出来ただろう。
魔法然りスキル然り、この世界に何らかの形で影響を与えようとするならそれに見合うエネルギーが必要になる。
魔法ならば体内の
特に体内の
だからこそ、たとえ魔王といえども大技を簡単には連発できないし、
しかし、魔王の目から見ても膨大な
それはあり得ないことだ。
この世の理を覆す、あってはならないことだ。
「他の魔王はこのことには……?」
「気づいていないだろうな。ダグリュール辺りならともかく、小物どもは強力な駒が現れたぐらいとしか認識できていないだろうよ」
ギィはこの集会が招集された目的を正確に把握していた。
愚か者の粛清というのは建前にすぎず、どいつもこいつもあの『魔女』の力を理由に、なんとか他の魔王の承認を得たうえで自陣営への引き込みを狙っている。
しかし、それを分かっていない魔王が一名。
言わずもがな、ミリムである。
「ワタシはこの時を待っていたのだ!」
無い胸を張りながらミリムは意味深にニヤリと笑ってみせる。
「ワタシが勝手にあの『魔女』を殺せば他の奴らから文句を言われるのは分かっていた。だからこの状況になるまでワタシは我慢したのだぞ! 粛清というたいぎめーぶんを得た今、ワタシは誰にも怒られずにあの『魔女』と戦える!」
突発的かに思われたこの状況を読む。
何故その頭脳を他の分野に使わないのだろうか。
不思議である。
「なぁ、ギィよ。オマエの許可をワタシにくれ! オマエもあの『魔女』は退屈しのぎになると思うだろう? な?」
ギィはしばし考えるふりをして、心の中でほくそ笑む。
ミリムが読みやすいアホで助かった。
おかげで手間が省ける。
「そうだな……。お前の退屈を紛らわせる程かどうかは分からんが、少なくとも強いとは思うぞ。よし、魔王ミリムよ。このオレが許可する。行ってこい!」
「えぇ!? ちょっと、もうすぐ
「わははははははは! なぁに、直ぐに戻ってくるのだ! あの『魔女』はワタシが粛清しておくぞーーー!!」
目にも止まらぬ速さで駆けたミリムの
「わああああああああ!! あーあ、行っちゃったじゃないの! アタシ知らないんだからね! って、なに笑ってんのよアンタ、気持ち悪いわね」
ギィの許可が出るなり、止める間も無く高速でその場から消えたミリムを尻目にラミリスはギィにジト目を向けた。
その視線の先でギィは実に良い笑顔を浮かべていた。
「ラミリス。お前は知らんかもしれないが、オレはこの集会の名前なんぞ心底どうだっていい」
「いや知ってるわよ、そんなこと」
「それにオレは、思い上がった小物が打ちのめされる表情が大好きだ」
「それも知ってるわね」
この後どうなるのか。
ミリムの行動次第でシナリオは二つに分けられるだろう。
それは、どちらに転んでもギィには好都合だった。
「ふむ、貴様らが居るゆえ、ミリムもおると思ったのだが。あの小娘にしては珍しいことよ」
音も無く、四人目の魔王が現れる。
座るのは第五席。吸血鬼族の女王であり、神聖法皇国ルべリオス及び西方聖教会の信仰する神その人、ルミナス・バレンタインである。
何故かいつもより機嫌の良いルミナスに続いて、ディーノも現れる。
「よっ! 久しぶりだなラミリス! そろそろ転生の時期じゃないか?」
「お元気そうで何よりだわ、ディーノ。ええ、もうじき転生しなければいけません。まったく憂鬱ですわね」
ラミリスがにこやかな笑顔を取り繕う。
せめて大人の間は威厳を保とうと上品な女王を演じているラミリスだが、悲しいかな、子供の時の姿を見慣れている古の魔王達にとっては微笑ましいばかりであった。
Walpurgisnacht
会場に次々と魔王が現れ、遂にミリムを残すのみとなる。
比較的仲の良い魔王達の談笑を遮るように、末席に座るクレイマンが怪訝な表情で口を開いた。
「おやおや、ミリムが遅れているようですね。これはどうしたことでしょう。誰か、何か知っていますか?」
円卓を見回すクレイマン。
それを受けてカザリームはギィに目を向けた。
「よりにもよって退屈を嫌うミリムが遅れるとは考えにくい。なァ、ギィ?」
「知らんな。まぁ、流石のアイツもこの
白々しくしらを切るギィと知らんぷりをするラミリス。
まさにその時、魔王達はこの空間にも届くほどの膨大な魔力を感知する。
禍々しいこれは、紛れもなくミリム・ナーヴァの魔力。
にわかに騒然となる会場。
しかし、そこにギィの一声が響いた。
「座れ!」
たった一言。
その一言は、まるで力を持つかのように魔王達の動きを止めた。
ギィ・クリムゾン。
原初の悪魔、最古の魔王。
「席を立つことは許さん。心配せずともミリムは直ぐに来るさ。それまでは魔王同士、お互いの親睦でも深めようじゃないか」
流石に無理やりが過ぎるが、渋々といった感じで従う魔王達。
ニコッと妖しく笑うギィ。
その横でラミリスは溜息をつくのだった。
ミリムの魔力に当てられ、その楽しそうな表情が目に浮かぶようである。
「わはははははは! いいぞ、もっとだ! わははははははははははははは!!!」
お読みいただきありがとうございます。
webで一回、書籍版で一回、漫画版で一回、そして今web版を読み直しているので、これで通算四回目の転スラです。
それでもヒナタとクロエの話の理解には30分ぐらいかかりました。
……嘘です。サッパリ分からん。
なにあれ。暗号でも見てるのかと思ったよ。
結局あれは、何がどうやってどうなってどうしてどうなったの????
クロエは結局なんなの?過去で何したのあいつら。
有識者の方がいれば助けてくれぇ……。