かい‐てん【廻天】
《天をめぐらす意》時勢を一変させること。衰えた勢いを盛り返すこと。
えん‐かん【円環】
まるい輪。また、まるく連なっている形。
超高速で空中を駆け巡り、幾何学模様を描き出す二筋の光。
第三者からは、あるいはそう見えたのかもしれない。
しかし当人にとっては生きるか死ぬかの死活問題だ。
間違っても余力を残して勝てるような相手ではない。
音速の壁を幾重にも突破して俺は空中を駆ける。
本来ならば生物が追いつけるような速度じゃない。そう、本来ならば。
「わははははははは! 遅い遅い!」
軽く俺を上回る速度を涼しい顔で出しながら、ミリムに進路を先回りされる。
旋回、間に合わない、僅かに逸れて回避。
膨大なエネルギーを持った拳が俺の脇腹をかすめた。
一瞬遅れて、衝撃波が周囲にまき散らされる。
重い……ッ!
直撃していないのにもかかわらず、痺れるような衝撃が身体全体に広がる。
ダメージは受けていない、だが確実に速度は一瞬だけ落ちる。
それを見逃すミリムではない。
再度、ミリムの拳が俺を捉える。
それをまたもや間一髪で回避し、しかし飛行速度は更に落ちる。
それでも止まるわけには行かない。
ミリムがヒット&アウェイの戦法を取っているのは、俺が一定以上の速度で移動し続けているからだ。
全力で殴るには、僅かな間の溜めと力みを必要とする。
だが、その僅かな時間は俺にとって視界外へ逃げるのに十分な隙だった。
だから、ミリムはジャブのような攻撃しか放てない。
つまり、俺が止まればどうなるのかは、一目瞭然だ。
お返しとばかりに、俺は後ろを飛ぶミリムにありったけの炎の槍を飛ばす。
回避する素振りも見せずに全弾をまともに受けたミリムはしかし、傷一つ付いた様子はない。
やはり、攻撃の威力と手数の幅が落ちるこの姿じゃ、逃げ回るのが精一杯か。
しかし、元の姿は耐久が気になる。
より硬くなっている今でさえ、ミリムの攻撃は脅威だ。元の姿で耐えられるかどうか。
先程から絶え間なく攻撃を浴びせているが、ミリムは怯むどころかさらに速度を上げてくる。
そしてまたもや目の前に回り込まれ、回避しようとしたその瞬間、ミリムの姿が消えた。
見失った!
そう思って周囲に目を走らせたのがいけなかったんだろう。
「油断大敵なのだ!」
気付けば既にミリムは、俺の懐の中で腰から上を回転させ、限界まで力を引き絞っていた。
取ったと確信した笑みを浮かべながらその腕が霞み、拳が振り抜かれる。
聞いたことのないような音を立てて、ミリムの全力の拳が俺の腹に突き刺さった。
ギシ、と歯車が軋む。
余波の衝撃で大地はめくれ上がり、弾丸のような速度で射出された俺は勢いそのまま地面に衝突した。
俺を中心に地面が吹き飛び、クレーター状に窪む。
しかし驚くべきは、未だに傷一つ付いていない俺の身体だろうか。
だが身体に反して心は駄目だ。
これは、勝てない。
「うむ! 大した硬さだな! だが、殴り続ければいつかは壊れるだろう?」
起き上がった俺を、ミリムが遥か上空から笑いながら見下ろす。
ああ、確かにその通りだ。
俺の攻撃は通らず、向こうの攻撃は一つ一つが大打撃。
これが詰みってやつだろう。
こりゃ無理だね。
俺は負ける。
『ワルプルギスの夜』はここで負ける。
……本来ならば。
負ける?
負けるのか?
俺は、『ワルプルギスの夜』を負けさせるのか。
俺のせいで、『ワルプルギスの夜』が負けるというのか?
確かに元の姿じゃ、ミリムの攻撃は耐えられないだろう。
確かに俺は、ミリムに勝てないかもしれない。
だが、それがどうしたというのか。
まったく、何を弱気になっていたんだ。
情けない。
「舞台装置の魔女」は、その程度の強さしかなかったのか?
否。
『ワルプルギスの夜』は、この程度で、たったこの程度で負ける存在なのか?
否だ!
勝てないというなら、勝てないなりに目の前の最強を殺してから死ね!
すまんな、トレイニーさん。
恨むならこいつを恨んでくれ。
(退屈させて悪かったな)
「むっ!?」
仮初の姿を捨て、『ワルプルギスの夜』へと戻る。
開放感が全身を包み、身体の奥から力が湧き上がる。
それと同時に全力の覇気をミリムに叩きつけた。
「こ……れは……ッ! わははは、良いぞ……!」
ビリビリと大気が震え、両者の間にある空間が殺気で歪む。
俺は覚悟を決めたぞ。
最期の言葉を考えておけ、ミリム・ナーヴァ。
手加減できるほどの余裕はない。
「ギャハハハハハハハハハハハハハ!!!」
「上等ッ!!」
再始動。
小細工は弄さない、ミリムがまっすぐに突っ込んでくる。
ミリム相手に使い魔どもは役に立たない、しかし俺には触手がある。
複数の触手を一本に寄り合わせて、今までとは比べ物にならない速度でミリムの横腹を殴りつける。
音を立ててミリムの多重結界が砕け、俺はそのまま眼下の森ごと薙ぎ払った。
大地に一直線の傷が刻まれ、木々や岩と共にミリムが吹き飛ぶ。
「わはははははは! まさか一撃で結界がやられるとは思わなかったぞ! やればできるではないか!」
かなり遠くまで吹き飛んだのに、何事もなかったかのように勢いよく戻ってきたミリムの蹴りが俺に突き刺さる。
今の俺はミリムからすればデカい的だろう、蹴りから流れるように無数の打撃が俺を襲う。
身体のありとあらゆる所に衝撃が走り、200m超の巨体が大きくのけ反って後退する。
それすら許さず、追いかけるように俺に肉薄したミリムは、俺の頭を掴むと思いっきり地面に叩きつける。
そのまま落下の勢いを殺さずに一回転を加えた踵落としが炸裂して、俺の身体は衝撃で宙に浮いた。
更に息も許さぬ追撃。
今度は上空に投げ飛ばされ、隙を埋めるように幾万もの殴打を加えられる。
だが、まだ弱い。
「硬すぎるな! ワタシの『竜魔拳』がこれ程効かないヤツは初めてだぞ!」
まだまだ、微塵も足りない。
かつて黒い魔法少女に無数のミサイルを雨あられと撃たれた時とは比ぶべくも無い。この程度で傷付く訳にはいかない。
そして、大人しく殴られてやる理由も無い。
ミリムの背後に、小さな太陽。
異変を察知したミリムが振り向いた瞬間、その僅かな隙に触手でミリムを弾き飛ばし、間髪を容れずに叩きつけるようにその技を放った。
上空にて、太陽の矢が弾けた。
『ティロ・アレステレ』
破滅の炎が天を覆いつくす。
時間も余裕も無い簡易版だが、威力は十分だろう。
だってほら、ミリムの叫びがこんなにも聞こえるんだから。
「アアアアアアアアァァァァはははははははははは!!! 痛い! 痛いぞ! こんなにも楽しいのは久しぶりだ!!」
絶えず身を焼かれながら、それでもミリムは笑う。
たっぷりと時間をかけて光が収まった後、ミリムは幽鬼のようにゆらりと、煙と炎の中から見るも無残な姿となって現れた。
いや、ミリムにとっては無残な姿と言うべきか。
美しかった髪は艶を失くし、衣装はボロボロに焦げている。
露出した肌はほどんど煤で黒ずみ、肉が所々残火に焼かれてはいるが、逆に言えばたったそれだけ。
青い瞳はまだ爛々と輝いて俺を見つめてくる。
は、はは。笑えるね。
マジかよ。
いくら簡易版とは言え、ゼロ距離で「ティロ・アレステレ」の直撃を受けてピンピンしてやがる。
「礼を尽くそう、『ワルプルギスの夜』。オマエは強いな、『ワルプルギスの夜』!! ワタシのとっておきを見せてやる、思う存分殺し合おう!!」
轟、と。
解放されたミリムの禍々しい魔力が渦巻く。
もはや目に見えるほどの魔力の柱が天まで立ち上り、雲を吹き飛ばす。
空中に佇む、竜の姫。
それはともすれば、美しい神話の一場面にも思えた。
無傷の姿で竜の翼を広げ、その美しい髪を風に靡かせて。
先程まで無かった、額から生えた美しい紅色の角。
全身を漆黒の鎧で覆い、手には少女の身体に不似合いな、長大で婉曲した片刃の剣。
魔剣『天魔』。
剣という枠組みを遥かに超越した
「行くぞ! 全力で行くぞ! わははははははははははははは!!」
一切の予備動作を排してミリムが動く。
刹那、彼我の距離はゼロに縮められ、『天魔』を振りかざしたミリムが渾身の力を込めて剣を振り抜いた。
身体が勝手に反応し、咄嗟に出せる限りの触手を使い魔に分解して剣の軌道上に差し挟むが、まるで抵抗なく切り裂かれる。
一切の速度を落とさずに、『天魔』は甲高い音を響かせてそのまま俺の歯車に斬り込まれた。
そして、食い止められた。
その攻撃の余波だけで背後の山肌が削り取られ、暴風が荒れ狂う。
「ッ!?」
驚いた者は、二人。
ミリムは、『天魔』の直撃をもってしても殺し切れない俺の頑丈さに。
俺は、たった一撃で歯車に大きな
驚きは一瞬。すぐに二撃目が振るわれる。
俺は迫り来る剣の腹を沿うように触手を添わせ、ギリギリのタイミングで剣筋を斜めに逸らせる。
それでも剣先が歯車に触れ、深い亀裂が入った。
ズレた太刀筋は遥か彼方まで大地を割る。
「わはははははは! いいぞ、もっとだ! わははははははははははははは!!!」
まずいな。
このままじゃ恐らく、あと四発も当てられたら歯車が砕ける。
それはすなわち、俺の死。
三たび、激突。
互いの姿が霞むほどの攻防を経て、歯車の損傷が増える。あと三回。
俺は触手、ミリムは剣、空中にて七度の剣戟が繰り広げられる。
百の衝撃が咲き、千の火花が散る。
極限まで引き伸ばされたような時間の中、ミリムのボルテージがさらに一段上がった。
やはり、ミリムは一筋縄じゃ行かないな。
でも、それは俺の方も同じだ。
ミリムに一筋縄程度で行かせるものか。
激しい死闘の合間、ミリムにバレないようにコッソリ重力操作を遠くに及ぼす。
俺の周りでは木や岩が弧を描くように浮遊し、重力はその秩序を失う。
しかし、本命は遥か遠くに及ぼした重力操作。
あとは一瞬、たった一瞬の隙があれば良い。
そう、例えば重力に続いて
「おわっ!? なんなのだ!?」
ミリムの動きが空中で止まる。
今、彼女の周りでは摩擦は働かない。
それすなわち、摩擦力は消え、いかなる運動も効果を及ぼさないということ。
しかし、さすがはミリム。瞬時にからくりを見抜き、自身に及ぼされている影響を
だが、それで十分だ。
俺が重力操作を使って持ち上げたのは、山。
ビルなんてちゃちな事はしない。山だ。
よく考えれば、これこそが『ワルプルギスの夜』の戦い方。
俺が棲家にしていたエーテルガルドよりもやや南、「死の領域」にある山を
そして遥か遠くから十分に加速をつけ、全力でハンマーのようにミリムに向かって横殴りに叩きつけた。
なぁ、ミリム・ナーヴァ。
音速の三倍で飛んでくる、17億2000万トンの物体と衝突したことはあるかい?
「なにぃ!? しまっ―――!」
ゴシャ、と。
耳を塞ぎたくなるような鈍い音を立てて、ミリムが山と共に飛んでいく。
そして、とんでもない轟音と共に大地に叩きつけられた。
地震かと思うような地響きが大陸を揺るがせる。
もちろん、これで終わりだなんて思わないさ。
ハンマーなら、しっかり複数回振り下ろさなければ。
俺は山を持ち上げると、再びミリムの上に振り下ろす。
また振り下ろす。また振り下ろす。
何回も何回も何回も何回も何回も―――。
違和感。
気配。危険。
回避。
光。
――流星。
それは、星の煌きを彷彿とさせる、淡く美しい輝き。
山の下から一筋の光が閃いた直後、その直線上にある山を含めた全てが音も無く消滅した。
それは、この世界で最強の一撃。
ミリム・ナーヴァにしか操れない「星粒子」を以て放つ、唯一無二の絶対究極。
「誇れ! このワタシをここまで追い詰めたのはギィ以外ではオマエが初めてだぞ! 戦いはこうでなくては! わはははははははははは! 楽しい!楽しい!!楽しいぞ!!!」
擦り傷だらけの姿でミリムが飛び出してくる。
あーあ、泣けてくるね。
硬すぎるだろ。
あと、最終奥義をそんな簡単に使うなよな。
翼を広げて飛び上がったミリムは、俺の前で停止した。
そして目で語りかけてくる。
オマエも最強の一撃を出せ、と。
これで決める、と。
どうやら、待ってくれるらしい。
ならば応えるのが道理だろう。
良いよ。
終わらせようか。
思うに、『ティロ・アレステレ』はまだ極めることが出来る。
豚の王を滅ぼしたときは、大量の岩石で溶岩を作った。
でも、それは「逃げ」だ。
そうすることでより早く必要な質量を確保することが出来たから。
炎の槍の質量は極めて小さい。
せいぜい0.5㎏、あるかないか。
岩石で誤魔化した質量の分を、全てその炎で埋め合わせたら。
いいや、それ以上が出来たなら。
能力の限界まで、
目の前にティロ・アレステレを作り出す。
二つ、合わせる。
合わせる。凝縮。
合わせる。圧縮。
合わせる。更に。
ミリムはジッと待ってくれている。
何かを期待するように、子供の目をして。
ならば、応えるのが道理。
重ね、圧して、重ね、重ね、圧して、重ね重ね重ね重ね、圧して、重ね圧して重ねて重ねて圧して、圧して、重ねて。
色彩が、失せていく。
空中に生まれた、ただ一点の『白』。
圧縮は止まらず、『白』は更に深まっていき、それによりその他の存在は薄められていく。
バキッ
空間の壊れる音がした。
色彩が失せた世界には、音すらない。
凝縮されていく『白』からは、徐々に甲高い音が発せられ始める。
まるで、世界が耐えがたい苦痛に悲鳴を上げているかのように。
まるで、行為そのものが禁忌に触れているかのように。
この押し合いに負ければ死ぬ。
もう歯車はもたない。
相対するは、
まだだ。
まだいける。
まだ高みへ、その頂へ。
これは、一つの解答だ。
強引な収束、過度の回転、異質な加速、必然な膨張。
即ち放出系、その極地。
小さな球体に収まろうはずもない熱量と質量は、あろうことかより濃く膨大に『白』に吸い込まれていく。
ガコン、と。
歯車が鳴った。
既にその炎は許された限界を超えている。
カチッと、何かが決定的に切り替わった。
遍く「終わり」を予感させる『白』は、その窮極へ。
背後の魔法陣が動きを止める。
そして、再び回り始めた。
逆向きへ。
嗚呼、これが。
廻天。
ミリムには、
いくら『ワルプルギスの夜』を認めていても、いくら『ワルプルギスの夜』が強くとも、この世には覆らないことがある。
高揚の中にいながら、ミリムは実に冷静だった。
それはミリムにとって最も避けるべき事態であった。
ミリムは彼女を気に入った。
トモダチになってやっても良いと思えるほどには。
自分の遊び相手に任命しようと思えるほどには。
だから、ミリムは手加減版である
それでもなお、ほとんどの存在は抵抗すら許されずに消し飛ぶほどの威力には違いないが。
だが、ミリムは目の前の『白』を見ていると、あるいは
その魔女の、歯車の回転が止まるまでは。
ガコンと音が響く。
そして彼女の魔法陣が、いきなり逆回転を始めた。
それに伴うように、彼女の身体もゆっくりと回りだす。
横ではなく、縦に。
回転。
下向きの頭部が上を目指す。
廻天。
やがて彼女は、正しき位置へ回帰するだろう。
天が地へ、地が天へ。
「ハ「ハハハ「アハハハハハハ!「イヒッ「ハハハハハハハハハハハハハハハ!!「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
世界の悲鳴は、既に絶叫へと。
ゾワリ。
ミリムは今、産まれて初めて死を見た。
全身が粟立つ、背筋が凍る。
まるで自分の頭蓋が砕かれて、脳の中身を無数の眼で凝視されているかのような。
感じた。
魂の奥底から。
殺さなければ、
恐ろしいことに悍ましいことに惨たらしいことになってしまう。
己の全存在が叫んでいる。
殺せ!殺さねば!ここで殺さなければ!死ね!死ななければ!殺せ!駄目だ、これは駄目だ!殺せ!殺せ!今、ここで!これは存在してはならない!!
どうしてそんなにも恐怖したのか、ミリムにも分からない。
そうしてそんなことを思ったのか、ミリムにも分からない。
分からないが、ミリムは本能に従った。
竜の瞳孔を見開き、竜の翼を広げて。
ミリムの口に集うは、絶対の破滅。
全てを消し去る、流星の煌めき。
それと同時に、世界の絶叫が止んだ。
回転が終わる前に、窮極の『白』は完成した。
一瞬の静寂が訪れる。
自然と、生きとし生けるものの呼吸が止まる。
解放の時が来た。
二つの破滅が、窮極と究極が空中で衝突し、そして爆ぜた。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
ミリムが咆哮する。
極光と劫火の中、ミリムは有り得ぬ景色を見た。
拮抗していた。
有り得ないことだった。
ミリムを守るように覆っている
有り得ない!
思わず
まさか、まさか!
その技は、匹敵するとでも言うのか!
たった一撃で、その一撃で!!
全力の、
天へと景色を衝く力の奔流の中、もはや目すら開けていられない。
まるで、世界の終焉と新たな開闢が同時に起こっているかのような、あるいは、世界が泣き叫んでいるかのような。
空が砕けたように見えた。
割れたようにも、酷く歪んだようにも見えた。
見た者により表現は様々だが、そのとき確かに蒼穹は破壊された。
表現すら許されない、その光景。
しかし、拮抗は唐突に終わりを告げた。
なんてことはない、二つの技の仕組みの違い。
「
二つの破滅が互いに打ち消し合い、その力が霧散する頃。
常にエネルギーを放出していた
対する「
勝敗は決した。
次にミリムが見た光景は、身体の大部分が消滅し、力なく落ちていく「魔女」の姿だった。
「ワルプルギスの夜」と「
魔女は暴君に、あと僅かに及ばなかった。
ミリム・ナーヴァは最強の名を守った。
そして。
『ワルプルギスの夜』は、死んだ。
その傷は完治する。
「ッ!?」
この短期間で、何度目かも分からない驚愕。
ミリムの目の前で、死んだはずの魔女が生き返る。
いや、生き返っているのではない。
傷が治ったのでもない。
ましてや、時が戻ったのでは決して無い。
まるで、
これは……。
「ウロボロス……? 蛇の輪、いや輪廻か? 違う、もっと上位……これはむしろ……円環?」
ミリムが顎に手を当てて呟く。
そして次の瞬間、その場で盛大に笑った。
「ぷっ、ははははははは! わははははははははは! わははははははははははははは!!!」
それは、心からの爽快な笑いであった。
ミリムは戦闘状態を解除すると、未だ呆けている魔女にビシッと指を突きつける。
「止め、止めだぞ! これ以上続ける気は無いのだ! おい、オマエ! 取り敢えず下に降りろ! ワタシと話をするのだ!」
だから、そう、つまり。
本気のミリム・ナーヴァを相手にして。
この勝負は、引き分けだった。
×××
やっべえええええええええええええ!!
死んだ! 死ぬかと思った! いや普通に死んだ!
何故か次の瞬間には無傷で生きてたけど、確かに一瞬死んだよな!?
なんで生きてんだ、俺。
なんだか身体も回っていた気がするし。
何かを忘れているような……気のせいのような……。
ていうかやっぱり
なんだあれ、無理ゲー過ぎるだろ。
ミリムに戦う意思はもう無いそうなので、俺は人型になって地面に降りる。
そして、あまりにも被害が少ないことに気付いた。
あの二つの技の衝突は、間違いなく世界の半分を消し去るようなものだった。
しかし、森の一部が焦げ、地面が少し抉れているだけで大した被害は出ていない。
謎はすぐに解けた。
ミリムは
これはお察しの通り、この世界でも最高の強度を誇るものだ。
星粒子で構築された繭は、いかなる攻撃も通さない。
彼女は、それを二つ展開していた。
一つは自身を覆うように。もう一つは衝突地点を中心に、俺を含めた空間を球状に覆うように。
そうすることで被害をその球状の中のみに留まらせることが出来る。
いやぁ、ありがたいもんだ、そこまでやってくれるとは。
多分、あまりにも被害が大きければ色んな奴に怒られるんだろうな、ミリム。
もしかしたらギィと喧嘩になっていたかもしれない。
これで俺もトレイニーさんを怒らせなくて済むよ。
地面に胡坐をかいて座っているミリムの前に降り立つ。
ミリムはニコニコしながら手を差し出してきた。
普通、逆なんじゃないかな。
その、順序がね。
殺し合いから入る話し合いは無いからね?
「改めて、ワタシがミリム・ナーヴァだ! よろしくな!」
(「舞台装置の魔女」、『ワルプルギスの夜』、お好きな方でお呼びください)
「うむ!」
念話でミリムと会話する。
さっそく役に立ってくれてるぞ、ヴェルドラサンキュー。
「ワルプルギス! ワタシはその名を認めるぞ! ついでにワタシのトモダチになる権利をくれてやろう! 光栄に思うが良い!」
(え、あ、はい)
「ちがう! もっと喜ぶのだ! ワタシはすごいのだぞ! ワタシとトモダチになれるのはすごいことなんだぞ! 感謝せよ!」
(……は、ははぁ~! 誠に有難く存じます)
「馬鹿! そんな堅苦しい口調でトモダチと話すやつがいるか! もっとワタシと親しくしろ!」
(……これでいい?)
「うむ!」
ダメだ、疲れてきた。
画面の向こう側を眺める分には良いのだが、いざ目の前にするととんでもなくめんどくせえなこの野郎。
早くリムルに押し付けたい。
必要だろ、マブダチが。
「それにしてもオマエは強いな! まさか
(微妙に相殺しきれずに死んだけどね)
「うぐっ、そ、それは悪かったのだ……。撃つつもりは無かったんだが……なんで撃ったのかワタシにもよく分からないのだ……。し、しかし、そのおかげでオマエの強さは他の魔王にも知られることになるぞ! ワタシのおかげだぞ!」
お前のおかげなのか。
違うと思うな。
しかし、やはり
それで俺の粛清が決定されたからミリムが来たんだろうし。
思っていたよりも動きが速い。
うーん、ほんと、どうすっかなぁ。
「よし! そうと決まれば今から行くぞ! さあ行くぞ!」
(え? 行くってどこへ?)
「そんなの、決まっているだろう! 他の魔王たちの所だぞ!」
え。
今からカチコミに行くの!?
俺もうヘトヘトなんだけど!?
ということで俺は今、
始まってすら無かったんかい。
ミリムの独断専行かい。
突き刺さる魔王の視線が痛い痛い。
「ほう……。つまりお前はコイツと引き分けた、と?
「そうだぞ! だからワルプルギスはワタシのトモダチなのだ!」
「うっ、頭が」
ギィが頭を抑える。
ごめんね、なんか申し訳ないね。
「それでは、この愚か者はミリム以外の我々全員で始末するべきでしょう! ミリムを絆したとは言え、所詮多勢に無勢! ミリムが認めようと、我々は認めていませんからねぇ」
「ああ、
クレイマンと……カザリームかな? が薄ら笑いを浮かべながら立ち上がる。
それに追従するようにカリオンとフレイも立ち上がった。
一触即発の空気だ。
まーた何か企んでやがるのかこいつら。
ま、来たからには仕方ない。
俺は『ワルプルギスの夜』、俺だけが『ワルプルギス』だ。
気を付けろ?
今の俺は、ミリムと引き分けに持ち込めたことで気がデカくなってるぜ?
変な口を利いたらぶっ殺すぞ!!
おぉん!?
ギィからの視線を感じる。
目が合った。
ギロッと睨まれた。
あ、はい、冗談ですやーん。
お読みいただきありがとうございます。
過去最長の一話になりました。筆が乗り過ぎた。
アンケート結果おかしいでしょ。
なんであの錚々たるメンツの中でワルプルギスが一位なんだよ。
「なんと、ワルプルギスの夜」じゃあないよ。
お前たちぃ~、特殊性癖だぜぇ~!(最悪)
ちなみに、私はほむほむ派です。
余った空白に現れる唐突なアンケート(実験)
-
リムル様万歳!
-
ミリム可愛い!
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分かってないな、ヒナタだろ
-
我らシオン様親衛隊!
-
シュナ一択でしょ
-
まどかを見守り隊
-
私はほむほむ派です
-
さやかちゃんを闇墜ちから救いたい
-
杏子にいっぱい食べさせたい
-
マミさんの代わりに俺がマミる
-
なんと、ワルプルギスの夜