転生したら「ワルプルギスの夜」だった件   作:十二夜

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ヴェルドラを煽っただけでメスガキ呼ばわりはされるわ、ガコンって効果音出したら異界神将扱いされるわで、「異界神将メスガキワルプルギスの夜」とかいう業が深すぎるバケモノが産み出されたことに遺憾の意を表します。
あーあ、どうすんだよこれ。
ほら見ろよ、宿儺も戸惑ってるじゃねぇか。



魔王達の宴

 

「アルルカンとピエロ」という絵画がある。

 

知らない人の方が多いのではないだろうか。

 

フランスの画家アンドレ・ドランによる作品だ。

描かれているのは多色格子模様の服に三日月形の帽子を被るアルルカンと、ひだ襟の白い寛衣に黒い縁なし帽を被るピエロの二人。

片膝を上げてギターを演奏する二人は、砂漠の如き殺風景な背景と相まって、まるで永遠に同じダンスを繰り返すマリオネットのようにも思える。

描かれた楽し気なダンスや音楽のイメージとは対照的に、彼らは互いに目も合わさずに真面目な表情を浮かべていて、どことなく哀愁が漂う、そんな絵画。

 

なんでだろうね、俺はその絵画を妙に気に入ったんだ。

 

アルルカンとピエロ。

 

日本語に訳すとどちらも「道化役者」と一括りに纏められるけど、舞台上での役割は大きく違う。

 

アルルカンはイタリアの即興喜劇に登場する道化で、その役割はずる賢く、貪欲で、人を騙すのが得意なペテン師。

だからアルルカンは常に堂々と立ち振る舞い、色鮮やかな衣装を身に纏って、黒い仮面を被ったみんなの人気者だ。

 

対して、ピエロはまさにその真逆。

ピエロもまたイタリアの即興喜劇に由来する道化だけれど、求められる役割はのろまで、鈍臭く、頭も悪いお調子者。

徹頭徹尾、観客を笑わせるために白い顔で動き回り、常にあらゆる面からいじられる。

 

だから、ピエロは自分の目の下に涙をメイクするんだ。

 

実によくできたキャラだと思わないだろうか。

 

ピエロがその役割を果たせば果たすほど、観客が笑えば笑うほど、添えられた涙のマークは際立つんだから。

 

いや、別に大した話じゃないから頭の片隅にでも放っておいてくれれば良いよ。

じゃあ、なんで話したかって?

ふと、あの絵画のことを思い出したんだ。

 

まぁ、強いて言うなら。

 

目の前で悶えるクレイマンの表情が、あまりに滑稽だったから、かな。

 

「ぐうぅ……ぉあ゛、オエェェ………!」

「キヒッ、イヒヒヒヒヒヒヒヒッ」

 

そうそう、アルルカンの役割なんだけどね。

実はもう一つある。

 

それは、場を引っ搔き回し、シナリオを転換させるトリックスター。

だから、アルルカンは人気なんだ。

 

トリックスター。

 

善と悪、破壊と創造、賢者と愚者。

異なる二面性をその内に持ち、神話や物語の中で、神や自然界の秩序を破り、物語を展開する者。

 

有名な例では、ギリシャ神話のプロメテウスや、「真夏の夜の夢」の妖精パックがあるね。

 

クレイマンは間違いなくピエロだろう。

こんな見事なピエロはなかなかお目にかかれない。

 

ああ、もちろん俺は舞台装置だ。

 

でもね、舞台装置が役者として登場したって良いだろう?

実際、「ワルプルギスの夜」はそんな存在なんだから。

 

俺は、トリックスターに成り得るだろうか。

 

観客の人気を集める、見事なアルルカンに。

 

物語に転換を齎し、主人公に並ぶほどの存在感を放つ、そんな存在に。

 

成れたら良い。

 

それはかつて、あの世界では成し得なかったことだから。

 

成れたら良い。

 

それがきっと、俺がこの世界に来た理由になるから。

 

だからね。

 

悪いんだけど、「ワルプルギス」の名は貰っていくよ。

 

それはもう、お前たちのものじゃない。

 

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

話を戻そう。

 

目の前には敵意を向けてくるクレイマンとカザリーム、そしてフレイとカリオン。

 

ギィや他の古き魔王達は静観している。

 

誰かと思えばラミリスが大人版だ。凄い、超美人だ。

あとミリムは笑ってないで助けろよ。

トモダチだろ、おい。

 

クレイマンが威圧しながら近づいて来る。

 

すわ戦闘か、と思ったその時だった。

クレイマンが笑いながら、

 

「しかしながら、ミリムと引き分けたというのは実に興味深い。どうやら中々の力をお持ちのようだ。どうです? この件、私の元に付くというのであれば、見逃してあげることにしましょう」

 

なんていう寝言を言い始めた。

 

そういえば新世代のこいつら、ミリムの力を知らない魔王組だったな。

クレイマンに至っては操れるとか真剣に考えていた。

 

「貴女の力は確かに強い。その力、私が使って差し上げます。貴女だって、ここで私たちに殺されたくはないでしょう? ねぇ、皆さん! 賛成していただけますよね?」

 

その言葉にフレイとカリオンが頷く。

 

ははぁ、なるほどな。

 

話が見えてきたぞ。

 

どうせ裏でクレイマンがフレイとカリオンに手を回しているに決まってる。

 

俺を配下に置いてから操って、生物兵器にするとかなんとかってな。

人形傀儡師(マリオネットマスター)』なんて呼ばれてるぐらいだし、クレイマンなら俺を傀儡に出来ると二人は考えたに違いない。

それで必要とあれば、フレイやカリオンにも貸し出すことが協力の対価とか、そんなところだろう。

そこにクレイマンの敬愛するカザリームも加われば、賛成は四人。

 

ミリムの力を知っているカザリームは若干顔が青いが、今更引くに引けないのだろう。

 

それでも多数決で勝つには二人ばかり足りないが……。

 

「ミリムも良いでしょう? このままだと私たちはこの無礼者を殺さざるを得ません。賛成してくれれば、貴女のおトモダチは生き延びることが出来ますよ。まぁ、私の配下にはなってしまいますが、貴女が望むのならば何時でも貸し出すことを約束しましょう」

 

そうきたか。

 

さぁ、ミリムどう出る。

 

「ぷ、くくく、好きにすれば良いぞ。オマエたちにそんなことが出来るのならな。くくく」

 

あ、ダメだコイツ。面白がってる。

 

うぉい!

 

トモダチを見捨てるなよ!

 

「ディーノもどうです? 貴方が賛成してくれると心強いのですが。もちろん、損はさせませんとも!」

「え、俺? ……えー、どうでも良いよ。別に良いんじゃね?」

 

こいつ、眠そうにしているディーノに話しかけやがった。

 

しかし、これで六名の魔王の賛成が得られたことになる。

 

クレイマンが俺に目線をやる。

さっさと決めろとでも言いたげだ。

 

じゃあ、さっさと決めようか。

 

『却下です。なぜ貴方のような雑魚の元に付かなければならないので?』

 

念話は使わない。

 

この場で俺に必要なのは、異質感、異物感、そして得体の知れなさ。

 

それらを演出するにはまず、意表を突く必要がある。

 

文字を見たクレイマンが青筋を浮かべて固まる。

 

「ほ、ほう……、想像以上の命知らずですね。せめて言葉を発したらどうです?」

『ごめんなさい。あなたと口を利くと私まで弱くなりそうで。ついでに後ろの汚い人と野良猫と小鳥の三匹とも』

「な、何を……!」

 

カザリーム、カリオン、フレイの順番に一人一人丁寧に見回して紙を見せる。

あなた達のことですよ、と。

 

ミリムがお腹を抱えて笑い始めた。

心なしか、他の魔王達の口角も上がっている気がする。

 

それに対してフレイとカリオンがにわかに殺気立った。

カザリームも青い顔から一転、赤くなっている。

 

「そこまでの愚か者だとは! 死をお望みならば良いでしょう! 私たちを侮辱したことを後悔して死―――!」

 

クレイマンが、俺の手から奪った紙を破り捨てながら何かを言っているが無視だ。

 

俺は新たに紙を作ってギィに向けて掲げる。

 

そういえば、リムルの時も似たような流れだったっけ。

 

『声を発しても?』

「認める」

 

今の俺に必要なのは、異質感、異物感、そして得体の知れなさ。

少しでも、恐怖感を与えること。

 

意表を突く。

 

クレイマンの話を遮るように、俺は一瞬の内にクレイマンとの距離を服が触れ合うほどの近さまで詰める。

 

そして間髪を容れずにクレイマン――ではなく後ろにいるカザリームを壁まで吹き飛ばした。

 

「ッ!? グァア……!!」

「カザリーム!」

 

クレイマン達が驚いて振り返る。

 

今の俺は重力操作の出力が弱い。

だが、カザリームをしばらく壁に押さえつけるぐらいならば問題無く出来る。

 

そして今だ。

全員の意識がカザリームに向いている今この瞬間。

 

意識の、その隙。

 

意表を突く。

 

俺は口を開いた。

 

もちろん、嗤うために。

 

「アハハハ! アハハハハハハ! ギャハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

精一杯、悍ましく邪悪に聞こえるように嗤う。

 

それと同時に全力で覇気を放出した。

 

「アハハ! アハハハハハハはハハハハハははハハハハハㇵはハハハハハ!!!!!」

 

ギィを始めとする真なる魔王達は、何かに耐えるように顔を顰める。

ミリムは二回目で慣れたのか涼しい顔だ。

 

だが、それ以外の魔王はそうはいかないだろう。

 

まず、俺と最も近い距離に居たクレイマンが最初に吐いた。

 

地面に這い蹲って無様に胃の中身をまき散らす。

 

「ぐうぅ……ぉあ゛、オエェェ………!」

「キヒッ、イヒヒヒヒヒヒヒヒッ」

 

カザリームは壁に押さえつけられて奮闘中だ。

 

フレイは必死に口を押えているが、舌でも嚙み切ったのだろう、押さえている手から大量の血が溢れ出して顎を伝っている。

 

カリオンは、それこそ捕食者に睨みつけられた小動物のように目を見開いて動かない。

いや、微かに身体が震えているな。

吐かないだけマシか。

 

「オ゛ァあエエェェ……! ウグッ、うううぅぅぅ!」

「イィヒヒヒヒヒヒ! ウフッアハハハハハハ!!」

 

未だに吐いているクレイマンの髪を掴んで眼前まで持ち上げる。

 

醜く歪んだ表情は、ありありと恐怖の色に彩られていた。

ほんの僅かな敵意も混じっているが、無駄にプライド高いしなこいつ。

 

こいつの顔を見て思い出したが、俺はこの野郎が嫌いだ。

 

だってそうだろう。誰がコイツのこと好きなんだよ。

 

「転スラ」を読んでいて、コイツがミリムのことを殴ったページ辺りのストレスと言ったら!

 

ここで殺しても良いんじゃないだろうか。

 

ダメかな、リムルのために残しておくべきか。

 

いや、どうせコイツ復活するし一回ぐらい殺すか。

 

そう思って実行に移そうとした時だった。

 

目の前に、何か。

 

顔。

 

ギィ・クリムゾン。

 

「そこまでだ。早く()()を引っ込めろ。少し、話をしようぜ?」

 

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

この事態は、半分はギィが予想した通りだったが、半分は完全に予想外だった。

 

ミリムに気に入られ、この場に連れて来られる。

そこまでは良いのだ。

問題は、その過程。

 

(全力のミリムと引き分けた、だと? 竜星爆炎覇(ドラゴ・ノヴァ)を耐えた? 馬鹿な)

 

竜星爆炎覇(ドラゴ・ノヴァ)

 

その技を相殺するのは、ギィをもってしても困難を極めた。

間髪を容れずに複数の核撃魔法を連発してなんとか凌ぐしかない。

五や六じゃきかない、数十発の核撃魔法を、絶え間なく。

 

ギィでさえそれなのだ、他の存在ならば抵抗の余地無く消し飛ぶ。

 

しかし、目の前の化物はそれを相殺してのけた。

 

それもたった一撃で。

 

(魔女、だったか)

 

ミリムの竜眼(ミリム・アイ)が見抜いた情報では、目の前で薄ら笑いを浮かべる存在は『魔女』と呼ぶらしい。

そして、竜眼(ミリム・アイ)をもってしてもそれ以上は分からないという。

 

奇妙な女だった。

いや、女と言っていいのかどうか。

 

存在しない顔の上半分を隠すように帽子を被り、背後には不可解な魔法陣。

その時点でももはや生物かどうかすら怪しいが、更にドレスの中は機械ときた。

今でこそ隠れているが、元の姿に戻った時は巨大な歯車が曝け出される。

 

ギィは、そんな生物は存在しないと断言できた。

 

それだけでも異常極まりないのに、更なる問題はその能力。

 

ギィの持つ究極能力(アルティメットスキル)傲慢之王(ルシファー)』が発動しない。

 

いや、より正確に言えば、再現できない。

 

異常だ、異常の極みだ。

 

究極能力(アルティメットスキル)傲慢之王(ルシファー)』の能力は多岐に渡るが、その真髄は「一度解析した能力の完全再現」。

そして、ギィは己の観察眼に絶対の自信を持っている。

事実、今までどんなに特殊な能力(スキル)であろうと、ギィの前で使用したが最後、ギィはその本質を正しく解析し、理解する。

 

故に究極能力(アルティメットスキル)傲慢之王(ルシファー)』は、ギィの下でこそ無敵を誇り、ギィもまた『傲慢之王(ルシファー)』によって最強を誇った。

 

しかし、目の前の「魔女」の能力だけは再現することができない。

 

ギィは今まで何度も、遠くから「魔女」とヴェルドラの戦いを見ていた。

「魔女」の能力もしっかりと目に焼き付けた。

 

しかし、理解が出来ない。

再現が出来ない。

 

ギィにとってそれは、有り得ぬことだった。

 

クレイマンが「魔女」に脅しをかけている光景を見て、ギィは失笑を抑えるのに苦心する。

 

クレイマンも、その協力者も、全く理解できていない。

こんな雑魚共が自分と同じ立場に立っていることがまるで信じられない。

 

ミリムと引き分ける。

 

この世界でその偉業を成し遂げられる存在が一体どれ程居るというのか。

 

竜星爆炎覇(ドラゴ・ノヴァ)を相殺する。

 

その偉業を成し遂げたならば――ミリムは嘘を吐かない、間違いなく成し遂げているだろうが――今、脅されているのは断じて彼女ではない。

 

紙に書かれた文字がギィに向けられる。

 

『声を発しても?』

「認める」

 

もちろん、認めるとも。

 

ギィは「魔女」の一挙手一投足を観察する。

 

(クレイマン。今、命が脅かされているのは、貴様らの方だ)

 

予兆。

 

予感。

 

果たして、何度も再現に失敗した重力操作によって、カザリームが壁に叩きつけられた。

 

ギィは薄く笑みを浮かべ、その結末を見守る。

 

興味深い。

 

久しぶりに、楽しい宴になりそうであった。

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ。早く()()を引っ込めろ。少し、話をしようぜ?」

 

時間停止を使って近づいたギィが感じ取ったのは、殺意。

クレイマンに向けられていたそれが一瞬、ギィにも向けられて直ぐに消える。

 

(へぇ。素晴らしい)

 

久しぶりに感じる、混じり気の無い純粋な悪意だった。

 

ギィは百年ほど前を思い出す。

 

目の前の存在に、何故か左手が震えていたことを。

 

ギィはお返しとばかりに『魔王覇気』を放出する。

 

空気が変わる。

部屋の温度が、一気に下がった。

肌を刺すように寒い。

重力が、僅かに歪むような錯覚さえ覚える。

 

直接覇気を当てられていない他の魔王でさえ、そう感じたのだ。

 

その覇気を至近距離で浴びている「魔女」は、しかし。

 

(私が覇気を引っ込めたんですから貴方も引いたらどうなのです? 私は冷え性なのですよ。少し、いやかなり、大人げないのでは)

 

クレイマンの頭を掴んでポイと乱雑に放り投げた「魔女」は、おどけた風に「念話」で語りかけてくる。

 

「クク、ハハハハハ! そうか、そうか! いや、悪かったな。謝罪しよう」

 

怯えないどころか、冗談まで飛ばすとは。

 

まったくギィを畏れないその姿は、奇しくもギィに強い好感を与えた。

 

「ふむ。気に入った。よし、『ワルプルギス』の名を認めてやっても良いだろう。その代わりお前、魔王になれ」

 

ギィが交渉を持ち掛けた。

別に魔王が十人でなくとも問題はない。

目の前の存在は既にその力を示した。

異を唱える者は居ないだろう。

 

本題のみを簡潔に突きつけたギィに対して、「魔女」もまた簡潔に返す。

 

(申し出はありがたいのですが、魔王になる気はありません。私は『ワルプルギス』の名が手に入れば、それで良いのです)

「分かっていないな、その名をやるから代わりに我々の仲間になれと言っているんだよ。こちらに何の見返りも無くその名を与えたら、魔王の名が立たない」

 

当たり前のことだった。

 

「魔王達の宴」の呼び名である『ワルプルギス』を何の対価も無く手放すのは、魔王達の無条件降伏を意味する。

それだけは容認できなかった。

 

他の魔王も同じ考えなのだろう。

何人かがギィの言葉に肯く。

 

もっとも、クレイマンはまだ地面に転がっているが。

フレイとカリオンも、二人して身を縮こまらせて動かない。

カザリームは咳き込んでいる。

 

「魔女」は考え込むように顎に手を当ててしばらく唸っていたが、やがていい案を思いついたかのようにポンッと手を打った。

 

(それでは、こうしましょう! あなた方に一つ借りを作るということで)

「借り、だと?」

(ええ。名を認めてくれる十大魔王に対して、お礼の気持ちも兼ねて一つ「借り」を作るのです。代表はそうですね……ギィさんにしましょう。十大魔王の名においてギィさんから私に一つ、何でも命令が出来ます)

「つまりメイドヨロシク、何でも一つお願いを聞いてくれるってか?」

(その通り。一度だけ、あなた方のメイドになりましょう。ご存知のように、私はミリムと引き分けました。あなた方なら、そこに転がっている小物と違い、その意味を理解してくれると思いますが)

「ふむ……」

(「借り」にしてくれることで、これからも友好的な関係を築きたいと私が思うかもしれませんよ?)

「ほう………全員聞いたな! 何か意見のあるやつは居るか!」

 

ギィが各々の顔を見渡す。

 

すると、今まで黙っていたルミナスが口を開いた。

 

「一つ良いか、そこの『魔女』よ」

(モチロンです、女王様。どうぞ?)

「キサマはあの邪竜と百年に渡って戦いを繰り広げたそうだな。それについての話をしようぞ。返答次第では妾が敵に回ると心得よ」

(邪竜……ああ、ヴェルドラ(クソトカゲ)のことですか。何か問題でも?)

「…ほう! 否、既に用は済んだ。どうやらそなたは話が分かる奴のようだな。今度妾の国へ遊びに来るがよい。歓迎しよう!」

 

ルミナスが満足そうな顔で賛成を表明する。

 

「うむ! ワタシは元より賛成だったぞ! なかなか面白いものが見れたのだ!」

 

ミリム続くように、他の魔王達も次々に口を揃えて異議なしと言う。

カリオンとフレイが慌てて首を縦に振った。

 

「結構! これでお前の議案は通された! 強き『魔女』よ、『ワルプルギス』を名乗ることを認めよう!」

(恐縮です。悪魔の王よ)

 

『ワルプルギスの夜』は優雅なカーテシーを披露すると、ギィに手を差し出した。

ギィは迷わずその手を取る。

握手。

互いを認める、和平の証である。

 

その時だった。

 

「しかし困った、な。『魔王達の宴』にも、新たな名称を考えねばなるまいて」

 

ダグリュールの呟きに、全員の身体がピクリと反応した。

 

「あ、俺は前回で頭使いすぎてもう無理だから寝るわ」

「何をほざいておる。貴様は文句ばかりであったろうが。妾は三か月もの間、案を出し続けたぞ」

「ワタシもパスなのだ! わははははははは!」

「じゃあ、ここはアタシがバシッと天才的なセンスで名付けを――」

「「「「ラミリス、座れ」」」」

「悪夢再来、か……」

 

途端に賑やかになる魔王達。

 

それを見た「ワルプルギスの夜」は、実に静かに部屋を囲むようにある十個の出入り口の内の一つにそろりそろりと近づいた。

しかし、ギィの声がそれを遮る。

 

「落ち着けお前達! 幸いにも、この場にはこの騒動を引き起こした責任者がいるじゃないか! なぁ、『ワルプルギスの夜』くぅん?」

(あ、私用事があるので今すぐ帰りますね今日はどうもありがとうございました)

「バッ、この野郎!」

 

瞬間、出せる最高速で「ワルプルギスの夜」が出口との残り距離を詰める。

それにギィが一拍遅れて反応するが、既に「ワルプルギス」の身体は門をくぐっていた。

一瞬、場に静寂が降りる。

 

「……ミザリー、レイン。食事の用意をしろ。それも、決して飽きが来ないようなとびきり美味いやつを」

「「御意に」」

 

ギィの席の後ろで控えていた二人のメイドが、命令を受けて洗練された動きで準備を始める。

それを見ながらギィは席に戻り、気怠そうに足を組んだ。

 

「これ以上無様を晒すなカザリーム、クレイマン。早く席に戻れ。ハァ……さて、諸君! 宴はまだまだ終わらないぞ! 楽しく長丁場と行こうじゃないか!」

 

全員の顔がこれ以上ないほどに引き攣る。

 

ミリムとディーノは、既に夢の中だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

ちなみに「ティロ・アレステレ」はイタリア語で、直訳すると「星の一撃」や「至高の一射」という意味になります。これを中二病フィルターで訳すと「明星よ墜ちよ」になるわけなんですね。
うーん、我ながらハイセンス。

追記:そういえば本編クレイマンって確か操られてたよなって今更思い出した今日この頃。つまりこの時点では、ただの冷酷な魔王に過ぎないよな。うへぇ、やりすぎちゃったかな。ごめんねクレイマン。

「魔王達の宴」、何と読む?

  • メイフィア
  • エルケナハト
  • トフェルナハト
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