高評価、誤字報告、感想ありがとうございます。
有難い限りです。
西は獣王国ユーラザニア、東は傀儡国ジスターヴに挟まれた小さな国。
いや、領地と呼んだ方が正しいか。
住民は全てミリムを崇める
それがミリムの領地、「忘れられた竜の都」。
俺たちは、その首都にそびえるミリムの神殿に来ていた。
「ミリム様! よくぞお帰りくださいました! ささ、こちらへ。食事の用意はお済みでございます」
ニコニコと満面の笑みを浮かべたミッドレイが俺たちを出迎えてくれる。
それにしても厳ついおっさんだ。
厳つい顔、厳つい眼。
頭がツルッパゲで光っているのも相まって、武術の達人ってカンジ。
実際に武術の達人なんだけどね。
「お、おう、ミッドレイ。ワタシは今はあんまり腹は減ってはおらんのだ。食事なら後で……」
「それはいけませんぞ、ミリム様。『外』の食事は汚れております。そのままではお体に障られます故、少量でも構いませんので素材そのままの馳走をお召し上がりにならねば」
「う、うぅ……しかしだな……」
ヘルメスは既に何食わぬ顔で逃げ出していた。
実に鮮やかな手際だった。またの機会があれば参考にさせてもらおう。
今? 今は無理だ。
ミリムから視線を外したミッドレイに、がっちりばっちりロックオンされているからな。
「そして、貴女様もようこそお出でなさった。その特徴、その魔法陣……貴女がかの『ワルプルギスの夜』殿、で宜しいかな?」
(ええ。そう呼んでください)
「ワシのことは、ただミッドレイと呼び捨てなされよ。ミリム様のトモダチとあらば、丁重にもてなさねばならん。『ワルプルギスの夜』殿にも馳走を用意させよう、食べていかれると良いだろう」
口調こそ丁寧だが物凄い圧を感じる。
ミリム様のトモダチなら食べて当然だとでも言いたげな視線だ。
う~ん、逃げられない。
断ったら超めんどくさそうだ。
(そうですか。では、ありがたく頂きます。ほら、ミリムも。一緒に逝きましょう)
「ッ!? おっ、オマエーーーッ!? オマエェェェェエエ!!!」
ミッドレイからの圧が和らぎ、優しい笑みを向けてくる。
ミリムはブルータスを見るような目で俺を見てくる。
俺としては、お前をシーザーと見做して仕えた覚えは無いはずなんだがな。
シーザーならば、甘んじて部下の裏切りを受け入れるがよろしい。
ちなみにかの有名な「ブルータスよ、お前もか」は、シェイクスピアの悲劇「ジュリアス・シーザー」の台詞だ。
これ、豆知識ね。
「それにしても『ワルプルギスの夜』殿はとてつもない強者だとお見受けする。ミリム様と引き分けに持ち込まれたとか。いやはや、是非とも一局、立ち合ってみたいものですなぁ」
前を歩くミッドレイが、俺の全身を嘗め回すように観察、もとい、凝視する。
そういえばこいつは戦闘狂だった。脳筋中の脳筋、名誉脳筋だ。
主も主なら、配下も配下といったところか。
しかしミッドレイよ、今これ絵面がヤバいことになっているぞ。
中身はこれだが、外見は麗しい令嬢なんだよ、俺。
ヤバい顔をしているぞ、ミッドレイ。
目がバキってるぞ、ミッドレイ。
「どうであろうか、食事の後の運動も兼ねてワシと一局……」
(あ、いえ、それよりも今はミリムを構ってあげてください。あなた達に会えなくて寂しがっていましたから)
「なんと! そうでありましたか!」
ミッドレイが嬉しそうな顔をしてミリムに振り向く。
ミリムからの視線がより一層強くなる。
というか、食後の運動って何だよ。
何を消化するんだよ。
生野菜だぞ、生野菜。
一体全体、お前のその筋肉はどこから湧いて出たんだ。
(あの、ミリムさん……)
「………なんだ……聞くだけなら……聞いてやるのだ……」
(……正直……舐めてました……はい……うぷ)
「うぷ、耐えるのだ……ワタシまで催してくるではないか……うぷ……」
(あれ……キツすぎますね……すみません……)
「……な……? 分かればいいのだ……分かれば……うぷ」
一時間後、俺とミリムは神殿の最奥に設えられたミリムの部屋で、二人仲良く呻いていた。
瀕死だ。
俺の隣では、ミリムが青い顔をしてぶっ倒れている。
俺も地面にぶっ倒れている。
心なしか、歯車の調子も良くない。
唯一無事であるフールが心配そうに俺たちの顔を覗き込むが、構っている暇はない。
舐めていた。
精々が大盛りのサラダ一皿分だと思ったんだ。
違うね、違う。
山盛りだよ、君。山。
しかもミッドレイが笑顔でどんどん量を足してくる。
食べても食べても一向に減らない。
生野菜で満腹になったことはあるかい?
俺はあるね。
ついさっき経験した。
俺とミリムを同時に倒すとは、恐るべし生野菜。
(……なんで他の皆は涼しい顔で食べれるんですか……)
「アイツらにとってはあれが普通なのだ……あれを本気でご馳走だと思っているのだ……」
(カルチャーショック……)
知っているのと、実際に見てみるのとでは大違いだ。
俺とミリム以外の全員が、黙々と美味しそうに生野菜を頬張っていた。
あの顔は本気で美味しいと思っている顔だった。
下手なホラーよりも怖かったぞ。
(ところでミリム……この後の予定は……?)
「そうだな……とりあえず、この神殿を案内してやるのだ……」
(良いですね……その後は?)
「……その後?」
(え……?)
「え……?」
(………なにか………面白いものとか)
「……無いぞ」
(…………)
うん、半分知ってた。
そして今、半信半疑が零信全疑になった。
………。
よし、とっとと抜け出そう、こんな国。
(それじゃ……早速この神殿を案内してください。少し散策しましょう)
「いや待つのだ……今はダメだ……」
(どうしてです? 歩けば消化も……)
「今立ったら……吐く……」
(…………)
こいつめ。
さて、その後の出来事を軽くここに記そう。
幸い、三年泊まっていけとはミリムは言い出さなかった。
ただ何となく寂しそうだったので、俺は一週間泊まっていくことにした。
それぐらいならば村の皆も許してくれるだろう。
ミリムは反対しなかった。
それからはやけに広い神殿をミリムと散策したり、ヘルメスを捕まえてしばき回したり。
どうしてもと言うので、一度だけミッドレイと組手をしたり。
普通に強かった。
普通に負けた。
ミッドレイは俺の硬さに驚いていたが、難なく技で投げ飛ばされた。
やはり技術も大事なんだな、と改めて思う。
俺には、圧倒的な力の押し付けしかできないから。
「ワシが勝ったのはこれが組手だからだ。もし、死闘極まる戦場にて『ワルプルギスの夜』殿と相対すれば、死ぬのはワシの方であろうよ。もっとも、タダで死ぬ気も無いがね。わっはっはっはっは!」とは、ミッドレイの言である。
ミリムと神殿を抜け出して二人でピクニックに行ったりもした。
理由? 生野菜から逃げるためだよ。
そろそろミリムがフールに噛り付きそうだったので、これはまずいと思ったわけだ。
俺の物質創造能力は肉を創り出すこともできる。
牛肉や豚肉の詳細な成分なんて知らないので、なんちゃって牛肉となんちゃって豚肉、あとなんちゃってソースだ。
それを俺の炎で焼けば、なんちゃってバーベキューの完成だ。
侮るなかれ、死ぬほど美味しかった。
ミリムは泣いていた。
俺も泣いた。
眼は無いから、心の中でだけど。
そんなこんなで、案外あっという間に一週間は過ぎていった。
「またな! 次会いに行くときはワタシのために美味しいものをたっぷり用意しておくのだぞ!」
「また此処へ来てくだされ。我々はいつでも貴女様を歓迎しよう」
ミリムやミッドレイ達に見送られて俺は竜の都を後にする。
ミリムが駄々をこねたため、国境まで一緒に歩く羽目になった。
しかし、これでミリムとはかなりの良関係を築けたのではないだろうか。
俺の当初の目的、なんとか死なないようにこの世界を見て回るというのも達成されつつある。
ミリムとは仲良くなり、魔王達とも良い感じだ。
……良い感じか?
ともかく、今の俺ならば三百年後の聖魔大戦も生き残れそうだ。
これは……俺の時代が来たのでは?
そう、浮かれたのがいけなかったんだろう。
分かっているさ、俺の所為じゃない。
でも、上手く行き過ぎていることに疑問を持つべきだった。
世界は、幸福を許してはおかない。
(………??)
ミリム達と別れて、しばらく飛んだ時だった。
俺は結界のような物にぶつかった。
いや、これは間違いなく結界だろう。
まるで俺を捕らえるように、半球体に広がっている。
危険な予感がする。
かつて感じた事も無い、窮地に陥った感覚。
万全に備えて、俺は本来の姿に戻ろうとする。
戻ろうと、したんだ。
(ッ!? 戻れない!?)
異常事態。
嫌な感覚に焦りを覚え、俺は視界を確保できるよう、比較的植物の少ない地面に降り立つ。
その時、木の陰から声が響いた。
「貴女は今、焦っているでしょう。どうして元の姿に戻れないのか、何者の仕業か、とね」
その声を、俺は知っている。
一人の男がゆっくりと姿を現した。
金髪の偉丈夫。
上質な服。
優雅な身ごなし。
そして、油断ならないその眼差し。
口元には笑みを浮かべ、状況を愉しんでいるようであった。
「お初にお目にかかります、舞台装置の魔女よ。我が主が貴女の死をお望みです。貴女は、盤面に存在するには余りにも異質だ。よって、私はここにいる」
その男はまるでここが舞踏会であるかのように堂々と一礼する。
その男を、俺は知っている。
その主も。
東の帝国ナスカ・ナムリウム・ウルメリアの皇帝、ルドラ。
そして皇帝直属の
名は――
(ダムラダ……!)
「っ! ふぅむ。これはこれは。侮っていたつもりはありませんでしたが、どうやら気を引き締めなければいけないご様子。どこまで知っているのです?」
(……あなたの主の名を知る程度ですよ。たった一人で私を殺すと?)
「……そうですとも。まったく、ますます危険なお方だ。であれば、もうお判りでしょう? 我が主は相手の力量を過大評価も過小評価もなされない。私が一人でここに居るという事は、私一人で十分だという事です」
嘘だ。
極めて巧妙に隠してあるが、少し離れて俺たちを取り囲んでいる数十名の魔力が俺の魔力感知に引っかかっている。
だが、俺と戦うのはこいつ一人で間違いないのだろう。
他からは戦意を感じ取れない。
「先に疑問にお答えしておきましょう。この結界は
チートかよ。
存在の固定ということは、結界内の存在は進化も退化も出来ないのか。
いかにもルドラが嫌いそうな
ちくしょう。
だが、甘いな。
ルドラも見積もりが甘い。
俺はミリムと引き分けに持ち込んだ男ぞ。
(しかし、この程度で私を殺せるとでも? ダムラダ、少しばかり思い上がりが過ぎますね)
「ふ、ふくく。私は言ったはずだ。我が主は過大評価も過小評価もしないと」
未だ、ダムラダの余裕は崩れない。
彼は羽織っていた上着をその場に脱ぎ捨てると、くるりと一回転した。
「分かりますか? 私が今身に着けている装備の質が。その数が」
分からん。
そこまで期待しないで欲しい。
しかし、馬鹿正直に分からないと教えるのもシャクなので、適当に驚いておく。
(まさか……! そんな……!?)
「そのまさかですよ! 舞台装置の魔女よ! この17個の装備、その全てが
……嘘だろ。
まさかすぎる。
これはやばい、非常にやばい。
ダムラダは、強い。
紛れも無い強者だ。
その彼が、
「ちなみに、『
(……良かったのですか? 私にそんなことを教えて)
「ええ、もちろん構いませんとも。15分後の世界に、貴女は居ないのだから」
ダムラダが無手の構えを取る。
練り上げられた闘気が、静かに揺らぐ。
「いきます。構えなさい、魔女の王よ。つまらない戦いを見せてくれるな」
瞬間、ダムラダの踏み込みによって地面が砕け、その姿が視界から外れる。
姿は、背後に。
「シィァッッ」
事前動作も無く、瞬速の拳が俺の背を捉える。
息もつかず、続けて突き刺すような蹴り。
そして振り抜いた左拳によるめり込むようなアッパーの三連撃。
余りの衝撃に俺は為すすべなく吹き飛ばされ、結界にぶつかって止められた。
だが、しかし。
傷など、付くはずも無い。
「これは……。破壊能力だけでは無理、ですか。防御不能のはずなのですがね。まぁ、良いでしょう。こんなものは小手調べです」
吹き飛ばされる際に俺が放った炎の槍は、ダムラダを包む見えない結界によってすべて防がれる。
ダムラダの雰囲気が変わった。
「ここからは、
魔力の流れが、明確に変化する。
俺の本能が最大限の警鐘を打ち鳴らしていた。
溢れるほどの殺意が、空間を埋め尽くす。
「構えろ」
そう呟いたダムラダの身体が掻き消え。
もの凄い轟音と共に、俺の顔面に手甲を纏った拳が先程とは比べ物にならない速度で叩き込まれた。
お読みいただきありがとうございます。
聖騎士団が来ると思った?
残念ダムラダでした!