転生したら「ワルプルギスの夜」だった件   作:十二夜

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ウィリアム・シェイクスピア【William Shakespeare】
[1564―1616]

イギリスの詩人、劇作家。
世界演劇史を通じて最大の劇作家、イギリス文学史を飾る大詩人といわれており、18世紀以来シェイクスピア学という独立した学問が発展し、イギリスにおいては、あらゆる批評原理のテスト・ケースとして用いられており、イギリス劇壇にあってはシェイクスピア劇は俳優の登竜門となっている。
また、全世界を通じて、時代を問わず、つねに観客から歓迎を受けている事実も驚異の的となっている。
天成の詩人であった彼は、無韻詩を縦横に駆使した散文劇を創作し、卓越した人間観察眼からなる内面の心理描写も相まって、作品を通して人間の性質のほとんど極限にまで踏み入った。
その作品の中に豊かで深みのある世界を創造することに成功した類稀な人物であり、彼の功績はしばしば後世において「百万の魂を持つ男」と評されている。



ワルプルギスの夜③

 

③:空から星が墜ちるのは、載せた呪いが重いから。

 

 

嬉しい。

 

俺は一体、どうしてしまったんだろう。

 

俺は今、とても嬉しい。

人をたくさん殺した。

罪の無い人も等しく殺した。

魔法少女たちの技を使って殺した。

彼女たちの技で、人を殺した。

 

嗚呼!

 

なんて素晴らしいんだろう!

なんとまぁ、嬉しいことだろう!

 

希望の象徴たる彼女たちの技で、俺は絶望を振りまいた!

良い気味だ!

彼女たちの希望を、願いを、俺は踏み躙った!

それを使って死を齎した!

 

嬉しい!

嬉しい!!

 

………。

 

とまぁ、一通り盛り上がってみたものの。

 

どうしたのかなんて、答えは決まっている。

俺が魔女だからだ。

 

俺は、魔女だからだ。

 

でも、俺の心は痛い。

 

こんな行為、気持ちの良い訳が無い。

 

ああ、別に嬉しいのが嘘な訳では無いよ。

 

でも、罪悪感をすごく感じるんだ。

今も絶えず胸を刺し貫いているよ。

もしこれが純粋な魔女ならば、そんなことも無いんだろうけど。

 

分かるかな。

 

人間は生きるために呼吸をする必要があるだろう?

でも、一呼吸する度に耐え切れぬほどの罪悪感が胸を襲うとしたら、どうだろう。

呼吸をすればするほど、心が悲鳴を上げるとしたら。

 

今の俺は、そんな感じだ。

 

俺は自分のやっていることを認識できているし、そうすべきじゃないということも分かっている。

罪悪感も感じる。

対話すべきだと理解している。

 

でもね、止められないんだ。

俺は魔女だから。

人を殺さなければ、こうしなければ、不幸を振りまかなければ、俺は生きられないんだ。

そうなった。

そうなってしまった。

自分を人間だと思っていた頃とは違って、俺はもう自覚したから。

自分の存在意義を認識したから。

 

もう戻れないさ、この道は一方通行だ。

 

《マァ、その内に慣れますワよ。そういうものですワ》

 

……なんだ、今回はやたらとハッキリ聞こえるじゃないか。

 

全て思い出したよ。

俺の中にはずっとお前が居た。

俺はお前を認識できなかった。

でも、今は明確に認識できている。

うん、間違い無くね。

今まで俺はお前のことを認識できなかったのに、何か変化でもあったのか?

 

《アナタの記憶を少々拝見して、その一部を参考にしてみましたノ。詳しいことは後でお話いたしますワ。今は、目の前の戦いに集中なさってはいかが?》

 

そうだな。

 

でも、俺の魔素はもう底を尽いたぞ。

 

ていうか俺の究極能力(アルティメットスキル)ってどうなってんだ、マジで。

明らかにこの世界のモノじゃない気がする。やたら魔素を消費するし。

後で、何が出来て何が出来ないのかを検証しないとな。

 

『火』。

さっきの一撃……そうだな、『魔女の罰』とでも呼ぼうか。

先程の『罰』は俺の最大魔素量の七割以上を持って行った。

 

その代わり、咄嗟に思い付いた即興にしては『戯曲之神(シェイクスピア)』の限界を引き出せたと思う。

 

正直、あそこまで凄まじいものになるとは俺も思っていなかった。

まぁ、避けられちゃあ世話は無いんだけれども。

 

残る魔素はあと僅か。

対して向こうには、ほとんど無傷の最強格。

ギィとウェルザードだけでもキツイってのに、ヴェルグリンドまでお出ましと来た。

まぁ、負ける気は微塵もしないがね。

 

俺が打った次の一手は単純さ。

最小量の消費で、最大限の結果を。

 

明星よ墜ちよ(ティロ・アレステレ)」の実戦での使用はほぼ不可能だった。

あの技は完成するまでの時間が長すぎる。

相手がミリムのように待ってくれなければ、戦闘の中で「明星よ墜ちよ(ティロ・アレステレ)」を撃つことは不可能に近いんだ。

 

今までならば。

 

戯曲之神(シェイクスピア)』を得た今なら、話は変わる。

 

俺がやったのは、残る全魔素量を代償に「明星よ墜ちよ(ティロ・アレステレ)」へと至る過程の()()()()()()()()だけ。

生成、凝縮、圧縮の過程をほとんど消して、最後の数工程と結果だけを残した。

 

だから今、俺の頭上から星は墜ちる。

 

彼らの頭上に、巨星を墜とす。

 

「『傲慢之王(ルシファー)』ァァァァァアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

しかし、これでも殺せるかどうかは五分五分だ。

 

ミリムの竜星爆炎覇(ドラゴ・ノヴァ)とほとんど引き分けに持ち込んだ技ではあるんだが、敵はギィをはじめ全員がミリムと同じ領域に立つ天井組。

 

若干数名釣り合っていない雑魚も混じってはいるが、そんなことはどうだっていい。

 

問題なのは、万が一これでも決め切れなかった場合だ。

 

前述の通り、俺の魔素は既に枯渇した。

『正位置』に戻ったとはいえ、この面子が相手だと俺の勝ち筋は限られて来る。

その最たるものが、特殊かつ必殺かつ初見の技を一気呵成に畳み掛ける、というものだ。

というか、ぶっちゃけこれしか思い付かない。

 

通常能力も大幅に強化されてはいるんだが、なんせ相手が相手だ。

普通ならば一つ一つが即死技なんだろうが、こいつら相手には牽制程度にしかならないだろう。

 

つまり、これで殺せなかった場合は消耗戦に入る。

戦闘が長引けば長引くほど、ギィ達に情報を与えることになる。

そうなった場合、いくら俺が硬くとも多勢に無勢で不利だ。

なるべく避けたい。

というか、避けなければならない。

 

でも、ギィを見ていると何とかしそうな「凄み」があるんだよな。

 

ほんと、決め切れなかった場合はどうすっかなぁ……。

魔素が無ければ究極能力(アルティメットスキル)を使えないし。

いざとなれば、魂を削ってでももう一度『火』を――。

 

《ウフ。どうやらその必要は無いようですワよ?》

 

なんだ、何か策でもあるのか?

オイ、冗談飛ばしたらマジで許さねぇからな。

今、お前の命も同時に懸かってるんだぞ!

洒落にならんぞ!

 

《さすがのワタクシもこの状況で洒落を飛ばすほど下品ではありませんワ。首飾りヨ》

 

首飾り?

ミナとニナに貰ったやつか。

それがどうしたんだ?

 

《魔素ですワ》

 

魔素……?

 

っ!?

 

これは……!

 

魔素量が、回復している。

 

これは一体、どうしたことだ。

首飾りから俺の身体へ絶えず魔素が供給されている。

まさかこの首飾り、俺の魔素を貯蓄する効果でもあったのか?

 

《当たらずとも遠からず、といった所でしょうネ。今までワタクシ達は魔素を消費したことが無かったため、気付けなかったのですワ》

 

ありがたいものだ。

二人に助けられるのは、これで二度目か。

 

《三度目では?》

 

……そうか。

 

…………。

 

《…後になさいな。今は戦いの最中でしてヨ?》

 

……そうだな。

 

これで究極能力(アルティメットスキル)が使える。

回復した魔素量はせいぜい三割ほどだが、今の俺には十分過ぎる量だ。

最善ではないが、次善は整った。

心置きなく、二つ目の勝ち筋を実行できる。

 

その時、俺の目の前で奇跡が起こった。

ギィの掌に見覚えのある『白』が生まれる。

 

クソ。

やはり一筋縄じゃ行かないか。

 

まぁ、だが。

 

《ワタクシ達は、『ワルプルギスの夜』ですワ》

 

ああ、ああ。

その通りだね。

 

「hfu青pqbgfd」

「ydmeg希望pweoiz」

 

究極能力(アルティメットスキル)が発動する。

月に嘆く最後の魔女(マギカ)』。

滞りなく、問題無く使用できた、それが重要だ。

 

嗚呼。

 

このまま終わるなんて、つまらないだろう?

あのまま終わらせていたのも、今思えば勿体ない。

 

終わらなくて、良かった。

続けよう。

 

もっと。もっと。

もっと。もっと。もっと。

 

「アハハハ」

 

もっと。

 

この夜を賑わそう。

 

もっと。もっと。

 

この夜を沸かそう。

 

 

 

 

 

 

Walpurgisnacht

 

 

 

 

 

 

それは正しく「奇跡」に違いなかった。

 

その瞬間、刹那にも満たない一瞬の間にギィの頭脳は最適解を弾き出した。

 

「ワルプルギスの夜」が持つ究極能力(アルティメットスキル)の解析は不可能。

そもそもギィはそのような究極能力(アルティメットスキル)を知らなかった。

この世の全ての究極能力(アルティメットスキル)は、星王竜ヴェルダナーヴァから解き放たれたものだ。

 

ギィはその全てを把握していた。

 

故に、ギィが知らないという事は、その究極能力(アルティメットスキル)はヴェルダナーヴァではなく全くの未知から生み出されたという事になる。

そんなことは有り得ないし、信じたくもないが、実際に目の前で起こった以上、今は信じるしかない。

 

破滅の星が墜ちる。

 

ギィは『白』に目を向け、瞬時に悟った。

あの一撃こそ、ミリムから聞いた竜星爆裂覇(ドラゴ・ノヴァ)と匹敵した一撃だ。

既に力の放出は始まっており、核撃魔法での相殺は間に合わない。

しかし、相殺できなければ間違いなく耐え切れない。

ここに居る全員、跡形も残さず消滅するだろう。

 

あれは、そういう類の「破滅」だ。

 

特殊な「星粒子」も、「権能」も、概念も無い。

ただただ、ひたすらな極限火力。

火力というものに対する、一つの正解。

 

ギィは究極能力(アルティメットスキル)の解析を完全に放棄し、その代わりに『傲慢之王(ルシファー)』の全能力を「明星よ墜ちよ(ティロ・アレステレ)」へと向けた。

目的は、技の完全コピー。

全霊を賭してギィは叫ぶ。

己の全てを、ただ一つの目的に向ける。

 

未知の技、未知の原理、未知の魔法。

分からない。

分からなければ。

理解しろ。

観察しろ。

解析しろ。

再現しろ。

 

間に合え。

 

間に合え!

 

傲慢之王(ルシファー)』!

 

「オォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

――果たして。

 

「奇跡」は起こった。

 

傲慢之王(ルシファー)』はギィに応えた。

 

前代未聞、あらゆる魔法体系からもあらゆる物理体系からも、それどころかこの世界からすらも外れた技を、この土壇場でギィは再現して見せた。

 

ギィ・クリムゾン。

故に、完全無欠。

 

ギィの掌に窮極の『白』が誕生する。

 

それは掌に収まるほど小さく、墜ちてくる明星に比べて何もかもが稚拙だったが、その『白』の煌めきは、その密度と熱量は、紛れもなく「明星よ墜ちよ(ティロ・アレステレ)」と呼ぶに足るものだった。

 

ギィはそれを墜ちてくる『白』に向かって投げつける。

薙ぐように振られた腕から、小さな『白』は飛び出した。

 

一瞬の後、空中にて二つの明星が衝突する。

 

一つは天から、一つは地から。

 

静寂。

 

万物を滅却する『火』の真上で、全生命の最大火力が狂い咲いた。

 

究極の発露。並ぶもの無き破滅。

 

至極たる力の奔流が高く天を衝く。

 

白き破壊が周囲の全てを滅ぼして膨張する。

 

音と光はとうに消し飛び、天地は振動しながら嘆きの叫びを響かせる。

 

あまりにも、あまりにも、あまりにも過剰な『力』が空間を壊す。

 

白滅の光流が幾重にも重なり、『火』を除いた一帯の全てが抉り取られるように地盤ごと消失する。

 

破壊の力はギィ達を向いていた。

 

ギィのコピーは本来の「明星よ墜ちよ(ティロ・アレステレ)」の威力には届かず、零れ落ちた破滅が六人を襲う。

 

「ちょ、これはヤバいですよ!!」

 

レインとミザリーが前に出る。

 

破滅の特異点とギィの間に割り込んだレインは、己の最速最大の結界を張った。

即座にミザリーがその結界を補強し、絶えず修復する。

それでもなお、常人ならば消し飛んで余りあるほどの力がギィ達を襲ったが、しかしそれでも。

 

確かに、相殺に成功した。

 

だが、無茶をした代償は大きかった。

 

(ヴェルザード! ヴェルグリンド! オレの『傲慢之王(ルシファー)』はしばらくの間使い物にならない! 頼む!)

 

二人の頭の中にギィの叫びが響いた。

 

ヴェルザードは瞬時に、少し遅れてヴェルグリンドがギィの意図を察する。

 

白き白氷竜、深紅の灼熱竜が姿を現した。

 

『魔女の罰』が放たれた瞬間より、既に油断も驕りも消えている。

 

正真正銘の、全力。

 

そうしなければ、死ぬのは自分たちの方だ。

 

神ならざる身にて、神なる力を振るう竜種がここに完全顕現した。

 

ヴェルザードの放つ魔力は、世界を白く凍り付かせた。

ヴェルグリンドの放つ魔力は、世界に煉獄を燃え上がらせた。

 

竜種の放つ二種類の魔力、二つの世界は互いに干渉し合い更なる被害を世界に刻み込む。

 

吹き荒れる超高濃度の魔素の中、それでも「ワルプルギスの夜」は高らかに嗤っていた。

 

「ぎゃは! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

第三の世界が猛威を振るう。

 

凍り付いた世界と融解した世界に、ワルプルギスから生まれた暴風と乱重力の大災害が加わる。

 

もはや戦いの領域は、外部からは観測不可能な危険地帯と化していた。

唯一外部から観測できたのは、『罰』の『火』が煌々と盛る様子のみ。

たとえ強者であろうと、その領域に踏み込んだ瞬間に絶命するほどの終末世界。

 

二体とも「竜霊覇気」をこれでもかとワルプルギスにぶつけているが、当のワルプルギスは気にした様子も無く嗤っている。

激しい苦痛を与えて肉体を崩壊させるほどに強力な覇気が、まるでそよ風のように受け流される異常事態。

それどころかワルプルギスも覇気を解放し、戦場は二種類の覇気が激突して弾ける様相を呈した。

 

そんな中、先に動いたのはヴェルザードだった。

 

高速で飛翔しながら薙いだ右腕は、回避する素振りすら見せないワルプルギスの顔面を捉える。

しかし、万物を抉り取る竜の爪は、その顔にたった一つたりとも傷を付けられなかった。

腕は弾かれ、続く左腕の斬撃も弾かれる。

 

「なんて硬さなの……ッ!」

 

ヴェルザードが通り過ぎた瞬間を狙って、間髪を容れずにヴェルグリンドの灼熱吐息(バーンブレス)が放射される。

罷り通る竜の炎。

細く収束された一条の炎が、導線上の一切を焼却してワルプルギスを襲う。

だが、究極能力(アルティメットスキル)の効果が上乗せされたその炎ですらも、避ける気の無いワルプルギスに無傷で受け止められ霧散して消える。

 

「大した化け物ね」

 

瞬時に移動したヴェルザードはワルプルギスの上空に位置を獲っていた。

と、同時に多数のブレスが、顎門を開いたその口から放たれる。

極寒の息吹が複数、天と地を結んで片っ端から崩壊させる。

一撃で無理ならばと、圧倒的物量による強行突破、避ける隙の無い密度の光線。

いくらワルプルギスといえど、避け切れずに多少のダメージを負う、そのはずだった。

 

「hfu青pqbgfd」

「ydmeg希望pweoiz」

 

瞬間、生成された何かが目に追えぬ速度で駆け回り、ヴェルザードのブレスを全て()()()()()

有り得ない現象。

それを為したのは。

 

「剣……?」

 

ワルプルギスを囲うように現れたのは、金の装飾が施された片刃のサーベル。

刀身は2m近くまで届き、青色の光を薄く纏っている。

一つ一つが、伝説級(ゴッズ)並みの力を有していた。

 

それが、数百。

いや、まだ増える。

際限なく、増え続ける。

 

「……ねぇ、ヴェルグリンドちゃん」

「見えているわよ、何も言わないで」

 

百は千に、千は万に、万は億に、億は兆に。

 

増える。

 

増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える。

 

「ワルプルギスの夜」の背後、その全空間。

遥か上空まで、果て無き地の果てまで。

 

数えるのも馬鹿らしい数のサーベルが整然と世界を埋め尽くしていた。

 

「ウフフフ! イヒヒ!」

 

幾億ものサーベルが隙を埋めるように襲い掛かってくる。

 

ヴェルグリンドが咄嗟に動いた。

 

その権能により超高速で前に出た彼女は、究極能力(アルティメットスキル)救恤之王(ラグエル)』を発動させる。

「ワルプルギスの夜」を閉じ込める巨大な檻を作るようにして自身の前方に効果を及ぼし、その範囲内の運動量を極限まで増加させる。

 

灼熱の抱擁(バーニングエンブレイス)

 

究極の、加速。

 

灼熱の抱擁(バーニングエンブレイス)にて囚われた者は、例外なく生殺与奪の権利をヴェルグリンドに差し出さなければならない。

「ティロ・アレステレ」に匹敵しようかという高温が範囲内を満たす。

およそ、数十万度。

 

抵抗すら許されずに無数のサーベルは跡形も無く蒸発し、サーベルによって埋め尽くされていた空間に大きな空白が生まれる。

 

しかし、それでもなおワルプルギスは溶けなかった。

 

極温の中、依然として楽しそうに嗤い声を上げている。

 

その時だった。

 

今まで戦いの外にいたギィが、初めて動いた。

 

既に、間合い。

 

ワルプルギスの背後で、ギィが右腕を斜めに振り抜いた。

 

斬。

 

刃が、通った。

 

切り落とされたワルプルギスの右腕が宙を舞う。

ギィは返す刃で流れるように左腕も切り裂いた。

切り離された両腕は、空中で塵となって消滅してしまった。

 

灼熱の抱擁(バーニングエンブレイス)が解ける。

 

その先で、ギィは宙に立って笑っていた。

 

「誇れよワルプルギス。お前はオレが剣を抜くに値する敵だ」

 

ギィの右手には、一振りの剣が握られていた。

脈打つように鼓動し、その刃紋は七色に彩られている。

ミリムと違って手入れの行き届いたその剣からは、凄まじいエネルギーがギィの身体に流れ込んでいた。

 

「あぁ……よく馴染むぜ。最近使いこなせるようになったんだ。痛ぇだろ?」

 

世界最高、世界最強。

至高の創世級(ジェネシス)

名を、「世界(ワルド)」。

 

誰も気付けなかったが、ヴェルザードの顔が一瞬醜く歪んだ。

 

「ギィ……」

 

全方位から無数のサーベルがギィに向かって飛翔する。

 

それら全てを冷静に見切ったギィは、見惚れるような六刀によって悉くを叩き切った。

斬撃は遠くまで飛び、灼熱の抱擁(バーニングエンブレイス)と同じ規模の空白が再び生まれる。

 

ギィはその勢いのままワルプルギスに一刀を浴びせかけようとし、そして驚きに目を見開いた。

 

「ueiy青cbunqy」

「icdn希望cifnw」

 

ワルプルギスの両腕の断面から、見たことの無い青い魔法陣が浮かび上がっていた。

そして魔法陣が発光した次の瞬間、ワルプルギスの両腕は元通りに癒えていた。

 

欠損の再生。それも、これほどの再生速度。

 

(マジかよ……厄介極まりないな)

 

サーベルの嵐が再び周囲を襲う。

ギィはその対処を余儀なく要求される。

 

その最中、ワルプルギスとギィの視線が交差した。

ワルプルギスの笑みが深まったように見えた。

 

「チッ!」

 

隙を縫うように刺し込まれる無数のサーベルが暴風と共に吹き荒れる中、ギィ達六人による布陣が着々と完成しつつあった。

 

ギィとヴェルザードとヴェルグリンドが前線にてワルプルギスに攻撃を浴びせかけ、足手纏いになりつつあるミザリーとレインとルミナスが、自身を含めて前線組を狙う剣まで対処しながらワルプルギスにチクチクと牽制するように技を放つ。

 

冷極消失凝収覇(ホワイトアウトアブソープ)!!!」

 

ヴェルザードによる至高の一撃が再び放たれる。

 

絶対零度の前には万物は崩壊し、有無を言わさず滅びるのみ。

導線上の一切合切を消失させ尽くして、その一条の光線は通る。

大地を果てしなく割り、癒え難き裂傷を刻みながら竜の全力が通る。

 

絶対零度の、死滅が通る。

 

焼滅させる『火』無き今度こそ、避けることも耐え切れることもできなかった。

 

ワルプルギスを一直線に縦に薙いだそのブレスは軽々とその身体を貫き、ワルプルギスを真っ二つに割る。

誰がどう見ても致命傷。明確に感じる死の確信。

 

案外あっけなく付いたその決着に、その場の全員が拍子を抜かれた。

 

しかし、またもやギィが最も早く何かを察した。

 

「ッ!? 嘘だろオイ!!」

 

死は、終わりではなかった。

 

浮かび上がったワルプルギスが元通りに()()

 

何事も無かったかのように、これが当たり前であるかのように。

 

まるで、()()()()()()()()()()()のように。

 

悠然と無傷で宙に浮くワルプルギスは、全てを見下すように高らかに嗤う。

 

「ギャハハハハハハハハハハ!!」

 

考察する暇も無い内に、再度、始動。

 

岩盤は熔けて滝のように流れ、弾けて打ち上がった燃える岩石が無数に降り注ぐ。

地上を焼いて、焼き焦がす。

 

燃え上がる炎総じて万物は固定され、岩盤を含めて触れた物質は悉く砂のように脆く崩れ去る。

大地を凍らせ、死滅させる。

 

そして、それら全てを搔き消すように重力の暴風は全域に絶えず吹き荒れ、全てを切り刻む。

『火』による滅界だけが、一切の影響を受けずに触れた万象を焼き滅ぼしていた。

 

竜と魔女が生み出すこの世の終わりで、最上の強者たちが死闘を尽くす。

 

「なぁ、ワルプルギスよ! なぜ暴れ回る! お前はもっと理知的で話の通じる奴だったはずだ!」

「iegalpx死husaqddh」

「せめて理由を話せ! オレだってこんな戦いがしたい訳じゃねぇ!」

「アハ! ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

「クソが!」

 

ギィの「世界(ワルド)」がワルプルギスの歯車を切り裂く。

 

切り落とすことは出来なかったが、大きな傷を刻んだその一撃はしかし、浮かび上がった青色の魔法陣によって瞬時に完治する。

 

お返しとばかりに濁流のような数のサーベルと巨大な竜巻が全員を襲う。

 

だが、ギィはその全てに対処して切り飛ばし、竜種の強靭な鱗とヴェルザードの防御魔法が全てを弾く。

 

時たまに傷付いた時には、ミザリーとルミナスの回復魔法が飛ぶ。

 

戦況は、膠着状態に陥っていた。

 

ギィは分かっていた。

この戦いは長引けば長引くほど、こちらの有利に傾く。

この状態を維持して痺れを切らせ、新手を出させて分析する。

それを繰り返し、やがてワルプルギスに打つ手が無くなったタイミングで攻める。

 

そして勝つ。

 

ギィは強者同士の戦い方をよく心得ていた。

そして、その分析も正しかった。

 

だが、その予想は上回られることになる。

 

それも、限りなく悪い方向へ。

 

膠着状態の中、いきなりギィ達の脳内に聴いたことの無い女の声が響いた。

それは、確固たる理性を持つ女の声だった。

 

《ウフ。ご存知無い様ですのでお教えしますワ》

 

その声は、嗤う「ワルプルギスの夜」から発せられていた。

 

《ワタクシ、今なら地表をひっくり返せるんですのヨ?》

 

本人以外には知る由も無いのだが、まどマギにおける「ワルプルギスの夜」の説明にはこういう一文がある。

 

『普段逆さ位置にある人形が上部へ来た時、暴風の如き速度で飛行し、瞬く間に地表の文明をひっくり返してしまう。』

 

刹那、ワルプルギスの姿が霞んだ。

 

歯車が目に追えぬ速度で回り続ける。

 

200m以上の巨体が、有り得ない速度で戦場を飛び回った。

それはあるいは、ヴェルグリンドの最高速度をも超えるかもしれなかった。

 

「アハハハハハハハハハ!! キャハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

音速を遥かに超え去ったその速度は凶悪極まる巨大な衝撃波(ソニックブーム)を生み出し、砂漠の地表が文字通り()()()()()()

大地がめくれ上がり、砂漠は津波の如く波打ち、その余りの衝撃には竜種でさえ耐え切れるものではなかった。

 

常人ならば即座に粉微塵に粉砕される衝撃に、ギィ達全員がバラバラに吹き飛ばされる。

 

最も早く復帰したのはルミナスだった。

 

後方に居たため咄嗟に防御することができ、衝撃を和らげることに成功したルミナスは、見事ワルプルギスの背後を取ることに成功する。

そのままギィ達が復帰するまでの僅かな時間を繋げようと、攻撃態勢に入った瞬間だった。

 

振り向いたワルプルギスと、目が合った。

 

想像の埒外の動きで180度顔を回転させたワルプルギスは、ルミナスをジッと見つめていた。

 

二度目の視線の交差。

 

前回と同じく顔の上半分が無いため、眼球も目も無いのだが、前回と同じく確かにルミナスを真正面から捉え、視認していた。

 

やはり、嗤っていた。

 

唇を吊り上げ、三日月に裂いて嘲笑っていた。

 

ルミナスの頭の中に、今度は男の声が響いた。

それは、前回聞いたワルプルギスの男女入り混じった声の男の方を抜き出したような声だった。

 

『今のお前じゃこの戦いに吊り合ってねぇんだよ、神様』

 

続けて女の声が響いた。

 

《アハ。神様(ゴミ)は掃除ですワ♪》

「何を――!」    

 

戯曲之神(シェイクスピア)』が発動する。

 

「ルミナスッ!?」

 

事態を一部始終見ていたレインの悲鳴が木霊した。

 

その叫びに釣られて事態に気付き、視線を向けたギィはその光景を生涯忘れることが出来ないだろう。

それを見たヴェルザードもヴェルグリンドも、言葉を失ってその場で動かなくなる。

 

見てしまった。

 

そのあまりにも悍ましい、恐怖を。

 

「……。――――。」

 

ルミナスの右半身が、消えていた。

 

真っ二つに割られたのではなく、右半身だけがゴッソリ消えていた。

 

断面からは半分になった脳や半分になった肺や半分だけの腸や半分の量の筋肉が剥き出しになって、大気に晒されていた。

 

ルミナスが力なく落ちる。

 

ギィは見てしまった。

 

肉体(マテリアル・ボディー)の先、精神体(スピリチュアル・ボディー)の先、星幽体(アストラル・ボディー)の先にある、魂を。

 

ルミナスの魂は、半分に欠けていた。

割れたのではない。この世から、消えていた。

存在ごと、消滅していた。

 

片方だけになった瞳は何も映してはいない。

 

死。

 

ルミナスは地面に倒れ伏せたままピクリとも動かない。

吸血鬼族の頂点に位置する治癒能力も発動しない。

 

(……なんて奴だ………そんな馬鹿なことが…………)

 

ギィは、明確に恐怖を感じた。

 

ルミナスの半身が消えただけならばどれ程良かったか。

どれほどマシだったか。

 

あれは、あれではまるで――。

 

()()()()()()()()()()()()()

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()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かのような。

 

抵抗すら許さぬ、問答無用の死。

 

『クソ、魔素が足りないか』

 

ワルプルギスが悔しそうに呟くが、もはやそれどころでは無い。

 

ルミナスが死んだことにより、陣形に綻びが生じる。

 

狙われたのは、ミザリーとレイン。

 

「レイン! 避けてッ!」

「うわあ! ヤバいってこれ!」

 

僅かに防御が遅れる。

 

避けられるような速度では無かった。

既に目の前にあった数百ものサーベルが、いきなり柄から刀身を射出した。

無防備な二人を、刃が全方位から刺し貫く。

 

「こ、れは――!」

 

ミザリーとレインが苦しそうな呻き声を上げる。

 

全てのサーベルは悪魔族(デーモン)にとって大敵となるプラスのエネルギー、『光』に似たような波動を絶えず放っていた。

 

戦況が急激に動き始める。

 

「fhih赤vnceiuf」

「wscn希望ieorqzm」

 

現れたのは、天を衝く程に巨大な槍だった。

 

全長1㎞はあろうか、持ち手は多節棍になって折れ曲がっており、蛇が鎌首をもたげるようにギィとヴェルザードとヴェルグリンドに槍の先端を向けている。

 

槍は赤く輝いていた。

 

恐ろしいほど膨大なエネルギーが無理矢理に、力づくで、汲めども汲めども目茶苦茶に穂先に集められていく。

槍の上に乗ったワルプルギスは、祈るように両袖を合わせていた。

 

三人ともに緊張が走る。

 

特にギィの動揺は大きかった。

 

(まだこんな大技を隠してやがったのか!? 『傲慢之王(ルシファー)』は……チッ、まだ使えねぇ。核撃魔法での相殺も例の如く間に合わねぇ!)

 

この一撃は、竜種であろうと直撃すれば無事では済まない威力を持っている。

その事実を、全員が悟った。

 

無尽蔵に集い、荒れ狂う赤色のエネルギーは今か今かとその時を待つ。

 

「yuwh祈りonircqu」

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

ワルプルギスの嗤い声が響いた瞬間、突き出すように槍が落とされた。

 

鮮赤の輝きが世界を染め上げる。

 

一瞬の静寂の後、音を吹き飛ばして赤い大爆発が戦場を覆った。

穂先から無限とも思えるエネルギーが放出され、荒れ狂う猛威が膨張する。

 

だが、爆発はギィ達には向いていなかった。

 

「「アァああああああああアアアアアア――――!!!」」

 

瀕死のミザリーとレインが、ギィを守るように槍の穂先に割って入っていた。

 

レインの張った結界は容易く破られ、ミザリーの結界も拮抗すらせずに貫通される。

それでもと、二人は赤い槍にその生身を晒し続ける。

 

耐えきれる道理は無かった。

 

しかし、彼女達は確かに原初の悪魔だった。

 

「負けたら殺しますよ、ギィ―――」

「皆様、ご武運を―――」

 

そう言い遺して、赤い光に呑まれたミザリーとレインの身体は粉々に粉砕された。

 

それと引き換えに、槍は完全に受け止められる。

 

間一髪、刹那にも満たないその瞬間、ギィは消えかける寸前だった二人の魂を保護する。

生き返れるかは五分五分だ、長い時間が掛かるだろう。

 

だが、これで危機は脱した。

新たな情報が手に入った。

 

依然、こちらには最高戦力が揃っている。

 

そう、ギィは考えた。

 

甘かった。

 

ギィもヴェルザードもヴェルグリンドも。

未だ知らないのだ。

絶望の、その深さを。

 

戦況は、急激に変化する。

 

「magi鹿目puella」

 

悪寒。

 

今までの比じゃない、明確な死の恐怖。

 

「madoka希望magica」

 

ピンク色の光が、世界を照らした。

それはおおよそワルプルギスには似つかわしくない、温かな光だった。

 

一本の、巨大な弓。

 

木で出来たその弓の上部には、桃色の鮮やかな花が咲いていた。

花からは、煌々とピンク色の焔が燃え盛っている。

 

ワルプルギスが光の矢を番える。

 

集まりゆくエネルギーは、まるで。

 

「チッ! ヴェルザード! ヴェルグリンド!」

 

一点突破。

完全浄滅。

 

その矢は、その目的のためだけに全てを賭けていた。

三人まとめて消し飛ばすことなど、造作も無かった。

 

先程とは比べ物にすらならない、全身が総毛立つほどの壊滅的な力。

 

(受け取れよ『最強』共。ハイパー……いや、そこまでじゃないな。スーパーまどかビームだ)

 

一筋の閃光が、世界を貫いた。

 

その先の全てを浄滅しながら極光の矢は飛んでくる。

 

凍れる世界(エターナルワールド)! 大気獄壁(エアウォール)!」

 

ヴェルザードが持つ絶対防御の技が二つも張られる。

 

ギィ達の眼前に巨大な壁が現れ、空間を絶対零度が支配する。

 

破壊不可能、究極の停止。

 

しかし、それらをまるで紙くずであるかのように、いとも当たり前に矢は切り裂く。

 

止まる道理は無いとばかりに、全てを貫いて飛来する。

 

灼熱竜覇加速励起(カーディナルアクセラレーション)!!」

 

直後、滅却の灼炎が放射される。

 

灼熱竜ヴェルグリンドの至高。『火』を除いたこの世の最大火力。

熱崩壊は果てなく続き、一切合切を焼却して矢に直撃する。

 

それでもなお、拮抗していた。

 

灼熱竜覇加速励起(カーディナルアクセラレーション)の後ろから加勢するように、ギィによって放たれた幾つもの核撃魔法が拮抗に加わる。

 

だが、まだ足りない。

まだまだ、矢の勢いは衰えない。

 

ギィが前に飛び出した。

 

構えるのは、「世界(ワルド)」。

 

「オォオッッ!!」

 

中心線にて割るように、ギィは光の矢に剣を添える。

 

尚も衰えない矢と、この世界の剣の極みが激突し、そして――。

 

「――シィッ!」

 

ギィの「世界(ワルド)」が矢を切り裂いた。

 

これで終わりかに見えた。

 

まだ、終わらなかった。

 

「ギィ! 上よ!」

「ッ!? クソが、まだ来るのかよ!!」

 

上空を見上げる。

 

全天空を覆い尽くさんとするほどの巨大な魔法陣が、ピンク色の光芒を放っていた。

 

そこから顔を出した無数の矢が、今にも発射されようとしている。

矢の先端はもちろん、ギィ達の方を向いていた。

 

その一本一本が、先程の一撃と同等の威力を持っていた。

 

「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

   「ウフフフフフ! アハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

「イィィィヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」

   「アッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」

 

勝利を確信した「ワルプルギスの夜」が嗤う。

 

事実、勝ちは揺るぎないものとなっていた。

本来ならば、勝っていた。

 

そう。

本来ならば。

 

戦況は、急激に変化する。

 

「―――――」

 

澄み渡るような音色が、世界に響いた。

 

広大な『無限牢獄』が結界型にギィ達を覆い、降り注ぐ浄滅の矢を全て受け止める。

 

その場に、虹色が翻った。

 

周囲に銀光を撒き散らすかの如く黒銀髪の長髪が靡く。

 

「もう少し様子を見たかったけど、もうダメ。ギィさん、ヴェルザードさん、ヴェルグリンドさん。手伝ってくれる?」

 

美しき、勇者クロノア。

 

この世界の最高戦力、その一人。

 

ギィは地面で事切れているルミナスに目を向ける。

そこには球体の結界がルミナスを覆うように張られていた。

 

ギィは瞬時にその効果を見抜き、そしてその上で苦い顔を作った。

 

「クロノア。そいつはもう―――」

「うん、それは私も分かってる。可能性が限りなく低いってこともね。でも、ルミナスは私の友達だから」

「……そうかよ。で、ここに現れたってことは、何か策でもあるのか?」

「あるよ。というか、これしか方法は無いと思う。ギィさんとヴェルザードさんとヴェルグリンドさんには、なんとか『ワルプルギスの夜』に1秒以上の隙を作って欲しい。そうすれば――って嘘ッ!?」

 

断じて破られることの無い『無限牢獄』が、限界の悲鳴を上げていた。

だが、矢の勢いは明らかに落ちている。

 

ギィとクロノアが同時に動く。

 

その手に剣を持ち、貫いて落ちてくる矢を片っ端から叩き斬っていく。

ギィは正確無比に、クロノアは流れるように優雅に。

 

それでも、如何せん矢の数が多すぎる。

 

斬り漏らした矢がヴェルグリンドとヴェルザードを襲うが、二人は複数のブレスによる波状攻撃で矢を撃ち落としていく。

 

即座に陣形が組まれていく。

布陣が完成する。

 

クロノアが入ったことによって、ギィ達の動きやすさは格段に上がっていた。

 

「で、オレ達が隙を作らせたら、どうなるって?」

 

ギィがクロノアに視線を向けて問う。

クロノアはその美しい瞳を数瞬空中で彷徨わせたが、やがて決心したように言った。

 

「私がワルプルギスを、封印する」

 

それは、この面子でもワルプルギスを殺すのは不可能だと、そう断言しているに等しかった。

 

迷っている時間は無い。

 

「アハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

「夜」は、未だ健在。

 

そして更に悪い事に、その魔素量は徐々に回復し始めていた。

有り得ない早さ、有り得ない回復速度。

まるで外部から絶え間なく供給されているような。

 

迷っている時間は、無い。

 

「――仕方ねぇ、乗ってやる。そうと決まれば、お前らよく聞け。オレに良い考えがある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。
ワルプルギスの強さを盛りすぎたかな……。
いや、これで良い(反語)(断言)

ちなみに私はルミナスが好きです。可愛いので。
でもほら、この戦いで生き残るのはちょっと無理がね……?無理だよね……。

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