転生したら「ワルプルギスの夜」だった件   作:十二夜

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にょっす!(気さくな挨拶)

いやはや随分とお待たせしちゃって……何せいろいろ忙しかったもので……。
空いた時間で最終回までの流れや構想を考えてました。「廻天」が公開される8月28日までには終わりたい……。
結構大変なんですよ、話を考えるのって。
え? 言い訳?
ですよね……はい……すみません……。

では、本編どうぞ。




ミリム大地に立つ!!

 

いやぁ、びっくりした。

 

随分とはっちゃけた転生者が居たもんだ。

「ワルプルギスの夜」とな。

中二病のロールプレイ限界突破にも程があるだろう。

 

あの後、地獄のオーク名付け祭りを無事に乗り切ったリムルは、急速に形を整えつつある街を眺めながらそう思った。

 

オークだけじゃない。

ガビル率いるリザードマン戦士団や、ジュラの大森林に住むほとんどのゴブリンたちがリムルの配下にしてくれと頼み込んできた。

リムルはもちろん、彼らを受け入れた。

 

住民数の拡大はすなわち労働力の拡大。

 

一万近い魔物が暮らす町が出来た。

それぞれに家が割り当てられ、インフラが張り巡らされていく。

町を発展させるという目的を与えられて働くオーク達の顔には充実感が浮かんでいた。

それを手伝うゴブリン達もどことなく楽しそうだ。

 

そして例の如く、リムルは手持無沙汰である。

 

手伝おうとは思ったのだが、なんせ全員のやる気が凄すぎて何もさせてもらえない。

暇だった。

たまに口出しはするのだが、基本的に暇だった。

 

「……さて、と」

 

町を見下ろせる場所に立つリムルはボーっと眼下の風景を眺めていたが、しばらくしてそっとその場を動いた。

 

行く先はもちろん、件の封印――

 

「リムル様~~? どこへ行こうってんですかねぇ?」

「げっ、今度はベニマルか」

 

――へ、行こうとしてあっけなくベニマルに捕まった。

 

首根っこを持ち上げられて空中にぷらんとぶら下がるリムル。

 

「今度はどうやって俺の居場所が分かったんだよ? 痕跡を残すようなヘマはしなかったぞ?」

「フッフッフ。リムル様でも気付けないとは、アイツもなかなかやるな」

「あいつ?」

「――リムル様、俺です。恐れながら」

「ソウエイ、お前も参戦したのかこの野郎」

 

何も無かった木々の間から、どこからともなくソウエイの姿が現れる。

つまり、リムルの行動は全て監視されていたということ。

 

リムルがガクッと項垂れる。

 

ベニマルはリムルを掴んだまま、ソウエイを伴って町に戻った。

町では、頬を膨らませたシュナが仁王立ちでリムルを待ち構えていた。

 

リムルの額に一筋の汗が流れる。

 

「ま、待てシュナ、ここはコミュニケーションをだね――」

「リムル様……?」

「ひぃっ」

「何度言ったら分かるんですか! 封印に近付いてはならないとあれほど……!」

 

ここ数日ですっかり馴染みになった光景である。

 

ワルプルギスの話を聞かされて以来、リムルは事あるごとに封印を見に行こうとあの手この手で町を離れようとしていた。

 

しかし、ジュラの大森林に住む魔物にとって魔女の封印に近付くことは禁忌を意味する。

 

これまでにも大勢の魔物が守護神を一目見ようと封印に向かった。

そして、その多くが帰ってこなかった。

 

戻った魔物達は伝える。

 

曰く、封印の近くでは奇妙な歌声が聞こえる。

曰く、封印の周りはこの世ならざる景色に覆われている。

曰く、封印に近付きすぎると正気を失う。

曰く、封印は笑っている、等々……。

 

千差万別な彼らの話はしかし、一つだけ口を揃えて語られる事がある。

 

曰く、封印に一定距離近付いた者は二度と戻っては来れない、と。

 

故に、魔女の封印に近付いてはならないという暗黙の了解が魔物達の間にはあった。

 

(ほとんど怪談じゃねーか!)

 

だが、こんな話を聞かされたリムルの好奇心は益々募るばかり。

 

その脱出劇も日に日に白熱するばかり。

 

危険な封印がある?

中身は転生者だ?

そそるぜぇ、これは!

 

リムルはヴェルドラから話を聞かされていた。

暴風竜たる自分よりも、遥かに強い転生者が居ると。

 

詳しい話は教えられなかったので、リムルはそれらも込みで一度会いに行きたかったのだ。

 

しかし、そんな事情をリムル以外は知る由も無い。

さらにどんな理由があろうと、リムルを万が一にも失う可能性がある以上シュナ達はそれを見過ごせないため、リムルの脱出を全力で止めなければならない。

 

構図はここに完成した。

 

ここ数日、リムル対その他で攻防戦が繰り広げられていた。

 

「いや、だから! ヤバそうだったらすぐに逃げるって! そもそも――!」

「ダメです! 今までどれだけの犠牲者がそう言って――!」

 

一日に一回、リムルとシュナの口論が聞こえるようになったということ以外は、町は極めて平和だった。

 

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

カイジン、という名のドワーフがいる。

 

人間の国でも有名な鍛冶職人であり、ドワルゴン国にて鍛冶屋を営んでいたのだが、色々やらかした結果幼馴染のガルム、ドルド、ミルド三兄弟と共にドワルゴンを追放され、リムルの配下となった。

 

そして今、四人共にそれぞれ町の技術力向上と生産物の価値向上に重要な役割を担っている。

 

カイジンは武器を中心に主に鍛冶を担当していた。

 

同じく鍛冶職人のクロベエと日々切磋琢磨しながら住民たちの武器や防具、道具などを作っている。

 

その日も、いつものように朝から晩まで作業場に籠って武器を鍛えたり改良したりしていたカイジンは、一日の終わりに自宅で景気良く一杯呑んでいた。

 

時刻は深夜。

町はとうに静まり返っている。

 

沈むことの無い半月の光が、カイジンの部屋を明るく照らし出していた。

 

そろそろ寝なければ、明日に障る。

 

そう思ったカイジンは最後の一口を喉に流し込むと、勢いよく立ち上がった。

 

そしてベッドの方へ一歩を踏み出しかけ、驚きでその場に固まった。

 

「久しいな、カイジン。俺の分も一杯注いでくれぬか?」

 

いつの間にか部屋の暗がりに一人の男が立っていた。

親し気にカイジンに語り掛けるその声を、忘れるはずも無い。

 

「こ、これは……王よ!」

 

驚愕に喘ぎながらもカイジンが必死に声を絞り出す。

 

カイジンへ向けて一歩を踏み出し、月光の下に身を晒したのは、王ガゼル・ドワルゴその人。

 

本来、こんな所に居てはならない人物だ。

まして、カイジンはドワルゴン国を追放された身。

 

「な、何故、一体どうしてここへ? というか、まさか城を抜け出して来られたのですか!?」

「うむ。俺の警護の兵ども、100人もいて、俺が抜け出す事に気付かなかったぞ! 弛んでおる。帰ったら鍛えなおしよ!」

 

動揺してうろたえるカイジンとは裏腹に、さも当たり前であるかのように椅子に座ったガゼルは容器を手に取ると酒の瓶をカイジンに手渡した。

訳が分からないながらもカイジンは本能で動き、瓶の栓を開けてガゼルの容器になみなみと酒を注ぐ。

 

それを見たガゼルは向かいの椅子を指し示してカイジンを座らせると、グイと酒を傾けて一口飲んだ。

 

「さて、俺がここに出向いたのはお前と内密に話をするためだ」

「な、内密ですと? しかしながら王よ、ここに居ることは既にリムル様に感知されているんじゃ……」

「リムル……あのスライムの名だな? フン、俺を舐めるでないわ! 確かに腕の立つ奴も何人か居るようだが、俺がここに居ることを何人たりにも悟らせはせん! 知るのは今現在でお前だけよ!」

「えぇ……」

 

それはそれで困る。

カイジンは微妙な表情を作った。

 

それに構わずガゼルは再びグイと一口飲むと、空になった容器を勢いよくテーブルに置く。

 

「で、だ。話というのは他でもない、俺はこの国を友としたいのだ。分かるか? お前達を国と認め、正式に交流を持ちたいと考えている」

「なんと……! 王よ、それは……!」

「だが、その前にやらねばならぬ事がある」

 

興奮するカイジンを、ガゼルは目線で射抜くようにして言った。

 

「お前らの主、あのスライムの善性を見極めねばならぬ。勿論、お前の判断を疑っているわけでは無いのだ。しかし、念には念を、慎重には慎重を重ねなければならない」

「ッ! ……ガゼル王」

「カイジン、お前も知っているだろうが、三百年前に俺は一つの判断を下した。その判断が間違っていたとは今も思わぬ。俺の判断は正しかったが、しかし、俺は認識を違えていた。認識を違えるは、王として致命的であった。今度は、違えるわけにはいかぬ」

 

そこまで言い切ると、ガゼルは窓から半月を見上げた。

絶えぬ月光で輝き続ける半月を。

 

ガゼルの言葉には、強い覚悟が込められていた。

 

「………」

 

その行動で、カイジンはガゼルが自分と同じ存在を思い浮かべていることを理解した。

 

恐怖の夜たる、魔女を。

 

ガゼルは恐れているのだ。

あの夜の二の舞を。

故に、決めあぐねている。

 

カイジンは興奮を抑えて、努めて冷静にガゼルに訊いた。

 

「……どうするおつもりですか?」

「なに、簡単な事よ。カイジン、お前には俺と共に一芝居を打って欲しい」

「……一芝居?」

「うむ。あのスライムの価値観、思考、善性を試す。一計案じて、その人柄を試す」

「それでは私に自らの主を、リムル様を謀れと、そう言うのですか。ガゼル王よ」

「その通りだ」

 

カイジンの顔が強張る。

 

ガゼルの言うことは理解できる。その必要性も認識している。ガゼルは王だ、その背負う責任も察して余りある。

だが、いくらなんでもリムルを騙すことだけは気が引けた。

 

「……王よ」

「カイジン。無事に事が済めば、俺はこの国に謝罪をすることを誓おう。お前に責任は無い。俺の責任だ」

 

口を開こうとしたカイジンを、ガゼルは手で遮る。

そしてニヤリと笑ってカイジンに訊いた。

 

「カイジン。リムルは、配下であるお前でさえも信じきれぬほどに危ういのか?」

「何を……」

 

それを聞いたカイジンはしばらく呆けていたが、やがて苦笑いを浮かべるとゆっくりと首を振った。

 

(ずるいお方だ。そんな質問をされてしまえば、俺の取れる行動は一つしか無くなる)

 

カイジンは覚悟を決めたように顔を上げると、真っ直ぐにガゼルを見つめた。

 

「分かりました。協力しましょう」

「実に結構。では――」

「ただし」

 

そこで言葉を区切ったカイジンは、これまでで最も真剣な目をガゼルに向けた。

 

「リムル様を含め、この町の住人を傷付けるようなことは許しませんよ?」

 

その言葉に込められた本気を察せないガゼルではない。

 

「無論だ。心得ているとも。というよりはむしろ……」

 

ガゼルは反応を面白がるようにカイジンに計画を伝えた。

 

「これから傷付くのは、我々の方なのだ」

 

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

その翌日。

 

今日もやることが無いと嘆き、部屋でゴロゴロを決め込もうとしたリムルの予想は、しかし唐突に裏切られることとなる。

 

リムルの元に、ソウエイからの一報が舞い込んできたのだ。

 

「リムル様! ドワルゴンからの間諜を捕らえました! 恐らくは、王から命令を受けた暗部の者かと思われます!」

「……マジ?」

「間違いありません」

「とりあえず、俺の所に連れて来て。話をしてみる。あと、他の皆も呼んで来てくれ。意見が聞きたい」

「はっ」

 

片膝を突いたソウエイはリムルの言葉に深く頭を垂れて了解の意を示すと、その場から煙のように消える。

 

一人部屋に残されたリムルはしばらく思索を巡らせていたが、ベニマルやシュナ、リグルドらが立て続きに部屋に入って来ると、困ったような顔で訊いた。

 

「みんな、ソウエイから話は聞いているか? 俺は今知ったばかりなんだ、誰か詳しい話を知っている人は居ないか?」

「俺も詳しくは知りませんが……どうやらカイジンが最初に見つけたようです。町のはずれで戦闘音があり、様子を見に行けばカイジンと見知らぬドワーフが地面の上で取っ組み合っていたと」

 

ベニマルが答える。

 

「ソウエイが言うには、そのドワーフの恰好が伝え聞くドワルゴンの暗部と一致した、と。ですが……」

 

続きを言おうとしたベニマルは、部屋の外がにわかに騒がしくなったのを感じて言葉を切った。

 

間も無く、ソウエイとカイジンに両側から拘束された黒ずくめのドワーフが部屋の中に入ってきた。

頭にかぶるフードは取り払われ、傷だらけの顔が露わになっている。

 

「旦那! この野郎はドワルゴンの暗部で間違いない! ずっと俺たちを監視してやがったんだ!」

 

カイジンが怒り心頭といった感じで叫ぶ。

 

リムルはそのドワーフの前まで行くと、真っ直ぐに顔を見て名乗りを上げた。

 

「俺はリムル=テンペスト。ここの長、それとジュラの森大同盟の盟主をやっている。お前は本当にドワルゴン国の暗部で間違いないのか?」

 

返事は無い。

 

「お前! リムル様が――!」

「シオン、待て。俺にやらせてくれ。なぁ、お前はガゼル王からどんな命令を下されたんだ?」

 

男はその問い掛けも無視して、しばらくの間リムルを興味深そうに見つめていた。

が、やがて大したことないと判断したのか、リムルを見下すような表情で嘲った。

 

「ああ、俺は暗部だ。なんだよ、本当にただのスライムじゃないか。ふん! こんな下等な魔物に仕えるお前らの力もたかが知れるな!」

「なんだとっ!?」

 

その言葉が引き金となった。

 

ベニマルが刀に手をかけ、急速に場に殺気が立ち込める。

リムルを侮辱した。ここでは、それだけで万死に値する。

 

「リムル様! コイツはここで切り捨てましょう! 我々を舐めるとどうなるか、ドワルゴンに思い知らせてやるべきです!」

 

シオンの言葉を受けて、暗部の男の笑みはますます深まる。

 

「おいおい、オーガ如きが調子に乗んじゃねぇよ。暗部の俺が死んだら、王はすぐにここを脅威とみなす。お前らなんぞ抵抗する間も無く全員あの世逝きだぜぇ!? 分かったら大人しく俺の靴でも舐めるんだな!」

「キ、サマ……!!」

「それとも何か? そこのスライムにドワルゴンと戦える力があるってのか? 最強のガゼル王に、ただの薄汚いゴミが勝てるってかぁ!?」

「貴様ァァァァァァ!!!」

 

ベニマルとシオンが同時に刀を抜く。

 

いや、それよりも速くソウエイの短刀が光った。

 

刃は狙い違わず男の喉を切り裂く――

 

「やめろッ!」

 

――まさにその寸前で、リムルの声が部屋に響き渡った。

 

ソウエイの動きと同時に、斬りかかろうとしたベニマルとシオンもその場で止まる。

 

そして、三人とも自らの主を差し置いて勝手な行動をしようとした事実に気付き、不甲斐なさに顔を俯かせた。

 

「俺の為に怒ってくれるのは嬉しいけど、ここで感情に身を任せるのはダメだ。俺たちは野蛮な魔物じゃない、だろ? 彼は自分の意見を言っただけだ。ドワルゴンの意見じゃない」

「リムル様……! ですが!」

「分かってるよ。俺だってこのまま済ますつもりは無い。もう一度、ドワルゴンへ行ってガゼル王と話を付けてくる。俺は追放された身だが、否とは言わせない。これは国同士の問題だ。リグルド、シュナ」

「はっ」

「はい」

 

比較的落ち着いていたリグルドとシュナがリムルに返事をする。

しかしその目は、絶対にこのままで終わらせないという強い意志に鋭く溢れていた。

 

「俺に付いてきてくれ。二人の助けが必要になると思う。コイツも一緒に連れていく。流石のガゼルも、言い逃れは出来ないだろう」

「なんだぁ……? 俺を殺すのに怖気づいたか。情けねぇ野郎だ」

「違う」

 

人型になったリムルは見え透いたその挑発をバッサリと切り捨てる。

その瞳は、遠い先(・)を視ていた。

 

「これは、話し合いで解決するべき問題だ。お前を殺したところで解決はしないし、メリットも無い。だから、殺さない。でも、報いは必ず受けてもらう」

 

それを聞き、男は黙った。

何かを考え込むように下を向く。

 

てっきり言い返されるものと思っていたリムルは少し拍子抜けした様子を見せたが、すぐに切り替えテキパキと指示を出す。

 

「シュナ、リグルド。準備してくれ。用意が済み次第出発――」

「待て、その必要は無い」

 

厳かで、野太い声が響いた。

 

「――え?」

 

リムルは聞き覚えのある声に一瞬放心する。

 

聞き間違いか?

だって、こんな所に居るはずが……。

 

《否。間違いありません》

 

大賢者が無慈悲に断定する。

 

ということは、つまり。

 

「ガゼル王……」

「久しいな、リムルよ。許せ、お前のことを試したのだ。最も繊細な問題である捕虜をお前がどう扱うか、それが見たかったのだ」

 

リムルの目の前で、暗部の男の身体が変形を始める。

身長が伸び、細かった線はがっしりとした身体つきへ、顔の傷がみるみるうちに消えて威厳のある顔になる。

皆が驚く中、変化は静かに終わった。

 

紛れも無くガゼル・ドワルゴその人が、リムルの前に立っていた。

 

誰もが驚きで声が出ない中、ガゼルはあろうことかその場でリムルに対し頭を下げた。

大国ドワルゴンの王が、たった一人の魔物にその頭を下げる。

 

まだ情報を処理できていないにも関わらず、目にした更なる有り得ない光景に、部屋に居る全員が絶句した。

 

「俺の今までの発言、全て撤回させて欲しい。そして、この場を借りて全ての人に謝罪を。俺はリムルを、ひいてはこの国全体を侮辱した。如何なる理由があれ許されるべきでは無い。心から謝罪する」

 

そう言ったきり、ガゼルは黙って頭を下げ続ける。

何故か隣でカイジンも頭を下げていたが、そんなことを気にしている場合ではない。

 

「あー、取り敢えず頭を上げてくれ。理由を詳しく聞いても良いか?」

 

困惑しながらも放たれたリムルの一言で、凍っていた時間がようやく動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、リムル達は改めて場所を移して話をする事となった。

 

仮初ではなく、きっちりと新設された中央の建物。この建物に、この町の主要な者の部屋が割り当てられ、執務を行っている。

 

その建物にある小会議室にこの町の幹部全員が入っていた。

 

事情を話して理解を得たガゼルは、今は真剣な眼差しでリムルを見つめている。

 

「俺と、盟約を結ぶ気はあるか? この町は素晴らしい造りをしていた。いずれ世界の中心都市となるだろう。後ろ盾となる国があれば便利だぞ?」

「……良いのか? それは俺たちを、魔物の集団を国として認めるという事だぞ?」

「無論、そのつもりだ」

 

ガゼルは深く頷く。

 

「条件はとりあえず二つ。一つ、国家の危機に際しての相互協力。一つ、相互技術提供の確約。なに、答えは急がずとも良い。よく考え――」

「受けよう」

「――なに?」

「この話、喜んで受けたいと思う」

 

リムルがその場で即答する。

部屋を見渡しても反対の異を唱える者はおらず、全員が納得しているように見えた。

 

ガゼルの口から、小さな笑いがこぼれ出る。

 

「はっはっは! 王者に相応しき決断力だ!!」

 

背中をバシバシと叩かれながら、リムルの口角も釣られて自然に上がる。

まさに願ったり叶ったりだ。本来なら数十年以上掛かると思っていた目標が、こんなにもあっさりと達成された。

 

リムルが喜んでいるのを見て、リグルドが声高に宣言する。

 

「それでは、今夜は宴会ですな! この素晴らしき日の記念に!」

「うむ、だがその前に」

 

盛り上がりかけた場を、ガゼルが冷静に手で制した。

 

「この国の名は、何というのだ?」

「え?」

 

リムルがチラリと後ろを見る。

 

誰もが首を傾げていた。

 

「あ」

 

長い会議が始まった。

 

「では、これよりドワルゴンとジュラ・テンペスト連邦国における協定の証として、両国の代表による調印を行います」

 

そうでもなかった。

 

主だった幹部を集め、国の名前を決めるために急遽行われた会議は、リムル以外の圧倒的多数による一致をもって即決した。

「ジュラ・テンペスト連邦国」。

そして、その中央都市「リムル」。

 

ちなみにリムルは最後まで健気に異を唱えていたが、多勢に無勢、押し切られるしか無かった。

 

その後、調印を終えたガゼルはしばらく滞在してテンペストを満喫した。

 

ちなみに滞在中、リムルはガゼルに何度もワルプルギスについて尋ねた。

だが、いつもは饒舌なガゼルはその話題になるとのらりくらりと詳細を避ける。

結局、リムルが得たのは「ワルプルギスには最大限の警戒を」という提言だけだった。

 

そして三日目、テンペストに大きなものを残しつつガゼルは去っていった。

 

こうしてテンペストは、大きな進歩を遂げたのだった。

 

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

あれから、テンペストの首都リムルは毎日千客万来だ。

 

特に、特産品である回復薬の評判は高く、新興勢力として破格の成長ぶりを見せている。

 

の、だが。

 

(あれはヤバい、マジでヤバい!)

《告。残り三秒で接触します》

(速っ!?)

 

リムルは強大な魔力の塊を感知していた。

その魔力の塊は一直線にテンペスト向かって飛翔している。

このままでは、街中に大きな被害が出ることは避けられないだろう。

 

(間に合え!)

 

一瞬の判断で門の外へと飛び出したリムルは、町の外の開けた場所まで駆ける。

魔力の塊はまるでリムルを目掛けているかのように空中で軌道を変更し、リムルを追尾する。

 

そしてリムルの前に、それは着弾した。

 

「初めまして。ワタシは、魔王ミリム・ナーヴァだぞ。お前がこの町で一番強そうだったから、挨拶に来てやったのだ!」

 

目の前に浮かぶ尊大な少女は、そうリムルに告げた。

 

リムルは冷や汗が止まらない。

 

大賢者が計測せずとも分かる。これは、格が違う。

 

「初めまして、リムルと申します」

 

会話がしやすいよう人型になったリムルは、ミリムに倣って名を名乗る。

 

その時、ミリムが両腕で何かを抱きかかえていることに気付いた。

先程までは着地の衝撃で舞い上がった砂埃に隠れて良く見えなかったが、煙が晴れた今なら細部までよく見える。

ミリムの身長の半分はあるだろうか、大きなぬいぐるみだった。

 

(ウサギの……ぬいぐるみ? なんで?)

 

首を傾げるリムルに構わず、ミリムは人型になったリムルを見て目を丸くする。

そのまましげしげと眺めていると、リムルと同じく首を傾げた。

 

「水晶ではもう少しちまかった気がするのだ……。さてはお前、豚頭帝(オークロード)を喰ったか?」

(ダメだ、目的が読めない。何しに来たんだこの魔王……)

 

適度な緊張感を保ちながら、リムルは用件を聞いてみることにした。

戦わないで済むに越したことはない。

しかし、目的が豚頭帝(オークロード)の復讐ならば……。

 

「ええ、まあ。それで今日はどんな御用でのお越しでしょうか?」

「む? 最初に言ったではないか。挨拶だぞ?」

「……挨拶?」

「うむ」

「………それだけ?」

「?? そうだぞ?」

 

(それだけかよ!?)

 

リムルはずっこけそうになるのを必死で堪える。

だが、戦いにならずに済みそうでホッと胸を撫で下ろした。

 

戦わなくてよかった。

 

《測定可能な下限段階で、魔素量が十倍以上です》

 

ほらな?

絶対敵わない。

 

そうやって気を取り直したリムルが、口八丁で上手く言いくるめて帰って貰おうと口を開いた瞬間だった。

 

リムルの頭上を飛び越えたシオンが、ミリムに全力の一刀を叩き込んだ。

 

「ッ!? シオン――」

「逃げてくださいリムル様! 早く!」

 

続けて二撃目を入れようとしたシオンは、刀がピクリとも動かないことに気付く。

 

「なんだ? ワタシと遊びたいのか?」

 

親指と人差し指。

たったそれだけで、シオンの渾身の一撃は受け止められていた。

 

「チィッ! ソウエイ!」

「分かっている!」

 

リムルが止める間も無く状況が動く。

 

抵抗すらせずに全方位から無数の粘鋼糸に絡めとられて身動きが取れなくなったミリムに、ソウエイが冷徹に告げる。

 

「魔王と言えども、この糸の束縛より逃れることは簡単には出来まい。終わりだ」

 

いつの間にか、ベニマルがミリムの正面に立っていた。

 

その右手より、黒い炎の球が生み出される。

 

「黒炎獄(ヘルフレア)!」

 

黒炎球は膨張しながら加速し、ミリムに着弾してその内包する魔力を解放した。

 

聴く者の背筋を凍りつかせるような音と共に、ミリムを黒いドームが覆う。

灰すら残らない、地獄の炎。

 

だが、その中にあってミリムは僅かにも焦ってはいなかった。

いや、そもそも焦る領域に無い。

 

「わははははははは! やるではないか!」

 

黒炎より、ミリムが悠然と歩み出る。

傷などあるはずも無く。

艶やかな髪の一本すら焦げていない。

 

「これ程の攻撃、他の魔王ならあるいは倒せたかも知れぬ。だが……」

 

轟。

 

ミリムの禍々しい魔力が渦巻く。

 

「ワタシには通用しないのだ!」

 

秘められた魔力の解放。

 

たったそれだけで周りの地面もろとも木々が吹き飛び、大きなクレーターが作られる。

 

後に残ったのは、戦闘不能となって地面に倒れ伏す三人。

 

攻撃ですらないただの魔力の渦に、テンペストの幹部三名が為す術も無く倒れるという絶望的な事態。

 

その一部始終を見ていたリムルは、まずシオンに近付いて回復薬を渡した。

 

「リ、ムル様……!」

 

リムルは同じようにベニマルとソウエイにも回復薬を投げ渡すと、ミリムに向き直う。

 

ミリムは楽しそうにリムルを見つめている。

ならば、リムルは応えなければならない。

 

「あとは俺に任せろ」

 

そう言い残すとリムルはクレーターの中心部、ミリムが立っているところまで降りていく。

 

「ほう? お前はワタシに通用しそうな攻撃を持っているのか?」

「ああ、一つだけな」

 

リムルが不敵に笑う。

 

「わはははは! いいだろう、受けてやるのだ!」

 

それに対し、ミリムも不敵に笑って待ち構える。

 

チャンスは一度、機会も一瞬。

 

リムルは掌に球状の小さな液体を作り出すと、地面を蹴った。

 

「では、喰らえ!」

 

ミリムは微動だにしないままリムルの動きを目で追う。

だが、それも必要ないほどにリムルは一直線にミリムに向かって駆けて来ていた。

 

《告。通用する手段は皆無》

(いや、分かってるよ)

《警告。全ての攻撃は反射される可能性が高いです》

(大丈夫だよ)

 

二人の間が徐々に縮まる。

 

(こういうガキっぽい相手にはな、それ相応の対処法ってのがあるんだよ!)

 

パァン!

 

通り過ぎざま、甲高い音を響かせて、リムルは手の中の液体をミリムの口元に叩き付けた。

その勢いのまま正面に回り込み、ミリムが液体を口に含んだのを確認する。

 

(さて、どう出るか……)

 

リムル達の命運は、この後のミリムの反応に懸かっていた。

 

一秒、二秒とミリムが俯いたままの時間が過ぎ、まさか失敗か?とリムルが思い始めた瞬間。

 

目を輝かせたミリムが顔を上げた。

 

「う、うまーーーい! なんなのだこれは!? こんな美味しいもの今まで食べたことがないのだ!!」

「よし!」

 

ミリムの反応に、リムルが思わずガッツポーズを取る。

 

思惑通りに事が運んだリムルは、同じ液体を周囲に浮かせて余裕の表情で舐め始める。

 

「クックック……どうした魔王ミリム。こいつの正体が気になるのか? 美味しいもんなぁ、うわぁ美味しい、メッチャ美味しい」

 

液体の正体は蜂蜜である。

リムルが前日保護したハチ型魔蟲から採取し、一人でこっそり楽しもうと隠しておいたものだ。

 

リムルが蜂蜜をぷかぷかと宙に浮かせる。

ミリムの視線が釘付けで離れない。

 

「俺の勝ちだと認めるなら、コレをくれてやっても良いんだがなぁ。そうじゃなきゃ正体は永遠に闇の中だなぁ?」

「ぐぐぐ……だが……しかし……」

「うーん美味い。甘い甘い。おや、量が少なくなってきたな? 早くしないと無くなりそうだ」

「あぁっ……!?」

 

勝負は付いた。

 

甘いものには勝てないのだ。

 

「わ、分かったのだ! 提案がある! 引き分け! 今回は引き分けでどうだ? 今回の件を全て不問にするのだ!」

「ほほう? 続けてみ?」

「も、勿論それだけではないぞ。今後ワタシがお前達に手出しをしないと誓おうではないか!」

「それ! この蜂蜜はくれてやる!」

「わーい!」

 

勝ったな。

 

喜んで蜂蜜を舐め始めたミリムを横目に、リムルは呆然と立っているベニマル達に近付く。

 

怪我は全て治っているようで、今後に禍根を残すことも無いだろう。

 

「なぁなぁ。お前、魔王を名乗ったり、魔王になろうとしたりしないのか?」

 

突然、蜂蜜を舐めていたミリムがそんな事を言い出した。

 

(何言ってるんだ、コイツ…)

 

リムルは面倒くさそうな顔をするが、一応は構ってあげる。

 

リムルは悟ったのだ。

ミリムは子供だ。

親戚の子供だと思って接すればチョロいのだ。

深読みをしてはいけない、元社会人としてのスキルを発揮する時。

 

「しねーよ」

「え、だって、魔王だぞ!? 格好いいだろ? 憧れたりとか、するだろ?」

「しねーけど?」

「……え?」

「え?」

 

リムルとミリムが互いの顔を見つめ合う。

どうやら認識に大きな差異があるらしい。

 

まるで理解できないといったような顔をして、ミリムは首を傾げて尋ねる。

 

「えええーー? じゃあ、何を楽しみに生きてるんだ?」

「そりゃあ色々だよ。やることが多くて大変なんだぞ」

 

半分嘘である。

この前まで退屈でゴロゴロしていた者の台詞とは思えない。

 

「でも……魔王は魔人や人間に威張れるのだぞ!」

「退屈なんじゃないか? そんなの」

 

リムルの言葉に、雷にでも打たれたかの如く、衝撃を受けた表情になるミリム。

 

図星である。

ミリムは退屈していた。

唯一の遊び相手は、今は封印されてしまっている。

 

「待て! おま、お前! 魔王になるより面白い事してるんだろ! ズルイぞ! ずるいずるい!! もう怒った。ワタシも仲間に入れるのだ!!」

「ぐおおおおおおおおおおおおお」

 

リムルの肩を掴んでがっくんがっくんと前後に揺さぶるミリム。

 

助けを求めようにも、シオン達はニコニコとリムルを尊敬の眼差しで見つめている。

 

目を回したリムルは堪らず音を上げた。

 

「わかったわかった。教えてやるよ! だが、条件がある。お前、今度から俺の事は、リムルさんと、さん付けで呼べよ!」

「何ぃ? ふざけるなよ! 逆だろ! お前がワタシの事をミリム様と呼べ!」

「……よし、じゃあ、お前の事はミリムと呼ぶ。お前も、俺の事をリムルと呼んだらいい。どうだ?」

「むむむ…。そうだな。わかった! お前に、ミリムと呼ぶ事を許してやる。感謝しろ! こう呼んでいいのは、魔王達だけだぞ!」

「はいはいありがとうよ。じゃあ、今日から俺達も友達だな」

 

何気なく放った一言に、ミリムが固まる。

そしてゆっくりながらも、じわじわと嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

それには気付かずにリムルはソウエイに町への伝令を頼み、ベニマルとシオンには先に戻っているよう伝える。

 

振り向いたリムルを、ミリムは満面の笑みで迎えた。

 

「リムルはワルプルギスと似ているな!」

「っ! そうなのか?」

「うむ! 何というか、雰囲気が似ているのだ!」

「知り合いなのか?」

「トモダチだぞ!」

「ふーん」

 

リムルは混乱した。

伝え聞くワルプルギスの人物像が余りにも一致しない。

 

理性の無い化物のように語られたかと思えば、ガゼルと交渉が出来る程の知性があると言う。

邪悪な化物かと思えば、魔王少女とトモダチだと言う。

ただ、転生者であることには間違いないらしい。

 

リムルはますます興味を引かれながらも、今考えるべきは目の前の魔王とどう関係を築いていくか。

 

ミリムをもてなす計画を頭の中で立てながら、リムルは声をかけた。

 

「じゃあ、テンペストを案内するよ。行くぞ?」

「わかった! リムル!」

「………?」

「ん? どうしたのだ?」

「……いや、何でもないよ。ほら、こっちだ」

 

気のせいだろう。

 

ミリムを伴って歩き出したリムルは、先程一瞬だけ感じた違和感に蓋をする。

 

気のせいに決まっていた。

 

ミリムの抱くぬいぐるみから、視線を感じたなんて。

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

書きながら改めてミリム強っ、となりました。
ぅゎょぅι゛ょっょぃ

駆け足どころか短距離走の勢いで進んでいきますよ!
詳しくは転スラに触れるがよろしい。おすすめは小説だ!読めッ、読めーーーーーッ!!
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