転生したら「ワルプルギスの夜」だった件   作:十二夜

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夢を焼け、魂のその色で。



すべてこの世は舞台

 

Ladies and Gentlemen, lend me your ears!

Ye crawling vermin and ye straying cats,

Pray, tarry a while and grace us here.

 

The sands of ages have slipped through the glass,

As stellar fates requite a maiden’s soul.

Trust not the memories of a flickering tail;

Tonight, a play—the grandest of them all!

 

Drink deep thy milk while the cup is yet full,

Make haste, I say!  For time bides for no man,

And the heavens are thralled by the roar of the crowd.

 

小さな歌声が森の中に響いていた。

 

どこから鳴っているのかも定かではなく、ただ歌声だけが森の一帯を包み込む。

 

その歌を聴く者は無く、その内容を知る者もまた居ない。

 

どこか遠い場所から鳴っていた歌声は、いつしか鮮明に。だんだんと近づいてくるように鮮明に鮮烈に。

 

楽し気に、楽し気に。

 

今夜、ここでの、一大戯曲。

 

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

「もうムリっすよ~~~~!!」

 

ゴブタはマッハの判断を下すと、ダッシュで訓練場から遁走をキメた。

 

後ろを振り返れば、散歩のような気軽さに反して超高速で追いかけて来る人影が見える。

 

ハクロウである。

 

「ふぉふぉふぉ! まだまだ元気そうじゃな。これならもう3セット追加しようかの……?」

「鬼ッ! 悪魔ッ! こんのクソジジイ――あ」

「ふぉ?」

「うっぎゃあああああああああああああ!!!」

 

ゴブタが余りにも馬鹿な失言を自覚した時には、時すでに遅し。

いつの間にか並走していたハクロウに、木刀を横腹にしたたかと打ち付けられたゴブタが吹き飛ぶ。

 

「ああああああぁぁぁぁぁぁ…………!!」

 

悲鳴が聞こえるテンペストは今日も平和である。

 

「お? お、おおお!」

 

同時刻、リムルは自室で浮かんでいた。

 

なんと、宙に浮かんでいるのである。

 

「すごいぞ、これ……!」

 

両断された暗黒大彩妖(ギリメカラ)を捕食したリムルは、大賢者の解析によって新たに「重力操作」と「熱量操作」という二つの能力を得ていた。

 

今はその内の一つ、「重力操作」を試している最中だ。

 

まだまだ不慣れだが、今後この「重力操作」を使いこなせるようになればミリムのような高速飛行も夢じゃない。

 

(しかしあの象、重力操作も熱量操作も使ってなかったよな……? どっから来たんだこの能力?)

 

その問いに答えられる者はいない。

 

リムルはしばらくプカプカと浮きながら、少しでも能力に慣れようと努める。

 

「さて、と」

 

しばらくして、能力の確認に満足したのか地面に降りたリムルは、人型となって部屋を出た。

 

今日は、リムルがテンペストから旅立つ日だ。

 

「そろそろ行くか」

 

 

 

 

 

 

「よろしくな、三人共」

「おう! 旦那は俺達に付いてきてくれればいいぜ!」

「どーーーんと任せちゃってよねぇ」

「あっしの本領発揮でやすね!」

 

カバル、エレン、ギド。

 

テンペストがまだ一つの村に過ぎなかった頃にここを訪れ、以来リムル達と長い付き合いになっているブルムンド王国の冒険者三人組である。

 

リムルの目指すイングラシアへ行くにはブルムンド王国を経由する必要があるため、彼らが案内役に選ばれたのだった。

 

実はエレンはとある大国の貴族令嬢で、カバルとギドはその護衛なのだが、三人の普段の言動のせいでリムル達はちっともその事実に気が付いていない。

 

リムルの他にも、影に潜んだランガやソウエイの分身が一体、旅に同行する。

が、よほどの事が無いと出てこないので、実質エレン一行とリムルだけの旅であった。

 

「うおおおおおん! リムル様お気を付けてッ……!」

「はいはい、留守は頼んだぞ」

 

号泣するリグルドを先頭に、見送りに来た住民たちに手を振ってリムルはテンペストから旅立った。

 

この世界に転生して二年、リムルは初めて人間の国へ足を踏み入れようとしている。

 

(楽しみだなぁ)

 

足取り軽く、リムル達は森の中へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

Walpurgisnacht

 

 

 

 

 

 

「―――」

「――――様?」

「―――――ルギス様!」

 

「―――――ワルプルギス様!!」

 

『………?』

 

その声で、ワルプルギスは目を覚ました。

 

「もぅ、ご飯の最中にボーっとしてちゃ駄目ですよ?」

 

リュティスがワルプルギスの顔を覗き込むようにして下から見上げている。

どうやら食事の最中にウトウトしてしまったらしい。

 

はて、眠る必要が無いのにウトウトするのは何故だろうかという疑問がワルプルギスを掠めたが、期待の目でこちらを見つめるリュティスとファトナの顔を見ているとすぐにそんな些事はどうでも良くなっていた。

 

『ああ、ごめんごめん。で、どうしたんだ?』

「ですから、私とファトナ、どちらのお肉の味付けがより好みなのかと聞いているのです! もちろん私ですよね?」

「私に決まっているさ。そうだろう? ワルプルギス様?」

『おっと、障らぬ神にも祟りはあったか』

 

ワルプルギスは小さくぼやくと、目の前に置かれたまるで漫画のような骨付き肉に齧り付く。

しばらく味わい、もう片方の肉も一口頬張る。

 

『……ふむ』

「「ふむふむ?」」

 

二人はワルプルギスからの念話に神経を集中させる。

 

『………勝者はファトナ!』

「ぬはははははは! この私に追い付こうなど百年早いのさ、娘っ子!」

「キィーーーー! こんのババア!! 次は負けませんから!」

『この二人って仲悪いの?』

「ミナはとっても良いと思うのです!」

「です!」

『さいですか』

 

ファトナが聞いたことの無いような声で笑いながら勝ち誇る。

リュティスも聞いたことの無いような声で悔しがる。

それを見ていた他の皆は、いつもの事であるかのように苦笑を漏らした。

 

『でも、私はリュティスの味付けも好きだからな。ほら、こう、何というか、素材そのままの味って感じで』

「……褒めてます?」

『モチロン!!』

 

ワルプルギスは清々しい笑顔で言い切った。

 

「ムムム……薄くする気は無かったのですが……」

 

リュティスが顎に手を当てて唸っているのを横目に、ファトナがワルプルギスに話しかける。

 

「そういえば、ワルプルギス様。もうすぐミリム様が戻って来るだろう? それまでにミリム様の家を新しく建てようと思うのだが……」

『私の家の横で良いんじゃないか? ほら、やたらと両側がぽっかり空いてるし』

「しかしそれは……いや、そうしよう。喜んでくれるだろうか?」

『喜ぶさ。アイツならな』

「ふふっ、そうだと嬉しいのだが」

 

ファトナが笑う。

 

ありふれた、なんてことの無い一夜だ。

 

村の中央に置かれた長テーブルに皆が座り、それぞれが思い思いの食べ物に手を伸ばしながら話に花を咲かせている。

 

昨日もそうであったし、明日もまたこの景色が見れるはずだ。

 

そうだというのに、ワルプルギスには何故だかこの景色が酷く懐かしく、そして心に感じ入るものがあった。

 

「「ごちそうさま!」」

「ニナ! 対ミリム様特攻の罠を仕掛けに行くのです!」

「行く、です!」

 

爆速で夕食をかき込んだミナとニナが、並んでトテテテッと森の中へ走り去っていく。

 

傍から見れば微笑ましい光景だ。

子供が二人、鬼ごっこなどを楽しむ声が今にも聞こえてきそうだ。

 

実際は、ミリムが戻って来た時に嵌める為の罠を仕掛けに行くという、物騒な内容なのだが。

 

『……元気だねぇ』

「ですねぇ」

 

リュティスが感慨深げに呟く。

 

「あの二人も、昔はもっと落ち着いていましたよ。良く言えば、物分かりの良い子供ですね。でも、いつも何かを抑え込んでいるようでした。それが、ワルプルギス様に出会ってからは、すっかり元気に」

『……そうなのか?』

「はい。ワルプルギス様が守ってくれるから、あの二人も安心しているんだと思いますよ?」

「その通りだ。ここの雰囲気も、以前とは比べ物にならない程明るくなった。これも、ワルプルギス様のおかげさ」

 

ファトナがリュティスの言葉に同調するように頷くと、ワルプルギスに顔を向けて柔らかく笑った。

 

「ありがとう。私たちを庇護してくださって」

 

 

そう言って、村は火に包まれた。

 

 

『………は?』

 

唐突な事態に、ワルプルギスが頓狂な声を漏らす。

 

どこもかしこも燃えている。

 

家々が焼け落ちる。

 

死体が焦げ付く。

 

雨が降っていた。

 

『…………』

 

次第に何かを察したワルプルギスが、その光景を目に焼き付けるように辺りを見回す。

 

そして、ワルプルギスは目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

(……おはよう)

《お早うございますワ。良い夢は見れまして?》

(ヨル……お前は性格が悪いな)

《ウフフ。ワタクシは悪意そのものでしてヨ?》

 

地面に横たわっていたワルプルギスが身体を起こす。

 

ワルプルギスは、睡眠を必要としない。

 

だが、すっかり万能の性能だと判明した『戯曲之神(シェイクスピア)』を用いれば、勿論その限りでは無い。

自らを眠りにつかせ、夢を見せるなど造作も無いことだった。

 

ワルプルギスがその場を見回す。

 

魔女は大きな舞台に立っていた。

 

三階建てで、半径40メートルくらいの円形劇場であった。

 

20面の多角形をしたその劇場は、三階の隅々に至るまで観客で埋め尽くされている。

もちろん、観客は異形の使い魔達である。

 

舞台の両側には大きな柱があり、文字通り天にまで届くほど高い舞台後方の屋根を支えている。

屋根の下にある天井部分には雲や空が描かれており、それは時間経過で星と月の夜空に変化した。

 

劇場の大天井には金文字が刻まれている。『totus mundus agit histrionem.(世界はすべて舞台)』。

 

無数の観客は静まり返って、舞台上にただ一人立つ魔女を興味津々にジッと見つめていた。

 

『……ここは、私だけの世界。小さな小さな舞台の世界』

 

何かに気付いたワルプルギスが、芝居の舞台から降りる。

 

舞台の前にひしめき合っていた観客たちは、慌てて左右に移動して道を開けた。

 

この珍妙な場所を言い表す呼び名は、この世界にはまだ存在しない。

しかし、かつて遠い遠い世界で、魔法少女たちはこの場所をこう呼んだ。

 

魔女の結界。

 

『すまないね、ここでの劇は暫くの間お休みだ。私はもっと大きな舞台に行かなければ』

 

その言葉に、沈黙を貫いていた観客が一斉に沸き立つ。

 

魔女の結界を用いて少しづつ『無限牢獄』を侵食し、結界内に取り込むという賭け。

 

そうすることで封印を無効化できると考えたワルプルギスは見事、賭けに勝った。

 

封印の侵食は少し前にはほとんど完了していたが、幾重にも重ね掛けされた最後の封印が今、結界内に取り込まれた。

実にアッサリと、何の感慨も無く。

 

もう魔女を阻めるものは何も無い。

小さな世界の幕は降り、大きな世界の幕が上げる。

開演の時は満ちた。

 

ワルプルギスは劇場の入り口に辿り着くと、見上げる程に大きな扉に両手を添える。

 

そして、無数の目に見守られる中、ゆっくりと扉を押し開けた。

 

僅かに湿った風が、魔女の頬を撫でた。

 

(――嗚呼。良い夜、良い月だね)

《美しい夜ですワ。ワタクシのように》

(……ツッコまないからな)

 

劇場内から轟く万雷の歓声と拍手を背中に受け、ワルプルギスは三百年ぶりに外の世界へと進み出る。

 

半月の月光が魔女の顔を照らし、目の前に鬱蒼とした森林を浮かび上がらせた。

 

その光景に浸っていると、ワルプルギスは思い出したかのように視線を下へと下げる。

 

目の前の地面には、少し汚れた一冊の本。

 

ワルプルギスは懐かしそうにその本を拾い上げると、表紙に書かれている文字を読んだ。

 

『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ<ワルプルギスの廻天> なんちゃって小説』

 

予想だにしない文字列に、ワルプルギスの思考がしばし固まる。

そしてゆっくりと表紙を捲り、最初の一ページを読む。

 

『まえがき 最初に言っておくが俺は小説家じゃない。そこんとこヨロシク。あと、封印脱出おめでとう』

 

紙の文字からでも、カズトの声が聞こえてきそうだ。

 

そう思いながら、文字をなぞる様にして先を読んで行く。

 

『さて、お前がイングラシアを離れてから、俺は必死に他の転生者を探して話を聞いて回った。誰か一人ぐらい「ワルプルギスの廻天」を観てる奴が居るんじゃないかってな。そしたらビンゴ! 二人見つけた。この本は俺がその二人から聞いた映画の内容を、なるべく詳細に小説風に書き起こしたものだ。二度と会えない、お前の為にな。良いか、お前だけの為にだぞ! お前だけ映画の内容を知らないのは忍びないからな。感謝しろよ? マジで』

 

「アハ、ハハハハハ……!」

 

ワルプルギスが笑う。

 

その口から発することを許されている唯一の音はしかし、その時だけは心の底から笑っているように感じられた。

 

『礼は要らん。その代わり、いつか俺の墓に見舞いに来てくれ。ついでに酒を数本ばかりぶっかけてくれれば言う事ナシだ。墓の場所は自分でなんとか見つけるんだな。以上! それじゃあな』

 

そのページの下には、急いで書き足されたのであろう、斜めに短い走り書きが残されていた。

 

『世界は滅ぼしても俺の墓は残しておけ。祟るぞ』

 

ワルプルギスはそっと本を閉じると、慎重に体内に収納した。

 

そして月を見上げ、しばらくの間何かを堪えるようにジッと動かず、その場に留まる。

 

《……モウ、よろしくて?》

(ああ。行こうか)

 

やがてワルプルギスは顔を戻すと、ある方角を向いた。

三百年前には何も無かったその先には、今やとある国が存在する。

 

(ヨル)

《エエ。分かっていますワ》

(よし。さて、身体の調子はどうかな……と)

 

その瞬間、数㎞あった距離がゼロに縮まった。

 

町の入口を守護していた二人のオークの前で停止し、その結果に満足するように口の端を吊り上げる。

 

数瞬遅れて、轟音と衝撃波(ソニックブーム)が通り道の一切合切を抉るように吹き飛ばした。

 

一直線の破壊をまるで気にも留めず、ワルプルギスは何故か目の前で震えながら平伏しているオークに念話で話しかけた。

 

『ゴキゲンヨウ。ワタクシをご存知?』

「「は、ははぁーーーー! もちろんでございますとも!」」

 

二人のオークが地面にひれ伏しながら死に物狂いで返答する。

 

姿を直接知らなくとも、間違えようのない確信があった。

本能が、魂の一片に至るまで逆らうなと絶叫している。

恐ろしい。

 

これが守護神。

これが、魔女。

 

『アラ、ソウ。なら話は早いワネ』

 

騒ぎに気付いて続々と集まりつつある住民を見渡しながら、ワルプルギスは言った。

 

『リムル=テンペストを出してくださる?』

 

 

 

 

 

 

ステータス

 

 名前:ワルプルギス

 

 種族:魔女

 

 加護:円環の残光

 

 称号:『ワルプルギスの夜』,『廻天せし魔』

 

 魔法:無し

 

 技能:『究極能力(アルティメットスキル)』

      …「戯曲之神(シェイクスピア)」

      …「月に嘆く最後の魔女(マギカ)」

 

     常用スキル…『絶望覇気』   

     戦闘スキル…『廻天』,『希亡』

 

 耐性:全環境影響無効,全攻撃無効,状態異常無効

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

転スラの物語を華麗に省略し、ここまで辿り着きましたよ!
ワルプルギスにもあるはずの魔女の結界、使わない手は無いね。
そして原作に無いということはいくら盛っても良いということだからね。

名付け強化によって新しく増えた能力については、追々描写していきます。
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