転生したら「ワルプルギスの夜」だった件   作:十二夜

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???????:毎日更新が終わると言ったな?
???:そ、そうだ大佐!た、助けて――
???????:あれは嘘だ。
???:うわああああああああああああああああああ!!!!!!


揺れる世界、役者は踊る

()()は今からおよそ百年前に出現した。

 

太陽の光が今にも夜空の星を消し去ろうとしている、夜の終わり。

鳥が囀り、農家は目を覚まし、人々がたった今から新たな一日を始めようとするその時に、何の前触れも無く()()は起きた。

 

ジュラの大森林に接する山岳地帯で最も高い標高を誇る山、エーテルガルド。その中腹からいきなり膨大な量の魔素が爆発した。

 

この世界にいる全ての存在が、その魔素を何らかの形で感じ取ったとも言われるその放出を受けて、世界各国はすぐさま事態把握に向けて動き始める。

なにせその量が尋常ではなかった。

全ての計測器は同じ値を指し示した。それは、有史以来観測された最大量の魔素。

十大魔王はおろか、三体の竜種をすら軽く凌ぐほどの魔素量を何らかの存在が放っている。

 

すぐに各国の暗部や調査隊がそれぞれに現場に向かった。

エーテルガルドの側面には、昨日までは無かった洞窟のような巨大な穴が出来ていた。

 

そこで見た。人も魔人も魔物も、等しく()()を見た。

 

『暴風竜』、『天災』、『邪竜』、竜。

この世の頂点、ヴェルドラ。

そのヴェルドラを相手に戦う、化物を。

 

その化物は巨大だった。

その化物は女の姿をしていた。

その化物は上下逆さまに飛んでいた。

その化物から突き出た歯車は絶えず回り続けている。

その化物は、嗤った。

嗤って、

笑って、

哂って、

わらっていた。

 

戦いの余波で魔物は消し飛んだ。

 

誰かが絶叫した。

 

「逃げろオオオオオオオオッッッ!!」

 

それを皮切りに、魔人たちはそれぞれが仕える魔王に報告するため全速力で逃げ出し、人間の暗部もまた同様に情報を持ち帰ろうと撤退した。

 

ただ、彼らは近づきすぎた。

 

何の耐性も持たない異世界の存在が、Walpurgisnachtに近づいてしまった。

その結果が、正気の喪失。

 

「アハハハハハㇵハハハハハハㇵㇵハハハハハハハ!!!!」

化物は、嗤い続ける。

 

結局、無事に戻れたのは人間も魔人もほんのひと握り。

残りは等しく発狂した。

人間も魔人も狂って、狂い切って死んだ。

 

つまり、これが最初の日。

後にこの出来事は、ヴェルドラが敗走するという『不可能』な事態を以てひとまずの落ち着きを見た。

 

そしてやがて、この出来事は改めて名前を付けられて歴史書に刻まれることとなる。

リムル=テンペストが活躍し、聖魔入り乱れる大戦争が勃発した時代。

その時代に、この日はこう名付けられた。

 

魔女の悲嘆(バースデイ)」、と。

 

発狂した者はみな、泣き叫んでいたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Walpurgisnacht

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白氷宮。

 

万年を極寒に閉ざされた宮殿の中。

 

魔王ギィ・クリムゾンは自室で考え事をしていた。

 

真紅の瞳は銀の星を秘め、燃える様に真っ赤な髪は、血の色よりも濃く深い。

男にも女にも見えるその悪魔は、考えがまとまらないかのように眉間にしわを寄せて頭を振った。

 

暗黒皇帝(ロード・オブ・ダークネス)」と呼ばれ、恐れられる魔王。

彼は最古の魔王であり、最強の魔王でもあり、つまるところ一つの「到達」であった。

 

そんな存在が何を悩むというのか。

 

「どうしたの、ギィ。何かお悩み?」

 

彼にしなだれかかるように侍るのは、美しい白髪と深い青の瞳を持つ少女。

 

『氷の女帝』、白氷竜ヴェルザード。

 

ヴェルドラと同じく竜種の一体であり、しかしその力は弟たるヴェルドラを凌駕する、魔王ギィ・クリムゾンの片腕。

 

彼女はその湿った瞳で艶やかにギィを見上げる。

 

「まぁ、少しな」

「もしかして()()のこと?」

「そんなところだ」

 

数日前に突如現れた謎の化物。

()()が体内に秘める魔素量は、ギィの目から見てもあまりに異様だった。

 

「問題ないでしょう。ヴェルドラちゃんがちょっかいを出しに行きましたが、どうやら互角の様ですよ?いくら魔素が多くとも、その使い方が分からなければ宝の持ち腐れ。貴方や私にとっては塵芥のようなものよ」

「その程度のことは、オレでも分かっているさ」

 

分からないのは……。

 

ギィは己の左手に意識を向ける。

 

本人でさえ意識しなければ気づけないほどの僅かな変化。

しかしそれは、確かに異常と呼べる事態だった。

 

ギィの左手が微かに震えている。

数日前から、ずっと。

 

まるで、何かを恐れているかのように。

 

(オレが恐れている?オレが?恐れる?? まさか。『原初の悪魔』たるこのオレが一体何を恐れる? なにを?)

 

まさに、悪魔だから、だろう。

 

悪魔は人間と契約を交わし、時にはその魂を対価に頂く種族。

 

よって魂に関して悪魔の右に出る者はいない。

その頂点に座するギィ・クリムゾン、だからこそ。

気づいたのだろう。

 

舞台装置の魔女(それ)」の、『魔女』という存在の、本質に。

 

悍ましさに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Walpurgisnacht

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

百年とちょっとの後。

 

神聖法皇国ルべリオス。

 

机を割らんばかりの力で叩いた大司教パウロス・フラウィウスは、目の前に立つ部下を真っ赤な顔で怒鳴りつけた。

 

「どういうことだ!殺せないだとッ!?」

「は、はいっ!!」

 

青ざめた顔でその男はもう一度報告する。

 

「勇者クロノア様に掛け合いましたが、自分の力では殺せないとのことです!」

「なっ、なにをッッ!!暴風竜は封印できたではないか!!なぜ『笑顔の機械(ラフター)』は殺せんッ!!」

「それが……『今はダメだ』、と」

「今はダメェ!?あのクソ女、舐め腐りやがって!!今じゃなきゃ何時だと言うんだ!!」

 

笑顔の機械(ラフター)』。

()()に付けられた仮初の名前。

 

この百年間、あらゆる組織が()()の正体を解き明かそうと挑み続けた。

そうして得た結果は、何も分からないということが分かった、それだけ。

 

現存するいかなる種族にも当てはまらず、生物であるかすら怪しく、詳しく知ろうとするも洞窟には近づけない。

度重なる「暴風竜」との戦闘で、()()の住処の周りはいかなる生物も生存できない超高濃度の魔素が漂う死の領域と化している。

死の領域はエーテルガルドを中心に、山岳地帯の半分とジュラの森の一部にわたって広がっている。

 

その領域に踏み入った者は一人残らず体内魔素が致死量に達して爆散する。

ゆえに調べようがなく、分からない。

 

これを受けて各国は統一した名前を考え出した。

正体が判明するまでの仮の名。

 

見た目通りに名付けて、『笑顔の機械(ラフター)』 。

 

「チッ!使えないゴミめ」

 

勇者クロノアが暴風竜ヴェルドラを封印した。

瞬く間に世界を駆け巡ったその知らせは、クロノアの名声を不動のものにし、生ける伝説にした。

パウロスは、この流れに乗じてクロノアに『笑顔の機械(ラフター)』を討伐させることで、それを指示し、後押しした西方聖教会の人気と地位を押し上げようと画策していた。

 

笑顔の機械(ラフター)』は暴風竜と違って人間を襲ったことは無いが、いずれにしても「魔物は殲滅」が西方聖教会の教義なのだ。

 

そしてその本命は教会内での出世。クロノアに大金を積み、表向きはパウロスの人徳に感化されたクロノアが『笑顔の機械(ラフター)』討伐に乗り出したという筋書きにして、あたかも勇者と懇意のように見せかけるつもりだったのに。それによって枢機卿の座を狙うのも夢ではなかったというのに。

 

パウロス・フラウィウスは頭を抱える。

 

そんなパウロスに、『笑顔の機械(ラフター)』消失の報が届いたのは、これより三時間後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Walpurgisnacht

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死の領域にほど近いジュラの大森林の境界。

そこを一塊になって移動する若い女性の一団があった。

 

彼女らは魔女。様々な事情があれど、主に研究の果てに、人間から魔人へと進化した女性たちのことである。

 

そして、人間社会では迫害される者達でもある。

教会は言った、彼女らは悪魔の手先だと。

教会は言った、彼女らは魔物と交尾したのだと。

教会は言った、彼女らを殺すことが救いになるのだと。

 

ゆえに魔女らは基本的に、その正体がバレないように全力を尽くすのである。

 

しかし、この一団は運悪く正体がバレてしまい、迫害から逃れるためにファルムス王国からここまで来ていた。

 

逃げ出した魔女の生存率は決して高くはない。

魔物に殺されるか、教会に見つかるか、飢えて死ぬか。

さらに最近では、何者かが魔人を狙って襲い、その心臓を奪っているとの噂も。

 

それでも彼女たちは助け合って、追手が簡単に近づけないこの場所まで彷徨って来た。

 

しかし、彼女たちは知らない。

 

死の領域に近い場所では、その魔素の濃さによって強力な魔物が出現することを。

ランク評価が生まれる前だから知る由もないが、その魔物達は最低でもBランクだということを。

そして今、彼女たちを陰から狙っている魔物の群れは、一体一体がA-ランクだということを。

 

彼女たちは決して弱くない。

 

魔人なのだから、人間よりもはるかに優れた練度、技術で魔法を操ることが出来る。

しかし、それでもA-の魔物は十分に脅威だ。ましてやその群れなんて。

 

彼女らが襲われるまで、およそ12秒。

 

そして、『魔女』が運良くここを通りかかるまでは、残りおよそ5分。

 

 




お読みいただきありがとうございます。

上手く書けていると良いのですが……

明日こそは更新ありませんわよ
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