転生したら「ワルプルギスの夜」だった件   作:十二夜

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ヒナタはweb版に則って丸眼鏡を掛けています。
いや、言いたいことは分かりますよ?
もちろん、書籍版のヒナタのデザインも素晴らしいですとも。
しかしだね君、そのヒナタに丸眼鏡を掛けてご覧なさい。
もうね、爆発だよ爆発。
芸術なんだよ。
こればっかりは譲れんよ。



なるほど完璧な作戦っスねーーっ(以下略)

 

 

小鳥のさえずりが聞こえる。

 

坂口日向(ヒナタ サカグチ)は微睡むような眠りから目覚めた。

 

窓から差し込む朝日に目を細めながら、ヒナタはベッドから身体を起こして小さな伸びをする。

その動作で身体に掛けられていた薄布がするりと落ち、一糸纏わぬ美しい上半身が露わになった。

 

雪のようにきめ細かで白い肌。

ほんのりと赤くてふっくら細い唇。

艶めかしい曲線的な体。

 

その全てがただ一人の前に惜しげも無く晒されている。

 

それを気にも留めず、ヒナタは芳醇な香りの漂ってくる方向に目を向けた。

 

「おや、お目覚めになられましたか?」

 

ニコラウス・シュペルタス枢機卿。

 

神聖法皇国ルベリオスの唯一神聖不可侵たる法皇の懐刀であり、西方聖教会の実質上の頂点に君臨する男。

そしてヒナタだけに愛を捧げ、忠誠を捧げる男。

 

その手に持つ白いカップからは淹れたてのコーヒーがゆらゆらと液面を覗かせていた。

 

「ニコラウス。私だって人間なの。あそこまで乱暴にされると、寝坊の一つでもしたくなるわよ」

「ふふふ、申し訳ありませんヒナタ様。しかし、貴方がそんなお姿をさらけ出されて、それでも私に我慢しろと言うのは少々酷ですな」

 

ニコラウスがコーヒーを手渡す。

小さくカップを傾けたヒナタは、ほっとベッドの上で一息ついた。

 

「さあ、朝食の用意が出来ましたよ。召し上がられますでしょう?」

 

ニコラウスが人の為に朝食の用意まで行うなど、誰にも想像も出来ないだろう。

普段の彼を知る者は皆、ニコラウスの事を聖者の仮面を被った、傲慢で酷薄な男と評するのだから。

 

「ええ、貰うわ。ありがとう」

 

何気なくそう声をかけると、ニコラウスは嬉しそうに頷いている。

 

ヒナタは素早く下着を着け、軽い部屋着に着替えると朝食の席に着いた。

 

二人で静かに朝食を食べる。

それはヒナタにとって、久しぶりに美味しいと思える食事だった。

 

「そうそう。貴方に報告があったのですよ。先程、密偵が届けた情報です」

 

食事を終えて寛いでいると、ニコラウスがヒナタに話しかける。

彼女の気を惹きたくて仕方ないと言わんばかりに。

 

ヒナタは、自慢の黒髪を左右に手串で梳きながら、ちらりとニコラウスを見やる。

 

そして机の上に置かれた丸眼鏡を手に取り、装着すると、

 

「聞こうか」

 

簡潔にそう問いかけた。

 

そこにいるのは、「法皇直属近衛師団筆頭騎士」であり、聖騎士団長の肩書きを持つ凛々しき麗人。

眼には鋭さが宿り、普段の落ち着きと冷徹さを表情に浮かべている。

 

神聖法皇国ルベリオスの切り札――『神の右手』ヒナタ·サカグチ。

 

寛ぐ時間は、終わったのだ。

 

ニコラウスに伝えられた情報。

 

それはジュラの大森林の魔物達の騒乱と、魔物による町の建設。

そして、一部の国が魔物達との交易を開始した、という報告。

 

「なんですって? 魔物は人類共通の敵という教会の考えを根本から覆す事になるわね……」

 

ヒナタの呟きに、頷くニコラウス。

 

「その通りです。どう致しますか?」

「ふむ……そうね……」

 

ヒナタは思案する。

 

叩き潰すのは容易い。しかし、そこに大義が無ければ人心は離れる事になる。

せめて、人と交流する前であれば、教義という大義を以て叩き潰してしまって終わりに出来たのだが。

 

「今は様子見ね。ただし、その町の戦力の調査と、それを潰せるだけの戦力の確保を。教会としては、どこからか要請があるまでは動けないわ。まあ……要請が無ければ要請せざるを得ない状況を作り出すまでよ」

 

そう、ヒナタは結論を下した。

その発言を聞き、ニコラウスは頷く。

 

「子飼いの者に調べさせましょう。教会の『血影狂乱(ブラッドシャドウ)』を動かしてでも!」

 

血影狂乱(ブラッドシャドウ)とは、血に狂った騎士崩れ。

高い戦闘能力を有するが、一般人をも躊躇わずに殺害する殺人鬼で、神と法皇と教会にのみ、その忠誠を誓う数名の狂信者。

 

だが、その腕は超一流であり、教会としても処分出来なかった者達であった。

 

「そう? じゃあ、お願いするわ。精々、人間相手にやり過ぎないように躾は忘れないでね」

「仰せの通りに」

 

ヒナタが微笑んで許可を出す。

 

いくら法皇直属近衛師団筆頭騎士であろうと、ここルべリオスにおいて枢機卿に命令できる存在は法皇を置いて存在しない。

しかし、この部屋ではヒナタこそが女王であり、ニコラウスは女王に従う忠実な(しもべ)でしか無かった。

 

「ところでヒナタ様。実はもう一つ報告があるのですが……」

「なに?」

「ええと……」

 

ニコラウスが言い淀む。

彼自身もその報告をどう受け取れば良いのか、分かりかねているのだろう。

密偵は虚偽の情報を届けない、だからこそに度し難い。

 

なかなか言い出さないニコラウスにヒナタが怪訝な顔をして聞く。

 

「どうしたの? 早く言って頂戴」

「はい……その……東の帝国のシュリスが、滅亡したと……」

「……滅亡?」

「ええ。シュリスに居る人間が一人残らず死んでいる、と。生き残りはまだ確認出来ていないそうです。死者は、1000万には上るとの報告で……『滅亡』と表現するしか無いと」

「全てなの? シュリス全域……全て?」

「はい。報告では」

「………どういう、こと」

 

ヒナタが震える指で丸眼鏡を外す。

 

密偵がもたらす情報の正確さはヒナタも信用していた。

故に、シュリスが滅んだと伝えられたならば、本当に滅んだのだろう。

 

流石のヒナタでさえも動揺が収まらないのか、焦点の定まらない目でニコラウスを見やる。

シュリスが滅びたことが問題なのではない。問題は、何者が、どうやって。

 

「原因は? 何かに攻撃されたの? 魔王?」

「それが……原因は一切不明だと。街に損壊は無く、死体に損傷も無く、まるで何の前振りも無く一斉に絶命したようにしか見えないらしいのです。私も、何がなんやらさっぱりで……」

「……魔女は? 何か関連があるんじゃないの?」

「調査を続けさせていますが、少なくともその可能性は無い、と。正しくは、無いと信じたい、でしょうけれど」

「はぁ………それもそうね」

 

無理もない、とヒナタは思う。

もしこれが何者かの仕業で、ましてや魔女の仕業だとすれば、どっちにしろ人類に勝ち目は無い。

どう足掻いても、シュリスの二の舞になるだけだろう。

 

それが分かっているからこそ、その可能性を考えるだけ時間の無駄なのだ。

死因の特定を急いだほうがよほど有意義な時間の使い方である。

 

「新情報が入り次第、私に知らせなさい。それと、件の魔女は見つかった?」

「まだですね。どうやら魔女は完璧に気配を消しているらしく、見つけるにはもう少し時間が掛かるかと」

「そちらも見つけ次第、私に知らせて頂戴」

「ええ、勿論です」

 

ヒナタは神など信じてはいない。

合理主義者たるヒナタにとって、神を妄信するなど愚かさの象徴でしかない。

しかしそんなヒナタが神の右手、神の正義の守護者であるのはひとえに「正義」のためである。

 

あらゆる魔物を根絶する。

その教義と、それに守られる平和をヒナタは美しいと感じたのだから。

 

(『ワルプルギスの夜』も、魔物の町も。正義の下に、私が直接手を下してあげるわ)

 

水面下で陰謀は蠢く、愉快な悪夢へとまっしぐらに。

 

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

それから、およそ二ヶ月の時が流れた。

 

神聖法皇国ルベリオス。

 

ワルプルギスは、その内部に居た。

 

薄暗い地下深く、そこに存在する「銀月の夜明け団(アルジェント)」本部。

部屋の上座に設えられた玉座に、ワルプルギスは座っていた。

 

目の前にはワルプルギスに跪いて平伏する21人の人間が整然と並んでいる。

 

銀月の夜明け団(アルジェント)

 

三百年前、ワルプルギスの夜の後、しばらくして成立したルミナス教の異端である。

終末思想を説き、ワルプルギスこそがルミナス神に遣わされた滅びの遣いだと考えている。

ワルプルギスによって地上と神の国は一つとなり、ワルプルギスに仕えた人間のみがその世界で永遠の命を得ることが出来ると説く彼らは、もちろんのこと異端宣告と指名手配を受けている。

 

見つかれば、即時処刑は免れないだろう。

 

よって銀月の夜明け団(アルジェント)のアジトは裏社会を通じて徹底的に秘匿されており、その場所も地下の下水道に紛れ込むように建てられている。

 

あの日、シュリスでワルプルギスが見つけたのはまさにそのアジトの一つだった。

銀月の夜明け団(アルジェント)、帝国支部。

 

支部の中でも帝国の支部とイングラシアの支部には、ルべリオスにある本部と行き来するための転移魔法の魔法陣が設置されていた。

 

それを使って、ワルプルギスはシュリスからこのルべリオスの本部まで魔法陣で転移したのだった。

 

その時の信徒たちの反応をわざわざ語る必要も無いだろう。

神の遣いの降臨であった。

 

(思っていたより時間が掛かったな)

《仕方ありませんワ。人間ですもの。むしろ、役に立っただけまだマシですワヨ》

(ま、それもそうだな)

 

ワルプルギスが背負う魔法陣の模様が大きく描かれた壁を背に、ワルプルギスとヨルが会話する。

もちろん、表面上は微動だにしていないため、その会話が気付かれることは無い。

 

現在、銀月の夜明け団(アルジェント)の構成員は全部で22名。

この部屋にはまだ、21名しか居ない。

 

その時、扉が開かれ最後の一人が部屋に入って来た。

そのまま静かに整列の端へと並び、静かにその場に跪く。

 

この部屋で声を発するのは許されていない。

それは神の使徒たるワルプルギスへの不敬と見なされる。

発言権を持つのはただ一人、この団を纏める団長である。

 

「使徒様ッ! 我ら『銀月の夜明け団(アルジェント)』22名、滞りなく使命を完遂致しました!」

 

ワルプルギスの真ん前で跪いていた男が整列から外れ、一歩前に出て報告をする。

 

それを受けてワルプルギスは哂った。

 

『ありがとう。良い働きでしたワ』

「ああッッ! 畏れ多くもお褒めの言葉、光栄の至りでございますッ!! して、次の使命を承りたく!」

『……これ以上はありませんワネ。もう十分ですワ』

「……ッッ!!」

 

団長が驚いて顔を上げる。

その顔には隠し切れない喜色と期待がありありと浮かんでいた。

 

「ということは……我らに『約束』をお与えになると……?」

『そうヨ。ヤクソク』

「っ! あ、有り難き幸せ……! 皆ッ! これで神の国へ行けるぞ! 我々は救われたのだ! おお、主よ! ルミナス神よ!」

 

感極まった団長が立ち上げると同時に、ワルプルギスの言葉を聞いた他の団員も一斉に歓声を上げた。

ワルプルギスに仕えた人間のみが神の国で永遠の命を得る。

彼らはそのためにこの二ヶ月間、睡眠を削ってでもワルプルギスの為に休み無く動き続けたのだ。

 

その働きが報われる時が来た。

彼らは心の底から、たった今永遠の命を約束されたと信じ切っている。

 

ワルプルギスは嗤った。

 

「天にましますルミナス様よ! 御心が来ますように! 我らの罪を――!!」

「hfu青pqbgfd」

「ydmeg希望pweoiz」

 

青色の閃光が一筋走った。

 

首が22個、床に転がっていた。

 

響く音は無く、ただゴトリと頭が転がる音と、頭を失った体が少し遅れて一斉に床に倒れる騒音のみ。

笑ったままの生首に死体から噴き出す血がかかる。

暫くすると、広い部屋は赤黒い血の海に沈むこととなった。

 

ワルプルギスの傍に浮いていた金装飾の片刃サーベルが静かに消える。

 

そのサーベルのたった一振りで、二十二の首は切り離された。

 

(ほら、これで神の国だ。私に感謝しろよ)

《少々、殺すのが速すぎるのではなくって? 人間のルミナス教徒ですのヨ、もう少し甚振(いたぶ)っても良かったでしょうに》

(……天才か?)

《天才ですワ》

(しまったな。やり直せないかな?)

《無理ヨ。まったく、アナタってほんとに馬鹿ですワネ。ワタクシと違って》

(言い過ぎじゃん)

 

やってしまったことは仕方がない。

そう考えて気持ちを切り替えたワルプルギスが玉座より立ち上がった。

息をするような自然さで『戯曲之神(シェイクスピア)』を発動すると、死体と血をまとめて消滅させる。

 

(さて。出来る事はほぼやったし、そろそろ行こうか)

《楽しみですノ?》

(そりゃそうだろ。我らがリムル=テンペストとのご対面だぜ?)

 

この二ヶ月間、ワルプルギスは銀月の夜明け団(アルジェント)のアジトを各国の至る所に増設させた。

そして、その全てに転移魔法の魔法陣を設置させている。

これで準備は整った。

合計で38か所、ワルプルギスは一切の人目に付かずに一瞬で大陸中を移動できる。

 

ワルプルギスは部屋の中央に立ち、床の魔法陣を起動する。

魔法陣が一瞬光ったかと思うと、次の瞬間には転移魔法が発動していた。

 

ワルプルギスが消える。

 

部屋に静寂が戻った。

 

そこに生命の温もりは、無かった。

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

「ようやっと見つけたで! ワイの勝ちじゃボケェ!!」

 

ソファーにて寛ぐユウキの前で、ラプラスが吠える。

 

突然部屋に現れたと思ったらその場で小躍りを始め、そして今は両の拳を天に突き上げているラプラスを見てユウキは苦笑いを零した。

 

「どうしたんだい? 君にしてはやけに時間が掛かったじゃないか」

「あんの腐れ魔女、気配の消し方が尋常やない。この二か月間、ワイがどんだけ走り回った思うてんねん。朝飯前かと思いきやどっこい、朝飯どころか夕飯後やったわ!」

「あははは! 愉快な言い回しだ!」

 

享楽の道化(ワンダーピエロ)』ラプラス。

 

左右非対称の人を舐めたような仮面を被った道化は、得意そうに胸を張って一回転すると、ユウキに向かって深くお辞儀をした。

 

「このラプラス、仰せの通りに魔女の居場所を探って来ましたわ。今なら単体で行動しとります、行くなら今の内やで」

「うん。すぐに出るよ」

「それはそうと、ホンマに戦う気なんかいな?」

「いざとなったらね。どうして?」

 

ユウキがラプラスの顔を見る。

彼がユウキにそんなことを聞くのは、初めての事だった。

 

「いやあ、アレは強いなんてもんやないですわ」

 

ラプラスの声に、僅かな真剣味が混じる。

ラプラスはお道化た動きをしながらも、仮面の奥の目は真っ直ぐにユウキを見つめていた。

 

「アレはワイの理解を超えとる。相手をするんやったら、くれぐれも気を付けるんやで……ユウキはん」

「………分かったよラプラス。約束する」

 

「でも」、ユウキは立ち上がるとラプラスの肩に手を置いて、その目を見つめ返した。

 

「どうせなら、面白い方が良いじゃないか!」

 

屈託のない笑顔で、そう言った。

 

「フッ、あんたはそういうお人やったな」

「安心しなよ。僕って強いからさ」

「分かっとりますわ、んなこと」

 

中庸道化連。

何でも屋を自称する道化の格好をした魔人の集団。

そして、世界征服を最終目標とするユウキを戴いて共に歩む暗躍の組織。

 

「じゃ、行ってくるよ」

 

カガリとラプラスに見送られ、ユウキ・カグラザカは部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

ほんとは今回でリムルと出会う予定だったんだよ……信じて……。

それはそうと、次回はワルプル戦闘回だぞ!
お前らああああああああああああああああああああああ!!!!久々に無双するワルプルギスを読みたいかあああああああああああああああああ!!!!!?????

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