転生したら「ワルプルギスの夜」だった件   作:十二夜

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ユウキもヒナタもまどマギを知りません。
ユウキは名前だけなら聞いたことがあるぐらい。
ヒナタは完全に知らん。



降る星の獣

 

遥か太古にジュラの大森林にて繁栄を享受し、誰の記憶にも残らないまま大昔に亡んだ文明。

 

その文明が遺した遺跡の地下から、ワルプルギスは現れた。

 

テンペストまで少し距離はあるが、高速で移動すればそれも誤差のようなものだ。

これ以上近付けば、いくら緻密に隠蔽された魔法陣といえど、リムルに察知される可能性が高まる。

リムルというか、『大賢者』にだが。

 

地下から現れたワルプルギスは、しばらく動かずにその場に留まる。

誰かと念話で話しているようだったが、この場にはワルプルギス以外に生き物は居ない。

その顔は、何も無い地面を見つめていた。

 

(……まあ、良いだろう。よし、それじゃテンペストに行こうか)

《連れて行きますノ? 本当に?》

(仕方ないだろ。役に立つかもしれないし)

 

ワルプルギスは顔を上げると、テンペストの方角を向く。

そして一気にひとっ飛びしようとした時だった。

 

「やあ。こんにちは」

 

誰も居ないはずの背後から、唐突に少年の声が響いた。

 

ワルプルギスは振り返ると、その人物を見て微かに動揺する。

しかしそれを表面には出さず、落ち着いて身体ごと動かすとその人物と対面した。

 

黒髪黒目で、まだ少年のような外見。

それなりに整った顔立ちの、幼さを残す容姿。

一目で異世界人と分かる特徴に、しかしワルプルギスはそれ以上の特徴を認めた。

知らないはずも無い。

 

「初めまして、僕は――」

『ユウキ・カグラザカ、でしょう?』

「――驚いたよ。僕を知っていたのかい?」

『エエ。とても良く、ネ』

「ふぅん?」

 

出鼻をくじかれたユウキが興味深そうにワルプルギスを観察する。

 

不可思議な存在だった。

人間とも魔物とも違う姿。既存の種族のいずれにも該当しないのは確かだろう。

およそこんな生命が自然発生したとは考えられない。

まるで、全く別の世界からやってきたような、そんな歪さ。

 

「それじゃ、僕は君を何と呼べば良いのかな?」

『ワルプルギス。ワタクシの名ですワ』

「オーケー。改めて、僕はユウキ・カグラザカだ。ねぇ、ワルプルギス」

 

にこやかな笑顔で、ユウキが問いかけた。

 

「世界征服に、興味は無いかい?」

 

ユウキは予めワルプルギスの行動目的について幾つかの予想を立てていた。

その中で最も単純かつ筋の通っている目的が、世界征服。

次点で世界破壊もあるが、それはユウキの目的と真っ向から反するため、その場合は作戦を練り直さなければならなくなる。

 

「君の目的は世界征服なんじゃないのかい? だとしたら僕たち、協力し合えると思うんだよね」

『協力? ワタクシとアナタが?』

「そうさ! 僕たちの目的は同じだ。君は僕の為に敵を倒す。そして僕は君の為に作戦を立ててやる。悪い話じゃ無いだろう?」

『………』

「僕には人脈も地位もある。多少の事なら揉み消せるし、君もグッと動き易くなるはずだぜ?」

『……世界を征服した後は、どうするおつもり?』

「僕たちは面白可笑しく暮らすさ。君は君の好きにすれば良い」

 

そしてユウキは言い放った。

 

「そのために、世界の半分を君にやるよ」

 

極めて傲慢に、ユウキが笑う。

世界が己の手中に入るとまるで疑わずに、ユウキはその手をワルプルギスに差し出す。

 

「さぁ、この手を取れよワルプルギス。僕たちで世界を手に入れようぜ」

 

そんなユウキに釣られて、ワルプルギスも笑みを零す。

 

そしてはっきりと言った。

 

『嫌ヨ』

「……へぇ」

 

ユウキの顔が引き攣る。

差し出していた手を引っ込めると、後ろ手に組んでワルプルギスに問う。

 

「どうしてだい?」

『ソウネ……』

 

今度はワルプルギスが、にこやかな笑顔で答えた。

 

『ワタクシの世界に、人間は要らないワ。少なくともアナタは』

「なるほど。次点の方だったか」

 

ユウキもまた笑顔を崩さずにポツリと呟く。

両者の間に目に見えぬ火花が飛び散り、周囲に一気に緊張感が漂い始める。

 

「交渉はご破算か。残念だなぁ」

『残念でしたワネ』

「しかも君は僕の世界を壊したいと来た。僕の敵だね」

『だったら、どうするノ?』

「だったら――今からは実力交渉だ」

 

その言葉が切っ掛けとなり、ユウキが地面を蹴って飛び出す。

右手を伸ばしてワルプルギスに触れ、間髪を入れずにユニークスキルを発動する。

 

「君のこと、支配させてもらうよ!」

 

ユウキは複数のユニークスキルを持っている。

 

ユニークスキルを生み出すユニークスキル『創造者』。

カザリームの能力から創造したユニークスキル『支配者』。

ヒナタのスキルを解明して得たユニークスキル『強奪者』。

 

まさに天才の名に相応しい、圧倒的な力。

 

しかし言うまでも無く、ワルプルギスの前には『無』と相違なかった。

 

究極能力(アルティメットスキル)で無ければ、ワルプルギスに対しての攻撃すら成立しないのだ。

 

「ッ!?」

『ワタクシに触らないで頂戴。これだから人間は困りますワ』

 

ユウキの足元の地面が一瞬で溶岩となって爆ぜる。

ユウキは素早くその場から離れると、続けて飛来する炎の槍を両手で受け止める。

 

「僕にスキルや魔法は効かないよ、封殺能力(アンチスキル)を――は?」

 

炎を受け止めたユウキの両手は、腕に至るまで炭化していた。

 

「――ッッ!?」

 

追撃を横に転がって避けたユウキは、スキルの力で腕を再生する。

だが、消し炭にされた激痛はすぐには無くならない。

 

ワルプルギスはまだ、その場より一歩たりとも動いていない。

 

「……スキルを使わずに、これ? 良いね。面白くなって来た!」

 

瞬間、超人の如き身体能力を有するユウキの身体がブレる。

 

大回りに刈り取るような蹴りがワルプルギスを直撃するが、微動だにせずに弾かれる。

続けて拳での殴打、止まらぬ猛攻がワルプルギスを襲うがそれらも傷一つ付けられずに全て弾かれる。

 

ユウキの能力は奪うという事に特化している。

本来ならば、敵のエネルギーを奪うと同時に自らの攻撃に回せる攻防一体の能力なのだが、そもそも奪えないこの盤面においては毛ほどの役にも立たなかった。

 

「冗談だろ!? 硬すぎないかなあっ!?」

 

一向にダメージを与えられないのを見て、一度距離を取って立て直すユウキ。

だがその隙をワルプルギスが見逃すはずもない。

 

「oqi赤euif」

「vrnt希望uruw」

「っ!」

 

神速で突き出された槍を、ユウキはほぼ直感的に紙一重で避ける。

しかし完璧には避け切れず、掠った左肩が骨ごと粉砕される。

あと数ミリ深ければ、ユウキの左腕は肩から落ちていた。

 

使い物にならなくなった腕を見て、ユウキは一筋の冷や汗をかく。

 

「それ……まさか究極能力(アルティメットスキル)なのかい?」

『正解ですワ。素敵でしょう?』

「チィッ!」

 

ワルプルギスが一本の赤い槍を優雅に構える。

かと思うと、槍の柄が複数に分裂して間合いの外からユウキに穂先が迫って来る。

 

ユウキは死に物狂いでその一撃を受け流すと、槍の破壊を試みた。

だが、突き出した拳は槍の柄と柄を繋ぐ鎖に直撃したかと思うと、ユウキの手から骨が軋むような音が響く。

 

「多節棍のくせに……こっちも硬いのかよ!」

 

地面当たって跳ね返った穂先が、不規則な軌道を描いて再度ユウキに迫っていた。

それをユウキは再び受け流す。

その代償に、またもやエネルギーがゴッソリと減る。

 

一方的、なんてものではない。

 

槍のリーチの長さに加え、多節棍の伸縮性と縦横無尽さにユウキは防御に全力を傾けざるを得ない。

左腕を再生する時間すらない猛攻撃。例え一度でも判断を誤れば、その時点で死が確定する。

赤い穂先に触れようものなら、問答無用にユウキの身体が爆散するのは予想に難くない。

 

その状況下において、片手で捌き続けるユウキをむしろ称賛するべきなのだろう。

だが、それも終わりが近づいてきていた。

 

「――ッッ!……っ…ッ!」

『アラ。余裕が無くなってきていますワネ』

 

ワルプルギスは未だ、その場から一歩も動いてはいない。

 

対してユウキは、既に瀕死に近かった。

滲む汗には血が混じり、肺が酸素を求めて大きく喘ぐ。

 

(マズったなぁ……ここまで理不尽だなんて)

 

ユウキが心の中でそっと後悔する。

未だ勝ち筋は一つも見えず、天才的な頭脳は完全に置物と化している。

 

(負ける……よね? 死ぬ……よね……? 僕はここで……)

 

ワルプルギスが何を考えているのかは分からないが、この状態で先程の炎の槍を一本でも撃たれたなら、その時点でユウキは詰む。

これ以上の処理は不可能、今ならばどれ程弱い攻撃だろうと、ユウキにとっては致命傷に成り得る。

 

ワルプルギスに、手を出すべきでは無かった。

 

(でも……でもさぁ)

 

ユウキが笑う。

嗤うワルプルギスを見据え、ユウキは楽しそうに歯を剥き出す。

 

「ここで僕が勝ったら、凄く凄く面白いよねッ!!」

 

そう考えるだけで、身震いするほどの興奮が齎される。

 

その天才性を以て、ユウキはこの世界の限界を突破している。

魔人の身でありながら、既にユウキの力は魔王に匹敵していた。

 

そして今、ユウキに祝福が訪れる。

 

《確認しました。究極能力(アルティメットスキル)強欲之王(マモン)』を獲得・・・成功しました》

 

世界の声が響き渡る。

 

この日、この時、この場所で。

 

最悪の魔人が誕生した。 

 

「ア……ハハ! あっはっはっはっは!!」

『アラアラ』

 

今までとは比べ物にならない速度で動いたユウキが、襲い掛かる槍の柄を掴む。

 

究極能力(アルティメットスキル)強欲之王(マモン)』。

それは、奪うことに究極特化したスキル。

 

ユウキに掴まれた槍は、押せども引けどもビクともしない。

いつの間にか左腕も完治していた。

 

ユウキは槍を奪おうと両手で柄を引っ張るが、しかしその前にワルプルギスが能力を解除したことで槍が消える。

 

「……まあいいさ。崖っぷちギリギリって所かな。さて、ワルプルギス。続けようか?」

 

口ではそう言いながら、ユウキは短期決着を目論んでいた。

 

ユウキは究極能力(アルティメットスキル)に目覚めたが、エネルギーは回復していない。

故に新しく手に入れた『強欲之王(マモン)』の絶対的な支配の力、それを使って一気に勝負を決める。

 

ユウキは音も無くスッとワルプルギスの背後に移動すると、その背に手を添える。

 

勝った。

 

その確信を以て、ユウキは勝ち誇った笑みでスキルを使用した。

 

奪心掌(オーバーライト)

 

奪う。

 

ユウキが奪えるのは、命だけでは無い。

命、能力、そして心さえも。

例え魂に刻まれた忠誠心があろうとも、魂の情報の書き換えを行う事により、自身に対する忠誠心を植え付ける事も可能とする。

それこそが、究極能力(アルティメットスキル)強欲之王(マモン)』。

 

ワルプルギスの身に、スキルが通る。

 

心を奪う能力が通じる。

 

通じて、しまう。

 

「…………………………ぁぎ?」

 

ワルプルギスの魂に触れたユウキの口から、呻き声が漏れる。

 

ユウキは触れてしまった。

愚かにも、触れて、見て、覗いてしまった。

 

ワルプルギス。

 

一つの世界にも匹敵する、呪いを。

 

それは、穢れ。

 

ヨル。

グリーフシード。

呪い。

悪夢。

悪意。

忌まわしき全て。

悪。呪詛。悪意。悪心。邪心。魔女。殺意。害心。悪夢。冒涜。絶望。邪気。恐怖。醜悪。混沌。怨念。猛毒。遺恨。深淵。暗黒。憎悪。狂気。悪心。邪心。殺意。害心。悪夢。冒涜。絶望。魔女。邪気。恐怖。醜悪。混沌。魔女。怨念。猛毒。遺恨。深淵。暗黒。悪。呪詛。悪意。悪心。魔女。邪心。殺意。害心。悪夢。冒涜。絶望。邪気。恐怖。醜悪。混沌。怨念。猛毒。遺恨。深淵。暗黒。憎悪。目。目。目。目。目。目。目。目。目。瞳。眼球。目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目こちらを見ている目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目悪意目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目魔女目目目目目目目目目目目目絶望目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目呪い目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目見ている目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目悪意が。目で。

 

眼が。

 

見ていた。

 

「ぐゅぎ」

 

ユウキは咄嗟に手を離した。

 

「ギィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!! あ、ああああア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!!!!!」

 

両手で目を覆い、ユウキが絶叫する。

 

あと数瞬でも長く触れていたら、ユウキ・カグラザカの魂は忌まわしい穢れになっていただろう。

 

だが、あくまでもそれは魂が穢れなかったというだけで、覗いて、刻まれてしまった呪いは消えない。

 

心が、音を立てて折れた。

 

ユウキの顔に初めて、恐怖の色が浮かんだ。

 

「な、なんだよお前は……や、やめろ! 来るな! 僕の傍に寄るなあ゛っっ!!」

 

立ち上がることさえままならず、ユウキは地に這い蹲って後ずさりする。

そんなユウキを興味深げに観察するように、ワルプルギスは初めてその場を動いた。

 

「止めろぉ! とまれッ止まれ! 来るな!あ、ああくるな゛! たす、たすけあああ、くるな! いやだ!いや!」

 

攻撃することも忘れ、ユウキはまるで子供のように腕を振ってひたすらに逃げる。

 

眼は焦点を定めず、口端から涎を飛ばしながら、一心不乱に後退る。

 

「euo青rpad」

「cuwc希望ueyvg」

 

ワルプルギスが試しにサーベルを薙いでみる。

 

一切の抵抗無く、刃はユウキの右腕を切り飛ばした。

 

「ああ! 死に、死にたくない! 僕は死ねない、ここでは死ねない! 魂を穢されるのは嫌だ、あんまりだ! 嫌だ!嫌だッ!」

『つまんないですワネ』

 

傷を押さえながら、狂ったようにユウキが叫ぶ。

 

抵抗する意思の失せた人間ほど、価値の無いものはない。

ワルプルギスは面白くないようにユウキを見下ろすと、サーベルを真上へ振り上げた。

 

《ねぇ、殺しましょうヨ》

(でもなぁ、ここでユウキ殺すと後々なぁ……)

《良いじゃないノ。ワタクシ達なら何とかなりますワヨ》

 

ワルプルギスは再度、喚くユウキをちらりと見やる。

 

(うーん……分かったよ。じゃあ、殺すか)

 

サーベルが容赦なく振り下ろされ。

 

瞬間、七色の虹が放たれた。

 

『……アラ?』

 

それは、超高速の刺突技。

虹を引いてワルプルギスに突き立てられたレイピアはしかし、例の如く無傷のまま弾き返される。

 

「おかしいわね。この結界に囚われた魔物は例外なく死ぬか弱体化するのだけれど。貴方、魔物じゃないの?」

 

ワルプルギスに言葉を投げかけ、正面から一人の人物が歩いて来る。

 

艶のある美しい黒髪を肩口に届かぬ程度に切りそろえ、左側を後ろに撫でつけ、右側は目を隠さぬ程度に流している。

鼻の上に小さな丸眼鏡を載せ、ぞっとするほに冷たい瞳の中に、理性の輝きが瞬いている。

 

ヒナタ・サカグチ。

 

「っ! ひ、ヒナタ! ああ良かった!やっぱり君は最高だよ!」

 

ヒナタの登場で正気に戻り、少し落ち着いたのか右腕を再生しながらユウキがヒナタの所へ急いで駆けていく。

ヒナタはユウキの姿を認めると、怪訝そうに口を開いた。

 

「久しぶりね、ユウキ。でも貴方……その力……?」

()()()()()()()()()()、ヒナタ。()()()()()()()()()()!」

「………ええ、そうね。()()()()()

 

ユウキに話しかけられた瞬間、ヒナタの顔から怪訝な表情が消える。

そしてワルプルギスにレイピアを向けた。

間合いを測りながら、ヒナタはゆっくりと距離を詰める。

 

「神と法皇と正義の名の下に、貴方を殺すわ。魔女さん?」

『ワルプルギスと呼びなさいナ』

 

ワルプルギスはサーベルを消すと、嗤って両腕を広げる。

 

背中の魔法陣が点滅した。

 

(丁度良かった。これで試せる)

《エエ。分かっていますワ》

『来てくれて感謝致しますワ、ヒナタ。試したい事があるのだけれど、そこの情けないユウキ相手には使いづらくって』

 

ワルプルギスが嗤う。

 

それを見たヒナタとユウキは、瞬時に直感に従って防御の姿勢を取った。

それが、二人の命を救った。

 

 

『出て来なさいナ、ステラ』

 

 

――次の瞬間、ワルプルギスの魔法陣から皮と骨だけの巨大な細長い腕が飛び出した。

 

「ゴガァ――――――――!!!!」

 

咆哮。

 

同時に、四本指の腕が横薙ぎに振るわれる。

 

その衝撃波に、まず地表が捲れ上がった。

 

森の一帯を吹き飛ばし、ヒナタの張った結界を力尽くで破壊する。

 

腕が薙がれた後には、星雲のような淡く輝く物体が軌道上に残っていた。

 

一拍、それらが大爆発を引き起こした。

 

「ぐぅ……ッ!」

「これ、は……!」

 

大地を削り取って、星雲の大爆発が吹き荒れる。

 

それが収まり、ヒナタは恐る恐る辺りを見回した。

 

辛うじて踏み止まった二人の周りは、巨大なクレーターとなっていた。

 

「ガルルル…………」

 

魔法陣から、ステラがその巨体を現す。

 

腕が現れ、頭が現れ、胴が現れ、後ろ脚と尻尾が魔法陣より出でる。

 

「おいおい……冗談じゃないよ……」

「嘘、でしょう……?」

 

それはもはやプードルなどでは無かった。

威厳のある狼ですら、ステラの前では余りにも弱く見える。

 

全長50mを超える巨体。

四本の脚は細長く、指の先には長くて丸い鉤爪が付いている。

牙と爪は鋭く尖り、触れただけで引き裂かれるのは想像に難くない。

 

だが、それらが霞むほどの特徴がある。

 

その身体は、宇宙だった。

 

頭部に至るまで身体は黒く透き通り、その中に無数の星と星雲が散りばめられている。

 

そして頭頂部から背骨のある位置を通って尻尾の先を貫くように、一つの彗星が体内を流れていた。

 

「―――――――――!!!」

 

咆哮が世界を震わせる。

 

同時にワルプルギスは能力を使用した。

 

太陽が消え、夜が世界を覆った。

 

遠吠えの先には、半月が輝いている。

 

ステラ。

 

道化役者の乗るプードルは、ワルプルギス自身によって名前を得た。

 

その瞬間に、ステラは自らの存在意義を定めた。

 

分け与えられた力は、「重力」。

 

ステラは夢見て眠りに付く。

 

その名に相応しい存在へと。

その主に相応しい存在へと。

 

その名を体現する、夢見た存在へと。

 

願いは聞き届けられた。

 

「魔女の使い魔」は進化した。

 

地を這う蟻がいくら手を伸ばそうと、遥か天高い星には決して届かぬように。

 

地を這う蟻を叩き潰す為に、遥か暗黒から地上へ墜ちて来る星と同じように。

 

降る星の獣、ステラ。

 

体内を貫いて流れる彗星は、かつてステラが見仰いだ凶星そのものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

降る星の獣でエルデンリングやん、と思ったそこの君!
違うんだよ……。
パクるつもりは無いんだよ……事故みたいなもんっていうか……これ以上に相応しい二つ名が思いつかなかったというか……。

ステラの外見はクソでっかいハンターハンターのミケを想像していただければ。
それが宇宙化してんの。

クッソ強いよぉ、コイツ。
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