転生したら「ワルプルギスの夜」だった件   作:十二夜

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そういえば章タイトルを楽劇から仮面劇へ変更しました。
楽劇は壮大なのでね、最終章に使いたいですからね。この章は仮面劇が相応しいかなって。
バレるね、無計画さがね。



逃げたら一つ、進めば二つ、奪えば全部ゥ!

 

「お前さ……『ワルプルギスの夜』らしいことは全部出来るってわけ?」

 

明るい満月の光に照らし出された深夜のイングラシア。

淡い光に浮かび上がる王都ルーラの街並みの中を、二人は気の向くままに散策していた。

 

『出来ますが』

「おっ、なら使い魔とか出してくれよ」

『先にスターバースト・ストリームを見せてくれたら良いですよ』

「おめぇそれキリトじゃねぇか……。え、本気(マジ)? やれと? 今?ここで?」

 

紙に書かれた文字に頬を引き攣らせながらも、しょうがねえなぁとカズトは適当に剣をブンブン振り回す。

明らかに恥ずかしがっている。

だが、ワルプルギスも本気ではない。冗談で言っただけに過ぎなかった為、別にそれでも良かった。

 

だが何故なのか、逆にカズトの方が自分に納得できなかった。

 

謎に吹っ切れて、一度動きを止めた後に短刀を抜いてご丁寧に二刀流になったカズトは、やり直しだと言わんばかりにキリッとした表情で叫ぶ。

カズトは漢だった。

 

「うおおおおお!! スターバースト・ストリーム!!!」

 

二刀が舞う。

 

紛れもない近所迷惑である。

人のいない夜だからギリ許された。

もし昼ならば、通報からの連行待ったナシである。

 

「……なに笑ってんだよ。なんだよ。男なら一度は本気でスターバースト・ストリームしたくなるだろ」

『なり……なりませんけど。うわあ恥ずかし』

「おめぇがやれって言ったんだろォ!?」

 

ワルプルギスが笑う。

笑う方法は一つだけじゃない。笑い声を出せなくったって、笑う事は出来るものだ。

 

ふわりと。

ワルプルギスから夜の香りがした。

 

「んで、早く出しやがれ。使い魔なら何でも良いぞ」

『もう出してますよ。足元です』

「んん……? おわっ!? 踏み潰されるウサギ!踏み潰されるウサギじゃないか! すげーーー!」

 

足元をトコトコ歩き回っているアカハナをカズトが抱き上げる。

 

画面の向こう側にしか無かったキャラクターが、こうして目の前に存在するのだ。

カズトのテンションが上がるのも無理はない。

よく考えなくともワルプルギスもそういう存在ではあるのだが、カズトにとっては例外であった。

中身が違うためである。

 

そう、中身が。

 

「……俺はさ、夜が好きなんだよな。特に星空」

『どうしました藪から棒に』

 

アカハナを抱えながら、何を思ったのかカズトが先程とは打って変わってしんみりした口調で言う。

 

「いや、特に意図はねぇけどさ。お前、もう百年ぐらい生きてるんだろ? そしてこれからも数千年は生きる。それに比べたら俺なんてすぐ死ぬよなって」

『そりゃカズトは人間ですから。私と比べるのはお門違いですよ。人間からすれば、百年でも十分に長い』

「でも、お前も人間だったんだろ? そして今も、心は人間だ。人間は数千年という時間に耐え得る精神を持たねぇよ」

『………どうでしょうね。私を心配しているんですか?』

「そうだな。俺は百年かそこらで死ぬ。お前はいつ、死ぬんだろうな」

 

この会話で、カズトにこれといった意図は本当に無かった。

ただその場で思ったことを思いついたままに喋っているだけである。

 

しかし、だからと言ってその言葉の重みが変わる訳でも無かった。

 

この世界では、日常と死との距離は驚くほどに近い。

日々、死を見据えなければ生きていけない程に。

 

「俺は、星空の下で死ねるならそれで良い。加えて月が綺麗なら言う事ナシだ」

『おや、随分とロマンチストじゃないですかキリト君』

「うっさいやい。お前はどうなんだよ」

『私は……さぁ、遠い未来の事ですから』

「遠い未来でも、いつかは来るもんだぜ」

 

もしかしたら、カズトにはもう見えているのかもしれなかった。

あるいは、この世界に馴染んだ瞬間から、ずっと。

この世界では、命は恐ろしい程に軽いのだから。

一度失われれば、二度と戻れないのにも関わらず。

 

「最期に見たい景色ぐらい、考えておいた方が良いってもんよ」

 

なぜ今この会話を思い出したのか、ワルプルギスにも分からなかった。

 

だが、恐らく。

 

きっと。

 

きっと、カズトの墓を見たからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーラの郊外、人のほとんど寄り付かない端の端。

外壁が一部崩れて出来た穴を通り、そのまま林を真っ直ぐに抜ける。

途中にある二つの川を越え、更に林の深くに入って行く。

 

木々を抜けた先に、その丘はあった。

 

《ここですワ》

 

誰もいない、広く、なだらかな丘。

広がる草原は月白に染まり、風が静かに吹いていた。

遠くに鳥の鳴き声は無く、花も無く、木も無い。ただ草と、空と、風だけ。

 

丘の頂に、小さな墓があった。

 

夜の風が、無数の草を波のように揺らしていく。

背丈ほどある草々が、なびいては重なり、またほどけていく。

 

草原の端には、白い石が散らばる崖があり、その向こうには、透き通るような星月夜がある。

風が草を押し、空と地面の境目が霞んでいた。

 

確かにここならば、星が良く見えた。

 

『久しぶりだな、キリト君』

 

変装の腕輪を外し、ワルプルギスは念話を送る。

誰にも届くはずのない念話だが、無性にそうしたかったのだ。

声に出せない会話の代わりに。

 

『私は元気だ。死にそうな気配も無い。あー、「ワルプルギスの廻天」の小説をありがとう、楽しく読ませてもらっているよ。それにしても、良い景色じゃないか』

 

墓に近付くと、ワルプルギスは何処からともなく二本の酒を取り出す。

 

一つは発泡酒、一つはワイン。

 

どちらもテンペストから持ってきた代物だ。

 

小さな墓を見下ろながら、瓶の栓を抜く。

 

簡素な墓には、()()()()碑文が刻まれていた。

 

<おはよう、友達。加えて念のため、"こんにちは"と"こんばんわ"も>

 

酒を墓石に振りかけながら、ワルプルギスは墓の前の地面に白っぽい石が散らばっている事に気が付いた。

大小様々に、かなりの数が落ちている。

随分と風化しているが、それは紛れもなく人骨の破片だった。

 

『……洒落た最期だな。本当に星空の下で死んだのか』

 

カズトはあの日、自らが作った墓の前に寝転がったのだろう。

そして夜空を見上げた。脈打つような夜空を。

半月と、無数の星を。

 

彼はその景色を見続けたに違いない。最期の一呼吸が途切れるまで。

 

果たして、ワルプルギスの胸中に去来した感情は何だったのか。

 

『私にはどうも思い付かないな。最期の景色が』

 

思い付くはずも無かった。

 

魔女に、その必要は無いのだから。

 

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

《解。(マスター)は既に、魔王種の条件を満たしています。魔王への進化に必要な条件(タネのハツガ)には人間10,000名の生贄(タマシイ)が必要です》

 

大賢者のその言葉を聞き、リムルは決心した。

 

魔王になる。

そうすれば、3%の可能性でシオン達は蘇生される。

 

エレンは自分の素性を打ち明け、最後までリムル達の味方をすると決めた。

リムルも、エレンの話を聞いて魔王になることを決めた。

 

後三日もすれば、ファルムス王国率いる敵の本隊が攻めて来る。

それら全てを殺し尽くせば良い。

 

状況は確認出来た。

後は、実行するだけだった。

 

暗かったリムルの瞳に希望が戻って来る。

 

皆を集めて、今後の打ち合わせをしよう。

 

そう思ったリムルがシオン達の死体に背を向けた瞬間だった。

 

死を見た。

 

「なんですか? これ」

 

いつの間にか、ウサギのぬいぐるみがリムルの横に立っていた。

 

静かな声だった。

にもかかわらず、その声は刃物の如く肉を剃った。

静かな、怒りだった。

 

「フール師匠……」

「ミリム様がなぜかクレイマンに操られているフリをしているので、一言知らせようと思って来たのですよ。それで、何ですか、これは」

「……俺のミスです」

「そんなことはどうでも宜しい。何故、私の弟子が、死んでいるのです?」

 

リムルはフールに全てを話した。

 

ヒナタに襲われ、間一髪で逃れたこと。

その間に、町が襲われていたこと。

下手人は、住民に扮したファルムス王国の兵士だったこと。

そして、自分が「人を殺してはならない」という決まりを作ったせいで、皆が死んだこと。

 

それを聞いたフールはしばし黙り込んで、

 

「その下手人たちの中に、赤い模様の入った白服を着た男はいましたか?」

 

そう訊ねた。

 

「そういえば……ベニマルがそんなことを言っていたような……」

「ならばそれは血影狂乱(ブラッドシャドウ)ですね。聖教会の狂人共ですよ……まったく愚かな……」

 

ミリムの腕に抱かれてあっちこっちに行っている分、フールはこの世界の闇の部分に関する知識も豊富だった。

 

フールはしばらくシオンの死体を見つめていたが、おもむろに顔を上げるとリムルと目線を合わせた。

 

リムルは思わず冷や汗を垂らす。

 

その視線は、間違いなく人を射殺せる力を持っていた。

 

「人を殺してはならない、など。貴方は愚かです、リムル様。この程度の事態は、予想してしかるべきだった……とはいえ、過去を悔いても仕方がありません。リムル様、貴方は魔王になられるおつもりですか?」

 

リムルの覚悟を測るように、フールの視線はリムルを捉えたまま離さない。

 

リムルは躊躇なく答えた。

覚悟なら、とうに出来ていた。

 

「ああ、そうすればシオン達が生き返るかもしれないからな。可能性があるなら、何でもする」

「そうですか……結構。では、貴方に必要な分だけ残して、それ以外のファルムス王国の国民は私が斬っておきましょう」

「うえっ!?」

 

ファルムス王国の全国民を斬る。満足げに頷いた後、フールは何でもない事の様にそう言ってのけた。

 

これには流石のリムルも仰天した。

エレン達は先程から抱き合って震えている。

 

出来る出来ないの話ではない。

フールならばやる。

だが、ここでファルムス王国に滅亡されるのは、リムルにとっては都合が悪かった。

 

「フール師匠、それはちょっと困るっていうか……」

「そうですか。では、止めておきましょう………。そうですね、ルべリオスはどうです?」

「え?」

「ルべリオスでも、困りますか?」

「それは別に良いけど……」

 

その言葉を口に出した瞬間、リムルは少し後悔した。

 

フールが嗤っていたからだ。

 

誰に似たのか、頬を限界まで吊り上げ、嬉しそうに嗤っていた。

 

「嗚呼、素敵です」

 

その視線は既にこの場を視てはいなかった。

存在しない瞳で、フールは「仇」を視ていた。

 

「では、私はもう行きます。そうそう、ミリム様の奇行についてですが、ミリム様はクレイマンに操られたフリをしているだけです。満足するまで、騙されてあげるのが宜しいかと。それでは」

 

そして挨拶もそこそこに、フールはその場から消えた。

 

「……クレイマン?」

 

後に残されたリムルは、首を傾げるばかりだったが。

 

 

 

 

 

 

リムルが会議室に向かうと、既に幹部は全員集まっていた。

 

ヨウムとミュウラン、グルーシスに関してのひと悶着があった後、リムルは何かが足りないことに気付く。

 

そういえば、一人だけ居ない。

 

「ワルプルギスはどこだ? まさか、知らせていないのか?」

「いえ、先程知らせました。今はここに向かっている最中かと――」

 

ソウエイの言葉が言い終わらぬうちに、会議室の扉をくぐってワルプルギスが入って来た。

顔が半分しか無いため、表情なんて有ってないようなものだが、それでもその口元は後悔の感情に彩られているようだった。

 

『ゴメンナサイ、リムル。ワタクシがもっと早く戻って来ていれば……』

「良いさ、謝ることじゃない。元々俺の責任なんだ。さて、皆集まった所で改めて俺の考えを話そうと思う」

 

そう言って、リムルは部屋の中を見渡す。

誰もが表情を引き締めてリムルを見ていた。

 

「俺は魔王になろうと思う」

 

リムルのその言葉で、作戦会議は始まった。

 

………

 

……

 

 

話し合いの結果、リムルが一人で侵攻してくる軍を相手取ることになった。

もっとも、話し合いとは言っても反対意見などほとんど出なかったが。

 

ワルプルギスは万が一の時の為にこの町を守れるよう、この場所に残ることになった。

 

そして唯一、ハクロウだけが。

 

「リムル様。少し良いじゃろうか?」

 

今まで壁に背を預けて成り行きを見守っていたハクロウが、初めて口を開いた、

リムルは頷いて発言を許可する。

 

「ここを襲った連中……血影狂乱(ブラッドシャドウ)じゃったか。奴らはもう一度来ると儂は考えておる。本軍と衝突し、テンペストが手薄になったタイミングでのう。恐らく今も、この付近に潜んでおるはずじゃ」

 

その言葉に、幾人かが頷く。

 

ハクロウの言葉には説得力があった。

血影狂乱(ブラッドシャドウ)の姿を見たのは僅かな間だったが、それでも確かに感じ取れるものがあったのだろう。

奴らなら、間違いなくそうすると。

 

「故に、リムル様よ。この老骨を使ってはくれぬか? リムル様が大軍を相手取る間、儂にその憂いを断たせてはくれぬか。血影狂乱(ブラッドシャドウ)を、儂に斬らせてはくれぬか」

 

リムルは否定の言葉を飲み込んだ。

 

ハクロウにも、譲れぬものはあるのだろう。

その瞳の奥では、殺意の炎がどろりと渦巻いていた。

リムルが家族を喪ったのならば、ハクロウもまた家族を喪っているのだ。

シオンを。

 

「分かった。血影狂乱(ブラッドシャドウ)についてはハクロウに任せよう」

「はっ……! 万事恙なく、お任せ下され」

 

ハクロウが深く頭を垂れる。

 

そして唯一、ハクロウだけが戦場に出ることになった。

 

「今回はリムル様に全て任す。俺達の分まで暴れて来てくれ!」

 

ベニマルの言葉を受け、リムルが頷き返す。

 

こうして準備は整った。

 

あとは、軍が到着するのを待つだけである。

 

 

 

 

 

 

七日後。

 

ファルムス王国軍が既定の場所に到着したとの報を受け、リムルは一人飛び立った。

 

「じゃ、ちょっと行ってくるよ」

 

何気ないようにそう言って出陣したリムルに続いて、ハクロウもまた戦場へと踏み出す。

 

既に気配は捉えていた。

森林の南、森と森の間にある崖の上。人数は八。

ハクロウの予想通り、テンペストにほど近い位置に拠点を建てて潜伏していた。

 

「ふぉっふぉっ」

 

ハクロウは歩く。

 

決して急がず、素早くも無く、ただ歩いて戦地へと向かう。

 

一歩踏み出す度に纏う気配が研ぎ澄まされる。歩くごとにハクロウは抜き身の刀となっていく。

 

歩いて歩いて、やがてハクロウは歩き着く。

 

近付く異様な気配を感じ取ったのか、血影狂乱(ブラッドシャドウ)達が戦闘態勢を取った。

 

ハクロウが森の中から姿を現す。

両者の距離はおよそ60。

 

「ふぉっふぉっ! 先日は世話になったのう」

 

静寂の中を、老声が撫で通る。

 

速度を速めもせずにただ歩くだけのハクロウに気圧されて、血に狂ったはずの狂人達が思わず後ろへ一歩下がる。

 

かつて人は、ある鬼を「剣鬼」と呼び恐れていた。

 

「一ツ斬り、二ツ斬り、するりするりと斬り流れ。屍積み上げ、首を積み上げ、血の河浸りて尚も渇く渇く」

 

戦意、と呼ぶのは温すぎる。殺意、と呼んでもまだ足りない。

 

ハクロウは軽く軽く柄を握り、鞘からゆっくりと味わうように刀身を引き抜く。

引き裂くような獰猛な笑みを浮かべ、握る刀と『刃』の向こうに、斬るべき首を見据える。

 

「首が八ツに胴も八ツ。血吹く花もこれ八ツ。これよりは剣鬼の行脚、鏖殺行脚(おうさつあんぎゃ)じゃ。小便は良いか? 神に祈りは? 命乞いは要らぬぞ、聞き入れやせぬ。最期の呼吸じゃ、とくと味わえ。今に消えるからのう」

 

ただ殺す兵と、須らく殺す人斬り。

血に狂う人と、血に渇く鬼。

 

ハクロウの血が猛る、腑臓が滾る。

 

怒りが、滾る。

 

「のう……! (わっぱ)ぁ!!」

 

白い火花が散った。

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

エレンとかヨウムとかミュウランとかの話はカットです、カット。キャラが多すぎるゾ。書き切れないんだゾ。もうだめぽ。
原作を読むんだ、オーケー?
ミリムの企みはフールにバレました。自分を置いてなかなか帰ってこないのを不審に思ったフールが調べたからです。

次回、リムル魔王化、ハクロウ無双、フールブチギレ!デュエルスタンバイ!!
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