転生したら「ワルプルギスの夜」だった件   作:十二夜

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7000人だぞおめぇ。市だよ、市。
ここにワルプルギス市の爆誕を宣言します!
もちろん市長は俺ね。24歳、学生です。(大嘘)
市民の皆さんのおかげで今がある? そうだよ(断言)
(市長の方が立場は)下ですねえ! 下です下です!

おや皆さんのお靴が汚れていらっしゃるじゃあ舐めるねペロペロペロやった高評価ありがとう舐め回すねベロベロベロ感想もありがとうヒューーッその靴イケてるバレンシアガっすか?




いいですか、落ち着いて聞いてください

 

「リムル様ーーー!」

 

満面の笑みを浮かべて突進して来るシオンを捉えた瞬間、リムルはバイオテロを察してダッシュで遁走をキメようとした。

もちろん失敗した。

 

美味ければなんでも許されるわけでは無いんだ。見た目が特級呪物な料理は食うだけでSAN値直葬である。

 

「さあどうぞ、リムル様! 今度こそ自信作ですよ! 味だけは!!」

「おぉ……こりゃまたすげぇ見た目だな……」

「クアハハハハハハ! 事件の匂いがするぞ! 物理的に!」

「ヴェルドラは黙って」

「あの……リムル様。お味はどうでしょうか……?」

「くっ、なんでっ! なんでこんな闇鍋が美味いんだよっ!」

「クアハハハハハハ! ペロッ…こ、これは……! 青酸カリ!!」

「ヴェルドラ黙って」

 

シオン達が復活したからと言って何かが変わる訳でも無ければ、ヴェルドラが解き放たれたからと言って何かが変わる訳でも無かった。

 

ついでに、突撃してきたラミリスからリムルが魔王達の宴(エルケナハト)に巻き込まれたと聞いても、その魔王達の宴(エルケナハト)にリムルも参加すると決めても、テンペストの空気は落ち込むどころかますます活気づいた。

 

つまり、テンペストはいつも通りである。

 

「クフフフフフフ。リムル様に追い出されてしまいました……。片時も離れることなくお傍で寄り添い合いたいだけなのに……」

『ホウ……ストーカーですか。たいしたものですね』

(ヨルさん? 無理にヴェルドラと張り合おうとしなくて良いからな?)

「クフフフフフフフフ。どうすればリムル様の気を惹けるのでしょうか……やはり女体化でしょうか?」

『どちらもありうる……そんだけですワ』

(聞いて? ねぇ聞いて?)

 

リムル、シオン、ヴェルドラの三人がわいのわいの盛り上がっているのを横目に眺めながら、少し前に部屋から追い出されたディアブロは負のオーラを撒き散らしながら嘆く。

 

リムルがファルムス王国軍の死体を供物に召喚した三体の悪魔の内の生き残った一体にして、最強の一体。

『原初の悪魔』が一柱、原初の黒(ノワール)

リムルより与えられた名は、ディアブロ。

 

何をどうトチ狂ったのか、ディアブロはワルプルギスを同類と認定した上で事あるごとに関わろうとしていた。

常に引っ付いているリムルから強制的に引き離された時は、大抵はワルプルギスに引っ付きなおす。

 

勘弁して欲しいのはワルプルギスの方である。

 

ヨルはそうでもなさそうだが、ワルプルギスは既にディアブロが苦手になりつつあった。

キャラとしてあんなに好きだったのに。文字の向こう側ではあんなにカッコよかったのに。

語るに落ちる、とはまさしくディアブロの事である。

 

しかし、どうしてこうなったのかには原因がある。

 

それは、奇跡の復活が為された後、二人の初対面の時の会話にあった。

 

「クフフフフ。その威圧感、その妖気(オーラ)。初めまして、貴女が『ワルプルギスの夜』だとお見受け致しますが」

『エエ、ワルプルギスですワ。ヨロシク』

「やはり……! 貴女の『火』は地獄にまで燃え盛っていますよ。実に……嗚呼、実に美しい輝きでした……!」

『あ、ソウ』

「それに貴女からは絶望の気配を感じます。色濃く、芳醇で、多彩な絶望が……!」

『へぇ』

「クフフフ。私はこの通り、闇の大聖霊から分かたれた『黒』。他の者共と違って、絶望という感情を最も好むのですよ」

『フゥン』

「つきましてはワルプルギス、私からお願いがあるのです。どうか一度で良い、一度だけで良いので貴女の魂を見せては頂けませんか? 私に、魅せて……」

『別に良いですワヨ。ご自由になさいな』

「では、遠慮なく。……ッ!? おやおや。おやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやこれはこれは。クフフフフこれはこれは。クフクフクフクフクフクフクフクフクフクフクフクフクフクフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」

 

ワルプルギスの魂を覗いたディアブロはこんな感じで見事に壊れた。

結果、有無を言わさずにワルプルギスは同類同族と断定され、謎の親近感まで覚えられるように至る。

 

どうもディアブロはワルプルギスの魂を一種の芸術品だと思っている節がある。

現に今も、隙を見てワルプルギスの魂を覗いては恍惚とした表情を浮かべている。

 

「おーい! ディアブロー!」

「オ゜?」

「ちょっと聞きたいことがあるからこっち来てくれー!」

「ああっ、リムル様っ! ようやく私の全てを知る気になってくれたのですね! 今馳せ参じますリムル様なんでもお尋ねくださいではまずは私の誕生から――」

 

とはいえ、リムルに心酔し切っていることには変わりなく。

呼ばれたディアブロは、我が意を得たり! とばかりに猛烈な勢いでリムルの方へ走って行った。

そんなディアブロと入れ替わるように、今度はヴェルドラが漫画片手にワルプルギスに近付く。

 

リムルの分身体に乗り移った今のヴェルドラは、白金色の髪を持つ浅黒い偉丈夫の姿になっていた。

一言でいえば、筋肉モリモリマッチョマンのチャラ男である。

 

「クアハハハハハハ! ワルプルギスよ! 共にこの事件の謎を解き明かそうではないか!」

『あ、それ犯人ヤスですわヨ』

「…………オォン」

 

オォォォォン!と叫びながらヴェルドラは走り去って行ってしまった。

 

(いや勘弁してやれよ)

《フフン。ワタクシ、魔女ですので》

 

ちなみにテンペストの空気が活発なのは、先日行われた会談による所も大きい。

 

リムルが魔王になったという事で、ドワーフ王ガゼル、ブルムンド王国自由組合支部長(ギルドマスター)フューズ、エレンの父で魔導王朝サリオン大公爵エラルドが魔国連邦に一堂に会し、今後の事を色々と取り決めた。

その際、ワルプルギスとヴェルドラの事を紹介したのだが、場が阿鼻叫喚になったのは言うまでもない。

ワルプルギスの時点で既に三人とも死にかけのような青い顔をしていたが、続いてヴェルドラが紹介されるとフューズが気絶してぶっ倒れ、ガゼルはハンカチ一枚をビシャビシャにした。

「もう交渉とか抜きに今すぐ世界征服すれば良いじゃないですかリムルさん。命だけはお助け」とは、その時のフューズの言である。

 

ガゼルとワルプルギスの間には一時何とも言えないような空気が流れていたが、かつて結んだ相互不可侵条約が今も有効なのを互いに確認し合うとその空気も幾らかは和らいだ。

 

肝心の会議の内容は、ファルムス王国軍殲滅の事実隠蔽、ファルムス王国の乗っ取り、西方聖教会への牽制、魔国連邦を国として認め国交を樹立するなど、テンペストにとって実りある内容になったのは言うまでもない。

 

魔王達の宴(エルケナハト)さえ乗り切れば、未来は明るい。

 

そんな空気がテンペストには確かにあった。

 

そして今、その魔王達の宴(エルケナハト)への参加に向けて、リムル達はラミリスの案内で森の中を歩いている。

 

リムルが引き連れるのはヴェルドラとワルプルギス。

 

本来リムルはシオンを連れて行くつもりだったが、ワルプルギスに初対面の印象の大切さを滔々と語られ、かつての宴にカチコミに行った時の話を聞かされたということも相まってワルプルギスを連れて行くことにしたのだ。

正直、今すぐにでも全魔王を駆逐できそうな程の戦力を引き連れているのだが、本人にその自覚は全く無い。

 

ワルプルギスの背負う魔法陣には、既にフールが入っていた。

テンペストを出発した辺りでリムル達の目を盗んで待機していたフールをこっそり入れたのだ。

フールはいつもの彼らしくもなく魔法陣に入ることを多少ビビっていたようだったが、躊躇している内に誰かに引っ張られたかのように魔法陣の中に消えて行った。

 

「なあラミリス。俺達どこに向かってるんだ?」

「え? そんなのアタシが知ってるわけないじゃない!」

「え?」

「え?」

 

リムルの拳にみるみる力が溜まっていく。

それを見たラミリスは慌てて弁明を始めた。

 

「ちょ!? 待つのさ! アタシ達は適当に歩いてるだけでいいの。するとね、誰かが迎えに来てくれるから!」

「……そうなのか?」

「そうだよ!」

 

リムルが半信半疑の顔でヴェルドラとワルプルギスを見る。

これ、本当に大丈夫なのか?

二人は顔を見合わせると肩を竦めた。

 

「「さぁ(ですワ)?」」

 

そんなこんなで四人が歩いていると、突如目の前に禍々しい門が出現した。

その門から黒色のメイド服を着こなした二人の悪魔が現れると、恭しくお辞儀をする。

 

「お迎えに参りました、ラミリス様。お連れ様とご一緒にどうぞ」

「ワルプルギス様もようこそお出で下さいました。どうぞ中へお入りくださいませ」

 

それだけ言うと、二人は門の脇に控えた。

そのプロの所作にリムルはしきりに感心していたが、ワルプルギスは少々意外な面持ちで二人の悪魔を見ていた。

 

(ミザリーとレインじゃないのか。てっきり、もう復活しているかと思ったが)

《もう少々時間が掛かるようですワヨ? 幾ら原初の悪魔と言えど、アレをまともに食らいましたから》

 

そんなことを考えながら門をくぐると、既に多くの魔王が席に着いていた。

ギィはもちろんのこと、ディーノ、ダグリュール、レオン、フレイ。

まだこの場に来ていないのは、既に死んだカリオンとロイを除けばクレイマンとミリムだけだった。

 

「やっほーい! みんな、元気だった?」

 

魔王達は騒がしく入って来るラミリスに各々挨拶をすると、今回の問題の主役であるリムルに値踏みするような視線を送る。

そして隣のヴェルドラに気付いたダグリュールが声を掛けようとした瞬間、最後に現れたワルプルギスが魔王達の視界に入った。

 

『ゴキゲンヨウ♡』

 

途端、ギィとレオンを除く魔王の顔色が一段階悪くなる。

フレイは二段階ほど青くなっていた。

平気なのは初めから予想していたギィと、そもそもギィからの話でしか聞いたことが無いレオンだけ。

 

その分、レオンは冷静にワルプルギスの実力を見極めることが出来るという事でもあり。

しかしそれは、元勇者として反射的に光の奔流を撃とうとして、自分が消し飛ぶ未来まで鮮明に予測出来てしまったという事でもあった。

 

「……ッ!」

 

レオンが席から立ち上がろうとするが、それよりも早くリムルがレオンに近付いた。

 

「レオン、シズさんは死んだぞ。一発殴ってくれと頼まれているんだ、殴らせろ」

 

リムルの声には静かな怒りが込められていた。

その低い声に反応し、レオンが目を見開く。

 

「断る。……だが、お前には少し興味がある。招待してやるから文句があるのならば来たらいい。罠だと思うなら、拒否してくれても構わないよ」

「……分かったよ。受けてやるから招待状でも送ってくれ」

「そうしよう」

 

素っ気無くそれだけ言うと、レオンは再び座り直して目を閉じる。

 

これ以上相手をする気はないという言外の意に、リムルは軽く息を吐き出すと倣うように沈黙した。

 

何処から取り出したのか、ヴェルドラは既にメイド悪魔が用意したソファーに寝転がって漫画を読んでいる。

 

「もっとも――」

 

レオンはおもむろに会場の門に視線を向けると、リムルを試すような口調で言葉を紡ぐ。

 

「お前がこの場を生き残れたら、だがな」

 

その声と同時に、ミリムを引き連れたクレイマンが会場に現れた。

 

勝ち誇ったような笑みを浮かべたクレイマンは魔王達を一瞥すると、リムルを見て不愉快そうに鼻を鳴らす。

そのまま歩を進めようとして、クレイマンはワルプルギスに気が付いた。

 

「ッ!? キ、貴様は……ッッ」

 

勝ち誇った笑みから一転、クレイマンの顔から余裕の表情が消える。

恐怖、憤怒、焦燥と一通りの感情を次々と顔に浮かべて、最後にクレイマンは冷静になったのか真顔になる。

 

真顔になって――ミリムを殴った。

 

「さっさと歩けこのウスノロ!!」

 

ミリムは感情が抜け落ちたかのように、表情一つ変えずにクレイマンに顔を殴られる。

 

一瞬の沈黙があって。

 

全員が死んだ。

 

「―――――は?」

 

魔王達が最期に見た景色は、無数の刃を生やした自らの身体とそれを見上げる自身の顔。

 

誰一人反応できずに、全ての首が落ちていた。

 

「は?」

 

理解が出来ない。

 

実力者であるレオンもディーノもダグリュールも、何が起きているのかすら把握できない。

 

知覚も感覚も置き去りにして、ただ死という結果のみが現れている。

 

クレイマンは薄っぺらい笑みを顔に張り付けたまま、呆然と自分の亡骸を眺め――

 

「今すぐにその殺気を収めろ。主人を差し置いて出しゃばり過ぎだ」

 

誰に向けたのかも知れないギィの一言で、首が繋がった。

 

「――――ッ、ハァ、ハァ……ッ! なんです……今のは……」

 

冷や汗を滝のように流しながら、自らの身体を抱き締めたクレイマンが息も絶え絶えに問う。

 

それに答えることが出来る魔王は残念ながら居ない。

唯一答えを持っているギィは、優雅に足を組んだまま高みの見物と決め込んでいる。

 

殺気、ギィはそう言った。

 

馬鹿な!、魔王達の思考が一致する。

 

たかが殺気で、あそこまでの芸当が出来る存在などいるはずが無い。

それに殺気だとしても、発生元が分からない。

まるで別世界から発せられたかのような……。

 

「――はっ!? アタシ、死んだ気がする! ねぇっ!? 死んでたよねっ!?」

 

気絶から起き上がったラミリスがパタパタとギィの周りで騒ぎ始める。

 

それを鬱陶しそうに指でひょいと摘まんだギィは、クレイマンに視線を向けて短く言葉を発した。

 

「さっさと始めろクレイマン。これ以上オレの時間を無駄にするな」

 

ギィの視線に射止められ、クレイマンはごくりと生唾を呑む。

これ以上ギィの機嫌を損ねるのは明らかにまずかった。

魔王同士は平等ながらも、今この場ではギィ・クリムゾンは絶対。

 

主催者として、クレイマンは震えながらも努めて気丈に魔王達の宴(エルケナハト)の開催を高らかに宣言する。

 

「そ、それでは、本日は私の呼び掛けに応えて頂き、誠にありがとうございます。始めましょう、ここに魔王達の宴(エルケナハト)の開催を宣言します!!」

 

誰もが頭の片隅に疑念を抱えながらも、なんとか魔王達の宴(エルケナハト)は始まった。

 

議題は、魔王を名乗りカリオンとロイを殺したリムル=テンペストの処遇。

 

その証拠を述べるために、まずはクレイマンが口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「ステラどきなさい! アイツ殺せないッ!! ―――ええい、何を寝ぼけたこと言っているのです! 野郎ぶっ殺してやるぁああああああああああああああ!!!」

 

一方その頃、魔法陣の中で死闘が繰り広げられていたということは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

特筆すべきことも無くクレイマンは死んだ。

 

いや別に誇張とかではなく。

 

本当に特筆すべきこと無くクレイマンは死んだ。

 

クレイマンは長々と頑張って弁論していたが、リムルに煽りに煽られて結局決闘で是非を決める展開に。

既に詰んでいることにも気付かずにクレイマンは意気揚々とミリムを繰り出すが、ヴェルドラに阻まれて互角の戦いを演じ始めるミリムとヴェルドラ。

ミリムの他に支配していた手下は悉くワルプルギスに一掃されるかリムルに解呪され、一対一という形になったクレイマンとリムル。リムルが淡々とクレイマンを追い詰めた結果クレイマンはついにミリムに全力を出すよう指示。

しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが判明、ついでに仲間のフレイにも裏切られ、極めつけに殺したと思っていたカリオンが実は生きていたと発覚。

 

四面楚歌どころか十二面楚歌ぐらいになった絶体絶命のクレイマンは、しかしここで魔王の意地を見せて真なる魔王へ覚醒。

 

そしてリムルに瞬殺された。

 

特に見せ場も無く瞬殺だった。

 

リムルの『暴食之王(ベルゼビュート)』に喰われ、その魂を魔素へと分解されて死んだ。

 

ギィの拍手が鳴り響き、リムルが魔王として認められ、そして今。

 

「ホァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

フールはミリムの膝の上で雄叫びを上げていた。

このウサギ、もはや隠す気は無い。

 

それをドン引きの表情で見つめるのは魔王達である。

 

「こいつが……さっきの殺意を……?」

「うぅむ。まさかあのぬいぐるみが生きていたとは」

「ギィ、貴様はこのことを知っていたのか?」

「勿論だ。言っておくがソイツ、余裕でお前らよりも強いからな」

「ま、アタシならワンパンで沈められるけどね! ワンパン!!」

「お前のその『られる』、可能じゃなくて受け身の方だろ」

 

問題が片付いたからか、ある程度張り詰めていた場の空気が一気に緩む。

 

ヴェルドラは三巻目に突入しているし、ワルプルギスは端っこでニコニコしているし、ミリムはフレイとカリオンに言葉攻めされて目を回している。

 

「ええええい!!! 分かったのだ。好きにするが良い!」

 

ミリムのその一言で、フレイとカリオンの勢力はミリムに下ることが決まった。

 

これで、現魔王は七名。

 

「そうか、十大魔王じゃなくなったんだな」

 

リムルのそんな呟きに、ピクリと反応する魔王達。

 

「困った、な。威厳的な問題として、また新たな名称を考えねばなるまいよ」

 

そんな事を言い出すダグリュール。

目が死ぬディーノ。

目を閉じるレオン。

むしろ今からが魔王達の宴(エルケナハト)本番、踊りに踊る呼称決め会議が――

 

「いいや、それはもう少し待ってもらおうか」

 

始まらなかった。

 

言葉を発したギィに、魔王達の注目が一斉に集まる。

 

「その前に、叩き起さねばならぬ奴が居る。ワルプルギス、そしてリムル」

 

何の事かさっぱり分からないリムルを横目に、ギィは素早くワルプルギスと念話を交わすと立ち上がった。

 

「二人とも着いて来い。お前達の力が必要だ」

 

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

ルべリオスの最奥にある玄室。

 

その部屋には二つの聖櫃が横たわっていた。

 

一つは自分自身を封印した勇者クロノア。

そしてもう一つの方こそ、今なお半身が欠けたままのルミナス・バレンタインである。

 

リムル達は音も無くその場に現れると、ルミナスの聖櫃に近付いて見下ろす。

静謐という言葉が最も似合う氷の聖櫃は、その存在だけでこの部屋を幻想的なものへと変えていた。

 

もっとも、中身と言えば。

 

「おぉう……グロ……」

《告。極めて何か生命に対する侮辱を感じます》

「この女の人が、八人目……?」

「そうだ。『夜魔の女王(クイーン・オブ・ナイトメア)』ルミナス・バレンタイン」

 

時間を巻き戻すことによりルミナスの半分を元に戻そうとする力と、ルミナスの半分の存在をこの世界に許さない力。

その二つの能力が鬩ぎ合って拮抗しているのが、今のルミナスの状態。

一見、ワルプルギスが能力を解除すれば良いようにも思えるが、事はそう簡単ではない。

 

勇者クロノアは眠りに付き、その能力は現在クロノアの手を離れて自律している。

即ち、制御不可能。

ワルプルギスだけが能力を解除すれば、ルミナスの時間は際限なく巻き戻ってこの世界から消えるだろう。

 

ギィはそれを分かっているからこそ、リムルをここに連れて来たのだ。

 

そして、そのことを『智慧之王(ラファエル)』が理解できないはずもない。

 

「……なるほど。つまり俺はワルプルギスが能力を解除するのに合わせてもう片方の力を『暴食之王(ベルゼビュート)』で喰らえば良いのか」

「その通り。話が早くて助かるよ」

 

リムルの言葉に、ギィが感心したように頷く。

 

早速行動に移そうとしたその時、何者かが慌ただしく部屋に駆け込んで来た。

 

顔に色濃い疲労を滲ませたその女は、まずリムルを見て目を見開くと、次にワルプルギスを見て丸眼鏡が落ちそうなほどに目を見開いた。

 

「魔物の気配を感じるから来てみれば……ッ! リムル・テンペストにワルプルギス。あなた達、こんな所で何をしているのかしら?」

 

ヒナタ・サカグチ。

 

目線こそ鋭くリムル達を睨みつけているが、その表情にはいつもの覇気は無く、腰に下げたレイピアを抜く気配も無い。

短期間の内に様々な出来事が重なり過ぎたのか、目の下には大きく濃い隈がハッキリ出ていた。

 

「ようヒナタ。俺のメッセージは見てくれたか?」

「ええ、見たわ。でも、それとこれとは話が別でしょう。一体、何をするつもり?」

 

ヒナタがギィへと目を向ける。

この場で唯一ヒナタの知らない人物にして、一目でタダ者では無いと理解できる圧倒的な気配。

 

ギィはチラリとヒナタへ目をやったが、すぐに興味が無さそうに視線を戻すとフンと小さく息を吐いた。

 

「ヒナタ・サカグチか。まあ良い、お前にも関係のある話だ。そこで見ていろ、この国の真実を」

「この国の、真実ですって……?」

 

怪訝そうに呟くヒナタを見て、ワルプルギスとリムルが目配せし合う。

 

ワルプルギスが能力を解除すること遅れて一秒、リムルが『暴食之王(ベルゼビュート)』を発動した。

 

「喰らい尽くせ! 『暴食之王(ベルゼビュート)』!!」

 

氷の聖櫃が音を立てて砕け、冷気の煙がルミナスの姿を覆い隠す。

 

リムル達が見守る中、段々と煙が薄れ。

 

五体満足の吸血鬼が姿を現した。

 

「んぅ……?」

 

ゆっくりと、その瞼が持ち上がる。

 

ルミナスは硬い床から身体を起こすと、まずギィを見て目を細め、リムルを見て首を傾げ、ワルプルギスを見て――

 

「っ! 貴様……ッ!? ぐっ、力が……!」

 

ルミナスは身を翻そうとして、力が入らずにその場に倒れる。

 

「な、なんじゃ……。一体どうなっておる……」

 

状況が飲み込めずに困惑するルミナスと、驚愕のあまり咄嗟に口を押さえるヒナタ。

ギィはつかつかとルミナスに歩み寄ってその身体をグイっと引っ張り起こすと、耳元に顔を近づけて猫撫で声で囁いた。

 

「おはよう。寝起きで悪いがね、ルミナス」

 

ニコッと。

ギィは笑顔を浮かべた。

 

「三百年越しの戦犯会議だよぉ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

じゃ、妾は二度寝するから……(震え)

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