転生したら「ワルプルギスの夜」だった件   作:十二夜

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えー、年間総合97位でございますよ。
まさか100位以内に入るとは思いませんでした、皆さまに最大の感謝を。
いやほんとに、ありがたいですよほんとに。
中二病に導かれるままに上から下まで書き殴った作品には過ぎたる栄誉ですとも。

じゃ、靴舐めるね。
ペロペロペロやった高評価ありがとう舐め回すねベロベロベロ感想もありがとうヒューーッその靴イケてるバーバリーっすか?



世界を燃やす『火』

 

『魔女の罰』とは何か。

その問いはすなわち、『火』とは何かという問いでもある。

 

『火』。

 

(ほのお)(ほむら)、『()』。

自然現象としての燃焼を超えた『火』。火という概念の始まりにある真の『火』。原初の『火』。

 

『火』とは、火という概念の理想であり、火をそのものたらしめる根拠である。

 

それはイデアと呼ばれる、個々の事物の根拠。

 

天地開闢よりも前、ヴェルダナーヴァ誕生よりも前、時間も空間も『無』すらも()()()()()頃から存在し続ける事物の『根拠』。

 

例えば、神が神であるための根拠。ヴェルダナーヴァが()()であるための根拠。時間の根拠、空間の根拠、無の根拠、存在の根拠、世界の根拠など。

 

それらは変化せず、生成も消滅もせず、知覚され得ず、()()()()()()()()()()()()()、世界を超越した神ですら干渉不可能な領域にてただ『普遍』している。

 

ヴェルダナーヴァが為した天地開闢は、究極的に言えばそれらの『根拠』から生まれた写し影を、世界を創るに足る分だけ()()()()()()()()()()()()という、それだけの事であったのだ。

もっとも、そんなことが出来てしまうが故の神なのだが。

 

つまるところ、神が創りしこの世界の万物はイデアが写す影の更に劣化に過ぎない。

 

故に、この世界はイデアの顕現にどうしても耐えられない。

どんなに矮小なイデアでも世界の許容量を軽く超越し、例え一粒の砂のイデアであろうと、ただ存在するだけでこの世界は砕け散る。

 

そうなっていないのは前述の通り、全てのイデアは今ある世界に影響を及ぼさない特殊な領域に過去も未来も留まり続けるからである。

 

だが、ワルプルギスは火のイデアをこの世界にまで引きずり降ろしてしまった。

 

それは、かつてヴェルダナーヴァがやったような劣化の劣化ではない。

影ではなく、イデアを。火ではなく、『火』を。()()()()()()を、概念の『根拠』を顕現させる。

 

故にその『火』は時を超え、空間を超え、世界を超え、森羅を燃やし、万象を燃やし、それら自体を含めて範疇にあるもの悉く一切を滅する。

 

あの日あの時、ワルプルギスは『戯曲之神(シェイクスピア)』に一つの単純な命令を下した。

 

「全てを滅ぼせ」。

 

それを受けて、『戯曲之神(シェイクスピア)』は命令遂行の為に動き始める。

 

まず『戯曲之神(シェイクスピア)』は範囲という制限を設定した。あくまで範囲内のものを限定して滅ぼすという、技としての限界を設けることで能力の範疇に収めようとした。

それだけではとても足りなかったので、次にワルプルギスの持つ元来の能力である炎を使用するという制限を設定した。『滅び』のイデアではなく、炎を触媒に『火』のイデアを顕現させることで触れて焼かれてから滅ぶという余計な過程を挿入した。

それでもまだ足りず、最後に発動時間という制限を設定した。すぐには発動できず、『火』を顕現させるのに相応の時間を設けた。

 

ここまでの制限を課してようやく、『火』は能力の範疇に収まった。

『正位置』の状態のみが賄える膨大な量の魔素を代償に、『戯曲之神(シェイクスピア)』の能力で『火』のイデアを劣化させてこの世界に存在できるよう形を与えることが出来るようになったのだった。

 

しかし劣化とは言っても、影などではなくイデアそのものの劣化。

イデアの影を無限回も劣化させた搾りカスであるこの世界の万物とは並べて語ること自体が間違っており、比べようと思う事すら許し難く烏滸がましいほどの格差。

 

故にその『火』は『罰』に足り得る。

 

天上より簒奪せしめた、はじまりたるを写す『火』。

 

それが、『魔女の罰』である。

 

 

 

 

 

 

三百年も前、ワルプルギスの夜において最大の戦場となった砂漠である不毛の大地。

その一角に世界異常は広がっていた。

 

未だに極寒と灼熱に覆われたままの大地。熔けて流れ出した溶岩の上に氷山が浮かび、乱重力によって空中のいたる所に巨大な土の塊が浮遊している。

魔素濃度は常人が数分で死に至るほど高く、この場所に踏み入って生命活動を続けること自体が強者の証。

 

しかしそんな場所の中にあって尚、ひと際目を引く神威がある。

 

「………」

 

リムルが見る視界の全てを、炎が満たしていた。

それはただの炎ではなく刑罰の『火』。

 

離れて尚も肌を焦がす熱波と見仰ぐ猛威、リムルの横に立つベニマルは恐怖と共に脂汗を滲ませる。

ランガもシオンも、あまりの光景に言葉すら出せない。

 

「こりゃあ……何かの悪い冗談だろ……?」

 

崇め、仰いで怯え、震え上がるのは生物も魔物も同じ。

地上に存在する者として、ベニマルは絞り出した声を震わせる。

 

想像を絶しているというにも程がある。

その余熱でさえ世界を破滅に導けるというのに、更に上回る火の粉があり、遥か超越する『火』がある。

 

ベニマルは確信した。

 

テンペストの全戦力、それどころか世界中の強者全員が結集したとしても、飛び散った残火の一欠片で容易く焼滅するだろう。

あれは、この世の範疇には無い。

 

「クフ、クフフフフフフ。なんと……なんと素晴らしい……! 冥界で見るよりも、余程輝いて見えますよ……!」

 

恍惚とした表情で『火』を仰ぐディアブロに、ギィは疲れ切った視線を向ける。

 

ディアブロがリムルの配下に加わったと知った時、ギィはお腹を押さえた。

そして道中、延々と「流石はリムル様!」エピソードを聞かされ続けた時、ギィはこめかみを押さえた。

 

『魔女の罰』は世界を超えて焼く。

その『火』は物質世界のみに留まらず、同位相上に位置する精神世界や冥界、異界にまで燃え盛っていた。

 

(何か分かったか? 智慧之王(ラファエル)先生)

《解。理解不能、解析不能、原理不能……お役に立てず申し訳ありません》

(いやいや、そんなことないって。……ちょっと待て、今お前謝らなかった?)

《………否。記録にございません》

 

傍から見れば黙ったまま動かないリムルに、大方驚いて声も出せないのだろうと予想したギィが近付き、その隣に並ぶ。

そして同じように『火』を見上げながら口を開いた。

 

「どうだ? もしもヤツがお前と敵対した時に、()()を放ったならばどうする? お前は対処できると思うか?」

 

ギィのその問いには、お前では無理だろうという意思が言外に込められていた。

それは決して、リムルを見縊っているわけでも見下している訳でも無い。

ただどうにもならない事実を、ギィは淡々と告げているだけだった。

 

事実、今まで魔王達は一人残らずこの『火』を前にして臨み、そして一人残らず「無理だ」と叫んで匙を投げていた。

 

今回もそうなるのだろうと考えたギィの予想は、続くリムルの行動に大きく裏切られることになる。

 

リムルは「無理だ」とも「出来る」とも言わなかった。

 

その代わり、何かを決意した顔で『火』に向けて一歩、踏み出した。

 

「分からない。ただ……」

 

そう言ってリムルはもう一歩『火』に近付く。

 

その行動に死ぬほど慌てたのはベニマル達である。

『火』に近付くなんて正気の沙汰ではない。

例え何かの間違いで散る火の粉の一つにでも触れようものなら、その時点で為すすべもなくリムルが焼滅するのは想像に難くない。

リムルがどれほど強大であろうと、逃れ得ないものは存在する。

 

ディアブロが泡を食ったように飛び出し、ギィはリムルの背中に声を掛ける。

 

「おい、お前何をするつもりだ」

「リ、リムル様! どうかお待ちください! あまりにも危険です!」

 

すぐにリムルに追い付いたディアブロを見て、ベニマル達は悔しさに歯を食いしばる。

 

本当は今すぐにでも飛び出したい。だが、これ以上近付けば『火』に触れずともその余熱で消滅するのは目に見えている。

この場で、リムルの隣に立てるのはディアブロだけ。

その事実が、どうしようもなくベニマル達の心を掻き立てた。

 

「リムル様、どうかお戻りを。貴方様を危険にさらす訳にはいきません。何かお考えがあるのでしたら、このディアブロに命じて頂ければ身命を賭して……」

 

リムルの肩に手を置いて引き留めようとするディアブロに、リムルはただ「大丈夫だ」と伝えて更に近づく。

 

「リムル様……!」

 

そしてついに、ディアブロでさえこれ以上は近づけないラインを軽々と踏み越える。

 

悲痛な顔でその場に立って手を伸ばすディアブロにリムルは大袈裟な奴だなと笑って、先程から警告を出し続ける『智慧之王(ラファエル)』に話しかけた。

 

《告。危険です、今すぐ離れて下さい。告。危険―――》

(なあ、智慧之王(ラファエル)。いつもみたいにこれを暴食之王(ベルゼビュート)で喰らって解析することは出来ないのか?)

《解。現状では不可能です。全ての要素が上振れた場合の成功確率は…ありません。虚数の彼方、完全に0%です》

(どうにかならないか? 頼む、智慧之王(ラファエル)。これはきっと、俺がやらなきゃダメなんだよ)

《……解。方法はあります。しかし、リスクが大きい上に成功確率も極めて低い方法です》

(それで良い。やってくれ)

《おすすめ致しません。危険です》

(それでも、だ)

《………了解しました。最善を尽くします》

(悪いな。相棒)

《否。謝罪は必要ありません。私は、(マスター)の為だけに存在しております》

 

智慧之王(ラファエル)』に導かれるまま、リムルは天に向かって手を伸ばす。

 

何をするつもりだとギィ達が固唾をのんで見守る中、『火』から飛び散った鱗粉が如き火種が一片、伸ばした手に吸い寄せられるようにひらりと舞う。

世界を滅ぼすに足る火の粉が、リムルの指先に舞い落ちる。

 

「リムル様ッ!!」

「馬鹿野郎! 何を――」

 

同時に動こうとしたギィとディアブロは、しかし次の瞬間には硬直して目を見開いた。

 

「喰らえ。暴食之王(ベルゼビュート)

 

リムルの指先で、火の粉が消えた。

 

痕跡も残さずその身を焼くはずだった『火』の粉塵が、何らかの方法によって無効化される。

ギィが三百年をかけて成し遂げた偉業を、リムルはものの数分で上回って見せた。

 

「リムル……お前……」

 

リムルは右腕を引くと、掌を握ったり開いたりして手の調子を確かめる。

 

《告。誓約之王(ウリエル)の全リソースと暴食之王(ベルゼビュート)の一部能力を使用して対象を一時的に隔離しました。速やかに解析を開始しますが、誓約之王(ウリエル)が焼き尽くされるまでに間に合わないと判断した場合は即座に解析を中止して対象を排出いたします。

 なお、しばらくの間は究極能力(アルティメットスキル)誓約之王(ウリエル)』の能力を一切使用する事ができません》

(ちなみに成功確率はどれくらいだったんだ?)

《告。最大で、3.14%でした》

(円周率じゃねーか)

 

特に問題は無いことを確かめたリムルはゆっくり振り返ると、自分を見つめるギィと視線を合わせた。

そして決意の光を湛えた瞳で、ギィへの返答を口にする。

 

「確かに、ワルプルギスは敵かもしれないし俺は騙されているのかも知れない。ただ俺は、一度友達になった以上はあいつを救いたいと思っている。その為にこの『火』に対処しなければならないって言うのなら、俺はやるよ」

「……それがお前の選択なんだな?」

「そうだ」

「そうか。なら、好きにしろ。いずれにせよ、オレのスタンスは変わらんさ」

 

ギィは肩を竦めてリムルに背を向けると、解散だという風に手を振った。

 

無事に『火』から離れたリムルを見て安堵の溜息を吐いたベニマル達が、せめて一言文句を言おうとリムルに駆け寄る。

 

だがベニマル達が何かを言う前に、今度はリムルからギィに声を掛けた。

 

「待てよギィ。まだ話は終わって無いぞ。この際だ、俺の知ってることを全部教えようと思ってな」

「知ってることだと?」

「まず、俺は転生者だ」

「……ほう?」

 

足を止めたギィがリムルの方を怪訝そうに振り返る。

僅かに驚いているようだったが、だから何だという気持ちの方が占める割合は大きいのだろう。

まさかそれだけでは無いだろうなと言いたげな表情で、ギィはリムルに続きを促した。

 

「それで実は、俺はワルプルギスを知っているんだ」

「何が言いたいのか分からんな。知らないはずが――」

「違う。この世界に来る前から知っているんだ」

「……ワルプルギスも転生者だという事か?」

「それも違う。いや、違わないけど……俺が言いたいのはだな、俺の前世の創作物の中にワルプルギスが居たっていう話なんだよ」

「……よし待て。待て待て待て待て」

 

頭脳派のディアブロですらまだピンと来ていない中、誰よりも早くリムルの言いたいことを把握したギィが掌を出してストップをかける。

目を閉じてその言葉の意味をよく噛み砕き、現実逃避して一旦噛み戻してからまた噛み砕き、仕方なく受け入れて渋い顔になったギィが答え合わせの為にリムルに問う。

 

「つまり……ワルプルギスはお前の前世にあった創作物の世界の住民だということか? そしてお前はその作品を良く知っている、と」

「おっ、正解。まあ、そういうことだな」

「うっ」

 

ギィは頭と胃を同時に押さえた。

 

「ちなみにアイツもそのことを自覚しているな」

「胃ッ……っ痛ッッ……!!」

「大丈夫か?」

 

ギィは切実に思った。

 

ハゲたらこいつに責任取らせよう。

 

 

 

 

 

 

その後、リムル達がテンペストに戻ったタイミングでワルプルギスもしれっと戻って来た。

何があったのかをリムルが尋ねるも、古い知人に呼び出されたと言ってワルプルギスはそれ以上を語ろうとしない。

 

そしてリムルもまた、無理にそれ以上を聞き出そうとはしなかった。

 

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

ヒナタはルミナスに惨敗した。

 

ルミナスと共にテンペストを訪れたヒナタからそう聞いたリムルは、だろうなと納得するように深く頷いた。

リムルは笑顔でぶん殴られた。

 

殴られたついでにヒナタから一対一の決闘でケジメをつけたいという申し込みがあり、リムルはそれを受け、結果はリムルの完全勝利。ついでにヒナタに残留していた洗脳の効果も解けた。

 

その後、神聖法皇国ルべリオスから正式に謝罪を受け、ヒナタと聖騎士団の面々からも謝罪を受けたリムルは寛大な心でそれを受け取って両国間のわだかまりを失くした。

 

そして数日間にわたる話し合いの末、テンペストとルべリオスの今後千年間の国交樹立、積極的な文化交流及び技術提携、更に例の如く相互不可侵が締結された。

対外的には、既に死んでいる魔王ヴァレンタインを黒幕に仕立て、ヒナタとリムルが戦闘中に黒幕の正体に気付き和解、共に魔王を打ち倒したという筋書きを立てて発表される。

 

こうして、事態は一応の終結を迎えることとなった。

 

だが、話はまだ終わらない。

 

ヒナタたちと交流を深めるための宴の最中、聖騎士団の誰かが言った。

「ところで、リムルさん。この国で、最強なのは誰なんです?」と。

即座にピリ付く空気に気付かず、ヴェルドラが言った。

「クアハハハハ! そんなもの、戦ってみれば済む話では無いか!」と。

リムルとヴェルドラは確実に酔っていたし、なんならヒナタたちもかなり酔っていたが、吐いた言葉は飲み込めないのだ。

こうしてテンペスト開国祭に伴う一大イベント、テンペスト武闘大会の開催が決定した。

 

要は意地とプライドを賭けた戦争である。

 

その後数日間の滞在を経て、惜しみながらもヒナタ一行は帰って行った。

 

滞在期間中にヒナタはよく笑顔を見せるようになり、リムルはそのことを好ましく思っていた。

 

これからは友好的な関係が築けそうだ。

 

 

 

 

 

 

そして今、来たる開国祭へ向けて、テンペストは住民総出で日々忙しなく動き回り、誰もが活気に満ち溢れている。

 

町の至る所に新たな建造物が建ち、食事と娯楽施設も充実していく。

 

そんな中、リムル達が何をしているのかと言えば……。

 

服を脱いでいた。

 

「リムル様、マジで男風呂に入るつもりなのか?」

「え、そうだけど?」

「クアハハハハ! ではリムルが我の背中を流してくれるのか?」

「やだよお前、なんで俺がそんな真似しなきゃならねーんだよ」

「おい、服を脱いだ後はどうするんだ」

「クフフフフフフ。でしたら私がリムル様の御髪を」

「じゃあ俺がリムル様の背中を流そうか」

「どうよヴェルドラ。これが人望よ」

「うむ! 我の偉大さに畏怖しているようだな!」

「おい、話を聞けお前ら。このギィ・クリムゾンが全裸で突っ立っているんだぞ」

 

賓客をもてなそうと思えばまずは風呂。

そんなテンペストの常識に従って、リムル達はディアブロのリムル様武勇伝に根負けしてテンペストにやって来たギィを風呂にひっぱり込んだ。

ベニマルとソウエイだけは、いつシュナにバレるのか気が気じゃなかったが。

 

「……成る程。確かにこれは悪くない。白氷宮に温度のある物など無いからな、温かい湯が余計に染み入る」

 

温泉風呂に浸かったギィが唸るように声を絞り出す。

 

ギィにとって、リムルは既に興味が尽きない存在になっていた。見極める為にこの国を訪れたつもりが、永い時を生きてきて尚初めて体験する娯楽に出会うとは予想だにしていなかったのだ。

 

魔王達の宴(エルケナハト)においてリムルはこの世界に娯楽を広めると豪語したが、これはあるいはカマしやがるかも知れん。

 

そう思ってギィは静かに目を閉じる。

 

「うっわ、お前筋肉すげぇな。どうなってんだそれ」

「クアハハハハ! 引き締まっているようだがこの暴風竜の肉体には及ばぬわ! 所詮かのギィ・クリムゾンと言えどその程度――!」

「ヴェルザードを呼んでやろうか」

「オォン…………」

 

喧しすぎてギィは数秒で目を開けざるを得なかった。

 

「クフフフフフフ……。嗚呼、リムル様の美しい肢体……このディアブロ、もはや悔いは……」

「おいリムル、なんであの野郎はあんな遠くからこっち見てんだ?」

「さぁ?」

 

その後、男湯から出た瞬間にシュナに見つかり、リムルが長々と説教を食らったことは言うまでもないだろう。ベニマルとソウエイは逃げた。

 

更にギィだけでは無く、ミリムとラミリスもテンペストに来ていた。

 

特にラミリスは魔鋼トンネルの破壊跡を占領して住み着こうとしていたので、これ幸いとリムルは地下迷宮(ダンジョン)の創造を許可した。

ラミリスは泣いて喜んだ。

 

こうして出来上がったのが、リムル、ヴェルドラ、ミリム、ラミリス四人組による悪ノリ全開の凶悪極まるテンペスト地下迷宮(ダンジョン)である。

地下百層の巨大迷宮、第百層目ではヴェルドラがラスボスとして待ち構えている。

 

今までヴェルドラは周りが地獄絵図にならないように意識的に妖気の解放を抑えていた。

だが、迷宮の最奥でならむしろ妖気を解放することで迷宮内に魔物を発生させることができ、ヴェルドラは本来の姿で活動しても良いことになっていた。

 

迷宮はまだまだ発展途上だが、ヴェルドラの座する間は既に完成している。

 

ということは、今まで出来なかったことが出来るようになったという事で。

 

ヴェルドラは意気揚々と図書館に向かった。

 

「クアハハ」

『嫌ヨ』

「まだ何も言っておらんがっ!?」

 

国立リムル図書館。

 

リムルを拝み倒して図書館を造らせて以降、ワルプルギスは完全に図書館に引き籠っていた。

 

自分の屋敷へは一度も帰らず町にも滅多に出歩かない為、ここ最近ワルプルギスの姿をテンペストで見ることはほとんど無い。

だが図書館に行けば会えるので、この町から出ているわけでは無いとリムル達は考えていた。

 

ヴェルドラはずんずんと歩を進めて本を読んでいるワルプルギスの肩をむんずと掴むと、満面の笑みを浮かべて話しかける。

 

「三百年ぶりに」

『嫌ヨ』

「いいから話を聞かんか! 我は地下迷宮(ダンジョン)のラスボスとなったぞ。あそこでなら全力を出してもリムルとラミリスが何とかしてくれるはずよ! 今日こそ決着をつけようではないか!」

『メンドクサイ』

「クアハハハハハハハ! 知らなかったのか? 暴風竜からは逃げられぬ!!」

『アーーーー』

 

その日、ヴェルドラに引きずり回されるワルプルギスの姿が街中で確認されたという。

 

 

 

 

 

 

『アーーーーー』

 

爆走するヴェルドラに引きずられながら目の前を通過していくワルプルギスを横目で追い、フールは茶を一口含んで味わう。

不思議な事で、口が無いにも関わらず何故か茶の量は確かに減っていた。

 

「……良いお茶ですね」

「もう三杯目じゃない」

 

西洋風の建物が建ち並ぶ魔都リムルの街並みの中に、所どころ点々と建てられている和風の茶屋。

その内の一つである大通りに面する茶屋に立ち寄ったフールは、赤い野点傘が立てられた縁台に腰掛けて茶をしばいていた。

 

「開国祭が楽しみですね。願わくば私も武闘大会に出たかったのですが、流石に勝負にならないからとミリム様に却下されてしまいまして……」

「その一杯で最後なのよね? そろそろ遊んでくれるわよね?」

「うーん、良いお茶」

 

フールの膝上ではステラがゴロゴロと転がっている。

 

どうせバレるからとワルプルギスはステラを魔法陣から出していた。

その可愛らしいプードルの外見も相まって、それ以来ステラはフールと並んでテンペストの人気者になっている。

 

ミリムは迷宮作りに忙しく、ワルプルギスはずっと本を読んでいるので二人とも暇なのだった。

 

「……さて、と。ご主人、おかわりを――」

「言った傍からっ! お兄様っ!!」

「ぐっはぁ!?」

 

遂に痺れを切らしたステラがフールの鳩尾目掛けて頭突きを見舞いする。

 

それぞれ仕える主は異なるが、同じ出自であることに加えてお互い意思疎通のできる唯一の同族。

どことなくシンパシーを感じた二人は、魔法陣で一緒になった際に仲良くなったのだった。

厳密には両者ともに魔女の使い魔という枠組みから大きく逸脱しているが、当人にとっては些細な事である。

 

以来、ステラはフールを「お兄様」と呼び慕い、フールもまた素っ気無いながらもステラを可愛がっている。

 

「遊びましょうって言ってるじゃない! わたしは暇で暇で死にそうよ!」

「そ、それってむしろウサギさんの性質なんじゃ……」

 

お腹を押さえて小刻みに震えるフールを見下ろし、ステラが女王然とした気質でぷいと上を向く。

 

そんな仕草でも上品に見えるのだから、プードルというのは不思議だ。

 

「なんでも良いから遊ぶわよ」

「遊ぶって言っても、ここはまだそんなに娯楽が充実していませんよ。何をするんです?」

「……昼寝とか?」

「いや却下でしょ」

「なら日向ぼっこよ」

「遊ぶって意味知ってます?」

「クゥーン……」

 

ひっくり返った縁台を元に戻しながらフールは呆れたようにステラを見る。

 

ステラはフールの頭に飛び移って耳と耳の間を陣取ると、腹いせに耳の付け根をげじげじと甘噛みし始めた。

 

「じゃあお兄様は普段何して遊んでるのよ。教えなさいよ」

「はて。記憶にございませんが」

「……マジ?」

「私は時間さえあれば剣を振っていましたからね。恥ずかしながら、遊び方を心得ていません」

 

しれっと四杯目を啜りながらフールはしみじみと呟く。

今度はステラがフールをジト目で見やった。顔のパーツが付いている者の特権である。

 

流石に居心地が悪くなったのか、フールはコホンと咳払いすると苦し紛れの提案をした。

 

「……模擬戦、やりますか?」

「却下に決まってるでしょ。ていうか死んじゃうじゃない」

「まあ、そうなりますか。死んでしまっては困りますからね」

「そうねぇ……」

 

()()()()()()()()()()をぼかして明言しない辺り、お互い似た者同士という訳である。

 

ここまで来たら諦めろよとフールは思うが、何かにつれて遊びたがるのは犬の習性なので仕方がない。

 

手詰まりになったステラがうんうん唸っていると、遠くからこちらに駆けてくる人影が見えた。

それがミリムだと分かった瞬間、ステラは即座に人語を話すのを止める。

 

「げ、ミリムが来たわよ。お兄様が相手して頂戴……わんわん!」

「おやミリム様。如何なさいました?」

「おお! 二人とも来るのだ! ヴェルドラとワルプルギスがこれから戦うらしいぞ! 見逃し厳禁なのだ!」

 

ミリムはフールとステラを捕まえると両脇に抱えて地下迷宮(ダンジョン)に走る。

咄嗟の事に二人して顔を見合わせると、すぐに仕方ないかと諦めて為されるがままにした。

 

ステラは一度逆らおうとしたことがあるが、即座に拳を二発腹に貰って以来、ミリムに逆らうのは無意味だと身を以て知っていた。

 

暴君の名は伊達じゃないのだ。

 

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

「存在値の計測結果出たよー。って、うげぇ! ワルプルギスの存在値が2100万、師匠に至っては……8812万ン!?」

「うっわ、どっちもえげつないな」

「わははははは! 二人とも流石なのだ!」

 

地下迷宮(ダンジョン)の管制室で観戦しているリムル達は、リアルタイムで映し出される目の前の暴風竜と魔女の戦いに食い入るように見入る。

 

ラミリスが創造した地下迷宮(ダンジョン)は迷宮内に入った相手の存在値、つまり全体的な力、魔力、武具の含有エネルギー、そして精神力などを数値化することが出来る。

まだまだ粗削りの計測だが、これから精度を上げて行けばいずれ大きく役に立つとリムルは考えていた。

 

存在値の測定は今のところテンペストでしか行えないので、リムル達がその基準を設定した。

存在値が100万を超えれば超級覚醒者、つまり覚醒魔王クラスという分類がなされる。

 

だが、個人の技量などの要素まで数値化することは出来ないのであくまで参考程度の数値という扱いにはなる。例えばハクロウは、EPが自身の四倍以上の相手でも難なく勝利することが出来る。

それでも、敵の力量の大凡を知ることが出来るというのはそれだけでもアドバンテージだ。

 

「クアハハハハハハ!! なんだその技は!! まったく当たらんな!!」

『嫌になりますワネ。また一段とメンドクサくなりやがって』

 

妖気を全開にして暴れ回るヴェルドラの周りを、ワルプルギスは高速で飛行しながら無数の銃とサーベルで応戦する。

ワルプルギスに傷を付けることが出来ないのはいつものことだが、ヴェルドラもリムルと繋がったおかげで三百年前とは比べ物にならないほど攻撃も防御も強化されている。

 

どちらも決定打に成り得る攻撃を持たないまま、既に十分が過ぎていた。

 

破滅の咆哮(ストームブラスト)!!」

『ティロ・フィナーレ!!』

「うおおおおおティロ・フィナーレ!! ティロ・フィナーレ出たよおおおおお!!!」

「ちょっとリムル大丈夫?」

 

ヴェルドラの口から放たれたブレスと巨砲の光線が広間の中央でぶつかり合って相殺される。

 

爆炎によって一瞬塞がれる視界、その隙に煙の中から炎の槍を纏ったワルプルギスが弾丸のようにヴェルドラに突き刺さる。

 

「グオッ!? それは……!」

『懐かしいデショウ? 火だるま体当たりですワ!!』

 

小型化している今、使い魔は出せないし炎の槍の威力も十分の一以下。おまけに魔素量も十分の一以下。

あまりに不利だがその代わり、ワルプルギスには三百年前には無かった究極能力(アルティメットスキル)がある。

 

思えば初手でコレを撃てば良かったのだ。

それなりに魔素量を消費した今、生成に否応なく時間を掛けざるを得ない。

 

ヴェルドラ相手にそんな隙を作り出すのは至難の業だ。

 

だが体当たりによって体勢を崩し、壁際まで吹き飛んだ今なら。

 

『魔素量ギリギリ、ですワネ』

 

ワルプルギスの前に、太陽の矢。

 

かつてジュラの大森林を吹き飛ばした猛威が、直接ヴェルドラに向けられていた。

 

「舐めるでないわ! その程度、痛くも痒くも――」

『エエ、普通ならそうでしょうとも。でもここは地下百階、密室なのヨ?』

「あ」

『ティロ・アレステレ』

 

放たれた矢がヴェルドラに直撃して、内包するエネルギーが弾けた。

 

「ぐわああああああああッ!?」

 

極光と滅熱が百階層を満たして蹂躙し、迷宮全体が崩れんばかりに轟いて揺れる。

 

全てが収まった後には、白目を剥いて伸びているヴェルドラとそれを踏みつけるように体当たりしているワルプルギスの姿があった。

 

管制室を沈黙がしばし包み込み。

 

「ねぇねぇリムル。アタシの喧嘩を売っちゃいけない相手リストがまた増えたよ」

「奇遇だな。俺もだ」

「うはははは! あれはワタシでも痛かったのだ!!」

 

こうして三百年越しの戦いは、ワルプルギスの勝利で幕を下ろした。

 

ちなみにこの翌日、ピンピンしたヴェルドラが再びワルプルギスを引きずっていたことを記しておく。

 

 

 

 

 

 

そして準備は進み、テンペストにチラホラと見慣れぬ者達がやってき始める。

 

かつて無く、熱い季節。

 

祭りの季節が間もなくやって来ようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

若干詰め込み過ぎた感は否めないけどまあ良いでしょう。
ワルプルギスのおかげでリムルとギィが超早期に仲良くなりました。やったね。

ところでEPを出した訳ですが、ぶっちゃけこれは今後そんなに活用されません。
EPを活用できるほど器用じゃないんだ、俺。

とはいえ出さないのもいけないのでこのタイミングで早めに出しときました。

以下、主要なキャラのEPを書いておきます。下剋上は全然あり得る話なので、あくまで参考程度にどうぞ。

ハクロウ:EP18万
ベニマル:EP21万3000
シオン:EP22万4000
フール:EP100万
ディアブロ:EP666万6666
ギィ・クリムゾン(『世界』装備時):EP8000万
ヴェルドラ=テンペスト:EP8812万6579
リムル=テンペスト:EP300万
ステラ:EP8600万8600
ワルプルギス(逆位置):EP2億1753万2657

ところでフールの性別ってどっちだと思ってた?

  • なんと、二刀流
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