転生したら「ワルプルギスの夜」だった件   作:十二夜

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どうも、アンケート結果を見てひっくり返った作者です。

おおおお女!? 女だと思われてたの!?
作者の頭の中ではフールは完全にCV.小野大輔だったんですけど。小泉とセバスチャンを足して二で割った感じ。
そっかぁ……女剣士だと思われてたかぁ……。
でも考えてみれば当たり前か。一人称が「私」だし、名乗り口上がまんまマレニアだし。何故か誰もマレニアに触れてくれなかったけど(泣)

ぶっちゃけると作者の中では女剣士もアリだし、なんなら大歓迎なんですよ。
という訳でアンケートの最多票に従いましょう。そう、二刀流。
というのは冗談で、フールの性別は無性でいきます。無性。
お兄様でもお姉さまでも好きに呼べぃ! CVは知らん!考えるな感じろ!



陰謀の前夜

 

全五冊からなる、ワルプルギスが記した手記。

使用されている文字は既知の一切の言語体系に当てはまらず、読解は困難を極めている。

 

以下、第四冊の前半部分より抜粋。

 

××

 

やあ、私だ。

 

リムルが図書館を建ててくれた。

 

原作にそんなもん無かっただろって? だから私が頼み込んだのさ。

これがなかなかに大変だった。テンペスト開国祭への準備で大工が総動員している中、図書館という大きな建物を建てる余裕はほとんど無い。

だが、リムルが直々に依頼すれば話は別だ。

 

実は、リムルとは時々アニメ鑑賞会をする。

 

私の創造能力でテレビとプレーヤーとまっさらなDVDディスクまでは創り出せる。

あとはリムルがディスクを食って解析し、アニメ情報を焼き付ければ完成だ。

リムルは大層喜んでいた。

 

「映ってる! おまこれっ、シンジ君が映ってるぞおおお!!」

 

そうやって何回か鑑賞会という名の徹夜マラソンを繰り返し、ようやくリムルにお願いを聞いて貰えたって訳だ。

 

まあ、そんな事はどうでもいい。

 

重要なのは、これで私は白昼堂々と大手を振るって図書館に引き籠ることが出来るようになったという事だ。

誰の目にもつかない、隔離された場所にな。

 

もちろん図書館には大勢の人がやってくるが、彼らが私の姿を見ることは無い。

何故かって?

これまたリムルに頼み込んで、私だけの書斎を図書館の二階に作ってもらったからな。

これで人目には触れず、更に私を訪ねる者は図書館の中を通って二階に上がらなければならなくなり、その分だけ時間稼ぎができる。

 

時間稼ぎは重要だ。

なぜなら私はそこに居ないのだから。

 

最近はソウエイによる監視も無くなった。

自由に行動するには絶好の機会という訳だ。

 

とは言えリムルも馬鹿では無く、今はそれに加えてギィやミリムなども居る。

何も考えずに抜け出そうものなら一瞬で察知されるだろう。

だが、こちらには反則級の切り札がある。

 

はいこちら、切り札である宇宙的害獣のキュゥべえです。

 

「ひどいじゃないか。心外だよ」

《アラ、心なんてありましたノ? 害獣》

『は? 心無いだろ。害獣』

「キミたちはどうして僕が何か話すたびにフルボッコにして来るんだい? わけが分からないよ」

 

私が嫌っている以上にヨルはキュゥべえを嫌っている。もはや憎んでいると言ってもいい。

なんせ舞台装置の魔女はキュゥべえの直接的な被害者なのだ。その呪いの集積であるヨルの気持ちはさもありなん。

是非も無いね。

 

キュゥべえの姿は誰にも認知できず、なんの気配も放たない。

それを逆手に取って、私が放つ妖気を不自然にならない程度に『戯曲之神(シェイクスピア)』を使ってキュゥべえに分け与える。

するとあら不思議、たちまち混じりけの無いワルプルギスの妖気を放つ身代わりの完成ってワケ。

 

戯曲之神(シェイクスピア)』様様である。万能すぎるぜこの能力。

今のところ見せ場は無いが、『戯曲之神(シェイクスピア)』を駆使して戦闘すると非常に面白い戦い方も出来る。

まあ、それは後々お見せするってことで。

 

誰かが私を訪ねて図書館に入ると、キュゥべえは私にそのことを知らせてくれる。

私はそれを受け取ればすぐさま転移し、全力で気配を隠蔽しながら全速力でテンペストまで戻る。

 

そして何食わぬ顔で訪問者を出迎えるって寸法さ。顔無いけど。

 

そんな具合だから、ヴェルドラのことがマジで鬱陶しい。

あの野郎、歩くの速いしノックもせずに書斎に入って来る。

ヴェルドラが来るときはいつも間に合うかどうかギリギリになるのだ。

 

と、ヴェルドラの悪口は置いておいて。

 

そんなわけだから、今日はイングラシアのある都市に来ている。

 

都市の名前は……なんだっけな、覚えてねぇや。

 

そこそこに栄えている都市で、王都との経済的な結びつきも強いという。

頑丈なレンガで建てられた建物が整然と並び、大通りに面した露商店からは絶えず活気に満ちた商いの声が聞こえてくる。

放射状に広がる大通りの元となる都市の中央の広場には巨大な噴水が置かれ、その上からは都市全体を一望することが出来た。

 

そう、上だ。

 

私はなんと、噴水の上に浮遊して町を見渡している。

 

《見ろ! 人がゴミのようですワ!!》

(いやそこまで高くはないだろ)

 

日常に混じり込んだ明らかな異物、精神的にも物理的にも浮いている私の姿を見た人々はしかし、慌てることも無くまるでそれが当たり前であるように一礼してから通り過ぎて行く。

都市の治安を維持する役割を担う兵士でさえも、私に向かって一度頭を下げてから見回りを再開している。

 

私が何をしたのかって?

 

『絶望覇気』からの『希亡(きぼう)』という凶悪コンボをキメただけだよ。

 

私が『希亡(きぼう)』をリムルの『魂喰』よりも有用だと評した理由、それは魂を喰らうのではなくて支配するという能力だからだ。

 

魂を掌握し、好きに弄ぶことが出来るこの力は、その生物の有り様でさえも歪めることが出来る。

この程度の認識改変など、些細なことに過ぎない。

 

ではこんなことをして、何をするつもりなのかって?

 

実は人々の認識改変は副作用のようなものに過ぎない。本命はもっと魂の奥深くに刻んである。

 

それは……。

 

《ウフフ。それは時が来てのお楽しみというヤツですワ!》

 

そうだな。それが何なのかは、時が来るまでのお預けだ。

 

でも……せっかくだし私の行動目的を明かしておこう。

 

何故に私が今すぐ全世界へ向けて宣戦布告を仕掛けないと思うね?

答えは単純、面白くないからだ。

勝てるには勝てるだろう。そりゃそうだろう、なんせ私は不死身なんだから。

 

でもさ、相手は全世界なんだ。

 

共通の強大な敵が出来た時、敵の敵は味方理論で皆団結し始めるんだ。

魔王は手を結ぶだろうし、帝国と西側諸国も手を結ぶだろうし、なんならフェルドウェイ率いる天使勢もワンチャン私と敵対するかもしれない。

 

勝てるには勝てるさ。でも間違いなく数十回は死ぬ。

ゾンビアタックを仕掛けて勝ちをもぎ取るワルプルギスの姿が見たいかね?

私は御免被るよ。

 

私が求めるのは完全なる勝利だ。圧勝だ。

 

ルべリオスを消し飛ばし、ルミナスを穢し尽くし、不出来な世界を一掃する。そんな勝利だ。

 

かつて、舞台装置の魔女は運命の不幸を無くすため、この世の全てを戯曲に変えようとした。

しかし、実際にやったのはただの大量破壊。まったく目的に沿っていない。

まあ、仕方が無いだろう。それが魔女だ。舞台装置の魔女の中では、不幸を無くすことと世界を滅ぼすことは歪な等号で結ばれていたのさ。

 

だが、私ならその両方を真の意味で両立させることが出来る。

 

本能に従って滅ぼしながら、この世の全てを戯曲に変えることが出来る。

 

私が究極能力(アルティメットスキル)を獲得した時の世界の声を覚えているかい?

 

「制限と制約をかけ、再度試行します」、世界の声は確かにそう言った。

 

制限と制約だ。

私が持っている『戯曲之神(シェイクスピア)』と『月に嘆く最後の魔女(マギカ)』は、()()に制限と制約をかけた不完全なものでしかない。

ならば、求めるべきはその『何か』だ。

 

幸いにも封印されている時に色々試したおかげで、方法は分かっている。

 

大量の魂の獲得、結局はそれだ。

数は恐らくだが、約二億。

この数字は元の世界で舞台装置の魔女が殺した人数であり、ほむらが幾度となく繰り返した一ヶ月の分だけ被害者数が乗算されているせいで数が跳ね上がっている。

 

そして、三百年前のワルプルギスの夜で私が魔素に変換せずに残った魂の数が約1700万、加えてシュリスで約8000万。

合計で約一億個の魂が集まっており、残りは一億。

 

それを地道に集めて行かなくてはならない。

 

地道に集めなければならない事にも理由がある。

ぶっちゃけ今すぐ使い魔を解き放ってワルプルギスの夜を始めれば一億の魂なんざ数日で回収できる。なんならステラを使えば、ものの数分で回収できるだろう。

 

だが、それじゃあやはり面白くない。

 

舞台装置の魔女には役割があった。暁美ほむらの敵として立ちはだかる役割が。

繰り返すループの中で幾つもの事柄が変化していったのに、最後に舞台装置の魔女が見滝原町に出現することだけは決定づけられていた。

 

全ては舞台を完成させるために。

 

ならば、私もそうしよう。

『ワルプルギスの夜』として、そう在ろう。

 

この舞台は未だ第四幕。

 

終幕にはまだ早いさ。

 

そうだろう?

 

『ワルプルギス。今日もあの浅黒い大男が来たよ』

(ヴェルドラだよ害獣)

《名前すら覚えられませんノ? 害獣》

『ひどいよ』

 

さて、今日はこのぐらいにしよう。

 

この後はいつも通りにヴェルドラをぶちのめして、大人しく図書館で本を読んでから……さて、夜はどの国に行こうか?

 

私にとって夜は再び寝る時間じゃ無くなった。

 

最近はめっきり、夢を見ることが出来なくなったから。

 

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

開国祭、前夜。

 

いつもの宴会用の大広間に、リムルが送った案内状やミョルマイルが出した招待状に招かれた各国の重鎮が一同に会していた。

各々がテンペストに滞在した感想を交換し合っており、その内容は概ね好評のようだった。

慣れない習慣や様式に戸惑いながらも思い思いに寛げており、ほとんどの顔には満足そうな微笑みが浮かんでいる。

 

そして今、檀上に立つリムルに好奇の視線が向けられていた。

 

「えー本日はようこそお出で下さいました。ワタクシがこの度魔王となりましたリムルです」

 

人型となって着飾った今日のリムルは、どこからどう見ても絶世の美少女という姿に仕上がっている。

長い髪の毛を三つ編みにして肩へ流し、白を基調とした礼服は過度の装飾を排してシンプルながらも美のある上品さを漂わせている。

 

そんな美形が魔王として堂々と話しているのを見て、会場のあちこちから感嘆するようなため息が上がった。

 

「長話は苦手ですので早速始めましょう。グラスのご準備をお願いいたします」

 

そう言って手に持ったグラスを掲げるリムルを見て、会場の関心はこれから運ばれる料理の数々に向けられる。

 

それぞれがグラスを手に取って掲げると、リムルの言葉を今かと待つように視線が集まり、

 

「それでは、皆様のご健勝と今後の友好を祈念いたしまして。乾杯!」

「「「乾杯!!」」」

 

こうして前夜祭は穏やかな雰囲気の中で緩やかに始まった。

 

だが、何も問題が無いという訳では無い。

 

《……ダレも来ませんワネ。もっきゅもっきゅ》

(来て欲しいのか?)

《マサカ! もっきゅもっきゅ》

 

客人たちが一斉に料理に舌鼓を打っている中、手持無沙汰に部屋の端で一人肉まんを頬張っているワルプルギスには誰も近づこうとはしない。

料理を夢中で堪能しているように見えて、その実誰もが一定の距離を保ったまま遠巻きにワルプルギスを観察してはひそひそと意見交換をしていた。

 

「あれが魔女ですか……」

「かの魔王は暴風竜すらも手懐けていると聞いている」

「うむ。であれば魔女の方も、と考えるのが自然よな」

「しかしルべリオスの件が……」

「それでも現に今我々に害を及ぼしてはいない……お、おい! 誰か近付くぞ!」

 

静かな動揺が各国の要人の間に広がる。

 

誰かが器用にも囁き声で叫んだその言葉の通り、ワルプルギスに堂々と近付いていく人物がいた。

 

ワルプルギスは言わずもがなリムルにも疑われている今の状況で、どの面下げてここにやってきたのか割とよく分からないユウキ・カグラザカである。

 

「や、ワルプルギス。久しぶりだね」

『うっわ』

 

片手を上げて気さくに挨拶して来たユウキに、ワルプルギスは胡乱な表情を向ける。

 

ヨルはこの男が好みでは無かった。

まあ、誰が好きなんだと言われればそれまでだが。

 

『懲りずに何しに来たんですノ? ドМですノ?』

「あっはは、この前の事は僕も反省しているよ。本当だぜ? なんなら謝ったって良い」

『要りませんワ。それで?』

「仲直りだよ、仲直り! 君が何を考えているのか知らないけど、君の目的がリムルさんにバレたら今は不味いんだろ? それは僕も同じだよ。だから、僕は君の事をチクらない代わりに、君も僕の事については黙っていてくれよ」

『……なんかアナタにとって都合が良すぎませんコト?』

「それぐらい大目に見てくれよ、別に構わないだろう? どうせ君は僕をどうとでも出来るんだから。ここはひとつ、頼むよぉ」

 

ユウキは両手を合わせ、ウィンクしながら舌を出してワルプルギスを見上げている。

美少年がやるとなぜか様になっているのが癪に障る。

 

とはいえ、元からリムルにユウキの事を話す気などさらさら無かったワルプルギスは、さっさと会話を切り上げたくてぶっきらぼうに頷いた。

 

『良いですワヨ、別に』

「本当かい!? いやあ、さっすが! 話が分かるじゃないか!! じゃ、僕スシ食ってくるから」

 

ユウキは満面の笑みを浮かべてワルプルギスの細い二の腕をバシバシ叩くと、巨大怪魚を捌いていたハクロウの元へ向かって行った。

 

「僕はワサビ有りで握ってくれよ! 子供じゃないからさ!」

 

先にワサビ抜きの大トロ握りを慎ましく食べていたヒナタの隣を陣取って座ると、ユウキの口から流れるような勢いでお子ちゃま煽りの数々が飛び出す。

ヒナタは神速の突きを以てユウキの口に生ワサビを突っ込んだ。ユウキは悶えた。

 

腕をさすってその姿を眺めながら、ヨルはぽつりと呟く。

 

《ワタクシ、やっぱりあの野郎がいけ好きませんワ》

(私はそうでも無いけどな。逆にヨルは誰だったらいけ好くんだ?)

《…………。ア・ナ・タ♡》

(もしもしポリスメン?)

 

ポリスメンは来なかったが、代わりにフレイやカリオンを引き連れたミリムが丁度その時会場に姿を現した。

華々しい一行を見て会場からは驚きの歓声が上がる。

 

ミリムは一言二言リムルと会話を交わすとミッドレイをリムルに押し付け、タタタッとワルプルギスの方へ駆け寄って来る。

そして、そのまま勢いを付けて飛び込んで来た。

 

『モアイッ!?』

 

受け止め切れずに膝が腹部にめり込んだ。

 

「ワルプルギス! ついにミッドレイを改心させる日が来たのだ! そんなところで立ってないで一緒に料理を食べに行くぞ! わはは!」

『わ、分かりましたワ。分かったからちょっと待って……』

 

もちろんミリムが待つはずも無く、手をぐいぐい引かれてワルプルギスは別室に消えて行った。

 

 

 

 

 

 

ミッドレイが改心し、宴会も盛り上がってきた頃。

 

何の前触れも無く、突如それは起こった。

 

「た、大変です! 天帝が!!」

 

何処かの国の従者がそう叫びながら大広間に転がり込んできた。

 

いったい何事かと訝しむ要人達の咎めるような視線を受けて、その従者は乱れていた息を整えると改めて報告しようとして――

 

「た、大変でございます! エルメシア・エル・リュ・サリオン陛下その人がこの地に降り立ちましてございます!」

 

新たに駆けこんで来た別の国の従者が、言葉を被せるように一息に叫んだ。

それを皮切りにまるで雪崩のように様々な国の兵士や従者が駆け込んできては必死の形相で口々に叫び散らかす。

 

「たった今、右足を前に踏み出されましたあ!」

「い、息を! 呼吸をしています!」

「ああ! う…美しすぎます!」

「キェェェェェェアァァァァァァイマシャァベッタァァァァァァァ!!」

 

たちまちの内に場は大混乱に陥った。

 

魔導王朝サリオンは2000年の歴史を持つ世界有数の大国。

エルフ十三王家を従える古いエルフ王朝を主軸にした国家体制、その頂点に位置する皇帝。

そして何より、2000年前に国を興したのは天帝エルメシア自身であった。

 

つまり、エルメシア・エル・リュ・サリオンという名はこの世界で最も尊く重い名前の一つである。

 

王族と言えど普通なら一生涯かけても会えないような人物が、今大広間に足を踏み入れて姿を現した。

 

途端に、騒がしかった会場がまるで魔法でも掛けられたかのように静まり返った。

エルメシアとその従者たちの規則的な足跡だけが部屋に大きく反響している。

 

(……)

 

観ている。

観られている。

 

その気配を察知したエルメシアは前を向いたままチラリと横を向き、こちらに顔を向けているワルプルギスと在りもしない視線を合わせた。

 

「………」

 

ワルプルギスの薄ら笑いからは一切の感情が読み取れない。

エルメシアはすぐに興味を失ったように視線を外すと、十数人は居る従者を引き連れてリムルの前まで歩を進める。

 

「そなたが魔王リムル殿か」

「あ、はい!」

「招待、ありがたく頂戴した。朕は嬉しく思う」

「こ、こちらこそお、おあいできてこうえいですへいか」

 

自分で招待状を出しておきながら、エルメシアの凄さを先程ガゼルから教えられて今更ながら緊張しているリムルである。

 

とても魔王とは思えないその姿を見たエルメシアは柔らかく微笑むと、リムルを手招きしてその耳に囁く。

 

「少し、時間を作って欲しいわ。堅苦しくない場で、本音で相談したいことがあるのよ」

「え……?」

 

リムルが何か反応を返す前に、エルメシアは顔を上げると再び良く通る声でリムルに言った。

 

「明日からの祭りとやらも楽しみにしている故、せいぜい朕を楽しませてたもれ」

 

エルメシアはそう言うと、周りからは見えないようにこっそりリムルにウィンクを飛ばす。

 

(なるほど。今のが天帝の素顔、か)

 

適応だけはすこぶる速いのがリムルだ。

 

その意図を受け取ったリムルも周りから見えないように満面の笑みでこっそりサムズアップした。

 

エルメシアの傍に控えていたエルラドの顔色が悪くなった。

 

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

前夜祭が終わり、明日の開国祭へ向けて町の人々が寝静まった頃。

 

大広間に隣接した接客用の来賓室の中でリムルとエルメシア、エルラド大公爵が向かい合って座っていた。

 

リムルの後ろには秘書としてシオンが控えており、シュナが給仕の役割をこなしている。

一見張り詰めた空気にもなりかねない状況だが、実際はむしろ真逆と言っても良かった。

 

なんせエルメシアの第一声が「なんか美味しいお飲み物いただけるかしらあ」である。

 

「……えっと、エルメシア様」

「いいわよう、様付けしなくても」

「じゃあ、エルメシアさん。相談したい事とは……?」

「簡単な事よ。今回のようなお祭りを企画するなら、是非とも誘って欲しいのよ。こんな面白いことを私抜きで企むなんて許せないわぁ」

「………え?」

「だってこんなに面白いのよぅ? 次回もきっと楽しいし、面白いに決まっているわあ。私は楽しいことが何よりも好きなの! その上、関われたら大満足よ。ねっ、エラルド!」

「はは……へ、陛下の仰る通りですね……」

 

(この女の人となりが分かって来たな)

 

そんなエルメシアを見て、リムルは警戒度を二段階ぐらい下げる。

 

エルメシア個人と良好な関係を結ぶことは、ともすれば国同士の関係をも凌駕する。

拒む理由は無いだろう。

 

これから仲良くやっていけそうだ。

今度ミョルマイルに引き合わせてみよう。

 

「願っても無い話です。こちらこそ、今後ともよろしくお願いします」

「うふふ、よろしくねえ」

 

リムルとエルメシアが固く握手を結ぶ。

 

だがこれで話は終わりかと思いきや、エルメシアはもう一度ソファーに座り直すと、リムルに真正面から向き直った。

 

「でも、その前に一つ良いかしらあ?」

「え、はい。なんです―――ッ!?」

 

リムルの目の前に天帝エルメシア・エル・リュ・サリオンが座していた。

 

「朕は一つ、貴殿の考えを聞いておきたい。よいな?」

「……うかがいましょう」

 

リムルも気を引き締めると、魔王としての風格を最大限に引き出す。

互いに数秒間見つめ合い、エルメシアは口を開いた。

 

「では答えよ。貴殿はあの悪魔をどう処するつもりだ? 危険極まりない原初を」

「へ?」

 

魔王の風格が霧散した。

 

(悪魔ってディアブロの事だよな? げ、ゲンショ? ゲンショってなに???)

 

密かに困惑するリムルを見て、エルメシアは一呼吸入れると再び口を開く。

 

「聞き方を変えよう。あの悪魔が暴走したら、貴殿はどう責任を取るつもりじゃ?」

「えっと……そりゃあ暴走する前に止めますよ。元々俺の言うことは聞くヤツですし、最近じゃ言外の意図まで酌んで動いてくれますから、暴走なんてしないと思いますがね」

「ふむ……。では、魔女に関しても同様か?」

「………ええ。あいつも―――」

「貴殿」

 

リムルの僅かな動揺が瞳の動きに現れていたのが良くなかった。

それを読めないエルメシアではない。

 

エルメシアは手を振ってリムルの言葉を遮ると、その身体から放たれる圧力が一段と強くなる。

 

「朕の前で偽りを述べる気か、貴殿」

「っ……! 謝罪します、エルメシアさん。分かりました。俺の考えを教えますよ」

 

暫く迷ったリムルは、誤魔化しがきかないと思ったのか素直に話すことを決意する。

リムルは口を開こうとして、しかしまたもやエルメシアに止められた。

 

「待て。―――そこで聞いておるのだろう? 入るが良い」

「え?」

 

圧力を収めたエルメシアが、いきなり部屋の外に向かって言葉を投げかける。

 

すると扉の向こうから驚いたような気配が伝わり……観念したのか、扉が押し開けられた。

 

ユウキが部屋に入って来た。

 

「さすが天帝、気配を完全に消したと思ったんだけどなぁ」

「おまっ、ユウキッ!? 先生!!」

《告。7分23秒前から部屋の外に居ることは把握していましたが、危険度は低いと判断して報告しませんでした》

(せんせぇ~~!!)

「盗聴とは悪趣味だな、ユウキ・カグラザカ。朕らに弁明はあるか」

「まあまあ、そう睨まないでよ天帝さん。リムルさんも。聞き耳立ててたことは謝るけど、僕はむしろ助けに来たんですよ?」

 

悪びれた様子も無くユウキは肩を竦めてのうのうとそう宣うと、澄ました顔で部屋の中を歩き回って空いている椅子に座る。

 

そのまま傍若無人に足を組むと、エルメシアとリムルの顔を交互に見渡した。

 

「僕は一度、ワルプルギスと戦った。結果は惨敗だったけど、その代わりヤツの目的とおおよその思考方法を知ることが出来た」

 

微笑を消して真剣な顔になったユウキが、身を乗り出して告げる。

 

その顔はリムルを見ていた。

 

「リムルさんの推理した通りだ、今までの事は謝るよ。だから、協力しよう。そうじゃなきゃ、世界が終わるぜ?」

 

ユウキ・カグラザカは天才である。

 

それは本人が、誰よりもよく自覚していた。

 

 

 

 

 

 

一方その頃。

 

時を同じくして、ワルプルギスはミリムに呼び出されていた。

 

場所は町外れの森林の中。少し前に合流した二人は、かれこれ10分も森の中を当てもなく散歩していた。

 

会話は無い。

ミリムが呼んだのだから何か用事はあるんだろうが、ワルプルギスの方はその用事に見当もつかない為ミリムが口を開くまで話しかけないつもりでいる。

 

このままではいけないと思ったのか、ミリムは立ち止まるとワルプルギスの名前を呼んだ。

 

「ワ、ワルプルギス!」

『ハァイ。なんですノ?』

「違う。オマエじゃないのだ。ワルプルギスの方なのだ」

『……分かった。どうしたんだ、ミリム?』

 

ワルプルギスも立ち止まると、ミリムの隣に並んで次の言葉を待つ。

 

何か言いづらい事でもあるのか、ミリムは困ったように指の先を合わせると必死に言葉を探す。

 

「う、うむ……えっとな……その、だな……」

『らしくないじゃないか。別に気にしないから、そのまま言いたい事を言えば良いさ』

 

その言葉を聞いて、ミリムは覚悟を決めたようにワルプルギスを見上げると、恐る恐る口を開いた。

 

「わ、分かったのだ……! 怒らないで欲しいのだぞ!」

 

言って、ミリムはえいやっと一息に訊いた。

 

眉毛はまだ不安そうに垂れてはいるが。それでも。

 

「ワルプルギスは、今もこの世界を滅ぼしたいのか?」

 

そう、訊いた。

 

『っ………』

 

想定外の質問に一瞬、ワルプルギスが言葉に詰まる。

冷たい夜の風が二人の沈黙の間を吹き抜けた。

 

この時二人は気付かなかったが、遠くの木の上から二つの赤い瞳がミリムの震える背中を見ていた。

 

木枝に登ったその生物の赤い瞳は無感動に、無感情にミリムをジッと見つめている。

 

永遠の少女を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

土曜日から掲載しているのでご覧になった方も多いでしょうが、ネコと和解せよ様よりなんとファンアートを頂きました!! やったああああああああ!!!!

【挿絵表示】

もうね、嬉しくて嬉しくて土日は何にも手に付かなかった。
上手過ぎない? 完璧。デザインとか普通に神。プロかなって。俺に送ってる場合じゃ無いと思う。SHAFTに送った方が良いよ、マジで。

投稿頻度が下がっていることに関しては、ごめんなさい。
大学のテストが迫っているんです……。あと一単位でも落としたら詰むんですよ俺は……。
でも安心してください。
完結はさせますよ、絶対。
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