転生したら「ワルプルギスの夜」だった件   作:十二夜

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にょっす!(気さくな挨拶)

いやあ、二日後には「ワルプルギスの廻天」が公開されますねぇ。
恐いですねぇ。
どんな新情報が飛び出してくるか、作者は戦々恐々に怯えていますよ。
少しの新情報でも、この作品がカスの二次創作になりかねないですからね。
しかしッ、観ないという選択肢は無いッ!
取り入れないという選択肢も無いッ!
映画如何でいくらでも設定を付け足す所存である!!

え? まずは投稿間隔が空いたことに対するコメント……?

…………。

世界は、私を赦さない。




ユウキ・カグラザカは天才である。

 

武闘大会の上位四名が出揃った。

 

ディアブロ、ベニマル、ハクロウ、ゴブタである。

 

そう、ゴブタである。

 

仕方がないとはいえ、ゴブタ如きに負けた事になったシオンは大層悔しがったが、リムルの「お前は俺の秘書だから!」の一言で完全に機嫌を取り戻した。

ゴブタは命拾いをした。

 

準決勝第一試合のディアブロVSゴブタは結果を見るまでも無くディアブロの圧勝。

 

第二試合のベニマルVSハクロウの師弟対決は、シオンとの戦いに負けず劣らずの大接戦の末、再びハクロウの勝利となった。

 

そして観客の熱量と声援が最高潮に達する中、ついに決勝戦が始まった。

 

ディアブロVSハクロウ。

 

二人は闘技場の中央で静かに向かい合ったまま、微動だにせず互いを見つめている。

 

「なあベニマル。この戦い、どっちが勝つと思う?」

 

この試合に最も関心を向けているのは、間違いなく特等席に座る面々だった。

 

身に秘める存在値でテンペストの全てを凌駕しているディアブロ。誰よりも高く剣の境地に座するハクロウ。

 

この試合でどちらが勝利したとしても、文句なしでテンペスト最強の称号が与えられるだろう。

 

力のディアブロか、技のハクロウか。

 

全体を俯瞰できる中央の席に座るリムルが、隣のベニマル達に顔を向けて勝敗の予想を聞く。

 

「俺は互角だと思うんだが、どうだ?」

 

ベニマルは一瞬何かに迷うように顔を強張らせたが、大きく息を吐くと視線を闘技場からリムルに移した。

 

「……俺には分かりません。じぃやが負けるとは思いませんが、ディアブロは出鱈目に別格です。どちらが勝ってもおかしくはないかと」

「ふん! 何を言っているのですかベニマル! ハクロウが負けるはずありませんよ! ソウエイもそう思いますよね!」

「……そうだな。俺も同意見です、リムル様」

 

ハクロウと特に親しい関係にある者の間ではやはりハクロウが人気か。

 

リムルがそう思ったその時、賓客席に座っていたガゼルがヌッと顔を出して会話に入り込んで来た。

 

「俺だってそう信じたい。だが、いくら剣鬼殿といえど、『原初』の相手は厳しかろうて」

 

突然のガゼルの言葉に驚きながらもリムルは軽く頷き、後ろに座るワルプルギスに話しかけた。

 

「ワルプルギスは?」

『ワタクシ?』

 

ハクロウが試合に出てから、今まで大した反応を示さなかったワルプルギスの意識が急にハクロウに向いたのはリムルにも分かっていた。

ある意味この試合に最も興味を示しているだろうワルプルギスならもちろんハクロウと答えるだろうと思っていたリムルの予想は、すぐに裏切られることになる。

 

『ディアブロですワネ。ディアブロが勝ちますワ』

「…てっきりハクロウと答えるかと思ったよ」

『……きっとディアブロですワ』

 

やけに強い自信をもって言い切ったワルプルギスを訝しみながらも、実はリムルも内心では同意見だった。

 

ハクロウが弱いという訳では無い。

ただ、ディアブロが強すぎる。

 

『智慧之王(ラファエル)』による脳内シミュレーションでも、ハクロウ相手にディアブロは常に勝率8割を保ち続けていた。

 

「ワタシはそう思わないのだぞ! な、フール!」

 

ミリムの一声によって、場の視線がフールに向く。

 

フールは動じた様子も無く視線を闘技場の中央に向けていたが、おもむろに短く予想を告げた。

 

「どちらにせよ、試合は一瞬です。あの領域の強者同士の戦いが長引くことはまずありません。決着は、すぐかと」

「ああ、オレもそう思うね」

 

更に隣に座るギィからも、フールに対する同意の声が漏れる。

 

「その上でオレは、ハクロウに賭けるぜ。原初の黒(ノワール)……いや、ディアブロにとってはやりにくい相手だ。あとふつーにアイツが負けるところが見てぇ。ほら、始まるぜ」

 

ギィがそう言うのと、試合が始まるのは同時だった。

 

「それでは最終試合! 決勝戦、始め!!」

 

響くソーカの掛け声に、特等席にいる各々の意識が試合に向けられる。

 

一瞬の勝負が、始まった。

 

 

 

 

 

 

「クフフフフ。まさか貴方と戦うことになるとは思いませんでしたよ、ハクロウ」

「ふぉっふぉっ! ワシもじゃよ。『原初の悪魔』に胸を借りるつもりで、挑ませて貰おうかの」

 

今から戦う者同士とは思えない程に穏やかな空気が流れている。

 

ディアブロもハクロウも、己の得物どころか戦意さえ見せずにまるで雑談するような気軽さで会話を重ねて行く。

 

「しかし、貴方と戦えるのはむしろ幸運かもしれませんね。実は私も気になっているのですよ。剣の高みまで上り詰めた貴方が、どれほど強いのか……とね」

「ワシなんぞまだまだじゃよ。剣の高みと戦いたいのなら、ほれ、あすこに座っている師と戦う事をお薦めするぞ」

「フール……貴方の第二の師ですか……」

 

ディアブロは一瞬ハクロウから視線を外してフールに目を向けたのち、再び眼前に視線を戻して肩を竦めた。

 

「クフフフ。止めておきましょう。あのぬいぐるみとは、余程の事が無い限り戦いたくはありません。ギィに嫉妬されてしまいますからね」

 

会話が途切れ、しばしの沈黙が場に下りる。

 

「……始めようかの」

「スマートな勝負をしましょう」

 

そして両者ほとんど同時に戦意を練り上げ、殺気を開放してぶつけ合った。

 

互いの初手は見えている。己の手が読まれていることも分かっている。

それでも、まるで不文律のようにそれを変えるつもりは無かった。

 

小細工や小手調べは無駄。

 

初手の一撃から最大最強の切り札で挑むのが正解だと、どちらも理解していた。

 

「それでは最終試合! 決勝戦、始め!!」

 

ソーカの掛け声と共に、戦意は最大まで膨れ上がる。

 

『天空眼』によって、ハクロウの額に第三の眼が開く。

 

全く同時に、二人は叫んだ。

 

「絶望の時間(ディスペアータイム)!!」

「鳥葬」

 

ディアブロの声が聞こえ、景色の全てが消え去った。

 

いや、景色という概念すらなくハクロウの周囲が白一色に染まる。

 

仮想世界を具現化させたこの場所の中では、ディアブロが絶対権力を司る。

今やハクロウの生死でさえディアブロの手中であり、この技が発動した時点で決着は着いた。

 

はずだった。

 

「―――」

「崩壊する(エンド・オブ)――クフッ! コ(・)レ(・)すらも斬りますか!! ハクロウ!!」

 

僅かに抜き身のハクロウの刀、その刀身から飛び立った白い斬撃が世界を四つに斬り捨てる。

 

仮想世界が反転し、現実に戻ったハクロウの目の前にしかしディアブロは既にいない。

 

「脇が甘いですよ!」

「……ッ!」

 

右手を漆黒の鉤爪に変化させたディアブロが、ハクロウの背後から首筋めがけて腕を振り下ろす。

 

肉など容易く抉り取るだろうその一撃をハクロウは僅かに重心を移動させて回避し、その勢いのまま右足ごと身体を回転させてディアブロの懐に沈み込む。

 

宙を空振ったディアブロの右手が続けざまに魔法を放つのを目の端で捉えつつ、鋭く伸びた鉤爪となって迫る左手に向けてハクロウは鞘に添えた空手を割れんばかりに握り込むと、澄んだ音と共に鯉口を切った。

 

「っ……!」

「ッチ―――!!」

 

避けようの無い神速の居合が、物理攻撃無効のはずのディアブロの左腕に食い込む。

 

そして白閃と共に、鉤爪となったままの左腕が付け根から断たれて高く宙を舞った。

 

「――――ッ!!」

 

しかし、一筋の闇。

 

残った右手から迸った漆黒の魔力の奔流が、動作を終えた直後でありながら回避のために距離をとったハクロウの腹を大きく貫いて穴を開ける。

 

「ぐうっ!?」

 

幸いなのは、周りの肉もまとめて焼き焦げたが為に零れ落ちる中身や血が無かったことか。それでも腹を焼く想像を絶する痛みに、ハクロウは思わず呻く。

 

これを隙と見たディアブロは、左腕を飛ばされたことなど微塵も気に留めずに追撃に動いた。

 

たった一歩の踏み込みで姿が掻き消え、僅かに動きの鈍ったハクロウの眼前に向けて瞬時に肉薄する。

 

間合いを踏み潰し、残った右腕を高らかに掲げたディアブロの手に、歪な黒い刃が噴出するように出現した。

 

まるで死神の鎌のような、長く湾曲した三本の鋭い両刃の剣がハクロウの頭上に影を落とす。

 

「生命の収穫(エンド・オブ・シザーズ)!!」

「ぬぅ……っ!」

 

全ての生命を刈り取るディアブロの鋏、その振り下ろされる一瞬を、何も無いはずの空中にて白い火花と共にハクロウの『刃』が真っ二つに斬り裂く。

 

続く真刀。

 

鞘に納めた刀を弾き、親指で鯉口を切る。

 

だが、ハクロウの抜刀術を警戒していたディアブロは既に間合いの外側まで退避しており、居合の後隙を狙うための準備に入っていた。

 

これでは当たらない。

 

それでも、一度動き始めた身体はもう止まらない。

 

「だめです! あのままでは!」

「じぃや……!」

 

全ての動きを目で捉えていたベニマルとシオンが思わず叫ぶ。

 

ハクロウの動きは斬撃を飛ばす技の動きでは無く、したがってこの一撃は必ず空振る。

この局面で一刀を空振る損失は計り知れない。恐らくハクロウは、その後のディアブロの迎撃に耐え切ることが出来ない。

 

ディアブロの勝ち。

 

誰もがその未来を見た。

 

ただ二人を除いて。

 

「皆様は少々、剣の高みに至ったハクロウ殿を舐め過ぎです」

 

始まりは、ハクロウの背後に散った小さな火花だった。

 

一つだけかと思われたそれは、まるで連鎖反応を起こしたかのようにどんどん数を増やし、瞬く間にハクロウを取り囲む。

 

「ォォオオオオ――ッ!!!」

 

ハクロウが吼える。

 

それに呼応するかのようにハクロウの周囲に白い火花が一斉に乱れ咲き――その場の全員の予想を覆した。

 

全身を用いた抜刀の斬撃が、刀身を遥かに超えて伸(・)び(・)て(・)見えたのだ。

 

「……まさかとは思ったが、ありゃ見覚えのある技だな?」

「うふ。ハクロウ殿は凄いでしょう。ギィ」

 

その技は、ただ『刃』を掴むだけではたどり着けない。

 

剣を己の一部と為し、『刃』を己の拡張と為し、纏わせた『刃』にて届かぬ所までを、どこまでも遠くへ一刀両断する。

 

極限の集中の中で、ハクロウが見せた二度目の開花。

 

更に上の、剣の領域。

 

「月影!!」

「っ………!?」

 

今度は、ディアブロの反応が一拍遅れた。

 

ズバンッ!

 

間合いも距離も全てを無視して、青白い残光が横一線にディアブロの身体を撫で斬る。

 

夥しい量の鮮血が飛び散って眼前を覆い尽くし、勝敗の予感が確信に変わる。

 

『刃』とは『斬るということ』。それは斬撃そのものと言ってもなお不足し、まともに受ければ如何に原初の悪魔であろうと致命傷は避けられない。

 

審判のソーカはただちに治療が必要だと判断して勝敗を宣言しようとしたが、言葉を発する前にソレを見て固まった。

 

闘技場の中心で、漆黒の繭が弾けた。

 

「まだです……。私は……勝たなければならない……。リムル様の御側に……リムル様に、私の勝利を!!!」

 

ディアブロは、まだ立っていた。

 

反応が遅れたならば、遅れたなりに打つ手はある。

絶死の斬撃が届くその刹那、回避を諦めたディアブロは瞬時に絶望の時間(ディスペアータイム)にて仮想世界を展開、そのまま現実に反映させることで自らの前に局地的な多重世界を作り出した。

それを盾として斬撃が多重世界に食い込んで僅かに減速した隙を狙い、身体を包み込むように悪魔の翼で己を覆った上で魔素を使って繭のように囲むことで致命傷を避けたのだ。

 

しかしそれでも翼は大きく裂け、腹部へ引かれた赤い線からは今もなお血が滝のように流れ続けている。

 

既に両者肩で息をしており、体力は限界、次の一手がこの試合の最後の時だと言葉にせずとも互いに理解する。

 

「クフ、クフフフフフ。貴方に敬意を払いますよ、ハクロウ。ですが、終わらせましょう。勝つのは私です」

「ワシも、あやつらに無様な所は見せられぬからな。ディアブロよ、我が剣に沈めぃ」

 

一瞬の視線の交差、その間に言うべきことは終えた。

 

「行きますよ!!」

 

ディアブロが指を鳴らすと同時、周りの時間が止まった。

 

ありとあらゆるものが停止した世界の中で、抗う術を持たないハクロウに出来ることは無い。

 

初めからこの戦法を取らなかったのは、単にディアブロが小賢しい戦術を嫌ったからだった。

しかし、もはやそのような事にこだわっていて良いような相手ではなくなった。

それはある意味、ディアブロがハクロウに贈る最高の賛辞なのかもしれない。

 

「絶望の時間(ディスペアータイム)……さて………ッ!?」

 

ハクロウに為す術が無いことを知っていても、それでもディアブロは油断せずに次の一手を打とうとして、驚愕に目を見開いた。

 

「………ち…………」

 

たった一つ、だが確かな白い火花が散った。

 

動かないはずのハクロウの口が言葉を紡ぐ。

 

「千鳥」

 

瞬間、幾千もの『刃』がハクロウの刀身から羽ばたき飛び立った。

 

その密度は既にフールの技と比べても遜色は無く、一分の隙間も無くハクロウの周囲を取り囲む。

 

そして、ハクロウが動いた。

 

「その斬撃…まさか停(・)止(・)し(・)た(・)時(・)間(・)を(・)斬(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)というのですか!? 無数の斬撃を身に纏わせることによって、半ば無理やりに止まった時の中を動くなど!」

「見ただけで理解するか、流石じゃな!」

 

驚きながらも、ディアブロは攻撃の手を止めない。

 

既に技の準備は終え、あとは放つだけでいい。

 

「崩壊する世界(エンド・オブ・ワールド)!!」

 

展開された仮想世界の崩壊と共に圧倒的な世界崩壊のエネルギーがハクロウを襲う。

 

受ければひとたまりも無いのは明白、ならば、斬り捨てればよい。

 

一直線に並ぶように左足を前へ、軸足を後ろへ回し、左手が添えられた刀身を目線の高さへ、右手を極限まで引いて引き絞る。

 

ハクロウが選んだのは突き。

 

例えこの身が崩れようと、刃さえ届けば勝機はある。

 

だが、今この場では明らかに悪手。いくら貫通能力に優れた技であろうと、全方位から攻撃が迫っている状況ではディアブロに届く前に必ず技に呑み込まれる。

 

早まりましたか。

 

冷静に彼我の距離を分析したディアブロが勝利を確信した時だった。

 

ハクロウの動きが変わった。

 

「八重桜(やえざくら)――」

 

本来その後に続く八華閃は、『朧流』秘奥義の中でも極一部の者にしか伝授されない技。

かつての師が使っていた技を見様見まねでハクロウが習得した、最高奥義。

流れるような千差万別な連続斬りで、一瞬で相手を八度斬り刻む。

 

つまりそれは、突きを始手にも出来るという事。

 

しかし八華閃は既にディアブロに見られている。

 

ならばハクロウがやるべきことは。

 

今、ここで。

 

師を超え、見様見まねを超える事である。

 

「――白耀閃(はくようせん)」

 

白い火花の蕾が、大輪と花開いた。

 

八つの花弁を持つ巨大な白い桜花がハクロウを中心に広がり咲き、花びらが含包した万物を塵となるまで斬り刻む。

 

大輪の花は世界崩壊と僅かに拮抗したのち、相殺する形でディアブロから生まれた漆黒の全てを吹き飛ばした。

 

初めの突きは、ディアブロに判断を誤らせるためのフェイント。

 

それは確かに成功した。

 

しかし。

 

「―――ッ!!」

「っ――!」

 

崩壊する世界(エンド・オブ・ワールド)もまた、目くらまし。

 

漆黒が晴れたと同時にハクロウの視界に飛び込んできたのは、最初と同じ、右手を鉤爪に変化させたディアブロだった。

 

「「―――」」

 

それでも神がかり的な反応速度により、迎え撃つハクロウ。

 

二つの影が合わさり、一つの甲高い音が響き……。

 

そして世界は再び動き出した。

 

観客が見たのは、ディアブロの首筋に刀を突きつけるハクロウと――粉々に砕け散ったその刀身だった。

 

一方、ディアブロの手はハクロウの胸を貫通しており、その鉤爪からは血が滴っている。

 

「……あと、一歩及ばなかったか……。ワシの今の力量を教えてくれて、感謝しますぞ……ディアブロ」

「クフフフ。生まれて初めて、ここまで敗北に瀕しましたよ。誇りなさいハクロウ。貴方はこの私を追い詰めたのです」

 

腕を引き抜かれたハクロウが気を失って地面に崩れ落ちる。

 

ディアブロも膝を突き、肩で荒い息を吐いていた。

 

「え、えーっと……。最後はよく分かりませんでしたが、ディアブロ選手の勝利です!! ていうか、早く治癒を!!」

 

ソーカが高らかに宣言し、この瞬間、優勝者が確定した。

 

「うおおおお! 凄かったのだ!」

「ああ、見事な戦いだったな。賭けてはいたがハクロウ、まだまだ化けるぜ。良い配下じゃねぇか、リムル」

「もちろんだ。俺の自慢の仲間だからな。……ん? どうしたんだワルプルギス? やたら安堵してるみたいだけど。お、おい、なんで目も無いのに泣いてんだよ! おい! なんで俺に抱き着くんだよぉ!!」

 

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

開国祭が終わり、数日が経った頃だった。

 

迷宮運営に明け暮れるリムルに一つの知らせが届いた。

 

それは各地に散らばったソウエイの分身からの情報であり、間違っていることは有り得ない。

 

しかしリムルは己の耳を疑った。

 

ヒナタが、ユウキに殺害された。

 

しかもユウキは、歴代最強と称される勇者を操っている。

 

(なんで……どうしてだよユウキ!)

 

リムルは愕然たる気持ちで前夜祭の夜の会議を思い出していた。

 

エルメシアとリムルとユウキの三人が密かに行なった会議で、ユウキは一時的にこちら側に付くとはっきり宣言してくれた。

 

リムルはその言葉を信じたのだ。

 

信じて、いたのに……!

 

「今すぐ皆を集めてくれ。緊急事態だ」

 

これにより、リムルを巻き込んだ世界動乱の時代が始まる!

 

 

 

 

 

 

「……ってな感じのサプライズだよ」

「ユウキお前ざっけんなよおおおおおおおおお!!」

 

翌日の会議室の中で、リムルは映像結晶に映るユウキの笑顔に向けて叫んだ。

 

同室しているのはルミナス、クロエ、そしてヒナタである。

 

「妾にもサッパリじゃ。いつの間にかクロエが棺ごと消えておると思えば、怒る間も無くいつの間にか死したヒナタと目覚めたクロエがおり、そしていつの間にか妾はヒナタを蘇らせておった」

 

とは、ルミナスの言である。

 

「ほら、これで戦力増強だろ?」などと供述しているユウキに一通りキレ散らかしたあと、リムルは当のヒナタとクロエに話を聞くことにした。

 

やたらくっついて来るクロエの話を超要約すればこうだ。

 

曰く、クロエは何度も何度もリムルを救うために時間遡行を繰り返しており、輪廻の基点となるのはヒナタの死だということ。

過去でルミナスの協力を得て勇者として活動した後は、ルミナスにより聖櫃に封印されるということ。

ルミナスがヒナタを蘇生してクロエの魂からヒナタの残滓を分離させたおかげで、今は『真なる勇者』として覚醒できたということ。

そしてこんなことは、ループの中でも初めてだということ。

 

「……ふぅん。あーそーゆーことね完全に理解したわ」

《告。完全に理解しました》

「よし。なら俺が聞きたいのは一つ、お前はなんでヒナタを殺したんだ、ユウキ」

「ほら僕ってば天才――」

「ユウキ」

「……一度だけ、ワルプルギスの魂に触れたことがあると言っただろう? その時にね、僕は魂への理解を深めたんだ」

 

人を食ったような笑みを消して、結晶越しのユウキが真面目に語りだす。

 

それは、おおよそ人の理解を遥かに超えた思考だった。

 

「僕の究極能力(アルティメットスキル)は奪う事に特化している。それは、魂も例外じゃない。だから僕は魂には一家言あったんだけど、ワルプルギスの魂に触れてからは更に細かく理解できるようになった。どんな魂も、あ(・)の(・)魂(・)に比べれば単純すぎる。それでね、僕はヒナタの魂を見たのさ。そしたら何が見えたと思う?」

「分からない。なんだ?」

「封印された勇者の魂の混ざりものと、一致したんだよ! かつて僕は封印された勇者を見たことがあるけど、その魂には不純な混ざりものが入っていた。ヒナタの魂はまさにその不純物そのものだったんだ!」

「ちょっと、失礼でしょ。あなたデリカシー無いわけ?」

「――っひ」

「刺すわよ」

 

不純物呼ばわりに、清聴していたヒナタが声を荒げる。

 

後にリムルはその時の迫力をこう語る。「隣に居たのが俺でなきゃ死んでたね」、と。

 

凍てつくような視線に刺されたユウキは流石に身の危険を感じたのか、即座にその場でズボンの皺を直すと、一切躊躇わずに美しく淀みのない所作で土下座した。

 

見たことが無いほど美しい土下座に、キレていたヒナタも思わず吹き出し、ユウキはプライドを投げ捨てての華麗な無罪放免と相成った。

 

「こほん。さて、そこで、僕はあらゆる可能性を考えたよ。その中で最も可能性が高く、理論的にも美しい解が、時間遡行だった。なら、疑問が生まれるよね。なぜ? どうやって? そこで僕はクロエに目を付けた。リムルさんが、いつだったか僕に教えてくれた精霊の棲家での出来事が頭をよぎってね。観察してみたらビンゴだ! あとはHOWだけだった。僕は確信をもって推理したよ。クロエの殺害によるヒナタの死が条件に違いないってね」

「ちょ、ちょっと待て。その推理の過程を聞きたいんだけど?」

「君らじゃ理解できないと思うよ」

「……え?」

「君らじゃ理解できないと思うよ」

 

あまりにも自然に馬鹿にされたせいか、リムルの反応が一拍遅れる。

 

何なら口調が自然すぎたせいで、リムルは一瞬ユウキに褒められたのかと思った。

 

画面の向こうでは、ユウキが人を馬鹿にしたような笑みを浮かべていた。

 

「だってほら、僕ってば天才だからさぁ!」

 

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、演技をしなくていいのはやっぱり楽だね!」

「ユウキ様の場合はどちらもあまり変わりないように見えますが」

「分かってないなあ、カガリ。心の持ち様だよ、持ち様」

 

リムル達との通話を終えたユウキは大きく伸びをすると、カーテンを開けてわざと暗くしていた部屋に光を入れた。

 

そこはまさに豪華絢爛と呼ぶにふさわしい内装をしていた。

 

金を基調とした家具の数々は、西側ではまず見られないような技術が惜しみなくふんだんに使われている。

 

それこそが、ユウキが部屋を暗くしなければならなかった理由。

リムルの側に付いても、秘密主義は変わっていないらしい。

 

ここは、イングラシア王国ではなく、ましてや西側諸国のいずれかですらない。

 

カガリの手伝いによってユウキがぱぱっと服装を着替えるのと、部屋の扉がノックされるのは同時だった。

 

「失礼します、カグラザカ様! お時間です!」

「うん。今行くよ」

 

ここは東の帝国。

ナスカ・ナムリウム・ウルメリア東方連合統一帝国。

 

ワルプルギスに負けた日から、ユウキは密かにこの場所で上り詰めていた。

 

ユウキ・カグラザカ軍団長。

 

それが今の、ユウキの階級である。

 

ユウキ・カグラザカは天才である。

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

おっと、「無数の斬撃を身に纏う」に見覚えがある方!
決して決して、パクリではありません。
御廚子? ちょっと知らない子ですねぇ……。

ユウキは動かしてて楽しいですね。便利ですね。
こいつ公式公認の天才ですから。
web版でラスボスを張った器は伊達じゃないってな。

じゃ、次回から物語が動きますよっと……。
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