皆そんなにワムウのワムウッ!が好きなのか。ワムウの黒歴史が好きなのか。
俺もだぜ。
そしてワルプルギスの旦那の皆様へ。
G A Y .
責任取ってお気に入り&高評価しなければ神砂嵐ね。
――し、失敗した。
既に立つ力も残っておらず、床に無様に倒れ伏しているユウキは己の認識の甘さを呪う。
場所は帝都にある、ユウキの持つ豪邸。
地面に這い蹲るユウキを取り囲んでいるのは
「褒めるべきなのであろうな。いくら聖人とは言え、この数の強者を前によくぞそこまで食らいついた」
「そうね。人間にしては頑張った方じゃない?」
皇帝ルドラと元帥ヴェルグリンド、その人がいた。
「好き勝手言ってくれちゃってさぁ……!」
ユウキは立ち上がろうと歯を食いしばりながらも、不敵に笑って見せる。
なんやかんやが色々あって、スパイ行為が露呈したのはまだ良い。
なんとか自分以外の仲間を逃がせたことも良い。
上手くいけばリムルに保護してもらえるだろう。
精神支配されて襲い掛かって来たダムラダと一騎打ちし、見事その支配を解いた時なぞ流石に天才だと自画自賛せざるを得ない。
だが、ユウキの命運はそこまでだった。
突如現れた序列一位の近藤中尉。
それだけならまだ良かったのだが、続くように序列三位のグラニートと序列四位のガードナーが現れて形勢は逆転した。
そしてとどめと言わんばかりにヴェルグリンドとルドラがこの場に現れ、今に至る。
いくらユウキでも、この数を一斉に相手取ることは出来ない。
何より、ルドラとヴェルグリンドの力はユウキの想像を遥かに超えていた。
ルドラがその場に居るだけで、精神攻撃のような圧が絶え間なくユウキを襲う。
満身創痍だった。
「ギィが貴様の事を“トリックスター”と評したのも頷けよう。だが余の足元へ届きたいのならば、その
「つ、次は……次こそは負けないぜ……」
「次?」
ルドラはまるで聞き分けの悪い子供を相手にしているかのように首を傾げ、どう言ったものかと思案する。
故意ではない。ルドラは本当に理解していなかったのだ。
何故ユウキが『次』の話をしているのか、何故今の状況を理解していないのかが本当に理解できなかったのだ。
「貴様に“次”など無い。言っておくが余の権能は『支配』。抗えるとは思わぬことだ」
「――ッ!?」
瞬間、両者の間にあった距離を無視して、超速度でユウキの眼前に迫ったルドラがゆるやかに手を伸ばす。
原作ではこの後にユウキとガドラの一騎打ちが始まるのだが、今のユウキは原作以上に消耗している上に、ガドラもまたそれほど興が乗っていなかった。
更に力を増した圧に覇気まで加わり、ユウキは指先一つ動かせなくなる。
ただ悔しそうに、
「く……そ………」
その顔を眺めてルドラは見下すように嘲笑う。
ルドラ――いや、その身体を乗っ取っている『
対象の魂の全て、自我までもを強制的に奪い支配する能力。
ユウキの『
『
「貴様の『
後ろから見ていたヴェルグリンドが薄く笑う。
ヴェルグリンド自身はユウキに何の価値も見出していなかったが、ルドラが気に入ったのならきっと有用なのだろうと考える。
「『
ルドラがユウキの魂に触れ、絶対の権能を解き放つ。
そして魂ごと強制支配を――
Walpurgisnacht
「ねえ、『
「っ!?」
ユウキが嗤った。
これは……この魂に刻まれた
「馬鹿な! 貴様の持つ
「僕がそう見せかけていたんだよ。よく似ていただろ?」
「ぐっ……! いや、だからどうしたのだ。余を欺いた手腕は見事と言っておこう。だが、能力がなんであれ貴様を支配することには変わりは――」
『
「な、に………!」
明らかに異常事態だが、傍から見ればそんなことが分かるはずもない。
最強の皇帝がたった一人を相手に、よもやまだ支配が出来ていないとは露も思わず、周りは首を傾げる。
ユウキの支配は終えているはずなのに、なぜルドラは離れないのだろうかと。
だが次の瞬間、誰もが驚愕に目を見開いた。
ルドラがその場に崩れ落ち、代わりに今の今まで力尽きていたユウキが立ち上がった。
Walpurgisnacht
「ルドラっ!?」
ヴェルグリンドが悲鳴のような声を上げてルドラを受け止める。
それを無視して、ユウキは笑みを顔に張り付けたまま大仰に話し始めた。
「ケガの功名、ってやつかな。ワルプルギスを支配しようとして一度だけ彼の魂に触れたことがあるんだけどね、その時に
「ま、まさか貴様……」
「そのまさかさ。それに適応しようとしたせいで、僕はどうしようもなく変質してしまった」
「変質だと? そんな話は余でも……」
ユウキと話すふりをしながら、しかしルドラはコッソリと『
ワルプルギスの魂の欠片が混ざっていようが、それを丸ごと支配すれば問題の無い話であった。
魂の隅々にまで『支配』を行き渡らせたルドラはついに、混じり物のような一点の僅かな『黒』を見つける。
――勝った。
ルドラは確信する。
と同時にユウキはその行動を察知して、更に笑みを深くした。
「触れよ。皇帝陛下」
「なんだと……?」
「教えてやるぜ、僕の秘密」
全ては計画通り。
正攻法では勝ち目がないユウキは、この一瞬の博打の為に全力で演技をしていた。
全員を倒す必要は無い。ルドラを叩ければそれで良い。
そのためには一瞬、ほんの一瞬でもユウキの魂に触れさせなければならなかった。
まさに今、賭けに勝ったのだ!
ユウキは前髪を掻き上げてスタイリッシュなポーズをきめ、勝ち誇った表情でルドラに宣告した。
「僕の
その瞬間、『
触ってしまったのだ。
「
Walpurgisnacht
触れていた魂と共に、ルドラの身体がドロリと壊死した。
「う、うわあああああああああああああああああ!?」
いや、改めてよく見ると腐ってはいない。
ならば今のは幻覚……どころではなかった。
異常なんて言葉じゃとてもおさまらない、触れただけで全てが熔け合って全てを塗りつぶされそうな呪い。
根こそぎ呑み込まれそうなどこまでも黒く、いつまでも深い、太陽さえ喰らう重い闇。
有史以来の全てをかき集めてもまだ足りないと思わせるほどの、惑星を覆わんばかりの絶望の凝縮。
「教えてくれよ、陛下。どれだけの呪いが見えたんだ? 万か? 十万か? それとも百万かな?」
いつものように、いつも通りにユウキは笑って訊ねる。
ルドラの背中に冷たいものが走った。
――魂の一部だと? あれで、欠片の残滓だと?
「き、貴様はあんな
「ルドラ!? 一体どうしたの、ルドラ!!」
「ユウキ・カグラザカ、貴様は完全に狂っている! まともな生命があんな
「おいおい、陛下。
ユウキの右腕に『夜』が纏わりつく。
誰でも一目で禁忌だと理解できるような、この世界を絶えず蝕み続ける『夜』の力が右肩から下で蠢いている。
それを見て恐怖の表情で一心不乱に後退るルドラにユウキは楽しそうな表情を向けると、へらへらと笑いながら肩を竦めた。
「僕が狂ってるかどうかだって?」
『
その結果が右腕に具現化した『夜』であり、技を発動するには対象に触れる必要がある。
それ以上でも、それ以下でもない。
つまり、ルドラが今感じている気が狂いそうになるほどの絶望を、ユウキは常に魂の底から何倍も強く感じ続けながら生きているのだ。
そんなものが人間であるはずは無い。
それどころか、まともな生命ですらない。
「僕ってば天才だから、もちろん自己分析も天才的に出来ちゃうんだけどね」
トントン、と。
ユウキは自分のこめかみを人差し指で叩きながら、目に見えるほどのゆらりとした不快で不気味な気配を立ち昇らせる。
ルドラがいて、ヴェルグリンドがいて、近藤やダムラダもいるに関わらず、今この場の空気を圧倒的に支配しているのはたった一人の異世界人だった。
ユウキ・カグラザカは天才である。
故にこそ、彼はこの世界に来てから、少したりともまともではいられなかったのだ。
「僕のような奴こそを本当の『狂人』って呼ぶんだぜ、皇帝陛下。それにしたって『
「このっ……化物がああああああッ!!」
ユウキには知る由もない。
生きていられるはずがないのだ。
比喩でもなんでもなく世界一つに等しい呪いを持つワルプルギスの魂を視るだけではなく、触れて、ましてや取り込んで尚生き延びるだなんて。
常人ならば視た瞬間に消し飛んでいる。強者ならば触れた瞬間に腐っている。最強ならば取り込んだ瞬間に崩壊している。
だが、ユウキは死ななかった。
それだけでなく、あろうことか生き延びてみせた。
元々素質はあった、それも一つだろう。
初めから絶望していた、それもあるのだろう。
だが何よりも、ギィでさえ見抜けなかったその秘めたる狂気の大きさが、皮肉にも呪いの大海に浮かぶたった一筋の『希望』を照らし出したのだ。
ユウキは夜の深淵に浸かり、絶望に手を伸ばして抱きしめた。
だからきっと、呪いはそのとき祝福に転じたのだろう。
賢しき愚者へ手向ける、
「そして時間もちょうど、流石はリムルだね。悪いけれど、これでチェックメイトだよ」
「何の話をしている! っ!?」
ユウキの言葉と同時に現れたのは、ディアブロを筆頭とするテンペストの主戦力。
ベニマル、ソウエイ、シオン、ハクロウ、カレラ、ウルティマ、テスタロッサの八名が堂々と正面玄関より侵攻してきた。
その中にリムルは含まれていない、だが負けるはずもない。
「やあ、待っていたよ。みんな」
「クフフフフ。初めて貴方を有用だと思いましたよ、ユウキ。私は元よりリムル様の敵を殲滅するつもりだったのです、その機会を作ってくれたことを褒めてあげましょう」
「衛兵は一体何をしてるの! こんな場所まで侵入を許すなんて!!」
ルドラが倒れた上に、帝都の中央まで敵に侵入されたという前代未聞の事態にヴェルグリンドが狼狽えた声を出す。
ディアブロ達の眼は、傍から見てもヤル気と殺意にぎらついていた。
ここにきてようやくルドラはユウキに嵌められたのを悟る。
一貫して『
「ふ、ふふふ……。ずっと言いたかった台詞があるんだ、聞いて貰っていいかい?」
ユウキは俯き、デスなノートでも持っていそうな邪悪な笑みを浮かべて顔を上げると、ばちこーん!と特大のウインクをキメた。
「計画通り……。だぜ!」
転生したら「ワルプルギスの夜」だった件
第56話 アルルカンとピエロ
『七曜の老師』最後の一人、日曜師グランは驕っていた。
運よくステラからもフールからも逃れ、聖教会の方針が変わったのを不利と見てルべリオスを脱出したグランは、その地位と能力ゆえに帝国に身を寄せていた。
西側の力が及ばないこの国で、グランを害することの出来る存在は無い。
唯一その懸念がある皇帝へは、西側諸国の機密情報を小出しにして教えることで自らの有用性と安全を確保していた。
あのままルべリオスに残っていれば、自分は粛清されていただろう。
そしてテンペストが残っている限り、その危険は常に付きまとう。
だが、グランはルミナスの寵愛が無ければ生き永らえることができない。
だからいつかはルべリオスに戻らなければならないが、それは今ではない。
日曜師グランは確信していた。
ルミナスが魔物の存在を認めたのは、魔王率いる魔物の国がルべリオスにとって有益だったからに過ぎない。
つまり魔物の国が役に立たなくなれば、ルミナスも元通りに戻るはずだ。
そのためには水面下で秘密裏に動く必要がある。
じわじわと魔物の数を減らし、気付かれない内にテンペストの内部へ侵食して戦力を削ぎ、一気に滅ぼす。
さすがのルミナスでも、魔物を守るようなことはしないだろう。
その時が来るまで、この場所に潜んでいればいい。
皇帝より貸し与えられた、帝都にあるグランの館。
日曜師グランはその朝、いつものように安らかな眠りから覚めた。
「………?」
ベッドから体を起こし、自分以外に誰一人いない無駄に広い室内を眺める。
おかしい。
いつもならば、使用人の誰かがが少なくとも一人以上は壁際に控えているはずだ。
それが、今日は誰もいない。
そういえば、館の内部もやけに静かだ。
多数の使用人が住んでいるこの館には、常に何かしらの生活音が満ちているはずだった。
――まずいか?
保身にかけては人一倍敏感なグランの予感が、脳内でけたたましく警鐘を鳴らしている。
その予感に従い、周囲を警戒しながら立ち上がった彼の耳に甲高い軋むような音が届いた。
ギィィイイ……。
視線の先で、部屋の扉がゆっくりと開かれる。
廊下に『夜』が満ちていた。
扉の前に、魔女が立っていた。
『ゴキゲンヨウ』
「き、貴様は――!!」
忘れるはずもないその忌々しい姿。
魔女がするりと滑るように部屋の中に入って来る、たったそれだけで点けていた蝋燭の火が消え、空気が重さを伴ったように感じられた。
「だ、誰か! 曲者である! 誰かおらんのか!」
『…………』
「……ッ! それ以上近付くでないわ! 我は日曜師グランであるぞ!」
恐怖を怒声で誤魔化して叫ぶが、魔女は一切意に介する様子もなく、ゆっくりと、だが着実にグランの方へと滑り寄って来る。
グランの背が壁際に触れた。
これ以上後ろへ下がることはできない。
「タダで済むと思っているのか!? ここは帝国、皇帝陛下が黙っておらぬぞ!!」
『……』
魔女は何も喋らない。ただ、ジリジリと距離を詰めてくる。
「お、おい、待て、何が望みだ!!」
『………』
「おい、聞いておるのか!」
グランが悲鳴のように叫んだ時、影となった帽子の鍔の奥からようやく、鈴を転がすような声が響いた。
もっとも、それは死刑宣告の音であったが。
「pvb青ytig」
「ッ!? 待て、交渉、交渉をしようぞ! 武力行使など野蛮な魔物が行うものよ、我らは――」
「uwq希望eifg」
「ぐ、ぬおおおおおおおおお!!」
最早、これ以上近づかせてはならない。
恐怖に突き動かされるまま、グランは本能のままに瞬時に魔法を構築すると、ありったけの魔力を込めて攻撃を放った。
全力を込めて放たれた魔法は、間違いなく魔女の顔面を捉える軌道を描いていた。
閃。
魔女とグランの間に刹那の銀光が伸びる。
それで終わりだった。
決死の魔法は切り裂かれ、振り抜かれたサーベルの刃にグランの首は乗っていた。
《……アラ?》
(ん………?)
刃を左右に払ってグランの首を地面に落としたワルプルギスは、死人にはもう興味など無いかのようにサーベルを消失させると、とある方向に顔を向けた。
宮廷。
帝都の中心に高々と聳える城の中から唐突に、幾重にも折り重なって混沌とした魔素が爆発した。
赤、黒、白色が入り混じった膨大な量の魔素が炸裂して一瞬だけ空を覆い尽くしたのちに、何事も無かったかのように爆心地へ収束して元通りに消える。
だがその一瞬だけで、何が起きているのかを知るには十分だった。
(八門堅陣の戦い、か? それにしたって早くないか……?)
《場所も違いますワネ。既に原作から外れているということデショウ》
(……ふむ。リムルは居ないみたいだし、行ってみるか。ついでにみんながどこまで戦えるのかを見て来よう)
《了解ですワ~!》
既に展開は原作から大きくかけ離れている。
それが良い方向に転ぶか、悪い方向に転ぶかはまだ誰にも分からないが、一つだけはっきりと言えることがある。
じきに何人たりとも、ワルプルギスに勝てる者はいなくなる。
これまで以上に、未来永劫に。
だが、フェルドウェイが動き出すと同時に最後の仕上げに入るため、まだ少し時間の余裕はある。
(これが最後の寄り道かな)
テンペストの最高戦力がどれ程のものか、身を持って体験するのも悪くはない。
バトルが盛り上がらないと、良い物語は描けないから。
場合によっては、強化を少し手伝ってやっても良いだろう。
ワルプルギスは地面に転がっているグランの生首を手土産代わりに引っ掴むと、城に向かって真っすぐに飛び立った。
『ところで随分疲れているようだな。何かあったのか? キュゥべえ』
「大丈夫さ。何もないよ」
『……本当か? なんだか少しやつれて――』
「ないよ」
ワルプルギスの肩に乗っているキュゥべえは毛並みも良く、いつもと変わった所は無い。
だがなぜかその雰囲気だけは、ひどい目にあったかのように心なしかボロ…ッとしていた。
×××
八門堅陣。
ヴェルグリンドの力で8つの異空間を作り上げ、それぞれに門を設置する魔法。
だが、ヴェルグリンドは焦っていた。
場所は宮殿の大広間。
帝国が誇る最強の7人は既に倒されていた。
ヴェルドラを操るためにテンペストへ送り出した『別身体』も、リムルに喰われて連絡が取れない。
そのため、今ここにいる彼女は本来の力の三割しか使えなかった。
さらに悪いことに、ベニマル達は戦いの中で有り得ない程に強化されていた。
元とはもはや別次元の強さ、今は全員が何かしらの
(まずいわ!!)
ヴェルグリンドは早々に門の守護を諦めて、ルドラを守るために傍に控える。
案の定、すぐに最後の門が内側から爆破されて誰一人欠けていないテンペストの最高戦力達が姿を現した。
だが、ルドラの精神状態も徐々に回復しつつある。
それに忘れてはならないのが、ヴェルグリンドは神にも等しい竜種であるということ。
この世界において文句なしぶっちぎりの最強存在は、例え全力の三割程度しか力を振るえなくなったとしてもなお最強である。
「……余が二度も後れを取ると思うな。余に歯向かうことの意味を、余自らが教えてやろう」
「身の程知らずね。この私とルドラを相手に、勝てると思って?」
「何度も言うが、俺たちはリムル様のご意思を伝えに来ただけだ。だが戦うというのなら……相手をしよう」
「クフフフフフフ。皇帝の生首を、リムル様への土産としましょう」
帝国とテンペスト、両陣営が気休め程度の距離を空けて睨み合う。
殺意と殺意の波動が衝突し、拮抗して弾け合う。
そして限界まで昂った戦意が破裂する、まさにその時だった。
両者の間に、生首が投げ入れられた。
「なに……?」
もちろんルドラのではない。
日曜師グラン。
生首はコロコロと転がり通る。
上に、何かがいる。
「「「―――ッ!?」」」
ゾクンッ!!
例外は無く、その場にいる全員が背筋に悪寒を感じた。
ただそれだけで、無遠慮に魂を掻き乱されるような、骨の髄まで猛毒に侵されるような、そんな本能的に忌避する感覚が絶えず身体に突き刺さる。
上方を仰ぎ見たのは、両陣営ともほとんど同時だった。
そして、宙に浮かぶ魔女の姿を瞳に映した。
いつから現れていたのか、どこから現れたのか。
何も変わらない微笑を湛え、顔の無い顔でこちらを見下し、ゆっくりと回転する幾重にも重なった歯車。
『ゴキゲンヨウ。皆様、お揃いですワネ』
『ウフ、ウフフフフフフ!』
『アラ失礼。少々昂ってしまいましてヨ』
大気に闇が滲む。
水盆に垂らした墨のように揺らめき辺りを飲み込む『夜』の息吹きが玉座の間を舞台へと変えていく。
敵意。
「ワルプルギスッ!!」
誰よりも早く動いたのはユウキだった。
だが、それよりも僅かにワルプルギスの方が速かった。
覇気。
絶望。
放たれたのは、絶望覇気。
直後、天地が反転したと錯覚するほどの覇気が世界に襲い掛かった。
大地が震え、天が軋み、世界がただ一つの存在に怯える。
「……ッ――ッ!ッ…!――!」
圧し潰すように刻み込まれる絶望に、その場の全員が反応する間も無くひれ伏すように膝を突く。
辛うじて立っていられたのは原初の悪魔たる四名とヴェルグリンドのみ。
その様子を見て、ワルプルギスはまるで期待外れであるかのように困惑気に顔を歪めると、続けて一切の躊躇いなくその力を行使した。
『
絶望を刻まれた魂に、抗い得ぬ冒涜の手が伸びる。
それは易々とベニマル達の魂を掴むと、容赦なく一思いに不浄の触手を――
「
瞬間、刻まれていたはずの絶望が消え去った。
『っ!?』
「やれやれ、僕がこの場に居て良かったよ」
流石に予想外の事態に、ワルプルギスは今の今まで意識すら割いていなかったユウキへ初めて興味を示す。
一体どうやったのか、ユウキは『夜』に覆われた右手で具現化されて固形となった“絶望”を掴み、まるで
バリボリと咀嚼をして美味しそうに“絶望”を吞み込んだユウキの
ヨルが分析した結果を聞いて、ワルプルギスは即座に何が起こっているのかを把握した。
「『
『……驚きましたワ。ワタクシの呪いに適応出来るなんて、大したものネ。それはアナタの力でしてヨ、誇りなさいナ』
「じゃあ誇るついでに味わってもらおうかな! 『
瞬時にワルプルギスの背後へ回り込んだユウキが引き絞られた拳を放つ。
『夜』の力が込められたその一撃は常人なら触れれば即座に消し飛ぶ威力にもかかわらず、防御しようともしないワルプルギスの顔面に受け止められて止まった。
ワルプルギスは興味深そうにユウキの全身とその力をじっくり観察してから、ケラケラと可笑しそうに笑い声を上げた。
『ウフフ、ソレはワタクシの力でしてヨ? 本家本元のワタクシに効くはずが無いデショウ?』
だが、ユウキもまた笑っていた。
これで良いと言うかのように。
「ああ、知っているさ。でも君の好奇心は
『ム……!』
「今だ!! 僕ごとやっちゃえ!!」
視線の向く先には、既に技の準備を終えて並び立つ二人の美女。
「
「
ヴェルグリンドとテスタロッサから放たれた赤と白の極炎がワルプルギスに直撃し、鈍い炸裂音と共に爆風が吹き荒れる。
『
その白き炎は遍く生命を蝕み、狩り尽くし、身を焼き滅ぼして地獄へ送る死の炎。
「あっぶねー! 間一髪だったよ!!」
ギリギリで逃れたユウキがにへらと笑う。
ワルプルギスに、攻撃は通った。
もしや無効化されるのではないかと恐れていたユウキが胸を撫で下ろす。
通ったのなら、死んだのだ。
あんな攻撃を食らって生きていられる存在はいない。
だが、ワルプルギスが不死身なのも知っている。
だからワルプルギスが復活するまでに態勢を整えるか、撤退するかしなければならないユウキがその場を離れようとした瞬間だった。
「アハ。アハ、アハハハハハハハハハ!!」
煙の中から、傷一つ付いていないワルプルギスの姿が浮かび上がった。
確かに『
だが我われは身の毛もよだつような、もっと恐ろしい『火』を知っている。
「おい、嘘だろッ!?」
あまりにも現実離れした光景に、追撃するのも忘れて一同は絶句を余儀なく強いられる。
避けたというのなら、まだ理解できた。
深手しか負わなかったというのなら、まだ理解できた。
ただ傷を負っただけというのも、有り得ないがまだ理解はできる。
だが……だが、真正面から直撃して傷一つ付かないとはどういうことだ!!
『ヴェルグリンドは芸がありませんワネ。それに引き換え、白い地獄の炎……ウフ! 地獄よりも、ワタクシの方が“上”だったようですワネェ!? テスタロッサ!!』
「なん…ですって……」
いくら魔女といえど、認められるものか。
そんなふざけたことが、認められるものか!
誰よりもテスタロッサの力をよく知る原初の悪魔だからこそ、ウルティマとカレラは目の前の事実を受け入れられない。
常に余裕の微笑みを絶やさないディアブロでさえもどうしようもなく顔が引き攣っている。
「これはちょっとヤバいかも――ッ!?」
額に冷や汗を浮かべたユウキが、何かを察知して半ば反射的に防御の構えを取る。
次の瞬間、身体を一回転して横薙ぎに振られた槍の先端がユウキの身体に食い込み、脇腹を庇っていた腕ごとへし折って壁際まで吹き飛ばした。
「が、は……っ!」
たった一撃で体中の骨が砕け、ユウキは瓦礫に埋もれたまま戦闘不能となる。
「fugq赤rld」
「rywe希望tyvb」
「wetr青hfjvb」
「ewvi希望yuprik」
顕現したのは、深紅の多節槍と無骨な刀身を持った金のサーベル。
右手に槍、左手にサーベルを持ったワルプルギスは、回転の勢いそのままルドラへ狙いをつけてサーベルを投擲した。
「っ!? ヴェルグリンド!!」
「ルドラ――!!」
やぶれかぶれのそれではない。
刀身は一切の回転なく、まるで機械によって正確に射出されたかのように音を超えてルドラに向かう。
その程度なら問題は無かった。だた、ルドラにとって予想外だったのはその勢い。
「うぐ……っ!」
「ば、馬鹿な……」
洗脳によって自らルドラの盾となったヴェルグリンドの胸を貫いたサーベルの刃は、絶対防御たる『
それでも勢いは止まらず、切っ先は床まで届いてルドラとヴェルグリンドを地面に縫い留める。
空となったはず左手には、いつの間にか新たなサーベルが握られている。
「ッ――全員散開! 一纏まりに固まるな!!」
流石と言うべきか、侍大将であるベニマルの命令を聞いて我に返った者からワルプルギスを囲むように大広間へ散らばる。
今、ベニマルの正面には体の回転が止まった直後のワルプルギス。
「リムル様より頂いた新たな力だ! 喰らえ、
ベニマルの手より東洋の龍を象った黒くて紅い陽炎が産声を上げる。
それはヴェルグリンドの加速、そして『虚無崩壊』のエネルギーを流用した文字通りの煉獄。
龍の形をした劫火が、ワルプルギス目掛けて食らいついた。
「―――」
直後、起爆。
幾重にも破ぜる黒紅色の焔が一瞬で視界を埋め尽くし、万物を熔かし滅ぼす凄まじい灼熱が皮膚を抉る。
「は?」
だが、間の抜けた声を上げたのは、攻撃側のはずのベニマルだった。
なぜなら、彼の視界は既に刃の銀色で一杯だったから。
『ヴェルグリンドならともかく、
その言葉と同時に、腕と首に強烈な痛みが走る。
一拍遅れてようやく、ベニマルは自分が斬られたことに気付く。
思考を加速させた状態ですら目に捉えられない程の速度でワルプルギスは動いていた。
「く、そが――!」
そして視界を塞がれたことで、ワルプルギスの動きに対応すらできない。
槍を持つワルプルギスの右手がぶれ、ベニマルの腕をあらぬ方向に曲げた。
振りかぶったわけでもないのにバキィ!という音が響き、関節を砕かれたであろう彼の腕を掴んで投げ飛ばす。
一瞬空いて、ユウキと同じく壁にめり込んだ鈍い音が響いた。
「ベニマルッ!!」
背後上空。
いつの間にか接近して来ていたシオンが神・剛力丸を限界まで振り被り、落下の勢いすら利用してワルプルギスを両断しようとする。
「
しかし突如として腕が、体が動かなくなった。
「ぐぅ、なんだこれは!?……あの槍か!!」
深紅の多節棍。
いつの間にかそれは変形し、シオンの身体に蛇のように巻き付いた。
どういう力が働いているのか、空中に跳び上がっているにもかかわらず、転ぶどころかバランスを崩して落下することすらない。
それは四方から万力のように彼女を締めあげて拘束する。
『セーイ! ですワ!!』
いっそ気が抜けるような掛け声を上げて、ワルプルギスはシオンを拘束したまま振り回して地面に叩き付ける。
だがそのおかげで拘束が解けて自由になったシオンは、ダメージを感じさせない動きでバネのように立ち上がると再び突撃しようとして駆け出す。
「甘い! 私は何度でも蘇っtゴハァッ!?」
だが、シオンは突如腹に巨大な質量を叩きつけられ、それがシオンのこの戦闘での最後の言葉となった。
次いで、彼女は腹部に熱を帯びた激痛を感じる。
火傷とは違ったその痛み。
何が起こったのかと反射的に視線を下に向けたシオンの目に、槍に貫かれた己の身体が映った。
「ごふっ……」
遠すぎる間合い、届くはずの無い距離。
ああ、そういえばあの槍は伸びるんだったなという思考を最後に、シオンの意識は暗闇へと落ちた。
「シオン! くそッ!!」
膝から崩れ落ちるシオンを横目にソウエイは、槍を引き戻しているワルプルギスの隙を見つけ出そうと観察する。
すぐに隙は見つかった。それも多数。
しかし。
(ダメだ! 隙はあっても攻撃が通らない!!)
先程からソウエイは既に複数の技を仕掛けているが、その悉くが気付かれもしないまま失敗に終わっている。
突破口が無い。
もはや、手は無いのか。
そんな諦念がソウエイを支配しかけた時だった。
『ン……?』
場にいる全員が、一つの気配を捉えた。
それは真っ直ぐこちらに向かって高速で飛来して来ている。
いや、高速なんてもんじゃない。
もう既に上空に―――。
着弾。
そう言い現わしたくなるほどの轟音を伴って、彼女は大広間の天井をぶち抜いて現れた。
その姿はまるで流星のように。
「私が来たぞ、ワルプルギス!」
ミリム・ナーヴァ。
桃色の髪を風に靡かせて、不敵な笑みを浮かべた少女がワルプルギスの正面に降り立つ。
ここで初めて、半分しか無いワルプルギスの顔に明確な動揺が広がった。
ソウエイ達が見ている前で、口調が崩れるぐらいには。
『ミリム!? おまえ、なんでここに……』
「ワタシがオマエの気配を分からないとでも思っていたのか? リムルに先に行けと言われたから、先に来たのだ!!」
『先……。いやそれより待て。何をする気だ?』
「うむ、喧嘩だぞ!!」
『――ッ!』
宣言するや否や、ミリムの姿が掻き消え猛烈な風圧を伴った拳がワルプルギスの眼前に現れる。
躊躇なく顔面を狙って放たれる裏拳をサーベルの刀身で受け流しつつ、思わず咄嗟に槍で斬り返すワルプルギス。
『しま……っ!』
「にひひっ! 懐かしいな!!」
攻撃する気が無かったワルプルギスは即座に後悔するが、その斬り返しを予想したかの如く後方へ回転しつつ嬉しそうに足で蹴りを放ってやり過すミリム。
そのままその場で沈み込み足払いをかけようとするが、彼女の脚はただ宙を空ぶるのみで、ワルプルギスはそれを察知して既に距離を取っていた。
『待てミリム! 私たちが戦うことは無い!』
「否ッ! 今まではなあなあで納得していたが、今日という今日はオマエの目的を教えてもらうぞ。何のために、何をしようとしているのだ?」
『……それを聞いてどうする』
「聞いた上で、それをやって良いかどうかをワタシが決めてやるのだ!!」
『すごいなお前……』
ワルプルギスの意識は既にここからどう逃げるかに傾いていた。
そもそもミリムと戦いたくないというのは本音である。
とんでもなく強いのはもちろんだが、何よりキャラクターへ向けるもの以上の好ましい感情を持っているからだ。
しかも昔ならばいざ知らず、現在のミリムは間違いなくワルプルギスを止めようとするだろう。
それはマズい。
戦うしかないのだとしても、それは今ではない。
今はどうにかされてしまう可能性がまだ残っている。
もっと、どうしようもない段階まで進まなければミリムと戦えない。
『ま、待て。一旦ストップ』
「?」
軽くちょっかいを掛けに来ただけなのに、なぜこんなことになっているのか。
戦う気満々なミリムへ掌を向けて「待て」したワルプルギスが、懐をゴソゴソ探るふりをする。
そしてバレないように蜂蜜を創造すると、まるで最初からそこにあったかのように取り出してミリムに差し出した。
『食うかい?』
ワルプルギスのしなやかな指の間から蜂蜜がとろりと垂れた。
「……オマエがワタシをどう思っているのかがよく分かったのだ」
『ダメかぁ。ケーキもあるけど』
「え!?………」
『………』
一瞬だけ目を輝かせたミリムが涎をふきふき。
正気に戻ってしまったようだ。
食べ物で釣られないとは、ミリムも成長したなぁ……とワルプルギスが心の中で遠い目をした。
「パーンチ!!」
「piwe黄rugb」
「obqw希望erv」
ミリム、参戦!!!
お読みいただきありがとうございます。
久々にワルプルギス無双を書けて身体が歓喜に打ち震えているのだ。
ここらでちょっと、技名の話を。
転スラの技名はほとんどが『漢字(外国語直訳)』みたいな名付け方をされています。
そして皆さんお気づきでしょうが、この作品では外の世界から来たワルプルギスに関係する技名はあえてその法則から外れ、『厨二文章(厨二ルビ)』みたいな技名にしています。
今回のユウキの力はワルプルギス由来なので、その方法に従ったわけですね。
『
ところでそろそろ『魔女の罰』に関しても読み方を決めたいんですよね。
信じてるからな、みんな。
『魔女の罰』、何と読む?
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ディ・ポエナ
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へクス・レトリブト
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デストラフェ
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イグニ・プエネ
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THE DAY
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THE CURSE
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問題ない。そのまま行け。