転生したら「ワルプルギスの夜」だった件   作:十二夜

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至と高きより、醜き豚の王へ。①

 

ドワーフ王国、武装国家ドワルゴン。

 

他国とは僅かな差であったが、もっとも早く豚頭魔王(オーク・ディザスター)出現の情報を掴んだのはこの国だった。

 

王城の会議室の中は、まさに戦場の様相を呈していた。

オークの棲家から出発したオークの軍団は、真っ直ぐジュラの森を縦断してその先の国を目指している。

そして、その王国はドワルゴンに最も近い人間の国だった。もちろん、近いどころか直接に国境を接している東の帝国こと、ナスカ・ナムリウム・ウルメリア東方連合統一帝国は除くが。

 

その王国がオークによって落とされれば、次は位置的に近いドワルゴンにオークの軍団が侵略して来るのは想像に難くない。

もしかすれば、ドワルゴンから離れた別の人間の国に進む可能性もあるが、国家運営においてその可能性に賭けることは許されない。

 

ドワーフの英雄王、ガゼル・ドワルゴは会議室の上座に深く腰掛けていた。

ドワーフらしい、がっしりとした体付き。迸るエネルギーを秘めた筋肉の鎧。

その特徴ある、褐色の肌と後ろに撫で付けた、漆黒の髪。

彼は眉間に皺を寄せて目を閉じていた。

 

そんな王の姿を横目に、二つの陣営に分かれて大臣たちは激しく議論を交わしていた。

 

ギリギリまで動向を見て、籠城戦に徹するか。今すぐ打って出て、殲滅戦に切り替えるか。

 

ドワルゴンは山脈の大洞窟を改造した国であり、大自然が創造した鉄壁の天然要塞に守られている。

攻めることは容易ではなく、こちらから一方的に敵を蹂躙することが出来る。

よって平常ならば、籠城が最も確実な戦法であり、それを選択するのは正しい。

 

しかし、今回の敵は十万ものオーク軍。

 

いくらドワルゴンとはいえ、十万という膨大な数は厳しい。

高い確率で、いや、ほぼ間違いなく一部のオークの侵入を許すだろう。

そうなれば防御の前線が内側から崩れ、敵が一気に雪崩れ込むことも考えられる。

それは最悪だ。洞窟に、一億もの国民の逃げ場は無いのだから。

 

よってこちらから攻めに出て、進軍中のオークを殲滅するという案が出てくる。

ドワルゴンは武装国家の名に相応しい強力な軍隊を持つ。

重武装の歩兵の壁に守られた、高火力の魔法兵団。

戦う相手は、歩兵の壁を突き崩す事も出来ずに魔法の火力による攻撃で全滅する。

その実力は、未だ不敗。それがドワルゴンの軍だった。

 

しかしここでも問題が発生する。

 

十万の軍に対抗するためには、こちらもそれなりの数を送り出さなければならない。

場合によっては、全軍を動かす可能性もある。

そうなれば、万が一失敗したときにこの国を守る兵が居なくなってしまう。

さらに、大規模な動員をすれば物資補給や兵糧の確保にかかる労力も馬鹿にならない。

それらは士気に直結する大事な要素の上、ここまでしても豚頭魔王(オーク・ディザスター)に勝てるかどうかは五分五分だと思われた。

それほどまでに魔王種というのは脅威なのだ。

 

会議は白熱し、国の存亡を真剣に案じているからこそ、どちらも一歩も譲らない。

 

その時、音も無く気配もないまま暗部の一人がガゼル王の後方に現れる。

それに気づいたガゼル王は、目も開かず微動だにしないまま口だけを動かして尋ねた。

 

「どうであった」

「はっ!まず、オークの軍はおよそ二日後にカレル王国に到着するでしょう。オークの正確な数は10万231体、誤差は百以下でございます。豚頭魔王(オーク・ディザスター)は後方にて四体の豚頭騎士(オークナイツ)に守られております」

「そう……か……」

 

報告を聞いたガゼル王の眉間の皺がますます深くなる。

どちらの戦略を選ぼうと、これまでにないほどの厳しい戦いになるのは間違いないだろう。

いざとなれば、王である自分が豚頭魔王(オーク・ディザスター)への活路を切り開く。

そう、覚悟を決めた時だった。

 

「重ねて、お耳に入れたい情報が」

「言え」

笑顔の機械(ラフター)が再び現れました」

「…何だと?」

笑顔の機械(ラフター)は数人の魔人を伴って、オーク軍に向かっています。恐らくは戦闘になるかと」

「数人の魔人?そやつらは何者だ」

「申し訳ございません。そこまでは把握しておらず」

「そうか。引き続き豚頭魔王(オーク・ディザスター)を見張れ。それと並行して笑顔の機械(ラフター)とその魔人たちの動向を監視せよ。戦闘になるのならば、恐らく笑顔の機械(ラフター)が勝つ。その後を付けろ。決して気取られるな、決して!」

「御意!」

 

そう言って暗部は王に深く頭を垂れると、たちまち水泡のようにその場から消えた。

 

ガゼル王は今しがた齎された情報を咀嚼する。

少し前に忽然と洞窟から消え去った笑顔の機械(ラフター)

死んだとは考えられないが、その後一切の足取りが掴めなかった。

それなのにこのタイミングで突然姿を現し、まるで我々の味方であるかのようにオーク軍と戦うという。

 

何か裏があるな。

 

鍵は恐らく、報告にあった例の魔人たちか。

 

ガゼル王はそう当たりをつけると、ゆっくり目を開いて声を発した。

 

「貴殿らの意見はよく把握した」

 

重く、静かな声が響く。

 

瞬間、空気がピリッと引き締まった。

あれだけ舌戦を交わしていた大臣たちが、偉大な王の威厳にあてられて息をひそめる。

会議室に、耳が痛いほどの静寂がおりた。

誰もが王の判断と決定を待っている。

 

「その上で余は、様子を見ようと思う。先ほど暗部より新たな報告があった。我々は下手に動かず、万が一に備えてここドワルゴンにて万全の戦の用意をし、オーク軍を迎え撃つ。これを、余の決定とする」

 

そしてガゼルは、笑顔の機械(ラフター)がオーク軍と戦うかもしれないことをその場にいる大臣に告げた。

 

その後、会議室が別の議題でてんてこ舞いになったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

ジュラの森のちょうど中部にある湿地帯を無数のオーク兵が進む。

 

彼らは自らの勝利を疑わない。

ユニークスキル『飢餓者(ウエルモノ)』の能力によって、全てのオークは豚頭魔王(オーク・ディザスター)との間に僅かな繋がりを持っている。

それは、新たに獲得した性質や能力を豚頭魔王(オーク・ディザスター)の下へ届けるという、ただそれだけの繋がりに過ぎないのだが、それだけでも豚頭魔王(オーク・ディザスター)の恐ろしさを感じるには十分だった。

全てのオーク兵は、彼らの魔王の恐ろしさを魂で理解している。

 

だから、初めは()()()()にも特別気を留めることは無かった。

 

最初にその異変に気付いたのは軍の先頭で歩くオーク達だった。

 

突然、彼らの進行方向から見たことないような不思議な一団が現れた。

 

それは小さなぬいぐるみのような魔物だった。

トコトコと歩くそれらは、先頭のオークに近づくと一糸乱れぬ動きでぺこりとお辞儀をした。

オーク兵たちは戸惑った。

その魔物は大した力を持っておらず、こちらに対する悪意も感じられない。

しかし、彼らは飢えていたので、その魔物を捕まえて咀嚼した。

すると、新しい魔物が現れた。

見慣れぬ四足獣に乗ったそれらは、まるでサーカスのパレードを先導するように旗を掲げて向かってくる。

その後ろから、色とりどりの魔物が次々に現れる。

 

目隠しをされた緑色の巨大な象が、象車を引いてこちらに来る。

背中に傘のような物が刺さった紫の獣が、鳴き声を上げて進んでいる。

鶏の頭を持った巨人が、歪な太鼓を背負って歩いている。

 

オーク軍の数と比べればあまりにも貧弱な一団だったが、その魔物達が放つ威圧はオークの比ではなかった。

 

何か、とんでもない異常が起きている。

 

その一団との距離が縮まるにつれて、先頭のオーク兵が次々に恐慌状態に陥っていく。

 

先頭の部隊が崩れたことで軍列全体が乱れ、オークの進軍が止まる。

事ここに至ってようやく、遥か後方に居た豚頭魔王(オーク・ディザスター)がその異変に気付いた。

とはいえ、それはあまりにも遅かったが。

 

歪な魔物達に繋がれた紐で引かれて、巨大な何かが遠くの木々の間から現れる。

 

Walpurgisnacht

 

豚頭魔王(オーク・ディザスター)はその存在を知っていた。

いや、豚頭魔王(オーク・ディザスター)だけではない。何事かと戸惑っていた十万のオーク、それどころかこの森に生息する全ての魔物がその存在を知っている。

なぜなら彼女は、百年にわたって暴風竜と熾烈な戦いを繰り広げたが故に。

 

Walpurgisnacht

 

この森に住む全ての存在が暴風竜と彼女を恐れていた。

その暴風竜は既に封印されている。

であれば、今、真に恐れるべき存在は。

 

Walpurgisnacht

 

全てのオークの脳裏を、歪な文字が埋め尽くした。

彼らはその文字を読む術を持たない。

しかし、彼らは本能で理解する。

その存在の名を。

 

Walpurgisnacht

 

ワルプルギスの夜。

 

だが、豚頭魔王(オーク・ディザスター)は恐れない。

 

「フハァーーーー!ワルプルギスの夜、か! いいだろう、主菜(メインディッシュ)前の準備運動だ! フハハハハハ!!!」

 

彼は魔王であるが故に。

 

豚頭魔王(オーク・ディザスター)は、この世の全てを喰らう者。

 

魔王とは、魔の頂点に座する王。

 

彼に敗北は許されない。

彼は、同胞を喰った。

彼は罪を背負っている。その同胞も同じく。

魔王でなければ、耐えられぬほどの罪を。

 

豚頭魔王(オーク・ディザスター)がその妖気を放出し、戦闘態勢に移る。

 

その瞬間、ワルプルギスの夜から放たれた極大の炎の槍が彼の前に着弾して大爆発を引き起こした。

 

地面が爆ぜ、空気が震えるほどの衝撃を齎したその一撃は、豚頭騎士(オークナイツ)を含めた辺り一帯のオークをまとめて消し飛ばした。

 

しかし、爆炎と煙が晴れたそのクレーターの中心で、豚頭魔王(オーク・ディザスター)は変わらずその両足で悠然と立っている。

見るも無残に焼き爛れた身体は、瞬きの内に元通りに再生される。

 

「フハァーーー! この程度!まだ足りぬわ!! 貴様を喰らい、オレは更なる高みへと至ることにしよう!!」

 

返答は、無い。

その代わり、遥か上空から降ってきたのはゾッとするほどの愉し気な嗤い声。

 

「アハハハハははハハㇵハハハハはハㇵㇵハハハハ!!!」

 

その時、前線においてオーク兵とサーカス団が雄叫びを上げながらついに激突した。

 

両者ともに今まで静観を決め込んでいたのだが、恐慌状態に陥ったオークの一人が、象の魔物に攻撃を仕掛けたのだ。

象はその前足を上げ、足元の存在を踏み潰す。

 

グシャッ!

 

その音が、開戦の合図となった。

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。
戦闘は次回へ持ち越しです。

メリークリスマスイブ!

ところで君たちはどうして恋人とデートせずに、そんな所でこんなものを読んでいるんだい?
一般的な人間と全く行動が異なるじゃないか。
訳が分からないよ(煽)

以上、キュゥべえからのメッセージでした。


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