「…ぐぬ、ぅ」
「久しぶりだな、お前」
「知り合いなのですか、布都。」
神霊廟に来た。そこには、昔割と仲の良かった布都がいた。顎を摩りながら昔を懐かしんでみる。…あー、お前カスだったな。特に思い出せることもない。策略が得意だったか。でもまあお前の一連の行動は見ていて面白かった。蘇我家に対する行動、そのどれをとっても俺は面白かった。とにかく笑った。本当にひどい奴だ。そこら辺にいる不審な人間に唆される程度で血を絶やすなんて。策略は得意だが、その元はあまりよろしくない。そこがとても面白かった。
「このっ」
「抑えて」
「しかし太子様!」
「まあ、お前が絶やす決め手となった噂も全部俺の一人芝居だけどな。やっぱお前面白いわ」
「許さぬ!!」
「布都、落ち着いて。屠自古、布都を奥に連れて行ってくれる?」
「わかりました〜」
布都を揶揄った後で、何だか怒っている風の豊郷耳を見る。こいつの名前は知ってるぞ。華扇から聞いた。そんでもって、今日ここに来た理由。久しぶりに青蛾に会いたくなった。だから訪ねている。メインに出会うためには、前菜やら魚料理やらをこなさなければならない。その消化試合だと考えているのだが、そもそもあいつここにいないかもしれない。あいつのやることはほとんど宗教上でも倫理上でもよろしくないことばかりだからな。豊郷耳の話は全部スルーだ。何言ってんだこいつ。
「君は、人の話を聞いてないな。自分以外の存在は自分より下、とでも思ってるね?」
「…違う。誰にでも誓ってやる。自分以外全てではない。」
「おや、それは意外だ。で?布都とはどのような関係なのかな?」
「ただの喋り相手だったよ。お前の番相手を殺すのには一枚噛んだけど」
「っ…いや、良い。神霊になれなかった時用の備えも欲しかった。」
「勿論実行犯は布都だ。馬鹿で行動力を伴った布都は見ててとても楽しいから一枚噛んだ。」
「おかしいな、私は今…確か、布都との関係を聞いているが?」
「話す間柄だ。」
実際楽しかったかと聞かれれば、血を絶やしてから真実を伝えた後で喚き出してからはそんなに面白くなかった。うるさいの苦手なんだよね。別に良くないか。一つの地位ある家が滅んだだけ。それはやがて、布都の家が持つ力をさらに押し上げることも出来ただろう。あれ、その時にはもう没落してたか?忘れた。所詮は家だ。人間が滅ぼせるものなんてそんなもんのはずで。ぶっちゃけ布都の件に関しては栄えるチャンスを作ってやったのだから、嫌われる道理があるのかと首を傾げたい。
「まあそもそも、俺でもここに辿り着けるんだからさ。無防備だよな、お前ら」
「…聞き捨てならないな。私がここにいる。そしてここは私の神霊廟だ。」
「お、そうか」
じゃあ帰ると席を立てば、どこからともなく皿が投げつけられた。どうやら目的は俺のお命らしい。面倒くさい。豊郷耳は止めないようだ。まあ止める意味もないと言うのが正しいか。というか、多分止めさせる気ない。出口が封じられている気がする。厄介だなこいつらほんと。来るんじゃなかった。結局青蛾はいないし。結局こいつら面倒だし。皿を投げてきた奴が近接戦を仕掛けてくるな。俺弱いんだぞ。天界の桃は味薄いからあんまり食わないし。あ、そろそろ腐ってくるかな。
「ふんっ」
「松明で殴るな、死んだらどうする」
「死ね」
「たかだか一つの御家を壊しただけで何でこう言われるんだ。」
「死ね!」
隠し球と言わんばかりに皿を投げてくる。ここの皿は何枚あるんだ。こちとら武器は一つもないのに。なんか硬いもの持ってたかな。…そもそも俺、何も持ち歩かねえわ。持つのはいつも便利なマジックアイテムだけ。それを見越して静観してるのなら、豊郷耳はほぼ全てを知り尽くす化け物と見て良い。ただ、それでも静観という体裁なら関係はない。ならば布都を満足させれば良い。それか気絶。だからなぁ…まあ、投げ続ける皿を避けるだけの時間が続く。あいつ疲れ知らんのか。
「当たれ!!」
「当たることすら頼みか。」
「うるさい!」
「…何か勘違いしてないか」
少し鬱陶しくなった。ので、満足させることを諦めて布都を蹴り飛ばす。あんまり飛ばなかった。松明を振り回すな危ない。先ほどから言っているのだが、俺が死んだらどうするんだ。少し手が焦げた。地面を強く踏み込んで、そのまま布都までひとっ飛び。そのままの勢いで布都をもう一度蹴る。その後に松明を顔面にぶつけられるが、こちらが逆に松明を頂く。松明を布都の顔に押し当てながら、時間が流れるのを待つ。豊郷耳が介入する前に布都が折れてくれると助かるのだが…一切折れる気配がない。めんど。
「貴様さえ、貴様さえ…!」
「俺のせいにするな。そもそもただの話し相手に信頼を置くお前が悪い」
「ふざけるな、貴様が」
「布都。もう良いでしょう」
「…っ…太子様…」
悪いがまだ死ぬ気はない。豊郷耳がこちらを向く前に、何とかこじ開けた出口から出る。腕の火傷に投げ皿でついた切り傷が痛い。あいつ本当に鬱陶しいな。まあ術で治しはするが。あいつら、仙人を何だと思っているのか。青蛾に会えなかったし。さっさと帰って、さっさと眠ることにしたい。傷ついた体は寝ることで完全に治るからだ。あーほんと、布都は行動力の高さだけで見れば面白い。側から見る分には、の但し書きも必要だ。俺の仙界に帰って真っ先に布団を広げた。長い間寝ていなかったせいか、少し布団が埃っぽい。立って寝ようかな。
「…外で寝るか。」
青蛾が神霊廟を訪ねる→柏を見かける→即離脱