温泉って良いよな。空を見上げれば、その時々によって温泉の雰囲気が変わる。朝昼夜、夕方も良い。それに男湯であれば余程の馬鹿が来るので見ていて楽しい。地上であれば、そもそも博麗神社の温泉に来るような男はいない。地底であれば、そもそも酒を飲むので全員が上機嫌。重々しい空気は絶対に訪れない。…つまり、俺は今地底の温泉にいる。男湯には誰もいない。地上と違って地面の模様しか見るものがない温泉は退屈だ。酒も飲まないからな。魂の洗い場としては有能なんだが。
「怨霊は大丈夫でしたか?」
「大丈夫だ。そもそも俺の存在自体が形のある怨念だからな」
「おお、それは失礼」
「いや、良い。言っても解らない奴はわからんからな。」
「思えば私は理解しますよ」
「…嫌われる原因分かってんのか」
悟り妖怪に隣を歩かれる。理由はまあそこそこある。何せ、恨みだけはかなり買っている。主に鬼から。閻魔からも少し。死神は知らない。あいつらは仕事だろう。…まあ、閻魔に関しては私情を挟むような性格ではない。最悪手と足を差し出して魂を押し付ければ赦されはするだろう。あの地蔵はそういう存在だ。…この心を読んだのなら、閻魔の前で裁かれる時はお前も同じだぞ。悟り妖怪。無意識に流れ込もうと意識的に流し込もうと、お前がその目を閉じない限りは同じだ。
「それは怖い」
「とは言え、どうするかだよなぁ。」
「知らなかったのですか。怨霊のいる地底、噂の広まる速度は生存本能で走る馬よりも早いんですよ」
「よう、柏。久しぶりじゃないか」
「今更なんの用事だ、勇儀」
「いや、何。萃香から聞いてな?」
「何を」
「お前、まだ童子といるんだってな」
童子。茨木童子。華扇の旧名。そういやそんな名前だったな、と相槌を打つよりも早く打ち込まれたのは拳。そうだ、星熊勇儀とはそういう奴だった。鬼の四天王、その中でも一番に仲間意識が強い奴。一番ないのは萃香だろう。仲間が悪行を働けば咎めるし、謂れのない罪を被せられたら真っ向から立ち向かう。俺が一番忌避するタイプ。前提として、嫌いではない。だがこういう奴の大半が行動する時にはすでに結論が決まっている。あいつが悪い、こいつが悪いの結論が出ている。だから手が出るのも早い。…妖怪の癖に、気持ちの悪い人間らしいな。
「…はぁ」
「溜息吐く暇、楽しかったかい?」
「そっちは土塊だよ」
「関係ないね。柏、お前さんの形を成すもの全部壊すから。」
この通りだ。話を何も聞かない。間違いを認識しない。以前喧嘩した時も、勝手な約束を取り付けて勝手に去った。承諾はしていない。華扇を仲間のように思うのなら。それならば、華扇の角を折らせることはしないだろう。残った角を折ってくれと俺に頼むことはなかっただろう。そのような状況に追い込んだのは紛れもなくお前ら自身だ。何を以て俺が悪いというのか。…頭が消し飛んだ。仙界と離れているおかげでどうにか正気を保ててはいるが、近ければもう呪いをばら撒く呪物になっていた。
「お前も体が消えれば死ぬだろ」
「…らしいから、どっか行け悟り妖怪」
「すみません、骨が」
「ペットによろしく」
悟り妖怪を丸めて投げる。悲鳴をあげていたが、まあなんとかなるだろう。もし万が一にも、呪いをばら撒く呪物になった時。その心は覗かれたくない。投げてその結果を見ているうちに蹴られた。…すんごい痛い。骨が折れても治せるし、なんなら死ななければ治せる。ただ、痛みは取れない。脳みそが勝手に勘違いして、痛みを感じる。だからもうやめて欲しいんだけどそんな言葉が通用することはないし。一番早いのは華扇が来ることだが、それは見込めない。強制的に呼び出しても良いけど、多分嫌われる。辛いぜ
「これでも死なないのか」
「…悪い、帰るわ」
仙界への道を開くと、多分死体との距離が近くなってしまうけれども。帰らなかったら多分生涯サンドバッグだわ。土塊を大量に作り出す。動かそうとする気はない。姿形は鬼の四天王。その後に二体、俺を作る。俺含めて三人に札を貼り、仙界への道を開いてそこに一歩。が、星熊勇儀の一撃とは如何程なものかを忘れた俺は、仙界への道ごと殴り飛ばされた。有り得ない。空間ごと?馬鹿?アホ?どんだけ筋肉あるんだよあの女。世が世ならあんな奴でも恋愛したりするんだろうな。外の世界での話だが。
「…どうなってんの、お前」
「今のでやれば、少なくとも死ぬんだよな?」
「あ、華扇ちゃん」
「!?」
嘘。俺の作った土塊。じゃあなと言わんばかりに仙界への道を開く。送るのは俺じゃない。星熊勇儀、お前だ。体の再生は終わっている。隔離用の仙界に飛ばせば流石に参るはず…だ。が、どのような反射神経してるのか気になるほどの速さで俺の後ろに回って来やがった。空気を叩くのはわかるが、だからと言って後ろに回って殴るのは無しだろう。仙界への道を閉じることが少しでも遅れたら呪いがたまってたぞ。ちなみにマジックアイテムの部分は大丈夫。縁を断ち切って元から無かったものにしたから。
「全然死なないね。条件でもあるのか?」
「俺はあんな死に方嫌だね。…というか暴れすぎじゃない?帰って良い?」
「安心しな、あんたの事はここにいる鬼全員が嫌ってる」
「そうじゃなくてね?」
説明。柏の死体について。呪いが保護膜として働いています。よって自然に朽ちて呪いが無くなる事はない。魂の抜けた状態で、呪いの対象が体と魂の一致する柏だからまだ発動してないだけ。ちなみに柏の死体と柏の魂が近い時に体の部位を欠損すると魂が引っ張られて呪いが発動します。
つまり死体と距離が近い時に死にかけると呪いが発動して柏は死ぬのです。