オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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カロナール飲んで寝たらすっかり良くなりました。

皆さんもこの時期は風邪やインフル等気を付けてくださいね。


第1章 第5話 -フルト家の家庭の事情-

 

『アトリエ・パラケル』が開店してから2週間が経った。

最初の客となったグリンガムの一行には、悩んだ挙句『低位幸運上昇の水薬(マイナー・ラック・ポーション)』を販売した。

この町では売られていなかったことと、“幸運値上昇”という明確に数値化できない効果なので、ある程度ごまかせるだろうという考えからだった。

 

しかしその考えは甘かった様で、販売1週間後、グリンガムが血相を変えて店を訪れた。

 

「あっあのポーションはまだ在庫はあるかっ?!」

 

「グリンガム様、いらっしゃいませ。残念ながら『低位幸運上昇の水薬(マイナー・ラック・ポーション)』は作成中で、現在はお売りできません」

先週から接客を任せているルゥオン(アルベド)が笑顔で応答する。

 

これは事前に決めていたことで、どのような反応が返ってくるか分からないから、一旦は売り切れという事にするということにしていた。

実際はあのような低レベルのアイテムは山ほどアイテムボックスにあるのだが。

 

「おや、グリンガム殿、お久しぶりです。販売したポーションの効果はいかがでした?」

奥から出てきたパラケル(タブラ)が、さも今ちょうど表に出てきたかのように応対する。

実際は、ポーションの効果を直接聞きたかったのですぐ裏で待機していたのだが。

 

「いかがも何も、あのポーションを飲んで戦ったら、アンデットが全て一撃で倒せたぞ!幸運値が上がると聞いていたが、攻撃力も上がっているんじゃないのか?!」

 

グリンガムは、ポーションを使用したときの様子を興奮気味に喋る。先日の堅苦しい口調もなりを潜め(こちらが本来の彼なのかもしれないが)、状況を説明した。

曰く、アンデットが大量発生するカッツェ平野なる場所でアンデット狩りをしていたが、普段なら倒すまでに時間がかかるアンデットも一撃で倒したというのだ。

 

“低位幸運上昇の水薬”には攻撃力上昇の効果はないので、考えられるのは攻撃が全てクリティカルになっていたという事である。

ユグドラシルでは、このレベルのポーションで、そのような現象は起きなかったはずなのだが、よくよく聞いてみると、戦ったというアンデットはどれもレベル10にも満たないものばかり。つまり弱すぎて耐性が無く結果全てクリティカルになったと思われる。

 

「ふむ…なるほど。あのポーションはここアーウィンタールに来るまでに旅した中で集めた素材で作ったもの。実は未知の素材も使用していたので予想外に高い効果を付与できたのかもしれません。そう言う訳ですぐに同じものを用意するのは難しいですが、また新しい水薬が出来たらご連絡しますよ。今は新しく水薬を作るための素材採集もしたいのですがなかなか当てがありませんので少々お時間をただくことになるかもしれません」

 

タブラは心の中で、『あれ以上効果を落とすとなるとユグドラシル産の原料使わない方がいいな…』と一人呟いていた。

 

 

***

 

 

その夜、タブラはアルベドとニグレドに意見を求めるため、自身も脳食いの姿に戻り、会議を行っていた。

 

「今日のグリンガムの報告で、ユグドラシルのポーションはこの世界では効果が強すぎるという事が分かりました。それで、今後販売する薬品はどうすべきかお前たちに意見を聞きたいと思います」

 

「タブラ・スマラグディナ様、今後はこの世界で手に入る材料で薬品を作成いただくのが良いかと思います」

 

「やはりニグレドもそう思いますか」

 

「はい、この世界で手に入る材料で作成することでどのような影響があるか正確には分かりませんが、先日薬師組合で見かけた素材は非常に低レベルのものばかりでした。あれらを使用することでこの町の人間種のレベルに合った薬品が作成できるのではと愚考いたします」

 

「ふむ…そうなるとやはり薬師組合には所属して素材を融通してもらいますか・・」

 

「いえ、お父様、その必要はないかと」

 

「ふむ、アルベド。どういうことかな」

 

「“ヘビーマッシャー”から聞いた話によりますと、薬師組合で使用している素材のほとんどは自然から採取できる草や鉱石などであるとのことです。我々が直接探しに行くことで、同時に“ナザリック地下大墳墓”への帰還のための情報収集も同時に行えるかと」

 

「さすがですね。情報収集を怠らないその姿勢は素晴らしい」

 

「い…いえお父様…私は姉さまほどの情報収集能力は持ち合わせていません。私にできることをしているまでです」

 

褒められたことで顔を赤らめるアルベドを、姉が優しい笑顔(皮膚はないが)で見つめる。

しかし次の瞬間、陶器の割れる音が少し遠くから聞こえた。

 

「またですか…」

 

ここ数日、隣のフルト邸から喧嘩をする声や物が壊れる音が聞こえている。

普通であれば隣家の音など聞こえないはずであるが、現在、異形種として人間よりも優れた五感を持つ3人はこの音が良く聞こえてしまっている。

 

「ニグレド、覗いてもらっても良いですか」

 

「はい、畏まりました」

 

ニグレドが“次元の目(プレイナーアイ)”を唱えると、隣家の様子と会話が目に入る。

 

 

 

「あの若造め!長年帝国に仕えてきたこのフルト家の爵位を剝奪するなど…!!」

 

「あなた、落ち着いてください…」

 

「えーい!五月蠅い!!必ず…必ず再興して見せる!!覚えておれ!!鮮血帝め!!」

 

ガチャリ。

アルシェが部屋に入ってくる。

 

「お父様…お母様が泣いています…落ち着いてください。」

 

「アルシェ!!お前は…お前は分かっているよな!必ず我らフルトは再興する。今はそのために奴に屈していないという姿勢が大事だ!お前が稼いできてくれているおかげでフルトは貴族であるという事を知らしめることができる!お前は…お前はフルト家の誇りだ!!」

 

「…ありがとう…ございます。でも、今は私の稼ぎだけでやりくりしていくべきです。借金などはしてはいけない…していないよね?」

 

「…もちろんだとも」

 

「…分かった。じゃあ私はもう寝ます。クーデとウレイが起きてしまうから、あまり大きな声を出さない方がいいと思う…お休みなさい」

 

 

酒を飲んで暴れる父親とそれを諫める娘。

父親はああ言っていたが、すでに金貨100枚ほどの借金があることもここ数日の会話で分かっている。

娘も薄々気づいていることだろう。

 

フールーダはアルシェのことを“帝国魔法学院をいつの間にか辞め、ワーカーなんぞに成り果て小金を稼いでいる”と言っていたが、果たしてその“小金を稼ぐ”理由はこれだったのだ。

あの口ぶりからフールーダはこのことを知らないだろう。

あの魔法狂いであれば、才能あるアルシェのみをさっさと連れ出して、自身の弟子として再度迎えるだろう。

ただ、アルシェはそれができない理由もある。

幼い妹たちがいるのだ。

一度ニグレドに覗かせたところ『非常にかわいい』という感想だったので、おそらく2歳には達していない。

アルシェは幼すぎる妹を不幸にできない故、学院を辞め家族のために金銭を稼ぐことを決意したのだ。

しかし、その思いは親(特に父親)には届かず、借金し、浪費し続ける有様。

いずれこの家族が破綻することは、手に取るように分かった。

 

「やれやれ…どうしようもない親というものがいるものですね。それともこの世界の人間ではよくあることなのでしょうか」

 

タブラが呟くと、横のアルベドが見たこともないような険しい顔をして言葉を発した。

 

「脆弱な人間種であっても、このようなこと…許されるものではありません…親が子を愛さないなど…私たちのお父様のようにとは言いません…ですが、自分勝手な理由で子供に苦労をさせるなど有ってはなりません…」

 

ニグレドも呟く。

「赤子には無限の可能性と未来があります。あの者の行いはそれを潰すもの…決して許されるものではありません」

 

タブラは二人の娘の言葉を聞いて少し考えた。

二人の言葉は、明らかに自身が設定したものであると。

一年ほど前、ギルドの戦闘バランスを整えるためにアルベドのカルマ値を極悪から極善へ変更した。

結果アルベドは、非常に慈悲深く、他者への配慮ができる存在となっている。

元々カルマ値高めに設定しているニグレドも同様だ。

 

一方で自分自身はどうか。

ロールプレイとして設定したカルマ値は“悪”に当たる。

それを踏まえて、フルト家の状況を見た素直な感想は、『愚かな父親だ』というもの。

これは“悪”なのだろうか?

“悪”であればこの状況を楽しむか、あるいはこの状況に付け込み何らかの策をめぐらすというのも考えられる。

いや、それは“極悪”だろうか?

 

現時点では分からない。

ただ少なくとも、この“脳食い(ブレインイーター)”であるときは、人間は“他種族”であるという意識が強く、同じ種に対する同情は湧きづらいという事も分かっている。

 

それらから考えると自身のカルマ値は“中立”と考えるのが妥当な気がする。

実際、指輪の力で人間でいる間は、かの家のことを考えると若干気の毒に感じるからだ。

 

ここで分かったことは、おそらくNPCはカルマ値を含めた設定の影響を受けているが、プレーヤーである自身は、その限りではない。どちらかというと種族に精神を引っ張られている。

カルマ値“中立”というのは、元のリアルの自身の感性のような気がするから。

 

脳食いの冴えた思考で自問自答していたが、あまり長い沈黙は良くないと思い、ニグレドに“次元の目(プレイナーアイ)”の解除を指示した。

 

 

「ここ1週間で調べたところ、この都市では“冒険者”よりも“ワーカー”の方が数が多く、様々な任務を請け負ってくれる可能性が高いようです。幸運にも私たちはすでにベテランと思われる“ヘビーマッシャー”と繋がることができています。したがって、今後はワーカーを通して素材の探索およびナザリックに関する調査をすることとします。私たちがワーカーとなるかは保留ですが、ワーカーと関係値を高めていけばフルト家の娘ともつながる可能性が高く、彼らの問題を解消することで恩を売り、何らかの利点が見つけられるかもしれません」

 

娘たちは少しうれしそうな表情となり、跪くと声をそろえて言った。

「畏まりました、タブラ・スマラグディナ様」

「畏まりました、お父様」

 

 

アルシェのことを言ったのは、娘たちのやる気に繋がるかと思っての言葉の綾であったのだが、運命の廻りあわせは意外にも早くやってきた。

 

3日後、『アトリエ・パラケル』に『フォーサイト』がやってきたのである。

 

 

「え・えーと、お邪魔します…って感じでいいのか?」

「何よそれ」

「いやだって、明らかにお貴族様の家だし…」

「グリンガムの話によれば、こちらの方は貴族ではなく、フールーダ卿の私的なお知り合いと伺っていますよ」

「……」

 

「いらっしゃいませ。『アトリエ・パラケル』へようこそ。本日はどういったご用件でしょうか?」

 

ハーフエルフの女性に背中を強めに叩かれて、前に出た金髪に赤髪の混じった若い男が口を開いた。

 

「あ・えーと初めまして。わたくし、ワーカーチーム『フォーサイト』のリーダーを務めておりますヘッケランと申します。本日はお日柄も良く…」

そこまで言うとハーフエルフの女性がヘッケランの頭をバシと叩き、ため息を一つつくと『ロバーお願い』と言った。

 

ロバーと呼ばれた神官風の男は、やれやれと言ったジェスチャーの後、カウンターの黒髪の美女に向かって話し出した。

「すみませんね、リーダーはちょっと持病が出てしまったようなのでここからは私が。私は同じく『フォーサイト』のロバーデイクと申します。実は知り合いのワーカーチーム『ヘビーマッシャー』からこちらのお店のポーションの効果が非常に高いと伺ったので」

 

おそらくこのロバーデイクという男はこのチームで最も年上であり、落ち着きもある。

またヘッケランの先ほどの妙な喋りは、ルゥオン(アルベド)があまりにも美人だから緊張したというのもあるだろう。

ハーフエルフの女性はそれを敏感に嗅ぎ取って面白くなかったため頭を叩いたのかもしれない。

一方で、アルシェは先ほどから一言もしゃべらない。

ヘッケランの最初の発言から推測すると、彼女は自身の状況や、そもそも実家がこの店の隣であるという事をチームメイトには共有していないのかもしれない。

店の奥から様子をうかがっていたタブラは、彼らのやり取りからこのチームの関係性を観察していたが、彼らの持ってきた案件が、目的と重なる可能性を感じたので、そこから先はタブラ自身が直接対応することとした。

 

「いらっしゃいませ。私はここの店主のパラケルと申します。ヘビーマッシャーの方とお知り合いとか。よろしければ奥で話しましょうか?」

 

 





フォーサイトと繋がるまで5話もかかってしまいました。

原作より2-3年前のつもりなので、まだフルト元男爵は若干正気を保っていたし、アルシェちゃんも丁寧な喋り方だったんじゃないかなと考えています。

やっと物理的に冒険が出来そうです。

慎重な方の御方だと、派手な動きができないですね。

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