オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
「み・ず・う・み!!」
巨大ハムスターの上の餡ころもっちもちが叫んだ。
しばらく西に走り続けると、あるところで突然木々が無くなり大きな湖が姿を現した。
水は深く澄み、遥か先の対岸には再び森が広がっているのか木々が見えている。
水中には40センチほどの魚が泳いでいるのが見え、深いところには、もっと大きい魚がいるように見える。
「すっごい!第6階層にも湖はあるけど、何て言うんだろう、この湖の方がとっても自然で、ありのままって感じがするね。魚もいっぱいいるみたいだし、カニとか、小さいエビとかもいっぱいいるよ!」
「はい、仰る通りです、わん」
「あの泳いでいるのは魚というのでござるな…某、ここまで来たことがなかったので今まで食べたことがなかったでござる。姫は魚を食べるでござるか?」
「あー、魚は…うん、そうだね。でもこんなに大きくて新鮮な魚は食べたことないかな。トロちゃんも魚食べてみたい?」
「姫のおすすめならば食べてみたいでござる!木の実やキノコよりも食べ応えがありそうでござるな!」
「じゃあ捕ってこようか。ペスと一緒にちょっと待ってて」
「餡ころもっちもち様、ここは私が捕まえますので、餡ころもっちもち様はお待ちいただけますか?」
「え、ペス、濡れちゃうでしょ?私は多分魔法で捕れるからやるよ?」
「ですが御身自ら出られなくても…」
「精霊召喚で簡単だから、私も出ないよ。見てて、<
餡ころもっちもちが呪文を唱えると、湖の中から3メートルほどの
そしてその透明の腕で70~80センチほどの大きな魚を数匹掴み、餡ころもっちもち達のいる岸に放り投げた。
腰を抜かしているハムスターをケアしてるペストーニャの横で、餡ころもっちもちは今度は
「できたよー食べてみる?」
「ひぇっ…やっぱり姫はとんでもないでござる…あ…でも何だかいい匂いでござる…」
「はうっ…美味いでござる!ほのこうばひいかおりとあふらののったなんともひえないあじ…ハフハフ!!」
「もうーご飯は逃げないから飲み込んでからしゃべった方がいいよー」
「………」
もぐもぐ…ごくん
「最高でござる!!姫の家臣になって心からよかったでござる!」
「家臣じゃなくて仲間だよー…でも美味しかったんなら良かった!」
「姫やペストーニャ殿は食べないでござるか?」
「私達は、飲食無効の指輪をしてるから…あ、でもペス食べてみる?」
「…その前に、餡ころもっちもち様、お気づきかもしれませんが、あちらの茂みから何者かが近づいてきています」
「うん、あ、そっか。魚焼いたから匂いでモンスター呼んじゃったかな…会話できる子だったら、この魚あげてみようか」
果たしてその茂みから姿を現したのは、手に短剣を持って震える3人の
3人のうち中央の者が叫ぶ。
「ま…魔獣!それに水精霊に火精霊…お…お前たちは何者だ!」
「あ、怖がらせてごめんね。私は餡ころもっちもちっていう妖精。この子はメイド長のペストーニャで、この子は私の仲間のトロペジェンヌのトロちゃん」
「妖精…その……水精霊と火精霊は…?」
「あ、この子たちは魚を捕るために私が召喚したの。キミたち
差し出された良く焼けた魚を見た
そして気づいたら、怪しすぎるその集団から魚を受け取り、尻尾をぶんぶん振りながら魚を頬張っていた。
それぞれが1匹ずつ魚を平らげると、
「あーその…魚を頂き感謝する……でだ、話は戻るのだが、あなたたちは何者なのだろうか。俺たちはこの近くにある
「あ…ごめん、もしかしてこの辺り、キミたちの縄張りだった?私たちはあっちの方から来たんだけど、ここに来るまでに誰にも会わなかったから勝手に湖で魚とか捕っちゃった」
「あ、いや…湖そのものは正確には我々の縄張りではないのだが、この湖のほとりにはいくつかの集落があって、恐らく我らの集落が一番近い。敵対する部族でないという事は分かったが、あまり湖を荒らされると我々の食料である魚が捕れなくなるので…その…」
四足の魔獣も、犬顔の亜人?も、精霊も、どれもとても勝てそうにはない雰囲気である。
どこから来たのかは分からないが、誰とも会わなかったというのは、この集団が放つ力が強すぎて、森の生物たちは本能的に避けていたのだろうと考えた。
そして会話をしている妖精は、なぜか全く力を感じないが、どうやらこの者達の長のようだし、精霊もこの者が召喚したと言っている。
一方で会話は成り立つし、とても敵意がある感じではないので困惑気味なのだ。
そうこうしているうちに、背後から新たな者が現れた。
「お前たち、何があっ……精霊に魔獣?!」
「族長!!」
新たに現れた
先ほど狩猟班と名乗った者達が、その族長と呼ばれた者に事のあらましを説明する。
族長と呼ばれた者は、顎に手を当てかなり困った顔で何かを考えた後、意を決したように喋り出した。
「事情は概ね把握させてもらった。私は
正直、爬虫類系も可愛いと感じる餡ころもっちもちは、戦士っぽい雌の
「えっとね、私たちは皆この森に来たばっかりだから、今は森に何があるのか探検してて、できれば棲んでいる皆と友達になりたいって考えてるんだ。キミも良かったら友達になろうよ」
「な…そう…ですか。うむ…とりあえずは一旦我が集落へお越しいただいてもよろしいでしょうか」
「いいの?じゃあお邪魔させてもらうね!」
そう言う訳で、餡ころもっちもち一行は族長エルミュの案内で
一方で族長のエルミュは頭をフル回転し、突然現れたこの妖精たち一行をどう持て成し、そして敵対せずに自分たちが現在抱えている問題の解決のために協力を取り付けられないか必死に考えていた。
ちなみに召喚した精霊のうち、火精霊はしばらくすると消滅したが、水精霊は消滅しなかった。
これは無意識に餡ころもっちもちが、湖の水を媒体として召喚していた為であった。
命令すれば消滅させられる感覚はあったが、何だかそれも可哀そうなので、湖の水に交じって待機状態となっている。
集落に到着すると、一行が放つ強力な気配で、多くの
「妖精殿、私は長老会の者などへ話をしてから来るので、しばしこの中でお待ちいただけるだろか。あートロペジェンヌ殿は申し訳ないが戸をくぐれないと思うので外でお待ちいただけるか」
「わかったー」
「承知したでござる」
エルミュは急ぎ長老会と祭司頭、戦士頭を集め、緊急の会議を始める。
「…という訳で、あの一行は東から来たようで、この森を調べている様子。魔獣や亜人の方は分からないが、妖精が遠い地から旅をしてくるという事は考えられないので、恐らくはこの森で生まれたばかりなのだろう。その後、この森であの魔獣や亜人を従えて旅をしているのかもしれん…祭司頭、意見はあるか?」
「族長…あの妖精は他の2名と比べて力を感じませんでしたぞ。実際は魔獣と亜人のどちらかが主で、捕まえた妖精を使って油断させ、侵略をしようとしているのでは?」
「いや…その可能性が無いわけではないが、先ほどあの妖精は水精霊と火精霊を支配下に置いていた。一見すると力を感じないが、高い祭司系の力をもって支配していると考えた方が自然だと思う」
「うぉ…
「そして精霊の力で魚を捕らえ、調理して、狩猟班の者にご馳走したという訳だ…正直、あの一行が侵略を目的としているならば、とっくに動き出していてもおかしくないし、その場合、私を含め、それを止めることが出来る者は居ないと思う」
長老たちもごくりと息を呑んだ。
族長の言う事は尤もだし、それほどの力を持つ者達が今この集落に居るという事実だけでも恐ろしいと考えてしまうのだ。
エルミュとてそれは同じ。
だが、女だてら剣術を極め、
「あの妖精殿は、私に“友達になりたい”と言った。この後、もう一度お話をして、やはりあの一行が邪悪な者でないと判断できた場合は、友好的な関係を築き、可能であれば我々が今抱えている問題についてお力を貸していただけないか相談したいと考えている。皆、反対は無いだろうか」
族長の言葉に、その場の者は黙り込む。
一行に恐怖が無いわけではないのだが、族長の意見に反対する代案も思い浮かばない。
族長が決断をしようとしたその時、それまで腕を組み、深く目を瞑っていた者、エルミュ同様、体中に切傷痕を持つ一人の若い
「族長、反対はない。が、あの者達との交渉、俺も同席をしたい。己の目で見なければ、信用し、協力することは出来ん」
「…戦士頭、分かった。許可しよう。他に同席を希望する者は居るか?」
エルミュは他に声を上げる者が居ないことを確認すると、戦士頭と共に、客人を待たせている住居へと足を進めた。
「さて…正念場だ。戦士頭よ、仮に客人が無礼な態度を取っても突然攻撃をするんじゃないぞ。妖精殿は我らの持つ習慣や礼儀など知らんだろうからな。それと、決闘を申し込むのもダメだからな」
「分かっている、エルミュ」
「…名で呼ぶな。族長と呼べ」
「…分かった、族長」
入り口で待つ四足の魔獣に軽く会釈をし、エルミュは客人の待つ住居の門をくぐる。
戦士頭もまた、その精悍な魔獣を一目見、無礼にならない程度の素っ気ない態度で頭を下げた。
他の長老会の者の様に、あからさまに魔獣を恐れる素振りは見せない。
流石は、
結果的に毎回エルミュが勝利しているが、その力は本物で、実力は殆ど肉薄している。
単純な力の強さは恐らく彼の方が上。
エルミュという剣の達人が居なければ、彼が族長を務めていたことだろう。
「お待たせしました、妖精殿。まず、紹介するがこの者は我が部族の戦士頭。名はザルシャ・ググーという。彼もこの話し合いに参加することをお許しいただきたい」
ザルシャが小さく頭を下げたのを見て、エルミュは再び視線を妖精に戻す。
「全然いいよー!結構大人数の集落なんだね。君ってば、やっぱりカッコカワイイね!」
「ぷっ」
何やら噴出した戦士頭を一睨みした後、エルミュは再び喋り出す。
「あー…オホン。我が部族をお褒め頂き光栄です。で、先ほどのお話ですが、我らの部族は可能であれば貴方様がたと友好的な関係を築きたいと考えています」
「ホント?!じゃあエルミュちゃんも、えっとザルシャちゃんも友達だね!」
「「…ちゃん」」
今度は2人の
「あー、えっと。はい。そうですね。今後は我が集落にいつお越しいただいても大丈夫なように、部族の者達には伝えておきますので」
「ありがとう!ところでさ…」
「はい?」
「ペス、さっき言ったこと、このザルシャちゃんもだけど、治せそう?」
「はい、問題ありません、わん」
「そっか、良かった!えっとさ、エルミュちゃん、ザルシャちゃん、もし良かったらなんだけど、体の古い傷痕、治そうか?このペストーニャの魔法を使えれば、治せるよ?」
「…え?」
「…なんだって」
突然の信じられない申し出に、
その身体の傷の多くは、族長選抜や
勿論戦いの後、祭司が用いる魔法と薬草で手当てはしているが、それが完全に消えることは無い。
「可能ならば、エルミュの傷を治してはくれ…」
「待て、黙るのだ、戦士頭」
族長としてのエルミュの言葉に、ザルシャは途中で言葉を止める。
「…妖精殿、お申し出、感謝いたします。ですが、私のこの傷は族長としての今に至るまでの歴史の様な物。部族の者にはこの傷を含めて族長と認識されております。なので治していただく必要はありません。それに我らには、それほどのことをしていただき、その恩をお返しできる程の物を持ち合わせておりません」
その言葉に、餡ころもっちもちは『あ、ヤバい、この女戦士カッコいい!』という気持ちを募らせていった。
最初餡ころもっちもちは、女の子なのに傷があって可哀そうという安易な気持ちから話を持ち掛けたのだったが、帰ってきた言葉は、真に“部族をまとめる者”の矜持だったのだ。
また一方で、この程度の傷を治す事で何か見返りなどを求めているわけではないという事も理解してもらわなければと思い、慌てて言葉を続ける。
「あ、えっとね。分かったよ。ゴメンね、余計なこと言って。でも別に私たちは、何か見返りが欲しくて言い出したわけじゃないよ。だったら、そのザルシャちゃんは治しても構わない?もちろん何か見返りとかはいらないよ。ただ、友達になる子に何かしてあげたいって思っただけだから」
「なんと…」
エルミュは言葉を失った。
彼女の知識では妖精というのは自然発生し、時に悪戯をしたりする異形の一種というものだったが、今目の前の妖精の言葉は余りにも善に溢れていて、かつ嘘を言っているようにも感じない。
もしかしたらこれ程高位の妖精ともなると、強い自我を持ち、祖霊様の様に時に森の住人へ力を貸してくれる存在となるのかもしれない。
「…では、ザルシャについてはお願いしてもよろしいでしょうか?」
「うん、おっけー!ペス、お願い」
「承知いたしましたわん、<
犬の亜人が魔法を唱えると、何か言いたげだったザルシャの傷痕はみるみる消えていった。
ザルシャも自身に起きたことが信じられない、と言った顔で己の身体を見回している。
「な…なんという……妖精様、誠にありがとうございます!我らの部族はあなた方への協力を惜しみません!」
頭を下げる2人の
高いカルマ値を持ち、元々慈悲深い性格のペストーニャも、他者の感謝を受け、また主が尊敬のまなざしで見られているという事に心から満足し、その優し気な眼を細めるのだった。
新たに友達ゲットしました。
アンケートです。餡ころもっちもちさんは、モモンガ(鈴木悟)さんのことをどう考えているか。
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異性として気になっていたことがある人
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あくまで友人として尊敬できるギルマス