オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
湖の上に水が盛り上がった場所が生まれ、その上に木板が浮き、木板には巨大ハムスターと犬の亜人?そして妖精がふわふわ飛び回っている。
その異様な光景は、晴れたトブ湖の長閑そうな景色のなかで妙に目立っている。
彼らが何をしているかというと、
陸路で湖をぐるっと回るという手もあるのだが、湖を突っ切れば単純にショートカットになるという事から、養殖場づくりで余った木の板を
最初こそトロちゃんが『某ここで落ちたら岸まで泳げるか分からないでござる!!』と怖がっていたが、その場合は
本当に順応性が高いハムスターである。
湖の北側の領域に入り、少し進んだところで水の色が変わってきた。
おそらく水深や湖内の水質が異なるのだろう。
北側は、
北東にみられる山から水が流れてきているとのことだから、こちらの方が上流に当たるのだろう。
「あ、ちょっとストップ」
餡ころもっちもちの言葉に反応して、
「はわわわ」
トロちゃんが感性の法則でよろけたので、餡ころもっちもちが片手でその巨体を支えて止める。
「姫、ありがとうでござる…それにしても姫はその小さな体で怪力でござるな…」
「そうかな?」
餡ころもっちもちの、コㇿポックㇽとしての職業構成は
餡ころもっちもちは、性格的に腕力に物を言わせるタイプではないし、妖精的な思考になっているのであまり深く考えていないが、本当は
トロちゃんは最初の出会いが衝撃だったが、その後ずっとほんわか妖精状態の餡ころもっちもちを見ているので、すでに最初の恐ろしい姿の事はあまり覚えていないが、彼女の本気ぱわー☆を見たら再び腰を抜かすだろう…
「それよりもさ、トードマンらしき人達いるね」
「え?どこでござるか?」
「ほら、あの対岸のとこ」
餡ころもっちもちが指差すのは、2キロほど先の湖岸の場所。
言われてみれば巨大な何かが動いているように見える。
「姫、めちゃくちゃ目がいいでござるな…某も目を凝らしてやっと見える感じでござる」
「え、そうかな?ペスは見える?」
「はい、トロペジェンヌさんと同じです。餡ころもっちもち様は何らかのスキルで見えているのではないでしょうか…わん」
「え…そうなのかな…?」
餡ころもっちもちは気づいていないが、これは召喚している
「まあいいや。
餡ころもっちもちの声は、
その日トードマンたちは、ただ日向ぼっこをしていた。
以前は魚を捕まえる際に、同じく狩りをしている
そんな折、突然水面を通して力強い何かが全身を駆け巡った。
『おーい、トードマンのみんなー!!』
トードマンたちは、皆ビクッとその身体を震わせてパニックになった。
その声のようなエネルギーが飛んできた方向を見ると、遥か先の湖面の空中に浮かぶ大きな四足獣と見たことがない亜人。
いや、よく見るとそれらは
それらの塊が、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「ナ、ナンダアレハ!!」
「ウアアアアアアア!」
「オオオオオオオオ!」
結果、餡ころもっちもちの配慮はむなしく、その場は大混乱となった。
「
餡ころもっちもちは
「アアア…アナタサマハ、イッタイナニモノデショウカ…」
「本当にごめんねぇ…私はコㇿポックㇽっていう…妖精だよ。トードマンのみんなとお友達になりたくて来たんだけど、リーダーみたいな人はいる?」
「オレガ、コノムレヲヒキイテイルモノダ…ソノ…ドウイッタゴヨウケンカ?」
「あ、えっとね。私たちは森のもっとあっちの方から来たんだけどね、ついこの間まで湖の南の
この明らかに強い精霊を召喚し魔法も使う妖精と、それが従える、これまた明らかに強い魔獣と亜人は、
だが、その妖精が口にしたのは意外な言葉だった。
「えっとさ、トードマンの人たちって聞いた話だと
トードマンの長は一瞬意味が分からなかった。
弱肉強食は世の常。
それが同じ餌をめぐって争う関係であれば猶更である。
トードマンは比較的何でも食べられる雑食性の亜人である。
本当のことを言えば最も好物なのは
なので比較的年中捕獲できる魚を主に食べているわけだ。
この点は
だから妖精が提案するような
長はその点を、恐る恐る妖精に説明する。
「ソノ…リザードマントハ、ショクリョウノサカナヲ、ウバイアウカンケイニアリマス。ショクリョウノモンダイガカイケツシナケレバ、ワカイハムズカシイカト…」
「あ、だからね、
「ヨウショクジョウ?」
「えっとね…」
妖精が語る内容に、長は丸い目をさらに丸くして驚く。
原理はイマイチ理解できないが、そのような技術…つまりは狩りをせずとも常に魚が食えるという事だろうか…
「君たちにも養殖場を作るっていうのもありなんだけど…」
餡ころもっちもちはトードマンたちの、蛙に近い手先を見て、細かい作業は難しいかもしれないと考える。
「えっとさ、君たちって魚しか食べないの?」
「ワレラハ、ワームヲコノミマスガ、モットモアンテイシテタベラレル、サカナヲオモニタベテイマス」
「ワーム…あ、虫の幼虫かぁ…それってどういうところで採れるの?」
「スコシモリニハイッタトコロニ、ツチノヤワラカイバショガイクツモアリマス。ソコデハ、アメノアトノジキニワームガトレマス。デスガソレダケデハ、ワレラノエサトシテハフジュウブンナノデス」
「もし良かったら案内して?」
「…ワカリマシタ」
長の案内で湖畔から少し森の中を進むと、そこは枯れた木が長い間堆積してできた柔らかい土が多い土地だった。
今は雨が降らない時期に入り始めているので、ワームを探すのは困難だし、無理に捕りすぎるといなくなってしまうという。
餡ころもっちもちはちょっと考えてから、その土地に試しに【
すると心なしか、そのエリアは野生生物が増えた気がする。
ライフサイクルが短い虫たちは、明らかにその数を増やしているし、鳥や小動物も増えてきている。
枯れ木には通常ではありえない大きさの茸が生え、その茸に分解された落ち葉や枯れ木は非常にゆっくりとだが新たな腐葉土となっていく。
その光景を見て驚くのはトードマンの長と、怯えながら一緒についてきた多くのトードマン達だ。
突然あふれるように増えた昆虫たちを見て、トードマンの子供たちが我慢できずに飛び出してきて、大好物の虫を捕まえて食べる。
「ナ…ナントイウ…コレハ、アナタサマガマホウヲカケタノデスカ…?」
「魔法というよりスキルだけど…まあそうだよ。他にもこういう場所ある?あればそこにも【
長に案内され、餡ころもっちもちは、トードマンの暮らす湖畔から半径2キロほどの森の領域に【
そしてかつてブルプラさんから聞いていた知識を思い出し、トードマンたちに説明する。
「えっとね、この辺りの森は生き物がとっても早く成長するようになってるけど、今度はその材料が不足しちゃうかもしれないから、この領域の外から枯れた枝とか葉っぱ、後は食べ残したものなんかを定期的に森に撒くことを忘れないでね。それが栄養になって、この森の成長を支えてくれるから。それと…」
ブルー・プラネットは、【
「こうやって植物本来のライフサイクルを超えたスピードってのは本当は駄目なんですよ。特定の薬剤とか紫外線の照射とかあとは遺伝子を組み替えることで生産効率が上がるのは確かなんですけど、その分特定のミネラルとかだけが使用されるから、土地の栄養組成が偏ってあっという間に作物が育たなくなりますし、それでも無理に続けると今度は特定の有害成分が蓄積してしまう。それを繰り返したことが現在の地球の土地荒廃の始まりで…聞いてます、もっちさん!」
「聞いてるよー。じゃあどうすればいいの?」
「そうですね、一番基本的なところは特定の植物だけを何度も植えることが問題です。また、枯れた植物自体が適度に土に残ることも大事です。これらは長い時間をかけて腐葉土になって、土の中の虫やキノコをはぐくみ、それらは動物のえさになります。あとは現実的には難しいでしょうが、植物と同じくらいのライフサイクルで動物もライフサイクルを回せばいいですね。飼料作物だけ植え続けるとまずリンとかが不足してくるんですが、これはその土地に普通に動物が生活してフンをしたり、後はその死体が栄養となるわけです。あとは水ですね。雨水だけだと早すぎるライフサイクルの影響でおそらく土地が乾燥してしまうと思います」
在りし日のブルー・プラネットは相変わらず自然のことについてはよく喋る人だったが、彼のおかげで、この繁殖が促進された森に足りないのは、後は水だなと考えた。
「…それと、多分だけど水が足りないから、私が召喚した
妖精がそう言うと今まで乗り物になっていた
トードマンたちは、次々と起こる想像の範囲を超えた事態に言葉を失い、ただただ、明らかに豊かになった森を見つめていた。
子供たちは嬉しそうに少し湿った森で遊び、飛び回る昆虫をつまみ食いしている。
このトードマンの居住地の周囲に広がる、常に僅かに輝く豊かな森は、後に“命溢れる祝福の森”と呼ばれ、トードマンだけでなく森の多くの生物の繁栄を支えることとなる。
トードマンたちはこの時点では、突然現れた妖精を、ただ何となく強大な力を持った存在としか認識していなかったが、やがてこの森の豊かさを実感し、好物のワームがいつでも食べられる環境を作った妖精は、きっとこの大森林の守り神の化身だったのだと考えるようになる。
そして彼らは妖精が言った言葉を守り、“命溢れる祝福の森”を維持管理するため、定期的に領域外の落ち葉や枯れ枝を拾い、森に撒く。
この行為は結果的に、“命溢れる祝福の森”の外の領域の林間整備に繋がり、やがて未来にトブの大森林内に形成される、全ての住人が通るための林道へと繋がっていくのである。
そして妖精がトードマンたちに齎したのはこれだけではない。
「よし、これでもう
「ハイ…ソウカモシレマセン…デスガナガキニワタリタイリツシテキタタメ、カンタンニハ、ワカイハデキナイカト…」
「私がさ、仲介するから彼らと一緒に話してみない?」
餡ころもっちもちには一つ思いついたことがあった。
それは
ある程度森は整備したとはいえ、所詮は素人の仕事。
もしかしたら何か大きな気候の変化とかで、食事が足りなくなるかもしれない。
その時は養殖している魚をトードマンの皮膚の毒と交換することでお互いの利益となるし、2種族がこれから上手くやっていくための交易を開始するきっかけとなるかもしれない。
この思い付きで餡ころもっちもちは、トードマンの長と何名かの御付きのトードマンを連れて、
最初、各部族の族長たちは臨戦態勢を取ろうとしていたが、
ちなみに現在は族長ではないエルミュがなぜその場に居るかというと、新族長のザルシャはまだ不慣れ且つ色々と不器用ところがあるので、慣れるまでその横について補佐をしている。
他の6族長は、その様子を夫婦漫才としてニヤニヤと見守っている。
なおこの補佐は、エルミュが臨月を迎えるまで続いた。
ともかくも族長たちは、
大妖精様がトードマンたちの集落で為したことは、やはり奇跡としか言いようがなく、また和解と交易というのは、どちらにとっても間違いなく利益しかない。
唯一の問題点は、お互い種族の感情である。
今まで争ってきた2種族の全ての者達が、お互いを隣人と理解できるまでには相応の時間がかかるだろう。
だが、すでにその問題を乗り越えることが出来た
トードマンも、
こうしてトブ湖周囲に住む2大種族は歴史的な和解をし、さらにそれぞれが同じ環境下で生物学的食い分けを実現して競争を最小限に抑えるだけでなく、その2種族は交易までして積極的な相利共生の下地まで作った。
加えて、この2種族は魚の自然養殖と林道整備という自然に負荷をかけないレベルでの、環境管理も実現していく。
餡ころもっちもちは、意図せずに森の妖精として正しく魔法を使い、トブの大森林という未開の土地に、環境に負荷をかけない循環型農業システムの基礎を築いたと言える。
これにはおそらくブルー・プラネットもニッコリだろう…いや、彼に言わせればもっとやれることがあるかもしれないし、そもそもこの大森林に籠って永遠にフィールドワークをしたかもしれない…
当の餡ころもっちもちは、新たにトードマンという友達が出来たことが嬉しく、しかも新しい友達が他の友達との争いをやめてみんな仲良くなったことに純粋にハッピーな気持ちになっている。
「あー……この森最高でござる…キノコとか木の実は豊富でござるし、土はいつも適度にひんやりとしていて気持ちいいでござる~あとは番が欲しいでござる~凛々しい雄はいないでござるか~…あ、姫!」
トードマン集落周囲の、後に“命溢れる祝福の森”と呼ばれる領域で、トードマンと
「トロちゃんお待たせー。それじゃ次は北の湿地へ行こう!」
「ハイでござる!あ、でも某、この場所すごく気に入ったでござる。こんなに食べ応えのある大きさのキノコ見たことがないし、それに、なんだが生きている感じがするでござる!」
「じゃあお腹がすいたら転移で戻ってきてもいいよ」
「本当でござるか!某は姫の家臣になって本当に良かったでござる!!」
「じゃあ行こ~」
「ハイでござる!」
「畏まりました、わん」
3人の旅はまだ続く。
唯一つ、はっきりしていること。
それは、トブ湖の周辺にスライム主従を近づけてはならないという事。
トードマンからすれば、いきなり現れてその強大な力を示され、有無を言わさず色々と命令に従わされ、気づいたら種族の繁栄が約束されたという感じでした。
アンケートです。餡ころもっちもちさんは、モモンガ(鈴木悟)さんのことをどう考えているか。
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異性として気になっていたことがある人
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あくまで友人として尊敬できるギルマス