オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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年度末の忙しさから更新タイミングが遅くなっていますが、時間を見つけて可能な限り進めていきたいと思います。

いつも誤字報告ありがとうございます。
とりあえず進めることに力を入れているため確認が遅くなってしまっていますが、時間を見つけて直していきたいと思います。

いつも本当に感謝しています!


第5章 第10話 -潜影尖爪-

 

 

「…つまりこの森に住む亜人種や異形種は、現在全ての種が手を取り合い、森の中で共存していると…?」

 

「そうだよ!」

 

「しかし…森の中での生物の過剰な繁栄は、やがて森の資源を使い果たし、外に溢れる者が出るのでは?」

 

「そうならない様に、みんなが森の資源を無駄に使わないでリサイクルできるように、私が管理してるんだよ!」

 

「むうう…」

 

 

小さな妖精とイノフェンの話し合いが続いている。

イノフェンは、突然現れてその場の全ての者に“冷や水”を浴びせた妖精に、一旦この大森林の状況を教えてもらうことにしたのだ。

 

妖精というのは、森の何らかの化身——例えば花や木など——として生まれ、場合によっては数百年の時を生きる者もいる。

そして彼らは得てして、多少の悪戯はするものの、人や森の生物に対して大きな危害を加えることはなく、自身が棲む森の事であれば多くのことを知っていることが多い。

 

イノフェンの予想通り、その妖精は森のことについて非常に詳しく、そして嘘か誠か、その妖精こそが森の生態を管理しているような口ぶりだった。

いや——嘘ではないだろう。

 

妖精というのはそういった嘘はつかない。

道に迷わせたり、悪戯はする。

だが、嘘はつかないし、計略などというものとは無縁だ。

そこが他の種族、とりわけ人間と異なるところである。

 

いつの間にか妖精の傍らには、先ほどの白銀の賢王とも呼べる魔獣の他、犬の頭をした亜人も控えている。

森を管理する妖精を力の面で補佐する、森の住人の代表なのかもしれない。

妖精から力は感じないが、この亜人も魔獣と同程度の力を持っていると仮定すると、ここで戦うのは得策ではないと判断したというのも、会話を選んだ理由である。

 

 

「妖精殿、私たちはスレイン法国という人間の国から来た。目的はこの森に住む何らかの存在が、私たちの国や人間たちに危害を加えないかどうかを調査するためだ。妖精殿のいう事は信じよう。だが、この森の存在は、将来的も、人に危害を加えないと言い切れるだろうか?」

 

「少なくとも、今この森に住む子たちはね、森の恵みだけでみんなで暮らしてるの。外から来た人が、危害を加えてきたりしない限りは、こっちから手を出すことは無いよ」

 

「そうか…ではもう一つ聞きたいのだが、私たちが聞いている話では、この森には“魔樹の竜王”と呼ばれる存在が封印されているとのこと。この存在について何か知っているだろうか」

 

「ああ、うん。“悪しきトレント”って呼ばれている子だね。その子は眠っていて今のところは近づかなければ大丈夫かな。いずれちゃんとお話をして何とかしなきゃとは思ってるよ」

 

「なっ…やはり伝承は正しかったか…妖精殿、その“悪しきトレント”という存在、我々が対処するわけにはいかないだろうか?」

 

「うーん…君たちじゃあ無理だね」

 

「なんだと貴様!」

 

「よせ、マエーヴァ!」

 

 

イノフェンは部下の発言を窘める。

彼女は優秀な隊員ではあるのだが、聖典部隊としてのプライドからか、あるいは水を浴びせられ、びしょびしょになったことに対する怒りからか、先ほどから妖精に対して不快感を込めた言葉をぶつけている。

 

一方で妖精は、そういった彼女の言葉に対しては全く意識する素振りもなく、ごく普通に会話を続ける。

そう言った超然とした態度も気に食わないのかもしれない。

 

 

「妖精殿、我らでは無理だと言うが、その存在はそれほどの強さなのだろか?」

 

「うーん…君、このトロちゃんと互角くらいの強さだったでしょ?この森には、トロちゃんと同じくらいの強さの子が何人かいるんだけど、そういう子たちもほとんど一撃で致命傷受けてるの。それも眠ったままの状態の攻撃でね。だから仮に君たちがみんなトロちゃんと同じくらいの強さだったとしても、全然相手にならないよ。下手に近付いたら起こしちゃうかもしれないし、そうなると森に住む他の子にも影響出ちゃうから今は近づかないで欲しいな」

 

「なんと…それほどか…」

 

「おい妖精、ではお前は魔樹の竜王をどう抑えようというのだ。その話だとお前の手にも余るという事ではないのか?」

 

マエーヴァが、相変わらず不服そうに質問する。

 

 

「うーん、そうだねぇ、私は仲良くしたりする方法があるからそれを試してみようかなって思ってるけど、いずれにしても今はまだ寝てて貰った方がいいかなって」

 

「ふん…お前も手出しできないという事ではないか」

 

「いい加減にしろマエーヴァ…とにかく、妖精殿の言いたいことは分かった。我らも今回は調査が目的で来た。少なくとも現在はこの森は管理がされていて、こちらから手を出さなければ人間の国へ攻め込んでくることは無いと理解した。また魔樹の竜王についても現時点では眠っており、手を出さない方がいいという事か。我らはそのことを本国へ伝えるようにする。森を騒がせて悪かった、管理者たる妖精殿」

 

「うん、今度来るときはいきなり攻撃とかしないでね。私の事言ってくれれば、ちゃんと案内するからね」

 

「ああ、次があればそうさせてもらおう」

 

 

 

 

 

 

 

イノフェンは部下たちを率い、トブの大森林を後にする。

本国へ伝えなければならないことが山積みだ。

 

まずは魔樹の竜王が実在しており、現在は眠りについているが、目覚めたその力は聖典隊長であっても対処が難しいこと。

 

次に森の住人たちに人間種はおらず、一方で森の妖精が住人を管理しているため、現時点では人類にとっての危険度は低いこと。

 

妖精から聞いた魔樹の竜王の情報から考えると、おそらくはあの部隊(・・・・)の精鋭たちが複数で対処しなければならぬのだろう…

 

帰路の草原で、馬上にてそのようなことを考えていた折、イノフェンの後ろに並んでいた部下の一人が操る馬が、イノフェンの前まで急接近してきた。

 

 

「ん?マエーヴァ、どうかしたのか?」

 

「…イノフェン・カルチエ・アルベール、ここまでの任務ご苦労だった」

 

「は…?」

 

「お前は予定通り、先ほどの森で得た情報を本国へ伝えよ」

 

「な…何を言っている?」

 

「私はこれより本来の任務に入る。神官長には、漆黒聖典第7席次【潜影尖爪】は離脱して任務に入ったとだけ伝えればよい」

 

「な…漆黒…マエーヴァ…お前は…そうか、初めから……承知した。光の神官長にはそのようにお伝えします。任務、お気を付けください」

 

「ああ」

 

 

それだけ言うと、彼女——【潜影尖爪】は踵を返し、トブの大森林へ戻っていく。

その表情は先ほどまでの“陽光聖典隊員”のそれではなく、特殊任務を請け負った者の鋭いものへと変わっている。

気が付けば衣装も、陽光聖典隊員が着用するローブではなくなり、黒を基調としたボディースーツのようなものに変わっている。

 

これは、“神”が遺した装備の一つであり、高い防御力と隠密性に優れた効果があることから、現在は隠密作業と暗殺を得意とする彼女の専用装備となっている。

 

 

森から充分離れた場所で馬から降りると、彼女は透明化したうえで素早く生命隠し(コンシール・ライフ)加速(ヘイスト)を唱え、溶け込むように森に再侵入していく。

 

 

『あの妖精、口ぶりから森の管理をしているのは明白…強さは全く感じず、私の物言いに対しても動揺する様子も怒る様子もなく、感ずる力も変わらなかった…という事はそもそもが森の化身として森に生息する者を管理するために生まれた存在かもしれん…荒事はあの白銀の魔獣などに任せているのだろう…白銀の魔獣は私が戦えば勝てそうだが、戦闘に触発されて管理者たる妖精が現れる可能性が高い…可能な限り隠密で進み、任務を遂行する必要があるな』

 

 

彼女が闇の神官長より受けている密命は2つ。

基本的にはイノフェン達と同じであるが、陽光聖典では手に負えない事態が起きた時の対応と、陽光聖典が指示されていることより一段階上の荒事を担当する。

 

一つは魔樹の竜王の調査および殲滅(・・)

この作戦のために彼女は、イノフェンとは異なる秘宝たる魔封じの水晶を持ち込んでいる。

 

そしてもう一つは森の亜人やモンスターの積極的な(・・・・)殲滅。

森妖精(エルフ)山小人(ドワーフ)などの人間種を除いた存在は、未来永劫それらが人類に影響を与えないとも限らない。

劣等種族である人間は、常に敵対的存在に目を光らせ、時には予防的に間引きをする必要があるのだ。

だがこの考えは、場合によっては隊員の志気を下げるために、現時点の法国内でこの仕事を担当するのは漆黒聖典だけである。

 

 

今回、彼女がわざわざ陽光聖典に潜り込み、このような形で森の調査を行っているのにも理由がある。

 

昨今の魔神騒動——いうなればそれは法国の汚点である——に対処するため、神官長たちは巫女姫を総動員して、各地の監視を行っている。

 

だが監視のための魔法は、巫女姫だけでなく多くの神官たちで行う大魔法であり、おいそれと連発することが難しい。

監視は、魔人が暴れたと報告がある地、例えばドワーフ国や南の国家群に重点が置かれていて、まだ明確な危険が確認されていないトブの大森林の優先順位が低いのだ。

 

だが一方で本当に“魔樹の竜王”が存在した場合、陽光聖典だけでは対処が難しいし、最高会議で密かに決定されている、危険な亜人やモンスターの間引きも困難となろう。

 

そこで、そう言った任務に適した【潜影尖爪】が抜擢されこの任務に当たっているのだ。

 

 

 

【潜影尖爪】は先ほどとは異なるルート——白銀の魔獣の縄張りを避けるために大回りで迂回し、森の北方を目指して進んでいく。

 

そうして発見する。

天を突くような巨木のトレントを。

 

トレントは目を閉じ静かに休んでいるように見える。

周囲にはその巨木ほどでは無いが、何匹かの別のトレントもいるようだ。

強さは白銀の魔獣を越えているように感じる。

長く生きたトレントはそれだけで強い力を身に着け、時に強力な森司祭(ドルイド)の力を使いこなすという。

 

 

『これが“魔樹の竜王”だろうか…たしかに眠っているようだ。我ら漆黒聖典数名で当たれば倒せそうではあるが、貴様が人類圏に出てくれば対処できる者は少ないだろう。先手必勝で滅ぼしてくれよう…妖精よ、貴様が手に負えないと言っていた存在を滅ぼすのだ。ありがたく思うが良い』

 

 

そう心で呟くと、彼女は懐から魔封じの水晶を取り出し、ためらわず起動する。

 

決して人の身では発動できぬ第7位階の魔法が解き放たれ、その黒炎が触れると瞬く間にトレントは炎に包まれ、低く響くような悲鳴を上げる。

炎は周囲の小さなトレントたちをも巻き込み、辺りは火の海となる。

 

 

『ここであの妖精に見つかっても厄介だ…神の炎の力を信じ、私は次の任務(・・・・)を優先するか…』

 

 

 

森に溶け込みながら【潜影尖爪】は北上を続ける。

やがて見つけたのはゴブリンの集落。

 

言うまでもないがゴブリンというのは討伐対象である。

【潜影尖爪】は集落に速やかに入り込み、得意の暗殺術で素早くゴブリン達を狩り殺していく。

 

 

「なんだ…お前ら!何が起こっている?!…グッ!!」

 

 

この集落の長らしきゴブリン…いやホブゴブリンだろうか。

周りよりも一回り大きく、周囲を囲む20体ほどのゴブリン達の中でも一際戦闘力が高そうな者に暗殺刀を滑り込ませた。

 

しかしさすがはホブゴブリンと言ったところか。

一撃で仕留めることは出来なかった。

 

 

「クソッ…透明化した何者かがいる!お前ら、急いでこの場を離れ、女子供を非難させろ!そしてこのことをはやく妖精様へ伝えるんだ!!」

 

「応!」

 

 

『させるか』

 

走り出しそうとしていた部下らしきゴブリンに狙いを定めたが、瞬間ホブゴブリンの蹴りが飛んできた。

 

『なにっ…!』

 

 

「ケッ…やっぱりこいつを狙ったか、卑怯者め!俺が相手だ!」

 

『…読んでいたという事か』

 

「透明化を見破ることは出来ねーが、透明化したやつとの戦いは、リュラリュースさんとの組み手で練習済みだぜ!」

 

 

ホブゴブリンは正確に【潜影尖爪】のいる位置へ攻撃を仕掛けてくる。

透明化は姿は消えるが、その者が引き起こす影響、例えば地面を踏みしめる音、触れた草木の揺れなどを隠すことは出来ない。

奴はそれを知っていて、こちらの位置を把握しているのであろう。

 

 

『であれば、透明化はもはや意味を成さないか…30は間引いた…あとはここで最も厄介そうなこいつを間引いて一旦退くか』

 

そう考えた【潜影尖爪】は透明化を解除した。

 

 

「人間…か?貴様どこから…」

 

「<武技:急所感知>…<武技:貫通>」

 

 

ホブゴブリンの問いには答えず、【潜影尖爪】は最短距離でその暗殺刀を突き出す。

刃はホブゴブリンの心臓を貫く。

 

無表情でその刀を引き抜こうとしたが、ホブゴブリンは心臓を突かれてなお、その腕力で刀身を掴み、引き抜くことは叶わない。

 

 

「離せ…貴様はもう死ぬのだ。その汚い手で神よりお貸しいただいている刀を掴むな」

 

「へっ…誰が…離すかよ……おめーの大事な刀…俺が離さなければ、おめーは逃げらんねーんだな…だったら粘れるだけ粘って…あの御方が来るまで…時間を稼ぐまでよ」

 

「“あの御方”…?ふん、無駄なことを」

 

 

 

 

 

 

 

 

餡ころもっちもちは、ペストーニャと共に日々の森の見回りをしている最中であった。

蜥蜴人(リーザードマン)の集落では、各部族で2つ目の養殖場が作られ始めていて、現在はその様子を見ていたのだったが、突然彼女の頭の中にピニスンの声が響いたのだ。

 

これは伝言(メッセージ)ではなく、妖精間で行えるテレパシーの様な物。

ユグドラシルではそのような魔法は無かったのだが、種族説明のフレーバーテキストにおいて、妖精間のテレパシーというものがあり、その結果餡ころもっちもちは、ピニスンやララとは魔法を使わずとも何となくテレパシーのやり取りを行えることが分かったのだ。

 

 

だがピニスンから届いた声は、いつもの明るく元気で早口な声ではなかった。

 

『アンコちゃん…長老が…みんなが…燃えてる…助けて…』

 

 




陽光聖典の中に異物が紛れ込んでいました。

この時点の法国はエルフとの関係悪化が起きておらず、法国民は人間種以外を積極的に抹殺するという意識はありません。

なので陽光聖典をはじめとした表の部隊や国民は、敵対していない亜人の間引きを行うべきという意識は無いのですが、国の中枢は人間が弱小種族で、他の亜人などに攻め込まれれば簡単に人類が滅びることを正確に理解していて、国民感情に配慮するため漆黒聖典を使って秘密裏に亜人やモンスターを間引いています。
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