オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
至高の御方が大暴れする話を早く書きたい。
その一心で頑張って投稿しています。
“ノアー”と呼ばれた、美しい妙齢の女性が紅茶を用意してくれた。
カウンターに座っていた女性とよく似ていることから、皆、店主の“パラケル”の家族なのかもしれない。
先ほどは、豪奢なつくりの家と、カウンターの女性の余りの美貌に戸惑ってしまったが、ここからは真面目にいかなければいけない。
ヘッケランは気を引き締めて、目の前の男と話し始めた。
「グリンガムから聞いたのですが、非常に高い効果のポーションを販売されているとか…私たちもワーカーとして、時には危険な任務へ赴く身。是非、私たちにもそのポーションをお売りいただきたいと考えています」
「なるほど。実は我々はこの町に来るまでかなり長い時間、一か所に留まることのない旅の空で過ごしてきました。グリンガムさんへお売りしたポーションは、この町に来るまでに集めた素材を使用して作成したポーションでして、同じものを作るにも素材がないのです。それで最近は新たに素材を集める必要があるのですが、なにぶんこの辺りの地理には詳しくなく困っておりました」
そこまで言うとヘッケランは『ふむ…』と目をつぶり何事か思案するような素振りを見せてから喋りだす。
「実は、ちょうどいい話があるのです。この町の薬師組合から依頼を受けましてね。トブの大森林奥地で薬草を採取する任務を請け負っているのです」
「ほお、しかしその依頼はあくまで薬師組合から受注なさったもの。採集した素材は薬師組合へ納める必要があるのでは?」
「ええ、無論そうです。ですが物事には何事においても裏道というものがあるもの。薬師組合から請け負った依頼は名称を指定された薬草を規定数摘んでくること。それ以上摘んだものについては報告の必要はありません。ただ、これについて一点問題があります」
「問題とは?」
「私たちのメンバーの中にドルイド系の力を持つ者がいないので、指定されているもの以外どのようなものが薬草として効果があるものなのか分からないのです。そこでご相談です。いっそのことこの採集任務にご同行いただけないでしょうか。その過程であなた方が摘んだものは私たちは採集義務がありませんし、その素材を使って薬品が作成できるのであればお互いwin-winではないですか?もちろんその結果作成されたポーションを少し安く譲っていただければありがたいですが」
ヘッケランは、相手に気づかれないようにゴクリとつばを飲み込んだ。
彼らの本当の目的はこれである。
少なくない金を積んでこのための情報を集めた。
この店は薬師組合に所属していない。それでいて非常に高品質のポーションを販売している。
グリンガムの話では、彼らはフールーダ・パラダインの知り合いで、その縁からここに店を構えている。
明らかに常人ではない。
かつて帝国魔法学院に通っていたアルシェによれば、フールーダ・パラダインは魔法力が低いものに興味を示さないとのこと。
つまりそれは、この店の誰かは非常に高い魔法力を持っている可能性が高い。
そして、薬師組合からの依頼。
はじめこの依頼は断るつもりでいた。なぜならばトブの大森林奥地というのは非常に危険性が高いエリアだ。
難度90とも100とも言われる複数の魔獣が縄張りを持っており、噂では200年ほど前には魔獣どうしの大規模な争いがあって、その争いがあった場所はいまだに草も生えないという。
しかし、フールーダ・パラダインが認める魔法詠唱者がついてくるならば、高難度依頼をリスクなくクリアできるのではないか。
もちろんこの依頼は報酬が莫大だし、さらにこの店のポーションを安く買えるかもしれないという事も含めて利点は大きい。
「なるほど…確認ですがそれは私ないし、私の娘たちがあなたたち『フォーサイト』に加わるという事ですか?」
「いや、そう言う訳ではないです。一時的に行動を共にするという形で結構です。それにその方が、依頼者の薬師組合に言い訳もしやすいですからね。『たまたま任務中に薬草採集をする団体と出会い行動を共にした』という事です」
パラケルという男は、『ふふっ』と少し笑った後、紅茶を一口飲み言葉をつづけた。
「成程、ヘッケランさん。あなたは交渉がお上手なようだ」
ヘッケランはドキリとした。
パラケルという男の目が一瞬、何か、人間でない英知をたたえた怪物のように光った気がしたのだ。
しかしそれに続くパラケルの言葉は非常に好意的であった。
「いいでしょう。確かにその条件は私たちにも利益がある。ただ、誰が同行するかは少し相談させていただきたい。この家を完全に空けてしまう訳にもいかないですし、娘たちを危険な目に合わせるのも気が引けます」
「はい、それでは、ご一緒いただけるという事ですね!」
「ええ、ですが…あなたは今のお話の中で少なくとも2点情報を秘匿していますね。まず、そちらのハーフエルフの女性。確かにドルイドではないでしょうが、レンジャーのクラスを持っていますね。レンジャーはある程度薬草の判別ができる筈です。そして、貴方はこの任務の危険性を説明していない。トブの大森林という場所は私は訪れたことはありませんが、ある程度の危険性を伴うのでは?普通はそれを説明しないのはよろしくないですよ」
ヘッケランの背中に冷たい汗が流れた。
確かにパラケルが言ったことは、今あえて説明しなかったことだ。
この男は、イミーナのクラスを知っているし、トブの大森林の危険性も理解している。
イミーナについては、確かに闘技場で戦うこともあるため、そこでの戦いを見学したことがあるという事で説明がつく。
しかしトブの大森林については、この男は、“危険かもしれない”と考え、(言葉が真実であれば)どの程度危険かもわからないのに、承諾した。
いったいどれほどの自信があるというのか…
「すみません…騙すつもりではなかったのですが…ですが危険性は分からないがあなたは承諾した。これはそういう回答という事で良いですかね」
「ふふ…ええ、そうですね。そこまで自信があるわけではありませんが、あなた方は仮に私が断ってもこの依頼はすでに請け負っているのでしょう。であれば、あなた方だけでも達成可能な範囲には入っているという事。それに、私も魔法詠唱者としてある程度の力はありますので」
ヘッケランはアルシェの方を向き何事かを伝えた後、パラケルに問いかけた。
「疑う訳ではないのだが、もしよければどの程度の魔法を使えるのか教えていただけないでしょうか?このアルシェはうちのチームの中では最も魔法力が高く、第3位階まで使うことができるのですが」
「ほう、第3位階ですか…そうですね。娘たちのことは秘匿させていただきますが、私自身は第4位階の魔法を行使できます。まあ、ある方法で隠匿しているので分からないかもしれませんが」
そう言ったパラケルの視線は、一瞬アルシェの方を向いた。
アルシェはその瞬間パラケルと目が合った。
アルシェの<看破の魔眼>はパラケルからなんら魔力を感じ取ることができなかった。
しかし、一瞬合ったパラケルの目は何とも言えない、恐怖のような感覚を彼女に呼び起した。
「では、明日にでも、我々のうち誰がついていくかをお伝えします。あなたたちの拠点のような場所がおありでしたら、伺いますが?」
「あ、ああ、中央通りから少し入ったワーカー向けの宿屋が多い通りの“歌う林檎亭”にいる、います。なので、そちらに来ていただければと」
「承知いたしました。それでは」
『アトリエ・パラケル』を後にしたフォーサイトは少し混乱したような、複雑な気持ちを抱えながら拠点となる『歌う林檎亭』を目指して無言のまま歩いていた。
『歌う林檎亭』が視界に入ると、少し緊張がほぐれたのか、ヘッケランが口を開いた。
「はーーー…緊張したぜ」
「しっかり釘を刺されましたね。ですが目的はとりあえず達成です。今はそれを喜びましょう」
「そうねーてかアンタ、受付にいた子に鼻の下伸ばしてたでしょ!」
「いや、今その話するか?」
フォーサイトがいつものごとく会話を始めたが、アルシェが思いつめたように口を開いた。
「みんな」
3人は足を止め、アルシェの方を見た。
「パラケルという人、この“目”で見たけど、魔法力が全く見えなかった。受付の女性も、お茶を運んだ女性も、全く見えなかった」
「え、それって、実はあの人が言ってたことはハッタリで魔法全然使えないってこと?」
「それはないと思う…魔法薬を作るには少なくとも第1位階の魔法が必要。それに第0位階しか使えない人であっても、この“目”ならば“全く見えない”という事はない」
「それって…」
「そう、多分あの人が言った通り、あの店にいた3人は何らかの方法で“完全に”魔法力を隠していた。そんな魔法もアイテムも聞いたことがない…第4位階と言っていたけど、もっと上の位階を使えてもおかしくはない…そう感じた」
「…オレもそう思うぜ。魔法についてオレは正確な判断はできないが、あの男、なんというか底知れない感じがした…流石フールーダ・パラダインの知り合いと言ったところかな」
「彼の魔法の実力は憶測の域を出ません。ですが、仮に彼の本当の実力が分かったとしても、このことは我々4人の中で留めておくべきですね」
「賛成。なんていうか、ドラゴンの尾を踏む気がするわ」
『フォーサイト』はあらかた意見が一致すると、『歌う林檎亭』に入り、いつも通り豚肉のシチューを注文した。
とりあえずは作戦がうまくいったということでの祝杯である。
しかしアルシェだけは未成年という事もあり、いつも通り一人早く帰路についた。
先ほどの『アトリエ・パラケル』から『歌う林檎亭』への道を逆にたどるように。
アルシェは考えていた。
あのパラケルという男は“私”を見て『魔法力を隠匿しているから分からないだろう』と言った。“<看破の魔眼>を持つ私”を見て。
この目のことを知っているのは、フォーサイト以外では僅かなかつての学友と、そしてフールーダ・パラダイン。
彼は、かつての師の、知り合いという事でこの町へ来た。
そして私の実家の隣に住んでいる。
私の目のことは、フールーダ・パラダインが教えた可能性が高い。
なぜ?
分からない。
でも、お隣に住む彼らは、私の家の痴態を聞いているかもしれない。
少し涙が出た。
かつての夢は、師匠のような大魔法使いになることだった。
優しい両親と可愛い妹がいた何不自由ない幸せな暮らしであった。
それが…なぜ。
気が付くと、足は自宅の前を通り過ぎ、『アトリエ・パラケル』の前にいた。
少し逡巡していると。
中から声がした。
「御用がおありでしたら、お入りください、アルシェ・イーブ・リイル・フルトさん」
アルシェちゃんは年齢の割に賢すぎるかもしれない・・
本編準拠だとこの時点では第2位階かもしれないけど、そこはご愛嬌という事で