オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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また風邪をひいています…
なんか今回の風邪、治ったのにずっと喉が痛くて咳が残ります…
皆さんもお気を付けください


第5章 第15話 -神去りの時-

 

 

「きみは、誰?」

 

 

餡ころもっちもちは、自身のMPが大分減っていて、今はこの魔樹と同じレベルの存在とは戦いたくないという気持ちが強かった。

 

なぜならば、確かに魔樹は、その攻撃は単調で厄介なスキルや魔法の行使は無かったが、その体力は非常に高く、一見楽々と勝ったように見えた先ほどの戦闘はかなりの準備と対策を行ったうえで実行し、なんとかMPが尽きる前に倒せたことを安堵してたくらいだったからだ。

 

【スクナミカミ】モードでは“神意”指定していない魔法やスキルの行使であっても自動的な追加MP消費を引き換えに強力となる。

これはウルベルトの職業であるワールドディザスターに似ているところがある。

 

餡ころもっちもちは、魔樹は例えるならばレイドボスのような性質を持っていることに気づいたからこそ、速やかに【スクナミカミ】モードになって短期決戦で倒しきるという選択をし、結果それは正しかった。

 

 

だが、それを倒し、ほぼ空っぽになった状態での未知の来訪者である。

もしこの白金の鎧が敵であるならば、その強さにもよるが倒しきるのは難しいかもしれない。

 

唯一安心できることは、森の皆が棲む領域には、戦いの最初に天地改変(ザ・クリエイション)をかけて妖精の迷路(フェアリーズメイズ)にエリア変更したうえ、究極の幸運(アルティメット・ラック)無憂樹の安らぎ(カーム・オブ・アショーカツリー)をかけたため、引き続き被害が及ぶことは無いだろう。

 

万が一の場合にそなえ、餡ころもっちもちは、こっそりとペストーニャに伝言(メッセージ)を繋いだ。

そして、口には出さずに現在の状況を伝え、ペストーニャは引き続き妖精の迷路(フェアリーズメイズ)の領域に待機しながら、ここで行われる会話を聞いておいてもらおうと思った。

 

 

 

 

 

「…そうだね、ひとまずツアーと名乗っておこう。私は君のような外から来た“ぷれいやー”が、その強大すぎる力をもってこの世界に影響を与えないか見張っている者…とでも言えばわかるかな」

 

「そうなんだ、ツアーさんって言うんだね。とりあえず私がしたいのは、この森を守ることだけ。森の外から理不尽に攻撃をしてきたり、今倒した子みたいに、説得が出来なくて森の皆に危害しか与えないような子は討伐するけど、それは君が言う“世界への影響”に該当するのかな?」

 

「…どうだろうね。少し考えてみる必要がありそうだ。そのためには君のことをもう少し知りたいと思うがいくつか質問をしても良いだろうか?」

 

「私が分かることだったらいいよ。でも、私にもあなたのことを教えてくれる?私からするとあなたは、森に突然現れた存在でしかないよ」

 

「ふむ…それもそうだ。それでは一つずつ質問をしていくのはどうだろう」

 

「おっけー。でも言えない事や分からない事は、言わないよ」

 

「それはお互い様だね」

 

 

白金の鎧は、そこまで言うと、周囲に回転するように浮かべていた4つの武器の動きを止めた。

会話をする体勢になったという事だろう。

 

 

「じゃあまずは、既にこちらの名は名乗ったから、そちらの名を教えてくれないかな?」

 

「私はアンコ。森の妖精、アンコだよ」

 

「ふむ……ではそちらの番だね」

 

「おっけー。じゃあツアーさん、あなたもプレイヤーなの?」

 

「難しい質問だね…そうでもあるし違うともいえる…だが、君と同じ意味での“ぷれいやー”だったのは遥か昔だ」

 

「ふぅん…まあ少なくとも、ある程度は知っているってことだね」

 

「それでは次は私だな。アンコ、君は先ほど森の外から攻撃をしに来た者には討伐すると言ったが、例えばその者が、この森の君の配下を殺したなど場合、君はその者の元々住んでいる土地まで追っていって報復をすると言うことは有るかい?」

 

 

その質問に、餡ころもっちもちは、少しだけ心が痛んだ。

それはもちろん、長老の事。

そしてそのために殺した、人間の女の事。

 

だが一方で、ツアーと名乗った鎧からの質問に対しての答えは明確だった。

 

 

「それは無いよ」

 

「…そうか」

 

 

余りに簡単に、しかしはっきりと伝えられた言葉にツアーは、このアンコと名乗ったぷれいやーは、確かに森の者を守ることだけを考えているのかもしれないと感じた。

 

 

「じゃあ、次私ね。えっと、私はついさっき、森の皆に被害を出していた、森に封印された魔樹っていう存在を倒したんだけど、ツアーさんは、私が強い力を使ったから、それに気づいてここに来たの?だとしたらどうやってそれを感知したの?」

 

「なんか質問が2個ある気がするけど…そうだね。まあ私は、そう言った強い力を監視しているというのは確かだ。どうやって感知したかについては、私がそういう感覚を持っているというのもそうだし、それ以上の細かいことは、申し訳ないけど教えることは出来ないかな」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

 

餡ころもっちもちは、ツアーの回答から考察する。

魔樹を倒した力は、餡ころもっちもちが出せる最高クラスの力だ。

 

だが“力を使う”という意味では、それ以前にもいくつか行使している。

“潜影尖爪”を倒したときもそうだし、もっと言えば森の各種族を救うために、様々な力を行使したこともある。

 

今この会話を聞いてもらっているペストーニャも何度か高位の蘇生魔法を使用しているが、その程度では感知できていないという事だろうか。

 

これらから考えられることは、ツアーが感知できる力というのは相当大きなものでないといけないのかもしれない。

 

 

あるいは、もう一つ可能性として考えられるのは、今回の魔樹討伐については事前に知っていた可能性があるという事。

 

この場合、それを伝えたのは先日森に来たリク達一行しか考えられない。

リク本人でなくても、あの中に、このツアーという者と通じている物が居るかもしれない。

 

それはリクとデケムと、星空の下で話した内容とも一致している。

それを確認するには質問をすればいい。

だが、場合によってはそれは、決定的な敵対となるかもしれない。

 

 

「じゃあ、次は私だ。アンコ、君は森の妖精と名乗ったが、実のところ、私は君のような姿の妖精を見たことがない。もし妖精としての種族があるのならば教えてくれないだろうか」

 

 

ツアーの言葉に、餡ころもっちもちは悩む。

今の自身の姿は、【スクナミカミ】という神の名を持つ人間種だ。

 

この姿は人間としてはかなり小さく、輝く白い服と隈取のような化粧が入っているとはいえ、ツアーが言うように確かに妖精っぽくはない。

 

完全に正直にそれを伝えるとなれば、種族スキルを一時的に解除して【コㇿポックㇽ】となり、そのうえで種族を伝えるのが筋であるが、それは戦闘力の大幅な低下となるし、未だ敵か味方かも分からない相手に全ての手の内をさらけ出すというのも得策ではい。

 

ツアーの質問である“妖精としての種族があるのなら”という問いに答えるという意味では、【コㇿポックㇽ】を伝えるだけでも嘘ではないかと考え、餡ころもっちもちは、その部分だけを伝えることとした。

 

 

「…私の種族は【コㇿポックㇽ】。でも今までこの森で、私と同じ種族の子に会ったことがないから珍しいのかもしれないね」

 

「【コㇿポックㇽ】…【コㇿポックㇽ】……ふむ…そうか」

 

 

ツアーは【コㇿポックㇽ】という言葉を何度か呟き、まるで頭の中の記憶から、その言葉を探しているような素振りを見せていたが、最終的には納得したようだ。

雰囲気的に、記憶には無かったのかもしれない。

 

 

「次だね。私からも同じ事聞きたいんだけど、君は人間なの?種族名があるならば教えてよ」

 

「ふむ……」

 

 

ここに来て初めて、ツアーはその言葉を詰まらせた。

そしてしばらく無言になった後、まるで途切れていた通信が再開したかのように喋り出した。

 

 

「いや、すまない。色々と考えたのだが、君が理解できるうまい説明が思いつかなかったんだ。そうだね。人間ではない。君にとって分かりやすい種族で言うなら【ゴーレム】が近いかな」

 

「【ゴーレム】…つまりツアーさん、その鎧は操っている状態で、本体が別に居るってことかな?」

 

「…それは次の質問かい?」

 

 

気が付くと、鎧の周りの4つの武器は、再び寄りの周りをゆっくりと回り出している。

もしかしたら、すでに今までのやり取りの中で、ツアーには敵認定できるだけの何らかの条件を満たしてしまったのかもしれない。

 

餡ころもっちもちは、速やかにペストーニャに命令をする。

 

『ペス、もしかしたら戦いになるかもしれない。その場合でもペスは絶対に妖精の迷路(フェアリーズメイズ)の領域から出ないでこの人に姿を見られない様に』

 

『ですが…!』

 

 

そこまでペストーニャと伝言(メッセージ)で会話し、餡ころもっちもちは、一つの決定来な可能性に気が付く。

 

今自分がペストーニャと会話をしているように、このツアーも別の誰かと会話をしているのではないか。

そして会話の中の不自然な言葉の途切れ、そのタイミングで、仲間と何らかの検証を行っているのではないか。

 

 

そこまで考えに至った時、ツアーは次の質問を口にした。

 

 

「まあいいや…じゃあ次の質問だ。君の今の(・・)種族は、【スクナミカミ】かい?」

 

その質問は、餡ころもっちもちが抱いていた疑念を確認に変えた。

そして同時に、戦闘が避けられないだろうという事実と、せめてもう一つ情報を得なければいけないという思いが、次の質問へと繋がったのだった。

 

 

「その質問には、ツアー、あなたが私の次の質問に答えてくれたら教えてあげる。ツアー、あなたは【竜王】かな?」

 

 

 

明らかに空気が変わった。

 

ツアーは小さく「お話はここまでのようだね」と呟いた。

 

餡ころもっちもちは自身の現在のステータスを確認した。

 

MPは20%を切っている。

HPはほぼ満タンのままだ。

【スクナミカミ】の種族特性で、回避率を含む幸運値は非常に高くなっているし、魔法防御もかなり高い状態だ。

 

敵のツアーは見たところ、4つの武器を使用するスタイルに見えることと、自身を【ゴーレム】に近いと言った。

 

それはつまり、基本的には物理攻撃で戦い、場合によっては事前に登録された魔法を使うという事だ。

 

【スクナミカミ】状態の魔法防御力は、熾天使(セラフ)クラスの第10位階魔法であっても、ダメージをかなり半減できる。

 

一方で問題なのは、恐らくこの鎧は【竜王】の本体でないという事。

さらに、恐らくはこのツアーに情報を与えている内通者のような者が、リクの一行の中に居るという事。

 

なので、頑張ってこの鎧を倒しても、本体ないしは協力者が転移などで現れて、追撃されると負ける可能性が非常に高い。

 

これらからベストの作戦は、一旦攻撃を受けてそれを回避ないしはダメージ軽減でやり過ごして、その隙に妖精の迷路(フェアリーズメイズ)に退避。

 

そしてその後、状況をリクに共有して、内通者と【竜王】を特定後、万全の状態で各個撃破するしかない。

 

いずれにしろ現在のMPが枯渇に近い状況では、この鎧にも勝てないかもしれない。

 

後は…そう、もう一つだけ手段があるが、これは本当に奥の手の中の奥の手。

そしてこの手段は大きな代償を払うことになる。

 

 

そこまで考えると、ツアーは餡ころもっちもちを見下ろしながら、言う。

 

 

「アンコ。君がこの世界に穢す存在かどうかについては、現時点では何とも言えないが、君のような強大すぎる力を持つ種族は、高い確率で何らかの影響を与えるだろう」

 

「何言ってんの、ツアー。あなたは自分の正体が見破られたから口封じをしたいだけでしょう?」

 

 

ツアーはその言葉には特に回答をせず、餡ころもっちもちの方へ手をかざした。

 

「〈世界爆熱撃〉」

 

 

その言葉が聞こえた直後、餡ころもっちもちの視界は白く染まり、その小さな体は上下左右の感覚を失って、激しく振り回された。

同時に、この世界に来て、いや、いままでの全ての経験の中で最も大きな激痛と熱さが全身を襲った。

 

恐らくは爆発と同時に起きた衝撃波により、人間種となっていた餡ころもっちもちの鼓膜は傷つき、音がどこか遠く、それでいて何度も押し寄せるように体中を駆け巡る。

 

…おかしい。

 

【スクナミカミ】の魔法防御は炎系に特化していた訳ではないが、ほとんど全ての属性に耐性を持っていた筈であるのに、それにしては受けているダメージが大きすぎる。

何か特殊なクラススキル由来の魔法かもしれない。

 

激しく振り回される視界の中、眼下の森についてはこの魔法の影響をそれほど受けていないように見える。

良かった…ある程度離れていたこと、そして何より戦闘の前に全力で結界を張っていたこと、それらが功を奏したのだろう。

 

やがて、その極限の爆発の奔流が過ぎ去ると、その場所に残されたのはクレーター状に広がった荒廃した大地。

 

かつて【魔樹の竜王】などと言われた存在が眠っていた場所は、直径10㎞程の広大な円形の荒野となり、その地面の一部は余りの熱によりガラス状に変質している。

 

 

荒野の中心で、土に埋もれた状態の小さな神が身を起こす。

 

 

「…やってくれたね」

 

「…これを受けて生きているとは、さすが【スクナミカミ】だね」

 

 

 

残りのHPは35%。

もう一度受ければ確実にやられる。

 

ここに来て、餡ころもっちもちは覚悟を決めた。

 

最後の切り札を切らなければならない。

 

 

『ペストーニャ、聞いて』

 

『餡ころもっちもち様!状況は、御身体は、大丈夫でしょうか!!』

 

『聞きなさい、ペス』

 

『…はい、畏まりました、わん』

 

『これから私は、切り札を切ります。そしておそらく一度、私はこの森から姿を消します。でも大丈夫。必ず戻ります。それにギルメンの誰か、たぶん、モモンガさん、ウルベルトさん、たっち・みーさんのうちの誰かが、あれを倒してくれます。だからペス。あなたは、私が戻るまで、私の代わりに、この森の皆を守りなさい。妖精の迷路(フェアリーズメイズ)の領域から出なければ、森の皆が傷つけられる可能性は低いでしょう』

 

『餡ころもっちもち様…私は…私は…!』

 

『私と、ギルドの皆を信じて。そしてあれには接触しないで。あれが私の持ち物を持ち去っても、それを止める必要はありません。私の可愛い、もふもふのペストーニャ。あなたを信じています』

 

『餡ころもっちもち様…畏まりました、わん』

 

 

続けて餡ころもっちもちは、スキルを使用して妖精の迷路(フェアリーズメイズ)の領域に住む全ての者に声を掛けた。

 

 

『森に住む全ての私の友達に伝えます。私はしばらくこの森から姿を消します。ですが大丈夫。この森には不可侵の結界を張りました。小さな妖精たちが溢れる領域から出ずに全ての者で力を合わせ、平和に暮らしなさい。私は必ず戻ります。それまではペストーニャのいう事を守り、何かあれば彼女に相談してください』

 

 

 

言うべきことを終えた餡ころもっちもちは、目の前の白金の鎧に向き直る。

 

 

「竜王ツアー、あなたは私のことをどこまで知っているのかな?」

 

「…あの世界で唯一【スクナミカミ】となった、ぷれいやー。そして世界第二位に輝いたぎるど所属…だったかい?」

 

「良く知ってるね。竜王ツアー。いや、違うか。あなたがお話してる相手はよっぽど私たちのことを知っているみたいだね」

 

「……アンコ、残念だが君はここで倒さなければならない」

 

「ツアー、でもあなたはとっても迂闊だね。もう倒せると思って、情報開示するのは負けフラグだって、私の昔の仲間が言ってたよ」

 

 

「……さようならだ、〈世界…」

 

 

「【苺飴のブローチ(ブローチ・オブ・ストロベリーキャンディ)】開放。スキル:【常世渡り】を最大強化!———アインズ・ウール・ゴウンを舐めない方がいいよ」

 

その声と同時に、餡ころもっちもちは、アイテムボックスの中に入っている大量の雑多なアイテムをツアー側に投げつけた。

ツアーからはアイテムが目隠しになり、その瞬間、アンコというぷれいやーが何をしているのか見えなかった。

 

「…爆熱撃〉」

 

ツアーの2度目の始原の魔法(ワイルド・マジック)が解放され、辺りは2度目の白き光と爆発が起こる。

 

爆発が起こる僅か前に、アンコが居た場所が強く輝いたように見えたが、その爆発の後、その場に残っていたのは、直前にばら撒かれたユグドラシル産アイテムと、一つの小さな赤いブローチ。

 

ツアーは、迷わずにその赤いブローチを拾い上げる。

 

「これが、アンコの持ち込んだ“ワールドアイテム”かな」

 

 

しばらくの時間の後、その場にもう一人の男が現れる。

それは、猫背でボサボサ髪の魔術師風の男。

 

 

「ああ、ルミノス。ちょうど良かった。このアイテムを鑑定してくれ」

 

「イチノセ博士…2人の時は、元の名で呼び合うと言った筈ですよ。あなたは特に人の姿になる始原の魔法(ワイルド・マジック)を取っていないんですから、気を付けるべきと何度も言ってるじゃないですか」

 

「ああ、わかったよ。イガラシ。で、このアイテムだが」

 

「はいはい……おや、これは…確かにワールドアイテムですが…アイテム名しか鑑定できないですね。アイテム名は【苺飴のブローチ(ブローチ・オブ・ストロベリーキャンディ)】。そういう名前のワールドアイテムを作った覚えはありませんから、これは恐らく【世界紅玉(ワールドレッドオーブ)】に、そういう名前を付けたんでしょうね。効果が見えないという事は、単純に名前しか設定していなかったか、効果の一つに他者が効果を覗き見できないような設定を付けたのかもしれないですね」

 

「そんなことをして何の意味があるんだ?」

 

「そうですね…まあ仲間内で奪われないようにするとか、後はこういった状況、PvPで奪われた時の嫌がらせ位でしょうかね」

 

「そうかい…まあとりあえずこれは私が持っておくよ」

 

「本体のところに戻るのですか?」

 

「そうだね。で、そっちは情報を集められたのかい?キュアイーリム…いや、ニノミヤ社長を倒した9体の女神とやらのことだ」

 

「…残念ながら、リーダーはその情報を言う気は無いようです。あるいは、チームの中に何らかの敵がいると気づいているのか、情報開示はほとんどしていないから、“白金”の時も気を付けた方がいいですよ」

 

「ああ、分かったよ。それじゃあ次の“冒険”の時は私も参加しよう。一旦この鎧に魂の力を再充填する必要がある。上位の始原の魔法(ワイルド・マジック)を2発も使用したからね」

 

「…それほどだったんですか。やはりアインズ・ウール・ゴウンは危険ですね」

 

「ああ、私もそう思う。それじゃあ」

 

 

白金の鎧が西の空へ飛んでいくのを確認すると、イガラシと呼ばれた男は『〈世界移動〉』と唱え、その姿を森から消した。

 

 

 

 

遥か南、とある町の宿屋で、フードを被った男がその左右で色の異なる目を見開き驚愕の表情を浮かべた。

彼はすぐに、仲間のところへ向かう。

フードの男に“リーダー”と呼ばれたその者は、フードの男を連れ出し、2人で街外れまで歩き出す。

 

その様子は、仲のいい2人の旅人が、他愛のない話をしながら街の中を歩き、露店や商店の品を眺めているように見えた。

 

だがその2人は、表情とは裏腹に、声を落として情報共有をしている。

 

 

「リク、落ち着いて聞くのだ…森に残した土精霊が破壊された」

 

「…確かアンコさんはザイクロトルの死の植物(ザイトル・クワエ)の本体を撃破しようとしていたよね。その余波に巻き込まれたっていう事?」

 

「いや、違う。ザイクロトルの死の植物(ザイトル・クワエ)はアンコ殿が無事撃破した。だがその後、別の者が現れ、内容までは分からないがいくつか会話をしたのち、その存在がアンコ殿を攻撃した。その余波に巻き込まれて破壊されたのだ」

 

「別の者?」

 

「ああ、それは間違いなく“白金”だった」

 

「“白金”…そうか。彼が…いや、アンコさんのことは“白金”にはまだ言っていなかったから、誰かが教えたのか…いずれにしろ、このことはまだ他の誰にも言わないでくれるかい?」

 

「…わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【スクナミカミ】が持つ最も恐るべきスキル。

それは〈常世渡り〉。

 

このスキルは、【スクナミカミ】の真骨頂である、敵味方や効果範囲を的確に区別(・・・・・)して発動するステータス操作に近い能力である。

 

HPとMPを除き、指定した範囲の全ての敵味方のステータス値を、自身にとって都合の良い数値に書き換えるというトンデモスキルで、これを食らうと範囲内の敵は攻撃を空振りしまくることになるし、味方が放つ低位のデバフ攻撃もボスクラスに効く可能性が出る。

 

また幸運値の変化はこの世界では、ほぼ運命操作に近い状態となるので、範囲に入ってしまった場所では最終的には餡ころもっちもちにとって都合がいいと考える結末へと流れていくことになる。

 

ただし、この強力すぎるスキルには当然、発動に際して大きなペナルティーがある。

それは、発動者は強制的に死亡扱いになり、ギルドホームの事前指定場所あるいは、ギルドが無いプレイヤーの場合はゲーム開始時に選んだワールドの初期位置に戻される。

 

さらにこのスキルを使用した後にチームが敗北した場合、その時点で持っている最もレアリティが高いアイテムを落としてしまう事になる。

つまり餡ころもっちもちは、敗北した場合、確実に【苺飴のブローチ(ブローチ・オブ・ストロベリーキャンディ)】をドロップしてしまう。

 

餡ころもっちもちは、さらにこの〈常世渡り〉に【苺飴のブローチ(ブローチ・オブ・ストロベリーキャンディ)】の解放させた真の力を上乗せさせた。

それは経験値消費と引き換えに、ゲーム的に設定された上限値を越えて効果を上昇させるもの。

 

結果、〈常世渡り〉の効果範囲はこの大陸のほとんどすべてを覆い、彼女がこの世界で出会ったものの中で最も大切な森は元より、関わったスレイン法国、後のリ・エスティーゼ王国とバハルス帝国となるル・バルギアナ王国、この時にはまだ生まれていない幾つかの国やより東の国家群や、より南の亜人国家まで、それらは彼女が本能的に望む平和というゴールのために、矛盾が無く、国民の誰もが気づかないうちに少しずつ運命を変えられていく。

 

各国でやがて起きる騒乱を収めるために、なぜか(・・・)それらの国には適切な時期に、適切な神が降臨する。

 

それは100年の揺り返しのルールさえ曲げる。

 

彼女にとって思うところがあった、人間至上主義に突き進むある国には、予定よりも50年程早く望むべき神が舞い降りるのだ。

 

 

 

範囲設定をしなかった餡ころもっちもちが【苺飴のブローチ(ブローチ・オブ・ストロベリーキャンディ)】の真の力開放で失ったレベルは10。

彼女は90レベルとなり、〈常世渡り〉でこの世界から消滅する。

 

この世界が<Yggdrasil>の中であったならば、彼女は90レベルの状態で、事前設定したリスポーン地点であるナザリック地下大墳墓の、第九階層の自室に強制送還されていただろう。

 

だがこの世界にナザリック地下大墳墓は無く、初期選択ワールドも存在していなかった。

 

彼女が、彼女の魂が、再び目覚める場所は存在しない。

 

今のところは。

 

 

そして、この大陸でもっとも平等で平和な森に残された者達と、彼女の娘に等しい存在である、とある犬の頭のメイドは待ち続けるのだ。

 

大妖精様が残した言葉。

 

必ず戻るという、その言葉を信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピニスン・ポール・ペルリアは、それから何回も太陽が昇ったのを覚えている。

彼女はその数を正確には覚えていない。

でもたくさんの、本当に沢山の数の太陽が昇った。

 

あの日、森の皆に言葉を残して消えた、大切な友達の大妖精様はまだ戻らない。

 

 

「ペストーニャさん、あれから何回、太陽が昇ったか覚えてる?」

 

「…ええ、覚えていますとも。今日でちょうど7万と5千回でございます、わん…トレントの森は変わりはありませんか?」

 

「うん、大丈夫だよ。でもでも、あの荒野に居るドラゴン、まだ諦めないで座ってるんだよ!怖いし、時々来てた人間たちも怖がってるから何とかなんないかなぁ…でも“守り”の外のモンスターは減ってるからいいんだけどさ」

 

「…妖精の迷路(フェアリーズメイズ)が拒否をするという事は、あの竜はまだ森に対してわずかながら征服欲のようなものを持っているのでしょう、わん。それが無くなった時、自然に彼も森に受け入れられるでしょう…わん」

 

 

ペストーニャは空を見上げる。

 

あの日の記憶は今でもその目に焼き付いている。

 

彼女は待ち続ける。

 

餡ころもっちもちが残した言葉を守り、約束通り、彼女が森に戻るその日を。

 

 

 

そしてその日、森の南にある人間の村には、5人の旅人が訪れていた。

 

美しい3人の娘、いや、うち1人は少女と言っていい年齢だ。

そして1人の少年と、1人の男。

 

この5人が、200年ぶりの希望が、大妖精様が守りぬいた森に、今、近づいている。

 

 




餡ころもっちもちが転移した時間は、原作開始の大体200年前という設定です。

16話以降は、餡ころさんが転移したおよそ200年後のトブの大森林となります。
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