オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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この二次創作では、迷宮は国の地下にある状態なので、国に悪影響が出そうなモンスター配置などは無く、見掛け倒しになりました。

賢者さんみたいなパターンの転移は中々辛そうですよね。
何処かに自分が生きた証を遺したくなるのではないかと思います。


第5章 第19話 -アステリオの選択-

 

「では、妖精女王の祝福(ブレス・オブ・ティターニア)

 

 

一旦人間種になったタブラの呪文により、小さな妖精が現れた。

妖精は光の道を作りながら迷宮を進んでいく。

 

妖精の後ろをルベドがついていくが、その足取りは最初の分かれ道で止まった。

 

なぜならば光の道は左右どちらの道にも進んでおらず、小さな妖精は曲がり角直線の左の壁を指差して止まっているのだ。

 

 

「父様、これはどういう意味なの?」

 

「ふむ…調べてみましょう……ん?るし★ふぁーさん、これ見てください」

 

「どしたのー……え、日本語じゃん。えっと、“全ての輝きはこの先。我が母の名を捧げよ”だって。どういう意味?」

 

「壁のこの言葉、入り口と一緒でここに隠し扉があるのでしょうね…しかし妖精女王の祝福(ブレス・オブ・ティターニア)がこの道を差すという事は、分かれ道はどちらも危険という事でしょうかね…念のため確認してみましょう。三足烏の先導(リード・オブ・ヤタガラス)

 

 

召喚された三本足のカラスは、妖精と同じように分かれ道の方には行かず、分かれ道直前の左の壁をつんつんと突いている。

 

 

「ふむ…どうやら、この隠し扉の先の道が、最も危険が少なく、かつ、最深部への最短ルートの様です。他も探索したいという気持ちはありますが、ユグドラシルプレイヤーが作ったダンジョンはどんな罠があるから分かりませんから、ここはおとなしくこのルートを進みますか……“パーシパエー”」

 

 

タブラの言葉に呼応するように、何もなかったはずの壁が動き出し、そこには3つ目の分かれ道が現れた。

 

小さな妖精と三本足のカラスはその道を進んでいく。

 

 

「では、行きましょうか」

 

「え、それ合言葉だったの?何ネタ?」

 

「ギリシア神話ですね。アステリオさんご本人もギリシアネタですし、お好きだったのでしょう。というかるし★ふぁーさん、ギリシアは彫刻芸術の宝庫じゃないですか。知らないんですか?」

 

「ミノタウロス像とか彫刻になってるのは知ってるし、ざっくりとは神話も分かるけど、そこまで名前とか細かく覚えてないよ。いやータブラさん居て良かったわー」

 

「そうですか。まあ、お役に立てて良かったです。さあ、行きますか」

 

 

タブラの言葉に従って、先頭役のルベドが道を進んでいく。

 

道は大きく迷宮の右側を迂回するようにカーブしているが、分かれ道は無く、罠やモンスターの出現もない。

 

20分ほど歩くと、道は扉の前で終わっていた。

扉には日本語で以下の言葉が書かれている。

 

 

“この扉を開くには以下の問いに答えよ。呪いにより初めてワールドエネミー化した、ワールドチャンピオンの名についていたワールド名は?”

 

 

「タブラさーん。これはオレも分かるから答えていい?」

 

「どうぞどうぞ」

 

「さんきゅー、“ムスペルヘイム”!」

 

 

扉は静かに開く。

その先には、比較的広いリアルの仕事部屋のような場所になっていて、中央には大きな机が置かれている。

 

しかし何より気になるのは、その机に向かう形で置かれた大きな椅子。

そこに座る、角を生やした骸骨、恐らくは牛頭人(ミノタウロス)の骸骨が座っているのだ。

 

5人はすぐに警戒態勢に入る。

先頭のルベドは剣を構えて進むが、ある程度のところまで進んだ時、口を開いた。

 

 

「パパ、父様、このガイコツはもう死んでいて、アンデッドでもない気がする」

 

 

その言葉を聞き、少し警戒を解きながらタブラが言う。

 

「ふむ…ニグレド、あの骸骨と、その他、この部屋に罠や敵が居ないか調査してください。」

 

「畏まりました……可愛い末妹(ルベド)の言う通り、あの骸骨は既に死んでおり、モンスターでもありません。私が調査できる範囲では、部屋の中にモンスターや罠も見つけられません。ただ、骸骨の左右に置かれている袋と、机の上の箱からは何らかの強力なアイテムの気配がします」

 

「なるほど…るし★ふぁーさん、どう思いますか?」

 

「んーと、たぶんだけど、あの骸骨は例のアステリオさんだったんじゃないかな。右手に指輪してるでしょ?あれ、アンデット化を防ぐ効果がある気がする。なんか牛頭人(ミノタウロス)達の話では死期を悟ってここに来たって言ってたから、死んだ後アンデッド化しない様に指輪したんじゃないかな?」

 

「なるほど…確かに状況的にはそれが最も可能性高そうですね。というか指輪の事、鑑定してないのに良く分かりますね」

 

「なんかさー、天使の時、聖なる系アイテムのことが何となくわかるんだよねー。ユグドラシルではこんなことなかった気がするんだけど」

 

「ふむ…もしかしたら熾天使(セラフ)種族の説明にそういうのがあったのかもしれませんね。なぜかこの世界では種族の特性に性格とかが引っ張られていますし」

 

「そーいうもんかな」

 

 

雑談をしながら、しかし慎重に部屋に入る。

牛頭人(ミノタウロス)の骸骨は、よく見るとやや厳かな雰囲気の衣服を纏っている。

確かに“賢者”と言えなくもない。

 

右手の指には指輪がはめられている。

るし★ふぁーの推測が当たっているならば、とりあえず不用意に外さない方がよさそうだ。

 

椅子の横にはいくつかの袋。

これは恐らく無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)か何かで、彼が所有していたアイテムが入っているのかもしれない。

机の上には、箱。

何と言うか、日本人がイメージする宝箱のようなものに見える。

 

そして箱の横にはノートのような本が置かれている。

本は結構ボロボロで、推定100年ここに置かれていたと予想できる。

 

 

「このノート、アステリオさんが書いたものかもしれませんので読んでみますね」

 

「うん、次オレに読ませてね」

 

 

 

 

 

 

 

————ここまで来た同郷の誰かへ。

 

ここまで来れたということは、きっと君は、俺と同じユグドラシルの転移者で、俺と同じように神話とかの話を愛してくれた人だと思う。

 

君がこの世界に来てどれくらいの時間が経っているか分からないけど、この世界はユグドラシルともリアルと違うどこかで、なのになぜかユグドラシルと同じアバターで、同じ魔法が使える不思議な世界だ。

 

俺が今この日記を書いている時、この世界に来て50年以上の時間が経っている。

 

たぶんだけど、ミノタウロスとしての寿命がそろそろ来そうで、死んだあとアンデッド化すると世話になった国に迷惑をかけるから、俺はここで眠ることにした。

 

本当のことを言うと、俺はもっと長く、いや、恐らく永遠に近い時間生きる手段を持っている。

 

ユグドラシルのサービス終了の、確か1年位前に、モバイル版のログインボーナスで配られた〈ロキの指輪〉。

俺は本当に偶然、あれを手に入れて、人間種になることが出来る。

 

あの指輪を手に入れた人は少ないから説明しておくけど、この世界では指輪で選んだ新しい種族に変更すると、変更のたびに登録時の設定に戻すことも出来るし、前回変更していた時間の経過を反映させることが出来る。

 

分かりやすく言うと、設定した種族が20歳の人間だった場合、種族変更時に毎回20歳にも戻れるし、人間で5年過ごした場合は、それを反映させて25歳にもなれる。

 

だから元々の種族、俺の場合はミノタウロスに一瞬戻って、すぐに指輪で人間になって初期設定年齢に戻すっていうのを繰り返せば、そのつど若返ることが出来るってことさ。

 

俺は“アステリオ”って名前のミノタウロスを選んだくらいだからさ、ギリシア神話のその辺の話が好きだったんだ。

だから〈ロキの指輪〉では人間種になって、その間は“テセウス”になり切って過ごすのもいいなって思ったんだ。

 

でもさ、俺が転移してきた場所にあったミノタウロスの国で過ごしてたある時、俺は、彼らが好んで食べていた肉をご馳走になった。

 

肉は、人間の肉だった。

 

それが、信じられないくらい美味しく感じたんだ。

 

その後、指輪で人間になったら、どうしようもない気持ち悪さと、嫌悪感と、とにかく絶望みたいのが押し寄せてきて、もう、俺は“テセウス”には成れないと思った。

 

ミノタウロスとして生きていられる残りの時間を、世話になったミノタウロス国の皆のためと、俺より後に来るかもしれない、君みたいなプレイヤーが、俺と同じ絶望を味わうことがないように、人間が解放されることに使うことにした。

 

国の方は、幸いこの世界はユグドラシルプレイヤーからすればレベルが低いみたいだから、俺が持ち込んだ武器とかアイテムとかを遺せば何とかなると思う。

めぼしい武器とかアイテムは、国の皆にあげたし、周りの国で比較的話が通じるエアジャイアントの友達にも、俺のお古の斧をあげた。

 

あとは何とか頑張って、リアルの世界で使っていた道具を再現したりとかした。

 

でも人間の開放は不十分だった。

何とか食料にすることは禁じたけど、やっぱり奴隷以上の存在にすることは出来なかった。

 

国の皆からすれば俺も牛頭人(ミノタウロス)なわけだから、意味もなく人間を亜人種と同じ階級に上げるような説得はできないし、それに俺はもう人間を食べてしまったから、俺は、もうこっち側だと思う。

 

もし君が、まだ人を食べていなくて、そして俺が、ちゃんと人間だったころの俺が持っていた気持ちに賛同してくれるなら、どうか、この世界の人間を含んだ種族間の関係を、食う・食われるじゃないものになるように働きかけて欲しい。

 

俺は人間だったし、この世界ではミノタウロスだったから、人もミノタウロスの国の皆も幸せでいられるような選択肢が無いか、考えて欲しい。

 

その報酬は、俺がこの世界に持ち込んだ残りの武器やアイテムだ。

 

右手の指輪はアンデッド化を防いでいるものだから、そのままにしてほしいけど、机の周りに置いてあるインフィニティ・ハヴァザックには、ミノタウルス国の皆には使いづらそうな高レベルのアイテムとか、“テセウス”として冒険しようと思って準備した武器防具が入っているから好きに使ってくれ。

 

ちなみにこの“ラビリントス”は、俺がたまたま持ってたワールドアイテムを使って作ったものだ。

これはギルドホームとは別にもう一つ小規模のホームを作れるもので、サービス終了まで使わなかったから、この世界で使ってラビリントスを作ったんだ。

申し訳ないけど、このワールドアイテムは一度ホームを作成したらなくなるタイプのものだったから、これはあげられない。

でもこの場所には魔法防御張ってないから転移で遊びに来て休憩場所に使っていいよ。

 

君はちゃんと隠し扉の正しい道でここに来たけど、それ以外の道はここに繋がっていない行き止まりの迷宮になっていて、アイテム配置もないし、モンスターも配置していない。

 

それと最後に、机の上の宝箱には〈ロキの指輪〉が入っている。

俺はもう所有権を放棄しているから、俺が設定した人間のデータは消えている。

これも好きに使ってくれ。

 

ただ忠告するけど、君が亜人種か異形種をアバターに選んでいるんだったら、人間種を選んだ方がいい。

俺はずっとミノタウロスでいて、考え方や嗜好性もミノタウロスに近付いている気がする。

たぶんだけど異形種だと考え方が異形種になっていく。

 

だから、君が人間種じゃないなら、この指輪で人間種を選んで、人間だったときの感覚を持ち続けるために使った方がいい。

 

 

最後に、君がこのラビリントスに入るときに、ミノタウロス国の皆とどういう会話をしてきたか分からないけど、友好的にここに入ってきたのなら、どうか彼らにはこの日記のことは伝えないで欲しい。

 

俺はこの国では“賢者”なんて呼ばれてたんだぜ。

だから彼らにとってはいつまでも、賢者で居てあげたいんだ。

賢者の亡骸は見つからなかったが、壁には国の発展を祈る言葉が書かれていたと、伝えて欲しい。

 

“口だけの賢者”は死んだ後も、口だけは賢者然としていたいんだ。

 

そして、君が、神話のテセウスみたいに冒険をして、でもテセウスみたいには間違わない道を選んでくれることを祈ってる。

 

 

人にもミノタウロスにも、なり切れなかった賢者より————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)には、アステリオの言葉の通り、いくつかの高レベルアイテムと人間の戦士向きの武器防具が入っていた。

 

アイテムの中にはゴーレムのコアとして使える高レベルレア金属の“ミュルクヴィズの暗緑鉱”があった。

 

また、牛頭人(ミノタウロス)国に渡すことを想定した50レベル程度のゴーレムの原料となるインゴットもいくつか手に入れることが出来た。

 

タブラは、アステリオが遺した武器防具を鑑定している。

 

人間用の鎧や盾、いくつかの剣。

 

その中で最も高レベルのものは伝説級(レジェンド)の片手剣で、タブラが鑑定したところ、亜人に対して攻撃力が高まり、また、火・雷・水の魔法属性攻撃が出来るという代物で、名称は“アリアドネの短剣”だった。

 

 

「生前お会いできていれば、楽しくお話が出来たかもしれませんね…」

 

タブラは小さく呟いた。

 

2人は一旦、人の姿になり武器防具が装備できるか試してみた。

戦士としての職業レベルを持つ、ショータロー状態のるし★ふぁーは装備可能だが、なんかしっくりこないという事で、結局武器防具はタブラが持っていて今後有効に活用できそうな場合が無いか考えることにした。

 

 

 

一通りアイテムを吟味したところで、タブラがるし★ふぁーに話しかける。

 

「さて、るし★ふぁーさん。結構インゴットあったようですけど、数は揃いそうですか?」

 

「…うん。アンデッドゴーレム3体の他、ここで手に入ったインゴットと手持ちと、あとちょっとドゥエルのとこから持ってくれば3~40体は作れると思う。結構な数だからちょっと時間必要だけど」

 

「そうですか。それでは、ゴーレム作成中に他国から攻め込まれない様にするくらいで、後は予定通りですね」

 

「…ねえタブラさん。予定では、ビーストマン連邦とトロール国はゴーレムで攻め込んで、他の3か国にはゴーレムの力見せつけて和平交渉させるって感じだったよね?」

 

「ええ、そうですね。アステリオさんが遺してくれたアイテムのおかげで、最短ルートで進められそうですね」

 

「……本当にそれでいいのかな」

 

「どういう事ですか?なんか和平交渉とか不安でしたらまたカンペ出しますよ?」

 

「そうじゃなくてさ…アステリオさんが言ってた、種族間の関係。アイテムを貰うんだからオレ達でできること、やるべきじゃないかな?」

 

「…そうですね。ですがもっと他のギルメンと再会できた後、それこそナザリックを発見した後の方が出来ることの幅は広がります。本格的に動き出すのはその後の方がいいのではないですかね?」

 

「…確かにそーだね…でも、なんだろう…タブラさんも前に言ってたじゃん、人間食べる種族どうするの問題。ナザリックの中の話はさー、いずれギルド会議だと思うけど、オレとしてはさ、ここでちゃんと向き合って、オレなりの答えを出しとくべきじゃないかなって思うんだ…タブラさんどう思う?」

 

「…そうですね…」

 

 

アステリオの遺した装備を確認するために、この時2人は人間の姿であった。

 

タブラは、るし★ふぁーがこのように言うのは彼が(推定)14歳の人間状態の精神性となっていることが要因として大きいと感じつつも、自身も現在は人間であるために、一定の共感は出来ると感じてしまった。

 

そしてそれ以上に、(本来のリアルでの彼の年齢は知らないが)現在進行形で精神が成長している14歳の彼にはちゃんと向き合うことが、今後の、このナザリック一の問題児の方向性を決めるのではないかと感じたのだ。

 

 

「なるほど…不確定要素は、外からだけでなく身内からも発生しうる…まあ今は人間ですからそれも当然ですか…いいでしょう、るし★ふぁーさんがやりたいようにやってみてください。でも最終的な作戦変更はなしですし、我々や娘たちに危害が及びそうな場合は最悪、牛頭人(ミノタウロス)国やそのほかの国を、証拠隠滅のために私たちが滅ぼさなければいけなくなるかもしれない、その覚悟はしてください」

 

「うん、さんきゅー、タブラさん。そんじゃーさ、とりあえず玉座戻るよ。一回タブラさんのカンペ無しでやってみる。なんか明らかにヤバそーだったら助け舟出してね」

 

「しょうがないですね…まあお手並み拝見します」

 

 

 

 

『やれやれ、これでどう転ぶか…私たちの幸運値や運命がどうなっているのか、これはそれを確認する、ある意味いい機会かもしれませんね』

 

 

アステリオの亡骸が眠る部屋を後にし、来た道を戻りながらタブラは心の中で、そう呟いた。

 

神のような妖精のような、そんな存在が、嬉しそうに微笑んだ気がした。

 

 




創作物の中の14歳というのは、(良い悪いは別として)ドラマを起こすと思いませんか?
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