オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
★的には、この辺りの一連の会話はタブラプロデュースで悪戯の延長な感覚なので、1対1で喋っている感覚は無く、そう言う意味で人見知り発動していません。
大陸中央のお話はもう少しだけ続きます。
天使殿は思ったよりも早くラビリントスから戻られた。
そして玉座の間で待機していた余を見つけると『最奥部で、賢者様の遺言を見つけた』と仰られた。
その内容は、我が
余が、恐らくは希望で満ちた目で天使殿を見つめると、天使殿は一拍おき、ゆっくりと、しかし威厳に満ちた声で述べられた。
『しかし、私が力を貸すには条件がある。我が同郷の友アステリオは、ある願いを持ちながらも、その道半ばで天寿を迎えた。彼の願いをかなえるために、お前たちが全力を尽くすというならば、私も惜しげなく力を貸そう』
『賢者様の願いとは…?』
余が問うと、天使殿は仰られた。
『これは王であるお前だけに話す内容ではない。この城の関係者を集めよ』
時間は既に深夜となっていたため、余は天使殿に許可を取り、明日朝に、城の主要な者を全て集め、その御話をしていただきたいと願い出た。
天使殿は頷くと、『では明日、この玉座に再び参る』と言い残し、忽然とその姿を消した。
余は急ぎ大臣たちを集め、ここまでに起きた事を伝え、そして賢者様のおそらくは盟友であった天使殿が、明日、賢者様の御言葉を伝えるため、城の守りをしている者以外は全て玉座に集まるよう伝令を出した。
翌朝、玉座にはこの城に詰めるほぼ全ての者が集まった。
皆、期待と緊張と不安が入り交じった顔をしている。
無理もない。
色々なことが起こりすぎているのだ。
すでに100年以上前にお隠れになられたこの国の英雄である賢者様が、我らをお守りいただくため一度黄泉より戻り、悪しき竜を倒したとのこと。
さらに、黄泉から戻るために力を貸していただいた、賢者様の盟友である天使殿がこの国を訪れ、現在この国が抱えている他国との問題解決に御力を貸していただけるとのこと。
そして、天使殿は御力を貸していただくにあたり、我々すら知らぬ賢者様の遺言とその生前の御意思を教えていただけるとのこと。
全てが夢物語の様で、しかし、悪しき竜については事実であったし、(ラビリントスのことは口外はできないが)天使殿は明らかに賢者様との繋がりを示されていて、もはや疑う余地はない。
その人口密度に反して、不気味なくらい静まり返る玉座の、王が座る椅子の横の空間が不意に歪んだ。
一同は、ついにその時が来たと、固唾をのんでその空間を凝視した。
現れたのは、昨日と同じ、黄衣の外套で顔を隠した天使殿。
その気配は、戦闘のセンスを持たぬ者でも分かるほど強力で、聖なる気配を纏っている。
「…わが友、アステリオが愛した子供達よ」
天使殿が口を開く。
昨日、天使殿にお会いしていない多くの者は、それだけで驚愕の表情を浮かべる。
なぜならば天使というのは、召喚により呼ばれ、自らは意思を持たぬモンスターの一種であるという認識が一般的であったからだ。
その良く響く声は、不思議と心を落ち着かせた。
心が落ち着いた多くの者達は、天使殿が仰った名、“アステリオ”というのはおそらく賢者様の御名前なのではないかという推測を立てることが出来た。
一部の者は賢者様の真名を知らないので、王は一度そのことを臣下たちへ伝える必要があると判断し、天使殿へ言葉を掛ける。
「天使殿、御約束の通りお越しいただき感謝いたします。一部の者は賢者様の真名を存じておりませんので、一度余から皆へ説明させていただきたい」
天使殿が小さく頷くのを確認し、王は言葉を続ける。
「皆の者。天使殿が仰った御名前、“アステリオ”様とは、我らが賢者様の真の御名前である。秘匿事項であるため場所を伝えることは出来ぬが、この国には賢者様が眠られている墓所が存在する。天使殿は昨日、その墓所をご訪問された。そしてそこに残された賢者様の御遺言により、我らが国の発展のために御力を貸していただけると仰られた。そのためには、まずは我らが、賢者様が真に望まれた言葉を聞き、我らはそのお望みのために全力を尽くす必要があるという。今日お前たちを悉く集めたのは、天使殿よりその御言葉を聞くためである」
王の言葉を聞き、臣下たちはその目に一様に驚愕や希望の色を湛えつつも、皆胸に手を当て、頭を垂れた。
そして天使殿が尊敬する賢者様の御遺言を話すのを聞き漏らさぬ様、耳を欹てている。
「子供達よ…まず、問おう。現在の近隣国との関係はどのようになっている?そしてお前たちは、その関係をどのようなものにしたいと考える?」
他国との関係——それはそれぞれの立場から思うところがある。
兵士団にとっては、自国民を守るため戦わねばならぬ相手ではあるし、商業をまとめる大臣からすれば友好国との交易は国力発展のために必要と考えるし、歴史を編纂する専門官からすれば近隣国との微妙な関係は如何ともしがたいものだと知っている。
だが、それらの意見を統合し、天使殿に説明できるのは、この場では王だけである。
そういう思いが、彼ら臣下の視線が王に集まった理由である。
王は臣下たちの視線に答えるように、天使殿に説明する。
「近隣には大小幾つもの国が存在しますが、大国と呼べるのは我が国を入れて6つ。トロール国、ビーストマン連邦、
「王、では、それらの国とは、今後どうありたいと望む?」
「余は…先代から王位を受け継ぐ時より、賢者様は出来ることなら他国とも友好的でいたいと仰っていたと伝え聞いております。友好的にあり、交易をすることで共に豊かに繫栄できると。ですがビーストマン連邦とはすでに戦火を交え、敵対関係にあるため、安易に友好的な道を歩くことは国民感情的にも難しいでしょう。トロール国については、奴らは時折誇り高い戦士も存在するが、多くは粗暴で約束を守らぬし、我が国の国民を捕まえて食う事すらあります。かの国と友好関係を築くのは難しいでしょう。2つの戦線を抱えている状態で、その他3か国とも敵対するわけにはいかず、交渉も出来ずに硬直している状態です」
「ふむ…」
王の説明を受けて、天使殿は考えるような素振りを見せた。
その顔は黄衣に隠されて表情を読み取ることは出来ない。
「私の故郷の話をしよう…私や多くの仲間や、アステリオが生きた場所だ」
天使殿は突然、そんなことを言い出した。
脈絡のない内容に一瞬その場の者達は、天使殿が何を言いたいのか分からなかったが、その“故郷”というのは、つまりそれは賢者様の故郷でもあるという事に気づき、尊敬する賢者様の住んでいた場所というのがどのような場所であったのか、聞き漏らさぬ様、意識を集中した。
「お前たちは驚いたであろう。私のような天使——異形の者が当たり前に喋り、
天使殿の言葉は、まさにその通りであった。
王ですら、なぜ
最早、これほど賢者様のことを知る天使殿を疑う余地は無いのだが、依然としてその疑問は払拭できないでいたのだ。
「お前たちは俄かには信じられぬかもしれない。しかし、我が故郷では、種族の差など大した意味を持っていなかった。亜人も異形も人間も、共に生き、共に暮らしていた。私のような天使とアンデッドが共に言葉を交わしていた。亜人と人間が酒を酌み交わしていた。異なる種族の者が姉弟であり、親子でもあった。あらゆる異形種たちがその愛する子供たちと共に仲良く暮らす楽園のような墳墓があった。意見が異なることが有れば口論となることもあったし、不義理な行いは争いを招くこともあった。だがそれは種族の差によるものではない。だから私には、そして恐らくアステリオも、とても奇妙に感じている。なぜお前たちは、種族が違うというだけで争い、別れて暮らすのかと」
天使殿の言葉は、あまりにも理解の範疇の外であったため、その場に居た
しかし賢き王は、その言葉の意味を反芻し、やっとのことで少し理解して、それでも疑問を投げかけた。
「天使殿…それでは…賢者様はこの国お越しになって、なぜ私たちだけに御力を貸してくれたのでしょうか?賢者様にとって種族の垣根が意味を成さぬならば、なぜ他の国へ行かず、この
「それは、この世界に来て世話になったお前たちに義理を感じ、お前たちが元々持つ価値観を尊重したからであろう。だが同時に彼は、将来的な発展のため、この国や他の国が種族の垣根を越えてともに歩けることを期待していた」
「そのような…しかし…たしかに言い伝えでは他国との友好も説いておられたというが…」
「王よ、先ほどお前は私へ教えてくれたな。トロール国の者は、
「勿論でございます。我が国の国民の中には家族を食われた者もいる。そのような国と友好となるのは感情的に難しいでしょう…」
「その通りである。ある種族が他の種族を食う。これをしてしまえば、その2種族は共に歩くのは難しい。トロールたちは
「それは…その通りですが、
「そう、その通りだ。言葉を話し、意志疎通が出来る他種族。これを食わない様に意識を変える。そのためには時間をかけて、まずはその他種族は食料であるという認識から、隣人、それが難しければまずは奴隷や労働力でもいい、そう言う認識に変えることが最初の一歩となるであろう」
「認識を変えて、いずれ他種族とも友好な関係を築くという事でしょうか…しかしそれにはあまりに時間が………まさか…その御話は…」
「気づいたか、王よ。わが友アステリオは、種族を越えた共生を夢見てその種を蒔いた筈だ」
「人間を…家畜から引き上げたことには、単なる野蛮な習慣を止めるだけでなく、その様な意図が…」
「それだけではない。言った筈だ、私たちの故郷では、種族の垣根など無かったと。そして、選ばれたわずかな者は、自身の種族を変える事すら出来る者もいた。アステリオも、私もそうだ」
「賢者様が…天使殿も…まさか…」
天使は光り輝き、その姿を人間の子供へと変えた。
顔には相変わらず黄衣の外套がかかり、その表情は読めない。
だがその聖なる気配はそのままに、その子供は言葉をつづけた。
「王よ、子供達よ。私は異形であり、人間でもある。そしてアステリオも亜人であり、人であった。彼は故郷と同じように、子供たちが種族の垣根を越えて、分かり合い、共存できる世界を望んだ。そしてその障壁となる問題、ある種族が別の種族を食う、そこに線を引くため、まずは人を食料から奴隷へ引き上げることに尽力した…子供達よ。お前たちにもできる筈だ。言葉を喋れる、意志疎通ができる他種族は、食料でなく隣人である、その意思を受け継ぎ、この教えを広げ、線引きを行うのだ。意志の力で他種族を食わないことが出来れば争いの火種が一つ消える。お前たちがそれを行えるというのなら、私は友の大切な子供達であるお前たちに力を貸そう。民を守る力を授けよう」
それはつまり、嘗ての200年前の先祖たちは、その賢者様のある意味では同族である人間を食っていたという事だ。
それは現在トロールに家族を食われた国民と同じはず。
全ての
「天使殿…教えていただきたい…なぜ賢者様は…アステリオ様は、同胞である人間を食っていた我らの祖先を許したのか…賢者様の御力があれば、我らの全てを殺し尽くすこともできたと、それほどの御力を隠し持っておられたと、余は伝え聞いております」
「王よ、そして子供達よ。例え種族が違うとも、魂は同じなのだ。そしてアステリオはお前たちを信じたのだ。お前たちであれば、私たちの故郷の様に種族を越えた繁栄の礎を築けると、そう信じ力を貸したのだ。…お前たちは今日、わが友の真実を知った。そしてお前たちがわが友の遺志を継ぎ、周辺国との和平のために尽力するというなら、この〈原動天の熾天使〉るし★ふぁーは、お前たちに力を貸そう。如何する、当代の王よ!」
その言葉と共に、“るしふぁー”と名乗った子供は元の天使へと姿を変えた。
いや、王だけでない。
その場に居合わせた殆ど全ての
姿は見えないが、その場に居合わせた者があと4名ほどいた。
カルマ値が大きく善に傾いている2名は、至高の御方の善溢れる御言葉と“愛する子供たちと暮らす楽園のような墳墓”のくだりで感動に打ち震えていた。
善でも悪でもない半天使の少女は、パパが何だかカッコいいことを言って尊敬を集めているので嬉しかった。
ある
「るしふぁー様、どうか我らに…アステリオ様の御意思を引き継ぐお手伝いをさせてください…どうか、どうか、お願いいたします…!!」
「良かろう。それでは…」
そこで言葉が止まった。
天使殿は時々フリーズする。
王を含めた幾人かの側近はそのことは既に理解していた。
恐らくは御考えを纏められていて、我々でも分かる言葉を模索して下さっているのであろう。
『タブラさーん、どうすればいいかな?』
『え、そこで丸投げですか?!』
『いや、だってビーストマン連邦とトロール国以外の国の事良く知らないし、その辺の国どうすればいいか考えてなかったんだよねー』
『はぁ…分かりました。じゃあカンペ出すんでそのまま喋ってください』
『サンキュー!タブラさん、サイコー!!』
「…すまない、今黄泉に居るアステリオと会話をしていたのだ」
「な…なんと!!」
「アステリオは子供たちの成長に感動していた。そして、もう一度だけ、理を曲げてこの世に顕現することを約束してくれた」
「なんと…なんという…賢者様…!」
「王よ、良く聞くのだ。私はこれより、この国と、将来この国と友好的な関係を築ける可能性がある国のために、守護ゴーレムを創造しよう。それまでの間に、各国の王へ書簡を送り互いの種族、そして人間を含む意思疎通ができる他種族を食料と扱わず平等な関係を築くことを目指すことを盛り込んだ条約締結の交渉を行うのだ。これは言うまでもなく、将来的には、ここよりはるか遠方の国家とも交易をするために必要となるからである」
「和平条約ですか…しかし、その様な突然の交渉、用心深い者が多い国ほど受け入れられてもらえるか不透明ですが…」
「その通りだ。だから私は、お前の準備が整い次第、アステリオをこの世界へ呼び、顕現させよう。周辺国ではアステリオは有名であると聞いている。顕現したアステリオの声はこの国を中心として、周辺の全ての国へ届くであろう。そして彼の声は、先の和平条約の申し出の裏付けとなるであろう。そしてアステリオの声を聞いてもなお、争いを選ぶ国とは少なくとも現時点では相容れないという線引きとなろう…さて、王よ。アステリオを呼ぶまでにどれほどの時間が必要か。周辺の全ての国へ文書を送り、ある程度の意思を確認するまでの時間はどれ程か?」
「なんと…理解、いたしました、るしふぁー様。そうですね…さすがに此度の内容は慎重に事を進める必要があります。徒に戦線を増やさぬ様、友好度の高い国から順に文書を送り、高い確率で交渉が決裂するビーストマン連邦やトロール国は最後にすべきかと…大臣よ、条約の作製や伝達、国ごとの交渉などを勘案し、どの程度かかるか予定を立てよ」
「は、王よ…現時点では正確に申し上げることは出来ませんが、6大国については、まずは
「王、大臣よ。承知した。ではアステリオには少なくとも、現世における180日後と伝えよう。私はそれまでに守護ゴーレムの作製に取り掛かる。その間、他国からの侵攻など、不測の事態があれば私へ相談するのだ。私は日に一度毎日この時間に、この玉座の間へ姿を現わそう。それ以外の時間はアステリオが眠る墓所にてゴーレムを作成する。あの場所は友の魂の息吹を感じることが出来るのでな…では、私は墓所に戻る。子供たちよ、友の、アステリオの理想のために働いてくれること感謝しよう。そして、くれぐれも無理をするな」
天使が玉座から姿を消すと、誰からするでもなく、胸に手を当て頭を下げて、賢者アステリオ様と、その友るしふぁー様へ感謝の祈りをささげた。
***
ラビリンス最奥の部屋に5人の者が居る。
そのうちの2人、タブラと、るし★ふぁーはこれからの行動について確認をしていた。
「いや、本当に。人間の姿晒したときはさすがに声が出そうでしたよ」
「あはははは!まあなんか上手くいきそうじゃね?さっすがタブラさんのプランだね!」
「いや、まあ、正直、るし★ふぁーさんによる
「思い付きって言うか、なんだろ。聖王国で仲良くなったネイアと、ネイアのとーちゃんとあとバザーのやり取りを見てて思ったことをそのまま言っただけだよ。常闇のアホがロンギして、その後、みんなを
「ふふ…ネイアさんと彼女の父親ですか。本当に、聖王国には会ってみたい方がたくさんいますね…まあそれはそうと、我々も準備に入らなければいけませんね。確かドゥエルさんでしたっけ?金属商の方ですかね?そちらからゴーレムのボディ用の金属を購入してくるのと、ゴーレム作成を始めなくてはいけないのでは?」
「そーだね。まずはドゥエルのとこ行ってくるよ。そんで材料揃ったらここで創り始める。森探索用のも一緒に作っちゃうけど形は何でもいい?」
「森探索の方は、高レベルゴーレムも含めて一旦待ってください。まずはここで使うのを作りましょう。
「おっけー、数的にまだ余裕あるけど、ビーストマンとかトロールとかのはいいの?」
「それらは交渉次第なので、後回しでいいです」
「分かった。それとさ、ビーストマンってのは見たことないから、後で見学に行かせて」
「承知しました。必要が出たところで見に行きましょう」
「おっけー。じゃあさっそくドゥエルのとこ行ってくるよ。一応ルベド連れてくね。タブラさんはどうするの?」
「私は、ちょっとやることが有ります。アステリオさんが遺した武具ですが、使ってしまってもいいですか?」
「うん、別にオレはいらないからタブラさんが好きに使って」
「ありがとうございます。それでは…そうですね。アルベドは私と一緒に行きましょう。ニグレドは申し訳ないけどお留守番です。ここで待機しながら私とるし★ふぁーさんからの指示に従ってください」
「承知いたしました、お任せ下さい」
「じゃ、ルベド、行こーか!」
「はい、パパ!」
「私たちも行きましょう、アルベド」
「はい、お父様!」
こうして、るし★ふぁー班はアベリオン丘陵北部の鉱山地帯へ、タブラ班はトロール国へと出発したのだった。
ラジコン操作に戻ると、天使様の口数が急に増えて、何だか論理的に喋り出します。
ギルメンがこの様子を見たら、「あ、ここからタブラさんだな」と気づきます。
ただ、感情に訴える★があまりに別人過ぎて、モモンガさん辺りは一度魔法で本人か確認するかもしれません。