オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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5章は残り2話です。
今日は時間が有ったので2話一気に投稿します。

関係ないのですが、風邪は治ったのに今度は腕の骨か筋をおかしくしていしました…
明日病院へ行きます…折れてなければいいけど


第5章 第22話 -神々の御意思-

 

 

牛頭人(ミノタウロス)の王とその側近たちは安堵と不安が入り交じった顔で会議を開いていた。

 

 

安堵の理由は、既に交渉をした風巨人(エアジャイアント)国、次に野豚鬼(オークス)国と馬人(ホールナー)国の3つの国と、比較的友好的ともいえる和平を結ぶことが出来たからだ。

 

そもそも、賢者様がご存命の時代に交流があった風巨人(エアジャイアント)戦士長の甥に当たる者が国の中枢に居り、彼が嘗てその戦士長に送った斧をその者が引き継いでいたこともあって、義理堅い彼らは長らく途絶え気味となっていた、交易も含めた友好的なやり取りを再開することとなった。

 

そもそも風巨人(エアジャイアント)国との関係が途絶え気味になっていたのは、牛頭人(ミノタウロス)国とビーストマン連邦の戦争を発端とした、各国の関係性の緊張状態に起因していて、この度牛頭人(ミノタウロス)国が、まずはビーストマン連邦も含めた各国との関係性を向上するという目的で動きだしたことで、風巨人(エアジャイアント)国はその考えに賛成した。

 

人間種を含めた会話が通じる他種族を食わないという条件についても、元より口だけの賢者が広めた常識により人間が食料という考えは薄れていたし、お互い、どうしても食わなければいけない他種族がいるわけではないので手打ちすることが可能だった。

 

これは野豚鬼(オークス)国と馬人(ホールナー)国も同じだ。

 

ただ野豚鬼(オークス)については、会話が通じる・通じないは関係なく、彼らの食性上は殆どなんでも食うことが出来るため、この取り決めで国民が飢えないように、例えば羊のような家畜や食用モンスターの繁殖にお互い力を貸すという事が条件に盛り込まれた。

 

馬人(ホールナー)については、彼らは誇り高い部族であり、食に関することや互いに和平条約を結ぶことは了承したが、交易等は最低限とし必要以上の干渉はしないという事について念を押していた。

彼らの生活スタイルは都市のような場所で群れて暮らすものでないため、友好国であっても自国の文化を変えられたくないという思いがあるとのこと。

 

牛頭人(ミノタウロス)国の大臣たちはそれぞれの国の状況を理解し、お互いの文化は最大限尊重するという点において反対はないため、これら条件を飲んだ。

 

ただし、いずれ再降臨なさる賢者様の御言葉は聞いてほしいと付け加えた。

 

ここまでは問題ない。

特に拗れることも無く、4か国間での和平交渉は成功したと言える。

 

 

不安の要因は言わずもがな。

 

ここから先の2か国との交渉である。

 

当然ながら戦争中であるビーストマン連邦との和平など、唐突過ぎる話をかの国が受け入れる筈はなく、また食料の件も、交渉を難しくする要因である。

確かに人間のような会話が成り立つ他種族を家畜として飼うというのが野蛮な行為である、という感覚が薄っすらとはあるらしいが、自国の様にルール化されているわけでもないし、ましてや戦争相手国の言葉など受け入れる筈もないだろう。

 

トロール国については戦争をしているわけではないが、彼らは非常に好戦的かつ、自国からすれば野蛮と言ってもいい生活習慣で暮らしていて、交渉そのものが出来るか分からないし、他種族を食うなと説得することに至っては不可能な気がする。

 

現にここ最近も、トロールが牛頭人(ミノタウロス)国の小さな街を襲おうとしていた事件が散発している。

トロールの被害は昔からあるため、トロール国との国境側に位置する町には、それに対抗できるだけの技量を持つ戦士が駐在しているので被害は最小限で済んでいるが、トロールの強襲はここのところ多くなっている気もする。

 

 

つまりこの2か国は、交渉即戦闘となる可能性があるので、同時に2つの戦線を抱えることがないよう、慎重に1か国ずつ進める必要がある。

 

 

現在、隠密技能が高い斥候の者がこれら2か国に忍び込み、それぞれの国の状況を観察して情報を持ち帰ることとなっている。

例えば、どちらかの国がすぐに動かせる兵が少ない状況であるならば、その国から先に交渉…いや、用件だけは伝え、賢者様が降臨される事だけは伝えなければ…

 

その様なことを考えながら、斥候の帰りを待っていた王たちに信じられない情報が齎されたのだ。

 

 

 

「それは…まことか?!」

 

「はい、王よ…私も信じられませんがトロール国は既に滅んでいる可能性が高いと思われます。かの国の王城があった街には人間たちが住み着いており、トロールの姿はありません。それ以外のいくつかの都市も見ましたが、人間の中に非常に強い者が居るようで、その者を中心とした集団が積極的に残っているトロールを狩っている模様です!」

 

「な…なんという事か。この局面でそのような厄介ごと…いや待て…その人間の集団の中に強いものが居ると言っていたが、それは人間の王であるか?」

 

「それは解りかねますが、その飛びぬけて強い人間は他の者からリーダーと呼ばれていましたので、指導的立場に居る可能性は高いと思われます」

 

「ふむ…ならばいっそ、その者を新たな国の王として考え、その集団と和平を結ぶことで、周辺地域においてはビーストマン連邦以外の全ての国と和平を結んだことになるのではないか?…大臣、どう思う?」

 

「は…確かに仰る通りですが、問題点が2つあります。1つは我が国を含め、周囲の国において人間は食料ではないにしろ奴隷という意識が根強いこと。この事実は人間たちの集団にとって不快と感じる可能性が高いでしょう。2つ目は、人間の多くはそもそも、我ら牛頭人(ミノタウロス)を含めた亜人を脅威あるいは敵とみなしている可能性が高いこと。これは彼らがトロールを滅ぼしている事実からも伺えますし、その実力があるものが我が国に牙をむいた場合は新たな脅威になり得ると考えます」

 

「確かにそうか…トロールたちと比べて良い点と言えば、恐らくは知能という点から会話が出来るという事か…いや、しかし……これは…今こそ賢者様や天使殿が言っていた種族を越えた平等な関係を築くための機会なのではないか?」

 

「しかし、王よ、申し上げたように人間の国と対等な関係を築くためには、少なくとも国内の奴隷制度を改める必要があります。他3国を含めた和平という事を考えるならば、他3国にも人間の奴隷制を改めるよう進言する必要があります」

 

「そうだな、その通りだ…これは…おそらくは賢者様からの試練なのであろうな…余は…余自ら野豚鬼(オークス)国、馬人(ホールナー)国、そして風巨人(エアジャイアント)国の各王と交渉し、トロール国の現状を伝え、人間を含めた意思疎通ができる他種族の奴隷制について考えを改めねばならない時が来たということを伝えよう…天使殿がご準備された各国に贈る、部族を模したゴーレムをお渡しする折、会談にてこの話をする。大臣、さっそく3国の王へ会談要請の書簡を送る準備をせよ!」

 

「畏まりました!」

 

 

 

さっそく動き出した牛頭人(ミノタウロス)の様子を見て、その部屋に最初から居た、透明化状態の脳食い(ブレインイーター)は、彼らが想定内の動きをしてくれていることに頷き、静かにラビリントスへ戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「さて、るし★ふぁーさん、そろそろ約束の180日が近づいています。こういったことは大抵大幅に遅れるか、不測の事態などが起きて予定通りに作戦が進まなくなったりするものなのですが、どういうわけか(・・・・・・・)作戦は非常に順調で、牛頭人(ミノタウロス)達は周辺の主要国と交渉を終えたようです。あとはあなた次第で世界を騙す幻術(デイライト・ミステリー)による公演開始となりますが」

 

「いやータブラさんのアシストのおかげでしょー。まさかトロール国を人間の国に変えちゃうとは思わなかったわー」

 

「いえいえ、台本を書くとはいえ、全てるし★ふぁーさんにお任せするのは気が引けましたので、問題になりそうなトロール国についてはちょっとだけ手を出させてもらっただけです。アステリオさんが遺した武具のおかげで運よくこのような状況になりましたね…で、説明したように世界を騙す幻術(デイライト・ミステリー)の後は、我々はさっさと出発するので、この辺りでやっておきたいことあれば今のうちにやっておいた方がいいですよ」

 

「それだけど、マジですぐに出発しちゃって大丈夫かなー?ビーストマンの国とは戦争状態なのかわんないし、えっと、エルキュールさんだっけ?人間の新しい国とは一応友好状態になったみたいだけど、まだ人間の奴隷とかいるじゃん」

 

「まあ、そもそも私たちの目的はこの辺りでゴーレムの資源を手に入れることで、それはラビリントスで見つけましたし、言ってしまえば今この瞬間去ったとしても我々的には良かったはずです。ですがその過程で壮大な設定作っちゃいましたし、その最低限の後始末だけはしようという事で世界を騙す幻術(デイライト・ミステリー)の演劇をするのです。それに私の経験上、この辺りでうまい事去った方が、より面倒なことに巻き込まれないで済みます。るし★ふぁーさんはすでに聖王国で神認定されてそうですし、このままこの牛頭人(ミノタウロス)国に長居すれば、この国においても彼らの信仰の対象はアステリオさんではなく、るし★ふぁーさんになってしましますよ?知らない牛頭人(ミノタウロス)の方に祈られたり、神としての御言葉を求められるのは嫌じゃないですか?」

 

「あー…うん。それはめっちゃ嫌だわ。まーオレもこの辺りでやりたいことはだいたい終わったし、世界を騙す幻術(デイライト・ミステリー)の後旅立つのは賛成するよ。それにオレのゴーレム残してくから、何かあれば、ある程度察知できるしさ」

 

「そうですか…しかしあなたのゴーレムクラフト能力、この世界ではとんでもないですね…私が魔法で普通にモンスターを召喚した場合、一定時間で消えてしまいますし、そもそも召喚数も限られていますが、ゴーレムは召喚ではないのでずっと残り続けるようですし、製造に時間はかかりますが上限数もなさそうですね…」

 

「そうそう、めっちゃ便利だよねこれ。今回結構原料手に入ったからさ、元々作ってたのと一緒に鉱山採掘用ゴーレム増やして常闇が居た穴を掘らせたんだけど、結構鉱物資源採れてんだよね。インゴット製造経験があるゴーレムもいるから自動インゴット製造ライン作れたよ!」

 

 

「うーん…るし★ふぁーさんが善良側に成長して本当に良かったですね…バザーさんとネイアさん達にはいつか必ず御礼を言わなければ…」

 

タブラの呟きは小さな声だったので、るし★ふぁーは聞こえなかったようだった。

 

しかし、るし★ふぁーは、るし★ふぁーである。

善良ではあるが、本質はトラブルメイカー。

 

この何か月かの間で、るし★ふぁーは暇を見つけては、周辺国の街に赴き、街中には擬態ゴーレムが溢れている。

現在は休眠状態であるが、あるときからこれらのゴーレムは、街中でマナー違反を働いた者をストーキングし、殺さない程度に無力化したところで価値がありそうな持ち物を根こそぎ奪い取る、荒っぽい治安維持装置と化す。

 

そして街ごとに設置されたゴーレムがリレー形式でその強奪品を牛頭人(ミノタウロス)国の首都に運び込み、この6か月で調査した玉座の間に誰も居ない時間に、こっそり入り込んでラビリントスにそれらを放り込む。

ラビリントスにも既に多くのゴーレムが配置されていて、これらの素材はラビリントスの中で適切に保管され、たまに素材切れを起こした、るし★ふぁーが転移で訪れては回収していく。

 

彼の40人の仲間は後年、なぜ、るし★ふぁーの悪戯素材が底をつかないのか首をかしげることになる。

そして大陸中央の街々では、この治安維持ゴーレムが国民の倫理観の向上に繋がったとか繋がらなかったとか。

 

 

 

「さて、それではそろそろ演劇会のお時間ですかね。るし★ふぁーさん、準備を御願いします。良くなったら合図いただければ、ニグレドに魔法の起動を指示します」

 

「おっけー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約束の日、周辺国の者達は牛頭人(ミノタウロス)達が指定した方角を見上げていた。

 

彼らが言うには、嘗て悪しき黒竜が棲んでいた山の方角に、伝説の例の“口だけの賢者”が黄泉から再降臨し、言葉を伝えるという。

 

正直牛頭人(ミノタウロス)国の者達を除き、多くの者は半信半疑の眼差しでその方角の空を見ていた。

彼らは皆、指定された場所までその山に近づき観察しているが、天気は雨であって、言われた方角も含めて厚い雨雲が空を覆い、とても見通しは悪い。

 

友好国であってもそうであったから、敵国であるビーストマン連邦の者達は端から信じている者など居らず、ついに牛頭人(ミノタウロス)共は気が狂ったとさえ思った。

 

しかし交渉に訪れた牛頭人(ミノタウロス)国の者達は、あの憎きアンデッドである魂喰らい(ソウルイーター)にそっくりな護衛を連れていて、おいそれと手出しをできる状況ではなかったが、牛頭人(ミノタウロス)達が“賢者様が再降臨するからそれを見ていて欲しい”と言った期日までは攻め込まれることは無いだろうと考え、可能な限り国内で戦力を集結させていた。

 

“賢者”の降臨などどうでも良い。

それが真であれ偽であれ、その時間は軍備のための猶予だ。

 

奴らが言っていたこと、“言葉を理解できるような他種族を食わない”という事について、実はこの点についてはビーストマン連邦内でも賛成する者が一定数居る。

 

大陸の北の方にあるという、より原始的な暮らしをしているビーストマンの国とは違い、ビーストマン連邦は技術や文化の発展が進み、その過程で“言葉を理解する他種族を食うのは野蛮”と考える者も増えつつある。

だが、多くの者はまだ、人間を含めた他種族を好んで喰らうものも居るし、褒められた行いではない古びた習慣ではあるが、他種族の幼い個体、とりわけ胎児のようなものを好んで食い、贈り物などにすることを喜ぶ高齢者もいる。

 

だが、その様なことは別として、牛頭人(ミノタウロス)国とは戦争中であり、やがて勝利しかの国の領土を支配できれば、もはや周辺国では最大の領土と力を持つ国と成長できるとの確信がある。

 

現在のビーストマン連邦の統一王であるナハードは、部下から上がって来る軍備が順調であるという報告を聞いた後、一応は伝令にあった、南西の山の上空の方角を眺められる位置にて陣を張り、その様子を見守っていた。

 

 

 

そしてその時は、唐突に訪れる。

 

始まりは不可解な天候の変化だった。

約束の方角の空の雨雲が、不自然に消えて行ったのだ。

 

ぽっかりと空いた空の雲間から、本来の日の光が差し込む。

そしてそこに現れたのは1柱の熾天使。

 

その熾天使の名を知っている牛頭人(ミノタウロス)達でさえ、その溢れる力は初体験のものであった。

 

何度も、それこそ王に至ってはほぼ毎日、玉座の前で言葉を交わした、熾天使るしふぁー殿からは感じられなかったプレッシャー。

 

いや恐らくは、隠していたのだろう。

その強すぎる力に我らが中てられないように。

 

そしてその意味は即ち、これから起こる儀式は、かの御方が力を解放しなければならないものという事。

 

他の国者達のうち、戦う職業の者は元より、そうでない事務方の者であっても、その熾天使の持つ力が途轍もないことは肌で感じることが出来てしまった。

友好国の者達はまだいい。

彼らにとって、その熾天使は友好国に力を貸している者、一説によると例の“口だけの賢者”の友らしいというのだから。

 

しかし仮初の友好を口にしているビーストマン連邦の者達にとっては、それは容認できない事だ。

賢者の件が事実であれ、虚偽であれ、自分たちはアレと敵対しなければならない可能性があるのだから。

 

言葉を失い、それでも続けて起こる事象に目を向けるしかないと理解してその熾天使の様子を凝視する。

 

 

 

 

 

「〈Everything is created and moved(あらゆるものを創造し) by PRIMO MOBILE(動かせしは原動天)〉…再生の天使たちよ。わが友アステリオを今一度この世界に顕現させよ!」

 

 

 

熾天使が唱えた呪文らしきものに呼応して、空には巨大な九重の円盤が現れ、その円盤が回り出す。

 

すると足元の山に光が満ち、今まで山のがれきや石ころと思われていたものが集まり天使の形を形成していく。

 

形作られた無数の天使たちは、呪文を唱えた熾天使を囲むように集まり皆、祈る姿勢を取った。

 

そうして、奇跡が起きた。

 

いや、ここまでも充分奇跡の所業であるが、そこから先は特に牛頭人(ミノタウロス)達にとっては、待ち望んだ本当の奇跡であった。

 

上空、雲間から輝く者が下りてくる。

その姿は金色に輝く牛頭人(ミノタウロス)

 

その姿は確かに、お隠れになった時に纏っていた賢者様の衣と酷似している。

 

牛頭人(ミノタウロス)達はもうこの時点ですでに、涙が溢れ、その手を胸に当て深く頭を下げていた。

 

 

 

『るし★ふぁー、我が同郷の友よ。我がこの地でやり残した事、それを子供たちに伝え、我が撒いた希望の種の芽を出してくれたこと、感謝する……そして子供たちよ。世話になった国の者達、ヨシツネの後継の者、友サンダルデルの類縁の者、そしてこの地に住む全ての子供たちよ、我が求めに応じ、集まってくれたこと、感謝する。我はお前たちに伝えたいことが有り、今一度、友るし★ふぁーの力を借りてこの世界に顕現した』

 

 

 

事前に牛頭人(ミノタウロス)の伝令の者に伝えられた領域の範囲に集まった各国の者は、想像していたものをはるかに超えた事態に、殆ど呆然となっていた。

賢者は言葉を続ける。

 

 

 

『我がやり残した事、それは2つ。1つはこの山の奥深くに住んでいた悪しき存在の討伐。これはわが友るし★ふぁーと協力し、目的を果たした。定期的に無差別に生者の命を吸うこの悪しき存在はもう居ない。子供たちよ、もう安心して暮らしてよい』

 

 

 

賢者の言葉に、牛頭人(ミノタウロス)達はすでに知っていたこととは言え、改めてその言葉に深い感謝の念を覚え、その他の国の者、とりわけ事務方や歴史編纂を仕事とする者は、何か思い当たる節があるとばかりに目を見開き、思考の海に落ちていく。

まさか、伝承の存在が本当に存在し、そしてかの“口だけの賢者”が死してなお蘇り、それを討ったというのは本当だったのかと。

 

 

 

『そしてもう1つ。それは子供たちの真の安寧の暮らし。わが友の姿を見て欲しい。わが友は熾天使、異形だ。だが亜人である我とも友である。故郷には人間種も亜人種も異形種も共に暮らしていた、種の垣根など無い。だがこの世界は、種が違うというだけで争い、あまつさえ他種族を食う者もいた。我はそれが嘆かわしい。我がこの世界にあった頃、家畜となっていた種を労働階級まで引き上げるのが精いっぱいであった。だが我が真に望むのは、我らが故郷の姿、種の垣根など無き安寧の暮らし……我はそれを伝えるためこの世界に今一度顕現した。だが、それも杞憂であったようだ』

 

 

 

賢者はそこまで言うと、集まった下界の者達を見渡した。

 

 

 

牛頭人(ミノタウロス)野豚鬼(オークス)馬人(ホールナー)国、風巨人(エアジャイアント)、ビーストマン、人間……嬉しいことだ。この世界においても、異種族が手を取り歩み始めている。我が人間の階級を引き上げたことも無駄ではなかった…今は肩を並べるようになったか……友よ、そなたが為してくれたのか』

 

 

「アステリオ、それは違う。私がしたことはそなたの想いを子供たちに伝えた事だけ。子供たちは自らそなたの想いに気づき、行動した。これはその結果である。何度も起こしてしまいすまない。だが私は、友に見せたかったのだ。そなたの蒔いた種が芽を出し、子供たちが我らの故郷と同じように、種族を越えて分かり合える道を進み始めたことを」

 

 

『ああ、ああ、わが友よ…そして子供たちよ。喉の奥に痞えていた懸念は、今取り除かれた。それは子供たち、お前たち自身が自ら勝ち取ったこと。我はお前たちに、種族を越えた共栄の道を歩き始めたお前たちに、祝福を送ろう。無論、人間たち、お前たちもその中の一員だ』

 

 

 

突然指名された、人間たちの集団、その中でも中心に居る青年は一瞬目を見開いたが、すぐに真面目な顔になると深く礼をした。

続けて周りの人間たちも同じく礼をする。

 

 

 

『さて、もう時間のようだ。友よ。素晴らしい時間を感謝する。そして子供たちよ。重ねて言うが我はお前たちの選んだ道を祝福する。種を越えて共に歩まんとする全ての者達に、永久の繁栄が有らんことを…今度こそ本当にさらばだ、我が愛した世界、我が愛した子供たちよ!!』

 

 

 

そう言うと賢者は光の粒になり、ぽっかりと空いた青空の中へ消えて行った。

その光の粒が全て消えるまで見送った熾天使は、地上に視線を向けると言葉を紡いだ。

 

 

「私も友と同じく、お前たちを祝福しよう。そしてこの地の未来は明るいと確信した。私もまた次の土地へ赴かなければならない。だが私は常のこの地を見守り何かあればすぐに私はこの地へ戻ることも可能である。友の言葉を胸に、繁栄の道を歩け、子供たちよ!」

 

 

その言葉が終わるとともに、空の九重の円盤は姿を消し、同時にあたりを覆っていた雨雲の全てが消え去った。

後には、どこまでも晴れた青空と、未だ耳に残る“神”たる存在達の言葉。

 

その光景を見ていた多くの種族の者達の意識が正常に戻ってくるまでには、その後長い時間が必要だった。

 

 




大陸中央のいくつかの街は、★の資材庫になりました。
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